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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第164話「憑依」

 
前書き
異常に成長を前回見せたなのはと奏ですが、原因は本人達にすらわからなかったりします。
ちなみに、他のキャラも以前より成長していますが、それは順当なものです。

冒頭は優輝が駆けつける前の、優輝視点から始まります。
 

 





       =優輝side=






「椿……葵……?」

 絶句して、何とか絞り出したのは二人の名前だけだった。

「……なんて声、出してるのよ……優輝」

「っ……その傷は……」

 絶句したのは、二人の状態を見たからだった。
 椿は足元に血だまりが出来る程出血しており、肩や腕、脇腹、足など、そこら中に斬られたり食いちぎられたような跡があった。
 葵に至っては、既に死んでいるはずの酷さの傷を負っている。
 あの時、僕の偽物にボロボロにされた時よりもさらに酷い……死んでいてもおかしくはない、いや、生きているのがおかしい程の傷だった。

「……まさか、僕をずっと守るために……」

「……瘴気で妖が大量に湧き続ける。当然、アースラと通信が繋げられる訳もない。……そんな状況だと、せっかくの八将覚醒も形無しね……」

「………」

 椿の恰好と、そこから感じられる雰囲気は変わっていた。
 今言った“八将覚醒”をしたからなのだろう。
 だけど、今ではその覚醒が見る影もない程、生命力が弱っている。
 これでは、神降しを再びする事など不可能だろう。

「っ、今すぐ治療を……!」

「ダメよ」

「な、なんで……」

 ……いや、冷静になって考えればわかる。
 もう、“手遅れ”なのだ。
 葵がずっと黙ったままなのもそれが理由だろう。
 喋る程の生命力が、もうないのだろう。

「……悪路王が言っていたのは、こうなる事を予想していたのかもね……。まったく……」

「椿……この、術式は……」

「以前、知識として教えていたでしょう?“憑依”、よ」

 椿と葵、そして僕の下に陣が張り巡らせられていた。
 その術式は、見たことがないものだった。
 でも、椿の言う通り知識としてなら知っているものでもあった。

「憑依……式姫が憑りつく事によって、能力値の強化をする……」

「ええ。……私たちの力、貴方に託すわ」

 確かに、神降しができないのならそうするしかないだろう。
 未だに守護者の気配は消えていない。戦うためには少しでも戦力強化をするべきだ。
 ……だけど、それは……。

「憑依する側は、どうなるんだ?」

「普通なら憑依を解けば無事に戻ってくるわ。……優輝が聞きたいのは、そうじゃないわよね?」

「っ、当たり前だ……!」

 普通の憑依はどちらも安全な場所で行っていると聞いた。
 ……つまり、万全の態勢で行うべきなんだ。

「……瀕死の……死にかけの状態なら、どうなるんだ……?」

「………わからない、わ……」

 ……まぁ、前例がないのだから、仕方ないだろう。
 でも、椿の返答を聞いて、わかった。……わかってしまった。

「ッ……」

「……こういう時は、鋭いんだから……」

「理解は、出来る……でも、納得、できない……!」

「……それしか、手はないわ」

 ……つまり、椿と葵は、命を捨てるつもりだ。
 僕が、守護者に勝てるようにするために。

「聞き入れなさい。……もう、決定事項よ」

「ッ、術式が……!」

 僕が目を覚ました時に、既に起動させていたのだろうか。
 いつの間にか、憑依の術式が発動していた。

「……優輝、貴方との生活、楽しかったわよ」

「椿……」

「葵も、同じことを言っていたわ」

 まるで今生のお別れの言葉のように、椿は言う。

「おい、おい……!」

「……何も、永久に会えない訳じゃないわ。上手く行けば私たちは死なないし、死んだとしても幽世に還るだけ。……また、会えるわよ」

「そういう、問題じゃ……」

 ……また、僕は失うのか?
 緋雪と同じように、また、家族を失うのか?

