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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica7-Eそうだ、合宿へ行こう~Training~

†††Sideアリサ†††

アルピーノ邸やアスレチックエリアなどから遠く離れただだっ広い平地であたし達は今、チーム海鳴名物のチーム戦を久々に行っていた。チーム分けは、あたしとなのはとシャルとアリシア。フェイトとユニゾンはやてとアインスとザフィーラ。

(対ユニゾンはやてとアインスのためにルシルをこちらに入れたかったけど・・・。今回の合宿の主役はあくまでヴィヴィオたち子供だし、そっちの特訓の手伝いを優先させないと)

「「はあああああっ!」」

――風牙烈風刃――

――ラケーテン・シュトルム――

シャルの放った暴風の壁に、風と電撃を身に纏ったアインスが突進。アインスは暴風の壁を突破できはしたけど、纏ってた風と電撃が消し飛んだ。リーチのある分、シャルが突っ込んで来たアインスに向かって・・・

――光牙月閃刃――

真紅に輝く魔力を付加した“キルシュブリューテ”を振るった。アインスはすかさず“キルシュブリューテ”を持つシャルの右手首をキャッチして攻撃をキャンセル。さらに空いてる右拳に魔力付加して、「ふんっ!」即座に殴りに行った。

「わたしの左手はまだ生きてるんだけど?」

シャルの左手には鞘が握られていて、その鞘でアインスの腹を打った。さらに「風牙烈風刃!」ってほぼ零距離の一撃をアインスに叩きつけた。アインスは「うく・・・!」苦悶の声を漏らして、暴風の壁に押されるように後方に吹っ飛んだ。シャルは追撃のために地を蹴ってアインスに向かって、体勢を立て直される前にさらに攻撃を加え始めた。

(反則なアインスには、反則なシャルをぶつけるのが一番よね♪)

「うりゃうりゃー!」

――ブルーバレット――

右手に握る小型拳銃型デバイス・“ラッキーシューター”から、水色の直射魔力弾を連射するのはアリシア。対するのは人間形態に変身しているザフィーラ。うっすらと魔力の膜を纏っていて、アリシアの魔力弾が着弾してもよろつきもしない。

「やっぱ堅いな~」

アリシアが左手に握っているハリセン型デバイス・“ハリセンスマッシュ”の柄をギュッと握りしめたところで、ザフィーラの発動した足元から突き出る拘束杭・「鋼の軛!」をステップで回避。その僅かな瞬間にザフィーラがアリシアに一気に接近した。

「ブルーバレット!」

魔力弾を足元に何発も撃ち込むことで、アリシアを中心にぶわっと土煙が発生した。

――クラスターマイン――

「ラピッドジャンプ!」

急停止できなかったザフィーラが土煙を突っ込むかどうかってところで、アリシアが一瞬にして遥か上空へ跳んだ。直後、ドォン!と土煙が大爆発。また新しく土煙が生まれて、ザフィーラが「ぐおぉ・・・!」苦悶の声を漏らしながら飛び出してきた。

「スティンガーレイ!」

「く・・・!」

――狼王の鋼鎧――

さっき以上の速度で上空から飛来するアリシアの魔力弾。ザフィーラはさらに身に纏う魔力量を増大させて防御力アップしたんだけど、「む・・・!」ザフィーラはわざわざ回避行動に移った。

「バリア貫通効果か・・・!」

ザフィーラが呻いた。それが回避に移った理由なのね。アリシアは上空に魔法陣の足場・フローターフィールドを展開して、そこからザフィーラを集中砲火。そんなアリシアに・・・

――クラウソラス――

――エクセリオンバスター――

真っ白に輝く砲撃が向かうけど、それを桜色に輝く砲撃が迎撃した。相手チームのはやてと、うちのチームのなのはの砲撃だ。2人は前線に出ずに後衛での支援攻撃担当ね。はやてからのおっそろしい支援射砲撃も、エースオブエースのなのはの正確無比な援護のおかげで決定打にはなってないわ。んで、あたしの相手は・・・

