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勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
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第19話 命を懸けた脱走! 昨日の敵は今日の友

 広大な宇宙。その広大な宇宙の中に多くの命が営みを送っている。
 だが、その中には人々に害を成す悪もまた存在していた。
 そんな悪を打ち倒し、人々の安全と未来を守る者たち、人は彼らをこう呼んでいた。


 『宇宙警察』と―――

 その組織は遥か広大な宇宙全土にまで及んでおり、人知れず悪と戦い続けている勇敢な者たちの集まりなのだ。
 だが、宇宙警察とて万人ではない。全ての者が正義や人々の未来の為に戦い続けていると言う訳ではないと言うのが悲しい現実でもある。
 それは、此処太陽系を守備している『宇宙警察太陽系支部』にも当て嵌まる事であった。




     ***




「資料は読ませて貰った。長きに渡る地球での任務。ご苦労だったな」
「有難うございます。ジェネラル・ジャスティス司令官」

 ジャスティス・レオンことイインチョウは地球での滞在に置けるデータを記録し、その全てをこの支部の総司令官でもあるジェネラル・ジャスティスに提出した。
 彼の主な任務は辺境惑星の地球に住む住人の調査であった。だが、時として襲い来るゴクアク星人の魔の手から人々を救うと言う行いをしていたのは、一重に彼の持つ正義の心故の独断専行と言った所であった。

「事情は聞かせて貰った。どの様な経緯があろうと、安易に他の惑星の人間と接触をしたのは頂けんな」
「ですがジェネラル。あの星の住人の文明レベルは極めて原始的です。彼らの文明レベルでは、到底ゴクアク星人達の襲撃から身を守る事は出来ません」
「私が貴様に命じたのはあの星の調査であって守護ではない。己のやるべき事を成せばそれで良いのだ」
「は・・・・はい・・・」

 納得がいかなかった。弱き人々を救うのが宇宙警察ではないのか?
 彼の中で疑念がうねりだす。

「貴様の持ち帰って来たデータと併用して、こちらでも地球星人について独自ではあるが調査はしていた。結論から言わせて貰えば、あの星の人間は極めて野蛮で好戦的で危険な種族だ。同じ種族同士で殺し合いをし、他者を見下し、己の欲望の為に平気で星を傷つける。正に星に生まれた癌細胞と言えるだろう」
「待って下さい! それは一部の人間だけであって、すべての人間がそうとは限りません!」
「レオン、君はもう少し大局的に物を見る事を覚えろ。ほんの数人の人間を生かす為に全宇宙を危機に晒すと言うのか?」

 ジェネラルの言葉に返す言葉は見つからなかった。彼の言う通りだったからだ。
 宇宙警察の本懐は宇宙の平和と治安を守る事。それ故に宇宙の治安を乱す輩にはそれ相応の対応をせねばならない。
 それが引いては全宇宙の平和に繋がるのだから。

「お前はまだ若い。故に情に流され易い傾向があるようだが、それでは何時まで経っても半人前のままだ。一人前になる為には非情さも身に着ける事だ」
「はい、心得ています」
「ならば良い。此処太陽系は銀河系に置いても辺境の地になっている。生命の居る星は極めて少ないだろうが、それでも銀河系から見れば数多ある星の中の一つに過ぎない。その星一つの為に全宇宙を見捨てる訳にはいかんのだ」
「・・・・・・」
「話は以上だ。次の任務に備えて待機していろ」
「・・・了解・・・しました」

 腑に落ちない気持ちを抑えつつ、イインチョウはその場を後にした。自分の立場では幾ら進言しても無駄な事だ。
 全ては総司令官の支持の元に決定される。一偵察員程度のイインチョウにはそれに異を唱える事すら許されていないのだ。

「随分と仕事熱心な若者じゃないか」
「かも知れませんな」

 言葉と同時にジェネラルの目の前の空間が歪みだす。歪みは次第に大きくなり、巨大な空間の穴が開きだした。
 その空間の穴から一人の宇宙人が姿を現した。
 ゴクアク星王その人だった。

