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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第96話 悪魔回廊再び



~ノースの街 リーザス解放軍司令本部~



 一先ず大小怪我人は出たが、死者を出さなかった。
 あの攻撃の規模を考えたら奇跡だと言っていいだろう。勿論、神魔法で回復をしてくれるヒーラー達の活躍も大きい。
 そんな中でも ロゼさんの 万能アイテム乱れ打ち にはいい加減慣れたとは言っても やはり驚く。一応ロゼ自身も神魔法を使う事が出来るのだが、圧倒的にレア回復アイテムでの治療の方が大きいから更に驚きだ。
 その財源は非常に気になるし、後々の請求額や要求が怖くなってくる、と言うものだが それでも現時点では非常にありがたいから、考えない様にしていた。

「……とりあえず、判った事がある。カタパルトの様な兵器を使ってるのかと思ったんだが、あれは モンスターだった。コンタートル。……あの規模だと数匹程度じゃすまない。無数にいると推察できる」

 本部にて、ユーリの言葉を皆が聴いて、納得をしていた。
 かなみ自身も『大きな四足の生き物を見た』と言っていた。他にも目撃者も多数いる。
 全員から特徴を訊いて、導き出した。ユーリの言う様に 《コンタートル》と言うモンスターを使役していると言う事。

「……そのモンスターを大量に配備して、城壁を守っているのね。あいつらは沢山モンスターを使ってるから、今更驚かないけど」

 志津香もゆっくりと頷いた。
 ホッホ峡でのヘルマンとの戦いで何度も魔物使いとは相対した。デカントも何体もいたから、今更モンスターが増えても驚いたりはしない様だ。……厄介に思ったとしても。

「うーん……、またモンスター。ヘルマンのお得意、魔物使い隊って事ね。……それもあの数だからユーリさんが言う様にいい魔物使いがいるんだと思う」
「かー……、そりゃきついな。さっさと撤退して正解だった。こっちの攻撃は届かねぇのに受けばっかじゃなぁ。性に合わねぇってもんだ。オレは責めの方が良い」

 マリアとミリが其々感想を口にしていた。ミリの妙な発言は話半分に聞いているのはご愛敬。

「エクス将軍の白の軍とアスカ、メルフェイスの紫の軍。それに加わった青の軍。こっちの戦力は向こうに比べても決してひけを取らない筈なんだけど……、今回ばかりはきついみたいね。リーザスの護りの強力さが自分達に向けられるとは思わなかったわ」

 我が国ながら脱帽だ。と言いたい気分なのはレイラだ。

 元々ヘルマンとの戦争は代々続いてきていて ヘルマンの攻撃力の前に虐げられた歴史もある。何度も侵略され そして 護り続けた結果 現在において、リーザスは強固な護りを築く事が出来ているのだ。高い城壁は地の利もあり、護りに徹すればどんな攻撃も跳ね返す。……今までに比べれば被害は少ないのだが、手立てが少ない。今までは相手も攻めてきていたのだが、今回は護りに徹している。……この戦争の中でも最も厄介な相手だという声もあった。

「ちっ……手詰まりではないか。おいユーリ、リック、清十郎。お前ら3人が何とかして来い」

 ランスが男の名前を覚えた事(付き合いの長いユーリは兎も角)には それなりに驚くのだが、この3人は戦闘狂だという認識が強く 何度も目撃していて あまりにそれが強烈に印象的だったので、流石に覚えたのだろう と推察できる。

「だから 無茶言うな」

 ため息を吐いてそういうユーリ。
 
「ミリではない、が。オレ自身も受けばかりは性に合わん。……一方的な攻撃。高い位置からの攻撃だ。回避ばかりの戦、戦う相手がおらん戦場。それ程つまらんものはない」
「自分も……恐れ多いですが 同意見です。……あの城壁を突破した時に、全身全霊で戦う事は誓いますが、現状では少数精鋭での突破は効果は薄いかと……」

