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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic23-B新暦75年ミッド・プライソン戦役~Battle Field~

†††Sideすずか†††

ドクターは勾留されていたのにいつの間にか脱獄を果たして、シスターズと一緒にプライソンのアジトに乗り込んだ。さすがドクター。そう言ってあげたい。管理局や聖王教会でも探し出せなかったアジトを探し出せたんだから。ドクターが殺害された。でも・・・。

「死んでしまったら、それこそ何も言えないじゃないですか・・・」

さっきから涙が止まらない。本当はもっと大きな声で喚いて泣きたい。だけど今、喪に服すことも出来ない。プライソンが本格的に動き出したから。私だって戦力として出撃する。でも今は、「・・・ウーノさん」達と話し合うべきだって考えた。そういうわけで、はやてちゃんに我が儘を言って、地上本部へと来させてもらった。

「すずか・・・」

エントランスの待合ロビーに、ウーノさん、ドゥーエさん、トーレさん、クアットロさん、チンク、セインは居た。みんな、目を真っ赤に腫らしていて本当に痛ましい。特にドゥーエさんとクアットロさんが酷い。

「あの、ドクターのご遺体は・・・?」

「つい先ほど、本局の医務局へ移送したわ。いつまでもこんな所に寝かせてはおけないもの」

「きちんと弔って差しあげなければな・・・」

私の問いにウーノさんが答えてくれて、トーレさんがそう続けた。ドクターと最後に顔を合わせたかったけど、さすがに本局まで行くのは無理だ。でも「皆さんは、付いていなくても良いんですか?」って思ったから、また訊いてみた。

「ドクターの側に居たいさ、私たちも。だがドクターはそれを良しとしないだろう」

「プライソンを止める為にあたし達は、ドクターだって戦った」

「ここで戦いを辞めることは、ドクターへの裏切り行為だ。だから私たちは、ミッドに残った。戦い続けるために・・・!」

チンクとセインとトーレさんが、腫れた目で私を見て答えてくれた。シスターズは泣き寝入りをするんじゃなくて、ドクターの遺志を継いでこのまま戦うことを決めた。強い、本当に。私が黙っていると、「すずか。ドクターからの遺言です。聴いてくれるかしら?」ウーノさんがそう言った。

「も、もちろんです! ドクターの遺してくれた言葉、聴かせてください!」

「月村すずか。もし自分の身に何かが起こり復帰できないようであれば、あなたを第零技術部の主任に任命したい、と」

「・・・え?」

最初なにを言われたのか解らなかったけど、すぐに浸透して「私が、ですか!?」訊き返した。

「最初で最後の弟子であるあなたに、スカラボと私たちを任せたい、と」

「た、確かに私はドクターの弟子ですけど! 第零技術部を管理できる程の経験も、技術力も、何も無いですし!」

「そこは私たちがしっかりサポートするわ。あなたの判らないことはきちんと教え、導いて行くから安心して」

ウーノさんにそこまで言われるけど、私なんかにドクターの代わりなんて出来るわけがないよ。だって、教えてほしい事、話したい事、もっといっぱいあったもん。それなのにいきなり主任だなんて・・・。

「すずか。私たちは、第零技術部を潰したくはない。そして、ドクターの後任であるなら、誰とも知らん技術者よりお前の方が良い。お前は良い技術者だ。それは、私たちが保証しよう」

「トーレさん・・・」

「私もよ、すずか。ドクターもあなたのことを買っていた。あなたはそう思っていないかもしれないけど、あなたの持つ今の技術力はかなりのものよ」

「ウーノさん」

「私も、スカラボを失いたくない。あそこは私たちの居場所だもの」

「すずか。ドクターの夢、私たちと一緒に守って」

「ドゥーエさん、クアットロさん・・・」

これまで黙っていた2人にまでそうお願いされちゃったら、もう断るわけにはいかない。それに私だってスカラボを、第零技術部を潰したくなんてない。ドクターから学んだ知識、技術、それらを無駄にもしたくたない。

