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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第163話「まだまだ足掻ける」

 
前書き
主人公ばかり強さが目立っていましたが、素質自体は主人公以上がゴロゴロいます。
特になのはは才能の塊です。さすが原作主人公。
 

 





       =out side=







「(……勝てない……)」

「(このままだと、皆が……)」

 時は少し遡り、フェイトの手によって司と奏が離脱させられている頃。
 薄れた意識の中、司と奏はぼんやりと現状を理解していた。

「司ちゃん!奏ちゃん!」

「後はお願いします」

 二人は後方待機していた那美に預けられ、フェイトは皆の元へと戻った。
 そして、結界が張られて戦闘が始まる。

「二人とも、しっかりして!」

 那美が二人に霊術を掛け、治療する。
 焼石に水のような効果だったが、それでもないよりはマシだった。

「……ぁ……那美、さん……?」

「無理に喋らないで!ただの傷だけじゃなくて、瘴気もあるんだから!」

 司が守護者に与えられたダメージは深刻だ。
 それに加え、瘴気も完全に祓えていない。
 奏は無茶が祟った分のダメージがほとんどだが、それでも守護者と戦ったため、瘴気の影響がない訳ではない。

「……皆は?」

「皆、あの結界に……。アリシアちゃん達と久遠も……」

「ダメ……守護者と戦ったら、死んじゃう……!」

 体を何とか起こし、近くの壁に背を凭れさせながら、奏が那美に聞く。
 そして、那美の返答に司が慌てたように言う。

「でも、司ちゃんと奏ちゃんが行く訳にもいかないでしょ!?」

「っ……」

 那美の言う通りだった。
 既に二人は一度戦闘不能に追い込まれている。
 何より、あまりの強さに心が折れかけていた。
 奏はともかく、天巫女である司には致命的な事だ。

「……だからと言って、このままだと全滅するよ……」

「ぅ……」

 司にそれを指摘され、那美も言葉を詰まらせる。
 一言で言えば、現状はほぼ詰んでいた。

「(……戦わないといけない。でも、恐怖で体が上手く動かない)」

 あまりに圧倒的な強さ。そして、虚ろな気配。
 そのせいで、司は守護者に対し恐怖を抱いていた。

「(……優輝君なら)」

 そして、だからこそ。

「(……優輝君なら、この状況でどうするんだろう?)」

 最も信頼している親友を頭に思い浮かべた。
 それが、司にとってトリガーとなるとも知らずに。

「(優輝君、なら―――)」

 





   ―――「任せた」







「ッ――――――!」

 そこで、ふと。
 決戦前の優輝の言葉を司は思い出した。

「(……優輝君は、私に“任せた”と言った。あの龍の対処だけじゃない。“もしもの時”を見越して……!)」

 その瞬間、司の思考が切り替わる。
 それは、戦いに赴く際の些細な一言に過ぎなかった。
 だが、今の状況ではそれでも司の心情を変えるのには十分だった。

「(なのに、ここで諦めるなんて……出来る訳がない!)」

 そして、司の心情に応えるように、次々とジュエルシードが司の近くに転移してくる。

「わ、わ、何!?」

「……まだ、終われない!」

     カッ―――!

 全てのジュエルシードが終結し、光を放つ。
 那美がその光に驚き、すぐにその光は収まった。

「……まだ、私は戦える!」

 光が収まった時、司の傷は完治していないとは言えほとんど治っていた。
 さらに、体にあった瘴気も完全になくなっていた。

「ッ……私も……!」

「か、奏ちゃん!?」

 そんな司につられるように、奏も再び立ち上がる。
 無茶した反動でまだ上手く動けないものの、だいぶ回復しているのが見て取れた。

「……ぇ、あ、嘘……?」

 驚きの連続だった那美だが、視界に結界が解けたのが見えて絶句する。
 クロノ達が敗北したのだ。

「ジュエルシード、回復を」

〈“Curatif(キュラティフ)”〉

 だが、司はそれに構わずに回復魔法を使う。
 魔法陣が展開され、その上にいる司と奏のダメージがみるみる癒えていく。

「(まずは安全第一。治療と同時に皆の位置を探る……!)」

 薄く広く、司の魔力が広げられる。
 それは、魔力を持つ存在を見極めるための魔法。
 あっさりとアリシア達以外を感知する。
 そのアリシア達も、視界に映っていたために位置特定はできていた。

