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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第95話 戦術的撤退



~リーザス~


 いよいよ始まる最終地点での戦い。
 細い道の先に高い市壁が聳え立っていた。そしてその手前にはご丁寧に堀まで用意されていた。ヘルマンの兵士達が待ち構えている様子も、外へと出てくる様子も無い。

 つまり、籠城するつもりだろう。

 リーザス程籠城に適した場所はない。

「……厄介だな」

 堅牢な市壁を見上げ 呟くユーリ。
 破壊するには分厚過ぎるし、現実的ではない。最も現実的である、と言えるのは扉を開ける事。勿論内側からの開閉のみが開錠手段だ。

「ふん! 何処か厄介だ。この程度 突っ込めば楽勝だろう! さぁ、者ども! 突っ込んで入り口をこじ開けるんだ! 開いたならオレが蹴散らしてやる」

 自信満々に指をさしてそういうランス。
 難易度が高い事を簡単に言うランスに ため息を深く吐く者が結構いたのだが、バレスを始めとして、リーザス軍人達は気合十分だった。

「うむ! 聞いての通り! ここが我らが国…… 総員、かかれい!!」
『おおおおおっっっ!!!』

 バレスの号令のもと 解放軍の兵士達が一斉に城門へと向かっていった。
 その鬨の声が、気迫が ヘルマン側にも伝わったのだろう。矢が頭上から降ってくるが それは想定の範囲内だった。

 素早く盾を頭上に構え 雨傘ならぬ矢傘として迫り続けた。これで矢も甲斐を成さない。

「攻城矢倉の準備を! 手の空いた者は梯子を掛けよ! 壁を越えて内側から門を開けるのじゃ!!」

 バレスの指揮の元着実とリーザス内へと迫っていったのだが、此処で予想外の事が起きた。

『う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ……!!』
『だ、だめだぁ!』

 確かに攻めていた。
 士気も上がり 多少の矢程度では止められない程度だった。だが、流石に燃え盛る巨大な岩が門の奥から飛び出してきてはどうする事も出来ない。
 直撃する度に人が吹き飛び 押し潰されていく。折角上がっていた士気も下がってしまう。如何に強靭なリーザス兵とはいえ 攻城兵器を向けられてしまえばただの人間であれば直撃してしまえば、良くて重症だ。

「カタパルト……か。持ち込んでいた? いや リーザスのものか。あの数は 不味い! 先遣隊が全滅するぞ!」

 門が開いた後の突入部隊として 後方で待機していたユーリは、声を上げながら剣を振るった。
 閃光の斬撃が無数に飛び燃え盛る岩をバラバラに斬り割いた。

「バイ・ラ・ウェイ!!」
「螺旋牙!」

 リックと清十郎もユーリに続いて、斬撃を飛ばし、次々と降り注ぐ炎の岩を防ぐ。

「私達もいくわよ! 火爆破!」
「えぇい! チューリップ!!」

 遠距離攻撃が可能な志津香やマリアも参戦。

「私も……! 火丼の術!」
「おらぁ、とっとと下がって来い! 潰れてぺちゃんこになっても知らねぇぞ!」

 かなみ、そして ミリも仲間達を呼び返していた。
 
『おお! 流石!!』

 皆の奮戦を見て改めて士気が戻ってくるのだが……。

「しかし、この物量はまずい。皆の者! 防いでくれている間一度退くのじゃ!!」

 持ちこたえた兵達にバレスはすぐに指示を出して退却を促す。切り替えの速さは流石の一言だ。それが功を成し何とかこれ以上の被害を出す事はなかった。

「……むぅ。何をしている。やつらめ」

 ランスは不満気味だったが、ひっきりなしに降り注ぐ岩石に阻まれてしまっている事態を見れば 無理だという事くらいは判る様だ。

「ちぃ、おい フェリス!」
「………嫌な予感」

 今回も最初から呼び出しているフェリス。日の高いときにフェリスを呼び出すのは少々気が引けるユーリだったのだが、ランスに呼び出され 色々と酷使されてしまえばフェリスにとっては更に最悪だという事は判る。
 事前にそれなりの打ち合わせをフェリスとしていて、フェリス自身は昼間であっても 呼び出される事は気にしていない様子だった(但し ユーリに限る)

