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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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92話:経過

宇宙歴794年 帝国歴485年 12月上旬
首都星オーディン 憲兵隊 特務分室
ジークフリード・キルヒアイス

「まったく、政府はなにをしていたのだ。このような重犯罪が野放しにされていたとはな。シェーンコップ少将は『責任ある立場に責任を果たさない人間が就いた時どうなるか?という最悪の一例』とおっしゃっていたが、特に捜査機関の人間が長いものに巻かれるだけなら、それこそ帝国の有り様にひびが入るであろうに......」

「ラインハルト様、少なくとも惑星ケーニッヒグラーツではそのようなことはもう起こりません。政府内でも処分が進んでおりますし、この調査は決して無駄ではございませんでした。まずは、それで宜しいのではないでしょうか?帝国は少しづつですが良い方向へ進んでおります」

「キルヒアイスは美点や長所を見出すのが得意だからな。俺はどうしても欠点に目が行ってしまう。軍部系貴族や辺境領主の方々は領民への責任を果たしておられるのに、なぜ一方ではこんなことになるのだろうか。門閥貴族は本来、帝国の藩屏として統治を担う立場であったはずなのにな。まあ、責任を果たしている軍部系貴族に属しているのが唯一の救いだが」

ヴェストパーレ男爵ご夫妻の暗殺未遂事件に端を発した『カストロプ公爵家のお取り潰し』は様々な波紋を呼んだ。第一には『大逆罪』以外で『公爵家』がお取り潰しになる先例が出来た事だ。これによって門閥貴族には少なからず波紋が広がっていると聞く。リューデリッツ伯が対策を取っておられるようだが、アンネローゼ様を始め、軍部系貴族と親しい方々には護衛が就いたままになっている。だが、いくら『公爵家』とは言えあのような苛政が当然のように行われることを見過ごすわけには行かないだろう。

憲兵隊の特務分隊として現地に調査に赴いたが、あれが統治と呼べるものなのかは私から見ても疑問だった。そして押収した資料を精査する中で、カストロプ公爵が財務尚書として行った汚職だけでなく、美術品の強引な買い取りや利権の横領を黙認した政府関係者も次々に明らかになった。指示があったので進捗があるたびに報告していたが、政府系の実務担当であるゲルラッハ子爵は、最近ではラインハルト様の顔を見るとため息をつくようになっている。本来なら任務外ではあるが、暗殺未遂事件に政府が絡んでいるかのような状況だったため、内務省が管轄すべき所を憲兵隊の取り扱いになったために配慮しての事だ。

また容疑者が身内から出たとなれば、ため息をつきたくなる子爵のお気持ちも分からないではないが、ラインハルト様からすると、『自分たちの醜態の尻拭いをさせておいて、その態度はなんだ?』とお思いなのだろう。正論なのだが、軍人はともかく政府や門閥貴族となると、まだ相手のお立場で考える事が苦手なご様子だ。ただでさえ少ない人材がますます減るとなれば、ため息のひとつもつきたくなるだろう。そして、ラインハルト様が正論をお話になるからこそ、私は一歩引いて周囲を考えられることも理解していた。

「惑星ケーニッヒグラーツはディートリンデ皇女のお化粧料となりましたし、すでに復興計画が稼働しております。数年もすれば見違えるようになりましょう。ラインハルト様の提案された開発案も採用されるとのことですし、いつか訪れてみるのも宜しいのではないでしょうか?」

「そうだな。だがキルヒアイス、俺が出した案は伯の根回しがあって初めて出来た事だ。提案自体は良いものだと思ったが、実現するために必要になる事まで思い至らなかった。採用されたのは嬉しかったが、まだまだ俺にも甘い所があるようだ」