――プラズマランサー――

「ハーケンスラッシュ!」

――フレイムバレット――

「バーニングスラッシュ!」

戦闘スタイルやデバイスの変形機構もそっくりなフェイトだ。電撃の槍を炎の魔力弾を迎撃しつつ、あたしとフェイトは得意な近接魔法で衝突。あたしは“バルディッシュ”の魔力刃から漏れる放電に僅かに感電して、フェイトは“フレイムアイズ”の剣身から溢れ出る炎の熱に、「うく・・・」呻き声を上げた。それでもあたし達は剣戟をやめない。

「やっぱ強い奴と戦うと面白いわ!」

――フレイムウィップ――


一旦フェイトから距離を取るとすぐに炎の鞭を発動して、フェイトへ向かって振るった。まぁフェイトはアインス、ルシルに次ぐ高機動タイプだから、あっさり避けられちゃうんだけど。炎の鞭発動時、“フレイムアイズ”は直接攻撃にはすぐに転じれないってことをフェイトは知ってるから・・・

「アリサも、シグナムになんか似てきた気がする・・・!」

――ソニックムーブ――

「失礼ね。あれほど病んでないわよ!」

一瞬で距離を縮めて来ていて、すでに“バルディッシュ”を振り被っていた。シールドを張るにはすでに手遅れな距離。でもね、フェイト。あたしだって首都防衛隊で日々研鑚を積んでるのよ。

――ブレイジングスマッシュ――

「このおおおおおおッ!」

「・・・っ!?」

空いてる左腕の指先から肘までの間に爆炎を付加する。こっちもシールドは張れないけど、フェイト、アンタもこの距離じゃシールドは張れないわよ。燃え滾る開いた左掌底を、突っ込んで来たフェイトのお腹に打つ込む。

「くぅぅ・・・!」

フェイトが爆炎に呑みこまれた。あたし自身の攻撃力に加えて、フェイトの突進力も加算されての一撃だったけど・・・。

(手応えが弱い・・・!? うそ!)

爆発によって後方に吹っ飛んだフェイトだけど、たぶんそれだけじゃないわね。炎と黒煙の中から姿を見せたフェイトの防護服は、へその下から乳房の下半分までの範囲を焼かれていて素肌を見せてるけど、フェイト自身にはあんましダメージが入ってないっぽいわ。

「えほっ、えほっ・・・。ビックリしたぁ・・・、すごいねアリサ! こんな魔法も使えるなんて!」

「・・・ダメージが完璧に入る前に後退した、ってところかしらね」

「うん。ギリギリでなんとか直撃する前に離脱したよ。あと1歩、バルディッシュの反応が遅れていたらきっと・・・私は撃墜されてた」

フェイトの防御力の低さは相も変わらず。あたしの魔法の直撃を受けたらまず勝てるわ。ええ、当たれば、ね。フェイトは「真ソニックフォーム」と防護服を超高機動モードへと移行させた。

「バルディッシュ。ライオットザンバー・スティンガー」

大鎌形態から魔力剣の二刀流形態へと変形した“バルディッシュ”。あの形態のフェイトがおそらく最も速くて鋭い。それはつまり本気だってこと。だからあたしも・・・

「フレイムアイズ。ヴァラーフォーム」

“フレイムアイズ”を変形させた。スナイパーライフルのような長い銃身の両側に、反りの無い直刀が2つある1m半くらいの長さの実体ある大剣と、1mくらいのソードブレイカー状の魔力剣の二刀流だ。

「来なさいフェイトッ!!」

「ん!」

――ソニックムーブ――

フェイトの姿が掻き消える。あたしは足元に魔法陣を展開して、「ストームフレア!」と魔法を発動。魔法陣から炎の渦が巻き上がって、あたしを炎の中に覆い隠した。フェイトみたく高速移動からの奇襲を封じるために、ルシルのコード・ケルビエルをあたしなりに組んでみた魔法だ。

(まぁ問題は、炎の中から外は何も見えないし、魔力反応も探知できないってことなのよね・・・)

この状態で砲撃が来てもあたしは気付けない危うさがある。さすがに集束砲レベルなら気付けるけどさ。でも今のあたし達はチーム戦の最中だから、なのはからの『アリサちゃん、今!』って合図で、あたしは炎の渦を解除。

