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勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
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第18話 デスマッチ!掟破りの必殺破り!?

 海は広い。
どれ位広いかと言われると、心の広いと言われてる人の懐よりは確実に広い。
どんなに広い心を持っていると自負したところで、この広大な海程広い心を持った人間はいないだろう。
 少なくとも今のところはだが―――
 空を照らすは満点の星とまん丸く輝く月の明りだけ。
日本近辺の広大な海は正に静かで平和そのものと言った光景を写し出している。
そんな海の上を悠々と一隻の大型タンカー船が日本へ向けて進路を取っているのが見える。船内には他国から輸入した代物でさぞかし満杯になっている事であろう。
 中身は何か、それは別に問う必要はない。
何故なら今回の話とは関係ない事だし。
 
【ひっひっひっ、壊し甲斐のある船だぜ!】

 突然、タンカー船の横腹の水面が盛り上がる。
水しぶきを上げてタンカーを今にも襲おうと巨大なクラゲ型の宇宙人が姿を現した。
 ゴクアク組が密かにダイバンチョウ攻略用にと送り込んだ海洋惑星出身のクラーク星人だった。
 陸上では無敵を誇るダイバンチョウでも海中では果たしてどうだろうか。その疑問を探るべく密かに送り込まれたのがこの宇宙人だ。
 そのクラーク星人が憎きダイバンチョウに挑戦状を送るべく呑気に海上を航海していた大型タンカー船を襲撃しようと海上へと姿を現してきた。
 タンカー船内では突如現れた宇宙人を前にして船員達が皆パニックに見舞われている真っ最中であり、まともに航海できる状態ではない。
 ましてや、このクラーク星人を相手に逃げに徹したとしても即座に追いつかれてしまい海中へ沈められてしまうのは目に見えている。
 どの道タンカー船の命運は火を見るよりも明らかな事と言えた。

【この俺様の潜んでいた海域を渡ったのが運の尽きよ! このクラーク星人様の最初の犠牲者になる事を喜んで地獄に……うん?】

 今にもクラーク星人が襲い掛かろうとした矢先の時だった。
 クラーク星人は何かの気配を感じ取った。
 それも、今襲おうとしている地球人の気配でもなければあの憎きダイバンチョウの気配でもない。
 全く別の気配だった。
 一体何者なのか。
 他にもダイバンチョウを倒すべく送り込まれた宇宙人であろうか。だが、仮にもしそうであれば連絡を寄越す筈。それがないとなれば一体何者なのか?

【誰だ、この俺様に挨拶もなしに通り過ぎようとする無礼者は!? 今すぐに姿を現して名を名乗りやがれ!】

 姿が見えず気配だけが感じ取れる。
 クラーク星人は姿の見えない相手に向かい空しく喚き散らした。中には相手を適当に罵倒するような言葉もちらほら見受けられる。
 だが、気配の主は一向に姿を現そうとしない。
 いい加減苛立ちを感じ始め出した正にその刹那だった。
 突如、クラーク星人の周囲を覆うかのように猛烈な突風が吹き荒れたのだ。
 その威力は凄まじく、海面に居た筈のクラーク星人の巨体が瞬く間に空中へと持ち上げられてしまったのだ。

【な、なんだなんだなんだぁぁぁ!!】

 全く状況が呑み込めていないクラーク星人が慌てふためき暴れまわる。
 だが、猛烈な突風の渦の中でそれはただ空しい行為に過ぎなかった。
 やがて、クラーク星人の周囲の風はより強さを増し、仕舞には猛烈な竜巻となってクラーク星人の体を捻じ曲げていく。
 唸りを挙げる竜巻の轟音とその中で微かに響くクラーク星人の苦痛の悲鳴。体がねじ曲がり、肉がねじ切れ、肉片が飛び散り海面へと落ちる。
 強烈な竜巻は凶悪な宇宙人の体を容赦なくズタズタに引き裂いてしまった。
 竜巻が止んだ後、残っていたのはクラーク星人と思わしき残骸が海面に落下し、そして海中へと沈む光景のみが写し出されていた。
 そんな風景を上空から見下ろす影があった。
 数は三つ、無言のまま海面へと落ちて行く惨めな宇宙人の躯を見つめ続けている。

【弱い、弱すぎる―――】
【所詮は海洋惑星出身の宇宙人。我らの敵にあらず】
【時間の無駄であったか。噂では強者の集う星と聞いたのだが―――】

 三体の影がそれぞれ呟くかのように互いに言葉を零す。この影は一体何者なのだろうか? 敵か、はたまた味方か? それを知る事は未だ誰も出来ない事であった。




     ***




 日本近海で起こった事件はすぐさま朝のトップニュースとなり、新聞の一面にでかでかと載る程の大騒ぎになるのにそう時間はかからなかった。
 ニュースと新聞と同じように、噂もまた凄まじい速さで伝わっていく。それは、此処番長高校でも同じ事。
 クラス中がその話題で持ち切り状態となっており、口を開けばそのネタの事が一番先に飛び出してくるほどだ。

「ねぇねぇ、番」

 普段通り自分の席でのんびりくつろいでいた番の元へ美智が声を掛けて来た。彼女が番に声を掛けるのは割と珍しい事じゃない。寧ろ声を掛けない方が珍しい。

「何だよ?」
「今朝のニュース見た? また変な宇宙人が現れたんだってさ」
「あのなぁ、クラス中がそれで話題になってるのを俺が知らない訳ねぇだろう。とっくに俺の耳に入ってるっての」

 そう言って自分の耳を指さす。彼女が言おうとしていた事とはずばり今話題の宇宙人の事だった。が、そんな事番にとって見れば左程珍しい事ではない。
 何しろ現在進行形で宇宙人相手に喧嘩をしまくっている身の上なのだから。
 相手が喧嘩を売ってくる以上買うのが礼儀と言うのは不良の常識・・・と思われる。
 とにかく、売られた喧嘩は買うのが番の主義であり、宇宙人が地球にやってくると言うのは簡単に言えば番に喧嘩を売りに来たと言っても過言ではない。
 そして、そんな事をする輩は大方予想がついていたりする。

(まぁたゴクアク組の奴らか。ま、誰が来ようが今の俺にゃ相手じゃねぇがな)

 自信有り気に番は笑みを浮かべる。その理由は前回の戦いにあった。
 木刀ブレードに代わる新たな必殺技、その名も【番超拳】を習得したからだ。この番超拳がある限りどんな宇宙人が来たところで敵ではない。
 その自信が番の笑みへと繋がっていたのだ。