 3人の意見を聞いてランスは再び唸る。

「ちっ、お前らなら喜々とさせながら向かっていくと思ったのだがな」
「……時と場合ってのがあるだろ? いくらなんでも」

 ユーリはごもっともな事を言ってるのだが、喜々とさせながら~ と言う部分を否定していないので、ユーリ自身も戦闘狂である、と言う事をそれとなく認めてしまっているのだろうか……? と思ったが 一先ず置いておく。

「そんなの駄目に決まってるじゃない! たった3人だけなんて! この馬鹿」
「アンタが行けば? 私より良い具合に焼いてくれるかもしれないわよ。ほら アンタは焼けても死なないんだし」
「トマトも反対ですかねー。でもユーリさんが行くならトマトも行くですかねー! トマトとユーリさんは一蓮托生ですです!」
 
 と、他にもちらほらと盛大な駄目だしを喰らってしまったランス。

「だぁぁ! やかましいわ! ちょっと言ってみただけだ! 男なぞ 死んでも構わんが、どうせ死ぬならオレ様の為に戦い尽して死ぬべきで、こんなとこで無駄死になどさせるか。勿体ない!」
「…………ランス様」

 そう返すランス。

 何だかんだで 男であってもこのユーリは勿論 リックや清十郎の事は認めている節は今まででもよく判る、と言うものだ。特にランスの傍で長くいるシィルはより判っていた。

 男で、更に気に入らない相手の場合 容赦なく叩きのめして 時にはザックリと斬ってしまう時だってある。それ程までに男に対しては横暴な面が強く出過ぎていた。でもユーリ達には至って普通、と言っていいから。

「(と、それどころではなかったです……!)ランス様。あのー 先程ヘルマンの使者と言う人が来て、こんなのを渡していきましたけど……」
「なに!?」

 ランスは直ぐにシィルの元へと行く。
 このタイミングで使者をよこすとは思わなかった為、ランスだけではなく 殆ど全員がシィルの方に注目した。

「使者だと? 当然ぼこぼこにしたんだろうな。シィル」
「う………、し、してないです」

 無茶な注文、要求をシィルにするランス。勿論シィルがそんな事を出来る訳もなく……。その後やっぱりランスに殴られてしまう。

「ひんひん………。こ、こちらですぅ……」
「ふむ。その手紙の印は確かにヘルマンのもの。……それも、皇族が使うもので間違いないですな」

 バレスが一目みてそう説明した。バレスが言う以上間違いはないのだろう。

「ランス。とりあえず シィルちゃんをイジメないで、先に進めてくれ。……このタイミングで使者を使って寄越した手紙とやらが気になる」
「ふん。判っておるわ! おい シィル。さっさと読め」
「は、はい……。えっと『愚かなるリーザス軍と、それに与する者どもに告ぐ』」

 と、シィルが言った途端に、ランスからシィルの頭に拳骨が落ちる。……何処かで見た光景。デジャビュを感じた。

「なんだと貴様―――! 誰が愚かだ!! お仕置きしてやる!」
「ひんっ…… ち、違います……そ、そう書いてあるんですぅ……」

 頭を抑えながら涙目になるシィル。当然ながら女性陣からブーイングが飛ぶ。

「女の子に手を上げるんじゃないわよ! 馬鹿ランス!」
「やかましい! 知ってるが、意外なほどに腹が立っただけだ!」
「理不尽過ぎるでしょ……」

 かなみの非難が飛び ランスの言い分に呆れるマリア。

「なんでシィルちゃんの様な子がランスに惹かれてるんだか………」
「はは……。オレはデジャビュった。確か前にもこんな事あったし。……それに シィルちゃんがこの中で一番ランスと付き合いが長いんだ。……多分、あの子にしか見えない良い所があるんだろうな。それに好いた惚れたは人の自由だろう? ……どう他人が思おうとシィルちゃんはアイツに惹かれてる。誰よりもな」
「…………」