「ウーノさん、ドゥーエさん、トーレさん、クアットロさん、チンク、セイン。本当に私で良いんでしょうか・・・?」

「ドクターの望みであり、シスターズ全員の総意だ」

「そうだよ。主任になってよ、すずか」

「チンク、セイン」

私は一度目を閉じて深呼吸。覚悟は決まった。私は「はい。第零技術部の主任、お引き受けします!」胸の前で右拳をギュッと握って、ドクターの遺志を受け継ぐことを決めた。正直、思いだけで出来るような大任じゃない。だからウーノさん達に助けてもらわないと。

「では主任としての初仕事よ。これから私たちはどうするべきかしら?」

「え? あの、でも・・・まだ正式に主任になったわけじゃないですし・・・。書類とかいろいろとあるでしょうし・・・」

「第零技術部は、運用部からの影響を受けないの。だから人事の決定権はドクターや、秘書の私にあるのよ。だから私が許可して、当人も納得してくれれば、その日から異動に出来るのだけど。第四技術部には、あとで連絡しておくわ」

「すずかは第零と第四を兼任していた状態だったからな。スムーズに異動できるだろう」

とのことで、第四技術部の主任であるマリーさんに相談も承諾もないまま、私は第零技術部の主任になった。そして改めてウーノさんから「すずか。私たちシスターズに、これからの指示を」促された。

「あ、はい。現在、機動六課、本局航空隊、陸士部隊、教会騎士団は、大まかに分けて対航空戦力、対陸上戦力、2つの戦闘を実施しています」

“聖王のゆりかご”、護衛艦・“アンドレアルフス”、戦闘機隊とガジェットの航空戦力。列車砲・“ディアボロス”、装甲列車・“オルトロス”と“ケルベロス”、戦車と装甲車の陸上戦力。ソレらプラスにクイント准陸尉たちの対人戦力。プライソンのアジト攻略。各戦力は、それぞれに対処するために散開している。

「すずか。指示をお願いしておきながらなのだけど、私とクアットロは、プライソンのラボへの攻撃に参加したいのだけど・・・」

「さっきはクラッキング中に、他の小娘共に背後を取られましたけどぉ、今度はぜって~負けねぇ~」

伊達眼鏡を外し、結っていた後ろ髪を解いて本気モードになったクアットロさん。口調までも変わってる。

「(プライソンの研究所はもう、もぬけの殻だと思うけど、それでも何か本件を早く終わらせられるデータがあるかもしれない)・・・ウーノさん、クアットロさん、それにドゥーエさん。お願いします」

「「了解」」

「私もね? 了解よ」

「トーレさん。護衛艦アンドレアルフスに、空戦の出来るセッテ、オットー、ディードが居ます。私やシャルちゃんと一緒に迎撃をお願いします。あ、おそらく最初の方は、戦闘機やガジェットⅡ型の掃討から入るかと思いますが・・・」

はやてちゃんは、シャルちゃんに“アンドレアルフス”攻略の協力をお願いするって言っていた。シャルちゃんの答えは知らないけれど、きっと協力してくれるはず。だからシャルちゃんを入れての任務だ。

「承知した。イリスの戦い方も熟知している。問題なく連携できるだろう」

「チンクとセインは、列車砲と装甲列車の攻略のお手伝いをお願いします」

「ノーヴェとディエチ、ウェンディの居るところだな。了解した」

「あたしの妹だしね。お姉ちゃんとしてビシッと躾けてあげるよ」

チンクとセインには、これまたシスターズの妹にあたるノーヴェ達の相手をしてもらいたい。ウーノさん達がソファから立ち上がって、「シスターズ、出撃します!」私に敬礼をしてくれた。

「はい、お願いします!」

そうして私たち第零技術部も、プライソン一派の撃破に動き出した。

†††Sideすずか⇒ヴィータ†††

列車砲と装甲列車の撃破を任されたあたしら陸戦チーム。アルトの操縦するヘリに乗って、あたし、アリサ、スバル、ティアナ、ギンガの5人が向かってる。もちろん、こんだけの戦力で攻略できるなんて微塵も考えてねぇ。陸士部隊からも結構な人数が来てもらうことになってっから、その戦力で攻略する。