(いざな)え、我が元に!」

〈“Métastase(メタスタス)”〉

 直後、転移魔法を発動させ、アリシア達を含めた皆を傍に転移させる。

「えっ、つ、司!?」

 驚くアリシアを余所に、司は続けて現状を把握する。

「(今は蓮さんを含めた生き残っていた式姫と……陰陽師らしき人と協力している妖かな?上手く連携でやりあっているけど……多分、すぐに瓦解する)」

 一人で直接した司だからこそわかる、守護者との戦闘の展開。
 そのため、すぐに司は行動を起こす。

「(戦闘が出来そうなのは……くっ……!)」

 回復した上で戦闘が可能なのは、司を含めて僅か八人。
 司、奏、アリシア、アリサ、すずか、久遠、なのは、帝の八人だ。
 内、アリシア達三人は戦闘経験不足で油断しなくてもあっさり殺されるかもしれない。

「(……なら、底上げすればいい!!)」

〈“Amélioration(アメリュァション)”〉

 強化魔法が全員にかけられ、身体能力が向上する。

「司……まさか……」

「……優輝君なら、きっとどんなにボロボロになっても立ち向かう。……ここで諦める訳にはいかないよ」

 司のその言葉を聞いて、アリシア達は、そして気絶から回復した帝も心を打たれる。
 そう。諦める訳にはいかない。

「行ける人は構えて。戦えないのなら、皆を守って。……私たち以外に、この場に戦える人はいないよ」

「……そこまで言われたら、行くっきゃねぇだろ……!」

 気絶から回復した帝は覚悟を決めて愛機のエアを構える。
 それに続くように、戦える者全員が覚悟を決めた。

「那美さん、皆の事は頼みます」

「ま、待っ……!」

〈“Métastase(メタスタス)”〉

 那美の制止を聞かずに、司達は転移した。
 そして、転移先で、すぐに鞍馬達を助けるために動くこととなる。









「一、二の、三!!」

「はぁあああっ!!!」

 それは、言葉にすらせずに、ただ感覚で組み立てただけの作戦。
 だが、それでもその合図で各々の役割を理解して動いた。
 まずは帝の無限の剣製と王の財宝による牽制を行う。

「はぁっ!」

「ッ……!」

「そこっ……!」

 直後、司、奏、なのはが近接戦を仕掛ける。
 その間に、アリシア達と久遠は式姫達を下がらせる。

     ギギギィイン!!

「っ……!」

「重奏開始……!ガードスキル……!」

〈“Delay(ディレイ)-Solo(ソロ)-”〉

「シュート!」

 あっさりと三人は弾かれるも、反撃を阻止するためにすぐに動きを変える。
 奏が加速魔法を使い、即座に体勢を立て直して切りかかる。
 司はジュエルシードから魔力弾を放ち援護しつつ、シュラインの槍としてのリーチを生かしながら中距離で攻撃を仕掛ける。
 なのはは、二人ほど連携を取れないと理解した上で、魔力弾で牽制しながらも合間合間に御神流を生かした攻撃を仕掛けている。

「ふっ……!」

「ッ……!」

     ギィイン!

 だが、そんな連携も守護者には通用しない。
 司もジュエルシードのリソースを全員の強化に割いているため、一度目の戦闘のようにはいかず、霊術と刀によって三人は吹き飛ばされる。
 幸いなのは、一刀を悪路王が封印しているため、二刀流による反撃の一撃を食らわなかったという所だろう。

「(来るっ!!)」

 既に守護者は司が全員の身体能力を底上げしている原因と気づいている。
 そのため、司を真っ先に狙う。
 司もそれを理解しており、すぐさま構えて迎え撃とうとして……。

   ―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”

「ッ―――!?」

   ―――“刀奥義・一閃-真髄-”

     ギィイイイイイイン!!

