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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica7-Dそうだ、合宿へ行こう~Road to Golem meister~

†††Sideアイリ†††

夜も更けてみんながようやく寝静まった頃にアイリとマイスターは、マイスターの水流系術式によって作られた空中温泉の元へとやって来た。ちょうど満月が浮かんでるから、魔力で明かりを灯さなくても十分明るいね。

「じゃあ水着を用意しないとな」

「アイリは別に裸のままで良いんだけどね~。寮住まいだった時も、アイリって割と裸でマイスターの前に出てたし」

ちなみに持ってきてたアイリや他のみんなの水着はメガーヌさんに洗濯、干してもらってるから着られないんだよね。

「その都度カーテンを必死に閉めるために、俺は調理中だろうがなんだろうが部屋中を駆け回ったんだけどな。万が一にも第三者に見られてしまえば、ロリコン疑惑を掛けられて、社会的に抹殺されるのは確実・・・」

「年齢的で言えばアイリも十分大人なんだけどね~」

科を作ってマイスターにウィンクすると、マイスターは「そうだな~」って棒読みでそう言って、アイリの頭をポンポン叩きながら目の前を通り過ぎた。マイスターにはホント色仕掛けって通用しないんだよね~。

「我が手に携えしは確かなる幻想」

――変化せしめし乱音(ディゾルディネ・カンビャメント)――

マイスターが指を鳴らすとポンッと耳触りの良い音がして、アイリとマイスターが煙に呑まれる。一瞬、裸になった解放感を得て、すぐに胸とお尻が水着に締め付けられる拘束感を得る。煙も晴れて自分の体を確認。

「・・・マイスター。布の面積がちょっと広くない?」

スカートのようなフリル付きの真っ白なワンピースタイプ。冷たいプールでなら別に良いんだけど、温泉ならもっと露出度が高くても良いと思うんだよね。アイリのその軽い文句に、「え、ダメか?」って割と本気で驚いた。

「マイスターが選んでくれた水着だから嬉しいんだけど、ここはいっちょアダルティ~な♪」

「ア、アダルティ?・・・む~・・・、じゃあコレでどうだ?」

再変身させてもらって、今度は「トライアングルビキニ。うん、いい感じ♪」って満足。気付けばマイスターもトランクスタイプの水着に変身済で、「夏以外には空中温泉はダメだな」って、空に浮かぶ球体を仰ぎ見た。昼間は螺旋状の水柱があったけど、今はマイスターが掘削した穴は魔法陣で塞がれてる。

「夕食時にもルーテシアに言ったが、水脈の規模からして向こう100年以上は涸れることはないだろうが、無駄に汲み上げるのももったいないからな」

「だね~。じゃあマイスター。アイリがあそこまで運ぶからじっとしててね~」

空中温泉へ続く水柱ももう無いし、今日1日で結構魔力を消費したし、ここはアイリがマイスターを連れてくのがベスト。だからマイスターに抱きつこうとしたら、「じゃあ頼む」って手だけを差し出された。

「え、あれ? 抱っこは・・・?」

マイスターを抱きしめるジェスチャーをすると、「いや必要ないだろ?」って首を傾げた。確かにマイスターの手を取って飛べばいいんだけどね。でもそれじゃ「アイリの柔らかオッパイを押しつけられないよね?」って聞き返した。

「何言ってるんだ?」

「だから、後ろからでも前からでもマイスターに抱きついて、ドキドキさせようって作戦なの!」

はやてよりは小っちゃいけど、形や柔らかさなら結構レベルが高いと思うんだけどなぁ。マイスターは「今さら過ぎてドキドキも何もないぞ」って呆れた。そりゃまぁ素っ裸な状態で抱きついたこともあるから、物足りないって言われてもしょうがないけどさ・・・。

「そっか。もうアイリの裸じゃ満足できないんだね・・・?」

「・・・そんな誤解を招く言い方は本当にやめてくれ、頼むからさ。というか、どいつもこいつもシャル化するのやめてくれ・・・」

「むぅ。マイスターだって男なのに、どうしてこうそっちの欲が無いの?」

「俺の実年齢を知ってるだろ? 三大欲求すら・・・あー、いや、睡眠欲以外は制御できるほどに存在してきたんだ」

「うーむ。もし・・・はやてならどう?」

「なあ、もうこの話はやめよう。ある種のセクハラだぞ」

アイリの頭をコツンと優しくゲンコツしてきたマイスターに、アイリは「はーい」素直に頷いてマイスターの手を取った。そして腰から一対の白翼を展開、大きく羽ばたいて空へと上がろうとした時、「へい、タクシー。相乗りお願い出来るか~?」って後ろから声を掛けられた。