「何にやけてるの? 気色悪いよ、番」
「るせぇ! にやけたって良いじゃねぇか」
「番は良くても私はやなの!」
「へぃへぃ、もうにやけませんよ・・・ったく」

 新必殺技を編み出したとしても相変わらず美智には頭が上がらない様子の番であった。

「轟番、ちょっと良いか?」
「ん?」

 そんな二人の元へ全く別の人が訪れて来た。その声の主に番は勿論美智もまた視線を送る。

「あれ、峰君。どうしたの?」
「なんだよ。今朝はまた校門で俺の事を止めやがって」
「当たり前だ! お前、また学生証を忘れたそうだな。しかも、最近学校の外で喧嘩を繰り返しているそうじゃないか! いい加減にそう言った横暴な振る舞いは謹みたまえ!」
「るせぇなぁ。不良が喧嘩しなくてどうすんだよ?」

 峰守の口うるさい説教に番はほとほと参ってしまっていた。彼の説教は実に耳が痛い。それもつい最近になってからだ。

「良いか轟番! 今後この学校の名を汚す行為をすれば風紀委員である僕が黙っていない。肝に銘じておくんだ」
「はいはい、気を付けますよ。風紀委員さんよ」

 口うるさい峰の言い分に番は適当に受け答える。その仕草に苛立ちを感じつつも言いたい事は言えたのかすごすごとその場を後にして去って行く。
 ようやく五月蠅い輩がいなくなったのか肩の荷が下りたかのように深いため息を二人は吐いた。

「何か、最近になって峰君変わったね。前はあんなに五月蠅くなかったのにね」
「何か変な物でも食ったんじゃねぇのか?」
「まさかぁ、番じゃあるまいし」
「何で俺が出てくんだよ?」

 ネズミや野草を常食している辺りそう言われても致し方ない気がする。

「まぁ、確かに最近のあいつは変だな。前はあんなに口うるさくなかったってのに・・・どうしちまったんだ? あいつ」

 疑問には感じるだろうが、考えてても仕方のない事。どうせいずれは答えが出るのだろうし、その時に知れば良いだろう。そう番は思った。




      ***





 辺りはすっかり秋模様となり、正午を過ぎた辺りのこの時刻はとても過ごし易い季節となった。街を行く人達の中には既に薄着の上に一枚上着を羽織っている人の姿もちらほら見受けられる。正に平和な日常と言えた。そんな日常の風景に溶け込んでいるかの様に、一台の救急車が車道を走っている。番長組に所属しているレスキュー番長が擬態している救急車であった。

【最近ゴクアク組の悪い人達が来ないから平和だなぁ。このままずっとこの平和が続けば良いのになぁ】

 余りに平和な為か、呑気にそんな事を呟き始めるレスキュー。彼自身戦いを好む訳ではない。他の番長達が喧嘩好きな中で彼だけが喧嘩に関しては消極的だった。
 今回も無事に患者を送り届け終わり、後は車庫に戻るだけ。それで今日一日が終わる。そうなる筈だった。

【ん?】

 ふと、そんなレスキューが何かを見つける。宇宙人であるレスキューがふと見上げるのだから当然この地球にはない何かを見つけたのであろう。
 それは、最近になって数を増した高層ビルを物珍しそうに眺める三体の巨大な宇宙人なのだからまぁ当然レスキューに限らずその近辺を行く人達も当然目に留まる訳であり―――

【兄者よ、これを見よ。我らの姿が映っておるぞ。どうなっておるのだ?】
【弟達よ。こちらには小さな箱が動いておるぞ。地球とはかくも珍しい物ばかりで飽きぬものよ】
【それにしも兄者達よ。地球に住む者達はこうも小さきものなのだなぁ。これではうっかり踏んでしまいそうになる。気を付けねばいかんぞ】

 明らかに今まで地球にやってきた宇宙人達とは全く異質と言うか場違いな雰囲気を持った三体の宇宙人のそれが映っていた。
 一体はビルのガラスに映る自分の姿に驚き、もう一体は道路を走る車に興味を持っており、そうかと思えばその周りを歩く人達の小ささに不安を覚える者も居たりと何と言うか、喧しく、その上忙しい感じの宇宙人達であった。

【あ、あれは……まさか、そんな―――】

 そんな忙しい三体の宇宙人のその姿を見た途端、レスキューの声が震えた。気のせいか車体自体もガクガクと震えだしている。

【おぅおぅおぅぅぅ! 凝りもせずまた来やがったか侵略宇宙人が!】

 震えあがるレスキューを他所に、三体の宇宙人へ向かう者の姿があった。最早お馴染みダイバンチョウその人であった。

【む、侵略宇宙人とは我らの事か?】
【他に誰が居るってんでぃ!】
【むぅ、言われてみれば確かにそうだな。我ら以外に宇宙人とやらはいないようだ。では、我らは侵略の為に来た・・・と、言うのか?】
【・・・・・・は?】

 唐突にそんな事を聞かれた為か、ダイバンチョウ自身も返答に困り果ててしまった。

【兄者よ、我らは別に侵略目的で来た訳ではないぞ】
【その通りだ。我らはこの星に宇宙を揺るがすほどの強者が居ると聞いてその強者に挑戦しに来ただけではないか】
【おぉっ! そうであったそうであった。危うく目的を忘れて侵略とやらをするところであった。すまぬな弟達よ】

 まるでコントを見ているようだった。マイペースな長男とそれを上手く誘導している弟達。そんな三体の宇宙人を前にしてすっかりさっきまで盛り上がっていた戦闘ムードが台無しになってしまっていた。

【な、何なんだよこいつらは―――】
【では、早速我らの目的を開始するとしようか】
【兄者よ、その前にそこにいる奴が我らに用があるようだが】
【む、我らに用があると。それは無碍にする訳にはいかぬな】

 そう言うと長男と思わしき宇宙人が道路のど真ん中で胡坐をかき、主室にダイバンチョウを前に見据え始めた。

【それで、我らに何用かな?】
【いや、あの、そのぉ・・・お前ら、何しに来たんだよ・・・ってか、お前ら何者?】
【我らが何者かと、如何にも我らはこの星の外からやってきた所謂宇宙人だが、それがどうかしたのか?】
【兄者よ、それでは分からぬぞ。もっとわかるように説明せねばならぬのではないか?】
【む、そうか・・・うむぅ、説明するのはどうにも苦手だ。はて、どう説明すればよいのやら―――】

 ダイバンチョウを前にして、長男と思わしき宇宙人は腕を組んで本気で悩み始めた。此処までくると流石のダイバンチョウも立つ瀬がなかった。回りに居た人達もどう対応すればいいのやら困り果てた顔をしてしまっていた。

【に、兄さん!!】
【へっ!?】

 そんな場の空気を壊すかの様に、声を張り上げたのはレスキューであった。
 車に擬態していた姿を人型形態へとその姿を変えてダイバンチョウの前に現れる。

【レスキュー!? 何でここに・・・ってか、今兄さんって―――】
【ほぉ、何処かで見たかと思えば・・・貴様か】

 レスキューの姿を視認した途端、長男と思わしき宇宙人の目つきが鋭くとがりだした。他の二人の宇宙人もまた同様に鋭い目つきでレスキューを睨みつけて来る。

【兄さん、どうして地球に来たんですか!?】
【貴様に言う儀理などない。無論、貴様に会いに来る道理も儀理もない】
【お、おいおい! 一体全体どうなってんだよ? さっぱり分からねぇよ!】