ラインハルト様は『皇女殿下のお化粧料』になるという事を踏まえて、現在は惑星ルントシュテットのみで醸造されている『レオ』を含めた酒造を、新規事業として立ち上げる事を提案された。領地の開発に意識が向けられなかったからこそ、自然が残っているのできれいな水がある。教育を進めるにはかなりの時間が必要な以上、それなりの期間は農業が主産業であり続ける中で、帝都に近い事も考えれば酒造は有力な事業だった。
ただ、皇室の専売事業であるし生産はルントシュテット伯爵家が独占されていた。リューデリッツ伯の根回しがなければ実現できなかっただろうし、ビールはともかくウイスキーは伯が開発予算を出すから始められる事業だ。皇女殿下の領地産ともなれば廉価品はつくれない。おそらく15年から20年は収益化が難しいだろう。そしてラインハルト様は嫌がるだろうが、伯はラインハルト様に実績を付けさせるためにこの事業を推し進めた所があるはずだ。こういう配慮はされた本人が気づかない様にされるのが伯の流儀だが、アンネローゼ様にはご報告した方が良いだろう。

「ラインハルト様の提案の成果として、新しい事業が立ち上がり、それでうるおう臣民が確実にいるのです。まずはそれをお喜びになられても宜しいかと......」

「そうだな、キルヒアイス。惑星ケーニッヒグラーツから将来、帝国を支えてくれる人材が生まれてくるかもしれないと思うと、確かに意味のあることかもしれないな。装甲擲弾兵の訓練施設も作るそうだし、いつか視察を含めて訪れてみるのも確かに良いだろう。それでは押収資料の精査にもどるとするか。重犯罪はあらかた完了したからあとは軽犯罪だな。もっとも賄賂の金額はかなりのものだし、回数もかなりのものだ。懲戒処分ではこちらも済まないだろうがな......」

そう言いながら、少し顔をしかめられる。また子爵にため息をつかれる事を想像したのだろうか?だが、軍法会議なら銃殺刑に相当するような容疑者も含まれている。手を抜くわけには行かないだろう。

「お茶を入れなおしましょう。裏取りは政府機関が担当してくれますし、彼らもここに至っては身内とは言え、かばいだてするようなことは無いでしょう。もう少しでこの任務も終わることになります」

私がそう言うとラインハルト様は『そうだな。もうひと踏ん張りするか』とお答えになり、資料に意識を向けられた。少しは気を紛わせられていればよいのだが......。


宇宙歴795年 帝国歴486年 1月上旬
フェザーン自治領 自治領主公邸
ルパート・ケッセルリンク

「補佐官、それでブラウンシュヴァイク公爵家の一門のはねっかえり達の反応はどうだった?」

「功名心だけでなく、恐怖心も加わりました。ブラウンシュヴァイク公爵家だけでなくリッテンハイム侯爵家の一門も同様です。それに『フェザーンの権益が奪われている』という話にも真実味が増しました。水面下の動きは加速するかと。『公爵家のお取り潰し』に『軍部系貴族の邸宅への護衛の配置』、かなりの援護射撃を頂きました。それに政府系も軍部に功績を取られ、面目も潰されております。思った以上に燃え広がるやもしれません」

「それで良い。大掃除は一度で良いだろうからな。それに決起させるには群れを大きくしなければ最後の一歩が踏み出せないだろう。戦場では正面を見据えねばならんのに、横ばかり気にする方々だ。精々お仲間を増やしてやればよい。多ければ多いほど、帝国が『血統主義』から『実力主義』に塗り替わる為の肥やしになるだろう」

「今の所は証拠は残しておりませんが、最後の一歩を踏み出させる為にも軍需物資を始め、色々と用立てる必要もございます。叛乱を支援した事は明確になると存じますが、その辺りは考慮しなくても宜しいのでしょうか?」

「かまわん。そもそも『煽れ』とのご依頼なのだ。どうせなら特大の火事を起こせばよい。もうこのような火遊びは二度と出来ないだろうからな。精々楽しむことだ」

大丈夫なのだろうか?いくらリューデリッツ伯の依頼だったとはいえ、帝室に弓引くような事を煽るようなことすれば、火遊びが鎮火したあとに『生まれ』位しか誇る者が無い連中と一緒に、ゴミ箱に放り込まれる可能性もあると思うが......。

「補佐官、君が心配している事は分かっているつもりだ。だが、私は既にべットを終えている。この歳になってまで『保育園の保育士役』をするのは気が進まんし、彼らの御しがたさは重々承知している。彼らに自分の将来を託すなど破滅と同義だ。もっとも君の将来をべットするかは自分で判断すればよい。交渉相手としては楽な連中だが、同じ陣営に所属すれば、予想の斜め上の事をしでかして、勝算のある勝負ですら潰しかねない連中だがな」

