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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica20-Dインターミドルの猛者~DUEL~

†††Sideルシリオン†††

買い物に出掛けるヴィヴィオ達の護衛として、ステルス魔法を使って姿を消した状態で付いて来た俺とアイリだが、ちょっとしたハプニングでバレてしまった。で、今はインターミドルの上位選手であるハリーが、ルミナとの試合を行っているという、出掛ける前には予想だにしなかった展開が繰り広げられている。

「ハリー、なかなか善戦してるね」

「ああ。試合開始の直後に、手加減無用・全力全開のハンデ無しでお願いします!とハリーが告げた時はどうしたものか、と思っていたが・・・」

――良いの? 本当に本気を出して・・・?――

SSランクの魔力を放出させたルミナにハンデ無しだと言ったハリーは、その圧力に及び腰になってしまい、結局はヴィヴィオ達相手にもやっていた魔力出力の制限+スキル使用不可に落ち着いた。

「リーダー! 防御はダメっス! 躱すっス!」

「溜めの長い魔法もやめた方がいいっスよ!」

「やっぱ最強の拳闘騎士には手も足も出ないんスか・・・?」

ハリーを姉御と慕う妹分のミア、ルカ、リンダが、1発辺り最大で50ポイントしかダメージを与えられないというルミナの防御力と、防御の上から1000ポイント強のダメージを叩き出すルミナの攻撃力に、悲嘆に暮れてしまっている。先ほどのヴィヴィオ達との試合とは全く違うルミナの動きに、ヴィヴィオ達が固唾を呑む。自分たちは本当に手を抜かれていたのだと。

「くそっ、マジで強ぇ・・・!」

ハリーのポイントがみるみる減っていく中、ルミナが「もうちょっと抑えようか?」と気遣いか、もしくは挑発か、どちらにしても今のハリーには聞きたくない言葉を発した。だから彼女も「手加減無用!」と大きく肩で息をしながら言い放った。

「おおおおおッ!」

――ガンフレイム――

ハリーが突き出した右拳より放たれるのは炎熱砲撃。砲撃番長(バスターヘッド)と呼ばれる所以だ。リヴィアと同じく近接格闘戦の中に射砲撃を織り交ぜる戦闘スタイル。が、ルミナには通用しない。何せつい先ほど、ハリーの上位互換のようなリヴィアと高機動格闘戦を繰り広げたのだ。

「ノロい」

ルミナは半歩分だけ横移動して炎熱砲を躱し、放射体勢のままであるハリーの元へと一足飛びで再接近。そんなルミナへとハリーの鎖型デバイス・“レッドホーク”が蛇のように動き、彼女の足元から絡み付いた。

「お?」

放射体勢から抜けたハリーが「おらぁ!」と“レッドホーク”をグイッと引っ張ってことで、ルミナは後ろ向きに倒れこみ、「あいたっ」後頭部をリングの床に打ちつけ、「あ~」床をズリズリと引っ張られた。

「せやぁぁぁぁーーーーッ!!」

――オレ式全力ゼロ距離ガンフレイム――

床に仰向けで倒れたままのルミナへ向けて、ハリーが零距離での炎熱砲を撃ち込み、2人を爆炎と黒煙が飲み込む。少しの沈黙の後、「うわぁっ!?」という声と共にハリーが黒煙を突き破ってリングアウト。

「「「リーダー!?」」」

「来んな!」

ハリーはルミナが握る“レッドホーク”に振り回されているようで、リング周辺を引き摺り回される。それを見てシャルが「こらこらこら! リングアウトしてんだからやめい!」って怒声を上げた。それでルミナも「おっと、いけない。ごめんね」と“レッドホーク”より手を離し、ハリーも自由となった。

「あいてて・・・」

「大丈夫っスか、リーダー!?」

「ライフ残り1000ポイント・・・やばかったっスね・・・」

「ルミナさんの方はまだ1万以上っスよ」

「ああ・・・だがクラッシュエミュレーターを食らってねぇのは幸いだぜ」

妹分たちがリング上で佇むルミナを見て曇った表情を浮かべる。それでもハリーは「あぁ、これが最強か」なおも目をギラギラと輝かせて、ルミナの待つリングへと再び上がって構えを取る。