「っ……くそ……!」

 この結果に、納得がいかない。
 何が悪かったなんて、そんなの関係ない。
 ただ、結果が気にくわない。

「……ぁ……?」

「……ありがとう。私たちのために、涙を流してくれて」

 納得がいかない事を察してなのか、椿は僕の頭を抱えるように抱き締めてきた。
 まるで、子をあやす母親のように。

「貴方が納得できない事は、わかっているわ。……でも、だからこそ、託すわ」

「つば、き……」

 血に濡れる。でも、そんな事は今は気にならない。
 ……そうだ。これで終わりじゃない。“次”を乗り越えるために、この選択を……。

「……大好きよ、優輝。……さようなら」

「っ……!」

 最後に、そう言って。
 ……椿は、僕に口づけをして、そのまま消えた。

「……これが……“憑依”……」

 何が起きたのか、漠然とながら理解できた。

「……椿……葵……!」

 涙が自然と流れる。
 当然と言えば当然だ。……家族同然の存在が消えたのだから。

「っ……!」

 緋雪と同じ。また、手が届かなかった。
 それは大きな後悔となって僕の心を苛む。

「(……だけど……!)」

 でも、悲しみに暮れる暇はない。
 歯を食いしばり、立ち上がる。
 涙はまだ止まらない。悲しみも後悔も残っている。
 ……その全てを、今は押し込める。
 鍵を掛けるように、心の奥底へと。

「……行かなければ」

 葵も椿と同じように消えていた。
 二人とも、今は僕の中にいる。
 この後、そのまま消えてしまうのか、帰ってくるのかわからない。
 だけど、今は二人に託された通り、守護者を倒さなければならない。

「ッ……!」
 
 頬を叩いて、意識を切り替える。
 緋雪の時のように、落ち込んでしまわないようにして。
 まだ、帰ってこないと決まった訳じゃないと、自分に言い聞かせるように。

「……行くぞ。今度こそ、決着をつける……!」

〈マスター……〉

「リヒトは防護服とグローブに集中しててくれ。武器は、これで行く」

 心配するリヒトに、大丈夫だと言わんばかりに地面に落ちている刀を拾う。
 その刀は、神降しが解ける寸前に創造した神刀・導標だ。

「……転移」

 守護者の居場所はもう大体把握している。
 魔力が大きく動いているという事は、司や他の誰かが守護者と戦っているのだろう。
 だから、そこへ転移すればいい。

「(椿、葵……見ててくれよ……!)」

 二人の意志を受け継ぎ、僕は戦場へと舞い戻った。















       =out side=







「あ、ありがとう……」

「……」

 転移した直後に、優輝はなのはを庇う形で戦いに割り込んだ。
 渾身の一撃を投擲された槍に叩き込み、弾き飛ばしたのだ。

「『帝!ありったけの武器を叩き込め!!』」

「『っ、お、おうっ!!』」

 直後に優輝は魔力結晶を一つ割、ありったけの武器群を守護者に向けて放つ。
 同時に、念話で帝にも同じことをするように指示する。

「これ、で……!」

   ―――“五雷”

 武器群だけでは守護者を抑えられない。
 そう判断して久遠が連続で雷を発生させる。
 一日の間に何度も戦った上に、全力を出しているため、久遠の力は長く保たない。
 だからこそ、この場で出し切るように、守護者を足止めした。
 さらに転移魔法を発動させ、一度なのはと共に間合いを取る。

「『状況整理!この戦いで死人は出ているか!?』」

「『いない!……はずだよ!少なくとも、私が知る限りは!』」

「『上等だ!』」

 転移後、すぐに念話で死人が出ていない事を確認する。
 これほどの相手に誰も死なずに済んでいるのは上出来と言えるだろう。
 ……尤も、神降しした優輝が戦う前に一般人に死人が出ているが。