「彼が居れば未来の宇宙警察は明るいねぇ」
「だが、奴は正義感が強すぎる。それでは人を守る事は出来ても世渡りは出来ないな」
「あんたみたいに・・・か?」

 下卑た笑みを浮かべながら問いかけて来るゴクアク星王にジェネラルは静かに頷いた。
 
「あんたとこうして繋がりを持てた事でこっちは仕事がやりやすくて助かるよ。あんたが裏で根回ししてくれてるお陰で家は勢力を伸ばし、例え組員が捕まってもあんたが秘密裏に釈放してくれる。その見返りとしてあんたにはこれを差し出すって訳だ」

 懐から取り出した物。それは黄金色に輝く塊だった。それを手に取りジェネラルは暫し眺めた後、自らの懐へとしまい込んだ。

「今回の納期は随分と少ないな。やはり地球でのあの騒動が原因か?」
「その通りだ。あいつらのせいでこっちは商売上がったりなんでねぇ。あの星は良い金になる。あの星自体高値で取り引き出来るし、地球製の宇宙麻薬はそれこそ飛ぶように売れる。何としてもあの星を俺達の手で押さえておきたい。だが、その為にはあのダイバンチョウが邪魔なんだ!」
「それなら心配ない。奴は今我らが逮捕してある。無論、その後の手筈も既にしてある」

 そう言って、ジェネラルはダイバンチョウに関する資料を手渡した。ゴクアク星王はそれを一瞥した後、ニヤリと笑いを浮かべだした。

「地球のゴタゴタを全部あのダイバンチョウに押し付けて、宇宙の秩序と平和の名の下に奴を処刑する・・・ジェネラル、あんたも相当な悪だねぇ。正義って言葉も使いようによっちゃ悪にもなる」
「正義とて万能ではないのだ。時として貴様みたいな悪党とも手を組まねばならない。まぁ、我らとしては見返りさえ貰えれば構わんのだがな」

 両者は互いに黒い笑いを浮かべつつ、互いの腹の内を見せずに対話をしていた。
 表面上では仲良くしているのだろうが、両者とも腹の内ではいずれ袂を分かつつもりでいた。
 所詮は正義と言う名の皮を被った悪同士の会話でしかないのだから。




     ***




 地球から連れてこられた番達は、今犯罪を犯した宇宙人専用の特殊牢獄に入れられていた。
 この牢屋の鉄格子は特殊製で、どれだけ力を入れても破壊する事は出来ず、更には1000万Vの高圧電流が絶えず流れ続けている仕様だ。下手に触れば黒焦げになるのは目の見えていた。
 それ以上に、今番達はまともに動ける状態ではなかったのだ。

「バンチョウ・・・今どんな状態だ?」
【駄目だ、腕一本すら動かせねぇ。あん時相当無茶しちまったせいだな】

 番の問にバンチョウは答えた。二人とも先の戦いで殆どエネルギーを使い果たしてしまっていたのだ。
 以下に気合と根性を持ったとしてもエネルギーがなければ動く事も出来ない。
 正直こうして喋るだけでもかなり辛い状況なのだ。

「バンチョウ星人、それと地球星人。お前らの飯だ」

 看守から放り込まれたほんの僅かなエネルギーキューブ。それをバンチョウは這いずりながら掴み取り、口の中へと放り込んだ。
 バントラは此処に来た際に強制分離されて隔離状態。現在番はバンチョウと融合状態だった為に一つのエネルギーキューブを食べればそれで両者ともにエネルギーがほんの僅かに回復する事が出来た。

「しっかし、この角砂糖みてぇなの不味いなぁ。味も何もしやしねぇ」
【仕方ねぇだろう。元々はエネルギー補給用の為だけの代物だからな。にしても超不味いぜ】
「あぁ、銀シャリが食いてぇ・・・今頃地球じゃどうなってんだろうなぁ」
【さぁなぁ・・・】