 勿論 今まで通り『ランスの事も助ける事。戦争に関係のある範囲で。関係ない事は拒否してくれて良い』と言う条件付けで。

 それが何度も救ってくれていたのだが……、今回はそうはいかなかった。

「ちょっくら向こうに行って空から城内に回って門をこじ開けて来い。空からなら岩石を躱せるだろ? がはは。これは戦争に関係のある命令だぞ!」
「う……やっぱり。日光の舌でまた無茶な事を………。平常時の半分以下って言ってるのに」
「やかましい! 今までは盛大にオレ様の命令をサボってくれたのだ! 今回はキリキリと働け!」

 ランスの言う通り、ランスの命令は殆ど無視していた。(まるっきり戦争に関係ない主にエロ関係だったから当然だ)だけど、確かに今回の件は関係ないとは言えないだろう。……おまけに唯一の救いであるユーリはこの場にはいない。……そう、まだ兵士達を逃がす為に皆と戦線に……。

「っ………!」

 その姿を見たフェリスは、直ぐに決めた。

「……行ってくる」
「フェリスさん……」

 心配そうに見つめるシィルに軽く手を振って、フェリスは空へとゆっくりと浮かびだした。

「むぅ、何だか妙に腹が立つが いまはそれどころではない。とっとと開けて来い! 成功すりゃ勝ったも同然なのだ」

 フェリスの心情を野性的勘で気付いたランスだったが、今優先させる事をしっかりと判っている様で、追及は無しで指さした。
 
 フェリスは空に浮かびあがってすぐに翅をはばたかせて移動を開始した。


 直ぐに到着したのはユーリ達の真上。

「デビルビームΩ!」
 
 両方の腕を前に出し、魔法を撃ち放つ。飛来する岩石を暗黒の魔法で破壊し続けた。

「フェリス!?」
「ったく、世話がやけるな。ほら お前らも下がれ。めいいっぱい力を使うのはここじゃないだろ」

 空からユーリ達にそういうフェリス。
 全員が その姿を見て感謝の表情を向けるのだが、ユーリだけは違った。

「不味い、フェリス! 空から降りて来い! これだけの備えをしてる連中だ。まだ 兵装がある……っ!!」

 市壁の上に配備している影を捕らえる事が出来た。
 以上なまでに大きな矢が装填されていて その打ち出すカタパルトは黒く光っている。

 攻城兵器――バリスタ。
 
 岩石をぶつけるよりも 遥かに命中精度が上であり、その貫通力も脅威だ。人間よりも大きな矢が恐るべき速度で迫ってくる。

「ぁ……!?」

 フェリスがそれを視認した時は遅すぎた。
 日光の下だから動きが鈍くなってしまっているという理由が一番であるが、致命的だとも言える。如何に悪魔とはいえ、日光の下でバリスタを体にでも受けてしまえばどうなるか……、火を見るよりも明らかだ。

「くそ……! 二刀煉獄!」

 ユーリは 直ぐに剣を鞘に納めつつ もう1つの剣の柄も握り、二刀流の抜刀術の体勢に入った。
 バリスタが掃射されたのを見たと同時に、剣を振り抜いた。

「斬光閃!」
 
 交差される閃光の刃は、撃ち放たれたバリスタと同等以上の速度で迫る。
 フェリスに直撃するかしないか、その刹那のタイミングで両断し 翅を霞めるだけに留めた。

「あぐっ……!!」

 だが、翅を痛めたのは事実だ。それにトーマにやられた傷も完治しているとはいい難い。だからバランスを崩し 空から落下してしまっていた。

 それを遠巻きで見ていたランスも少しだけ驚いた様だ。

「………あ、落ちた。空にも対策をしているとは。なかなかやるではないか」
「えっ、あ……! ら、ランスさま。助けに行かなきゃ……!」
「ふん。その必要はない。ユーリのヤツが下にいるのだからな。……あの下僕。オレ様の奴隷に手を出したら許さんからな!」
「あ……」