「「はやて・・・!?」」

「満月の夜に温泉って乙なもんやな~」

そこに居たのははやてなんだけど、今のはやては「はや、ちょっ、なんて格好を・・・!」ってマイスターがガチで狼狽える格好だった。バスタオル1枚を体に巻いた状態で、マイスターは両手で目を覆いながら明後日の方を見た。ここまで狼狽えるマイスター、ベルカ時代を含めて初めてかも・・・。

「ふ、冬やなくて、うん、良かったわ~」

マイスターに比べて平然としてるはやて。と思えば、耳まで真っ赤っかで、手も胸と股を隠すような位置に持って来てるし。居心地悪そうに視線を彷徨わせてるはやてに、アイリは「はやても入りに来たの?」って聞いた。

「ルシル君が夜に入るって聞いてたからな。ほら、家やと一緒に入れへんやろ? さすがに私も恥ずかしさで1発KOレベルやと思うし。そやけどあそこまで大きな露天風呂ってなると、ちょう恥ずかしさは残るけどルシル君と一緒に入れるかな~って・・・」

「マイスター。睡眠欲以外の食欲や性欲は制御できるんじゃなかったっけ?」

アイリはニヤニヤとマイスターに歩み寄った。マイスターは「うく・・・」って悔しげに呻いた後、「はやて。水着に着替えさせるけどいいか? というか着替えさす」って、はやてに有無を言わさずに指をパチンと鳴らした。はやてが覆われた煙が晴れると、白と水色のストライプ柄なビキニに変身してた。

「おお! これならポロリもあらへんな♪」

「そんなこと言わなくていいから・・・。アイリ、頼む」

「ほーい!」

右手でマイスターの、左手ではやての手を取って、改めて空中温泉へ向かって飛び立つ。マイスターから「重力結界は無いから気を付けてくれ」という忠告を受けた。マイスターの妹・シエルの重力魔術は、他の“アンスール”やシエルの真技以外に比べて魔力消費がちょい低いから、アイリとユニゾンさえしておけばそう簡単には記憶消失には至らない。

「とつげ~き!」

「「ちょっ・・・!」」

勢いを抑えないまま温泉に突っ込んだ。閉じてた目を開けて、温泉の中心でマイスター達と水泡の中で視線を交わし合う。そしてアイリ達は手を離して一緒に上の水面へ泳いで、「ぷはっ!」と顔を出す。

「おーい、アイリ~?」

「突っ込むなら突っ込むって言ってくれへんかな~?」

「あっはっは!」

アイリが大きな声で笑うと、マイスターとはやても顔を見合わせてから「あはは!」って笑い声を上げた。3人で笑い合った後、川の字になって水面に浮かんで満月を見上げる。

「そう言えば・・・真っ先に来そうなシャルが来ないな」

「あ、アイリもそれ思った。はやてですら来ちゃうんだし、シャルが来ないのは天変地異の前触れかもね~」

「シャルちゃんならもう寝てるよ~?」

「「え!?」」

まさかのすでに就寝とは。はやての方を見ると、はやての目が泳いでることに気付いた。だから「はやてが何かしたの?」って聞いてみた。マイスターも「はやてにしては珍しいな~」って苦笑。

「ちゃうよ!? 私が率先してやったわけじゃないんよ!? ただ・・・」

「「ただ?」」

「疲れ果てて眠そうにしてたシャルちゃんに、アインスの眠りに霧をお願いして・・・な」

「・・・」

「それ、やってるよね、はやて・・・」

「うぁ~、やっぱそう思うか~・・・」

両手の人差し指の先端同士をツンツンしながら答えたはやて。眠りの霧って、オリジナルはマイスターの下級水流系術式の1つだったよね。アインス復活の際、マイスターはマイスターと同等以上の戦闘力をアインスに付加した。その時にマイスターの術式も幾つか習得させたみたいだし。

