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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第162話「避けられない無謀の戦い」

 
前書き
相変わらずの守護者連戦。
今度は式姫達です。相性の影響でなのはたちよりも善戦するかも?
ちなみに神夜は命の残りストックを6個ぐらいになるまで返り討ちにされた後、気絶しています。 

 






       =out side=





『……姉さん』

「……まださ」

 クロノが張り、ユーノが維持していた結界が崩れる。
 術者が倒れてしまったため、守護者を抑えられなくなってしまったからだ。

「……まだ、終わってない」

『ですが……!』

「確かに、あの魔導師達では大してあいつを追い詰める事は出来なかった。だけど、それは承知の上だろう。魔法による結界で隔離してから、そんなに時間は経っていない。それでも“時間を稼いだ”んだ。……別の狙いがあるのだろう」

『それは……』

 呪属性の霊術で妖の群れを抑えつつ、紫陽は葉月と会話する。
 幽世の神である紫陽にとって、ただ溢れるだけの妖など有象無象も同然。
 足止めをするだけなら、長時間戦い続けるのも可能だ。
 ……ただし、依り代である葉月の体が耐えられる間だけだが。

「結界が張られる前に一人で戦った娘、その娘を寸でのところで助けた娘。そしてもう一人、ここに守護者が来るまでに戦っていた娘。この三人は、これで終わるとは思えないね」

『………』

「それに、次が来てくれたよ。……あの子たちが」

『……あれは……』

 紫陽の視界に映るのは、守護者に斬りかかる蓮の姿だった。

「……個々の犠牲は気になるが、だからと言ってあたしが出る訳にはいかない。さすがに守護者も連戦で疲弊しているはずだ。大局を見て、確実に勝利をもぎ取らないと」

『……わかっています』

 紫陽は確かに強い。それこそ、妖の足止めの必要がなく、なのは達と協力して戦えば何度も勝利するチャンスは生まれていただろう。
 だが、同時に紫陽は大局的に弱点でもある。参戦する分、紫陽が殺される可能性も上がり、紫陽が殺されれば、妖の抑止力がなくなり、再び日本中に妖が溢れかえってしまう。
 それを理解しているが故の、苦渋の判断だった。







「……信じられんが……事実なのか」

「どうやら、そのようね」

 一方、京都に辿り着いた鞍馬達は、結界に隔離される寸前に守護者を見つけ、そしてその正体に動揺して足を止めていた。

「……予想は、できたはずよ。大門を閉じた直後から行方不明になったのなら、そのまま大門の守護者になっても、辻褄は合う」

「そうだな。門の守護者は成り代わる事が出来る。それが大門でも変わらぬのだろう」

 鈴の言葉に、悪路王が実体化して肯定する。

「作戦は変わらないわ。例え守護者がとこよだとしても、倒さなければ何も変わらない」

「……そうだな。しかし……」

 何とか鞍馬はその真実を割り切ろうと気持ちを切り替える。
 しかし、他の面子はそう上手くいかないようだ。

「嘘、嘘だにゃ……そんな事って……」

「うぅ……ご主人サマ……」

「………」

 猫又、コロボックルは比較的精神年齢が幼いため、ショックも大きかった。
 山茶花や蓮も、黙ってはいるものの動揺しているのは確かだった。

「……ですが、納得です。ご主人様であれば、私が為す術なく殺されかけるのもおかしくありません」

「……だな。とりあえず、あいつらが相手してくれている間に、気持ちを切り替えるぞ。そして、作戦通りに……いいな?」

「わかったわ」

 守護者が結界に隔離されている間に、鞍馬達は作戦通りの配置につく。







「行くぞ!作戦開始!」

 そして、その時が来た。
 クロノとユーノの気絶により結界が解けた瞬間、蓮、鈴、悪路王が斬りかかる。
 そのおかげで久遠へと放たれようとしていた攻撃を阻止する。

「「「ッ……!」」」

 三人が同時に斬りかかり、その攻撃は避けられる。
 すぐさま次の攻撃に切り替え、三人で連携して攻撃を繰り出す。
 しかし、相手は見知った顔。動揺によって剣筋が僅かにぶれる。
 それを守護者は見逃す訳もなく……。

     ギギギィイン!!

