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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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93話:婚約

宇宙歴795年 帝国歴486年 1月上旬
首都星オーディン グリューネワルト伯爵家・別邸
アンネローゼ・フォン・グリューネワルト

「姉上、4月からはいよいよ宇宙艦隊に転属します。お墓参りの方はご負担をおかけしますがよろしくお願いします」

「ええ、こちらは心配いらないわ。前線ともなれば色々大変でしょう?くれぐれも気を付けてね。メルカッツ提督も4月には元帥になられるとのことだし、ご迷惑をおかけしないようにね」

「姉上、私も将官の仲間入りをいたしました。感情のままに発言するようなことはしませんし、先任に手合わせでお世話になったファーレンハイト卿とビッテンフェルト大佐もおられます。成長したところをご覧いただけるように励むつもりです」

弟が幼年学校を卒業してもうすぐ4年。『あの方』に見せて頂いた配属予定通り、戦死が少ない部署で経験を積みながら、昇進を重ねている。准尉から4年で准将なんて、大丈夫なのかしら。厳しく教育して頂いたとはいえ、本来なら士官学校を卒業して少尉で任官する事と比較したら、後見人が『あの方』とは言え特別扱いなのではないだろうか。
前線に赴くだけでも心配なのに、将官ともなれば多くの方の命を預かることになる。肉親の私でも心配に思うのだから陛下や『あの方』からこういう話が出るのも分かる気がする。まず私から打診してほしいとの依頼を受けているが、また子供のような所がある弟に、どう話したものか悩んでもいた。

「ラインハルト、ジーク。一先ずお茶にしましょう?今日のケーキはジークの誕生日につくる候補のレシピのひとつなの。しっかり感想を聞かせて頂戴ね」

「アンネローゼ様、ありがとうございます。早速お茶の準備をいたしましょう」

ジークがお茶の用意に厨房へ向かう。ジークがいる場では話しにくい内容でもあるし、先に話しておいた方が良いだろう。ただ、私がこんな話をする日が来るとは思わなかった。

「ラインハルト。大事な話があるの。貴方は確かに厳しい環境で励んできたわ。それはリューデリッツ伯も含めて周囲も認めて下さるでしょう。ただ、貴方の立場は良くも悪くも特別なの。上官になった方はいつも以上に責任をお感じになるでしょうし、部下の方々は功績を立てなければと焦ると思うの。陛下と伯から、しっかりと自重すべき時に自重できるように、婚約をするようにとお話を頂いたわ」

「婚約ですか?急な話で驚きましたが、お相手はどなたなのでしょう?」

「畏れ多い事ですが、ディートリンデ皇女殿下と婚約することになります。今はリューデリッツ伯が後見人と務めておられますが、皇女殿下はまだ13歳。生涯を通じて後見することは難しいでしょう?守るべき存在がいれば、貴方も自重するだろうとお考えの様子だったわ。後見人が伯であることに加えて、皇女殿下の婚約者ともなれば、20歳を前に将官になる事も周囲が受け入れやすくなるだろうともお考えのようね」

「ディートリンデ皇女殿下ですか......。知らない仲ではありませんが、何と言うか。自分が誰かと結婚するという事に実感をもって考えられない所があります。光栄なお話ですし、お断りできる話ではない事も理解しているのですが......」

「その辺りは急ぐ必要はないわ。伯を始め、夫になる心構えについては色々と教えて頂けるはずよ?まずは貴方の帰りを待つ人が一人増える事をきちんと考えれば大丈夫よ。そして、そういう方々が上司の方にも、部下の方々にもおられる事を忘れないでほしいの」

弟は幼少の頃から『あの方』の下で励んできたし、駆け上がる様に昇進してきた。その分、世間一般の事に疎い所がある。私からは聞きにくい事だが、恋愛をしたことはあるのだろうか?ディートリンデ皇女殿下は、大人しい方だが感性は豊かだし、お優しい方だ。頑固で決めたら突き進んでしまう様な所がある弟と合うのだろうか?心配になっていた。