 シィルは確かに見た。落下するフェリスを受け止めているユーリの姿が。
 そして、駆けつけるほかのメンバー。

 クルック―が回復をさせて、マリアや清十郎 リックが援護をし 志津香も援護に……と思っていたんだけど。

『変なトコ、触ってんじゃないわよ』

 と、ユーリの脚を踏み抜いていた。
 どうやら、抱きとめた時 ユーリの手がフェリスの胸に当たっていた様だ。……それに抱え直す時には露出気味のフェリスの脚、ふともも……、不可抗力だと言っていいんだけれど、志津香には関係ない様子。

「あはは………」
「ふん。あの馬鹿は志津香にお仕置きをされていれば良いのだ。がははは。オレ様が見張るよりも効果的だな!」

 がはは、と笑い続けるランスの元にバレスが戻ってきた。

「ランス殿。申し訳ござらん。無数に防衛兵器、攻城兵器が設置されており、このままでは進む事もままならぬ」
「甘えるんじゃない! 出きんではない、出来るまでやれ!」

 無茶な要望をするランスだったが、そこにミリが。

「ランス。 こりゃ無理だ。今はあいつらが支え続けてるが あいつらの体力だって無限じゃねぇ。ここを超えた先にもまだまだあるんだ。ここで全体力使ってられねぇだろ」
「ぐぬぬぬ………」

 確かにユーリたちの戦力はランス自身も当てにしている。
 美味しい所・目立つ所どりを目指しているランスにとっては、恰好の手足が無くなるのは望む所ではない。負担が全て自分に向く恐れがあるのだから。

「えーーーーい! この卑怯者めが!! 次こそは目にものを見せてくれるわ!!」
「ら、ランス様ぁ…… それ、悪役のセリフでは……?」
「やかましい!」
「ひんっっ!」

 シィルをぼかっ! と殴りつつ 撤退の命令を出した。

「えーーい、ノースへ一旦退くぞ! おい、ユーリ。それまであのうっとい岩を全部壊しとけ!」
「無茶言うな。何個あるか判らんのに」

 勿論却下して ユーリ自身も全員が射程距離外まで下がったのを見届けた後、後退した。














~ノースの街~


 退いてしてしまう事には、正直気分が良いものではないが、これは本当に戦術的撤退だ。あのままジリ貧になるのは目に見えている。ヘルマン側には魔物使いも多数そろえている様で、岩石やバリスタの矢の装填はデカントにやらせているのであれば、その作業は全く苦ではない筈だ。
 リーザスの街は籠城、防衛に適した地形となっている事も加えて、攻略が非常に難しいものになっている。

「ぜー、ぜー……。おのれぇ……オレ様の方にまで矢を撃ってくるとは良い度胸ではないか! ぜーーーーったいやり返してやる!!」
「無事みたいだな。……やっぱ 運の良さもそうだが、ランス自身のしぶとさは 群を抜いてる。あの状態でなんだかんだで生きてるし」

 ランスの姿を見て、感心するのはユーリだ。
 後ろ気味にいたランス。だが攻撃のぎりぎり範囲内だった。偶然なのか或いは敵側が見ていたのかはわからないが、攻撃目標をランスに切り替えたのか? と思える様な数の矢を撃ち、岩石の投擲ラインも伸ばしていたのだ。

 盛大に攻撃に見舞われたランスだったが、持ち前の剛剣で岩石をぶっ飛ばし、矢もみょうちくりんンなステップでぎりぎり回避していた。奇抜な動きだが それでも回避し続けているのは流石だ。

「やかましいわ! あの程度 オレ様には楽勝なのだ! だが、それでも疲れたぞ……」
「それが当たり前だ……。ありゃ 誰でも疲れる。士気も良い具合に向上しきったうえでの結果だ疲労感も増すというもんだ」

 目前に迫る事が出来たリーザスから遠ざかってしまう。徒労感も襲ってくる筈だとも思うが 皆はそれでも大丈夫の様だった。

「大丈夫ですかねー。ユーリさんと一緒なら、たとえ火の中、水の中ですです! 岩だって、トマト。頑張るですかねー!!」

 ぶんぶん、と剣を振ってそう答えるトマトだが……。

「幾ら成長速度が高いトマトでも、あの岩をどうにかするには まだまだ力が足りてないだろ。……次は絶対に無茶はするなよ」
「はうっ!」

 トマトの身体が、激しく揺れる。ユーリがトマトの肩をそっと触れたからだ。
 如何に近接戦闘が主体のトマトとはいえ あの岩を受けてしまえばひとたまりもないのは事実だ。先程は無理に前に出てきていたから何とかさがらせた経緯もあったりする。

