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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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25話:堅物の婚約

 
前書き
2018/10/01誤字修正 

 
宇宙歴761年 帝国歴452年 12月下旬
首都星オーディン ルントシュテット邸
ローベルト・フォン・ルントシュテット

今年も事が多い一年だった。特に周囲から聞かれるのが私の末弟が取り仕切っているRC社の事だ。皇帝陛下の勅命で建設される人工天体の要塞、イゼルローン要塞の建設資材を一手に取り仕切った事でかなり名前が売れている。我が家の領地、ルントシュテットをはじめ、RC社が事業展開をしている辺境星域は特需状態のようだ。
当領を含め8年前は人口2億3000万人だったが、人口流入や福祉施策の効果で3億人近くまで人口も増えているし、収益も当然増えている。おそらく父上に断られての事だろうが、一部の貴族から自領でもRC社に事業展開を頼めないか?と、内々に相談される事も増えた。

父上にも確認したが、現在はイゼルローン要塞の件で精いっぱいでとても新しい案件を抱えられる状態ではない為、御断りされているとの事だ。また、事業の特性上、展開している星域から飛び地になるような所では収益化が難しいとの予測もある。イゼルローンの件を除いても、手を広げるのは難しい状況にあるらしい。

喜ばしい話ではあるのだが、RC社と合弁会社を設立した辺境領主の皆様は今はとにかく領民に報いる意味でも収益を自領への投資に回す判断をされた。ザイトリッツの予測では、自分たちで輸送船を運航させる領主もでてくると見込んでいたが、かなりの初期投資と収益化が難しい輸送船事業を始めるより開発余地がいくらでもある自領の開発と、ルントシュテット領を真似て福祉施策を充実させる事を優先させた。

結果、大げさな表現ではなく、月ごとに必要とされる輸送船団が増えているような状況だ。これもRC社が合弁企業の設立を取引開始の条件にしたことが大きかった。各領主の立場から考えると、RC社は共同受益者になるため、任せられる事は任せてしまおうという判断に至ったようだ。

我が領を含め、辺境星域は大きな発展の波に乗れている状況だが、これを演出したのが、我が末弟、ザイトリッツだ。士官学校に籍を置きながら資材調達を取り仕切っている。私も来年の定期昇進で中佐が内定している。25歳で中佐なら伯爵家嫡男としても悪くはないが、手本となれているか不安になる自分がいる。
そういう面では長弟のコルネリアスは可愛いものだ。4月の定期昇進で大尉になったものの、戦術家として名高いシュタイエルマルク提督の司令部に配属されたため、かなりの激務をなんとかこなしている様だ。たまに会うと愚痴をこぼしてくれる。長弟はもともと要領が良い方だったが、任せられる者にどんどん任せる風潮があるらしく、かなりの仕事を振られているらしい。

そんな事を自室で休みながら考えていると、メイドが私を呼びに来た。どうやらおばあ様、父上・母上がお揃いでお待ちらしい。すぐに遊戯室へ向かうとお茶を飲みながらご歓談されている様だ。

「お待たせしました。ローベルト、参りました。」

「うむ。ローベルトよ、大事な話があるのだこちらに座りなさい。」

私が席に着くと父上は話を始められた。おばあ様と母上も少し緊張されている様だ。

「話というのはな、お前の結婚の件だ。方々からお話は頂いていたがこの数年、事が多かった。私たちもどのお話を受けるべきか悩んでしまってな。本来ならもう少し前に婚約して、そろそろ結婚というのが一般的だったがこういう形になってしまったのだ。」

父上は申し訳なさそうだが、第二次ティアマト会戦以来、当家はある意味非常事態というか本来の形を取り戻せていなかった。父上が予備役に編入され、領地経営に関われるようになった5年前にやっと本来の形に収まったという所だ。それを考えれば致し方ないだろう。

「父上、私は当家の非常事態を一番身近で感じながら育ちました。事情はよくわきまえております。」

「そうか、お前も長兄として皆の範たらんとしてくれていたな。苦労を掛けた。それでな、お話しを受けてもいいのではないかと思っているお相手はミュッケンベルガー家のビルギット嬢だ。リヒャルト殿下の一件も考えれば、門閥貴族と一線を引く方針は変更できぬ。軍部系貴族が団結する意味でも悪くない話だと考えている。」

