| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第17話 超必殺! これが俺の番超拳だ!

 その日、轟番は頭を抱えていた。普段から悩みとは無縁とも言えるその番が頭を抱えて悩んでしまっているのだ。
 恐らく、きっと明日はみぞれが降るであろう。などと冗談はこの位にして、とにかく番は今激しく悩んでいるのであった。
 
「どうすっかなぁ……まさか、木刀ブレードを折っちまったからなぁ」

 それは、前回の戦いの時であった。ケンゴウ星人との激闘を邪魔してきたワルダー星人達を倒した際に、勢い余って奴らが持っていた木刀ブレードを折ってしまったのだ。
 ダイバンチョウの超必殺技を放つ為には木刀ブレードの存在は必要不可欠な物である。その木刀ブレードをまさか自分の手で折ってしまったとは、古今東西勇者作品の中であったであろうか。
 恐らくはない。自分自身の手で自分の得物を壊す勇者など居る筈がないのだ。
 今、目の前に居る番を除いての話ではあるが。

「何時になく悩んでるじゃないか番。こりゃ明日は雪でも降るかも知れないねぇ」
『その通りじゃのぉ。おまんが悩むなんぞ珍しい事ではないかぁ』
「るせぇ、俺だって悩む時は悩むんだよぉ」

 回りでは頭を抱えて悩んでいる番を面白がっている茜達の姿がある。彼女らも頭を抱えて悩んでいる番は相当珍しいらしく、弄り甲斐のある玩具扱いしている。

「腐ったってしょうがないじゃないか。元々自分の得物を砕いたあんたが原因なんだからさぁ。自業自得とはこの事を言うんだろうねぇ」
「ほっとけ。だからこうして悩んでるんじゃねぇか!」
「あっそ。んで、何か答えは見つかったのかい?」
「………」

 茜の問いに番は黙り込んでしまった。つまり答えは見つかっていないと言う事だ。そんな番を見て茜は深いため息を吐く。

「ったく、柄にもなく悩んじまって、バカらしいねぇ」
「んだとぉ!?」
「大体、必殺技なんてのはねぇ、てめぇの体を使って出すもんだろう? 得物を使っての必殺なんざ必殺じゃないね」
「た、確かに……その通りかも知れねぇな」

 茜の最もらしい言い分に番自身も頷いてしまった。確かに、考えてみれば茜の操る紅バンチョウの必殺技は十時方向から同時に繰り出される蹴り技だ。つまり、彼女は己の体を武器として戦っている。それに対し、ダイバンチョウは今まで木刀ブレードと言う得物を用いた必殺技ばかりに頼っていた。
 だから、いざと言う時に必殺技が使えなくなってしまうと言う事態に陥ってしまうのであろう。
 今が正にその状態だったりするのだから。

『あのぉ……それだったら木刀ブレードを修理するって考えはダメなんですか?』

 恐る恐る、レスキュー番長が手を挙げながら進言する。気が弱い為か控えめに言ってるのが見て取れる。
 そんなレスキューの言葉を聞き、番は再度深く項垂れてしまった。

「それが出来りゃ苦労はしねぇよぉ~」
『え? 直せないんですか?』
「ダイバンチョウの木刀ブレードってのはよぉ、この宇宙でも極端に数が少ないって言われてる『怒根性樹』って言う巨木から作られてるんだってよ。んで、その怒根性樹は俺達の居る太陽系には一本たりとも生えてないんだよ」

 怒根性樹とは、広大な宇宙の何処かに自生していると言われている巨木の事である。その名が示す通り凄まじい強度を誇っており、これで作られた武器は鋼鉄ですら豆腐の様に砕いてしまうとさえ言われている。
 だが、その存在自体が眉唾物の存在な為に何処にあるのかは誰も知らないと言う。現物を見た者さえ居ないとされている正に幻の樹木なのであった。

「んで、その怒根性樹で作られた木刀ブレードをあんたは素手で折っちまったって事かい?」
「あい……その通りだす……」

 すっかり意気消沈してしまい、机の上に倒れ込んでしまった。悩んでも悩んでも答えなど出る訳がない。増して、普段から悩みとは全く無縁の番が悩むのだから答えなど出る筈がなかった。

『何悩んでんだよぉ番。男だったら特攻上等! 体張ってぶつかってけば良いじゃねぇか!』
「ドリル。お前―――」
『ドリルの言う通りじゃ。所詮武器なんぞ本物の男が手にする物じゃない。本物の男っちゅぅうんは己の体を武器にして戦う物なんじゃ!』
「レッド―――」
『えっと、その……が、頑張って下さい! 番さん』
「レスキュー、へっ、有難うよ。お前ら」
「良い話だねぇ……んで、あたいには何もなしかい?」
「あ!!」