 ユーリの言葉を訊いて、志津香は 少し訝しむ様にユーリを見た。
 それは



そういう(・・・・)感性があるのなら、もっと気付くべき点があるのではないか?』 



 と言う点だ。

 もうほんと今更だが、それでも思わざるを得ない。

 今までに何度も何度も思ってきては、口に出さなかった事である。
 色々と周りに多すぎるから、なかなか口にできない。だからこそ、無言の抗議、或いはプレッシャーをユーリに向けるだけだった。……正直な所暖簾に腕押しが続いているのが実情で 色々と大変だが。

「ぅぅ……つ、続けますぅ」

 とりあえず、シィルの朗読が続いた。
 ランスはこれ以上は殴る事はせず、ただシィルの声だけがこの部屋の中に響く。




――リーザス軍と、それに与する者どもに告ぐ。 我々は王都リーザスを占拠し、この鉄壁で貴軍らの侵攻を完璧に、完膚なきまでに阻んだ。今後も事態が好転する事はあり得ない。それが現実である。
 よって現状 諸君らの未来は無い。……が選ぶべき道はある。ただ一つだけ。
 それは、潔く降伏する事だ。今ならば、その勇戦を称え、寛大な処遇を考慮しよう。




 シィルは最後まで読み切った後、手紙を伏せた。

「……以上です」

 当然ながらこの場の誰もが納得する様な内容ではなかった。

「……何言ってるの!? 追い詰められてる癖に、降伏しろだなんて……!」
「一体何様のつもりよ。たった1度追い返しただけで、完全に上から目線。……腹が立つわね」

 かなみと志津香がそういう。ロゼもそれを訊いて頬をぽりぽり、と掻きながら。

「ふーん。何だか 相手の性質ってか、性格ってか ちょっぴり見えてきたって感じねー、何だか器がちっちゃい相手っていうかー。皇族とかが来てるって聞いたけど、でっかいガキって感じかしら? たった一回で覚えた快感に浸ってる感じよね~」
「あ、それオレも思った。玉座にふんぞり返ってるだけの無能って感じだ」

 不意に口にしたロゼの言葉は、何処か核心をついている様な気がするのは気のせいじゃないだろう。ミリも同じく頷いていた。そしてユーリも。

「ロゼに真顔でそこまで言わせるんだから相当だな。……が、その意見にはオレも同意だ。……まぁ 図体はでかいが ヘルマンの皇子は お坊ちゃんって感じなんだな」

 ユーリはそう言って座った。

 今後の作戦を考えなおさなければならない。 
 城壁はまさに鉄壁。リーザスの壁は鉄壁であり中にいるヘルマン軍を護る要塞だ。攻めてきた相手を護ってるとは複雑な気分にもなるかもしれないが、あの壁を越えなければ先には進めない。

「(空からも駄目だ。翼をもつフェリスでも回避しきれない程の攻撃がくるんだからな。……それに、フェリスには無理はさせられん)」
「………ふんっ」

 ユーリが何を言っているのかは悪魔故に人間よりも遥かに聴力が良いからフェリスはしっかりと聞こえていた。ロゼに言われた言葉もまだまだ耳に残っている。 
 ユーリには 何を言っても……多分無理なんだろう。

「(私の事を……、な、仲間だって思っている内は………)はぁ……、片方は最悪なのに なんでこんな極端なんだ…………」

 フェリスは、今の自分が不幸なのか 本当に不幸のどん底なのか判らなくなってきていたのだった。フェリスの言う片方だけであれば 間違いなく不幸のどん底だという事は判るんだけれど。