≪アリサ、3時の方向、来るぞ!≫

“フレイムアイズ”からの警告。あたしはそっちへ顔へ向けるより早く右手に持つ大剣の銃口を向け、火炎弾・「フレイムバレット!」を連射しつつ顔を向けた。フェイトはその機動力を以って回避し続けて、最後は大きくジャンプ。

「せぇぇぇーーーーい!」

そしてあたしの直上にまでやって来て、右手の“スティンガー”を振り下ろしてきた。あたしは左手のソードブレイカーで受け止める。“スティンガー”は魔力で構築されているわ。だからガシャン!と一瞬で破壊した。あたしのソードブレイカーは名前の通り、魔力で出来た剣や刃などをジグザグの刃に挟みさえすれば、即座に破壊できるようプログラムを積んでる。

「っ!」

砕け散る“スティンガー”に一瞬目を見張るフェイトだったけど、即座に左手の“スティンガー”を振るったから、あたしは受けずにスッと後退してその斬撃を避けた。空振ったフェイトは勢い余って地面を穿って、頭を大きく下げた前屈のような姿勢になった。そんなフェイトの隙だらけな背中へとすぐに大剣の銃口を向けるんだけど・・・

「んな・・・!」

「砲撃じゃなくて、直接斬り掛かってれば良かったと思うよ、アリサ・・・!」

フェイトは“スティンガー”を振り下ろした勢いのままに前転。踵であたしの大剣を踏みつけた。その所為で今度はあたしがフェイトに頭を下げる体勢に。地面に剣先が埋もれた大剣を踏んづけたまま、フェイトは放電する右手の“スティンガー”をあたし目掛けて振り落した。

「まだよ!」

でも左手のソードブレイカーはまだ生きてるわ。あたしは大剣の柄を手放しすことで右手を自由にして、両手持ちしたソードブレイカーを咄嗟に頭上に掲げて“スティンガー”の一撃を防御、そして粉砕する。

「っく・・・!」

――ソニックムーブ――

「逃がさないわよ!」

――フォックスバット・ラン――

高速移動で後退するフェイトに、あたしも高速移動で追い駆けた。

†††Sideアリサ⇒フォルセティ†††

イクスと一緒に、アイリお姉ちゃんから医術、特にスポーツ医学を専門に教わってる僕。合宿に来てからもそれは変わらず、アイリお姉ちゃんが用意してくれた専門書などを用いて、もすごい濃い時間を過ごした。

「すんすん・・・」

精密な人間大サイズの人形を使って捻挫の処置を実践していたところで、部屋の外から取っても良い匂いがしてきた。チラッとドアの方を見ると、「いけませんよ、フォルセティ」ってイクスに叱られちゃった。

「ご、ごめん!」

急いで体育座りの姿勢を取ってる人形の足首にテーピングをして、「処置完了!」ってアイリお姉ちゃんに伝える。僕の処置が上手くいってるのか確認した後、「上出来ね♪」って、僕とイクスと頭を撫でてくれた。

「よしっ。フォルセティは復習だから当然として、初めてのイクスも数回の練習でほぼ完ぺき。んじゃ、時間ももういい頃だし、午前の授業はこれにて終了。手を洗って、メガーヌさんのお手伝いに行こう♪」

「「はいっ!」」

部屋を後にして1階へ降りて、洗面台でイクスと一緒に手を洗った後はダイニングへ。キッチンにはメガーヌさんとガリューが居て、メガーヌさんが調理、ガリューは食器を出したりとかの手伝いをしてる。

「何かお手伝いします!」

「野菜の皮むきくらいなら、ですけど・・・」

「アイリは料理できるから、なんでも言ってね~」

メガーヌさんにそう申し出ると、メガーヌさんはフライパンを振りながら、「あら、ありがとう♪ じゃあ――」ってキッチンを見回した。

「アイリちゃんは、そっちの鍋を見てくれるかしら?」

「ヤー♪」

「フォルセティとイクスは、キッチンの人手は足りてるから・・・外に居るお母さん達を呼んで来てくれる?」

「「はいっ!」」

僕とイクスは家を出て、まずは一番近いアスレチックエリアを目指して歩いてると、「そう言えば、ずっと気にはなってたのですが・・・」ってイクスが口を開いて、僕の方を見てきた。

