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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic23-A新暦75年ミッド・プライソン戦役~Outbreak of War~

†††Sideフェイト†††

ミーティングルームでの隊長会議を終えて、待機シフトに入ろうとしたところにレッドアラート。アースラの廊下にモニターがいくつも展開され始めた。表示されたのは子供だった。男の子で、貴族のようなコートを纏っている。側に居たルシルが「トリックスター・・・!」って言ったのが聞こえた。

「じゃあこの子が・・・プライソン・・・?」

全くと言っていいほどに想像していなかった外見だった。ドクターの兄だってことだったし、もっと大人で老けているのかと。その子はコホンと咳払いした後・・・

『はじめまして、時空管理局・聖王教会の諸氏。この俺が、お前たちが必死になって捜していた男、プライソンだ。今日は次元世界に新たな記念日が生まれる日となる。ゆえに俺はこうして姿を見せた』

ハッキリと自分で名乗った。ルシルは「やはりコイツか」って漏らして、キッとプライソンを睨みつけた。でもこれでプライソン一派だって濡れ衣を着せられて勾留されているドクターやシスターズは釈放されることになる。

『俺たちの準備は済み、今日、偽善の象徴である管理局・ミッドチルダ地上本部および聖王教会に対して、改めて宣戦布告をする。俺のスポンサーでありクライアントの最高評議会、そしてヴァーカー・ホドリゲス大将、レジアス・ゲイズ中将、リチャード・フォーカス少将。観ているか?』

局員の名指しをしたプライソン。挙げられた名前の局員はみんな、トップクラスの役職に就いてる人たちだ。してやったりって顔をしたプライソンの映像から、どこかの森林地区へと切り替わった。崖や谷間に、昆虫型の大きな召喚獣が何体も張り付いている。

『そして聖王教会の諸君。観ているか? お前たちも捜していたのだろう? 無念だろうが俺が先に手にさせてもらった』

召喚獣が張り付いていた崖や谷間が大きく崩れて、その直後に広範囲の森がせり上がって行き始めた。そして、地盤の下から巨大な人工物がその姿を見せた。ルシルが「聖王のゆりかご・・・!」そう漏らしたのが聞こえた。名前も大きな戦艦だってことも判っていた。でも想像していたものより遥かに巨大なものだった。

『旧暦の時代。一度は世界を席巻し、そして破滅を齎した絶対の力の象徴。古代ベルカの悪夢の叡智・・・! 聖王のゆりかご! 無論、俺の力はこれだけではない。見ろ、これが俺の全力だ』

ゆりかごの後方の森もまたせり上がって行って、ゆりかごよりは小さいけどそれでもその半分くらいの大きさな艦が姿を見せた。なんかマンタっぽい外見。ゆりかごと同じ高度にまで上昇したその艦は、ゆりかごと一緒に微速前進を開始した。森林地区がどこか判らない以上、向かう先はどこなのか知ることも出来ない。だからはやては「映像の場所を調べて」ブリッジのシャーリーに指示を出した。

『ゆりかごは恐ろしく強大な力を秘めている。だが発揮するには少々面倒な工程が必要だ。そのためには護りが要る。聖地より蘇る彼の翼・聖王のゆりかご。ゆりかごを護り地上に畏怖を与える親鳥・アンドレアルフス』

「ゆりかごの後ろに付いたあの巨大艦が、アンドレアルフスって奴か・・・!」

そんな“アンドレアルフス”の中央付近に、なんと滑走路があった。

『共に翔けし子鳥・ナベリウス、シームルグ、アンドラス、シャックス、マルファスが、地上に戦火を齎す』

その滑走路がズームアップされた。そこからシームルグなどの見慣れた戦闘機やマルファスという輸送機が次々と飛び立って行くんだけど、その中で「見慣れない航空機が先頭を飛んでる・・・」アリシアの言うように、全体的にブルーカラーで、デフォルメされた猫とネズミのイラストが翼に描かれてる航空機が他の機体を先導していた。。

「ちょっと! 滑走路にメガーヌ准陸尉たちが居るわよ!」

「「アギト!」」

「セッテ、オットー、ディード・・・」

滑走路には、防護服に変身し終えているメガーヌ准陸尉、側にはルーテシアとリヴィアとアギト、地上本部を襲ったシスターズの3人が居た。

『そして、地を這う鋼の龍・ケルベロスとオルトロス、咆哮たるディアボロス』

映像が切り替わる。どことも知れない(移動していなければ南部だとは思うけど・・・)荒野地帯。そこに「列車砲・・・!」が君臨していた。おそらくアレが“ディアボロス”。列車砲の前後から伸びるミサイルのように滑らかな車体と、複数の小型砲台を備えた装甲列車。アレが“ケルベロス”と“オルトロス”。