「がははははは!! 流石はオレ様だ! オレ様は頭脳明晰。凡人とは全く違うのだ! おい、訊いて喜べ。オレ様に股開いて奉仕しろ。良い作戦を思いついたぞ!」

 突然笑い出したランス。

「はぁ……、ほんと 極端」

 そんなランスを見て更にため息を吐くフェリスだった。
 そして 他のメンバーは大体が冷ややかな視線だった。

「……胡散臭い」
「……まさか、またマリアを餌にした時みたいなのじゃないでしょうね」

 かなみは、言葉通り胡散臭いモノをみる様な視線を向けて、志津香は以前行っていたランスの作戦を思い出してそう聞いていた。
 ユーリやリック、清十郎を無理に戦わせる様な作戦はさっき言ったばかりで、直ぐにまた言おうとはしないだろう、と思い 残った候補を志津香は口にしたのだ。

「う………、あ、あれはちょっともう……」

 マリアにとっては、それも嫌な記憶だろう。
 ヘンダーソンに襲われかけた記憶。鹹くも難を逃れた様だけれど、それでも。

「がはは。そんな小さい作戦じゃないぞ。ふむ。大きいものだ。オレ様の様にな! うむうむ、そうだゴールデンハニーをとっつかまえるのだ」
「ゴールデンハニー……」
「はぁ? あのおっきな金ぴかの?」
「GOLDの原料になってる、あれよね。……結構レアモンスターだけど……、今からランス君探すの?」

 ランスの性格を殆ど把握しているユーリは、ゴールデンハニーと言う名を訊いて少し考え、マリアとレイラは作戦の性質全てが判らない為、首を傾げて訊いていた。

「探す必要などない。ここ最近で見た覚えがあるのだ。……ふむ、何処だったか」
「……悪魔回廊でしょ」 

 ここでフェリスが答えた。

「お、そうだったな。何だかすっ飛ばした様な気がするが、間違いなくそこにいたぞ!」
「ん。確かに……。ショートカットしたな」

 色々と指摘をしてくれるランスとユーリ……。
 そう、悪魔回廊にはゴールデンハニーがいた。無視して素通りした為 別に書かなくても……っと言う事で書いてません。すみません……。

「はぁ……、みょーな声が聞こえたけど 置いとくわ。……あそこ 嫌な記憶の原点でもあるんだし……」

 フェリスにとっては、真名が知られてしまった上にこのランスと言う最悪の男の下僕になってしまった場所だ。勿論 ランスだけでなくもう1人の存在が唯一の救いであり 今の心境……。

 兎も角 両極端である為に 合わせて±0 と言いたいのだが、やっぱり色々と自分の詰めの甘さが招いてしまった事だから、±0とはいかず、やっぱり嫌な記憶として 胸の奥にしまっていた。

「へ~ 成る程なぁ。……ま、いーじゃねぇか。ほれ いい出会いがあったんだしよ?」

 ぐいっ、と肩に腕を回すミリ。

「ぐ、う、うっさいな! 私はそんなんじゃないっ!」
「ふっふっふ~♪ 悪魔は清楚なシスターの前じゃ嘘は着けないのよんっ」
「うっさい!! もう1人の不幸の元凶!! やっぱり お前こそが悪魔だぁ!!」

 随分と楽しそうにはしゃいでるミリ、ロゼ、フェリスはさておき。

「(ゴールデンハニー、ね。ランスは んなもんいったい何に使うんだ? 金……な訳ないか。流石に)」

 ユーリは ランスの言い出した事に関しての考察を開始していた。

 何だかんだと批判が多いランスだが 決して司令官として無能と言う訳ではない。寧ろ有能だ。敵が嫌がる事を即座に考え付く点においては天才的であり、そしてそれが勝負事で勝つ為に最も必要だと言える事の1つだ。

 様々な国へと赴き 経験をそれなりに積んできたユーリは ランスの事を色んな意味で脅威だと思っているからだ。並外れた天運の持ち主だという事やバグっぽいレベル(自分自身の事を棚に上げてる様な気がするが、今はスルー)もそうだし、何よりもこういう局面において絶対的な不利な場面において それを覆せるだけの策を持っている、と思えてしまうのだ。