「そろそろタイムアップだから、悪いけど次の一撃で終わらせてもらうよ」

「なら、その一撃を凌いでカウンターを入れさせてもらうっス!」

ハリーの右拳が炎を纏い、そこから火炎の魔力スフィアが4つと作り出される。さらに「レッドホーク!」と鎖全体の炎を纏わせて、ルミナへと走らせた。シグナムの連結刃形態・シュランゲフォルム時の“レヴァンティン”による空間攻撃・シュランゲバイセンのような攻撃だ。

「私の動きを封じたところでその魔力球を撃ち込むって寸法? だとしたら、けん制にすらならないと忠告しておくよ、今のうちに」

「百も承知っス! それでもこっちからギブアップなんてぜってぇに嫌だ!」

「なるほど。そうだよね・・・うん。じゃ、行くよ!」

ダンッと床を蹴り、一気に距離を縮めようとするルミナに“レッドホーク”が襲い掛かり、彼女は避けもせずにわざと巻き付かせて、自ら身動きが出来ないようにした・・・ようだ。不確かなのは、あまりにも自然に食らったからだ。ルミナなら見ずとも躱せる程度の速度だったからだ。

「バーストバレット!!」

“レッドホーク”を引っ張ってルミナを強制的に近寄らせている中での火炎弾4連射。爆炎に呑まれたルミナだが、削れたポイントは80ポイント。ヴィヴィオ達との試合時より、防護服へ回している魔力量が多いため、防御魔法未使用でこの防御力を発揮している。

「ブラック・・・ホォォォーーーークッ!!」

ハリーの利き腕である左による拳打が、「むぐぅ・・・!」ルミナの腹部を捉えた。その一撃でようやく200ポイントのダメージをルミナに与えられたハリーは、追撃のために殴り飛ばされたルミナをまた引っ張り込もうとしたが、ルミナは自ら“レッドホーク”を自身の上半身に巻き付かせるように回転しつつ、空中に留まったままハリーの元へと接近した。

「っ・・・!!」

――ガンフレイム――

ハリーが咄嗟に発動できたのは火炎砲。ルミナはそれをまともに受けるが、爆炎の中から回転したまま飛び出してきて、フリーな下半身――右足による打ち下ろしの蹴りを繰り出した。まともに受けても防御をしても確実に残りライフを削られるであろうハリーは、「おらぁぁぁッ!」右拳の一撃で迎撃した。

「上手い」

「うん。回避はもう出来ない距離だったし、ほぼ無意味な防御に魔力を回すくらいなら攻撃に全振りした方がダメージも軽減できる」

トリシュの言うように、ハリーは300ポイントのダメージだけで済んだ。対するルミナは80ポイントのダメージを受け、ハリーともどもクラッシュエミュレートを受けた。ハリーは骨折、ルミナは打撲。

「つぅ・・・!」

右手の骨折にハリーが涙を浮かべるが、戦意はなお衰えない。当然だ、それくらいで折れていたら都市本戦にまで上り詰められるわけがない。

「へへ。ルミナさんの宣言した一撃(フィニッシュブロー)、迎撃させてもらったっス・・・!」

「うん、驚いた。打撲も食らっちゃうし。残り時間は・・・50秒弱か。それなら今度こそ、次の一撃で沈めてあげる・・・!」

何重にも硬く巻き付いている“レッドホーク”を力ずくで引き千切り、“レッドホーク”の影響で至近距離に立つハリーへと容赦ない右ストレートを繰り出すが、ハリーは直感でも働いたのかギリギリで顔を逸らせて躱した。