「『蓮さんと……これは、式姫の気配か?一体何を……』」

 優輝は近づいてくる複数の気配に気づく。
 そこへ、アリシアから伝心が来る。

「『優輝!無事だったんだね!?端的に伝えるけど、今からパワーアップした蓮さん達が行くから一緒に戦って!』」

「『っ、了解!』」

 短くまとめられたその情報だけで、優輝は大体を理解する。
 要は、味方が増えると考えればいいだけだ。

「(一つの気配に重なるように別の気配。これは……“憑依”、か)」

 そして、同時に“パワーアップ”の内容を半分だけ知る。
 自分も同じ状態なため、理解できたのだ。

「お待たせしました。……無事でしたか」

「一応僕は……だけどね」

 優輝の横に来た蓮がそう話しかける。
 そんな蓮の恰好は、八将覚醒によって変わっていた。
 黒色の着物は赤を基調としたものへと変わっており、模様も華やかになっていた。
 赤い帯は黒色になっており、腰からはカラスの羽と尾のようなものが生えている。
 そして何よりも、その姿から感じられる気配が強くなっていた。

「“一応”……?もしや……」

「『……聞きづらいんだけど……優輝君、椿ちゃんと葵ちゃんは……』」

「っ……」

 優輝の言葉と、いつも一緒にいるはずなのにいない事から、蓮も気づく。
 そして、同じく気づいていた司が念話で聞いてきた。

「『……今は憑依している。それだけだ』」

 目の前に集中するべきだと言わんばかりに、優輝はそれだけ言った。
 もちろん、それだけじゃない事は司にもわかっていたが、それ以上は聞かなかった。

「(守護者から感じられる力が気絶する前よりも減っている。……さすがに弱っているか。戦力が足りているかはわからないが、負ける訳にはいかない)」

 視線を巡らせ、戦える面子を確認する。
 初対面の人物や式姫がいるが、自己紹介している暇はないと判断し、役割と出来る事を伝心を使って確認しておく。

「『蓮さんは近接戦……他の人たちは?』」

「『私は遠距離近距離どちらもいけるわ。織姫は支援と回復が主ね。それと、離れた所に……』」

「『土御門澄姫……私がいるわ。依り代とは会った事があるみたいね。私はとこよ……守護者の同期よ。……遠距離なら任せなさい』」

 降り注ぎ続ける武器群と雷が吹き飛ばされる。
 同時に、久遠が膝を着き、子供形態に戻る。
 霊術を使い続け、力尽きたのだ。

「久遠!」

「っ、もう、ダメ……!」

 アリシアがすぐさま戦線離脱させるために抱える。
 ……これで、時間稼ぎは出来なくなった。

「『貴方以外の動きはさっき見ていたわ!貴方は!?』」

「『僕も両方行ける!』」

「『わかったわ!じゃあ……』」

「『行くぞ!!』」

 足止めがなくなったため、さっさと会話を切り上げて戦闘態勢に入る。
 即座に優輝、鈴、奏、なのはが同時に駆け出す。
 それを援護するように、澄姫が矢を、司が魔力弾と砲撃魔法を、帝が王の財宝による射撃と投影魔術による矢を放つ。
 だが、それらは飽くまで巻き添えを起こさない程度の密度。
 それでは守護者に当てる事は出来ない。

   ―――“霊魔相乗”

「はぁっ!!」

 放たれる遠距離攻撃が霊術によって相殺される。
 その霊術の爆風の合間を駆け抜けるように優輝と鈴が同時に肉薄する。
 それを守護者は冷静に見据え、あっさりと二人の攻撃を受け止めた。

     ギィイン!ギギギィイン!!

「シッ!」

   ―――“弓技・瞬矢”
   ―――“弓技・閃矢”

「そこっ!!」

   ―――御神流奥義之参“射抜”

 刀を弾いた瞬間、優輝が反撃に矢を射る。
 使用した弓矢は、もちろん椿が使っていたもの。
 同時に、澄姫の狙撃も届く。
 さらに同時になのはも攻撃を繰り出す……が。

「はっ!!」

   ―――“刀奥義・一閃”
   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 それらの攻撃は全て躱され、辛うじて当たりそうだった蓮の攻撃も障壁に防がれた。