「でも、ふ~ん。はやてが恋敵に妨害を、ね~」

「あぅ~。シャルちゃん、結構フラフラしてたからな。あの状態でお風呂なんて危ないな~って」

「それは妨害ではなく、優しさ、だな」

「ルシル君、おおきにな♪」

「ま、八神家のお父さんとお母さん+アイリの家族水入らずっていうのも、良いものだと思うよね」

このすぐ後に、はやてが戻って来るまで起きて待ってるっていうアインスも呼んで(リイン達は爆睡中ってこともあって誘えなかった)、アイリ達4人で静かな温泉を楽しんだ。

†††Sideアイリ⇒ヴィヴィオ†††

合宿2日目。メガーヌさんとはやてさんとアインスさん作の美味しい朝ご飯を食べた後に1時間の休憩を挟んで、わたしとコロナとリオ、フォルセティとイクス、それにリヴィとルシルさんとアイリは、トレーニングウェアに着替えてアスレチック広場へと移動していた。

「よし。いつも通りに準備運動!」

「「「「はい!」」」」

「イクスも無茶しないレベルでな」

「はいっ!」

イクスはあくまでサポーターだから、トレーニングしないで見学だけで良いんだけど・・・

――いえ。何事も挑戦、経験です。それに学院でも似たような授業がありますし。何より友達と共に汗を流すのは気持ちが良いですから――

そう言って、イクスはノーヴェのトレーニングに付き合ってくれる。イクスもコロナみたいに学者タイプなのに、フィジカルトレーニングもきっちり大切にするすごい子なのです。

「アイリとリヴィ、それにルシルさんも、トレーニングに参加するの?」

「ああ、御一緒させてもらうよ」

「私は基本、朝と夕とで走りこみをするから」

「まあね。融合騎でもスタイルには気を遣うんだよ」

「変身魔法でその姿になってるのに・・・ですか?」

「そうだよコロナ。融合騎でも太っちゃうんだから、変身後もダイレクトに残っちゃうのさ」

そう言ってアイリは着てる上着を捲ってお腹を見せてきたけど、普通に引き締まってるように見える。でも「ほらね~」ってお腹のお肉をちょいっと摘まんで見せた。

「う~ん、でもそれくらいのお肉なら普通じゃないかな~?」

「ヴィヴィオの言うとおりだな。ボディビルダーやアスリートを目指すなら止めはしないが。アイリはそのままで十分引き締まっていると思う。なあ? フォルセティ」

「うんっ! アイリお姉ちゃんは今のままで格好いい!」

ルシルさんとフォルセティがそう言うと、アイリは嬉しそうにお礼を言った後、「ま、胸は減らしたくないからね~♪」って揺れる胸を張った。そんなアイリと一緒に念入りに準備運動をして、「じゃあ先ずはランニングだ」ってノーヴェの指示が出て、わたし達は「はいっ!」って答えて走り出す。

「どれどれ。ランニングなんて久しぶりだな」

「あ、ルシルさんは別に走らなくても・・・!」

「息子とその友達とのコミュニケーションだ。それに俺のような戦闘魔導騎士には、こういった基礎練も必要だよ」

ルシルさんがわたしたち子供の速さに合わせて走ってくれている中、リオが「ルシルさんって、すごい騎士なんですよね!」って目をキラキラさせた。アイリが「空戦SS+、通り名は軍神な、オールラウンダーだよ♪」って自慢げに語った。なのはママとフェイトママでも空戦S+だから、ルシルさんのすごさを改めて思い知れる。

「おお! ルシルさんからも何か教わってみたら、あたし達ももっと強くなれるかも・・・!」

「そうは言っても俺が教えられるのは、ストライクアーツなどのスポーツ格闘ではなく、犯罪者を本格的に叩きのめす技だ。君たちに教えていいものじゃない」

「な、なるほど~」

「じゃあスパーリングの相手とか?」

「ヴィヴィオやリオとは身長差が違い過ぎて、お父さんじゃ務まらないよ」

そう言うフォルセティに続いて私も「ルシルさんのスキルが重要なんだよね」って唸る。ノーヴェは、ルシルさんのスキルを頼りにしたいみたいだったし。

「ヴィヴィオやリオは、独自の魔法は持っているのか?」

「はいっ、はいっ! あたしはあります!」

リオが走りながらも元気よく答えた。リオはデバイスも持ってるし、すごい強いし、魔法も使えるし、リオってホントにすごい子なんだよね。でも「わたしも一応は・・・」って小さく挙手した。