「スバル、ギンガ」

「「あ、はい」」

「お前らは、クイント准陸尉だけに集中しろ。周りの雑魚はあたし達が押さえる」

ずっと顔を伏せて手を組んでたスバルとギンガに声を掛ける。緊張してんのか顔色が悪ぃしな。クイント准陸尉は、コイツらの大切な母親だ。2人が相手にすんのは当然の流れだ。2人は「お願いします!」顔を上げて、強い光を宿した瞳であたしとアリサとティアナを見た。

「そんで、ティアナ」

「はい?」

「お前には悪いと思ってる。フォワードのリーダーとして、この事件の最後までフォワードを率いてほしかったんだがな。悪ぃけど、あたしの指示下に入ってもらう」

「あ、いえ! 大丈夫です、勉強させてもらいます!」

正直な話、ここまでヤバい展開になるとは思ってなかった。プライソンがここまで馬鹿な真似をするなんてな。とにかく、これ以上悪い方へ転ぶわけにはいかねぇ。さっさと列車砲を片付けねぇと。

「ヴィータ副隊長! 列車砲が見えてきました!」

操縦席のアルトから報告が入った。装甲列車の屋根に備え付けられた砲台を警戒したあたしは「ここまででいい! ハッチを開けてくれ!」指示を出した。

「了解です!」

「防護服着用!」

あたし達はそれぞれデバイスを起動して、制服から防護服へと変身。徐々に開いて行くハッチから、列車砲と装甲列車が遠目だが見えた。ギンガが「大きい・・・!」って、遠目でも判るほどの巨大さに戦いた。そんな列車砲の巨大な砲塔2門からまた「巡航ミサイル・・・!」が撃たれた。

「アルト、お前はすぐに避難しろ! よし、行くぞ!」

「お気を付けて!」

ある程度まで高度を下げたヘリのハッチからあたし達は飛び降りた。だだっ広い荒野地区に似つかわしくない馬鹿デカイ人工物。4kmほど離れてんのに、それでもその巨体さを見せつけて来る。そりゃ視界を遮る木々や建造物が全く無ぇ荒野地区だかんな。今すぐにでも突っ込みてぇけど、まだ陸士隊が到着してねぇから、しばらくはここで待機だ。

「――また、ミサイルが・・・!」

戦力が整う前に、列車砲から巡航ミサイルが発射され続ける。はやて達がクラナガンでゆりかごや護衛艦、それに戦闘機隊と交戦しながらも対処してくれるって話だが、それもいつまで続けられるか判んねぇ。

「ヴィータ。これ以上は、いたずらに首都への被害を大きくするだけだと思うわ」

「判ってるよ、んなこと・・・」

クイント准陸尉たちを相手にしながら、装甲列車の射砲撃に注意を払い、そんで列車砲と装甲列車を破壊する。きっちぃな~。もう少し戦力が欲しいところだぜ。とまぁ、そんな風に考えていたところに・・・

『こちら第零技術部、チンク・スカリエッティ二尉とセイン・スカリエッティ曹長。これより列車砲攻略戦に参加します』

チンクから通信が入った。スカラボに懇意にしてもらってるあたしとアリサ、それにスバルとギンガは驚いた。ドクターが殺害されて間もないっつうのに、コイツらはちゃんと局員として、前線に出張って来たんだ。あぁ、すげぇよ。けどやっぱ、目が赤く腫れてる。

「いや、正直うれしいけどさ。本当に大丈夫なの? その・・・」

『十分、泣いたよ。それに、ここでリタイアするとドクターから叱られる。さらに言えば、喪に服すのはこの一件を片付けてからだ。そうしたら、涸れるまで泣かせてもらうよ』

『早く弔ってあげるために、あたし達シスターズも改めて本格参戦するんだよ』

心配そうに訊いたアリサに、チンクとセインはしっかりとした口調で答えた。だったらこっちも今だけは下手に慰めはしねぇから、「そんじゃ頼むわ。あとどれくらいで到着だ?」って遠慮なしで行くことにした。

『もうすぐだ』

遠くの方から風切り音がフェードインして来た。後方を見ると、「なんだアレ・・・!?」バイクのようなモンが向かって来るんだが、普通の二輪に出せられるスピードじゃねぇし、何よりタイヤが無ぇ。本来、前輪があるはず部分に在んのは、横に寝かされた状態のタイヤ。