「ちぃっ……!」

「っ……!」

 刀が弾かれる。これではなのは達の時の二の舞になる。
 だが、咄嗟に組み立てた作戦と違い、こちらは想定して練った作戦。
 既に手は打ってあった。

   ―――“弓技・螺旋”

「はぁっ!!」

「そこにゃぁ!!」

「戦闘モード、開始……!」

     ギィイン!

 遠くにいるコロボックルによる矢が、守護者の追撃を阻止するように迫る。
 それを弾く所へ、山茶花と猫又の槍と天探女の斧が繰り出された。
 矢は弾かれ、槍と斧はあっさりと躱されたが、三人が体勢を立て直すには十分だった。

「はっ!!」

「ぉおっ!!」

 蓮と悪路王が再度斬りかかる。
 鈴は敢えて斬りかからずに、御札を投げつける。

「吹き荒れよ、旋風!」

   ―――“旋風地獄-三重-”
   ―――“極鎌鼬-二重-”

 放たれる風の刃の嵐。その三重。
 同時に、鞍馬も遠距離から二重に風の刃を放っていた。

「今だ!」

 同時に、鞍馬の声が響く。
 その声を聞き、守護者の近くにいた六人は距離を取る。
 そして、風の刃で動きが制限されている守護者へ……。

「天に星あり、地に祈りあり、人の心に慈愛あり、悪しきを砕く鉄槌となれ。必殺……!」

   ―――“慈愛星光(じあいせいこう)

 天から、極光が降り注いだ。

「作戦成功だ!」

「……少なくとも、回避されたようには見えなかったわ」

「安心は出来ぬがな」

 知覚外からの不意打ちを、身動きの制限をした所へ放つ。
 それらを行うための工程が、鞍馬が組み立てた作戦だった。
 そして、それは見事に決まった。
 だが、悪路王の言う通り、安心は微塵もできない。

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

「……まぁ、予想はしていたのだけどね」

「だが、効果はあったようだ。身に纏う瘴気が減っている」

 当然のように、守護者はほぼ無傷で姿を現した。
 しかし、鞍馬の言う通りに効果はあった。
 障壁を貫き、守護者の纏う瘴気を削っていたのだ。
 また、“ほぼ”無傷というだけで、ノーダメージでもなかった。

「……他の作戦は大まかにだが伝えておいたな?では、その通りに動くように。……行くぞ!!」

 鞍馬の号令と共に再び鈴と悪路王と蓮が肉薄する。
 無謀なのはとっくにわかっていた。
 だが、彼女たちにはそれでも守護者に挑む理由があった。

「……ねぇ、とこよ。私たちは、確かに貴女の帰りを待っていた。……でもね、こんな再会、望んじゃいないのよ……!」

   ―――“速鳥”
   ―――“剛力神輿”
   ―――刻剣“聖紋印”

「(対峙してわかる。私たちでは絶対にとこよを倒しきる事は出来ない。でも、それでも“勝たないと”……!!)」

     ギギギギィイン!!

 最初から全身全霊で、鈴は挑みかかる。
 身体強化を施し、手数で食らいつくために二刀を以て斬りかかった。

「ぉおおっ!!」

「はぁあっ!!」

 悪路王、蓮もまた、全力だった。
 普段の寡黙な態度などなかったかのように、悪路王は表情を変えて斬りかかる。
 蓮もまた、以前のようにあっさり負けないように警戒しつつも、一撃一撃を全力で放つように攻撃を繰り出す。

     ギギィイン!

「「ッッ……!」」

「シッ……!」

   ―――“刀奥義・一閃”

 ほんの僅かな間、蓮が間合いを離す。
 鈴と悪路王のみで守護者の刀を請け負い、直後に蓮が一閃を放つ。

     ギィイイイン!!