「おおおおおおおおおッ!!」

――ブラックホーク――

1歩と踏み込み、腰を捻り回転運動を加えた左ストレートを繰り出すハリー。だがその予備動作にルミナも合わせて沈み込むように腰を落としつつ、僅かに前進しての「デーモン・アプゲショッセン」と、かつて行った特騎隊メンバーでの模擬戦時にミヤビを一撃で沈めた、あのカウンターストレートを打ち込んだ。魔法ではなく純粋な技であるのが恐ろしい。

「ぶ・・・っ!?」

ハリーがものすごい勢いで殴り飛ばされ、たまたま俺の元へと吹っ飛んできたから「よっと」と抱きとめる。今の一撃でハリーは3万4千ポイントのダメージと、内臓損傷のクラッシュエミュレートを受けたため、すぐに「クラッシュエミュレートを解除!」させた。

「いってぇ・・・」

「「「リーダー!」」」

「ありがとうっス、ルシルさん。ひとりで立てます」

フラリと俺の腕の中から離れたハリーは、駆け寄ってきた妹分たちへ「負けちまった、たはは・・・」と苦笑い。そしてヴィクトーリアの視線に気付き、「お前の防御力でも防げねぇぞ、今の」とアドバイスした。

「ええ、そうでしょうね。・・・良い戦いだったわ」

「・・・へっ」

ヴィクトーリアがリングへと上がり、正しく甲冑と言える防護服へと変身してルミナと対峙した。

「かの有名な雷帝と闘えるとは、光栄の至り」

「私もそうですわ。騎士団では元とはいえフォアストパラディン、管理局では闘神と謳われる貴女と槍を交えることが出来て、本当に光栄ですわ」

「さっきも言ったけど、ハリー共々インターミドルでの試合、どれも良かった。だから私もちょっと本気出すよ」

ルミナが構えを取り、ヴィクトーリアも戦斧を構え、互いに臨戦態勢に入った。そしてシャルの「レディ・ファイト!」という号令で、2人の試合の幕が上がった。

†††ルシリオン⇒イリス†††

ハリーにも容赦ない技を繰り出して、3万以上のダメージを与えさせたルミナ。ヴィクトーリアはハリー以上の防御力を誇るってことで、初っ端から技を繰り出し始めてた。

「はあああああッ!」

――四式・瞬光――

ヴィクトーリアは戦斧型デバイス・“ブロイエ・トロンベ”による電撃を纏う刺突を繰り出し、放電されてる電撃にルミナも僅かなダメージを受けながら(それでも感電のクラッシュエミュレートは受けないのはさすが)も「そりゃ!」と長い柄を左足で踏みつけ・・・

「でやっ!」

――エーレントヴァッフェン――

「ぐぅ・・・っ!」

右足でヴィクトーリアの側頭部を蹴っ飛ばした。吹っ飛ばされたヴィクトーリアは床に叩き付けられたけど、苦悶の声を漏らしながらも立ち上がって、「まだまだですわ」って“ブロイエ・トロンベ”を構えた。

「武器による直接攻撃はやめておいた方が良いよ、って先に忠告しておくよヴィクトーリア」

「ありがとうございます。ですが我が雷帝の戦斧を、そう容易く下せると思わないでください」

――一式・纏雷――

ヴィクトーリアの籠手と脚甲と胴鎧に電撃が付加される。電撃を纏っていればルミナの打撃をどうにか出来るって考えてのことだろうけど、それだけじゃルミナの拳は止められないよ、ヴィクトーリア。

――五十四式・槍礫――

「はああああああッ!」

雷撃弾を4発と発射して、ルミナがそれを躱してる間に接近したヴィクトーリアは「九式・霞!」と、“ブロイエ・トロンベ”の斧刃による斬撃を繰り出した。ルミナは「だから無駄だって」さっきと同じようにヴィクトーリアのデバイスを踏みつけたんだけど・・・。

「外式! 天瞳・水月!」

「おっぐぅ・・・!」

“ブロイエ・トロンベ”のお尻にあった仕込み柄を、右手で本体の柄から切り離したヴィクトーリア。仕込み柄からは魔力刃が展開されて、その斬撃をルミナに左肩に叩き込んだ。受けたダメージは110ポイント。今ので3桁も食らうのか~。ルミナが僅かによろけたところにヴィクトーリアの刺突の追撃が迫る。