「どう見ても市販品じゃないわね・・・」

本体後部の両サイドには、足を乗せるための足場があって、その後部にはブースターが付いてる。どうやら後部ブースターが推進力で、前輪の横タイヤはおそらく浮揚力を担うブースターなんだろ。何せ、空を飛んでやがるからな。後部末端には尾翼と垂直翼。アリサの言うように市販品じゃねぇな、こりゃ。

「お待たせ~!」

「途中で陸士部隊を追い抜いて来たが・・・。やはり行動が遅い」

そんな空飛ぶバイクのハンドルを握ってんのはセインで、タンデムシートの後ろにチンクが座ってた。ヒューンと出力を抑えたような音を発しながらバイクはゴトッと岩場に着陸した。

「地上本部から来たんだろ? そんで南部の陸士隊を追い抜いて来たとか。どんだけ速いんだよ。つうかコレ、完全に違法だかんな」

「許せ、ヴィータ。局の車に乗られていては日が暮れる。故にドクターのオモチャ――エアロチェイサー試作機を引っ張り出して来たのだ」

チンクがエアロチェイサーっつう名前のバイクのシートを軽く撫でた。目はとても寂しそうだ。一度目を伏せて、開けた時にはもうキリッとした強い目に戻っていた。そんで「それで? どうする、これから」っていう問いに答える前に、「チッ。また撃ちやがった!」巡航ミサイルが2発、首都へ向けて撃たれた。

「これ以上は待っていられねぇし。・・・しょうがない。このメンツだけで仕掛けるぞ!」

スバルとギンガは変わらずクイント准陸尉を相手にしてもらう。残りは全員、ノーヴェ達を瞬殺するために動く。セインが「兵器は後回し? あたしのスキルで潜航しようか?」って挙手してきたが、「却下」だ。

「デルタが内部に居る可能性がある。どんな戦術を執るか判んねぇ奴の居る列車砲の中に、お前1人を送るわけにはいかねぇよ。だったら他の戦力を無力化して、外に引っ張り出すのがベターだ」

本当はさっさと乗り込んで直接この手で引っ張り出してやりてぇが、変にカウンターを貰って返り討ちされるのも洒落になんねぇしな。つうわけで、「手筈通りによろしく頼むぜ」あたし達も交戦状態に入ることに。

「行くぞ!」

「「ウイングロード!」」

スバルとギンガは帯状魔法陣の道を空中に描いて、ティアナはチンクとセインと一緒にエアロチェイサーに乗って(最大2人用らしく、ティアナとチンクは立ち乗りだ)、あたしとアリサは地面スレスレを飛んで、列車砲と装甲列車の元へ向かった。

†††Sideヴィータ⇒シグナム†††

“聖王のゆりかご”の有する兵装からの攻撃が及ばない後部を護衛する巨大な艦、“アンドレアルフス”。ゆりかごの弱点である後部からの攻勢を妨げる為だけに建造されたと言っても過言ではあるまい。その制圧を任された私とエリオとキャロは、主はやて達と共にガジェットや戦闘機の撃破を続けながら、“アンドレアルフス”内への侵入を試みることになっているが・・・。

「はぁぁぁぁ!!」

――紫電一閃――

“レヴァンティン”の剣身に炎を纏わせての直接斬撃で、ガジェットのⅡ型を数機と連続で斬り払う。今回、姿を見せたⅡ型の兵装はビーム兵器のみ。レールガンもミサイルポッドも積んでいないため、労することなく破壊が出来る。

『ルシル君! 巡航ミサイルが接近中! 予測進路が出た、迎撃をお願いや!』

我々、六課の航空戦チームと、協力をしてくれている味方部隊に全体通信が入る。それは主はやてからルシルへの指示だった。南部の荒野地区に陣取っている列車砲・“ディアボロス”の有する巨大レールガン・“ウォルカーヌス”2門から放たれて来る巨大巡航ミサイルの迎撃を、ルシルが一手に引き受けている。