「はぁっ!!」

「にゃぁあっ!!」

   ―――“槍技・千裂槍”
   ―――“槍技・一気通貫”

 その一閃が防がれた瞬間に山茶花と猫又の攻撃が繰り出される。
 しかし、それらも躱されてしまう。

「ちっ……!」
「碌に当たらないわね……!」

   ―――“火焔旋風”
   ―――“神槍”

「動きを制限しないとネ……!」

   ―――“弓技・旋風の矢”

 舌打ちしつつも鞍馬が炎と風の混じった霊術を。
 織姫が聖属性の槍を展開し、コロボックルが旋風を纏った矢を射る。

「甘いよ」

   ―――“火焔旋風-真髄-”
   ―――“氷血旋風-真髄-”

 だが、それらは二つの霊術であっさりと打ち払われてしまう。
 それだけでなく、近接戦を仕掛けていた蓮と悪路王も間合いを開ける事になる。

「これなら、どうよ!!」

「本気で行きます」

   ―――“弓奥義・朱雀落”
   ―――“斧技・瞬歩”
   ―――“斧技・鬼神”
   ―――“斧技・夜叉四連”

 旋風によって巻き起こった暴風を突っ切るように、鈴の矢が放たれる。
 同時に、天探女が全力を以て間合いを詰め、斧を振るう。

「ふっ……!」

   ―――“剛力神輿-真髄-”
   ―――“斧技・夜叉四連-真髄-”

     ギィイン!ギギギギィイン!!

 だが、それすらも守護者には通じない。
 矢は霊力を纏わせた刀によって逸らされ、斧の四撃は同じ技で返された。

「ッ、ッ……!」

「はぁっ!」

「にゃぁっ!!」

 相殺どころか弾き飛ばされた天探女と入れ替わるように、山茶花と猫又が間合いを詰めて槍を振るう。

「そこよ!!」

   ―――“慈愛星光”

 それらを躱した所へ、再び空から慈愛の極光が降り注ぐ。
 だが……。

「……瘴気か」

「厄介ね……!」

   ―――“弓奥義・朱雀落”
   ―――“弓技・閃矢”

 その極光はドーム状に展開された瘴気によって阻まれる。
 同時に障壁も張っているようで、先ほどと違って一切通じなかった。
 そこへ、鈴とコロボックルによる矢が放たれる。

「っ、避けろ!!」

「ッ……!」

 矢が瘴気を貫こうとした瞬間、僅かな閃きが瘴気の中から見えたのを、鞍馬は見逃さなかった。……が、咄嗟の警告には僅かばかり遅く……。

「っ、ぁああっ!?」

「ぐっ……!」

     ギィイン!!

 反撃に放たれた矢が、鈴とコロボックル目掛けて迫る。
 鈴の方は、辛うじて反応して刀で逸らす事が出来たが、コロボックルの方は、反応しきれずに肩を貫かれてしまった。

「織姫!」

「わかったわ!」

 このままでは矢が引けない。
 そう考えた鞍馬は織姫に治療してもらうように指示を出す。

「はぁっ!!」

「おおっ!!」

 その際の時間を稼ぐように、蓮と悪路王が斬りかかる。
 鈴も僅かばかり遅れて二刀で斬りかかった。

「これなら……どうだ!!」

   ―――“秘術(ひじゅつ)氷華(ひょうか)

 斬りかかった三人を巻き込まないように、鞍馬による全力の霊術が繰り出される。
 華が咲くように凍り付き……。

「躱すことも承知だ!!」

   ―――“極鎌鼬”

「はぁああっ!!」

「にゃぁあああ!!」

   ―――“槍技・一気通貫”
   ―――“槍技・一気通貫”

 それを躱した所へ、風の刃が。
 そして、二人による槍の一突きが迫る。

「………」

     ギギィイン!

 しかし、槍は穂先を僅かに逸らすだけで躱され。

     パァアアン!!

「なっ……!?」

 風の刃は、霊力の放出によって術式ごと打ち払われた。

「それ以上は……!」

「させん……!」

 追撃を放とうとしたのか、風が吹き荒れようとした所へ、鈴と悪路王が肉薄する。
 相当な霊力が込められた刀によって、守護者に防御をさせる。

「はぁっ!!」

   ―――“刀奥義・一閃”

「砕きます」

   ―――“斧奥義・天蓋砕(てんがいくだき)

 正面から刀の一閃。背後から斧の振り下ろしが迫る。
 ……が、それを守護者は容易に躱す。

「逃がさない!」

「にゃ!!」

   ―――“槍技・火焔裂傷”
   ―――“槍技・氷血裂傷”

 そこへ逃がさないように山茶花と猫又が攻撃を仕掛ける。

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

     ギィイイン!

「打ち砕け」

   ―――“斧奥義・天蓋砕-真髄-”

     ドンッ!!!