 レスキューと三体の宇宙人の間に走る緊張。しかし、すっかり蚊帳の外となっているダイバンチョウには全く理解できない世界でもあった。

【おぅい、番! 喧嘩の助太刀に来てやったぜ!】
【久々の喧嘩じゃ喧嘩じゃ! 腕が鳴るのぉ】
【ったく、何時も真っ先に飛び出すんじゃなくてちったぁあたぃ達の事も待ったらどうなんだい?】

 それから遅れてドリル、レッド、そしてクレナイバンチョウが現場へと駆け付けた。

【むっ! 其処に居る奴ら……おんしら、まさか『バトル星人』か!?】
【バトル星人?】

 三体の宇宙人の姿を見たレッドが呟く。どうやらレッドはこいつらの事を知っているようだ。

【如何にも、我らは宇宙一の戦闘型宇宙人、その名もバトル星人! その中でも最強の戦士よ!】
【最強の戦士だってぇ!?】
【そう、我こそ長男の『バトル太郎』】
【同じく、次男の『バトル次郎』】
【更に同じく、三男の『バトル三郎』】
【【【我ら三人揃って、無敵のバトル三兄弟なり!!!】】】

 三体の宇宙人がそれぞれ名乗りを挙げる。どうやら今までゴクアク組が送って来た賞金稼ぎや組員とは違う相手のようだ。その証拠にさっきから三体の宇宙人達が放つ気迫が尋常なものじゃなかった。

【って事は・・・レスキューも、バトル星人なのか?】
【すみません・・・隠すつもりはなかったんです。ただ、僕は戦いをするのが嫌だったんで、名乗りたくなかったんです】
【マジかよ!? お前みたいな臆病者があのバトル星人!?】

 メンバーの中で一番ドリルが驚いていた。しかし、流石に臆病者とは言い過ぎなのでは?

【情けない、仮にも我らと同じバトル星人でありながら戦いから逃げるとは。貴様は我らバトル星人の面汚しよ!】
【ましてや我らと血を分けた兄弟であれば尚更よ】
【終いには我らが母星を捨て、このような辺境の星に逃げ延びているとは、戦いから逃げた腰抜けめ!】
【ぐっ―――】

 容赦のない罵詈雑言の嵐がレスキューに降り注ぐ。その言葉の責めにレスキューは、ただ歯を食いしばる事しかしなかった。

【てめぇら、さっきから聞いてりゃ言いたい放題言いやがって!】
【番さん―――】

 そんなレスキューとは対照的に、番ことダイバンチョウが間に割って入って来た。

【何だ貴様は。部外者には関係ない事であろう】
【大有りだ! こいつは腰抜けでもなけりゃ面汚しでも臆病者でもねぇ! この俺が認めた男、即ち俺と同じ『番長』だ!】
【番長?】
【おぅよ! こいつも、俺も、そして此処に居る奴らも皆、熱い魂と拳を持った天下無敵の喧嘩番長たぁ、俺達の事よぉぉ!!】

 自身を指差し、声高らかにそう叫ぶはお馴染みダイバンチョウ。その光景はとても誇らしく、とても雄々しく、とても輝かしく、そうレスキューには見えた。
 
【ほぅ、我ら無敵のバトル三兄弟を前に天下無敵と言い放つとは、大した自信のようだな】
【我らに勝つ勝算があるのか、或はただの無知故の暴言か―――】
【やはり、この星は面白い。我らに挑む輩が居るとは】

 天下無敵―――その言葉を耳にした途端だった。バトル三兄弟の目の色が変わった。さっきまでのおどけた目つきでもなければ弟を見下す目つきでもない。戦いを目前に控えた戦士の目へと移り変わっていた。

【御託は良いからさっさと来やがれ! バトル三兄弟だか何だか知らねぇが宇宙最強を名乗りてぇんならまずこのダイバンチョウを倒してからにしてもらおうか】
【貴様こそ、天下無敵を名乗るならば我らを下してからにして貰わねばな】

 互いに啖呵を切り合い、そのまま歩み寄り激しくメンチを切り合うダイバンチョウとバトル太郎。今にも激しい殴り合いが勃発しそうな程の緊張感が辺りに漂ってくるのがその場にいた者達には感じ取れた。

【ま、待って下さい、番さん!】
【兄者よ、しばし待たれよ!】

 そんな緊張感を引き裂くかの様に、ダイバンチョウをレスキュー番長が止め、バトル太郎をバトル次郎が止めた。

【何すんだよ、レスキュー!】
【幾ら番さんが強くても駄目です。相手はバトル星人の中でも最強の存在なんです。彼らの……兄さん達の強さは僕が身に染みて分かっています。だから―――】

 それ以上の言葉は続かなかった。
 だが、レスキューが言いたい事は番には分かる。
 奴らは強い。
 恐らく、今まで戦ってきたゴクアク組の構成員や刺客達とは比べ物にならないほどの強者であることは間違いない。
 だが、だからと言ってそれですごすごと引き下がるようなダイバンチョウではない。
 ましてや、相手の喧嘩を買わずに逃げるなど番にはできる筈がなかった。

【レスキュー、悪いが今回は俺があいつらに喧嘩を売ったんだ。此処まで啖呵を切って今更引っ込めたら番長の名が廃るんだよ】
【ですけど―――】
【それになぁ、相手が強ければ強い程余計に闘志が湧いて来るってもんよ。男冥利に尽きるってもんだぜ】

 番長と呼ばれる番なりのプライドが逃げる事を許さなかった。
 今までは相手の喧嘩を買う形となっていたが今回はその逆、番の方から戦いを挑んだ形になっている。
 自分から喧嘩を売って逃げ腰になってしまった日には、それこそ番長の肩書を捨てねばならない。それは番にとって、番長にとっては死よりも辛い事だった。

【ダイバンチョウと言ったか、その男意気は見事なり! 我も主の男振りを見て闘志が湧きあがって来たぞ!】
【無論、それは我らも同じ事! やはりこの星には我らが出会った事のない強者が居たようだ!】
【だが、我らが戦うには此処は些か狭いのではないか? これでは存分に戦いを興じる事が出来ぬぞ兄者達よ!】

 バトル三郎の言う通り、20m以上のでかさを誇るダイバンチョウ達が市街地で暴れまわればその被害は想像を絶する物になる。
 一応被害が出る度に番達が修復に協力してはいるのだがそう毎回被害を出されては溜まったもんじゃない。

【うし、場所を変えるぞ!】
【良かろう!】

 ダイバンチョウの提案を承諾し、一同は場所を移す。市街地から場所を変え、訪れたのは一面砂しかない砂漠のような地帯だった。日本に砂漠なんてあるの? と思うかもしれないが多分有るんだろうと思っていただきたい。