 散々助言していた茜には何もなかった事に気づいた番であったが、その時には既に茜の踵落としが番の脳天に叩きつけられていた後であった。




     ***




 ダイバンチョウの得物が無くなったと言う報せは直ちにゴクアク組の耳に入っていた。今まで多くの部下達を葬って来た憎き木刀ブレード。その木刀ブレードがダイバンチョウの手で破壊された事は彼らゴクアク組にとって正しく朗報と言えた。

「ゴクアク星王! これはまたとない好機に御座います。これを皮切りに地球を守ってる憎き番長達を葬りましょうぞ!」
「うむうむ、今まで苦渋を飲んできた甲斐があったと言うものよ。今度こそあの憎きダイバンチョウの最期が拝めると思うと今宵の酒は格別に上手くなるに違いあるまい!」

 報告を聞いたゴクアク星王は大層嬉しそうに言葉を並べた。そして気分よく机の上に置かれていたバーボンオイル割を一気に飲み干してしまう。
 冷たいバーボンとオイルの混ざりあった液体が喉を通って行く感覚が何とも心地よく感じられた。

「ふふふ、既に地球には腕利きの宇宙人が向かっているのだろう?」
「はい、今度の宇宙人はそれはもう腕っぷしの立つ宇宙人でございます。さしものダイバンチョウも今度ばかりは一巻の終わりでございましょう」
「ふははははっ、それは良い。これであの地球は俺達ゴクアク組の物だ。これで今までの赤字もすべてチャラに出来る。事が済んだ後はあの星でしこたま宇宙麻薬を作りまくって売りさばけ! その後は地球人達を全て他の星に売り払えば正にウハウハ間違いなしよ!」

 組長室内にて悪の笑いが木霊していた。なんともせこいやり口に見えるだろうが悪党なんだからこれで正論なのだ。寧ろ清々しい位に悪党をやっている様にも見えるんだからこいつらは間違いなく悪者で間違いない・・・今更である。




     ***




 ゴクアク組の刺客が地球に向かっている事など、露知らずな番は新たな必殺技を会得するべく早速特訓に励んでいた。と言ってもやる事と言えばひたすらにサンドバック相手に殴る蹴る等を行うだけであり、そんな事をしてもそう簡単に出来る筈もなく、ただただいたずらに時間と体力を浪費するだけとなっていた。
 しかし、とにかく番はひたすらにサンドバックを叩き続ける。それが例え無駄な行為であったとしても今の番には関係がなかった。とにかく何かしなければならない。自分なりに出来る事をやる。その結果がこのサンドバック叩きなのであった。

「うおぉりゃぁ!」

 怒号と共に番の鉄拳がサンドバックを突き破った。中からザラザラと砂が零れ落ち、みるみる内にサンドバックが小さく萎んでしまった。すっかり見る影もなくなったサンドバックを前にして、番は小刻みに呼吸をしながら、額に溜まった汗を手の甲で強引に拭った。

「駄目だ、こんなんじゃ到底必殺技になんかなりゃしねぇ!」

 愚痴を零し、地面に向かい拳を叩きつけた。確かに番の拳は相当な破壊力を持つ。だが、それだけではダメなのだ。もっと決定的な何かが必要なのだ。今までダイバンチョウで敵を葬って来た時の様な決定的な何かが―――

「まぁたサンドバックぶっ壊しちまったのか兄ちゃん?」
「あぁ、ったく! これで20個目か…」
「22個目だよ」

 流石にそこまで壊すまでやるなと何処からかツッコミが飛んできそうな気配がしなくもなかったが此処ではスルーさせていただく。どうせ二人は気にしないだろうから。
 とにもかくにも22個もサンドバックに風穴を開ける行為をしたんだから、番もすっかり体力を使い果たしている状態になっていた。全身汗まみれになり立っているだけでも結構しんどかったりする。
 更に言えば猛烈な空腹感が襲ってきていたりする。

「あぁ、腹減った……真ぉ、何か食う物持ってねぇか?」
「持ってる訳ねぇだろ。その辺の雑草でも食ってれば良いじゃねぇか」
「バーロィ。俺はバッタじゃねぇんだぞ。まぁ、バッタだったら食うけどよ」

 その発想もどうかと思うのだが―――
 しかし、腹が減ってはなんとやら…だ。

「ま、熱中するのも程ほどにしておけよな。サンドバックだってタダじゃねぇんだしさ」
「わぁってるよ」

 相変わらず生意気口調な真に一言そう返すと、再び新しいサンドバックをつるし始める。そんな番の姿を見ていた真であったが、すぐに何処かへと行ってしまった。恐らく家に帰ったか遊びに行ったのだろう。どのみち此処に居ても余り意味はない。