 と言うことは今のトマトには関係ない。
 ユーリの方からトマトとのスキンシップ(トマト談)が随分と久しぶりだから嬉しさ万倍だった様子。

「ユーリさんは、流石ですかねーー! やっぱり 大好きですかねーーー!! アイラブユーリ~ですかねーー!!」

 ぽひゅ~~と大暴走して、ユーリに抱き着こうとするトマトだったが、そんな事をさせないのは他のみなさん。

「馬鹿な事やってんじゃないわよ!」
「だ、駄目ですよ。トマトさんっ! い、今はそれどころじゃないんだから……」
「そ、そうよぉ……、ってか なんで そんなに元気なのぉ……、し、しんどい……。脇腹いたい……」

 比較的傍にいた志津香やかなみが筆頭。
 マリアは、盛大に肩で息をしながら膝をついていた。

「お前には良いダイエットだろ? マリア」
「ば、馬鹿ランス! そんなの、必要ないもんっっ!!」

 時間の合間を見て、おやつタイムが多かったマリアは、それとなく自身のシークレット値(体重)には気にしていた。その痛い部分を着かれてしまった為か、慌ててしまっていた。

「それよりマリア。お前のチューリップで城壁を吹っ飛ばすとかできないのか?」
「そ、それは無理よぉ。ユーリさんにも聞かれたけど、向こうのほうが1号よりも圧倒的に射程距離が長いんだもん。狙える地点にまで侵攻しても格好の的になっちゃうだけで……カスミにも危険があるし」
「むぅ……、カスミちゃんが死ぬのは却下だ。まだオレ様が美味しくいただいてないのだからな。処女で命を失うなどとは、男として許せられん事だ」

 ランスは色々と考え込んでいて、出てきた言葉が1つ。

「やっぱり肝心な時は役に立たん。平常通りのマリアだ」
「むぅーー!! 何言うのー! ランスだって見てただけのくせに!!」

 きーー と怒ってるマリアには申し訳ないが先に進ませてもらおうとするのはユーリ。

「バレス。エクスたちの部隊はどうだ? 何か進展はあったか? サウスから攻めてる筈だが……」

 そう聞いていたのだが、嫌な予感だけはしていた。

「むぅ……奴らもしくじった様です。こちら同様に大量の岩石、防衛兵器に阻まれ 鹹くも脱出をしたと報せが入りました」
「成る程な……。北と南 どちら側でも厳しい状況か」
「籠城をする場合は相手側の2倍は戦力が必要とされるのがセオリーだ……が、相手も一筋縄ではいかない様だ。リーザスと言う場所は 防衛線には適している様だな」

 清十郎も 腕を組みこれからのプランを考えているのか、目を閉じていた。

「うっがーー! どっちも駄目ではないか!! なんて男らしくない連中だ! 引きこもってないで、出てこい!!」

 難しい状態になってしまってフラストレーションがたまってしまった様子。
 昨夜は、金の軍の女の子たちと勝利前祝と称して 色々と楽しんでいて、まさかの翌日の結果だから判らなくもないが。

「ランスが言うと、何だか男らしさっていうのも判らなくなるわね」
「はは。そりゃオレも思ったぜ。まぁ アイツはいつもあの調子だし いつも変わんねぇだろうよ」

 志津香とミリがそう言って苦笑いをする。
 そんな中 清十郎やリック同様に考えを張り巡らせているのはユーリだ。出入り口全てが完全武装の上封鎖されていて、大勢では勿論、単独潜入も難しいだろう。あれだけの装備がある以上、次に取り掛かるとすれば、侵入経路を全て潰す事。監視の目も通常以上に兵士を使っている筈だと推察されるからだ。
 だから、かなみの様な忍者を使って内部に潜入……と言うのはリスクが高すぎる。