『次は!』

『中央区画のポイントX-40! 商業地区や!』

地上本部への攻撃だけであれば苦労は無いのだが。今になって巡航ミサイルを中央区画全体に留まらず、東部と西部にも撃ち込み始めた。東部と西部の防衛は距離的な問題で、残念ながら素通りさせるしかない。一応、教会騎士団の精鋭が各地に散っていることもあり、今は彼らを信じるしかないだろう。そしてルシルは、中央区画全体を防衛することになり、これからまた迎撃に出る。

『まだ避難が済んでいない地区か・・・! 了解! 誰か、援護を頼む!』

『私が担当しよう』

『よろしく頼むよ、トーレ』

ルシルと、そしてトーレ・スカリエッティからの返答が入った。航空兵器戦開始から少し、すずかとトーレも参戦した。他のシスターズも、プライソンのアジトや列車砲攻略に向かったというのも聞かされている。今は少しでも空戦の出来る戦力が欲しかったところでの、S+ランク相当の技量を持つトーレの参戦は喜ばしい事だった。

『ルシル君とトーレが抜けてる間、しっかりと空を押さえるよ!』

ガジェットと戦闘機隊の数は減ることを知らず、破壊すればするほど補充するかのように、ゆりかごからはガジェット、“アンドレアルフス”の滑走路からは、戦闘機隊が続々と飛び立って行く。

(エリオとキャロ、トリシュタンは上手くやれているだろうか・・・)

あの子たちは対戦闘機隊を専門として、この空域のどこかを飛び回っている。戦闘機の基本兵装として強力なAMFが積まれている。私とヴィータの副隊長は、主はやてからの許可で、主はやてとなのはとフェイトの隊長は、調査官としてのルシルの許可で、これまで私たちを縛っていたリミッターを解除した。ゆえにそう大して苦戦するような相手ではないが、やはりどうしても影響を受けるのも事実。その影響を受けにくいのが、魔法ではない純粋な物理攻撃であるドラゴンブレスというわけだ。

『シグナム、アイリ! そっちにアンドラス1機が逃げた! 3時の方向から来るはずだから、追撃よろしく!』

「了解だ」「はーい!」

ヴァイスの操縦するヘリからの狙撃による味方部隊のサポートをしているアリシアから、攻撃機の破壊を頼まれた。私の側には中遠距離系のサポートとしてアイリが居り、共に3時の方向へと目をやる。ゆりかごや“アンドレアルフス”の周囲には、3ケタの航空魔導師と、敵航空兵器が4ケタの大乱戦。

「捉えた! 行くぞ、アイリ!」

「ヤー!」

その中でなんとか捉えられた“アンドラス”の機影。Ⅱ型の隙間を縫うようにこちらへ向かい、左右の主翼下のウェポンベイより空対地ミサイル(ルシルからの解説で、無駄にどんどん詳しくなってしまう)を2発と投下した。“アンドラス”は攻撃機ということもあり、戦闘開始から掩護機の“シャックス”を伴って地上へ向けて爆撃を行っていた。

「アイリ!」

「コード・シャルギエル!」

地上へ向けて落下しているミサイル2発へと氷槍を8本と発射。誘導性の無いミサイルのおかげで全弾が直撃。瞬時に凍結されて地上へ落ちる前に砕け散った。次は私の仕事だ。“レヴァンティン”を鞘に納め、「カートリッジロード!」をする。

(この日の為に、刃を徹底的に研いだのだ)

人ではない金属の塊であるなら、物理破壊設定で攻撃を行える。足元に魔法陣の足場を作り出して降り立ち、居合抜きの構えを取る。

――ヒルンダプス・カウダクトゥス――

魔法陣を蹴って、私の最速の移動魔法で“アンドラス”へと跳ぶ。私の接近にしっかりと反応し、“レヴァンティン”の攻撃範囲から逃れようと機首を上げて方向転換を試みようとしたが・・・