「さてと、今度こそ新必殺技を編み出してやる」

 両の拳を鳴らし決意を新たに特訓を再開しようと気合いを高める番であった。
 そんな時であった―――

「そんな事、やるだけ時間の無駄だぞ」
「何!?」

 突如として、何処からか声がした。しかも、その声の内容は明らかに自分のやってる事をあからさまに否定している内容であった。
 それに番は憤りを感じ、声の主を探し回った。

「誰だ! 文句があるなら目の前に出て来やがれ!」
「俺なら此処だ。轟番」
「!!!!」

 声がしたのは上の方だった。丁度番が吊るしたサンドバックの枝の上に立つ形でその人物は立っていた。
 その衣服は突飛と言える風貌をしていた。と、言うのもそいつが身に纏っていたのは番の着ていた服の色違いと言える代物だったからだ。
 まるで同じ出来の学生服だったのだ。違うとすれば色が違うだけである。番の学生服は黒なのに対し目の前に立つそいつが着ている学生服は若干色が剥げ出した薄い灰色の様に見える。
 更に言えば、その男の顔には丸い能面が被さっており素顔を見る事が出来ない。
 しかも、その能面にはでかでかと『番長』の文字が掛かれていたのだ。

「誰だてめぇ!?」
「俺の名前は【番長仮面】貴様が余りにも不甲斐ないのでな。見ていられなくなってこうして出てきたって訳だ」
「俺が不甲斐ないだと?」

 番長仮面と名乗った男が番を指さしてそう言う。その言葉に番は心外とも言える不満な顔をした。が、そんな事番長仮面は気にも留めずに話を続け始める。

「轟番。貴様は木刀ブレードを失ったが為に新たな必殺技を模索しているようだが、それ自体こそが不甲斐ない! 余りにも不甲斐なさ過ぎる! 貴様はそれでもこの町の番長か?」
「何だと?」
「良いか、轟番。必殺技とは、その名の通り必ず相手を殺す技なのだ。そんな力任せの打撃なぞ必殺には到底値しない。百発撃とうが一万発撃とうがそれが必殺技になる事は決してない!」

 番長仮面の言葉がビシリと決まる。その言葉に番は反論する事を忘れてしまっていた。だが、すぐに思考を切り替えて反論するように頭を切り替えた。

「んなのやってみなけりゃ分からねぇだろうが! 男の喧嘩は命懸け、何でもやってみなけりゃ結果は分からねぇ。理屈ごねてる暇があんなら俺は拳を突き出すぜ」
「ふん、口で言っても分からんか。ならば直接お前の体に教えてやる! この俺がなぁ!」
「何をする気だ?」
「知れた事、こうするまでよ!」

 番長仮面は言い終えると右腕を頭上へと伸ばし、指を弾いた。すると轟音と共に何処からともなく巨大なデコトラが姿を現した。
 まるで番トラと酷似しているそのデコトラの上に番長仮面が降り立つ。

「根性合体!」
「何ぃぃ!?」

 番長仮面がコールし、デコトラがその姿を変える。忽ちデコトラだったそれは巨大な一体の巨人へと姿を変えた。こちらもやはり、色意外はダイバンチョウと酷似していた。

「ゴウバンチョウ、見参!!」
「ご、ゴウバンチョウだとぉ!?」

 番は度肝を抜かれる思いだった。まさか目の前にダイバンチョウとほぼ同じ姿のロボットが現れるとは。そんな驚きの感情に支配されていた為か、番の動きが少しだけ遅れてしまった。
 その隙を、決してバンチョウ仮面は、そしてゴウバンチョウは見逃さなかった。

「うおっ!」

 番に向かいゴウバンチョウの剛腕が放たれる。とっさに横飛びでそれを回避するが、ゴウバンチョウの攻撃は更に続く。人間サイズの番にすら一切容赦をしない。

『番!』
「バンチョウか!」

 正に絶好のタイミングだった。番の窮地を察知してかバンチョウが駆けつけてくれたのだ。更に番トラもある。これで条件は互角になる。

「やるぞ、バンチョウ。根性合体だ!」
『おうよ!』

 番とバンチョウが合身し、続いて番トラと根性合体を行う。こうして史上最強の喧嘩番長ダイバンチョウが姿を現すのであった。

「ダァァイバンチョウォォォウ!!!」

 怒号を挙げて地上に降り立つ。互いに睨み合うダイバンチョウとゴウバンチョウ。こうなれば条件は互角。負ける事はない筈だ。

「ベラベラと御託並べやがって! てめぇを相手に新必殺技を編み出してやらぁ!」

 啖呵を切り、一直線にゴウバンチョウ目掛けてダイバンチョウは殴りかかった。硬く握りしめた右こぶしが空を切り凄まじいスピードで放たれる。
 これぞ正しく一撃必殺の鉄拳であった。
 辺りに衝撃と振動が伝わる。余りの凄まじさに草木は揺れ、風は一瞬波を打った。そして、番は驚愕する事となった。