 だが、その二撃は障壁によって防がれてしまう。
 さらに、その際の衝撃を利用して守護者は飛び上がり、霊術の陣を足場にする。
 逆さに着地した状態から、守護者は地面に突撃するように斧を振るった。
 咄嗟に全員が避けたため当たる事はなかったが、その一撃で大きなクレーターが出来上がり、何人かは体勢を崩してしまう。

「まずっ……!」

 そして、それで出来る隙を守護者が見逃すはずもなく。
 ターゲットにされたのは、山茶花だった。

   ―――“慈愛星光”

「っ……!」

 そのまま斧が振るわれようとした瞬間、空から極光が降り注ぐ。
 そのおかげで山茶花は斬られる事なく、守護者は飛びのくこととなった。

   ―――“弓技・瞬矢”

     ギィイイン!!

「……させないわよ」

「殺させないネ……!」

 飛びのいた所へ速度重視の矢が迫る。
 それはあっさり弾かれるが、これで全員の体勢が立て直された。
 放ったのは、離れた所にいる織姫とコロボックル。
 霊術で治療されたとは言えまだ痛む肩を抑えながらも、矢を放っていた。

「今すぐそこから離れろ!!」

 直後、鞍馬の警告が響き渡る。
 何事かと思う前に、守護者の近くにいた全員がその場から飛び退いた。

   ―――“極鎌鼬-真髄-”

 その瞬間、鞍馬から鋭い風の刃が吹き荒れた。
 だが、鞍馬の警告に鈴たちが飛び退いたのはこの霊術の気配を感じた訳ではない。
 ……寸前までいた足場から霊力を感じ取ったからだ。

「……爆ぜて」

   ―――“霊爆”

 守護者がそう呟くと同時に、地面に込められていた霊力が爆発し、術式が起動した。
 その爆発に巻き込まれる事はなかったものの、爆風による衝撃波に蓮と猫又が木々に叩きつけられるように吹き飛ばされた。

「ぐっ……!」

「にゃ、にゃぁ……」

 叩きつけられた事で、二人は明確な隙を晒してしまう。
 咄嗟に鈴がフォローに回ろうにも、近くにいた猫又はともかく蓮は難しかった。
 そして、それがわかっているかのように守護者はそちらへ向かい……。

「シッ……!」

   ―――“槍技・一気通貫-真髄-”

 槍による鋭い一突きが放たれた。

「ッ……!」

   ―――“刀極意・先々の先”
   ―――“刀奥義・一閃”

     ッギィイイイン!!

 ……辛うじて、その一撃を見切り、一閃で逸らす事で蓮は一命を取り留めた。
 一度戦った経験があったからこその防御だった。

「はぁっ!!」

 すかさず山茶花が助けに入る。
 だが、振るわれた槍はあっさりと受け流されてしまう。

「合わせろ!」

「っ……!」

   ―――“神撃”
   ―――“神撃”

 山茶花は受け流される事も織り込み済みで掌に霊術を用意していた。
 蓮もそれに合わせるように霊術を放つ。

「ッ……!」

 咄嗟に放つ程度の霊術では、守護者には通じない。
 そのため、守護者は霊術ごと二人を切り裂こうとするが、即座にそれらを避ける。

   ―――“弓技・閃矢”
   ―――“弓技・閃矢”

「……避けられたネ」

「わかっていた事だけどね」

 守護者が跳んで避けた所を、矢が通り過ぎる。
 切り払う防御だと、矢が防げないため守護者は回避を選んだのだ。

「ぉおっ!!」

「っ……!」

   ―――“刀閃(とうせん)月華(げっか)
   ―――“斧技・夜叉四連”

 そこへ悪路王と天探女による挟撃が迫る。
 跳んで宙にいるため、回避は容易ではない。

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

     ギィイイイン!!

 だから、守護者は障壁でそれを防いだ。

「予想済みだ」

   ―――“刀奥義・一閃”

     キィイン!!

 しかし、悪路王はそれを読んでおり、もう一閃攻撃を繰り出し、障壁を切り裂く。

「そこだぁっ!!」

   ―――“風車-真髄-”

 鞍馬はそれを見逃さず、圧縮した風の刃を高速で放つ。

「ッ……!」

     パァアアン!!