   ―――“Delay(ディレイ)-Septet(セプテット)-”

「ッ……!」

「撃ち抜いて!」

 直後、守護者の周囲にジュエルシードが五つ出現。
 障壁を破る威力の砲撃が放たれる。
 回避を難しくするため、奏も斬りかかる。

「ッッ……!」

   ―――“闇撃-真髄-”

 だが、守護者は一瞬で判断を下す。
 砲撃は回避し、奏に対してはむしろカウンターの要領で懐に入り込む。
 そして、放たれる霊術。

「っ、ぁっ!!」

   ―――“Delay(ディレイ)-Octet(オクテット)-”

「はぁっ!!」

 しかし、奏は咄嗟の判断でそれを躱す。
 カウンターを、さらにカウンターするかのように、攻撃を繰り出した。
 さらに、それが予めわかっていたかのように、なのはも斬りかかる。

「くっ!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

     ギィイイイン!!

「「はぁっ!!」」

   ―――“刀技・暗剣殺(あんけんさつ)
   ―――“刀技・紅蓮光刃”

 さらに蓮と鈴も斬りかかる。
 しかし、それでも障壁を切り裂く事はできなかった。

「これなら、どうだ!!」

 直後、大量のレイピアが飛んでくる。
 優輝が葵の力を使って生成したものだ。

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

     ギギギギギギギギギィイイイン!!

「ぐ、く……!」

 鈴たちは全員飛び退き、まるでハリネズミのように障壁を突き破らんとレイピアを当て続ける。

「(これだけやっても破れない……か!)」

 しかし、球状に展開された障壁を突き破る事は叶わない。

「……まぁ、フェイクだけどな」

   ―――“弓技・朱雀落-真髄-”
   ―――“慈愛星光”
   ―――“偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)
   ―――“Prière pluie(プリエール・プリュイ)

 レイピアはただの足止めだった。
 大量のレイピアを目晦ましとし、ついでの如く煙幕も発生させ視界を奪う。
 その上から、澄姫、織姫、帝、司による一斉遠距離攻撃が繰り出された。
 特に、司はジュエルシードを用いて強力な砲撃魔法が20門展開された。

「シッ!!」

 だが、優輝はそれで倒したなどと、微塵も思わなかった。
 砲撃が着弾した直後に、刀を構えて突貫した。

     ギィイイイン!!

「ッ……!」

 砂塵が切り裂かれるように、刀同士がぶつかり合った衝撃で晴れる。
 優輝が繰り出した刀は、同じく交差するように繰り出した刀に逸らされていた。
 だが、ぶつかり合った瞬間に生じた僅かな衝撃を利用し、優輝は体を逸らして突き出された刀を回避していた。

「はっ……!」

   ―――“Delay(ディレイ)-Nonet(ノネット)-”

「ッ……!」

 優輝が回避すると同時に、奏となのはが斬りかかる。
 だが、その攻撃は体を捻って回避されてしまう。
 さらにその瞬間に霊力が放出され、三人は吹き飛ばされる。

「っ……お返しだ!」

 だが、優輝もただではやられず、食らった霊力を掌握して撃ち返す。
 それは司達の援護射撃と重なり、守護者へと迫る。

「蓮!!」

「はいっ!!」

 援護射撃がその場を離脱する事で回避される。
 そのまま、射撃と身体強化を担っている司に守護者は向かう。
 しかし、それを先読みしていた鈴と蓮により、足止めされる。

     ギギギギィイン!!