「どうした? お前の必殺とはその程度なのか?」

 そこにはダイバンチョウの放った必殺の拳を涼しい顔で受けているゴウバンチョウの姿があった。その場から全く動いておらず、また後ろに下がってもいない。まるで効いている素振りを見せていないのだ。

「な……んだと!?」
「そんな拳では到底必殺など無理! ましてや拳ですらない。教えてやるぞ番! 男の拳、それ即ち鉄拳とはこう言うものだ!!」

 お返しとばかりに今度はゴウバンチョウの拳が飛び込んできた。かと思うと、気が付けばダイバンチョウは後ろに向かい吹き飛ばされていた。
 凄まじいスピードで後ろへと吹き飛び、地面に倒れ伏した。
 距離からして100メートル近くは吹き飛ばされている。
 
「がはっ! な、何て拳だ……」
「これが鉄拳だ。男の拳だ。お前の拳など蚊が刺した程にもこの俺には効かんぞ」

 倒れたダイバンチョウに向かいゴウバンチョウは豪語する。今の今まででこんな敵が現れたであろうか。まさかダイバンチョウの拳を全く物ともしないとは。恐るべし、ゴウバンチョウ。

「男の拳だぁ? んなもん俺だって持ってらぁ!」
 
負けじと立ち上がり、再度ゴウバンチョウ目掛けて殴りかかっていく。右、左、右、左、左右交互にダイバンチョウの剛腕が叩きつけられていく。
 だが、それらを食らってもゴウバンチョウはビクともしない。逆に殴っているダイバンチョウの両手が痛みを感じている位だった。

「はっはっはっ! 貧弱貧弱! 何だその腰の入っていない拳は? まるで女子の拳だな」
「ぜぇ……ぜぇ……ば、化け物か? こいつぁ」

 目の前では高笑いを浮かべているゴウバンチョウ。それに対して攻撃していた筈のダイバンチョウは肩で息をする程までに消耗しきっていた。一体どっちが優勢なのか分からない光景である。

「どうした、もう終わりか? それが男の拳だと? 笑わせるな!」

 再びゴウバンチョウの剛腕がダイバンチョウを吹き飛ばす。またしてもダイバンチョウの体は惨めに地面に叩きつけられてしまった。

「ぐぅぅっ!!」
「それでも男か? それでも番長か? そんな様で良く今まで戦い抜いてこれたものだな? えぇ、この貧弱番長が!」
「ひ、貧弱番長だとぉぉぉ!」

 番の額に青筋が大量に浮かび上がった。番長と言う名前を侮辱される事は番にとっては己の顔に泥を塗りつけられるのと同じ位に屈辱的な事なのだ。
 その屈辱を受けた番の怒りが頂点へと上り詰めようとしていた。
 
「許さねぇ! 番長の称号を侮辱したてめぇを……俺は絶対に許さねぇぇ!」

 激怒の叫びを挙げ、ダイバンチョウは咆哮した。そして、怒りのボルテージが噴火の如く湧きあがり、ダイバンチョウを再び朱く染め上げて―――

「………あり?」

 いかなかった。
 幾ら怒りのボルテージがマックスになろうとも、ダイバンチョウの姿は全く変わらない。前の時のような熱血モードへ変貌しないのだ。
 一体何がどうなっているのか?

「ど、どうなってんだ? 何で熱血モードが発動しないんだ?」
「ふん、とんだ期待外れだな。まさか自分の内なる力も自在に扱えないとはな」
「な、何だと!?」
「教えてやる。お前の言う熱血モードとやらは……こうやるのだ!」

 突如として、ゴウバンチョウから凄まじいまでのエネルギーが発せられた。みるみる内にゴウバンチョウの体が真っ赤に染まって行く。離れている筈のダイバンチョウですらゴウバンチョウから発せられている熱量を感知できる程であった。

「こ、これは……熱血モード!?」
「熱血とは、単に怒りで発動させるのではない。己の内なる感情を、魂を燃え上がらせる事だ。今の貴様の魂は冷え切っている。そんな状態では熱血モードなど発動する筈がないのは当然の事よ」
「俺の魂が……冷え切ってる……だと!?」

 信じられない発言であった。俺の魂が冷え切っている。
 確かに、ゴウバンチョウはそう進言してきたのだ。まさかそんな事がある筈がない。番はそう思った。
 魂が冷え切っている。そんな筈はなかった。現に番の心は激しい怒りで烈火の如く燃え上がっている筈なのだ。
 なのに、ダイバンチョウは一向に熱血モードへ移行しない。にも拘わらず目の前のゴウバンチョウはあぁもあっさり熱血モードへの移行を果たしてしまっていた。一体何が違うと言うのだろうか?