「ヴィヴィオは確か、なのはのレイジングハートを借りて、魔法の練習をしているんだったか?」

「あ、うん。レイジングハートは優秀だから、思いついた魔法もしっかりアシストしてくれるけど・・・。レイジングハートが無かったり、授業で借りられるストレージだったりじゃ、うまく発動できなくて、まだまだ未熟なのです」

わたしはしょんぼり肩を落とす。でも今回の合宿だとママも、貸してあげる、って言ってくれたし。フィジカルトレーニングだけの合宿で終わらずに済みそう。ルシルさんは次に、「コロナは、創成と操作が得意だと聞いているよ」って声をかけた。

「あ、はい! 私に合ってるのがその魔法だったので、伸び代のある創成を頑張ろうって決めました!」

「お父さん! コロナの創成魔法ってすごいんだよ! 僕とヴィヴィオって、創成も操作も下手だから。ね? ヴィヴィオ」

満面の笑顔でフォルセティにそう振られて、わたしは「あはは・・・はあ・・・」乾いた笑い声を上げた。ルシルさんは「得意不得意があるのは当たり前だ。気にするな」ってフォローしてくれた。

「話を聞く限り、どうも俺の担当はコロナになりそうなんだよな。俺は騎士は騎士でも魔法戦を得意とする魔導騎士だ。俺の複製スキルなら、コロナの創成魔法のスキルアップにも役立ちそうだよ」

ルシルさんがそう予想した。みんなで、そうかも~、なんて笑いながらランニングが終了。ストレッチをしてると、ノーヴェが「あの、ルシルさん」って呼んで、2人で何やら話し始めた。

「・・・それは、あの子が決めたら、ということだな」

「あ、はい、それでお願いします。・・・よし、集合!」

号令をかけたノーヴェの元に集合して、今日のトレーニングの予定が発表された。わたしとリオは、昨日ルールーやルシルさん達が高速で組み立てたアスレチックで体力作り、そのあとにリヴィアとの組み手だ。

「正直こう言っちゃ格好悪いが・・・リヴィアはあたしより強い。あたしの見立てじゃインターミドルの都市本戦レベル。お前らが目指す将来のライバルの仮想敵としては、何も問題ないはずだ。つうわけで、リヴィア、後々で手伝いを頼む」

「オッケー! よろしくね、ヴィヴィオ、リオ♪」

「うんっ!」「はいっ!」

「んで、コロナ。お前は、ルシルさんの協力の元に創成や操作魔法のスキルアップをしてやってもらおうと思う」

ノーヴェがそう言ってコロナ、続いてルシルさんを見た。ランニング中に話してた予想がまさに起きた。ルシルさんは静かに頷いた後にコロナを見て、「決めるのは君だ」と告げた。

「インターミドルに出場するかどうかは保留って話だったが、何かのきっかけで出場したいってなった時の為に、今からお前の得意分野を伸ばしておこうって考えたわけだ・・・。どうだ、やってみるか? ルシルさんは、局どころか管理世界でも指折りの魔導師でもある。こんな機会、滅多にないと思うぞ?」

コロナは口を閉ざして小さく俯くと、握った両手を胸の前に持って来た。ランニング中、コロナは結局答えを口にしなかった。今も何か深く考えてるみたいだし。やっぱりコロナはインターミドルには出場しないのかな。それはコロナが決めることだけど、ちょっと寂しいな~って思っちゃう。

「どうだ? コロナ」

「・・・あの、ルシルさん。わたし、強くなれるでしょうか・・・?」

顔を上げたコロナが、ノーヴェの隣に立つルシルさんに尋ねると、ルシルさんは体を屈めて目線をコロナに合わせたうえで「それは、コロナ次第だ」って、大丈夫とか絶対とか甘い言葉じゃなくて、あくまでコロナの頑張りに懸かってるってことを伝えた。