「今の一撃のお代を払っておくよ」

突き出された放電する魔力刃をルミナはガシッと鷲掴んで、ダメージを負いながら仕込み柄を握るヴィクトーリアの右手の指に「ふんっ!」左拳を打ち込んだ。

「ぐっ・・・!」

ヴィクトーリアの表情が苦悶に歪み、右手が握っている仕込み柄から離れた。仕込み柄はルミナの手に渡り、ヴィクトーリアはルミナから距離を取ろうとした。

「はい、逃がさない」

――ゲヴァルト・ツム・アインシュトルツ――

ルミナが左足でヴィクトーリアの左肩に踵落としを打ち下ろして、彼女をそのまま地面にうつ伏せで叩きつけ、間髪入れずに追撃で蹴り上げた。蹴っ飛ばされたヴィクトーリアはリングアウト。受けたダメージは2500ポイント。ついでにルミナに殴られた右手の指4本(親指除く)の骨折、両肩打撲っていうクラッシュエミュレート。もう右手で何かを握ることは、この4分間1ラウンド中にはないと見て良い。

「お嬢さま! ・・・一撃による4桁のダメージなど、初めて見ました・・・!」

ダールグリュン家のヴィクトーリア専属執事、エドガーが顔を蒼くして呻いた。都市本戦でも、どれだけ攻撃を受けても必ず3桁ダメージに押さえていたヴィクトーリア。それがルミナの攻撃で容易く4桁ダメージだからな~。仕方がないとはいえ、ショックでしょうに。

「返すよ、コレ」

そう言ってルミナは仕込み柄を、ヴィクトーリアが立ち上がって戻ってくるであろうリングの端に放り投げた。ヴィクトーリアは立ち上がろうと動いてるけど、両肩の打撲が効いてるようですぐには立ち上がれそうにない。

「何やってんだ、お嬢! お前、こんな簡単に終わるようなもんじゃねぇだろうが!」

ハリーの叱咤激励が飛ぶ。ヴィヴィオ達がわたし達大人組をチラッと見てきて、その意味を察したわたしは「ヴィクトーリアを応援してあげて♪」って微笑み返した。するとヴィヴィオ達も「ヴィクターさん、頑張れー!」って応援し始めた。

「あれ!? ここでヴィクトーリアの応援!? 私は!?」

「ルミナに応援なんて要らないっしょ~」

「今のところ、君が敵役だぞ~」

「そういうわけです、ルミナ。敵役らしく散ってください」

「酷い!」

がっくり肩を落として落ち込むルミナを余所に、ヴィヴィオ達の応援に応えるようにヴィクトーリアは立ち上がって、“ブロイエ・トロンベ”を杖代わりにしてリングへと戻ってきた。リングアウトカウントは・・・いいや。そんなつまらない勝敗の着け方はしたくない。

「ヴィクトーリア。両腕が動かしにくいなら、ルシルに治癒かけてもらう?」

「いえ。それはルール違反ですので。このままで続行ですわ」

「そう。なら、そのプロ意識に敬意を表して、手加減はほんのり風味のままでやろう」

「・・・それで構いませんわ」

若干不満げなヴィクトーリアだけど、今の自分の状況が判っていることでルミナの申し出を素直に受けた。ヴィクトーリアは浅く呼吸を繰り返しつつ、両肩を小さく回す。そのたびに少し顔が引き攣るのは痛みを覚えてるからでしょうね。

「いつ・・・」

床に突き刺さる仕込み柄を手にして、魔力刃を解除して本体へと連結させ直すヴィクトーリア。指の骨にヒビが入ってる右手で取ったってことでルミナが「マジで大丈夫?」って心配するけど、ヴィクトーリアは「問題ありませんわ」と辛そうな表情で答えた。

