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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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24話:特別候補生

宇歴761年 帝国歴452年 11月上旬
アムリッツァ星域 物資集積拠点
ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

大型輸送船が、ひっきりなしに発着しては出発していく。本来なら士官学校の寮にいる頃合いだが、俺はアムリッツァ星域に新設された物資集積拠点の事務官室から、忙しなく発着する輸送艦群を眺めていた。年末はオーディンで過ごす予定なのでもう少ししたら荷造りを始める必要があるだろう。

話は戻るが、イゼルローン要塞建設に向けてRC社は今年、フル稼働状態だった。共同出資している各星系の開発会社を通じて各種鉱山に投資し、増産した鉱石をこちらに集めて精錬し、計画に基づいて要塞建設予定宙域に輸送している。年明けには各星系で精錬までできるようになるので、資源の増産計画は順調に進んでいる。

イゼルローン要塞は中心部に配置される核融合炉が完成し、現在は天頂方向からみて東西南北に30kmのメインシャフトを作る段階に入っている。今期中にメインシャフト先端部分を円状に繋ぐ段階まで建造される予定だ。

建設関係者や軍関係者の生活拠点の必要なため、もともと大き目の補給基地だったアムリッツァ星系第51補給基地は、物資集積機能に加えて、精錬設備も増設。慰安の為の歓楽施設や、関係者の家族が来た際の滞在施設も作られている。

まだ根回しの段階だが、イゼルローン要塞完成後にこの第51補給基地は宇宙艦隊2個程度の駐留基地として再構築されることになる。それを前提に新設された施設はある程度流用が可能なように設計・配置している。今のところ計画は順調だ。心配は無いだろう。

しばらく窓の外を見ていると、誰かが事務官室に入ってきた。振り返ると、この半年で馴染みになった若手軍人が近づいてくる。階級章は少佐だ。

「ザイトリッツ特別候補生、少しお時間を頂けるかな?」

「メルカッツ少佐、私に遠慮など無用です。どうされたのですか?」

そう、ローベルト兄上と親しい紳士ことメルカッツ先輩だ。この人がイゼルローン要塞建設計画の事務担当の佐官のひとりとして配属されたのは私との折衝の為だ。当初、私は要塞建設計画の実務を担当することで、実質士官学校を中退して准尉任官し要塞の完成とともに退役することを画策したのだが、勅命での要塞建設・俺の首席合格・ルントシュテット家が軍に近い事・現役の後方支援部門のトップであるリューデリッツ大将の口添えがあり、レポートの提出で単位を免除され、少尉待遇の特別候補生としてここにいる。
とは言え卒業見込み者の要塞建設現場の視察の手配を求められたり定期的に試験は受けなければならないので、決して良い待遇ではないと俺は感じている。

実質資材調達を担うRC社のトップでありながら、軍の階級は少尉待遇という理解しにくい立場になったわけだが、これに困ったのが折衝をする実務担当者だ。当初は別の佐官が担当していたがまあやりにくい。他に候補となるのがケーフェンヒラー男爵だが元大佐で爵位もちというと実務レベルでの折衝というより、最後の契約段階で顔を出すレベルだ。

そういう訳で、長兄とも親しく、俺とも知己があったメルカッツ先輩が実務レベルでの折衝役として選ばれたと言う訳だ。ただし、先輩は若干事務仕事を苦手としている雰囲気があるのでこれを機会に事務能力も鍛えようという意図も透けて見える。

「うむ。まあ非公式の場ではメルカッツ先輩で構わないぞ。それで士官学校の卒業前に予定されている視察の件で、ひな型がまとまったので事前に確認してもらおうと思ってな。」

「それはありがとうございます。役目なので手配はしておりますが、期末の段階ではイゼルローン要塞の円周が分かるくらいですし、どこまで見識が深まるか疑問ですが。」

「まあ、そう言うな。いずれ要塞に配属される者もおるだろうし、人工天体クラスの宇宙要塞建造など何度もある話ではあるまい。見分させておきたいという気持ちもわからなくはない。」

「メルカッツ先輩はお優しいですね。ただ、厄介ごとを押し付けられたんですから少しくらいは自己主張されないと、貧乏くじを引かされますよ。」

そういって先輩に視線を向けると、少し困った顔をしていた。

「資料は確認しておきます。それより年末年始は帰省されるのですか?もし帰省されるのならご一緒に如何でしょう?シャンタウ星域経由になりますが、ほぼ直行になりますので軍の定期便を使うよりも早く戻れます。厄介な交渉を押し付けられたのですからこれ位の役得はあっていいと思いますし、交渉相手とある程度の関係性を作ることもお役目に入ると思いますが。」

「それもそうだな。では同乗させてもらうとしよう。」

そういうとメルカッツ先輩はお手本のような敬礼をして事務官室から出て行った。今回の帰省ではルントシュテット領も少し視察予定だ。メルカッツ先輩は任務に真面目なのはいいが息抜きをしている気配がない。少しは気晴らしになればいいが。