 無論 ただ単純に従ってばかりいると、手痛いしっぺ返しを喰らうから、その辺りはユーリやそのほかのメンバー皆がフォローをする。……そうするとまるで歯車ががっちりと合わさったかの様に上手く良い方向へと回り始める。
 それを ユーリはよく判っている。

 そして ランスを褒め称えるリーザス側の人間も恐らくは意識しているだろう。上手くランスを機能すればするほど 頭は痛めるかもしれないが それでも最後には良い方へと向かう可能性が高いという事が。

「(……ん ゴールデンハニーか。あれは当然ハニーの仲間で 言ったらただのデカい陶磁器だ。デカい分 他のハニーに比べたら決して弱くは無い、寧ろそれなりに手古摺る相手だ。……何より滅茶苦茶デカいし。あれを捕獲するとなると更に面倒だ。ランスが間違いなく嫌いな面倒な作業になってくるし、何で捕獲を……? ……って、他人任せだからその辺は大丈夫か。それにハニーだから中は空洞で割って粉々にしたら……。いや アイツは生け捕り。捕まえると言ってるからそれは無いか……。ん? デカい、陶磁器、その中は広い空洞……)……って、ああ 成る程な。そういう事か」

 色々と考えている内にランスの考え、ゴールデンハニーをいったい何に使うのかが想像出来てきたユーリ。伊達にランスと長く付き合い続けてきた訳ではない、と言えるだろう。あまり嬉しくないと思えるが、現状と照らし合わせて大体は間違えてないだろうとユーリは思っていた。

「ゆぅ? どうしたの?」
「ん? ああ ランスの考えてる事が大体判ってきただけだ。あのハニーを使って潜り込む。そんな所か」
「??」

 志津香にそう伝えるユーリ。志津香はユーリが言っている意味がいまいちわからなかった様だ。端折った説明だったから仕方がないとも言えるが。
 そして、ランスにも聞こえた様だ。

「がはは。流石はオレ様の下僕だな。そこら辺のジジィとは訳が違う」
「面目次第もござらん……」

 なかなか理解しないバレスをいじって遊んでいるランス。そしてランスの言質からユーリ自身の考えが間違えていない事を理解した。
 それは兎も角、一先ず『誰が下僕だ』と言い返そうと思ったユーリだったが 自分よりもはるかに早くに反応して、否定する心強い仲間達がいるからユーリは口を噤んだ。

 それを考えていた時間は示して約0.2秒。

「「誰がアンタの下僕よ!」」

 そして期待に応えるかの様に、かなみと志津香が盛大に否定をしていた。

「思った通りの展開になったな……。それは兎も角 ランスの案でやってみるのも悪くないと思うな。……敵さんはそこまで頭がよさそうには思えない。切羽詰まってるからだとも思うが」

 ユーリは、腕を組みながらそう考えていた。
 今の現状で降伏を促してくる様な相手だ。確かに現時点では防がれた事実はあるのだが、まだ作戦を考えれば 諦めるのには早すぎるし、無謀な突進をし続けるのならまだしも、対策を練って攻めればこのまま負け続けるとも思えない。
 明らかに自分達が攻められていると言う状況だというのに、ああ言う勧告がきた。

 何処まで本気なのかはまだはっきりとはわからないのが現状だが、やってみる価値は十分にあると言えるだろう。これまでもランスの姑息……と言うのは置いといて、ランスの作戦は芯を穿つ事が多く、成果も出ているのだから。

「それで生け捕りする方向で……って、まだやってるのか?」

「がははは。下僕を下僕と言って何が悪いというのだ! オレ様はスーパーな戦士だからな。有能な下僕が集まるのは必然で、当然なのだ。いやぁ 全く仕様がないという事だ。そんな仕方がない事より、へっぽこなのと 短気なのを治したらどうだ? お前らは」
「やかましいわよ!!」
「うっさい!!」