「参りますわ・・・!」

左手だけで“ブロイエ・トロンベ”を携え、リング端から中央に立つルミナの元へと歩き出す。ルミナは自分から仕掛けるつもりはないようで、ヴィクトーリアの準備が整うまで仁王立ち。

「百式・・・!」

ヴィクトーリアは足元にベルカ魔法陣が展開して、“ブロイエ・トロンベ”の石突部分を突き立てた。彼女から膨大な魔力が吹き上がり、リング全体に電撃が迸る。

「神雷!」

直後にとんでもない雷撃が拡散してルミナを飲み込んだ。武装隊はもちろん、騎士団の下位騎士でも出せないような強烈な雷撃に、わたしとルシルとトリシュは「おお!」って拍手。んで、ヴィヴィオ達は呆然。ひょっとしたら来年のインターミドルでヴィクトーリアと闘うかもしれないっていう考えと、どう攻略しようかって考えでいっぱいなのかも。

「さすがのルミナさんも感電のクラッシュエミュレートくれぇは食らってんだろ・・・?」

ハリーも固唾を飲む中、収まり始めた砂塵の中に佇むルミナとヴィクトーリアの姿を視認。ルミナが「おおぅ、体が痺れて動きにくい・・・」って、ハリーの言うとおり感電のクラッシュエミュレートを受けて、全身ビクビクしてる。ライフも2500ポイントも減ってるし。

「今が好機・・・!」

ヴィクトーリアがルミナの元へと駆け出し、左手1つで携える“ブロイエ・トロンベ”を振りかぶり、「九式・霞!」と電撃を纏う斧刃による薙ぎ払いを繰り出した。ルミナは反応は出来てるんだけど、動きがのろい。やっぱ運動機能麻痺のクラッシュエミュレートはキツイか・・・。

「ぐぅ・・・!」

ギリギリで腕によるガードが間に合ったルミナだけど、踏ん張りきれずに薙ぎ払われた。受身も取れずにビタン!と床に叩き付けられて、ダウン判定になる。ライフもさらに300ポイントも減った。まぁそれでもまだ1万以上のライフを残してるけど。

「お嬢! 時間もそんなに残ってねぇぞ! ライフ的にはお前が負けてんだから、さっきの雷撃を連発しろ!」

「無茶を言わないでちょうだい。連発できたら苦労はしませんわ」

「ルミナさんに勝てるんなら多少の無茶くらいやれよ!」

「やかましいですわ! 無理なものは無理なのですわ!」

ハリーと言い合うヴィクトーリアの視線は、ゆっくりと立ち上がったルミナに注がれたまま。ルミナもファイティングポーズを取って、続行の意思を示した。

「さぁ、続きをやろう!」

そう意気込むルミナだけど感電は未だ解けず。それでもルミナから打って出た。ぎこちないけど駆け出しつつ・・・

「ふんっ!」

――ルフト・クーゲル――

「うぐっ!?」

目にも留まらない予備動作から繰り出される、拳圧による中遠距離技を打ち出した。魔力付加すると威力は桁違いに増えるけど、その分魔力で可視化しちゃうから、ほとんど使わない没技だったりする。ヴィクトーリアは拳圧を顔面にもろに食らってグラリとよろめいた。

「ちょっとずつ麻痺が治っていくよ・・・!」

「くっ・・・! 五十四式・槍礫!」

「射撃魔法程度で、私を止められないってことは理解してるよね・・・!」

ヴィクトーリアはグッと腰を落として、上半身を捻りつつ“ブロイエ・トロンベ”を持つ左腕を限界まで引いた。完全に刺突攻撃の構えだ。それでもルミナは構わず突進をやめず、雷撃弾の直撃を許した。

「八十八式! 閃鉾貫鎧!!」

瞬光っていう刺突技よりさらに速く、纏う雷撃も膨大な一撃。うわ、どうしよ。ルミナも冗談半分で言ってたけど、ヴィクトーリアもうちの隊に欲しくなっちゃった。対するルミナはなんとここで魔法を発動。時間的にフルじゃないけど、右拳に魔力を集束させた。