「フォルセティは、インターミドルには出場しないのですね。男子の部ももちろんありますし、何よりあなたは勝ち抜けるだけの実力もありますし。どうしてかな、と」

そういえばイクスにはその理由は話してなかったっけ。じゃあ良い機会だし、僕がインターミドルに挑戦しない理由を話しておこう。

「あーうん。僕はやっぱり支える側でいたいから。それに、ヴィヴィオ達の試合を応援したいんだ。僕はそれで良いと思ってる」

それが一番の理由だ。ヴィヴィオ達の活躍を録画とかじゃなくて、リアルタイムでこの目でしっかりと見届けたい。そのためにはフリーな時間が多くないといけない。だから挑戦しないんだって。

「そうですか。なれば私も、もう何も言いません。ごめんなさい、余計なお世話でしたね」

「ううん。ありがとう、気にかけてくれて」

イクスと笑顔を浮かべ合って、僕たちアスレチックエリアへ到着。ヴィヴィオ達もすでにトレーニングを終えていたようで、こっちに向かって歩いて来ていた。先頭を行くノーヴェが「よう。ひょっとしてお迎えか?」って聞いてきた。

「うん。メガーヌさんが呼んできてって」

「そうか、ありがとうな。ルシルさん、あたし達はこのままなのはさん達の元へ向かいますんで、先に戻ってくれていいですよ」

「そうか? じゃあ先に戻って、メガーヌさんを手伝ってくるよ」

お父さんが先に家に戻って、僕たちはお母さん達が模擬戦してる平地へ。まだ結構離れていてもドカンドカン!と爆発音が続いて聞こえるし、いろんな魔力光が空を飛び交ってるのが見て判る。そして高ランク魔導師同士の模擬戦を僕たちは見た。感想はただ一言、すごすぎる、だ。

「あー、今のうちに言っておくけどな。もうちょいお前たちの実力を高めた後、お前らもあの模擬戦に参加な」

「「「ふぁっ!?」」」

ヴィヴィオとコロナとリオが変な声を上げた。僕とイクスも目を丸くして「え?」ってノーヴェを見た。あの冗談みたいな魔法が飛び交う戦場に、ヴィヴィオ達も参加する? 僕だって絶対に入りたくない、あんな・・・。

「判るか? なのはさん達は今、魔力出力を大幅に絞ってるんだよ。お前たちの仮想敵になれるようにな。インターミドルの出場選手、中でもトップクラスはマジで強い。そんな連中とぶつかった時、まともに戦うには、今のうちからそれ以上の強敵と戦って経験値を稼ぐっきゃねェってわけだ」

数日・数週間の練習よりたった一度の強敵との実戦って聞きもするから、ノーヴェのその言葉に僕たちは「なるほど~」って頷いたところで、ビィー!って大きな音量でのブザーが鳴った。それを合図にお母さん達は一斉に戦闘行動を中断して、デバイスやバリアジャケットを解除した。

「なのはママー、フェイトママー!」

「お母さん、アインスお姉ちゃん、ザフィーラ!」

「お? おーい!」

「あれー? 迎えに来てくれたの~?」

「ありがとな~♪」

「ですぅ~♪」

お母さん達と合流した後はお父さん達の待つ家に戻って、そしてメガーヌさんとアイリお姉ちゃんのお昼ご飯を美味しく頂く中、「最後の午後の予定はどうする?」って話になった。カルナージ合宿は明日の午前で終わりだから、何かをするならもう今日の午後しかない。

「あたしは、午後もヴィヴィオとリオのトレーニングを・・・。なのはさん、ヴィヴィオにデバイスを貸してあげれますか?」

「あ、うん、いいよ。レイジングハート、午後はヴィヴィオに付いていてあげてね」

≪All right≫

なのはさんが首から提げてた“レイジングハート”を、「よろしくね、レイジングハート♪」ヴィヴィオに渡した。ノーヴェは次に「ルシルさん。午後からもう一度、手伝いをお願い出来ますか?」ってお父さんに申し出た。

「ああ、構わないよ。ところで話の腰を少し折るが・・・。すずか、ルーテシア」

「ん?」「はい?」

「コロナにデバイスを造ってあげてくれないか?」

お父さんがすずかさんとルーテシアにそうお願いすると、コロナが「お願いします」って頭を下げた。すずかさんとルーテシアが顔を見合わせた後、ルーテシアが「はいっ!」元気よく手を挙げた。