 障壁が僅かに切り裂かれた所から霊術が来るとは思っていなかったのか、守護者のその行動には明らかな動揺が見られた。
 そして、霊力の放出だけでは圧縮された風の刃を相殺しきれず……。

「っぁ……!」

 守護者は、吹き飛ばされた。
 刃の形を保てないほどには勢いを殺されたため、切り裂く事は出来なかったものの、確実に守護者にダメージを与える事に成功したのだ。

「今だぁっ!!」

 鞍馬の間髪入れない合図に、全員がすぐさま動き出す。

   ―――“弓技・瞬矢”
   ―――“慈愛閃光(じあいせんこう)

「猫又!」

「わかってるにゃ!」

   ―――“槍技・旋風裂傷”
   ―――“槍技・旋風裂傷”

 コロボックルの矢と織姫の放ったビームが迫る。
 同時に山茶花と猫又も風を纏った槍を振るう。

「………」

 鈴と蓮、天探女は念のために攻撃に参加せずに待機していた。
 刀と斧なため、山茶花と猫又の攻撃に巻き込まれかねないためだ。
 悪路王も攻撃の直後なため、体勢を立て直すために間合いを取っていた。

「(……とこよが……いえ、大門の守護者がこれで終わるとは思えない)」

 とこよじゃなく、大門の守護者だからこそ感じ取る嫌な予感。
 その予感を感じる鈴は、いつでもフォローに回れるように準備していた。

「………」



   ―――“禍式・護法瘴壁(ごほうしょうへき)



 ……果たして、それは防がれた。
 今まであまり使ってこなかった瘴気を用いた、球状の障壁によって。

「ッ……!?(まずい……!)」

 その瘴気を見て、鈴は本能が警鐘を鳴らした。
 “あれの攻撃をまともに受けてはならない”と。

「蓮!!」

「ッ、はい!!」

 すかさず、待機していた蓮と共に守護者に肉薄する。
 ぬるりと包み込むように攻撃を防いだためか、山茶花と猫又は槍を絡め取られ、すぐには距離が取れない状況になっている。
 その二人をフォローするためにも、行動を起こす。

「はぁあああ!!」

   ―――刻剣“聖紋印”
   ―――“刀技・紅蓮光刃”

「はぁっ!!」

   ―――“刀奥義・一閃”

 瘴気に対抗できるであろう聖属性を二刀に宿し、二撃を繰り出す。
 蓮も霊力を刀に纏わせ、強力な一閃を放った。

「っ、助かっ……」

「すぐに距離を取りなさい!」

「遅いよ」

   ―――“弓技・矢の雨-真髄-”

 二人の攻撃は瘴気を切り裂き、山茶花と猫又はすぐに距離を取る。
 ……だが、それは遅かった。既に守護者は次の手を打っていた。

「っ、ぁあああああ!!」

     ギギギギギギィイン!!

 降り注ぐ矢の雨を、鈴は必死に刀で弾く。
 悪路王、蓮、山茶花、猫又も同じように手に持つ武器で出来る限り矢を弾く。
 鞍馬、コロボックル、織姫の三人は、逃げ惑うように避けようとした。
 天探女は、そんな三人を庇うように動いていた。

「(いけない!各個撃破されてしまう!)」

 矢を凌ぎつつ、鈴はそう考える。
 そして、その考えの通り、守護者は動く。

「ッ……!」

     ギギギィイン!!

「がはっ!?」

 まずは鈴だった。
 肉薄した守護者は鈴の刀をあっさりと弾き、同時に瘴気の触手を叩きつけた。
 吹き飛ばされた鈴を一瞥すらせずに、すぐさま次へ向かう。

「くっ……!」

「はぁあああっ!!」

 次に向かったのは蓮。しかし、悪路王が妨害しようと攻撃を仕掛ける。
 だが、元より六人がかりでも援護がなければやりあえない相手。
 時間稼ぎ程度にしかならない。

「ぐぅ……!」

「しまっ……!?」

   ―――“闇撃-真髄-”
   ―――“刀技・金剛の構え”

「っぁ……!?」

 蹴りで悪路王が弾き飛ばされ、同時に霊術が蓮に叩き込まれた。
 辛うじて刀を使って威力を減らしたが、それでも大きく吹き飛ばされる。

「ッッ……ォオッ!!」

「無駄だよ。悪路王」

     ギィン!ドスッ!