「冷え切った魂では必殺の拳など到底打てはしない。必殺技とは己の魂をつぎ込み、己の技一つに己の全てをつぎ込み相手を倒す一撃必殺の技なのだ!」
「一撃必殺の……技……」
「そうだ、必殺技に二の太刀はない。放った瞬間に己の命すらつぎ込み叩き込む。必殺技とはそれ程までの覚悟があってこその必殺技なのだ。今のお前にそれが出来るか? 出来はしない。お前のその冷え切った魂では到底必殺技など出来はしないのだ!」

 面前に立つダイバンチョウを指さしてゴウバンチョウが言い放った。何とも理に適った言い分なのだろうか。番は心底そう思えてしまった。
 必殺技とは己の全てをつぎ込んで相手を倒す一撃必殺の技。その技に二の太刀は存在しない。仕留められなければ全てが終わり。それ程までの覚悟があってこその必殺技。
 そう言う事なのであろう。

「お、俺にだって……俺にだってそれ位の覚悟ある筈だぜ!」
「今のお前にはその覚悟など微塵も感じられない。今のお前がやっている事は、ただの子供の喧嘩に過ぎん。そんな事では、これから先の脅威に立ち向かう事など不可能だ!死にたくないのならば尻尾を丸めて逃げる事だな」
「冗談じゃねぇ! 男が売られた喧嘩を前にして逃げられるか! 俺はどんな奴が相手でも絶対に逃げねぇし負けねぇ! 今までも、これからもだ!」
「ふん、これだけ言っても聞かぬか。ならば……むっ!」

 突如として、ゴウバンチョウが向きを変えた。ダイバンチョウもそれに釣られて首の向きを変えてみる。それは町の方角であった。その町の方から火の手が上がっているのが見える。
 爆発音も多数聞こえてきた。恐らく、またゴクアク組の連中が攻めて来たに違いない。

「あいつら、こんな時に―――」
「丁度良い。お前の覚悟、奴らとの闘いで見せて貰うぞ」
「あぁ、好きなだけ見てな。そして、その後で俺に言ったこと全部否定させて貰うからな」
「それが出来ればだがな」

 その場から動こうとしないゴウバンチョウを尻目に、ダイバンチョウは町へ向かい駆けて行った。一心不乱に走り去っていく様を、遠目からゴウバンチョウが見つめている事も気に留めずに、ダイバンチョウは走って行った。

「番、熱血モードを使いこなせぬようでは。奴らには到底勝てんぞ。己の男を磨き上げろ。そして、『漢』になれ!」

 誰も居なくなった戦いの跡地にて、ゴウバンチョウが一人呟いていた。その言葉の意味とは一体。
 その真相を知っているのは、恐らく番長仮面ただ一人であろう。




     ***




 ダイバンチョウが辿り着いた頃には戦闘は既にひと段落ついた後であった。
 ダイバンチョウよりも前に紅バンチョウやドリル、レッド、レスキューらの活躍によりゴクアク組の構成員達は残らず駆除されていた後なのであった。

「遅かったじゃないか、番」
「悪い悪い、ちょいと野暮用があってな。にしても……またこんな雑魚ともを差し向けて来たってのか?」

 目の前に転がっている残骸から見るに、相手は雑魚の構成員程度でしかない。腕利きの宇宙人ではなかった。一体何の真似なのであろうか。
 この程度の構成員では到底番長達の相手になどなる筈がないと言うのに。
 疑念が募るばかりだった。

『まぁ、良いじゃねぇか。それよりもさっさとぶっ壊れた町の修復をしねぇとな』
『あ、僕は怪我人の救助を優先しますね』
『そんじゃ、わしゃ消火作業でもするかのぉ』

 戦いが終わればその後は壊れた町の復興作業が行われる。如何に弱い構成員と言っても10m以上の巨体なのでビルを壊す位訳ないのだ。
 それを直すのに人間の力だけだと相当な時間が掛かってしまう。だが、番長達が手を貸してくれれば瞬く間に元通りになれるのだ。
 