「ふむ……。どうすべきか。突進は無謀だ。ここまで来て悪戯に兵士達を失いたくはない。……もう目前にまで来ているんだ。彼らの還るべき場所。護るべき場所に。……それはかなみ。お前も同じなんだぞ。バカな事を考えるなよ」
「っ………。ゆ、ユーリさん」

 かなみがそばで難しい表情をして俯かせているのが見て取れた。
 何を考えているのかは筒抜けだ。命をとして侵入し活路を切り開こうとしているのだろう。だけど、鼠一匹見逃すまいと目を光らせている場所に。猛獣の牢の中にかなみを1人だけ突入させる様な真似は出来ない。

 かなみ自身も全く同じ事を考えていて、ユーリに進言をしようとしていたのだが……、仲間を強く思うユーリが許す訳もなく、言うまでも無く却下された。その事が嬉しいのも確かだが、歯痒さだけが残ってしまう。

「大丈夫だ。……まだ 無理をする時じゃない。人間や魔物を使って、そして 人間の装備で抵抗を続けているまでは まだ比較的安全だ。……魔人が来ていないだけな」
「っ……。そ、そうですね」

 そう、まだこれは序の口。本当の最終決戦の序盤戦だ。魔人が連続して出てくるその時が真の戦い。……それまでに消耗をする訳にはいかないだろう。

「手を怪我してますよ。ユーリ。いたいのいたいのとんでけー」
「っ……っと ありがとな。クルック―」
「当たり前の事をしただけですよ。……でも ユーリ。あまり無茶はしないでください」
「はは。クルック―にまで心配をされてしまった、か……。気を付けないといけないな」

 この中で一番冷静かつポーカーフェイスなのは盤上一致でクルック―だ。
 そんな彼女が僅かに表情を暗くさせて ユーリにそう言っている。志津香にも言われている事だが、やはり身に染みるというものだった。
 
「……当然だ」
「フェリス。大丈夫なのか?」
「……ああ」

 そこにやってきたのはフェリス。
 傷は浅く クルックーやセル、そして一応ロゼの神魔法も効果がある様でそれなりには回復が出来ている様子だ。だが、何処か表情がきつくなっている。

「ユーリ。私は悪魔だ。……日光の下でも人間よりはずっと頑丈に出来てる。お前の強さは私も認めてるし、いや 強過ぎるとも思ってる。……だけど ユーリ。お前は 心臓が止まれば死ぬ。頭を撃ち抜かれれば死ぬ。頭を斬り割られれば死ぬ。……その辺りは普通の人間と変わらない1人の人間だ。だからせめて、私くらいは見捨てる覚悟で戦闘に出てくれ。……私はあの程度じゃ死なないんだ。無理をしてまで助けるな。自分の身体の事も大事にしてくれ」

 その言葉を訊いて、周囲の視線が彼女に集まったのは言うまでもない。

 出会いは最悪だった。

 人間に仕える等と、普通の悪魔にとってすれば 堕ちる所まで堕ちた、と言っていい。(例外のダ・ゲイルやリターンデーモンは置いといて)
 そんな間柄だというのに、彼女も心底ユーリの事を心配している。それがよく判る。
 
 つまり……。

「とうとう悪魔っ娘まで落としちゃったのねん? さーすがユーリってとこかしらぁ?」

 と、ケラケラと笑いながらそういうのは 同じく悪魔を使役している異端である意味ユーリ達よりも異常なシスターロゼ。

 そして当然ながら その言葉を訊いて、思いっきり噴き出してしまうフェリス。

「ななな、何言ってんだ!! この不良神官!!」
「ミリに、『誰が落ちるか!』って啖呵切っちゃったのに、しょーがない娘ね~? よしよし。ちゃんと仕事を終えたらセッティングしてあげちゃおっか。このシスターロゼ! たとえ悪魔であっても等しく慈愛の心をもってるのよん♪」
「だから、何言ってんだーー!! っていうより、何でお前が知ってんだ!? それにお前の何処に慈愛があるんだーーー!!」
「へへへ。オレとミリは飲み友なんだよなぁ」