――レフレクスィオーン・ファーネ――

どこからともなくミサイルが3発と飛来して、“アンドラス”上に着弾して爆発。そのおかげで再び私の攻撃範囲へと無理やり戻された。

「紫電・・・!」

鞘内に溜めていた魔力を爆発させ・・・

「清霜!」

“レヴァンティン”を抜き放つ。その爆発力で抜刀時の速度を引き上げ、破壊力・切断力を急激に高める、一撃必殺の斬撃だ。すれ違いざまに一太刀を入れ、“アンドラス”を縦に真っ二つに斬り捨てた。私を通り過ぎて行った機体は、僅か後に爆散した。

「礼を言う、アンジェリエ!」

先ほどのミサイルによる援護。あれはおそらくアンジェリエのものだ。その姿を探しだして目をやると、朱色の魔力で作られた旗地を展開した状態の旗型デバイス・“ジークファーネ”を持つ彼女が小さくお辞儀した。使用魔法によっては物理系や魔力の飛び道具を、狙った場所に逸らし返すことを可能とし、あの旗地1つで打撃・斬撃・防御・拘束と多彩な戦術が執れる。

『シグナム、アイリ。ポイントB-11のガジェット部隊の処理をお願いや』

「了解です」「了解!」

主はやてからの指示に応じ、私とアイリは指定ポイントへと翔ける。ポイントに到着するまでの間、戦闘機やⅡ型が続々と撃墜されて行く様を見る。どれだけ強力な戦闘機だろうと、リミッターを解除されたなのはやフェイト、そしてシャルを筆頭とした鍛え抜かれた空戦騎士の前にはただの的でしかないようだ。

(エリオ、キャロ・・・!)

真の姿となっているフリードリヒの鞍に跨るエリオとキャロが、ワイバーンという竜の鞍に跨るトリシュタンに付いて空を翔け回り、戦闘機を中心に撃墜して行っている。言葉ではなく視線だけを交わして、私とアイリは指定ポイントへと向かう。

『こちらルシリオンとトーレ。巡航ミサイルの防御に成功した。これより航空戦力の迎撃戦に再参加する』

ルシルとトーレが無事に仕事を果たして戻って来たと報せる通信が入った。かなり遠いが早速、蒼い魔力爆発が発生し始めたのが確認できる。

『了解。おおきにな、2人とも。ポイントC-01で、戦闘機シームルグの一団が暴れてる。武装隊も騎士隊も手一杯で、なかなか手を付けられへんのや。しかもこれまでのシームルグとは一線を画す機動力と防御力ときた。おそらく本隊なんやろうね、カラーも金色に統一されてるし。護衛艦アンドレアルフスに突入するには、どうしても邪魔やし・・・。お願い出来るか?』

『了解した。すまないが、アイリを借りたい。外のガラクタどもを、一気に片付ける』

『・・・トーレ。アイリと交代してシグナムと一緒に迎撃にあたってもらえるか?』

『お前たちとは長い付き合いだ、何も問題はない』

ここでアイリとは一旦の別れだ。私とアイリはコツンと拳を突き合わせて、「しっかりね」と言って去って行くアイリに、「お前もな」と返した。

†††Sideシグナム⇒シャマル†††

「これ以上の進軍を許すな! ミッド陸士武装隊の底力を見せてやれ!」

私とザフィーラは、対陸戦兵器戦のメンバーとして地上の武装隊と合流。中央区画、東部、西部、北部、南部、それぞれに戦車と装甲車が出現した。それを片付けるのがお仕事の内容。教会騎士団も各地に散開しているとのことだけど、ここにはまだ到着していない。

――シュートバレット――

――シュートバスター――

普段は縄張り争いなどをしている陸士隊が、共通の危機と敵を前にして今は協力して事に当たってる。基礎中の基礎である射砲撃を撃ち続け、戦車・装甲車やⅠ型に攻撃を繰り返す。Ⅰ型はAMFを積んでいるけど、射砲撃の集中砲火を浴びればどうしようもなく爆散する。戦車と装甲車は、ガジェットや戦闘機と違ってAMFを積んでいないみたい。とは言え、物理破壊設定の魔法でもビクともしない装甲の厚さだけど・・・。

「また・・・!」

戦車と装甲車は2台1組で行動していて、戦車がエネルギー砲撃(質量兵器の砲弾じゃないのよね・・・)を撃っている間、無防備なその巨体を援護するのが装甲車の機関銃(これもエネルギー弾)。さらにガジェットのⅠ型が統制の取れた歩兵パレードの如く進軍して来る。エネルギービームの雨あられ。本当いい加減にしてほしいわ。