「くっ……!」

 だが、すぐさまそれは突破される。
 いくら憑依と京化によるパワーアップがあっても、それでも守護者には及ばないのだ。
 
   ―――“poussée(プーセ)

「ッ!!」

「(躱された!巻き添えを考慮して範囲が狭い事を読まれてた!)」

 それを読んだ上での、司の重力魔法だったが、それも躱されてしまう。

「『全員、バインドの用意!』」

「食らいなさい!」

   ―――“慈愛星光”

 躱した所へ織姫が極光を降らせるが、それも躱される。

「想定済みだ!!」

 だが、そこで優輝が広範囲のバインドを仕掛ける。
 避けられないほど且つ、初見のバインド。
 効果としては僅かな足止めにしかならないが、そのために事前に念話を飛ばした。

「ここだ!!」

 バインドによって、守護者の動きが一瞬止まる。
 そこへ、魔法が使える者全員でバインドを使って足止めをする。
 それも、一瞬とは言え魔力のリソースを全てバインドにつぎ込むほどだ。
 優輝のバインドが解けても避けられないように、広範囲にいくつも展開した。

「っ……!」

   ―――“弓奥義・朱雀落-真髄-”
   ―――“聖天唱(せいてんしょう)-真髄-”
   ―――刻剣“風紋印”
   ―――“剣技・烈風刃-真髄-”
   ―――“戦技・方円刃(ほうえんじん)-真髄-”

 そして、バインドによって守護者が捕らえられた瞬間に。
 澄姫が矢を、織姫が光の雨を、鈴が風の刃を、蓮が斬撃を飛ばした。
 回避は不可能。防御に回ったとしても、身動きが取れない。
 守護者であっても、それを無傷で切り抜ける事は不可能だった。

「ッ……!!」

   ―――“禍式・護法瘴壁”

 ……そう。“無傷”では。

「っぁ……!!」

 瘴気による分厚い障壁により、四人の攻撃の“直接的な部分”は防がれる。
 だが、余波となる部分はそのまま障壁を突破し、守護者を打ちのめした。
 しかし、余波だけである。斬撃としての性能もほとんど失っているため、鈴と蓮の攻撃が届いたとしても、それがそのまま致命打にはならなかった。

「っ!!」

   ―――“速鳥-真髄-”
   ―――“扇技・神速-真髄-”

 だが、その瞬間。
 守護者は爆発的な加速を得た。
 そのまま、未だ残っていた木々を足場に、立体的に移動し……。

「ッッ!?」

     ギィイイン!!

 司を狙ってきた。
 司はそれに対し、辛うじて反応した。
 ジュエルシードによる身体強化で何とか刀の一撃を凌ぐ。
 しかし、それはたった一撃だけで、その次の攻撃は凌げない。

「させないわよ!」

   ―――“護法霧散”

「っぁ……!?」

「っ、せぁっ!!」

     ギィイイン!!

 その瞬間、澄姫から矢が飛んできた。
 矢に巻き付けられた御札の術式により、守護者の素早さを上げていた術式が瓦解する。
 それによってできた隙を司は見逃さず、槍で攻撃する。

「っ……!?」

 だが、その槍の穂先は逸らされ、今まさにカウンターを受けそうになる。

   ―――“速鳥”

「させるかぁっ!!」

     ギィイイン!!

 ギリギリなところで、優輝がレイピアを矢として放ち、その攻撃を阻止する。

「「ッ!!」」

     ギギィイン!!

 さらにすかさずに奏となのはが切りかかる。

「そこっ!!」

   ―――“神槍”

「はぁっ!!」

     バチィッ!!

 さらに織姫の霊術、蓮の攻撃が迫る。
 しかし、守護者は跳んで奏となのはから逃れた後に、斧を投げて身を捻った。
 投げられた斧は霊術を相殺し、身を捻った事で蓮の刃を躱した。

「はぁああっ!!」

   ―――“速鳥”

     ギィイイン!!

 避けられない所を突くように、鈴が二刀で切りかかる。
 だが、それも槍によって受け止められた。

「ぉおっ!!」

 優輝も切りかかる。
 澄姫は矢を放ち続け、帝も武器を放ち続ける。
 司も魔力弾の牽制と槍による攻撃を放っていた。
 しかし、守護者はそれらを躱し、逸らし、凌ぐ。
 瘴気も上手く利用し、決して攻撃が当たらなかった。
 ……これでも、弱っているはずだというのに。