「・・・お願いします!」

少し考えた後、コロナは勢いよくお辞儀した。ルシルさんは「決まりだな」って嬉しそうに、でも大人として指導者としての険しさを少し残しながら頬を緩ませた。それから私たちはアスレチックエリアに移動して、わたしとリオ、それにリヴィアの3人で体力作りを始めて、コロナとルシルさんは休憩スペースへ。フォルセティとイクスはアイリから医学の勉強だ。

†††Sideヴィヴィオ⇒ルシリオン†††

ノーヴェに頼まれ、俺はフォルセティとヴィヴィオの共通の友人であるコロナ・ティミルの、創生・操作魔法のトレーニング指導を請け負うことになった。俺の知っているコロナの魔法は、ゴーレム創生。先の次元世界にて、セレス率いるテスタメントのサフィーロとして活動していた時、来年のインターミドルを観戦している。

(その際に、コロナの魔法もしっかり複製しているが・・・。彼女のデバイスが完成していない過去である今、あそこまでの魔法を教授するわけにもいかない)

そもそもゴーレム創生はコロナが頑張ってたどり着き、習得した魔法だ。俺が一から教えるなどという近道を辿らせては彼女のためにはならない。とりあえずアスレチック側に建てた休憩スペース・あずまやに移動する。

「さて。まずは、コロナ、君がなりたい戦闘スタイルがどういうのか聞いてもいいかい?」

なら俺のやるべき事はアドバイスで導くこと。コロナは頭のいい子だと聞いている。自ずと自分に合うスタイルを、実践して確かめるまでもなくイメージだけで固めるはずだ。

「えっと、はい、そうですね・・・。わたしは、ヴィヴィオ達みたいにそんなに運動が得意なわけじゃないんです。ですから、創成したものを前衛に、わたしは後衛でサポートするのが一番かな、と」

コロナは僅かな思考の後、そう答えを導き出した。俺は「なるほど。良い答えだ」と返し、実際に創成魔法を見せてもらえるように頼む。現時点でのコロナの魔法を複製し、術式からどう改良していくかを話して決めればいい。

「あの、デバイスが無いと、魔法が使えないので・・・」

「ああ、だから・・・」

予想は付いていた。この歳でデバイス無しでの魔法発動は、ほとんど無理なものだ。左手の中指にはめていた指環・“エヴェストルム”をコロナに差し出した。最初はその行為が何を意味するのか理解できなかったようで、コロナは「はあ・・・」と指環を見つめながら空返事。

「エヴェストルムはストレージデバイスで、その容量も膨大だ。性能は申し分なし」

「・・・?・・・えっ!? あ、あの、でも・・・! ルシルさんのような命懸けの戦場で戦う騎士のデバイスを、わたしのような子供で、魔導師として素人レベルがイジるのは・・・!」

不安そうなコロナに、「問題ないよ。フォルセティにも使わせているから」と伝える。フォルセティも、俺と同じようにデバイスを介さずに高威力・高効果の魔法を発動できる。しかし確実性が俺に比べて無いに等しい。
だから新しい魔法を開発した際は、必ず“エヴェストルム”を一度通して発動させるようにしている。“エヴェストルム”はオートで術者の発動した術式も記録できる(ようにした)ため、その問題点を本人や第三者が閲覧し、改良しやすくなる。

「(まぁ、俺とはやてとアインスの3人で、徹底的に術式を精査して、暴発しないように気を付けているが)・・・とにかく、そういうわけだから。変に遠慮せずに思いっきり使ってくれていい」

「ふぁ・・・!?」

俺はテーブルの上に載っているコロナの右手を手に取り、指環のサイズに合う指を探す。9歳の女の子であるコロナの手は小さく、指も細い。親指が合いそうだが・・・。顔を赤くしているコロナに今さら気付いたが、申し訳なく思いつつも「親指だな」と彼女の親指に指環をはめる。

「その状態で魔法プログラムを起動すれば、エヴェストルムがプログラムを読み込んで発動をフォローする」

「あの、じゃあ・・・や、やってみますね」

あずまやより出て広い場所へと移動する。コロナは何度も深呼吸して足元に小さな召喚魔法陣を展開し、「創成(クリエイション)!」と岩石で構成された、20cmほどの大きさのゴーレムを造り出した。