「えいっ!」

――ペンダルシュラーク――

両手の人差し指と薬指にはめた4つの指輪・“クラールヴィント”から伸びてる魔力ワイヤーを槍のように勢いよく伸ばして、先端に付いてる宝石の振り子でガジェットⅠ型を攻撃。AMFに少しだけ拒まれたけど、ヴァリアブルシュートのように対AMFの魔力コーティングをした振り子を最後まで拒みきれずに、自身への直撃を許した。爆散するⅠ型から振り子を戻した時、「この!」装甲車の砲塔から、砲弾状のエネルギー弾が2発連続で発射された。

「防御担当! 一斉シールド展開!」

――ラウンドシールド×20――

「クラールヴィント! 負けていられないわよ!」

――風の護楯――

1発目は武装隊の複層シールドで、2発目は私のシールドで防げた。戦車と装甲車は、ほぼ無差別に攻撃を仕掛ける所為で、建造物にも容赦なく被害が出始めてる。だから私や他の武装隊の魔導師が防御を行って、可能な限り建造物を護る。民間人の避難は続けているけれど、まだ完全じゃない。一応、この周囲一帯の避難は終えているけど、だからって建造物に被害を出していいわけじゃない。

「ザフィーラ、装甲車を転ばして!」

「承知した!」

――鋼の軛――

まずは戦車を護る装甲車を攻略する。拘束杭を車体の真下、右側辺りから突き出させた。片輪装甲でなんとか持ちこたえていたけど、「撃って!」私の声に応じてくれた武装隊の射砲撃が着弾して、装甲車が大きな音を立てて横転した。ちょうど屋根の部分がこっちに向いているわね。

「今なら・・・!」

8輪の装甲車には兵装が3つある。砲台から伸びる砲塔が1基、車でいう運転席と助手席の窓にあたる所には銃塔があって、そこから伸びた機関銃が2挺。内1挺は横転したことで下敷きになってる。

――縛り断ち――

“クラールヴィント”から伸ばした魔力ワイヤーで、残りの砲塔と機関銃を縛る。しっかりと巻き付いたのを確認して、「えーい!」右腕を勢いよく退く。物理破壊設定限定で使えるこの魔法は、拘束した物(昔は敵の騎士もだったけど)をワイヤーで締め付けて輪切りにするというもの。とは言っても、あまり大きな物は輪切りには出来ないのよね。

「シャマル、狙われているぞ!」

――狼王の鋼鎧・剛――

戦車の砲門が私に向いていたことに、ザフィーラに言われて気が付いた。砲門奥に白い光が生まれた。次の瞬間、砲弾状の砲撃が発射された。でも私と砲弾の間にザフィーラが割って入ってくれて、代わりに直撃を受けた。爆炎と爆風で「きゃあ!」私や、「うわぁぁ!」近くに居た隊員たちが吹き飛ばされてしまった。

「ザフィーラ!」

黒煙に向かって呼び掛けた直後に、黒煙を穿って砲撃が飛んで来た。防御魔法を展開するにはもう手遅れだから、頭を両手で押さえてその場に蹲った。頭上を通り過ぎて行ったのが衝撃波で判り、さらに言えば被っていた帽子が吹き飛ぶのも判った。直後にドォーン!と背後で爆発音が轟いて、悲鳴も次々と上がった。

『まずいぞ、シャマル! 戦車と装甲車の援軍だ!』

晴れ始めた噴煙の中からザフィーラが飛び出して来て、思念通話でそんな最悪な報せをしてくれた。4車線道路の奥、さっきまで相手にしていた戦車の後方に、新たな戦車と装甲車がⅠ型を引き連れて向かって来ていたのが見えた。

「そんな・・・」

心が折れそうになったけど、かぶりを振って身構える。武装隊だって怯まずにⅠ型を始めとして攻撃を与えているわ。機動六課の一員として、ここで逃げるわけにはいかない。そう覚悟を決めて、交戦に入ろうとしたその時・・・