 遠方から飛んできたその矢によって守護者が弾かれたため、無駄に終わる。
 守護者はその矢を一閃で弾くものの、その威力に大きく後退した。

「誰……!?」

 アリシアではあの威力は出せない。
 だからこそ何者なのかと、司は思わず矢が飛んできた方向を見る。
 本来なら隙だらけになる行為だが、今回ばかりは大丈夫だった。
 ……守護者も同じ方向を見て……そして固まっていたからだ。

「……誰……?」

 その人物を、司や奏、なのはは見覚えがない。
 見覚えがあるとすれば、この場にはいない優輝や椿、葵。
 また、一度事情説明の交渉で会った事があるリンディ達ぐらいだろう。

「……澄、姫……?」

 ……そして、守護者もまた、その人物に見覚えがあったようだ。
 まるで、もう会う事はないはずの相手に会ったかのように、守護者は動揺していた。

「……当時から予測はしていたけど、本当にとこよだったのね。……でも」

   ―――“弓技・閃矢”

「だからこそ、貴女を討つわ」

『あれが……大門の守護者……』

「貴女は大人しくしていなさい」

 矢を放った人物……土御門澄紀に乗り移っている澄姫はそう呟きながら矢を放つ。

「ッ……!」

     ギギギィイン!!

 守護者はその矢を弾くものの、動揺からか動きが鈍かった。

「っ、今だよ!!」

「ッ……!」

   ―――“Delay(ディレイ)-Duet(デュエット)-”

 そして、その隙を司達は逃さない。
 矢を弾ききった所へ魔力弾を牽制で放ち、奏が後ろに回り込みつつ刃を振るう。

「シッ……!!」

   ―――御神流奥義之壱“虎切(こせつ)

 さらに、兄の恭也から教え込まれた御神流の奥義の一つを、なのはが放つ。

「くっ……!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

     ギィイイイン!!

 どちらも高速な攻撃で不意打ち。
 さすがの守護者も障壁を張る事でしか防御が出来なかった。

「アタックスキル……!」

〈“Fortissimo(フォルティッシモ)”〉

「撃ち抜いて!」

〈“Divine Bsuter(ディバインバスター)”〉

 だが、二人はその上から砲撃魔法を放つ。

   ―――“Métastase(メタスタス)

「光よ、闇を祓え!!」

   ―――“Sacré clarte(サクレ・クラルテ)
   ―――“Delay(ディレイ)-Trio(トリオ)

「ッ―――!」

 そして、守護者の意識が二人に向いている間に、司が背後に転移。
 真上からの魔力弾による牽制と同時に、用意していた砲撃魔法を放った。
 同時に、奏は加速魔法でなのはを連れて離脱。巻き添えから脱した。

「(障壁をも破る一撃。これなら……!)」

 動揺した隙を突いた上で、さらに不意を突いた。
 だが、その一撃は……。

「なっ……!?」

 瘴気と霊力を使って砲撃魔法の側面を滑るように躱していた。

   ―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”

「……あの子にも驚きだけど、それを凌いだとこよにも驚きね。確かに、あの攻撃は防ぎようがないほど強力だった。でも、あれなら凌いだ上に反撃が出来る。……私がいなければ、ね」

「ッ……!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

     ギィイイイイイイン!!

 距離を詰めながらも戦況をよく見ていた澄姫は避けた所へ矢を放った。
 それを守護者は障壁で防ぐも、一気に後ろへと後退させられる。

「は、ぁっ!!」

   ―――“槍技・一気通貫”

 そこへ、司が槍に魔力を纏わせ肉薄しつつ一気に突く。
 爆発的な加速と威力で、躱されることはないだろうと思える。
 例え、躱されたとしてもその際のフォローは任せてあった。

     ギィイイイン!!