「デバイスマイスターの資格はまだ獲ってないしまだまだ勉強不足だけど、軽い気持ちで請け負うなんて思ってない! でも・・・私にやらせてほしい」

ここまで真剣な顔を見せるルーテシアなんて初めてだった。だから僕とヴィヴィオは茫然となった。お母さん達だけじゃなくて、メガーヌさんやリヴィアもそんな感じだ。

「・・・あ、えっと・・・。コロナ。私、精いっぱい頑張るから。コロナのデバイス、私に造らせて?」

「え、あ、はい・・・。お願いします」

ルーテシアの迫力に気圧されながらだけど、コロナは改めてルーテシアに頭を下げた。

「ルーちゃん。デバイスマイスターの師匠としてのテストです。コロナの要望を叶えつつ、デバイスを完成させること。困った事があったら相談してほしいし、アドバイスもしっかりさせてもらうからね。でも何から何まで口出しはしないつもり。1年後には予選が始まっちゃうから、製作期間は最大で半年ね。出来る?」

「はいっ、出来ます!」

こうしてコロナのデバイスは、ルーテシアが用意してくれることになった。お父さんが「よかったな」ってコロナに笑いかけると、コロナも嬉しそうに「はいっ!」満面の笑顔を浮かべた。

「なのはがデバイス持てないんじゃ午後からは模擬戦は出来ないわけね」

「そんなら露天風呂の完成を目指そ♪ 湯船や洗い場は出来てるけど、フェンスや屋根、脱衣場も出来てへんし」

「脱衣場のような本格的な建築はさすがに無茶だけど、せめてフェンスくらいは完成させておきたいよね」

アリサさんが小さく溜息を吐いたら、なのはさんとフェイトさんが露天風呂の外周りを完成させようって話を出した。するとお父さんが「フェンスなら今、スキュラに造らせているよ」って、さらりと告げた。ちょっとだけ静寂が訪れて、「え、いつから?」ってリヴィアが聞いた。

「ん? 昼頃に君たちと別れた後、家に戻る前にちょっとな。まともに作業が出来るのは今日だけだし、午後からも何かしらの手伝いがあると思っていたしな。なら俺の代わりに、召喚時の魔力消費が比較的少ないスキュラにもう一度出張ってもらおうって考えたわけだ」

「あらあら。それじゃああの子たち、お昼ご飯も食べていないの? 用意した方が良いかしら?」

「あ、お気になさらず。必要なのは食事ではなく魔力素なんで。召喚さえしてしまえば、あとは勝手に魔力素を吸収して、顕現の限界時間まで指示通りに働いてくれるんで・・・」

席を立ったメガーヌさんにお父さんがそう言って引き止めた。なんて言うか、もはやそれは奴隷みたいな・・・。そう考えてるのは僕だけじゃないみたいで、みんなが口を閉ざした。それから“スキュラ”の事は気にはなるけどお昼ご飯を終えて、食後休憩を1時間挟ん後にそれぞれ午後の予定を過ごす。アイリお姉ちゃんの授業を受ける僕とイクスは、ヴィヴィオ達の特訓が見られる休憩所に居るんだけど・・・

「――傍若無人にして厚顔無恥! 悪逆非道・大欲非道なマスターに、モノ申~~~~す!」

「もう少し、私たちの扱いを改善してほしいのですが・・・」

そこに上下一体の作業服、軍手、バンダナ代わりのタオルを頭に巻いたデルタとゼータがやって来て、ノーヴェと話をしてたお父さんに直談判した。

「・・・。で、俺のエインヘリヤルを、ヴィヴィオ達の特訓に使いたいんだったな」

「え? ええ、まぁ、そうです。が・・・」

2人を無視して話を進めようとするお父さんに、ノーヴェは答えながらもチラッと戸惑いながら2人を見た。そんなお父さんの様子にデルタが「シカトすんなコラぁー!」って、ポカポカ殴り始めた。