この男がすべてを失って絶望する所を見たい気もするが、そのために俺の人生まで賭ける気はない。それに帝国軍は人材面でも団結の面でも過去に例がないほど充実している。門閥貴族を中心に4000家が集結できたとしても、とてもではないが彼らに勝つことは難しいだろう。

「私も腐ってもフェザーン政府の補佐官です。閣下には及ばないでしょうが人を見る目は養って参りました。門閥貴族側に属するのは、良く言って自殺行為でしょう。より大きな火事を起こすという点でも賛成いたします。そこでご提案なのですが、同盟資本にはかなり浸透できていますし、伝手もございます。どうせなら門閥貴族と同盟を結び付けてはいかがでしょうか?鎮火のついでに銀河の統一までの流れが出来ることになります。どうせなら特大の花火もつけてみてはと思ったのですが......」

「補佐官、そちらの方も水面下で動いているから安心したまえ。狂信者のせいでフェザーン自治領主の地位はその輝きを失った。せいぜいそのツケを支払ってもらう意味で利用させてもらうつもりだ。危険な工作員も、証拠がなければ『有権者』であり『支持者』らしいからな。一部の権利を守るために市民全ての権利を危険にさらす訳だ。市民の同盟政府への不信を煽る材料にもなる。丁度良いだろう」

「差し出口をお許しください。私ごときが思いつくことは閣下のお考えの範疇でありましょう。失礼いたしました」

「構わない。俺が把握している情報と君が把握している情報には差がある。むしろそこに考え至ったのは補佐官としての面目躍如といった所だろう。引き続き励んでくれ」

そこで報告は終わり、執務室を後にする。今日の業務はここまでだ。自治領主公邸を後にして、歓楽街の一角に向かう。会員制クラブが立ち並ぶエリアで地上車をおりて、看板が無いある店のドアの前で指紋認証システムに手をかざし、ロックが解除されたことを確認してから入店する。

「あら、早かったのねルパート。もっとも貴方はこっちの遊びは好みじゃないものね。早速情報交換と行きましょう。将来、帝国軍の最重要参考人リストに載るような将来はご免こうむりたいもの」

「安心しろドミニク。自治領主閣下は新しい主にしばらくは従順でいるそうだ。落ちぶれた姿を見れるかと思ったがなかなかうまくはゆかないな。同盟の件もすでに手を回している様子だった。とは言えここまで大きな火事になると鎮火も容易ではないだろうがな」

ドミニクは愛飲している『レオ』を口に含み、香りを楽しんでから

「あら、ボルテック氏が何をしているか?詳細を確認していないのかしら?彼が担当しているのは同盟領内でのリューデリッツ伯の資金運用よ。すでに30年近く前から資金を投下しているの。私も詳細は知らないけど、とんでもない金額になっているのは間違いないでしょうね」

「そんな馬鹿な。帝国貴族が同盟に投資するなど、利敵行為じゃないのか?そもそも30年前からこんな政局を見据えて動いていたとでもいうのか?」

「さあ、私にはリューデリッツ伯のお考えなんて分からないわ。私がまだ青臭い小娘だった時の話だもの。ただ、当時の担当者はワレンコフ氏で、彼はその報酬をつかって最年少の補佐官から自治領主候補に成りあがったわ。当時から生半可な金額じゃないのは自明の理ね」

「なら尚更、同盟と門閥貴族を結託させる必要があるな。俺の力をご覧頂く意味で大きな花火を打ち上げようと思ったが、下手をしたら片手間で鎮火出来るやもしれんな」

「ルパート、父親と同じ過ちを犯してはいけないわ。あの方に重用してもらうには『信頼』と『信用』が必要よ。無駄に野心をひけらかせば本人が尻尾を振っていても、何か企んでいるのかと不信に思われるわ。そこだけは間違わないでね」

ドミニクの忠告にうなずいたが、伯からすれば俺など使いっぱしりの小僧でしかないだろう。命じられたことをこなしているだけで目に留まるものなのだろうか。何かしら出来る事が無いか考える俺の対面で、ドミニクは楽し気に『レオ』を飲み進めていた。 
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