「そこだ!!」

   ―――“偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 逸らされた瞬間を、帝が投影した矢で射貫く。
 同時にその矢が爆発する。

「ふっ!」

 さらに司が真上に転移するのと同時に砲撃魔法を真下に放つ。
 矢による爆風を吹き飛ばし、守護者の居場所を晒す。

「はぁっ!」

「ッ……!」

     ギィイイイン!!

 間髪入れずに奏となのはが追いつき、刃を振るう。
 防がれるものの、司も援護に入り、何とか拮抗する。
 帝と澄姫による遠距離攻撃に、奏となのはの近接戦。
 さらに司による身体強化や援護で、ギリギリ戦況を保っていた。
 これだけでは危ない場面が多々あるが……。

「撃ち抜いて……!」

   ―――“五雷(ごらい)

 大人モードになった久遠により、それも軽減された。







「………倒しきれんな」

「……っ……」

 そんな戦闘の様子を遠くから見ていた鞍馬は、そう呟く。
 その言葉を聞いたアリシアは、言葉を詰まらせたように困惑する。

「(私が行っても、足手纏い……どうしたら……!)」

 いくら司が身体強化してくれたとはいえ、アリシアは経験不足の自覚がある。
 遥か格上を相手するには、その経験不足はあまりにも致命的すぎる。
 それはアリサとすずかにも言えた事で、自覚しているからこそ、参戦していなかった。