「いくら私たちがあなたの使い魔(エインヘリヤル)とは言え、待遇があまりに酷いとストライキを起こします!」

ゼータはお父さんの右の袖をちょんっと摘まんでの抗議。お父さんは小さく溜息を吐いて、「要求は?」って聞くと、2人が「え? えっと~・・・」って言い淀んだからノーヴェが「お前ら、要求も決めずに・・・」って呆れた。

「だ、だって! こんなアッサリ受け入れるなんて思わなかったし!」

「ヴァルハラでのセクハラをやめてほしいです!」

戸惑うデルタと違って、ゼータはビシッと挙手してすぐに要求した。デルタは「そんなことが出来るわけ――」って言い捨てようとしたけど、お父さんは「いいぞ」って即答。

「どぅえ!? いいの!? 18禁レベルのセクハラも本当にやめてくれるの!?」

「じゅっ・・・!?・・・姉様は一体なにをやって・・・」

お父さんが両手で顔を覆って項垂れたら、デルタが「ゼフィランサスはそこまではやってこないけどさ~。他の百合好きエインヘリヤルがね・・・」って肩を竦めた。

「では、私たちの要求は受け入れてもらえると?」

「姉様にはちゃんと伝えておこう」

「よっしゃー! アルファ、ベータ、イプシロン! グッドニュース!」

「ありがとうございます!」

デルタとゼータがスキップしながら温泉の方へ戻って行った。お父さんは「待たせた。じゃあヴィヴィオ、リオ。魔法を見せてくれ」って2人に向き直った。

「「は、はいっ!」」

「ソルフェージュ!」

リオが手に取ったのは六角形のアミュレット型のインテリジェントデバイス・“ソルフェージュ”を起動した。バリアジャケットまでは装着しなかったけど、魔力の流れがハッキリと変わった。

「レイジングハート、お願い!」

ヴィヴィオはなのはさんの長年のパートナーである“レイジングハート”を起動。待機形態の丸い宝石のままだけど、それでもスペックはすさまじい。

「よしっ。ヴィヴィオ、リオ、お前たちの魔法をルシルさんに見せてみろ」

ノーヴェの指示に「はいっ、あたしから行きます!」ってリオが挙手して、足元にベルカ魔法陣を展開。そして右拳から炎を噴き上げさせた。

「紅蓮拳!」

拳を突き出して放射するのは炎の砲撃。空高くにまで上がった砲撃を見届けた後、リオはお父さんに「以上です!」って一礼してから下がった。次はヴィヴィオで、“レイジングハート”を握りしめて、「すぅ・・・はぁ・・・」大きく深呼吸。足元に虹色に光り輝くベルカ魔法陣を展開。さっきのリオと同じように右拳に、火じゃないけど魔力を付加すると・・・

「いきます。ディバイン・・・バスタァァァーーーーっ!」」

グッと構えをとって、突き出したと同時に砲撃を放った。魔法を撃ち終わったヴィヴィオとリオがお父さんの前に整列したのを確認したノーヴェは、「ではお願いします」ってお父さんに一礼。

「我が内より来たれ、貴き英雄を。其は古の王の末裔、其は春光拳の使い手。来たれ、高町ヴィヴィオ、リオ・ウェズリー」

そうしてお父さんは詠唱した。お父さんや僕の共通の魔力光、サファイアブルーの魔力が2つの人型に集束していって、ヴィヴィオとリオになった。僕たちは「おお!」って歓声を上げたんだけど、すぐに?マークが浮かんだ。

「なんか所々が違う・・・?」

「うん。ヴィヴィオの髪がショートで、あたしの髪がロングになってる・・・」

そう、オリジナルと“エインヘリヤル”とじゃ外見が変わってた。僕たちの視線を受けたお父さんは教えてくれた。生きている人の“エインヘリヤル”を召喚するには、オリジナルと区別がつくように外見をアレンジしないといけないって。それが昔から決まってるルールなんだって。

「ま、とにかく、これで準備万端だ。よし、お前ら、午後の特訓は見ての通り自分とのスパーリングだ。自分の戦い方を客観的に見て、そして体験する。これほどの特訓は他にはない。しっかり勉強しろ」

「「はいっ!」」

こうしてヴィヴィオとリオは、自分とまったく同じ実力の“エインヘリヤル”とのスパーリングに入った。
 
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