 不味いエネルギーキューブを食べ終わり、再び狭い牢屋の中で大の字になるバンチョウ。今の彼らには成す術がない。今はひたすら無駄なエネルギーを消費しないように勤める他ないのだ。

【宇宙の暴れ者と言われたバンチョウ星人がいやに大人しいじゃないか】

 鉄格子の向こうから声が聞こえて来た。
 イインチョウの声だった。どうやら身動き一つ取れないバンチョウ達を見にやって来たと言った所なのだろう。

「何の用だよ。今更尋問でもしようってのか?」
【私にその権限はないし、する必要もない。ただ、少し話がしたくてな】
「・・・何だよ?」

 寝転がっていたバンチョウが身を起こし、イインチョウの方を向く。
 鉄格子越しに互いの視線がぶつかり合う。
 正義と悪―――
 互いに相いれない関係である事は承知している。だが、イインチョウにはこのバンチョウ星人と地球星人が悪人とは思えないのだ。
 確かに悪である事に変わりはないだろうが、今まで逮捕してきた悪とは何処か違う。
 そう思えていた。

【教えてくれ、何故お前達はあの星を守る為に戦っているんだ?】
「別に俺は地球を守るだとかそんな理由で戦っちゃいねぇよ。ただ、奴らが喧嘩を売って来たからそれを買ってた。それだけの事だ」
【成程、如何にも貴様らしい答えだな。それは、其処に居るバンチョウ星人も同じ事なのか?】
【まぁ、結論からしちゃそうなるだろうな。だがなぁ、あの星は本来俺が最初に唾を付けたんだ。後からやってきて横取りしようとするゴクアク組の野郎が許せねぇ! だからこうして今の所は協力して戦ってるだけなんだよ】

 バンチョウ星人とて正義だ秩序だの為に地球で戦ってた訳ではない。
 本来なら、彼も侵略者だったのだから。
 だが、彼が侵略行為を行うよりも前にゴクアク組の連中が行動を起こしてしまった。完全に出遅れてしまったバンチョウ星人は仕方なく地球を守る為の戦いを行う事となってしまった。
 言い方を変えれば偶然に他ならない。

【やはり、お前達は何処か違うな】
「違うって、何ががよ?」
【私が今まで戦い、逮捕してきた悪人たちは皆お前達と同じ悪人だった。だが、奴らは皆己の私利私欲の為に悪事を重ねて来た奴らだったが、お前達は違う。まるで、大切な何かを守る為に敢えて悪に徹しているようにも見える】
「難しい事は良く分からねぇけどよぉ。俺はただ単に自分の家に土足で入られて好き勝手されるのが嫌なだけだ。言っちまえばあの地球は俺の家みてぇなもんだ。それを勝手にやってきて好き放題されるのは我慢ならねぇって話なんだよ」

 星が家か―――
 思わずイインチョウは笑みを浮かべてしまった。
 成程、そう言う考え方もあったんだな。つまり、こいつらは自分の家を守る為に今までゴクアク組と対峙し続けていた。
 そう言う事になるようだ。

【話は以上だ。時間をかけてしまって悪かったな】
「気にすんな。どうせやる事もねぇんだしよ」
【もうじき貴様の裁判が行われる。その時には、微弱ながらも私も弁護しよう】
「おぉ、期待しないでいるぜ」
【あぁ、せいぜい期待しないでくれよ】

 


 話を終え、囚人用牢獄を後にしようとしたイインチョウの耳に、看守たちの話声が聞こえて来た。
 他愛ない会話のようにも聞こえたが、何故かイインチョウはその話声に聞き耳を立ててしまった。

「あのバンチョウ星人と地球星人の処遇ってどうなる手筈なんだ? またジェネラルの意向で秘密裏に釈放させるのか?」
「いや、どうやら今回はそうじゃないらしいぞ。なんでもあのバンチョウ星人と地球星人はジェネラルと仲の良いゴクアク星人が目の上のたんこぶ扱いしてる連中らしいからな」