「ムート・フェアナイデン!」

ルミナの拳とヴィクトーリアの突き出した“ブロイエ・トロンベ”が真っ向から激突。拮抗は僅か。ルミナの拳は“ブロイエ・トロンベ”の頭部分を粉砕して、その衝撃でヴィクトーリアの左手から柄が吹っ飛んだ。

「あぐっ・・・!」

「お嬢様!!」

さすがのヴィクトーリアも、武器が無ければ拳闘騎士最強のルミナには何も出来ない。時間もそうないし、このままリタイアかもって思ったけど、ヴィクトーリアの目はまだ死んでなかった。

「一式・纏雷!」

籠手と脚甲と胴鎧に電撃を付加したヴィクトーリアが構えを取って、ルミナも「戦斧のない雷帝など・・・」って若干鼻で笑いながら構えを取った。そして同時に駆け出して・・・

「二式・雷殴!」

「ゲーゲン・・・」

ヴィクトーリアの繰り出した左拳を、ルミナは右足を引いて体勢を半身にして躱すと、左拳が引き戻されるより早く左手首を掴んだ。そしてヴィクトーリアを受け流し、右膝裏に蹴りを1発打ち込む。膝カックンされたようにヴィクトーリアの腰がガクッと落ち、上半身が反っていたことでがら空きのあの子の胸へと「アングリフ・・・!」拳を振り下ろした。

「ぎゃう・・・!」

よほどの威力だったのか、背中から叩き付けられたヴィクトーリアが軽くバウンド。ルミナはダウン判定を受けるより早くヴィクトーリアの首裏を掴んで宙へと放り投げ・・・

「せいやっ!」

――ゾイレ・フェアクナルト――

あの子の背中に強烈な裏拳を打ち込んだ。悲鳴すら出せなかったヴィクトーリアは吹っ飛んで、柄しか残っていない“ブロイエ・トロンベ”の元に落下した。今の攻防でヴィクトーリアのライフは残り400ポイントまで減少。

「あれ? 今ので削りきれなかった? 大した防御力だよ、ヴィクトーリア」

「あ・・ぐ・・・くぅ・・・ぬぅ・・・!」

それでもヴィクトーリアは諦めることなく、柄を掴んで杖代わりにして立ち上がった。

「ぐぅ・・・うあああああああッ!」

――四式・瞬光――

柄全体に電撃を付加して、ヴィクトーリアは柄だけの刺突を繰り出した。ルミナはスッと右へと半歩分移動してそれを回避。

「九式・霞!」

本来は斧刃での斬撃技だけど単なる柄の打撃になった一撃を、避けたばかりのルミナの左腕へ振るった。振るわれる柄を裏拳で弾いたルミナだけど・・・

「八式・朧!」

ヴィクトーリアは弾き返された勢いをプラスした柄尻での薙ぎ払いを、ルミナの右腕へと打ち込もうとした。ルミナは「よっ」と跳ぶことで躱した。宙に居るルミナに対しヴィクトーリアは石突部分に電撃を付加しての刺突技「十七式・穿光!」を繰り出す。

「っと!」

両腕をクロスさせての防御でその一撃を受けたルミナが吹っ飛ぶけど、危なげもなくリングに着地。と同時に両足に魔力を付加。

「 シュトゥースヴェレン・ツ・フェアブライテン・・・!」

その場で跳んで、リングを思いっきり踏み付けたルミナを中心に広がるのは衝撃波。バキバキとリング全体に亀裂が入って、ヴィクトーリアが「きゃあ!」と悲鳴を上げてよろめいた。

「よーい・・・!」

――ゲシュヴィント・フォーアシュトゥース――

「どんっ!」

ルミナの高速移動魔法からの・・・

「シュトゥース・・・ヴェレ!」

相手のあらゆる防御魔法を無視して直接体内に衝撃波を叩き込む掌底が、「ぐふっ・・・!」ヴィクトーリアの腹に打ち込まれた。それでライフは0となって、ヴィクトーリアの敗北が確定した。
 
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