「ご、ぁ……!?」

 蹴りの勢いを殺し、再び斬りかかる悪路王。
 だが、咄嗟に放った攻撃ではあっさり弾かれ、そのまま刀が胴へと突き刺さる。

「……今だ……!!」

「はぁあああっ!!」

「にゃぁあああ!!」

   ―――“槍奥義・玄武貫(げんぶぬき)
   ―――“槍奥義・玄武貫”

 ……その上で、悪路王は合図を送る。
 直後、山茶花と猫又が同時に槍の奥義を放つ。

「逃がさんぞ……!」

「っ……抜けない……!」

 悪路王は胴に刺さった刀とそれを握る手を掴み、守護者を逃さないようにする。

「くっ……!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

     ギィイイイン!!

 抜けない事に僅かながら反応が遅れ、守護者は咄嗟に障壁で防御する。
 だが、仮にも槍の奥義の二重。いくら強力な障壁と言えど、耐えられるはずもない。

「はっ!」

「ぐぅっ……!」

 ……それでもなお、守護者には通じなかった。
 刀が抜けず、このままでは逃れられないとわかるや否や、掌底を悪路王に当てる。
 その衝撃で悪路王は吹き飛ばされ、反動を利用して守護者は上に跳んだ。
 その際、悪路王に突き刺した刀はそのままだが、結果的に守護者は無傷だった。

「ぬ、ぅ……!」

 悪路王は刀を抜くものの、ダメージが大きくその場に膝をつく。
 それでもただでは終わらず、その刀を霊術で封印する事で使用不可にした。

「まずい……!」

 一方で、跳びあがった守護者は天探女達がいる場所を見つける。
 それを見て山茶花が焦る。

「猫又!」

「にゃ、ぁっ!」

 すぐさま猫又の槍を足場に跳躍。
 攻撃を阻止させようと槍を繰り出す。

「はぁっ!!」

   ―――“槍技・一気通貫”
   ―――“神撃”
 
     ドンッ!

「がはっ……!?」

 だが、その一撃と、保険のために繰り出した霊術も無駄だった。
 槍は逸らされ、霊術は霊力を纏わせた手に弾かれる。
 逆に反撃に蹴りを食らって山茶花は地面に叩きつけられた。

「にゃ!?」

     ギィイン!!

 そして、そのまま矢が放たれる。狙う先は猫又。
 咄嗟に反応する猫又だが、致命傷を避けただけで矢は肩に刺さってしまう。
 しかも、その矢には瘴気が込められており、瘴気が体を蝕む事で猫又は戦闘不能に陥った。

「……これで、終わり」

   ―――“弓技・閃矢-真髄-”

 守護者はそのまま地面に着地し、天探女のいる方へ矢を放った。

「くっ……!鞍馬!」

「わかっている!!」

   ―――“扇技・護法障壁”
   ―――“慈愛障壁”

     ギィイイイン!!

 既に、鞍馬達を庇った事により、天探女は戦闘不能に陥っていた。
 そのため、今度は織姫と鞍馬が天探女とコロボックルを庇うために障壁を張る。

「くぅぅうう……!」

「っ……!」

 二重の霊術により、矢を何とか防ぎきる。
 ……だが。

   ―――“弓技・瞬矢-真髄-”

「(二撃目……!早すぎる!!)」

 既に、守護者は追撃を放っていた。
 ただでさえギリギリだったというのに、その追撃が防げるはずもなく。

   ―――“瓢纏槍(ひょうてんそう)

     ギギギィイン!!

「なっ……!?」

「下がりな!!」

 ……当たる寸前で、風の槍に矢が相殺された。

「お前は……」

「話は後だ!ちっ……あたしまで出る事なるなんて……っ!?」

   ―――“三雷”

 霊術を放った紫陽が、鞍馬達を下げつつ術式を練ろうとした時、守護者に向けて三つの雷が放たれる。

「そうだ、あいつら……!」

 放ったのは、久遠だ。
 式姫達が回復している間に、アリシア、アリサ、すずか、久遠の四人は他の面子の治療と避難を行っていた。
 そしてそれが終わり、久遠が攻撃を放ったのだ。

「くぅ……!」

「……」

   ―――“弓技・閃矢-真髄-”

 もちろん、久遠の攻撃だけでは守護者には通用しない。
 障壁に防がれ、反撃の矢が繰り出された。

「ッ……!」

 だが、一つ気にするべき事がある。
 アリシア達四人だけで、気絶している全員を避難させるには、人手が少なすぎる。
 それこそ、遠距離から転移魔法などが使えない限り。

     ギィイイイイイン!!