「(まさか……!)」

「(この戦闘で……)」

「(……成長、しているというの!?)」

 優輝、鈴、司がほぼ同時に気づく。
 戦闘に必死なだけで、奏となのはも何となく察していた。
 そう。守護者は連続する戦闘で、成長していたのだ。
 それこそ、追い詰められているのにも関わらず、優輝達と未だに渡り合えるほどに。

「っ……!」

   ―――“Prière pluie(プリエール・プリュイ)

 回避しきれないと見た瞬間に、司が砲撃魔法を連続で打ち込む。
 だが、それらは瘴気の触手によって全て相殺される。

「はぁっ!」

「シッ……!」

「そこっ……!」

「ぜぁっ!!」

 鈴、奏、なのは、優輝による連続攻撃が繰り出される。
 だが、それらは全て上手く受け流される。

「ぉおっ!!」

「っ!」

     ギィイイン!!

 唯一、同じ“受け流す事”を得意としている優輝は、即座に体勢を立て直した。
 そのまま再び攻撃を繰り出し、鍔迫り合いに何とか持ち込む。

   ―――“闇撃-真髄-”

「つぁっ!!」

     バチィッ!!

「はっ!!」

     ギィイン!!

 力で押される優輝に対し、守護者が霊術を至近距離で放つ。
 咄嗟に優輝は導王流で霊術を放つ手を逸らすが、余波だけで一瞬怯む。
 それをフォローするように蓮が攻撃を繰り出すも、逸らされる。

「はぁっ!!」

   ―――“慈愛星光”

「ッ!」

   ―――“弓技・瞬矢-真髄-”

     ギギギィイイン!!

 割り込むように織姫が空から極光を放ち、それを躱したところへ澄姫の矢が放たれる。
 守護者は刀と槍を駆使してそれを弾くが、一瞬とはいえ体勢を崩した。

「押し潰して!!」

   ―――“poussée(プーセ)

「っ、ぁ……!!」

 そこへ、司が重力魔法で押し潰そうとする。
 誰も巻き込まず、広範囲で強力だったため、守護者は逃れられずに地面に縫い付けられる。

「(だが、これだと皆の攻撃も押し潰され……なるほど……!)」

 重力魔法は強力だが、それ故に敵味方の区別がない欠点がある。
 だが、優輝はそれでもできる攻撃がある事に気づき、帝の所へ転移する。

「帝、とびっきりでかくて重い武器をぶっ放せ!」

「っ、おう!!」

   ―――“千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)

 優輝の指示に、帝は山をも斬れるほど巨大な剣を王の財宝から繰り出した。
 その剣に触れ、優輝はもう一押しとなる魔法をかける。

「こいつで、どうだ!」

   ―――“Gewicht fach(ゲヴィヒト・ファハ)

     ドンッ!!

 それは、重さを倍加する魔法。
 その魔法によって、巨大な剣はさらに重さを増し、守護者めがけて落下する。

「(重力魔法で押し潰されるというのなら、元から押し潰す攻撃であれば問題ない!)」

 落下による攻撃ならば、司の魔法とはむしろ相性が良かった。

「おまけだ!これも食らっとけ!!」

「ッ……!!」

   ―――“禍式・護法瘴壁”

     ギィイイイイイイイン!!

 巨大な剣と、優輝がダメ押しに創造して放った剣とレイピアが守護者に迫る。
 守護者は重力魔法の影響を受けない瘴気で、それを受け止める。
 ただでさえ身動きが難しい状況だと言うのに、それでさらに動けなくなる。
 本来であれば、千載一遇の大チャンス。
 守護者を倒すのに最適とも言える状況に持ち込んだのだが……。