【此処なら思いっ切り暴れられるぜ】
【ふむ、問題はない! では―――】
【ちょっと待て! お前ら3人で挑むのか?】

 ダイバンチョウの問に長男ことバトル太郎は【無論だ】と答えて見せた。
 どうやらバトル次郎もバトル三郎もやる気十分のご様子。今にも一斉に飛び掛かりそうな気迫が見えた。

【そっちが3体で来るならこっちも3体で行かせて貰うぜ。3対3のタッグマッチだ!】
【別に我らは構わぬ。3人と言わず何人でも呼ぶが良い】
【生憎、喧嘩はフェアな条件でやるのが俺の心情なんでな】
【男よのぉ、ならば貴様の他に後の二人を連れて来るが良い】
【既に一人はいるぜ。レスキュー、お前だ】

 そう言ってダイバンチョウがレスキューに視線を送る。対してレスキューはと言えば突然の指名にキョトンとした顔をしてしまった。

【え、えええええええ! む、無理ですよ! 僕じゃ兄さん達になんて勝てませんよ!】
【ばっきゃろう! やる前から諦めてどうすんだ! 男なら後先考えず前だけ見て突っ走るもんだぜ】
【そんな事言ったって―――】

 渋りだすレスキュー。彼自身は嫌と言うほど知っているが故に渋ってしまっているのだ。
 兄達の強さを。戦闘型宇宙人バトル星人の中でも最強と言われるバトル三兄弟の強さを―――

【なんだ、二人目は愚弟であったか。これは興ざめしそうではあるが、まぁダイバンチョウ殿が選んだのであれば我らはそれで構わぬ】
【それで、後一人は誰にするのだ?】
【早々に決めるが良い! 我らは逃げも隠れもせぬ!】

 バトル三兄弟に対し、こちらはダイバンチョウとレスキューが戦う事となった。後一人加えれば3対3の図式が出来上がる事になる。

【番、あたいがこの喧嘩に加わるよ】
【いや、折角だがな茜。もう一人は既に心当たりがあるんだ】
【誰だいそりゃ?】
【すぐに来るさ。何せ奴は鼻が良いからな】

 意味不明な事を言う番。その言葉の意味が分からない茜は返答に困ってしまう。
 
【鼻が良いって一体何言ってんだい。犬でも連れて来る気なのかい?】
【確かに、あいつの鼻は犬並みだな。何処にいようと喧嘩の臭いを嗅ぎ付けりゃすっ飛んで来やがる。っと・・・噂をすればだな】

 一同の元へ猛烈な勢いで砂埃を巻き上げながら何かが近づいて来るのが見える。
 紛れもなく、それは一台のパトカーだった。

【番さん・・・あのパトカーってもしかして】
【ほらな、噂をすれば何とやらって奴だよ】

 半ば呆れたような感じで番がつぶやく。そんな番達の目の前で突如現れたパトカーが変形する。

【見つけたぞ! バンチョウ星人】
【よぉ、また会ったな。イインチョウ】
【あ、この間はどうも】

 久しぶりの登場のイインチョウとメンチを切り合うダイバンチョウ。そして、会釈をするレスキュー。
 ダイバンチョウ自身には前に合った時に相当因縁を作った仲なのだろうが、レスキューはどっちかと言うと世話になった部類に入ったりする。

【んでよぉ、物は相談なんだが、お前今回の喧嘩に参加してくれねぇか?】
【い・・・いきなり何を言い出すんだ貴様! よりによって宇宙警察の私に喧嘩に参加しろと言うのか!?】
【良いだろ? 一回くらい。減るもんじゃねぇし。どうせお前も暇だろ?】
【人を暇人みたいに言うな! そもそもお前達が無益な喧嘩を起こし続けるせいでこの星にも被害が及ぶのだろうが!】
【だからだよぉ。お前がこの喧嘩に加わってくれればすぐ喧嘩が終わるんだよ。な、頼むよイインチョウ。一回だけで良いからさぁ】
【・・・・・・】

 ダイバンチョウの無理強いにイインチョウはほとほと参ってしまっていた。そもそもイインチョウはこの星の治安を守る為に派遣された存在。それが率先してこの星の治安を乱す事などあってはならない。
 だが、このままこの喧嘩を静観していれば無駄な被害が出るのもまた事実。
 ならば、多少不本意だがこの喧嘩に参加し一刻も早く終了させる事もまた宇宙警察の仕事となるのではないだろうか。

【良いだろう。ただし、私が喧嘩に加わるのは今回限りだ。もし、それ以上の無益な戦いを行おうとしたら、即刻宇宙警察の名においてお前達を逮捕する。それで良いな!】
【うっし、それで良いぜ。ってな訳だ。こっちはこの3人で行く。文句はねぇな?】

 ようやく三人が揃った。ダイバンチョウの申し出にバトル三兄弟の誰一人として否定的意見を述べる者はいなかった。むしろ、早く喧嘩がしたそうでうずうずしているのが見て取れる。
 
【兄弟よ。我はあのダイバンチョウなる者と当たる。あれだけ大口を叩く者。その者の実力をこの拳で直に確かめてみたい】
【ならば我はあのイインチョウなる者と当たるとしよう】
【では、我はあの愚弟と当たるとしよう。この星で如何ほど修行をしたのか興味があります】

 三兄弟もそれぞれ相対する相手を選び終えた様子。今にも喧嘩が始まろうとした正にそんな時、またしてもこの場に突如として別の気配が向かってきた。

【ならばその喧嘩、この俺が見定めよう】
【な、てめぇ!】

 ダイバンチョウこと番は突如やってきた存在に対し驚きの声を上げた。
 そう、突如として現れたのはあの番長仮面ことゴウバンチョウその人だった。

【何しに来やがったんだ! またいちゃもんつけに来たってのか?】
【さっきも言っただろう。俺はこの喧嘩を見定める為に参上しただけの事。此度の喧嘩に俺は一切手出しはせん。お前達6人で存分に戦うが良い。この俺がその様をしかと見届けてやる】

 要するに見学しに来たと言いたいのだろうか。番としては釈然としないがまぁ、喧嘩の横やりを入れないのであれば別に構わない。

【貴様何者!? 明らかに此処に居る者たち以上の強者に見えるが】
【ほぉ、流石は噂に名高きバトル星人。一目で相手の実力を見破るか。しかし、目の前の相手に集中出来ないのでは所詮まだまだと言ったところだな】
【むぅ、我とした事が迂闊であった。今は目の前の相手のみを見据えねばな】