「……やっぱり、あたしの期待通りだったね……!」

 その瞬間、矢が展開された障壁に阻まれる。
 それを見て、紫陽は笑みを浮かべながらそう呟いた。







「………まだ……終わってない……!!」

 防いだ張本人……司は、ジュエルシードを回りに漂わせながら、そう言った。





























       =優輝side=









「ッ……」

 ……ようやく、気絶から目が覚める。
 どれほど気絶していたのか、実際にはわからない。
 だけど、わからないほどに長く気絶していたのは理解できた。

「くっ……」

 体を起こし、周囲と自分の状況を確認する。
 ……体は大丈夫だ。守護者からの攻撃のダメージが残っているものの、支障はない。
 むしろ、無事だった事に驚きだった。

「………遅いお目覚めね」

「……椿?」

 次に周囲の状況を認識する前に、先に椿に話しかけられた。

「ッ……!」

「……本当に、遅いわ」

 ……そして、椿と葵を見て、僕は絶句した。



















 
 

 
後書き
慈愛星光…詠唱付きで放つ慈愛パワーの奥義()。四コマにあるJ・S・L(慈愛・サテライト・レーザー)の事であり、ネタっぽいがその威力は現時点でなのはのチャージしたハイペリオンスマッシャーをも凌ぐ。なお、四コマでの技名はさすがにネタ要素が強すぎたので没。ちなみに、実は放った際に、他の面子(特に山茶花)は“慈愛ってなんだろう”と思ったらしい。

槍技・千裂槍…突・斬属性の二回攻撃。突き刺し、切り裂くように槍を振るう。

秘術・氷華…水属性の単体攻撃。秘術とだけあって、威力は相当高い。華が咲くように、敵を凍らせる霊術。

斧奥義・天蓋砕…筋力による防御無視ダメージの大きい打属性攻撃。奥義故にクレーターも作れる威力を誇る。

槍技・火焔(氷血、旋風)裂傷…火(水、風)と突属性の二回攻撃。それぞれ炎と氷、風を纏って切り裂くように槍を振るって繰り出す。

霊爆…地雷にも使える霊力の爆発。シンプルに見えるが術式は割と複雑であり、そして何よりも威力と範囲が高く、広い。

刀閃・月華…斬属性の単体攻撃。月に照らされる華をイメージした斬撃を放つ。かくりよの門では毒が付与されるが、本編では妖としての瘴気により浸食という扱いにしている。

慈愛閃光…精神力による防御無視ダメージが大きい聖属性攻撃。本来の名前は慈愛ビームだが、ネタ要素が強いので(ry。

禍式・護法瘴壁…“扇技・護法障壁”を瘴気を用いて展開したもの。効果は護法障壁よりも高く、球状に展開して全方向からの攻撃に対応できる。

槍奥義・玄武貫…知力による防御無視ダメージの大きい突属性攻撃。名前から察せる通り、防御の上から敵を貫く一撃を放つ。

慈愛障壁…式姫四コマの“慈愛バリア”より。効果は護法障壁とあまり変わらない。……が、織姫の場合はこちらの方が強度が高い。元ネタと名前が違うのはやはりネタ要素が(ry

瓢纏槍…ひねもす式姫にて紫陽が持つスキル。風の槍を三つ放つ。


コロボックルは公式の性格と比べてそれなりに大人びています。ずっと生きてきましたからさすがに経験が積まれて子供っぽさは減った感じです(どうでもいい設定)。

魔導師勢+α→無傷で完封負け。
式姫勢+α→一矢(風車による吹き飛ばし)報いた後、敗北。
……うーん、この守護者無双状態。
さすがに連戦で守護者も衰えてきているというのに、障壁や二刀流による防御性能が高すぎて碌に攻撃が通りません。まだアラハバキや龍神勢の方が質量で守護者に攻撃が通っているレベルです。……加えて、回避性能も高すぎるという。 
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