「私たちもお茶会でお話をする機会がございましたが、よくできたご令嬢でしたわ。安心にてお受けできると存じます。」

父上の言葉を継ぐように母上が話を続けた。ミュッケンベルガー家の先代は祖父レオンハルト同様、第二次ティアマト会戦で戦死されていたはずだし、当主のグレゴール殿も士官学校を首席で卒業され、悪い評判は聞かない。リヒャルト皇太子が陛下の弑逆を計った容疑で死を賜った際、皇太子を担いでいた派閥の門閥貴族がかなりおとり潰しになった。婚姻関係を結ぶのもかなり慎重な判断が必要な状況だ。色々とご縁がある家だしお受けしても問題ないだろう。

「父上、良いお話をありがとうございます。ぜひお受けしたいと存じます。」

私がそうお答えすると、おばあ様も含め、ホッとされた様子だった。

「今更の事でもあるが、コルネリアスもザイトリッツも門閥貴族には思う所があろうし、RC社がこのまま大きくなれば向こうも利権を狙ってくるだろう。嫡男として色々と苦労すると思うがよろしく頼む。」

父上が私の肩に手を置いて頭を少し下げられた。眉間の皺は相変わらずだし、白髪も増えられたように思う。領地経営は資料では順調だがなにかと苦労されているのだろう。

「それとな、明言はされていないが領地経営のサポートも期待されておると思う。ザイトリッツはあれで身内に甘いから何も言わなくとも配慮はしてくれよう。ミュッケンベルガー家の領地は帝国後背地に属する。イゼルローンの件がなければRC社が展開を考えていた地域だ。とはいえ、イゼルローン要塞の件は勅命でもあり失敗は許されぬ。妻の実家の力になりたいという感情は持って当たり前の物だが、今は変な安請け合いはできぬ。その辺りも含んでおいてくれ。」

話が済んだ頃合いで玄関の方で人の気配が増えている。コルネリアスかザイトリッツが戻ってきたのだろう。父上からもお話しされるだろうが、自分の結婚の事は自分の口から伝えたい。私は暇乞いをして玄関に向かった。

「おお、兄上お帰りでしたか。ザイトリッツも同じタイミングで到着したようですよ。」

長弟のコルネリアスと末弟のザイトリッツが何やら玄関で話していた。この二人は悪い意味で気が合う。まさか玄関で毒舌を交わしたりはしていないと思うが。

「兄上、ザイトリッツただいま戻りました。お変わりなく安心いたしました。少しお話していたのですが、あのシュタイエルマルク提督の司令部で励まれているとか、末弟として鼻が高いとお話ししていたのです。」

「それだけではないだろう?私としては士官学校に在籍しながら要塞建設の資材調達を一手に差配する弟をもてて光栄に思っているさ。」

普通に聞けばお互いに賞賛しあう仲の良い兄弟に見えるが、二人ともニヤニヤしている。本音はお互いに仕事を大量に抱えてご苦労さんって所だろう。すこし頭が痛くなるが、この二人は揶揄しあうことを楽しんでいるようなので特に注意はしない。

「玄関で立ち話をする必要はあるまい。遊戯室にみなお揃いだ。早く参ろう。」

そう言って話をいったん区切って遊戯室へ二人を誘う。戻れば父上からお話が出るだろう、先にここで伝えておきたい。

「父上からお話が出るだろうが、私の結婚が決まった。お相手はミュッケンベルガー家のビルギット嬢だ。お前たちには自分の口で伝えておきたかったのでな。」

「それは良きお話しですね。兄上おめでとうございます。」
「式にはぜひ参加したいですね。ご配慮頂けると思いますが早めに日程を決めて頂かなくては。」

二人ともこの結婚を祝福してくれている様だ。

まもなく遊戯室というあたりで、コルネリアスが何かザイトリッツに耳打ちするとザイトリッツは思わず笑っていた。何だかんだと仲は良いのだ。私はその光景をほほえましく見ていた。 
 

 
後書き
コルネリアスの耳打ち
「堅物がとうとう結婚するそうだ。とはいえあいつは固すぎる。子供がグレなければいいが。」 
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