 正に強者と強者の会話。そうレスキューには見えた。
 とにもかくにもこうしてバトル三兄弟対混成チームによる3対3のデスマッチ式の喧嘩が火蓋を切る事となった。
 
【ダイバンチョウとやら、我らに大口を叩いたその自信と実力、この拳で測らせて貰うぞ】
【へっ、久々の強ぇ奴との喧嘩かぁ。腕が疼いてきたぜ!】

 開始一番にぶつかり合ったのはダイバンチョウとバトル太郎だった。互いにレスリングの押し合いの様に腕を伸ばし、互いに力を前へと向けて放ちあっている。
 
【こいつ・・・ダイバンチョウと互角のパワーかよ。流石宇宙最強を名乗るだけのこたぁあるなぁ】
【貴様こそ、兄弟一の力を誇る我と同等とは、口先だけの木偶の坊でなくて安心したぞ】

 力はほぼ互角。完全なるパワー勝負となっていた。ダイバンチョウもバトル太郎も同等の相手とぶつかり合えた事を心の底から喜び合っている。正に根っからの喧嘩好きの所業と言えた。
 それとは別の場所にて、イインチョウとバトル次郎との闘いは熾烈を極めていた。
 兄弟一多彩な技を持つバトル次郎の技の数々をイインチョウは紙一重でかわし、返し刀の如くイインチョウも技を放つ。互いに一長一短な喧嘩運びを展開していた。

【ほぅ、流石に宇宙とは広きものよ。この私の技について来る上に反撃までしてくる猛者がいようとは。これでまた私は強くなれる。感謝するぞ強者よ!】
【くそっ、こんな喧嘩、早く終わらせなければ!】

 方や喧嘩を楽しみ、方や一刻も早く喧嘩を終わらせたい。そんな意思のすれ違いなど当の本人たちは微塵も感じ合ってはいない。と言うか、感じ合ってる暇がないと言う方がこの場合正しいのだろう。
 そんなハイレベルな戦いを行っている一方で、それとは全く別次元の戦いを行っている者たちが居た。
 バトル三郎とレスキューの両名である。

【どうした愚弟よ! 手を出さねば喧嘩には勝てぬぞ!】
【待ってよ兄さん! 僕は兄さん達と戦いたい訳じゃ―――】
【戦いの最中に戦意を削ぐな愚か者!】

 バトル三郎の右回し蹴りがレスキューの胴体に突き刺さる。体がくの字に折れ曲がり、かなりの距離を吹っ飛び地面に叩きつけられてしまう。

【う・・・づぅっ!!】
【やはり愚弟は愚弟のままだな。少しはこの星で鍛えられたと思っていたが、相変わらず昔のままのようだな】
【昔の・・・まま!】

 その言葉がレスキューの脳内にあるビジョンを思い出させた。それは、彼がこの星に来るよりもずっと昔。
 まだ彼がレスキューと言う名ではなく、バトル三兄弟の弟となっていた頃の事だった。
 古来より、バトル星人は皆好戦的な戦闘宇宙人であり、バトル三兄弟は勿論の事、すべてのバトル星人が皆戦いを好む性格をしていたのだ。
 ただ一人、彼を除いて―――




     ***




【どうした弟よ、まだ兄は倒れておらぬぞ】

 荒い息を吐きながら地面に膝をつく弟を見下ろし、バトル太郎は豪語した。その脇には、弟の成長を見守るバトル次郎と三郎の姿もある。

【も、もう無理だよ兄さん! これ以上やったって、僕は強くなんてなれないよ!】
【甘えるな! 貴様も我らバトル三兄弟の血を引いた者ならば、その誇りを持て! 例え勝てぬ相手であろうとも、弱気を見せるな! 常に戦士としての誇りを持て!】
【僕は好きで戦士になった訳じゃない! 戦いだって、別に僕は好きなんかじゃ―――】

 言い終わるよりも前にバトル太郎の鉄拳が弟を叩きつけた。

【この愚弟が! 我らバトル星人から戦いを取ったら、何が残ると言うのだ!? 貴様は自らの口で誇りあるバトル星人の名を汚したのだぞ!】
【に・・・兄さん・・・】
【貴様に兄と呼ばれる筋合いはない! 自らの生き方に誇りを持てぬ愚弟など、最早弟でもなんでもない! 今すぐこの星から出ていけ! そして何処へなりとも好きなところへ行くが良い!】
【ま、待ってよ兄さん! 兄さん!!】
【次郎、三郎。この愚か者を叩き出せ! こいつにこの星に居る資格はない! 戦えぬバトル星人など、この星には不要よ!】

 その言葉を最後に、彼はバトル星を追放された。戦いを生き甲斐とするバトル星人にとって、戦いを放棄すると言う事は自ら死を選ぶ事と同じ意味になる。
 自ら死を選ぶような軟弱な考えを兄達は決して許す事はなかった。
 そして、その日を境に彼は広大な宇宙を彷徨う事となった。宛も無く彷徨い続け、ようやく見つけた第二の故郷。
 この星で、自分の出来る事をしよう。彼はそう心に誓い、第二の故郷、地球に移り住む事となった。




     ***




【あれから随分な時が流れた。辺境の星で貴様がゴクアク組と戦っているとの報せを聞き、余程の強者の元で腕を磨いているのだろうと思って馳せ参じてみれば、相変わらずこの様か・・・それで良く番長と名乗れたものよ!】
【!!!】

 番長。
 その言葉にレスキューの体が動いた。その言葉の意味は良く分からない。
 だが、この星に住む少年、轟番が自分にくれた証。今まで愚かな愚弟と言われ続けてきた自分を認めてくれた者がくれた称号。
 レスキューにとって、番長と言うそれは誇りとも言える大切な証であった。

【大方、番長と言うのも見せかけだけの弱者の集まりなのだろうな。所詮辺境の惑星で名乗る証なぞ、我らの前では何の役にも立たぬわ】
【・・・・・・違う】
【ん?】
【番長は・・・・・・決して、弱者の証じゃない・・・・僕にとって、この星で生きてきた事の証なんだ! そして、僕自身の誇りの証なんだ!】

 よろよろと、だが確実に立ち上がる。例え立ち上がれないダメージを負っていたとしても、番長と言う名を背負っている限り、倒れる訳にはいかない。それは、自分自身の手でその誇りを投げ捨てる行為になってしまう。それだけは出来ない。
 例え、かつて兄と呼んだ者たちと戦う事になったとしても―――

【ふん、打たれ強さだけは成長したようだな。だが、受け続けているだけでは戦いには勝てぬぞ!】
【もう、僕は逃げない! あの時から決めたんだ。番さんにこの証を、番長と言う名の証を貰ったその日から、僕は決めたんだぁぁぁ!】

 雄たけびと共に突進。何か秘策があるのか、はたまたやけくその果てか。どっちにしてもバトル三郎からして見れば恰好の的に他ならない。
 
【馬鹿の一つ覚えの如くの突進か。兄者の様に優れた力があればまだしも、お前ごときの力など、この俺には効かぬわぁ!】

 再度、レスキュー目掛けて右回しの蹴りを放つ。だが、今度はそれを腕を使い弾いて見せた。その動作にバトル三郎は驚愕する。

【何、この俺の蹴りを見切った上で防いだだと!】
【肉を切らせて・・・・骨ごと砕く!】

 其処はレスキューの射程距離内だった。大地を踏みしめ、渾身の力を込めた左拳をバトル三郎の鳩尾に叩きつけた。
 その衝撃は凄まじく、食らったバトル三郎が今度は後方へと吹き飛ばされる形となった。