「……一つ、手は残っているぞ……」

「悪路王!その傷であまり動かない方が……!」

「そこの小娘ども」

「わ、私!?」

「あ、あたしたちも!?」

 那美の治療を受けている悪路王が、アリシア達を呼ぶ。

「少々手伝ってもらうぞ。……それと、起きているだろう」

「……ええ。回復に専念しているけどね」

 そう言って、気絶から回復していた鈴も呼ぶ。
 同じように、蓮も回復する。

「……八将覚醒と憑依だ」

「ッ……!そうか……!今の状況なら可能か……!」

「八将覚醒……?憑依……?」

 鞍馬は納得するが、アリシアは知らない言葉に首を傾げる。

「今は知る必要はない。ただ術式の制御に専念しろ。術式の構築なら吾に任せておけ。ただし、八将覚醒は任せる」

「私なら覚えている。だが、出来るのは二人が限度だ。憑依の事も考えるとな」

 悪路王、鞍馬がそう言い、意味を理解している鈴と蓮、織姫は頷く。
 アリシアはよくわからなかったが、言われた事は実行しようと同じように頷いた。

「やけに協力的になったじゃない」

「あれほどとは吾も予想外だったからな。形振りは構ってられん」

「なるほどね」

 鈴が軽口を言い、すぐに準備に取り掛かった。
 構築されていく術式は、アリシア達の知らないもので複雑なものだった。

「これの、制御を……」

「式姫によっては一人で行う事も可能だがな。今回は安定性を取る。頼むぞ」

「りょ、了解……!」

 失敗してはならないと思い、鞍馬の言う通りに制御を開始する。

「憑依するのは私とコロちゃん、天探女、猫又、山茶花の五人だ。憑依されるのは蓮、織姫、鈴の三人だな。異論はないか?」

「私はないわ」

「こっちもない」

 鈴、山茶花がそれぞれの側を代表するように言い、準備は進む。

「だが、式姫に憑依できるのは一人が限度だ。……そこの陰陽師は二人行けるが、それでも一人が余るぞ?」

 悪路王の言葉に、鞍馬がハッと気づく。

「ならば……」

『あそこにいる、土御門の末裔がいいんじゃないか?』

「ッ……幽世の神か」

『ご明察。さすがは悪路王。……で、どうだい?』

 それならば鞍馬が残ろうとした時、伝心で紫陽から提案が出る。

「……土御門の末裔、か」

『今はあいつの……とこよの同期が細工して憑りついているみたいだがね。それでもあと一人は行けると思うよ』

「問題はどう事情を伝え、憑依まで彼女の代わりを誰がするのか……ね」

 事情の方は簡潔に憑依の事を言えば通じるとしても、行うまでの間、誰が澄姫の分の穴を埋めるべきかという問題がある。

「私たち……は、術式の制御が……」

「私たちは元より無理だし、悪路王は例え行けても役割が違うから無理ね」

「………」

 悩む暇はなく、その上でどうするべきか行き詰まる。
 だからこそ、妥協できる範囲で即決するべきなのだ。

「……私が、行く」

「久遠……?」

 途中から話を聞いていたのだろうか。
 久遠が鶴の一声のように名乗り出た。

「この状態でも、燃費を、考えていたけど……全力で、やってみる」

「全力……」

「大妖怪に部類される程の久遠なら、十分かもね」

 鈴の言葉に、“それなら”と周りも納得する。

「……じゃあ、これで行くわね。伝心は……」

『あたしが伝えておいたよ。時間がないから、すぐにでも行いな』

 紫陽が伝心でそういった直後、澄姫が合流する。

「……式姫がこんなに生き残ってたなんてね。事情は聞いたわ。すぐに始めましょう」

「じゃあ、行ってくる」

「久遠、無理はしないでね」

「うん」

 入れ替わるように、久遠が戦闘に向かった。

「では、行くぞ」

 同時に、八将覚醒と憑依の術式が行使された。









「はぁっ!」

「ッ……!」

 一方、司たちの戦いは、さらに苛烈を極めていた。
 役割は大して変わっている訳ではない。
 しかし、押されている事にも一切変わりはなかった。

「そこ……!」

   ―――“五雷”

「ッ……!」

「はっ!」

 連続して降る雷を守護者は障壁で凌ぐ。
 それを貫く威力で司が砲撃魔法を放つ。

「こいつなら、どうだ!」

   ―――“破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)

 すかさず帝が魔力を打ち消す槍を矢として放つ。
 躱しきれないタイミングなため、守護者は障壁でやり過ごそうとする。
 ……が、即座に刀で槍を弾く事にした。

「(霊力も打ち消せる……あいつとの特訓で知っておいてよかった!)」

 槍は魔力を打ち消す効果だと、“元ネタ”では言われている。
 しかし、“元ネタ”とは違う世界であるこの場では、霊力を打ち消す効果もあった。
 それを、帝は優輝との特訓で知っていたのだ。
 そのため、守護者の不意を突く事になり、弾かれはしたものの隙が出来た。

   ―――“Delay(ディレイ)-Sextet(セクステット)-”

「ッ……!」

     ギィイイイン!!

「はぁっ!」

     ギギィイン!!

 すかさず奏が斬りかかり、続けてなのはも斬りかかる。

「(……驚きだなぁ。奏ちゃんとなのはちゃんのコンビネーション)」

     ギィイン!!

 魔力弾で牽制しつつ、司も続いて攻撃する。
 同時に、奏となのはの連携に驚いていた。
 ……あまりにも息が合っているのだ。

「(……不思議ね。なのはの動きが良くわかる)」

「(最近は奏ちゃんと一緒に戦ったりしていないのに、不思議とわかる……!)」

     ギギィイイン!!

 当の二人も、お互いの動きが良くわかる事を不思議がっていた。
 理由も原因も全く心当たりがないからだ。

「(でも、今は……)」

「(そのおかげで助かってる!)」

   ―――“Angel feather(エンジェルフェザー)
   ―――御神流奥義之参“射抜(いぬき)

     ギィイイイン!!