「やれやれ、んじゃあたしらは瓦礫の撤去から始めるとしますか」
「おう、さっさと終わらせて飯に……ん?」

 何かの気配を感じた。それも敵意にも似た感覚だ。気配を感じたダイバンチョウは上空を見上げる。気配の主は案外すぐ近くに居た。
 上空を漂う姿はまるで空飛ぶ円盤そのものであった。そんな如何にも不格好ななりをした物体が地面へと降り立つ。

「ふん、ただの構成員程度ではその程度ってところか。まぁ良いだろう」
「誰だてめぇ!」

 目の前に降り立った円盤であったが、地面に着地するやいなや其処から手足が生えだし、地面に足を付けて立ち上がる。しかし、やはりその姿も不格好と言えば不格好そのものであった。

「俺の名前はナノマイト星人。ダイバンチョウ! てめぇをぶち殺すようにとゴクアク組からのお達しでなぁ。あんたに恨みはないが死んで貰うぜ」
「へっ、上等じゃねぇか。たった一人で俺達に喧嘩売るたぁなぁ」
「おぉっと、流石の俺でもお前ら全員を相手にするのは面倒臭いんでな。それに依頼はダイバンチョウ抹殺ってだけなんでな。俺の獲物はお前一人なんだよ。ダイバンチョウ!」

 その発言の直後であった。ナノマイト星人とダイバンチョウの周囲を取り囲むかの様に突如として半透明なエネルギーの幕が展開された。その形はまるでドーム状となっており、戦闘する分には申し分ない広さを保っている。
 言うなればダイバンチョウとナノマイト星人専用のリングと言えた。

「番!」
「へっ、おあつらえ向きにリングまで用意しているたぁ流石だな。だが、この俺にタイマンを挑んだ事を後悔させてやるぜ」
「さぁてな、後悔するのは果たしてどっちかな?」
「ぬかしやがれぇ!」

 開口一番にとダイバンチョウが殴りかかった。その不格好などてっぱらに一発剛腕を叩き込むつもりだったのだ。
 だが、そのどてっぱらに届いた際に感じたのはとてつもない硬さだった。

「がっ……硬ぇ……どうなってんだ? こりゃぁ」
「馬鹿め、俺様の体はダイヤモンドの2万倍硬いとされているナノマイト鉱石で作られてるんだ。てめぇ如きの拳なんざ効きはしねぇんだよ」

 ナノマイト鉱石。それは広大な宇宙の何処かにあると言われている希少鉱石の事であり、加工次第では地球で最も硬いとされているダイヤモンドを遥かに凌駕する事が可能と言われている鉱石なのだ。
 そして、ナノマイト星人はそのナノマイト鉱石を常食としている為に全身がナノマイト鉱石で覆われている状態になっているのである。

「野郎、だったらこれでどうだ!」

 拳がダメなら別の攻撃を試すまでの事。まずは試しにメンチビームを放ってみる。
 が、ダメだった。堅牢なナノマイト鉱石で作られたナノマイト星人の前ではメンチビームでは歯が立たない。寧ろ、光沢のある表面に放ったが為に反射して自分にビームが返ってくると言う結果に終わってしまった。

「馬鹿め! ビームなどこの俺には効きはせんわ!」
「だったらこれでどうだ!」

 続いてロケット下駄を放つ。が、これも駄目だった。高速で飛ぶ下駄もナノマイト鉱石の前では全くダメージにならない。

「がっはっはっ、何だその攻撃は? マッサージにもならんぞ」
「んの野郎! だったら上空から……」

 こうなれば残る武器は上空からの急降下キックである東京タワーキックしかない。
 東京タワーと同じ高さまで上昇してからの急降下キックであればあるいわ―――
 
「んぐおぉっ!!」

 だが、其処でとある誤算が生まれてしまった。それは、この形成されたリングにあったのだ。
 確かに、このリングは広さ的に言えば申し分ない広さを誇っている。
 だが、それとは対照的に高さはそれ程高くないのだ。
 とても東京タワーまでの高さまでジャンプする事は出来ない。
 頭上を激しく打ち付けたダイバンチョウはそのまま地面へと真っ逆さまに落下してしまった。

「がっはっはっ! 今頃になってこのリングが罠だと気づいたか間抜けめ。このリングはお前のとっておきでもある東京タワーキックを封じる為の牢獄でおあるんだよ」
「な、なにぃ!?」
「木刀ブレードを失った今のお前など、赤子の手を捻る程にも簡単な相手だ。その上必殺の技が全て潰されたとありゃぁこりゃ楽な仕事だぜ」
「くそっ、やっぱりゴクアク組のやることぁせこい手ばかりだな」
「そのせこい手でくたばんのがてめぇなんだよ! そらぁ、くたばっちまえ!」