【まさか、あの愚弟に遅れを取る事になるとは・・・だが、今の一撃・・・見事なり!】
【大事ないか、弟よ!】
【この者たち、中々の手練れ! 油断は出来ぬぞ!】

 見れば、バトル太郎も次郎もそれぞれ傷を負っている。それだけダイバンチョウとイインチョウとやらが強者なのを物語っている。

【やるじゃねぇかレスキュー! お前はやる時ぁやる奴だって思ったんだよ】
【ば、番さん】
【全く、少しは計画を練ったらどうなんだ! さっきの戦いを見てはいたが、かなり際どい戦いだったぞ! 貴様、もし彼が負けたらどうするつもりだったんだ?】
【んなの考えてねぇよ。だって、こいつが負ける訳ねぇからよ。何せ、こいつは俺と同じ番長なんだからさ】

 あぁ、番長。その言葉に僕は救われたんだなぁ。
 レスキューは心底そう思えた。

【兄者よ、最早手段は選べぬ、あれを使う時ではないのか?】
【俺もそう思うぞ兄者よ。これだけの強者であればあれを使うに相応しい相手よ】
【うむ、弟たちよ、貴様らの言葉しかと受け取った。ならば、我ら三兄弟最強の技を持って、この戦いを勝利するぞ!】

 何をする気だ?
 ダイバンチョウとイインチョウには何の事だかさっぱりわからなかった。だが、ただ一人、レスキューだけは分かっていた。
 あれが来る。バトル三兄弟唯一にして最強の必殺技が。

【だ、駄目だ! 番さんもイインチョウさんもすぐに此処から離れて! あの技が来る!】
【あの技、あの技って一体なんだ―――】

 言葉よりも早く三兄弟が動いた。一糸乱れぬ動きで三体の周囲を三兄弟が駆け回る。その速度は徐々に上昇し、次第に猛烈な勢いで砂埃が舞い立ちだす。

【ちっ!】

 危機感を感じた。この技はやばい。恐らくかなりの威力を誇る。
 そう感じた番は咄嗟にレスキューとイインチョウを円の外へと放り投げた。
 ダイバンチョウの腕力であれば多少の引力も無視出来る。だが、投げた本人は未だに円の中心部に立っていた。
 
【今だ!】
【【応!!】】

 バトル太郎の合図と共に三兄弟は速度を維持したまま飛翔する。そして、そのまま上空で猛烈なスピードを出しながら円を描き続けた。
 それは、やがて円を中心にして巨大な大竜巻を発生させ、その中にダイバンチョウをすっぽりと覆いつくす結果となっていた。

【か、体が動かねぇ・・・それに、全身がバラバラに引きちぎられちまいそうだぁ・・・】
【自らの身を顧みず仲間を救うその姿勢は見事! 貴様こそ、我ら三兄弟最強の必殺技にて葬るに相応しい強者よ!】
【必殺技・・・だと!?】
【左様。これこそ我らバトル三兄弟唯一にして最強の必殺技! その名も『スペース・トルネード・ツイスター・アタック戦法』よ!】

 スペース・トルネード・ツイスター・アタック戦法。
 それは、広大な宇宙の中でも唯一このバトル三兄弟にしかなしえない唯一にして最強の必殺技。
 三人の猛者が一糸乱れぬ動きで円を描くように動き回り、ある一定の速度に到達した瞬間に上空へと飛翔。
 その際に生じるエネルギーが強烈な宇宙竜巻を発生させ、中心部に居る相手を粉砕させてしまうと言う恐るべき必殺技なのである。
 だが、この技を放つ為には三人の一糸乱れぬ連携がなければ成し得ない。
 コンマ数秒でもずれが生じれば技は完成しない、正に血を分けた兄弟だからこそ出来る必殺技なのだ。
 この強烈な宇宙竜巻に巻き込まれたら最期。決してそれから逃れる事など出来ず、風圧と重圧による力により体は無残にも引き千切られ肉の塊と化すであろう。

【番さん!】
【あいつ、私たちを逃がす為に・・・】

 かろうじて円の外へと逃れられたレスキューとイインチョウは目の当たりにする事になる。
 バトル三兄弟が発生させた巨大な宇宙竜巻を。そして、その中心に囚われているダイバンチョウの姿を。

【あの動き、三人の動きがコンマ数秒の乱れもない、一心同体になればこそ成し得る技、正に神業と言えよう】

 目の前で発生された巨大な宇宙竜巻を前にゴウバンチョウは驚きと称賛の声を上げていた。
 だが、助けに行こうと言う意思は微塵にも感じられない。

【何見てるんですか? このままじゃ番さんが死んじゃいますよ!】
【何を言っている。私はこの喧嘩をただ見守っているだけだ。結果がどうなろうとそれは喧嘩の結果に過ぎない。それに言ったであろう。私はこの喧嘩に一切手は出さないと】
【ですけど、このままじゃ番さんが―――】
【此処で死ぬのであれば所詮その程度の事。それよりもだ、お前は奴を助けたいのであれば、何故立ち向かわない?】

 ゴウバンチョウの言葉に、レスキューは力なく項垂れる。分かっているのだ。
 あの技は三兄弟が血の滲む努力の末に完成させた必殺技。故に破り方など存在しない。
 ましてや、兄弟のはみ出し者に過ぎない自分ではあの完成されきった技を破る事などまず出来ない・・・と。

【無理です・・・僕には、あの技を破るなんて・・・出来ない】
【挑みもせずに決めつけるのか? お前の仲間はあぁも挑み続けているぞ】
【え?】
【お前には見えないのか? お前の仲間たちが、必死になって奴を助けようと挑んでいる姿が】

 ゴウバンチョウの言葉に誘われるかのように、レスキューの視線が宇宙竜巻の方へと向く。
 其処には、3対3の戦いなど最早関係ないかの如く、レッドが、ドリルが、そしてクレナイバンチョウらが、巨大な宇宙竜巻に戦いを挑んでいる姿が映し出されていた。

【番、簡単にくたばるんじゃないよ!】
【待ってろぉ番! 今こげん竜巻ん中から出しちゃるけぇのぉ!】
【竜巻相手に喧嘩だぜぇ。俺のドリルが唸りをあげらぁ!】

 巨大な宇宙竜巻を前に、三人が無謀な戦いを挑んでいる。だが、巨大な宇宙竜巻の前では、三人の力など無意味にも等しかった。
 だとしても、三人は決して諦めない。何度吹き飛ばされても、何度も何度も挑み続けている。