 だけど、原理は不明でも今はそれが幸いしていた。
 羽型の魔力弾が舞い、その中をなのはの刺突が潜り抜けていく。
 それを守護者は逸らし、魔力弾を霊力で吹き飛ばす。

「はっ!」

「ッ……!」

 そこを狙ったかのように、司、久遠、帝の遠距離攻撃が迫る。
 久遠は回避不可、司は防御不可、そして帝は二人の攻撃に対する判断を鈍らせるように武器を射出していた。

「っ、ぁ……!」

   ―――“禍式・護法瘴壁”

 だが、それらは飽くまで瘴気を使わない守護者の場合。
 瘴気による障壁に、三人の攻撃は防がれる。

「行けるね?レイジングハート」

〈All right〉

   ―――“Exelion Mode Ver.2(エクセリオンモード・バージョンツー)

 直後、なのはが突貫する。
 ストライクフレームを小太刀二刀の刃とした形態にし、その刃を障壁に突き刺す。
 瘴気が刃を侵食するが、それよりも早くになのはは行動を起こす。

「“エクセリオンバスター”!!」

 刃の根本にある機構から、カートリッジが一気に三つ吐き出される。
 そして、突き刺した刃の先端……つまり、障壁内部へと直接砲撃を叩き込んだ。

「ッ―――!」

 霊術を扱えないなのはが瘴気へと突貫するというのは、無事で済むはずがない事だ。
 守護者もそう考えていたが、なのははそれに構わずに突貫した。
 結果、守護者の想定を上回り、砲撃は逸らされるだけに留まった。

「っぁ……!?」

 そして。

「隙、あり……!」

 なのはの脇から突き出されるように。

「は、ぁっ!!」

   ―――“Fortissimo(フォルティッシモ)

 奏の砲撃魔法が繰り出された。

「ぐっ……!」

 障壁の内側から放たれたため、新たに障壁を張ることもできずに守護者は吹き飛ぶ。
 辛うじて身体強化をしていたようで、ダメージは減っていたようだが、それでもまともなダメージを与えることができた。

「(凄い……!奏ちゃんはともかく、なのはちゃん……この戦闘で、どんどん強くなってる……!)」

 天巫女として、人の強さが祈りや想いから大体わかる司は、なのはの成長に感心していた。奏との連携だけでなく、まるで戦いに体が慣れていくかのように動きが良くなっている。

「(でも……どうして?)」

 だが、だからこそ司は疑問に思った。
 今まで二人にそんな兆候はなかったからだ。
 しかし、そんな疑問を抱いている暇はないまま、戦闘は続いていく。

「っ!」

     ギィイイン!!

「ぐっ……!く……!」

「シッ!」

「くっ……!」

 吹き飛ばされた守護者は斧を投擲する。
 それを避けきれずに奏は防ぎ、なのはは槍に持ち替えた守護者と刃を交える。

     ギィイイン!ギギィイイン!!

「はっ!!」

「っ!」

     ギィイン!!

 鋭い突きを逸らし、反撃を繰り出すも柄で受け止められる。
 そのまま大きく振るわれた槍になのはは後退を余儀なくされる。

     ドドドンッ!!

「(通じない……動きを変えてきた?)」

 司が放った魔力弾は守護者が投げた御札に込められた霊術と相殺される。
 帝の武器群は回避され、寧ろ投げ返されることで反撃を受けていた。
 久遠も雷を出す間もなく、矢による攻撃を凌いでいる。

「まだ、本気じゃなかったのか!?」

「くっ……!」

 帝の叫びに、奏は戦慄しながらも斧を逸らし、なのはの援護に向かう。
 だが、間に合わずになのはに槍の一突きが迫り……。

   ―――御神流奥義之歩法“神速”

「っ、ぁ……!」

「っ!」

     ギィイイン!!

 極限の集中力が齎した、御神流の奥義の発動により、躱す事に成功する。
 同時に、懐に入り込んで刀を振るったが、それは刀に防がれた。

「『離れて!』」

   ―――“呪黒剣-真髄-”

 次の瞬間、奏となのはは地面から生えてきた剣に、空中に逃げざるを得なくなる。

「ふっ!」

   ―――“弓技・閃矢-真髄-”

「っ、ぁああっ!!」

     ギィイイン!!