領地でも初等教育学校が本格的に運営を開始したし、人口密集地から中等教育学校の設立も始まっている。資料では確認しているが一度見ておきたい。なによりルントシュテット家はRC社の最初の顧客だ。しっかりケアしておかないと。

先輩が置いて行った資料を確認しながら、まあ、士官学校の先輩方と縁を結べるのでそれも悪くないかなどと思っていると、数人の人の気配が近づいてくる。連中が戻ったのかなあと予想したが、予想は的中の様だ。

「ザイトリッツ様、ただいま戻りました。資料で概要を確認はしましたが、実際に見ると何やら凄まじさを感じました。何かを学び取るというのは難しいかもしれませんが、心に問いかけるような部分はございました。良き機会をありがとうございました。」

ケーフェンヒラー男爵をはじめ、ロイエンタール卿・従士のフランツ・乳兄弟のパトリックが入室してきた。生で建設現場をみて感じるところがあったのか、少し興奮気味だ。

「なるほど、このメンバーでも感じるところがあるのであれば士官学校が要望している視察もあながち無意味ではないかもしれないね。さっきまでメルカッツ先輩が士官学校卒業前の視察の件で来られていたから。」

私自身は、折衝もあるのでアムリッツァ星域の拠点を動くことが出来なかったが、年末年始の休暇を前に、先ほどのメンバーには要塞の建設現場の視察の機会を設けた。正直、事業規模が巨大すぎて、現場を見ないと実感が持てないと思ったからだ。前世の記憶を基にすれば、巨大な建造物は男性の子供心をくすぐるモノだ。自分の目で見る機会はマイナスには働かないだろうと思ったが、見込み通りの効果があったようだ。

特にパトリックについては、俺の実務補佐という名目で傍にいるが、待遇については特段配慮されていない。試験対策については一緒に練れるので心配はしていないが、せっかく士官学校に上位合格したのに、そこで得られる経験を捨てて傍についてくれている。少しでもそれを補って欲しいので、要塞建設の現場視察のメンバーに加えていた。

「実務面で何か学び取るのは難しいかもしれませんが、任官する前にあれを見ておくのは無意味ではないかと存じます。」

おおう、お金の計算は大好きだけど、ロマンとか感傷とかにはあまり価値を見出さないロイエンタール卿ですらなんか目をウルウルさせている。まあ、自分たちが走り回ってかき集めた資材の集大成だからな。思う所はあるだろう。

「わかったわかった。そこまで言うなら、わたしも期末に視察できるのを楽しみにしておこう。先ほど決まった事だが、帰省に当たってはメルカッツ先輩も同乗される。あまり息抜きがお上手ではないようだ。先輩の好みを踏まえて、少しでもお楽しみいただけるように手配を頼む。言うまでもないが先輩は女遊びはあまりお好みではないのでそのつもりで頼む。
あとはルントシュテット領の件だな。今動き出している新しい案件は、私が提案したものがほとんどだ。提案者の責任としても。短期間の滞在だが出来るだけ自分の目で可能な限り確かめておきたい。あまり間がないがこちらも手配を頼むぞ。」

皆がうなずくのを確認してからケーフェンヒラー男爵のみ残るように指示をした。
他の3名が部屋から出ていく。

「それでザイトリッツ様、なにかお急ぎの話でしょうか?」

「いや男爵。あくまで相談の段階なのだが、そこまでイゼルローンが一見の価値ありなのであれば皇族のどなたかにご視察いただくのも検討の余地があるかと思ってね。幸い我らがフリードリヒ殿下は今年男子がお生まれになられた関係で、妃殿下とお時間があまりとれない状態らしい、ルントシュテット領のウイスキー事業もそろそろブレンドを始める頃合いだ。ブレンドにご意見を頂きイゼルローンを視察してオーディンに戻る。3か月はかかるまいが良き気分転換になろう。さすがに陛下とその後継者の方に何かあっては困る故お誘いはしかねるが。どう思う?」

「打診はされてもよろしいのではないでしょうか?レオの件もございますれば、ザイトリッツ様が多少なりともお気遣いされるのも不自然ではないかと。」

「ありがとう、どのようなお返事がくるか分らないが、打診はしてみようと思う。帰省まで間がない。男爵に限って抜かりはないと思うが荷造りの手配もよろしくね。」

男爵は了承の旨を返礼すると、自室に戻っていった。あとは叔父貴ことグリンメルスハウゼン子爵宛に手紙で打診しておけば問題ないだろう。おれは便せんを引き出しから取り出して、筆をとった。 
 

 
後書き
少し表現が分かりにくいのですが

ザイトリッツ=特別候補生:少尉待遇の士官学校1年生
パトリック =士官学校1年生 名目は実務補佐

2人とも士官学校の単位を免除される代わりにレポートの提出を求められたり
定期試験は受けないといけない扱いとご認識ください。 
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