 何だと!?
 聞き捨てならない内容にイインチョウは思わず立ち止まった。
 囚人を秘密裏に釈放?
 そんな話は聞いた事がない。
 ましてや、あのジェネラルがゴクアク組と裏で関係を持っていたと言う事にイインチョウは驚きを隠せなかった。

「にしてもよぉ、ジェネラルも良いご身分だよなぁ。噂じゃ、奴らからたんまり金塊を貰ってるって話だぜ」
「俺達は此処でしがない看守やってるってのによぉ。全く、上の連中は羨ましい限りだぜ」
「んで、その見返りとして、奴らの暴挙を見て見ぬふりをしてるって話だし、万が一組員を逮捕してもジェネラルの意思一つで簡単に釈放させられるってんだからよぉ。いやぁ、正義の言葉も使いようってのはこの事だな」

 イインチョウの中での正義が崩れる音がした。
 今まで、自分が貫いてきた正義とは何だったのか?
 今まで、自分が信じて来た正義とは何だったのか?
 今まで、自分は何を正義だと思って生きて来たのか?
 そのすべてが分からなくなってしまった。
 そして、同時に沸き上がるのはかつての上司であるジェネラルに対する激しい怒りと失念だった。
 かつて、正義の見本として仕え、彼を目標としていたイインチョウにとっては、あまりにも辛い内容だった。

「んで、それであいつらの処遇はどうするんだよ? 宇宙裁判にでも掛けるのか?」
「いや、あいつらはゴクアク組に逆らったからそれはなしだ。話によると地球でのゴタゴタを全部あいつらのせいにして宇宙の秩序の名の下に処刑するって話だぜ」
「おぉ、怖っ! 臭い物には蓋をするって良く言うけど、その蓋の役目をあいつらに押し付けようって魂胆か。くわばらくわばら」

 ダイバンチョウを処刑・・・だと!?
 それが何よりも衝撃を受けた。
 確かに、道理としてはその通りだ。ジェネラルにとって見ればゴクアク組と敵対しているダイバンチョウを生かしておくメリットはない。
 かと言って何時までも此処に置いておく訳にもいかない。
 となれば処断するのが最も適切かつ手っ取り早い方法と言えるだろう。
 だが、其処に正義は存在しない。
 あるのはただ、薄汚い欲望と野心、そしてどす黒い悪意しかない。
 もし、このままダイバンチョウが処刑されれば、自分もまたその悪の片棒を担いだ事になる。
 それで良いのか? それを許せるのか?
 
 イインチョウは悩んだ。彼の信じる正義はどうしたいのか?
 悪を助ければそれは自分は正義を捨て悪に身を投じる事になる。
 だが、このままあの悪を見捨てればそれは悪に加担し知らず内に悪事を担う事となる。
 悪に身を落とすのか、それとも悪に手を染めるのか。
 どちらに転んでも悪しかない。ならば、どちらの悪になるべきか。
 イインチョウは迷わなかった―――




      ***




 しりとり、りんご、ゴ〇ラ、らっかせい・・・
 これら一連の言葉に意味があるのか?
 否、全くない。しいて言えば、牢獄の中で身動き一つ取れない番とバンチョウの二人で暇つぶしのしりとりをしていた時の言葉なだけだったりする。
 相も変わらず鉄格子には高圧電流が流れている為に触れる事も出来ない。
 更に言えば両者ともエネルギーが既に底を突きかけているが為にまともに動く事すらままならない現状。
 
「腹減ったなぁ・・・」
【俺もだ、ったく! 看守の奴ら・・・けちけちしねぇで腹いっぱい飯食わしてくれりゃ良いのに、しかもその度に出される飯がクソ不味い奴だしよぉ・・・】