 子供染みた言い争いが続いていた。
 一先ず、志津香の炎が炸裂する前にゴールデンハニー・捕獲作戦へとシフトチェンジをするのだった。




















~ 悪魔回廊 ~




 少々時間が掛かったが、一行は悪魔回廊にまで戻ってきた。
 今回の場所に行く部隊として ランスは他力本願を遺憾なく発揮するだろう、と思っていたのだが、案外あっさりと自分自身も行く、と言ってついてきたのだ。

 編成メンバーは女の子が殆どだからそれを考えれば仕方ないとも言える。

「うっひゃぁ、ひっさしぶりな気がするわねぇ~♪ また、リターンデーモンたちとずっこんばっこんヤりたいわぁ。腰が動けれて 勃つ事が出来たら~なんだけどね~」
「ははっ。相変わらずだなロゼは。流石にオレでも悪魔とは遠慮したいね。どーせヤるなら人間の男の方が良い。……なぁ? ユーリ」
「オレに同意を求めるな。……意味ないダメ―ジを受けるだろ」

 悪魔回廊にやってきて元気溌剌なロゼ。
 色々と同調するミリ。……そして苦言を言うユーリとその脚を狙う志津香。

「……ふんっ!」

 今回は少々離れていた事もあって踏み抜いたりはしなかったが、後少しでも近づいていれば条件反射だったのは間違いないだろう。

「それでユーリさん。……今回の捕獲作戦だけどー。事前に聞いてて悪い予感しかしなかったんだけど……、私何させられるの?」

 悪い予感を漂わせているのはマリアだった。
 ゴールデンハニー捕獲作戦、ともなれば訳合ってマリアを外す訳にはいかないのだ。

「ああ。ゴールデンハニーはその大きさもあってか結構好戦的なんだ」
「だろうねぇ……。あの巨体で引っ込み思案だったら逆に受ける」
「そうだな。元々ハニー全体が同じ感じだ。戦闘になったら 間違いなくハニーの瓦礫の完成だ」

 ユーリの説明に全員が納得した。ランスも勿論。

「ふむ。ゴールドの原料と聞くハニーの瓦礫なら幾ら持って帰っても困る事はないな。がはは! 瓦礫の山にしたらシィル。しっかりと持って帰れよ!」
「あ、はいランス様。……ぁ ですが とても大きいですし、全部は……」
「馬鹿者! オレ様が持って帰れと言ったのだから、しゃきしゃきと持って帰るのだ!」
「ひんひん……」

 シィルをぽかっ! と殴るランス。
 それも恒例な光景なんだけど 一先ず説明を続けた。

「あのな、ランス。あの身体自体には価値は無いぞ。ハニーの造幣局で加工しないとGOLDには認められてない。……ハニーが運営してるっていう所に違和感があるかもしれんが そうでもしないと金の流通事情がおかしくなるからな」
「ちっ あーあ、折角オレ様の金になる筈のものが。……だが、ファミレスだの酒場だのを経営している上に貨幣の流通まで握っているのてゃ……。何気に恐ろしいな、あいつら」
「割れりゃ簡単に死ぬ連中だが友好的なハニーも結構な数がいるんだ。人件費の削減、と何処かで聞いた覚えもある」
「ふーん。興味ない」
「だろうよ」
 
 2人の話を訊いてやっぱり思う所があるのは女性陣。

「なーんで 同じ冒険者なのにこうも知識に差があるんだろうねぇ? かなみ。志津香」
「……私に聞かないで。でも 比べる事自体が間違えてるわよ」
「ですよね。……もう答えるまでもない、と言うか……」
「トマトも2人に大賛成ですかね。完全無欠と言う言葉はユーリさんのものですかねー!」