 ダイバンチョウの攻撃が全て不発に終わったのを皮切りに今度はナノマイト星人の攻撃が行われた。不格好な胴体から野太いビームが発射される。そして、それを浴びたダイバンチョウがリングの端まで吹き飛ばされてしまった。

「ぐぅぅ! た、唯のビームなのに何て威力だ」
「これがナノマイト光線の威力よ。ナノマイト鉱石はただ硬い装甲を作るにあらず。其処から生成されるビームは凄まじい威力を発揮するのだ。今のお前をぶち殺すには少々勿体ない武器かもしれんが、冥途の土産にたんと味わっていけぃ!」





     ***




 リング内ではダイバンチョウが完全に劣勢に追い込まれていた。幸い外に居た他の番長達は皆でこのリングへの攻撃が行われていた。

「こんのぉぉ!」
『おりゃぁぁ!』

 番長達が一斉にリングへの攻撃を行う。しかし、ナノマイト星人と同じく堅牢なリングを前に番長達の攻撃は全く歯が立たなかった。

『くっそぉ、俺のドリルでも貫けないなんて、一体どうなってやがんだ!』
『このままじゃ番さんが、でもどうすれば―――』
『弱音を吐くんじゃない。わしらが諦めたら仕舞いじゃけぇ!』

 互いに激励しあい、再度攻撃を試みる。だが、やはりリングは堅牢でとても破れる気配がまるでない。

「番、こんな所でくたばったら承知しないからねぇ! 絶対にそんな奴に負けんじゃないよぉ!」

 上空からリングに蹴りを浴びせながら茜が番に向かい叫ぶ。それが果たして番の耳に届いているのかは分からない。そんな中、リング内のダイバンチョウの命運は正に風前の灯とも言えた。
 高威力のナノマイト光線を絶え間なく浴びせられ続けており、立ち上がる事さえ困難な状況にまで追い込まれていた。

「ひゃっはっは! こんな奴を仕留めて大金が貰えるんだから美味い話だぜ! そらぁ、さっさとくたばっちまえぇ!」
「ば、バカ野郎……こんな……ところで死ねるか!」
「強がり言ってんじゃねぇよ! それならこいつも食らっていきな!」

 ビームに続いてナノマイト星人が放ったのは大量のミサイルだった。しかも全てがナノマイト鉱石で作られている為か威力はお察しであった。
 凄まじい爆発でリングに振動が伝わってくる。爆発と煙が晴れた後、其処にはうつ伏せに倒れ伏したダイバンチョウの姿があった。

「弱い弱い、噂のダイバンチョウってのはこんなもんか? 大した事ねぇなぁ」
「……大した事……ねぇ、だとぉ?」
「あん?」

 微かに声が聞こえた。最早虫の息にも聞こえるかすれ声をあげながらも、ダイバンチョウは立ち上がって来たのだ。恐ろしいまでの根性である。

「へっ、まだ俺は生きてるぜ」
「しぶとい奴だなぁ。いい加減くたばれってんだよ!」
「へへっ、くたばる訳にはいかねぇなぁ。こんな俺の為に、外に居る奴らは必至になってんだ。そんなあいつらの為にも・・・俺は、お前なんかに・・・負ける訳にはいかねぇんだよぉぉっ!!」

 腹の底から番は叫んだ。心の底から番は叫んだ。仲間達が俺を信じて必死になっている。この俺を信じて必死になっている。そんな仲間達を前にして俺が無様な姿をさらす訳にはいかない。こんな奴に負ける訳にはいかない。
 
”男を見せろ! 根性を見せろ! どんなに傷つこうがどれほど痛めつけられようが立ち上がって見せろ!”
 
 番は奮い立った。彼の心から熱い何かが込み上げて来ているのを感じた。全身の血液が一斉に沸騰し湧き上がり、体中を燃やすようなそんな感覚だ。
 心が燃える。体が燃える。魂が燃える。番の全てが紅蓮の炎の如く赤く燃え上がって行くのを感じる。

【熱血ボルテージ120%突破。熱血モード発動!!】

 機械的な音声と共にダイバンチョウのフェイスマスクがはがれ、長ランを模したアーマーが剥がれた。その後に続いて、ダイバンチョウの体から蒸気が噴き出し、ダイバンチョウの表面温度が飛躍的に上昇していく。周囲の景色が揺らぐ。それ程までにダイバンチョウの熱量が上昇しているのだ。