 二人して腹の音を鳴らして腕一本動かせないままただただ無駄に時が過ぎ去っていく。本来ならば気合と根性うんぬんで抜け出そうとするのだろうが、火も燃料がなければ燃え上がる事は出来ない。湿気たちぢれ火以上に燃え上がる事は出来ない。
 流石の番長もこうなればお手上げ状態であった。

【何時もの威勢はどうしたんだ? お前にしては随分と大人しいじゃないか】

 聞き覚えのある声が鉄格子越しに聞こえて来た。それと同時にバンチョウ目掛けて何かが投げ込まれてきた。
 見れば、それは今まで食べて来たのと同じエネルギー補給用のキューブだった。
 だが、今投げ込まれたのは七色に輝く美しい色をしたそれとなっている。
 今まで食べて来た白一色の不味いそれとはどうやら違う。

「何だ? こりゃ」
【腹が減ってるんだろ? とりあえずそれでも食って気合を入れ直せ】
「っつってもよぉ・・・これクソ不味いんだよなぁ」

 愚痴りながらも腹は正直なもの。
 投げ込まれたそれを迷う事無く口の中へと放り込み、数回咀嚼した後に音を立てて飲み込んだ。
 
「う・・・美味ぇ!! 何だこりゃ!?」
【たまんねぇ! 味もそうだが一個当たりに取れるエネルギーも相当な量だ!さっきまで食って来たクソ不味い奴のと雲泥の差だぞこりゃ!?】

 形状とは打って変わりかみ砕いた七色のキューブが口の中で激しく踊り狂い二人の舌を激しく刺激していった。
 その刺激に番もバンチョウも大いに絶賛だった。

【美味くて当然だ。高官専用のエネルギーキューブなんだ。普通に考えて囚人であるお前にくれてやる代物じゃないのだからな】
「けっ、お上となりゃ食う物も違うってのかよ。って言うか、何でそんな上等なもんを俺に投げ入れてくれたんだ?」

 鉄格子越しに互いに見合うバンチョウとイインチョウ。先ほどあれを投げ入れてくれたのはイインチョウに他ならなかった。
 
【動けるか?】
「あぁ、さっきの奴のお陰でどうにか動ける位にはエネルギーが戻ったみたいだぜ」
【なら、さっさと出る準備をしろ。今、鉄格子を開く】
「何だ? 釈放してくれんのか?」
【嫌、釈放の命令はない】
「じゃ、何でだよ?」
【決まってるだろ。脱獄だ】
「はぁっ!?」

 まさかの発言に思わず番とバンチョウは目を大きく見開いた。イインチョウの性格からして一番有り得ない発言だった。
 囚人を脱獄させるなど正義を重んじる彼からはまず聞ける発言ではない。

「どう言うつもりだよ?」
【偶然看守の話を聞いた。お前は明朝・・・処刑される】
「何だと!?」
【どうやら、連中はお前を処刑し、その際に地球で起こったいざこざを全てお前に押し付けるつもりだ】
「死人に口なしって奴かよ。正義の宇宙警察のやる事かそれが?」
【・・・お前の言う通りだ。私は今まで、正義は宇宙警察にあると思っていた。だが、違った!】

 イインチョウの語尾が強張る。
 其処からは凄まじいまでの怒りが感じられた。正義を重んじ、弱者に対し常に賢者の如く手を差し伸べて来た彼が、今激しく怒っているのが分かった。

【結局、宇宙警察もゴクアク組と同じように悪だったんだ。今この場に正義は存在しない。私の信じていた正義は悪の上に被さった皮の薄い正義でしかなかったんだ】

 さっきまで怒っていたイインチョウは今度はすっかり沈み込んでしまった。今まで自分の心の支えになっていた正義、その正義が瓦解したが為の落胆だった。

【私は迷ったよ。このまま宇宙警察に留まり続ける事。それ即ち悪! だが、お前と共に地球に降り立ったとしても、それは悪! どちらの道も悪でしかない。ならば、後はどちらの悪の道に進むか・・・それだけなんだ】