【皆・・・】
【分かるだろう。奴らは無謀だと知りつつも挑み続けている。それは、お前がバトル三郎を倒したのと同じ心意気を持っているからだ。彼らも同じ番長だからだ】
【番長・・・・・・そうだ、例え勝てない相手だったとしても、僕は諦めない! 最後の最後まで戦い抜いてやる!】

 意を決し、レスキューもそれに加わって行った。
 だが、レスキューがそれに加わったところで、どうにかなる状況では決してない。
 そうこうしている間にも宇宙竜巻はどんどん速度を増し、中に居るダイバンチョウの体が少しずつだが歪み始めていた。
 このままでは後数分も経たずにバラバラにされてしまう。

【負けるんじゃねぇぞ番! 絶対助けてやっからなぁ!】
【じゃけん、諦めるんじゃないぞぉ! 待ってろぉ番!】
【番さん! 僕が、僕達が必ず助けて見せます! だから―――】

 その時だった。レッドが、ドリルが、そしてレスキューが。
 三人の思いが一つになった時、それぞれの体から眩い光が発せられたのだ。

【ど、どうしたんだい三人共?】
【わ、分からねぇ。こんなの初めてだ!】
【じゃが、不思議な感じじゃ。体ん中から力が沸き上がるようじゃ】
【これ・・・もしかして・・・あの伝説の『合体』の兆しなんじゃ】
【合体って・・・そんなの伝説になってんのかい?】

 意味は分からないが、それがどうやら宇宙でも伝説とされている合体の兆しと言うのだそうだ。

【マジかよ!? 合体って言ったら伝説の勇者が出来た幻の秘儀だろ? それを俺たちが出来るってのかよ?】
【理屈なんぞ知らんわぃ、じゃが、出来るっちゅぅんならやるだけじゃろうが!】
【やりましょう! レッドさん、ドリルさん、僕達三人が合体して番さんを助けましょう!】

 三人の心が一つになった。それは幻とまで言われた宇宙人同士が一つになる事。
 複数の命が一つの命になる秘儀、かつて伝説の勇者のみが行えたと言われる幻の秘儀、それが【合体】であった。

【【【三体合体!!】】】

 掛け声と共に三人の番長が形を変える。
 レッドが下半身に、ドリルが両腕に、レスキューは上半身になり一体の巨人へと姿を変える。

【三人が合体しちまった。って事は・・・レッドドリルレスキュー番長って言えば良いのかぃ?】
【いや、この姿になった私を呼ぶならば、トリプル番長と呼んで下さい】
【三体が合体したからトリプルねぇ・・・安直みたいだけど呼び易くて良いじゃないか】
【有難うございます。今のこの姿でなら、私は兄さん達の必殺技を破れそうな気がします!】

 丁寧な口調からは想像出来ないほどのパワーがあふれ出ているのを傍に居た茜は感じ取った。
 これが合体と言うものなのか。今まで番や茜は何の考えもなく行っていた行為だったが、それは自分一人が巨大になるだけの事。
 だが、目の前で行われた合体は違う。複数の命が一つに纏まると言う事。それは一歩間違えれば合体を行った命そのものが消滅してしまう危険性すらある。
 正しく勇気の居る行いなのであった。

【伝説の勇者のみが出来たとされる幻の秘儀。しかと見せてもらった】
【ゴウバンチョウ!】
【本来であればルール違反となるだろうが、今回私はただの見学人だ。それに、良い物を見させて貰った。後はお前達のやりたいようにやるが良い】
【感謝します。うおぉぉぉぉ!】

 ゴウバンチョウに一礼した後、トリプル番長は巨大な宇宙竜巻へと向かった。
 合体したトリプル番長のパワーは凄まじかった。さっきまで全く寄せ付けなかった巨大な宇宙竜巻の猛威を物ともせずに、トリプル番長は巨大竜巻の中へと飛び込んでいった。

【入れた! それに、竜巻の中心だと言うのに、体は自由に動ける! これが今の私達のパワーか!?】

 合体したてと言う事もあってか、トリプル番長自身もそのパワーに驚きを見せていた。

【何と! 我らが必殺技を突き破るとは!】
【だが、動けるだけで破る事は出来まい!】
【さぁ、この後どう出る! 我が弟よ!】

 上空では未だに宇宙竜巻を発生させている兄弟達が、そして身動きの取れないダイバンチョウの姿がある。

【私は知っている。兄さん達がこの技にどれだけ心血を注いできたかを。だからこそ私は分かる。この技の恐ろしさを! そして、この技の唯一の破り方を!】
【何! 我らの技を破るだと!?】
【それはこれだぁ! スペース・トルネード・リターン!!】

 トリプル番長の両肩のドリルが回転を始める。高速で回転するドリルの切っ先から猛烈な竜巻が発せられる。
 両肩から発生された竜巻は互いに混ざり会い、一つの巨大な竜巻へと発展していった。
 
【まさか、逆巻きの竜巻か!?】
【その通り! 兄さん達が発生させたのは右回転の宇宙竜巻! ならば、それとは逆回転の竜巻を発生させて威力を相殺させる! そうすればスペース・トルネード・ツイスター・アタック戦法を無力化出来る!】

 トリプル番長の言う通りだった。強烈な威力を誇っていた宇宙竜巻は次第に威力を弱めだした。
 それと同時にダイバンチョウの体に自由が戻り始めた。

【体が動く! 今なら逃げれるか!】

 この好機を逃す訳にはいかない。動ける状態の内に巨大竜巻の中心からダイバンチョウが脱出を果たした。
 ダイバンチョウの体は相当やられていたのか全身がズタボロの状態になっていた。 
 後数秒救出が遅れていたら手遅れになっていたのは明白だっただろう。

【番さんは上手く脱出出来たか・・・後は!】

 残すは上空に居るバトル三兄弟のみ。
 トリプル番長の発生させた宇宙竜巻が威力を増し始めた。

【今こそ、私は兄さん達の必殺技を破る!】
【良いだろう。その挑戦受けて立つ! 兄弟達よ! もう一度スペース・トルネード・ツイスター・アタック戦法だ!】

 バトル太郎の合図を受け、再度回転を始める兄弟達。今度の標的は地上に居るトリプル番長だ。
 だが、それはトリプル番長も同じ事だった。この喧嘩はこれで絞める。
 その意気の元、両者が猛烈な勢いの宇宙竜巻をぶつけ合った。
 バトル三兄弟の放つ右回転の宇宙竜巻と、トリプル番長の発生させた左回転の宇宙竜巻。
 回転方向の違う巨大な竜巻同士が激しくぶつかり合う。
 その威力は凄まじく、竜巻を放っている双方に多大なダメージを与えている事は必至であった。

【我ら兄弟の連携に勝てぬ者は居らぬ! 故に我ら兄弟は最強なのだ!】
【確かに、兄さん達の連携に勝てる猛者はいないかも知れない! だけど、それは連携での話だ! 私達は違う! 例え生まれた星は違えども、同じ思いの元一つになった私達は決して負けない! これが『合体』だぁぁぁ!】

