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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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26話:ザイ坊と兄貴の日

 
前書き
2018/10/1 誤字修正 

 
宇宙歴762年 帝国歴453年 1月下旬
首都星オーディン ルントシュテット邸
ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

恒例の一家そろっての年末年始をすごしたあと、俺は何故か会食の日々だった。別に長兄の婚約が決まったから次兄と末弟もお相手探しをして来い!という訳ではない。

何だろう、俺はまだ利権を失ったことは無いが、利権を失いたくないという気持ちがどんな物かをまじまじと感じる日々だった。

何が起きたかというと、この一年のザイトリッツの日の権利者どもから会食を連日セッティングされたのだ。そもそも俺の士官学校首席合格をネタに、大規模な会食を開くことをテオドール氏が中心になって画策してしていたらしいが、肝心のみんなのお財布ことザイトリッツは、大した説明もないままイゼルローン要塞の建設資材調達の為、アムリッツァ星域の第51補給基地へ旅立ってしまった。その悲劇から9か月、彼らはひたすら機会を待っていた訳だ。

幼年学校の後輩だけでなく、士官学校に進んだ同期たちも期ごとのテストの総合成績の上位者や各学科の上位者の名簿をつくり、ルントシュテット家は毎年年末年始をオーディンで家族揃って過ごすことを確認すると、一部の者は帰省を取りやめてまで、利権の行使の場を待った訳だ。

正直、他にすることがあるだろうとは思うが、実技の成績上位者テオドール・フォン・ファーレンハイト氏によると、これは必要なこと!だそうだ。とは言え、そこまでされて渋るほど、俺も付き合いが悪い人間ではない。連日のランチはマスターの店で会食をする事になった。マスターは連日の予約に気を利かせてくれたのか、毎日違うメニューを用意してくれた。さすがはマスターだ。これからもひいきにさせてもらおう。

この会食は俺にとっても別に不利益なものでは無かった。入校以来、一度も登校していない士官学校の様子が聞けたからだ。幻の首席合格とか言われていると語ってくれたのは、実技だけでなく健啖の分野でも優秀なテオドール氏だ。勅命の要塞建設に既に関わり、候補生として少尉待遇で軍務についていると言えば聞こえは良いが、実際に士官学校で研鑽を積んでいる連中からすると、素直に評価はできないというのが実情のようだ。

何とも思わないと言えばウソになるが、士官学校を中退して准尉任官で資材調達に関わり、要塞完成とともに退役してビジネスに軸足を置くことを狙っていたとはまだ洩らせない様だ。ただ、年間標準戦艦84000隻分の資材を集める仕事を代わりたいという奴はいないだろう。実績があればある程度、特別扱いが通る独裁制の下でも、首席合格だけでは本来こんな対応はありえない。同期はともかく、先輩方は面白くは思っていないだろう。

ここで気づいたことだが、士官学校の卒業見込み者の要塞建設現場視察の手配を俺にやらせるのは、この上級生の不満を少しでも和らげようという物なのかもしれない。ただ、縁もない連中に高いメシを食わせるつもりはないので、気配りはするが接待とは受け取られない程度にしようと思う。媚びているなどと誤解されても迷惑だしな。

会食とは違うが、久しぶりにお茶を飲みながら、フランツ先輩とも話をする機会を持てた。先輩はマリーンドルフ伯爵家に恥じない名門校の地方行政に関わる学科に入学し3年勉学に努めていた。4年次に卒業論文として、イゼルローン要塞の資材調達に端を発した辺境星域の特需について書こうと思っているらしい。機密に関わる部分は話せなかったが、発表前に確認させてもらうことを条件にかなり突っ込んだ話をした。

マリーンドルフ伯爵家の嫡男でなければ、ケーフェンヒラー男爵の良い弟子になりそうだが先輩の事情で、スカウトするのはあきらめた。当代のマリーンドルフ伯は高齢とのことで、卒業後は領地経営を担うことになるそうだ。

またそういう時期なのか、ヴェストパーレ男爵が運営している音楽学校で古典音楽を専攻している令嬢を紹介され、おそらく婚約することになるとのことだ。紹介の場はヴェストパーレ男爵夫人のサロンだったらしいが、美術やら古典音楽やらが主な話題で、正直困ったようだ。サロンの参加者を募集しているらしく誘われたが、さすがに興味がない分野に時間を割くほど余裕はない。お断りしたが、よくよく聞いてみるとどうやら女性が多く、男性の同行者を欲しがっていた様だ。フランツ先輩、犠牲者は一人で十分です。

多忙な会食の日々を送っていた俺だったが、今日の会食は久しぶりの兄貴との会食だ。右腕ことフランツ教官とパトリックをお供に、マスターの店に向かう。マスターの店も商売繁盛していて2階の個室も予約がかなり入る様になっていた。なので去年の今頃少し出資させてもらい、外側から見ると別の入り口から入るVIPルームを作ってもらった。そこを使っているのはRC社の関係者か兄貴の関係者だけだ。

部屋に入ると、兄貴たちが酒を傾けていた。

「おお!ザイ坊。久しぶりじゃな。だいぶ背が伸びたな。すこし驚いたぞ。」

「兄貴、叔父貴、ご無沙汰だったね。季節ごとにやり取りは叔父貴としていたけど、ちゃんと会えるのを楽しみにしていたよ。捕虜交換が荒れた件以来だから8年近いかな。新顔を紹介するよ。お小言だ。俺の乳兄弟だからよろしくね。」