「カッカッカ! よもや質量兵器との戦いとは。幼き日を思い出すのぅ!」

しわがれつつも子供のように弾んだ声が、空高くから聞こえて来た。みんな揃って頭上を仰ぎ見る。空から人が降って来るのが判る。徐々に人影が大きくなっていって、それが誰なのかを思い出すのに数瞬。思い出すのとほぼ同時、その人は最初に戦っていた戦車の上に墜落した。

「んな・・・!」

一体どれだけの重量だったのか。その人が墜落したことで、戦車が大きく潰れてしまった。その人は「うむ。着地も無事に成功! カッカッカ!」笑い声を上げながら地面へと降り立った。そして・・・

「機動六課の八神シャマル先生と、守護獣ザフィーラ殿ですな? 吾輩は聖王教会騎士団、銀薔薇騎士隊が一、ライオネル・ブンテンバッハ。教皇マリアンネ聖下の命の下、そなたらの力となるべく参上仕った」

自己紹介と、ここへ来た理由を話してくれた。そう、教会騎士団の中でも最強の精鋭部隊ズィルバーン・ローゼに所属する騎士。手に2mほどのバトルアックスを携える、斧を武装とする騎士の頂点であるパラディン。騎士ライオネル、その人だ。身長は2m半くらいあって、その巨体さだけで圧倒されちゃう。

「あ、はい。よ、よろしくお願いいたします!」

私が深くお辞儀をすると「うむ! かような美女に頭を下げられては、張り切るしかなかろうて!」バトルアックスを肩に担いで、援軍の戦車と装甲車に向き直った。フリューテッドアーマーなんて、時代錯誤な本格的な甲冑を身に包んだ騎士ライオネルは、陽に焼けた禿頭を左手で撫で、側に落ちていたグレイト・ヘルムを手に取って被った。

「では参ろうか!」

柄を両手で握り締めてグッと腰を落とした騎士ライオネルは、「いざ!」その掛け声と共に戦車と装甲車に向かって突撃した。見るからに重そうな甲冑なのに、軽やかに速度を上げて駆けて行く。でもあまりにも無謀な行為。戦車と装甲車の砲塔が騎士ライオネルへと向けられ、そして砲弾が発射された。

「危な――」

最後まで言い切る前に、騎士ライオネルは薄紅色の魔力が付加されたバトルアックスで迎撃。軽々と振るって、エネルギーの塊である砲弾を寸断した。足を止めることなくまずは戦車ヘ最接近。

「鉄塊など、何の脅威にもならぬわ!」

バトルアックスで砲塔をスパッと斬り落とした後、そのまま車体を駆け昇るとバトルアックスを振り上げて、「ふん!」と勢いよく振り降ろした。その一撃で、戦車は大きくひしゃげて無力化された。

「すごい・・・」

「次!」

装甲車の機銃攻撃をガンガン当てられながらもビクともせず、騎士ライオネルは装甲車へと向かってジャンプした。装甲車がバックを始めたから「逃がさん!」ザフィーラが鋼の軛を発動して、退路を塞いだ。

「おお! 礼を言うぞ、ザフィーラ殿!」

騎士ライオネルは振り上げたバトルアックスを振り降ろし、装甲車もまた大きく潰して無力化した。そして「なんじゃい、つまらん。もっと骨のある兵器は居らんのか?」と言って、今度はガジェットの群れに単独で突撃して行った。そこからは一方的な戦闘、というより破壊行動だった。

「これがパラディン・・・」

「ここまで心強い味方など、そうは居らんな」

ザフィーラの言葉に、私はただ「そうね」頷くことしか出来なかった。

 
 

 
後書き
フジャムボ。
今話は、それぞれの戦場の様子をお送りしました。敵における主役はあくまでアルファらスキュラ、クイントらシコラクス、メガーヌらスキタリスなので、無人な戦車や戦闘機は即退場の雑扱いとなります。
次話からはそんな主役の後片付けをお送りします。文字数にもよりますが、戦闘パートが8話くらい続くかと思います。さすがにまずいと思いましたら、1話に2戦闘の決着を纏めるかもしれません。
 
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