「な、何だこりゃ・・・こんな話聞いてねぇぞ!?」
「覚悟は良いか? 今の俺は手加減なんざ一切しねぇ!」
「く、来るな! 来るんじゃねぇっ!!」

 突然のダイバンチョウの変化に動揺したのか、ナノマイト星人は完全にたたらを踏み始めた。パニックを起こし、内臓していた武器をしこたまダイバンチョウ目掛けて発射する。凄まじい程の攻撃に白煙が沸き立ち、目の前が何も見えなくなったとしてもナノマイト星人は攻撃を止めなかった。
 ありったけの武器を放つ。それしか今のこいつは考えられなかった。
 時間からしておよそ数分位だっただろうか。内臓武器を撃ち尽くし、白煙が立ち籠る中、ナノマイト星人は肩で息をしていた。
 
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ど、どうだ!?・・・幾らなんでも・・・これだけ攻撃すりゃ・・・奴もお陀仏―――」
「もうお終いか?」
「!!!!!」

 白煙の中から声が響いた。目の前の煙が徐々に晴れて行く。晴れた白煙の中からその姿が少しずつ露わになってきた。
 ダイバンチョウは健在だった。しかも、あれだけの攻撃を浴びたと言うのに全くダメージを受けた形跡がない。
 悠然と目の前に立っていた。

「ば、バカな・・・俺の武器が・・・通用しないなんて・・・」
「お前のは所詮ただの攻撃だろうな。だが、それは必殺じゃねぇ。必殺ってのはななぁ、己の体から放つ一撃に全身全霊を込めて放つ物なんだよ。それが、それこそが必殺だぁっ!!」

 ダイバンチョウの右拳が硬く握られる。腰を捻り、力を溜め、足を踏みしめ、全身の筋肉を震わせ、全エネルギーを右拳に集中し、それを放つ。

「これが俺の必殺だ! これが俺のぉぉ・・・【番超拳】だぁぁぁっっっ!!!」

 必殺の名を叫び、拳を振った。体全身の筋肉のバネ、そして全身のエネルギー、何よりも、番自身の魂の炎、それら全てを右拳に乗せて放った。
 放たれたダイバンチョウの右拳はナノマイト星人の堅牢な装甲を紙の様に破り、貫き、貫通した。

「げぅ!! ごぅぅおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 断末魔の叫びを挙げた後、ナノマイト星人は爆発四散した。辺りにそれと思わしき肉片が散らばるが、今のダイバンチョウには気にする余裕はなかった。
 番超拳を放ったダイバンチョウの体は急激に冷めて行き、遂には立っている事すら困難になりその場に片膝をついてしまったからだ。

「はぁ・・・はぁ・・・で、出来た! これが・・・これが俺の必殺だ!!」

 顔には疲労の色が浮かぶ番だったが、それと同じ位に彼は喜びを感じていた。今、番は新たな必殺技を手に入れたのだ。
 一撃に全てを込めて敵を粉砕するダイバンチョウ最強の必殺技。
 その名を【番超拳】。
 この番超拳こそが、木刀ブレードに代わる新たな必殺技となった。しかし、必殺技とはその威力故に代償も大きい。
 たった一撃を放っただけなのにダイバンチョウのエネルギーはほぼ0に近かった。番長仮面の言っていたのはこの事だったのだろう。
 一撃必殺こそが必殺。必殺に二撃目はない―――

「番長仮面・・・あんたの言う通りかも知れねぇ・・・俺は今まで只喧嘩していただけだった。だから、俺の拳は軽かったのかも知れねぇ。だが、これからは違う。俺は戦う。そして、戦いの中で俺と言う男を磨き上げてやる。そして、その時は・・・今度こそ奴を・・・番長仮面を倒す!」

 破れた結界の中で番は決意を固めた。倒すべく目標へ向けてただひたすらに己を磨き上げる。それが今の番の目標だった。




     ***




「ようやく手に入れたようだな、番。それこそが必殺だ」

 ダイバンチョウの勝利を見て、番長仮面は呟いた。あの拳こそ、本当の男の拳と言える。だが、まだ青い拳だった。

「もっと男を磨き上げろ。そして、ゆくゆくはこの俺を倒せる程の男になって見せろ。俺はその日を、何時までも待っているぞ・・・若き番長よ」

 そう言い残し、番長仮面は何処へともなく消えてしまった。彼が一体何者なのか? そして、番とどんな関わりを持っているのか? 
 それを知るのはまだ先の事だったりする。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告


「必殺技も手に入れて、これでダイバンチョウは無敵だぜ! と思ったら、今度は一度に3人の宇宙人が地球にやってきた。上等だ、そっちが3体ならこっちも3体で相手してやらぁ!」

次回、勇者番長ダイバンチョウ

【デスマッチ!掟破りの必殺破り!?】

次回も、宜しくぅ! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