「承知しました。私もまだまだ至らぬ点はあるでしょうし、特に男女の機微については疎い所があるので、シェーンコップ男爵やロイエンタール卿にも話を聞いてみようと思います」

「そうね。まずは家庭をお持ちの方が良いと思うわ。私からも伯にお願いしておきましょう」

さすがに婚約者ができるのに、その御二人では問題があるのは私でもなんとなくわかる。ジークにも頼みにくい話だけど、頼んだ方が良いのかしら......。それも含めて伯にご相談したほうが良いだろう。私も同年代の男性との接点がほぼない。男女の機微に疎いのは弟に限った話ではないのだから。

「お待たせしました。すぐにお茶を用意をいたします」

微妙な空気になりそうなところにジークが戻ってきてくれた。少なくとも婚約することは承諾してくれたし、あとはご指導をお願いするしかないように思う。

「ジーク。貴方のお茶をいつも楽しみにしているの。今日もよろしくお願いしますね」

「はい。アンネローゼ様、今少しお待ちください」

ジークがいつもの手さばきでお茶の準備を進め、サロンには紅茶の香りが広がった。いつまでも嬉し気にケーキを食べてくれていたら。私はそれだけで十分満足だったのだけど、大人になるというのはこう言う事なのかしら。ため息が出そうになって、思わずそれを飲み込んだ。
陛下にご相談したら話が大きくなるだろうし、『あの方』と内密に会う訳にはいかない。バラ園でのお茶会をお願いしようかしら。いつも通り、大き目に切ったケーキを二人の手元に置き、それを嬉し気に食べるのを見ながら温かい時間を過ごすことが出来た。励んでいるのだから水を差す訳には行かないが、二人が前線に赴けば、またこういう時間が減ってしまうだろう。それを残念に思うのが私の本心だった。


宇宙歴795年 帝国歴486年 3月上旬
ブラウンシュヴァイク星系 惑星ヴェスターラント
アルフレット・フォン・ランズベルク

「ランズベルク伯、此度は我らのお誘いに応えて下さり感謝しております」

「御二人とも水臭いですぞ。我らは学友であり帝室への忠誠が篤き同士のはず。それに屋敷に籠っていても良い詩は浮かばぬし、この惑星は我が領とはまた違う趣がある。お誘い感謝しておりますぞ」

我らの世代から、門閥貴族は幼年学校や士官学校ではなく、門閥貴族の子弟限定の教育機関で学ぶことになった。このお二人は当時から帝室への忠誠心に篤く、帝国の藩屏たるブラウンシュヴァイク公爵の一門として、いずれは責任ある役職に就くのだと、励まれていた方々だ。詩や小説を書くことに熱中していた私には過ぎたる学友だが、何かと季節の催し物でかをお会わせる機会もあり、交流が続いている。

「それで、本日のご用向きは何でしたかな?久しぶりにお二人に会えただけでも私は嬉しく思うが......」

「うむ。ランズベルク伯は現在の帝国の有り様をどう思われるのか、一度話を聞きたいと思ったのだ。我らは学び舎で行動を共にする頃から『帝室への忠誠』を共に高め合う仲であった。我らは現在の帝国がルドルフ大帝がお考えになられた有り様とは大きく異なる様に思えてならぬのだ」

「確かに、本来なら我ら門閥貴族が果たすべき役割を軍部貴族が担っているようなところはありますな。それに政府系貴族の体たらくもいささか悲しいものがあります。ましてや強欲が過ぎたとはいえ『公爵家』がお取り潰しになりましたし、『寵姫の弟』と皇女殿下を婚約させるなど、重視されるべきものが軽視される風潮があるようには思いますが......」