 悪と悪―――
 この地球と言う場所に正義など存在してはいなかった。
 あるのはただ、悪と悪との闘い。それしか存在していなかった。
 となれば、どちらかの悪の道に進むかしかない。

【だから、私は決めたんだ。どの道悪の道へと進むのならば、人の命を救える悪の道へ進むべきなのだと・・・と】

 音を立てて鉄格子が開かれた。開かれた牢獄からのっそりとバンチョウは外へ歩み出る。久しぶりの外だとばかりに背伸びして腹いっぱいに空気を吸い込む。

「かーー、やっぱ娑婆の空気は違うぜ。っつっても、まだ獄中の中なんだけどな」
【無駄口をする暇はない。さっさと出るぞ。看守達には睡眠薬入りのオイルを配ったから今頃は爆睡中だろうが直に交代要員がやってくる。そうなれば誤魔化しは利かなくなる】
「わぁってるって」

 言われなくともそのつもりだった。
 現状で宇宙警察の連中とやりあうのは分が悪すぎる。一応イインチョウのくれたエネルギーキューブである程度は回復したのだろうがそれでもある程度でしかない。
 また近い内に燃料切れを起こす危険性すらありえる。
 そうなれば今度こそ一巻の終わりだ。

「まずは俺の番トラを見つけねぇとな。ダイバンチョウになりゃどんな奴らが来ても負けるこたぁねぇぜ」
【番トラの場所なら私が把握している。連中に接収される前に私が極秘に隠してい置いた】
「流石イインチョウだ。お前将来出世するんじゃねぇのか?」
【よしてくれ。私はこうして悪の道を行くんだ。出世どころか、今後の未来は暗いだろうさ】

 乾いた笑みを浮かべて自分の置かれた状況を嘲笑うイインチョウ。彼からして見れば自分が憎んでいた悪の道へ敢えて飛び込もうとしている。
 はっきり言って愚行中の愚行と言えた。今後彼は宇宙警察を裏切った卑しき存在として宇宙中にその名を刻まれる事となるだろう。
 彼にはもう輝かしい未来など訪れる事はない。だが、それを承知でこうして悪の道を進んだ彼を誰が責められようか?
 誰にも彼を責める権利などない。自分の中にある本当の正義の為に敢えて悪となった彼の苦悩を、誰が理解してくれようか。

「ま、お前の言ってる事は良く分かんねぇけどよ。未来なんて大概そんなもんじゃねぇのか?」
【何が言いたい?】
「未来が暗いだの明るいだの、そんなの誰も分かる訳がねぇ。そんなの実際に見るまではどんなもんなのか誰にも分からないってこったよ。だから、お前もそんな悲観的になるんじゃねぇっての。確かにお前は宇宙警察を敵に回したかもしれねぇけどよ。その代わりにこうして俺が仲間になったんだろ?」

 自分を指さしながらバンチョウは笑った。彼の自信に満ちた笑みは何処か見てると安心させてくれる。全く根拠のない笑みではあるのだろうが、それでも今のイインチョウには彼の笑顔が何よりも救いに思えた。





 イインチョウとバンチョウが訪れたのは宇宙警察本部内の廃棄処分施設内だった。
 辺り一面がらくたが散乱しており、物を隠すには絶好の場所と言えた。

「こりゃまた、随分と凄い場所に隠したな」
【木を隠すには森の中と言うだろ。本部内は何処も監視カメラが動作しているが、この中だけはない。隠すには絶好の場所と言う訳だ】
「なるほど、そりゃ言えてるな」

 イインチョウが言いながら目の前のがらくたを手でどけ始める。しばらくすると、がらくたの山の中から番トラの姿が現れた。
 ガラクタの山をカモフラージュとして隠していたようだ。

「おぉ、俺の番トラだ。しかも傷だらけだったのが綺麗に直ってやがる!」
【一応私が修理しておいた。完全とはいかないだろうが戦闘もこなせる筈だ】
「十分十分、其処までしてくれりゃ言う事なしだぜ・・・ん?」