おれはパトリックを紹介した。15歳ながら俺の身長はすでに170cmを越えている。まだ伸びているから、前世と比べても身長はかなり高くなりそうだ。もちろん軍事教練もさぼっていないから、事務屋のわりにボクサーみたいな体型を維持できている。

「うむ。お小言とやら、私は兄貴、横のは叔父貴じゃ。よろしく頼むぞ。しかし8年ぶりとはいえ、このところ事が多かった。ザイ坊の身長を見るまでそんなに久しぶりとは思わなんだぞ。」

かなり久しぶりだが、スッとイスに座って兄貴と叔父貴にお酌をする。士官学校を卒業するまでは半人前なので、俺はまだ飲酒はしない。

「お酌の腕は鈍っておらんな。ザイ坊のお酌で飲む酒はまた格別じゃからな。」

兄貴も叔父貴も嬉しそうに杯を傾ける。料理は既に頼んでいるようだ。

「そう言われたら頻繁にお酌の機会が欲しくなるけど、なかなかね。兄貴と叔父貴のおかけもあってRC社は絶好調だけど、その分あまり頻繁に会うと、辺境を派閥化しようとしてると見られかねない。身分って時に鎖になるんだなあってしみじみ思うよ。」

おれがそう言うと、兄貴は寂しそうに笑った。

「私から比べれば伯爵家の3男坊はかなり自由じゃが、ザイ坊はとんでもないことをしておるからな。そう感じるのも無理は無かろうて。」

「まあ、やりたいことは明確にあるけど、家柄のせいでままならないからね。兄貴とおれはある意味同志だと思うよ。」

少し場がしみじみしたものになってしまった。ここは空気を変えよう。

「ところで兄貴、叔父貴には手紙を書いたけど、皇子妃様は子育てで忙しいんでしょ?気晴らしにうちの蒸留所でブレンドしたり、イゼルローン要塞の視察なんかをしてみたら少しは気晴らしになるかと思ってたんだけどどう?」

「うむ。良き話だと思ったのだが、手紙が来た頃合いで、また子供が出来てな。いくら放蕩者とは言え身重の妃をおいて遊びまわるわけにもいくまい?。来期なら何とかなるとは思うのだが。」

兄貴は申し訳なさそうに答えた。叔父貴も苦笑している。

「兄貴、そんな顔をされたら声をかけにくくなるよ。右腕やお小言は実際に要塞の建設現場を視察したんだけど、結構すごいみたいなんだ。期末に士官学校の卒業見込みの連中を案内するからそこで案内の練習をしておくよ。折角来てもらうんだから上手に案内したいしね。」

そういうと兄貴は嬉しそうな表情をしてくれた。俺はまたお酌をしつつ

「それでね兄貴。いつものザイ坊の悪だくみなんだけど、現場を視察した連中はみんななんか感じるものがあったらしいんだよね。これって陛下の偉業のひとつになると思うんだ。最終判断は視察してからでいいと思うけど。」

いったんそこで話を区切る。おれも小腹が減ってるからな、少し料理をつまむ。

「でね。何が言いたいかというと、とはいえ陛下がイゼルローン要塞まで出張るのは無理があるだろうからさ。完成を祝って、縮小版になるけどオブジェを作ってもいいと思うんだ。当然、強欲な方々は名誉欲も旺盛だろ?。たとえば完成を祝して献金なりなんなりした連中の名前をさ、金額が多い順で100人とか、オブジェの付属物に名前を刻めるとかいう話になったら面白い事が起きるかなあと思ってさ。」

そこまで言うと、兄貴と叔父貴はすこし悪い笑みを浮かべた。

「差配をするのは、当然、視察された皇族になるだろうし、視察し感銘を覚えたって理由でこの話を出してもいいと思うし、面白い話になりそうだと思うんだけど。」

「ザイ坊は本当に門閥貴族の事を良くわかっておるな。確かに面白い話だ。オブジェの付属物に名前を刻む事で利益を上げようとは・・。面白い。」

兄貴は乗り気のようだし、叔父貴も楽しそうだ。

「来期なら、超硬度鋼とスーパーセラミックの生産設備も立ち上がるから、火入れ式も合わせてできるし、要塞完成後は要塞主砲の試射式をしても面白いかもね。」

「それは楽しそうじゃ。ザイ坊は面白い話ばかりもってくるのう。」

兄貴も叔父貴も上機嫌だ。おれが陛下の偉業と言ったのは本心だ。事業規模で言ったら人類史に残ってもいいと思う。ならとことんお祭りにした方が楽しいし、恩返しではないが兄貴も巻き込みたい。どうせ自称次期皇帝は前線には来れないのだから、必然的におれプロデュースのイベントに来れる皇族は兄貴だけなのだ。

それから皇族による夫婦円満の秘訣だの、子育ての秘訣だのを面白おかしく話してもらった。久しぶりに心から楽しめる時間だった。兄貴にもそう思ってもらえていれば嬉しいが。

オーディンにいる間は、おばあ様と晩餐を共にすると決めている。
いい時間になったところで俺たちはVIPルームを辞した。 
 

 
後書き
ここで登場したヴェストパーレ男爵夫人は曜日替わり愛人のお母様です。 
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