我ら門閥貴族の子弟が、幼年学校や士官学校から締め出されたのも、軍部貴族の暗躍があったとささやかれているし、ブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯が了承された以上、深いお考えがあったのだろうが、戦況を優位に進めているとはいえ、本来なら門閥貴族が得られた功績を独占してると見えなくもない。大逆罪以外で『公爵家』がお取り潰しになるなど前代未聞だし、『寵姫の弟』に皇女殿下を降嫁させるのも本来ならあり得ぬ話だ。
政府系の門閥貴族であるリヒテンラーデ侯爵家は実績の面ではカストロプ公の汚職に目が行き、パッとしないが、今回は候補者にも上がらなかったと聞く。今まで我らが大切にしてきた価値観を否定するようなことが次々と行われている。心ある帝国貴族なら、眉をひそめているに違いない。

「さすがはランズベルク伯だ。伯の言う通り、今の帝国の有り様は志ある帝国貴族なら容認しかねる状況にある。そもそもの始まりは軍部貴族が結託して動き出したことにある。同じことを、『本物の貴族』である門閥貴族が出来れば、帝国を本来あるべき姿に戻すこともできると思うのだが、伯はどうお考えかな?」

「確かに我ら『本物の貴族』が結集すれば出来ぬことは無いと思う。だが、ランズベルク伯爵家は過去に新無憂宮の秘密地下通路の建設をお任せいただいた家柄です。帝室に弓引くような事は致しかねますぞ?」

御二人の言う事も分かるが、『ランズベルク伯爵家が裏切ることは無い』とご信頼頂けたからこそお任せいただけた名誉を潰すような判断はできない話だ。

「我らもそんな事は考えていない。だが、実際問題として帝室の唯一の男系は下級貴族出身の皇太子殿下のメイドが母親だ。至尊の冠を戴くにはとてもふさわしいとは思えぬ。年齢も幼く、軍部の独走や政府の体たらくを押さえる事は期待できぬ。一方、年齢も彼より年長で、しっかりとした実力者が父親の血縁が二人、存在している。候補者を一本化するのは現段階では難しいが、どちらかが至尊の冠を戴くことになれば本来のあるべき姿である『貴族の時代』に戻せるはずだ。十分、結集する理由にはなると思うのだが......」

「そういう話であれば、確かに門閥貴族が結集する事もかないましょう。実現できれば、帝国の歴史に『あるべき姿』を取り戻した有志として、名を遺す事にもなりましょうな」

どちらのご令嬢が至尊の地位に就くのかは分からぬが、志ある帝国貴族なら今の有り様に眉をひそめておろうし、『貴族の時代』を取り戻すというのなら、協力を拒むものはいないだろう。

「伯にそう言ってもらえてうれしく思う。既にコルプト子爵を通じて、リッテンハイム侯爵家の一門の方々とも連絡を取り合っているのだ。伯にもこの義挙に参加してもらい、有志を募ることをお願いしたいのだ。伯が参加してくれれば、心強いのだが......」

「何を水臭い。我らは共に帝室への忠誠を高めあった仲ではありませんか。このランズベルク伯アルフレット、義挙に参加できることを嬉しく思いますし、御二人の帝室への忠誠に改めて感嘆の極みを感じております」

この日から、私も『帝国のあるべき姿』を取り戻す有志のひとりとなった。門閥貴族が結集できれば、この帝国で成らぬことなどない。寄り子を含め、今から声をかけるのが楽しみだ。皆進んでこの義挙に参加してくれるに違いない。 
 

 
後書き
誤字のご指摘ありがとうございます。感想欄からチェックしているので、フォームを使った誤字の指摘は感想欄を見てからお願いできれば幸いです。修正は帰宅後に行っているので、迅速な反映は確約できないのですが、同じご指摘をいただくのも心苦しい部分があるので......。よろしくお願いします。
誤字指摘のフォームからのご指摘も確認できた所は反映しました。お礼を兼ねてこの場に記載します。ありがとうございました。(2018/12/7) 
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