 きゃいきゃいとはしゃいでるフェリスとロゼ。
 それはそれでいつも通りだって言っていい光景だけど、ユーリはフェリスの言葉の重みはよく判ったつもりだ。

「……フェリスもオレたち同様に 仲間だと思ってくれてるんだな。じゃなきゃ 心配する様な事は言わないだろ。……人間に真名を知られて、今の状況になってしまってる。オレやランスが死ねば 完全に自由になるのに、オレの事を心配するなんてな」

 ふっ……と静かに笑うユーリ。

「だが、見捨てるなんて選択肢だけは……約束は出来ないぞ。フェリス」

 ユーリの返答を訊いたりせず、ロゼと楽しそうにしてるフェリスを見て、そう呟くユーリだった。


 確かに間違ってない。……ぜーーんぜん間違ってないんだが、やはり肝心な心の機微の部分は、如何に悪魔であっても女の子の面があって その部分だけは読み取る事が出来ない様子。……ロゼがあそこまで 正確に心を読みつくして からかって遊んでいるというのに、流石の一言だ。

「……ばか」
「ぅぅ……」

 そんなユーリを見て、色んな意味で複雑な志津香とかなみ。
 そして 他の想い人達も複雑だった。

 一先ず、作戦を一から考え直す と言う事でノースの街に設置している作戦本部へと戻っていくのだった。















~リーザス城~




 解放軍が攻め込んできた報せは確かに受けた。 
 その時こそ、絶望感さえ覚え始めていたが 今は違った。

「報告します! リーザス軍、完全にノースの街へと撤退しました!」

 そう、解放軍の攻めを凌いだ。凌いだだけでなく手酷く追い返したのだ。
 それを訊いてパットンは思わず玉座から立ち上がった。以前までの心境ではない。

「おおおおぉ!! よくやった! うわはははははははは!!」

 それは待ちに待った。待ち望んだ報告だったからだ。
 大きく太い掌で思わず打ち合わして、拍手喝采だ。

「思い知ったか、リーザスの阿呆どもめ! 愉快愉快! カッカッカ!」
「はっ! この堅牢なリーザスの壁に、我らの魔物使い部隊の隊長の力が合わされば、容易い事でございます」
「おう! 確かにあのコンタートルを無数に揃え、且つ忠実に操っているのだ。並の使い手ではない事はよく判った。じつに見事だ。……その名は何と言ったか」
「デストラー・デストラー様にございます」
「そうだったな! うむ、いいぞ 後で褒美をやらんとなぁ……。金でも女でも、爵位でも構わんぞ!」
「お伝えしておきます。では……」

 伝令に来た兵士が下がった後。

「その……しかし、パットン殿下。いかがなさいますか」

 恐る恐ると言った様子で、下士官が声をかけてきた。

「このまま城に引きこもるというのも……、それにモンスターを公然と使役することで市民からも、反感の様なものが……」

 クーデターが起きる可能性がある事を示唆していたのだ。魔人もそうだが、今回の様に全面的に魔物を操って攻撃していた事に人道の精神の欠片もないと判断しても不思議ではない。……市民たちは誰一人として ヘルマン側に心を許していないのもあり、積りに積もった不満が爆発する危険性も0ではないのだ。
 その危険性を伝えたが、パットンは意に介していない様子。

「ああ、構わん構わん。そんな事はてきとうに処理しておけ」
「は………? い、いえ、しかし………」

 ヘルマン側の人数も大分数が減っている。当初までの兵力であれば クーデターの1つや2つ、武力でそのまま鎮圧、押し潰す事も可能だった。だが、魔物の数は揃っていても今は厳しいというのが現状だ。増援も期待できない今では。

 だから、不安を伝えようとしていたのだが、パットンは。

「さぁ、次はどうしてやろうか……、そうだ、こうしよう。……ふっふっふ。それしかないなぁ」

 何かを閃いた様で自画自賛に浸っていた。

「(もう、他の細かいことなんぞどうでもいい。オレ自身の才覚で敵を叩き潰し、本国の連中をも跪かせてやるのだ) くっ、くふ、うは、うはははははははははは……!!」

 愉快そうな野太い笑い声。だが それでも何処か乾いた笑い声……、漸く水を得た魚が心底喜んでいる様な浅めの笑い声が城内に木霊していたのだった。



 そして――次なる一手。



 それがパットン自身の首を絞める結果になる事はこの時は考えもしなかったのだった。




 
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