 すぐさま放たれる矢を、なのははなんとか逸らす。

「援……ッ!!」

   ―――“瘴薙(しょうち)

 なのはを援護しようと動き出す司と奏だが、直後に迫った瘴気の触手に阻まれる。
 帝と久遠にも矢と霊術が放たれており、なのはが孤立させられる。

「(まずい……!)」

「『なのはちゃん!!』」

 それは奏と司も理解しており、慌てて念話で伝えようとする。

「ッッ……!」

     ギィイイン!!

「(奏ちゃんが弾いた斧……!?)」

 それを聞いて返事をしようとするなのはだが、守護者が呼び戻した事で飛んできた斧と鍔迫り合う事になる。

     ィイイイン!!

「『っ、いけないなのはちゃん!!』」

「ぁっ……!」

 だが、それは守護者の思う壺だった。
 斧を弾くと同時に、投擲された槍が迫る。
 それは防御魔法で防ぐにも、回避するのも間に合わない。
 そして、誰かが援護に向かおうとしても、それが遮られている。

「ッ……!!」

 来るであろう痛みに、なのはは思わず目を瞑る。
 しかし。

     ギィイイン!!

「ぇ……?」

 聞こえてきたのは、何かが……槍が弾かれる音。

「っ……よ、よかった……!無事だったんだ……!」

「……!」

 弾いた人物を見て、司と奏は喜ぶ。







「優輝君……!」

「……待たせた……!」

 ……優輝が、戦場に舞い戻ってきた。

















 
 

 
後書き
Curatif(キュラティフ)…“癒し”のフランス語。ジュエルシードを用いた治癒魔法。大体の傷や異常は治せる万能治療魔法。ただし、効果は術者の祈り依存。

Métastase(メタスタス)…“転移”のフランス語。自身や遠距離にいる人たちの転移が可能。自身だけなら無詠唱で可(159話で使用していた転移魔法はこれ)。3章で登場したロストロギアと同じ名前だが関係性はない。

Amélioration(アメリュァション)…“強化”のフランス語。シュブリマシオンに効果は劣るが、自身以外にも使用が可能な強化魔法。

虎切…御神流の奥義の一つ。鞘走りを使用し、高速で間合いを詰めて凄まじい速度の斬撃を放つ抜刀術。御神流で1、2を争う速度と射程距離を持つ奥義。

五雷…大人モード状態のみ、久遠が放てる妖術。雷を五つ展開し放つことができる。

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)…Fate/zeroのランサー参照。穂先に触れた魔力などを打ち消す効果を持つ槍。本編では、これを矢として放っている。

射抜…御神流最大の射程距離で、超高速な連続突きを繰り出す御神流奥義の一つ。

Exelion Mode Ver.2(エクセリオンモード・バージョンツー)…新たに追加されたレイジングハートの形態。従来のエクセリオンモードの槍形態とは違い、小太刀二刀に変形する。ストライクフレームはそのまま刃となり、なのはの魔力と不屈の心によって強度が変わる。

瘴薙…瘴気を用いて、触手で薙ぎ払うように攻撃する技。一発一発の威力が侮れず、掠るだけでも並の相手では瘴気に蝕まれる。


今回の話が完成した時点でコロボックルの京化がかくりよの門で出てきていますが、本編ではこのまま蓮と織姫のみ八将覚醒させます。全員が覚醒できたらそのまま守護者に勝てそうですけどね。
ちなみに、今の力関係は拮抗しているように見えて未だに司たちが不利です。全員が一度負けた事による疲労が残っており、ジュエルシードのリソースも身体強化に割いている上、その効果も魔力を使い続けている事で大して高くない。そんな条件下に加え、瘴気の影響で全員の持久力が落ちています。接近しすぎるとスリップダメージのように瘴気にも蝕まれたり。
……これでもだいぶ守護者も弱ってるんですけどね。 
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