「ど、どうでしょうか・・・?」

「うん。このゴーレムは操作できるかい?」

答えを知っていながらも俺はそう尋ねると、「あ、いえ。操作するには、クリスタルを核にしないとダメで・・・」とコロナはそう答えた。

「このサイズにクリスタルを入れた状態での操作は?」

「それなら出来ます」

「よし。ゴーレムのサイズを徐々に上げていこう。プログラムは構築できているかい?」

「えっと・・・ごめんなさい」

現時点ではこのサイズが精いっぱいということか。“エヴェストルム”に記録されたコロナの魔法の術式をモニターに表示させて、「問題ないよ。俺も手伝うから、一緒に完成させよう」と伝えた。

「はい、お願いします!」

コロナの創成魔法の術式は難解なものではなく、子供らしいシンプルさがある。これならノーヴェに頼まれた複製による手助けも必要ないな、今のところは。魔術でいう術式は魔法ではプログラムといい、魔法の構築式を教えれば、基本的に同じ魔法を他人も扱えることが出来る。それが魔法のメリットだな。

「えっと・・・ここは・・・」

「そうだな。少し複雑になるけど、こうすれば・・・魔力消費が抑えられる」

「あ、なるほどです。でもエヴェストルムの性能頼りになってしまうのは・・・」

「大丈夫、そこは考えて組み立てているよ」

コロナ自身にプログラミングさせながらのアドバイス。呑み込みも早く理解力もある彼女だからこそ、こちらも楽しくなってくるというもの。ある程度術式を整えさせては、「はい、発動」と指示を出して彼女にゴーレムを創成させる、を繰り返す。そんな中・・・

「あの、ルシルさん。1つ聞いても良いですか?」

「ん?」

「わたしの魔法って複製されてますか? もしされているのでした、わたしのゴーレムをルシルさんがアレンジ発動したら、一体どうなるのかな?って思いまして・・・」

そう聞いてきた。複製したモノをアレンジ出来るということは、昨夜の夕食時に話したからな。俺が「見せようか?」と聞き返すと、「ぜひっ!」とお願いされたため、「我が手に携えしは確かなる幻想」と詠唱し、コロナの魔力光である黄色の召喚魔法陣を展開。

「(名前はそうだな・・・)灼熱の巨神、スルト!」

ムスペルヘイムの王の1人であったスルトの名を冠した10m級ゴーレムを創成する。轟々と燃える岩石の巨兵を見たコロナは、「すごい・・・」と口を半開き。さらにアスレチックの方から「何アレー!?」とヴィヴィオ達の驚きの声が聞こえてきた。

「とまぁ、これが俺なりのアレンジだ」

「すごいです!」

「これからも研鑽を積んで行けば、ゴーレムは必ずコロナや友達を護れる頼れる戦力となるだろう。日々精進を怠らず、だよ」

「はいっ!」

それからも改良と構築を繰り返すこと数回。とうとうコロナが「はぁ・・・はぁ・・・」と息を切らし始めた。

「(魔力も限界に近いか)・・・じゃあとりあえず一旦休憩だ」

「はいっ!」

あずまやへと戻り、「はふぅ~」とテーブルに突っ伏すコロナに、「お疲れ」と労いの言葉を掛ける。

「いえ、ありがとうございます。ルシルさんのおかげで、ゴーレムもあそこまで大きく出来ました!」

居住まいを直し、頭を下げて礼を述べてくれたコロナの視線が別の方を向く。俺もそちらへと目を向け、俺の知るゴーレム、ゴライアスより一回りほど小さなゴーレムを視界に入れる。デザインもゴライアスに似通って来たし、完成まではもう一押しだが・・・。ここらからコロナの裁量で最適化させていくべきだ。

「どういたしまして。あとはコロナ自身のデバイスと、操作するのに必要なゴーレムとリンクするクリスタルだが・・・」

「うぅ、どうしましょう? わたし達がインターミドルに参加できるのは来年ですけど、なにか焦ってしまいます」

溜息を漏らすコロナ。ヴィヴィオも何気にデバイスを持たせてくれないと嘆いていたな。なのはのことだから、その辺りはしっかり考えているだろうが。コロナはそう言った繋がりは無いに等しいらしい。

「それなら、コロナ」

「はい、なんでしょう?」

「すずかかルーテシア、どちらかに頼んでみよう」

だから俺はそう提案するのだった。 
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