 3体の連携と3体の合体。数は同じなれど形の異なる者同士のぶつかり合いは熾烈さを極め、宇宙竜巻はやがてバトル三兄弟とトリプル番長を飲み込み収拾の利かない暴風へと変貌していった。

【不味いぞ、あのままじゃ中に居る奴らまでバラバラになっちまう!】

 このままでは以下に合体したとしてももちはしない。そう判断したダイバンチョウであったが、ダイバンチョウ自身もまともに動ける状態ではなかった。
 スペース・トルネード・ツイスター・アタックを諸に食らったそのボディは最早動く事すら困難な領域にまで達していた。

【どうした番。お前の力はそんなものか?】
【な、何だと!?】
【その程度でお前は倒れてしまうのか? お前の仲間たちが見せた男気を、根性を思い出せ! そして、己の中に眠る熱き魂を呼び覚ませ!】
【俺の仲間たち・・・そうか、そうだな! あいつらが根性を見せてくれたってのに、俺がこんなところでへばってちゃ恰好がつかねぇよな】

 傷だらけの体に鞭を打ち、再度立ち上がる。番の魂が熱く燃え滾ってくるのが分かる。勝てない戦いにも関わらず自分を救うために傷を負った仲間たち。その仲間たちの熱い思いが番の魂に火をつけたのだ。

【この程度の傷が何だ! 例え致命傷でも魂が燃え続けてる限り、俺は何度でも立ち上がる。それが男であり、それこそが番長だぁぁぁぁ!!】

 怒号と共にダイバンチョウの熱血ボルテージが急上昇する。そのメーターは一気に限界を振り切り、ダイバンチョウの中に秘められた形態『熱血モード』を発動させた。

【番、あの宇宙竜巻を破るには竜巻よりも上空から攻撃を加えるしかない。私の後に続け!】
【応!】

 ゴウバンチョウに続いてダイバンチョウが飛翔する。一跳びで巨大な宇宙竜巻を飛び越え、それを見下ろす位置にまでたどり着く。

【行くぞ! あの竜巻の中心に向かい急降下キックだ!】
【任せろ! 行くぜ、熱血フルパワーの東京タワーキックだぁぁぁ!】

 ダイバンチョウとゴウバンチョウ。二人の番長が放つ急降下キックは、寸分の狂いもなく巨大竜巻の中心部を蹴り砕いていく。中心部を蹴りぬかれた巨大竜巻はその形を維持出来ずに四散し始める。
 二人の番長が地面へと降り立った頃には、さっきまで発生していた巨大な竜巻はすっかり消え失せ、その猛威とも言える痛々しい跡のみが残された。
 そして、その跡の中には、機能を停止し、動かなくなったバトル三兄弟と分離したレッド、ドリル、レスキュー達の姿があった。

【どうやら、機能を停止しているだけのようだ。命に別状はあるまい】
【そ、そうか・・・良かった・・・ぜ・・・】

 流石に限界が来たのだろう。もうダイバンチョウに動くだけの力は残されていなかった。
 そんなダイバンチョウを見下ろすゴウバンチョウ。
 恐ろしい存在だ。ダイバンチョウですら熱血モードを使ってようやく破壊出来た巨大竜巻をこのゴウバンチョウは通常の形態で破ってしまったのだから。

【番、今のお前では真の熱血の境地に至る事は出来ん。もっと腕を磨け! もっと魂を鍛えろ! そうすれば、お前は今よりも更に強くなれる! 忘れるな、お前の敵はお前自身なのだからな】

 それだけを言い残し、ゴウバンチョウは消え去った。相変わらず謎の多い奴だ。
 
【ったく、本当に無茶をやらかすねぇあんたは】
【っるせぇよ。だが、今回の相手はまじで強かったな。へへっ、腕一本も動かせねぇけど、悪い気分じゃねぇぜ】

 ボロボロになり、全く動けなくなりながらも、心はとても晴れやかな気分の番、そんな番を見て呆れ果てる茜。
 そんな光景を、遠くからイインチョウは見ていた。
 
【あれが番長か。上層部の資料では、宇宙中を荒しまわる悪行宇宙人と聞いていたが、私にはそうは見えない。彼らは、将来この宇宙で生きていく親しい隣人になるのではないだろうか】

 イインチョウの胸に一途の希望が芽生えだした。喧嘩に明け暮れる暴れ者。そう思っていた印象が、今のあの光景を前にして崩れだしているのが自分の中で分かった。
 いや、寧ろ彼らとなら共に宇宙の平和を守っていけるのではないだろうか。
 そんな思いさえ湧いて来る。

【ご苦労だったな、ジャスティス・レオン!】
【!!!】

 そんな矢先の事だった。
 突如として何処からともなく声と共に複数の宇宙人達がダイバンチョウの周りに降下してきた。
 
【誰だぃ!? あんた達は!】
【我らは宇宙警察! 宇宙警察法の名の下に、バンチョウ星人、貴様を逮捕する!】
【なっ! 逮捕だってぇ!?】

 正に突然の出来事だった。喧嘩が終わり、とても晴れやかな気分だったのを邪魔するかの様に突如として現れた宇宙警察。そして、告げられたダイバンチョウ逮捕と言う現実。
 
【ふざけんじゃないよ! いきなり現れて好き勝手言ってんじゃ―――】
【待て、茜!】

 立ち塞がろうとする茜を番が止める。

【番!?】
【奴らの狙いは俺だ、お前じゃない。それに、今お前まで奴らに逮捕されちまったら、ゴクアク組の連中の好きなようにされちまうだろ? だから、此処は大人しく引いてくれ】
【だ、だけど―――】
【頼む・・・】
【・・・・・・】

 茜ことクレナイバンチョウは静かにダイバンチョウから離れた。それを見た、宇宙警察の一同は動けなくなったダイバンチョウを回収する。

【ジャスティス・レオン。貴様も帰還しろ。報告を聞きたい】
【分かりました】

 ジャスティス・レオンことイインチョウも頷いて従う。大勢の宇宙警察と共に宇宙へと消えて行くダイバンチョウとイインチョウ。
 そして、残されたクレナイバンチョウと傷ついた仲間たち。
 果たして、地球の運命はこの先どうなってしまうのだろうか。
 そして、逮捕されたダイバンチョウの今後は一体―――




     つづく 
 

 
後書き
次回予告


「宇宙警察に逮捕されちまった俺達。しかも即刻処刑だとぉ!? 冗談じゃねぇ、お袋や弟を残して死ねるか! こうなりゃ脱獄っきゃねぇ! 宇宙警察だろうがなんだろうが俺を殺そうってんなら相応の覚悟をして貰うぜ!」

次回、勇者番長ダイバンチョウ

【命を懸けた脱走! 昨日の敵は今日の(ダチ)

次回も、宜しくぅ! 
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