 ふと、番長は番トラの近くに何かあるのに気づいた。それは小さなカプセル状のものだった。
 丁度人間一人が入る位の小型カプセルが其処にある。

「何だ、こりゃ?」

 気になり、カプセルを凝視する。中に人の影のようなものが見える。だが、誰なのかは判別しづらい。

「バンチョウ。このカプセルの中が見たいんだが」
【任せろ】

 番の頼みを受けバンチョウはカプセルを解析する。カプセルの中が鮮明に映りだした。中には人が入っていた。
 年からして番と同じ年代の、若い男性が其処に入っていた。

「な!!・・・ま、守!? 何で、守が此処に居るんだよ?」
【私が保護していたんだ。彼は私の・・・命の恩人だからな】
「命の恩人? どう言う事だよ。大体、それじゃ今まで学校に来ていた守は一体?」
【それは、私が擬態していた姿だ】
「お前だったのかよ? 道理で最近の守の様子がおかしいと思ったら・・・でもよぉ、一体何で守が命の恩人なんだ?」
【話は後だ、今は此処から脱出する事だけを優先するべきだ】

 気にはなるが確かにイインチョウの言う通りだった。聞きたい事は山ほどあるが今は此処から一刻も早く脱出して地球に戻らなければならない。
 こうしている間にもゴクアク組の連中が悪さをしているかも知れないのだから―――

【やはり此処に居たか!】

 声と共に、突如として複数の人影が姿を現した。宇宙警察の面々と、それらを統括する総司令官のジェネラルだった。

【ジェネラル!】
【レオン、貴様には失望したぞ。まさか重犯罪人であるバンチョウ星人と地球星人を脱獄させようととはな。宇宙警察の歴史に泥を塗る行為をしおって!】
【ジェネラル、貴方こそ宇宙警察の歴史に泥を塗る重犯罪者だ! 正義を司る者でありながら悪のゴクアク組と結託し、奴らの悪行を黙認する行為。それを悪と言わないのか?】
【だから貴様は青いのだ。正義を執行する為には悪の存在が必要。いわば奴らは必要悪と言うのだよ。それにな、奴らが居れば私の目的の達成が早まるのだよ】
【目的? 貴方の目的は一体―――】
【無論、野蛮な原住民である地球星人の抹殺だ!】

 ジェネラルの口から放たれた衝撃的な発言。
 地球星人の抹殺。その為に彼はゴクアク組と結託し、彼らを地球へ派遣していたと言うのだろう。
 全ては彼の思い描いた正義の為。だが、それでは余りにもあんまりだった。

【狂ってる・・・正義の為にあの青い星の住人を皆殺しにすると言うのですか?】
【これも正義の為だ。奴らはいずれこの広大な宇宙を脅かす存在になりかねん。故に奴らが未熟な内に処理するのだ。これも宇宙警察の務めなのだぞ】
【違う! 私の信じて来た正義とは、力無き人々を守る為の盾となる事! 貴方の様な一方的な正義とは違う!】
【おしゃべりは此処までだ。裏切者レオン、並びに重犯罪者であるバンチョウ星人と地球星人の処刑を今此処で執り行う!】

 ジェネラルの命令を受け、大勢のイインチョウに似た奴らが横一列に並ぶ。
 正義とは、悪とは、何を信じて、何を目指して行けば良いのか?
 イインチョウの中には、まだその答えは出ていなかった。





つづく 
 

 
後書き
次回予告


「地球星人の抹殺だぁ!? そんなのこの俺とダイバンチョウがさせる訳ねぇだろうが! やるぞバンチョウ、それにイインチョウ! 奴らの歪んだ正義なんざ俺達の悪で叩き潰してやる!」

 次回、勇者番長ダイバンチョウ

【正義と悪の大決戦! 悪党達(おれたち)を舐めるんじゃねぇ!!】

 次回も、宜しくぅ! 
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