「(障壁を突破する以外に、攻撃手段がない……!)」

 そう。今障壁と拮抗している剣を押し込む以外に、守護者に攻撃する手段がない。
 横からの攻撃では、司の重力魔法によって守護者まで届かないのだ。

「帝!この剣は多少の事じゃ折れないよな!?」

「ったり前だ!こいつは元ネタだと神話に出てくる剣だぞ!?」

「好都合!」

 帝に剣が丈夫かどうか尋ねた優輝は、その返答に満足そうに笑う。
 直後、転移魔法を二回使い、なのはを連れてくる。

「な、なにっ!?」

「この剣の上から集束魔法を打ち込んでやれ!」

「っ、そういうことか!」

「りょ、了解だよ!」

 優輝の言葉に帝もどういう事か理解し、なのはも頷いてデバイスを構える。

「手っ取り早くこれも使っておけ!」

 さらに優輝と帝が手持ちの魔力結晶を投げ渡す。
 周囲の魔力を集束していては、時間がかかりすぎる。
 そのため、時間短縮に使うように魔力結晶を渡したのだ。

「え、でも……」

「まだ予備はある!早く!」

「う、うん!!」

 自分の分は大丈夫なのかと尋ねようとするなのはだが、優輝にそう言われて集束に戻る。

「『他の皆は変化があった時の対策を!』」

 優輝は再び剣に手を添えつつ、伝心で他の面子にそう伝えた。

「もっとだ……!」

〈“Drei(ドライ)”〉

「もっと重く!!」

〈“Vier(フィーア)”〉

 重量を増やす魔法をさらに強化し、三倍、四倍と重くしていく。

〈“Fünf(フンフ)”〉

「『っ、撃てるよ!』」

「『行けっ!!』」

 そして、五倍になった瞬間、なのはの準備が完了する。
 念話で撃つように指示すると同時に、優輝は転移魔法で剣の近くから離脱する。

「いっ、けぇええええええええ!!」

〈“Starlight Breaker(スターライトブレイカー)”〉

 そして、星をも打ち砕くかの如き、極光が放たれた。

「っ、これほど、なんて……!!」

 その極光は、瘴気越しからもわかるほどで、守護者すら戦慄させた。











   ―――そして、守護者のいる場所を、巨大な剣ごと極光が呑み込んだ。















 
 

 
後書き
刀技・暗剣殺…斬属性の攻撃。敵視が最も低いキャラとの敵視の差が大きい程防御無視ダメージが大きい。名前の通り、不意を突くかのように死角から刀を振るい、攻撃をする。

Prière pluie(プリエール・プリュイ)…“祈りの雨”。サクレ・クラルテよりは威力が落ちるが、展開速度・数は上回る。包囲するように魔法陣を展開したりなど、応用が利く。

聖天唱…聖属性単体攻撃。光を流星群のように対象に降らせる。MPが多い程ダメージが大きくなるが、織姫の場合、MPではなく慈愛の力になっている(独自設定)。

戦技・方円刃…斬+突属性の単体攻撃。円を描くような軌跡で斬撃を繰り出す。真髄ともなれば、生半可なものでは防げないほど鋭い斬撃を飛ばす事ができる。

護法霧散…敵全体に固定ダメージを与え、ステータスバフを打ち消す。本編においては、この霊術の術式を込めた御札を矢に巻き付けたりして使う。Fateで言う破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)のようなもの。

千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)…プリズマイリヤツヴァイ(ドライ)に登場する巨大な剣の宝具。詳しくはwikiで。原作ではイリヤに折られており、今回のSLBも横から受けていれば確実に折れていた。本編でもこの後横から強力な一撃を受ければ折れる程ボロボロに。

Gewicht fach(ゲヴィヒト・ファハ)…“重さ”“倍”の意。任意の数だけ対象の重さを倍加できる。


守護者は追い詰められれば追い詰められるほどに強くなる傾向があります。おまけに戦闘中にさらに成長するという……。優輝とはまた違う主人公補正みたいなものがかかっている感じですね(サ〇ヤ人みたいに)。

何度か足止めが成功するのに、それ以上押すことができないのは、巻き添えが起きてしまうからです。それが皆理解できているため、足止め止まりになります。

悲しいかな。遠距離支援組(織姫、帝、澄姫)はどうしても描写が少なくなる……(´・ω・`)
ちなみに、今回のSLBは、魔力結晶によって原作STSを除いてどのSLBよりも強力になっています。 
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