 何処か呆れた遠い目をしている志津香とかなみ。
 そして当然だ、と言わんばかりに力説するトマト。

「ランスは勤勉ではないと思いますし、記憶力も偏ってると思います。ユーリはその辺りは全て上回っているからではないでしょうか」
「……まぁ 判ってる事と言えばそうなんだけどー。はっきりと言うわね。クルック―さん」

 表情はそのままに思った事、分析した結果をそのまま口にするクルック―と、それを訊いて あはは と苦笑いをするマリア。他のメンバーも大体は同じ気持ちの様子。


 ランスが聴いてたらまた煩い事になりそうだったが、大丈夫そうで何よりだ。

「はぁ……。ここから始まってしまったのよね……」

 洞窟内だから 日の光も全くなく本来の力を出せるフェリスは 基本的に外よりは絶好調!とまではいかなくとも、好調な状態になっている筈なのだが やっぱり気が重たそうだった。ここから極端な2人の御主人に仕える事になってしまったのだから仕方ない。





 そして一行は悪魔回廊の奥まで進み続けた。 




「それで……。私が欠かせない、って言ってくれたのは嬉しいかもなんだけど…… そろそろ理由を教えて」

 進むにつれて、何処か嫌な予感が拭えないマリアは ユーリとランスにそう聞く。

「ぐふふ~」
「妙な笑いは止めろって。……もーオレは良いと思うが。マリアだって逃げたりしないだろうし、ここまで来て」
「がははは。それもそうだな」
「ちょおっ!! い、いったい何させるっていうのよーー! って ユーリさんも共謀!?」
「いや、オレは言おうとしたんだが……、ランスに止められてしまってな。色々とやってる間に、あれよあれよ、とここまで来た。どちらかと言えばタイミングを逃した、と言うのが正しいかもしれんな」
「当たり前だ。作戦の肝の部分を簡単に明かしては面白くないではないか!」
「面白さを求めないでよーー! 不安しか残らないじゃない!」
 
 マリアの絶叫が響く。
 だけど、仕方ないと言えばそうだ。

 他の話が盛んにおこなわれたりして、言い出すタイミングを逃した、と言う意味ではマリアにもちょっぴり責任はあるだろうし。

「まぁ良いだろ? もう。ハニーは基本的にめがねをかけた女の子の事が好きなんだ。それはゴールデンハニーも例外ではない」
「………めがね??」

 マリアは自分自身のめがねを触って首を傾げた。

「がははは。お前のめがねが役に立つ時が来た、と言う事だ。マリア」
「ええーーーっっ、ちょ、ちょっと待ってよ! また餌の様な真似を!!」
「大丈夫だって。今回は皆で行くんだし。……と言う訳でマリアには危害はないから あまり怒らないでくれよ。志津香」
「……判ってるわよ。ユーリがそんな事させない事くらい。私達もいるしね」

 志津香はマリアに危害が及ぶ事には勿論だが賛同しない。
 以前似たような事があった時も色々とあって(ユーリ事で)最終的には放り出した様な感じになったのだが、それでも親友なのだから。

 でも今回は自分自身も一緒についていくのだからしっかりと支えるつもりだった。

「ハニーが相手だったら、私はそこまで役に立てないかもしれないけど……皆だっている。大丈夫よ」
「志津香……」
「おー。志津香の口から嬉しい言葉が聴けるのは結構格別だな。今度抱いてやるよ」
「うっふふ♪ ゆぅ とヤっちゃう前の予行演習は大切よ~?」

 余計な事を言い出したミリやロゼを黙らせようとする志津香にユーリがぼそっと一言。


「……志津香の蹴りを受けたら ハニーくらい簡単に壊れるって。……絶対」


 魔法使いの天敵がハニー。
 でも志津香にはそれは当てはまらないという事は身をもって知っているユーリ。

 勿論 その一言は志津香も聞いていた為、身をもってハニーを余裕で破壊出来るだけの蹴りをユーリは受けてしまうのだった。





 
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