「クイント准陸尉!」

“ディアボロス”などの兵器を護るようにクイント准陸尉、廃棄都市区画で交戦したシスターズのノーヴェ、ディエチ、ウェンディの姿があった。そしてまたプライソンの映る映像へと切り替わった。彼はコツコツと靴を鳴らして歩いて行って、その先には・・・

「「ヴィヴィオ!」」

背もたれの高い肘掛椅子(おそらく・・・玉座)に座らされているヴィヴィオの姿があった。でも「フォルセティ!? フォルセティは!」はやてがモニターに張り付くようにして、フォルセティの姿を探すけど・・・。

「居らへん・・・フォルセティが・・・」

映像内にフォルセティの姿はなかった。フラつくはやてに「しっかりしろ、はやて」ルシルがそう言って、はやての両肩に手を置いて支えた。はやてはルシルの胸に顔を埋めて「そやけど・・・」不安げに呻いた。私ももう一度モニターを見るけど、やっぱりフォルセティの姿はなかった。

『管理局・聖王教会両勢力と俺たち。どちらがミッドチルダを支配するか、今日、決めてみようじゃないか!』

プライソンはヴィヴィオの顎から頬にかけて手で撫でたから「触るな!」私は思わずそう叫んだ。私の声が届いたわけじゃないだろうけど、プライソンはヴィヴィオの顔から手を離して、『最後に』そう前置きした。

『愚かにもゲーム開始のオープニングテーマが流れる前、会社ロゴが出ているようなタイミングで、俺の研究所に忍び込んだ馬鹿が居た。まぁ痛い目に遭わせてお帰りいただいたが』

また映像が切り替わって、「っ!?」私たちは絶句した。映し出されたのは、服を血で真っ赤に染めるドクター、ジェイル・スカリエッティ。そしてバインドらしき物で拘束されているウーノさん、ドゥーエさん、トーレさん、クアットロさん、チンク、セインだった。場所は地上本部のメインエントランス前。

「ドクター・・・? え? 血?」

「まさか・・・死・・・?」

「うそ、そんな・・・!」

「馬鹿な・・・! ドクター達は、拘留されていたんだそ・・・!」

ウーノさん達は意識があるみたいで、見てる方が本当に辛くなるほど大泣きしていて、ドクターに向かって何か叫んでいた。でもドクターの顔にはもう血色は無くて・・・肌は白かった。これまでに何度か見てきた、死者の顔だった。

『俺とのゲームは命懸けだということを念頭に置いて掛かって来い。そして俺を、俺たちを打倒して名を上げるもよし。欺瞞と偽善に満ちた管理局の正義とやらを謳って職務を全うするもよし。俺たちは待っているぞ? 虫のようにあがき続けるお前たちを眺めながらな! デルタ!』

プライソンは声を弾ませてそう言った後、“ディアボロス”の映像に切り替わる。砲塔2門が動き出して同一方向に砲門を向けた。そしてソックブームを生み出しながら、あの巨大巡航ミサイルを発射した。

「ブリッジ!」

『はい! 少し時間をください!・・・・ミサイルの進路は、首都クラナガン! おそらく・・・!』

「地上本部、か・・・。とことん管理局に喧嘩を売るつもりやな」

再びプライソンの映像に切り替わり、『さぁ。ゲームの始まりだ!』それで戦闘開始を告げる宣言は終わった。ブツンと通信が切れて、通路内が静寂に包まれた。誰も声を出さす動きも見せない。あまりにもショックだった。ドクターの死が・・・。でもそんな中でルシルが「はやて。ミーティングだ。君たちも・・・!」そう言って歩き出した。

「ルシル君・・・」

「ゆりかごも他の兵器も止める。ヴィヴィオもフォルセティも救い出す。プライソンには相応の痛みを味わってもらう。そのためには、俺たちが動かないといけない。怒りも悲しみも、今は胸の内に留めろ。今考えるのは、救いたい人を、護りたいものを、救い護るのみ。違うか?」

ルシルの視線が私たちみんなに向けられた。解るよ、ルシルの瞳には怒りが燃えているのを。だから「うん」私は頷いて、ルシルの元へと歩み寄る。なのはも頷いて、はやては「シャーリー。ミーティングルームに集合するよう、フォワード達に連絡して」指示を出した。

『了解です』

「はやてちゃん。あのミサイルは・・・」

「今の私らじゃ手も足も出せへん。けど地上本部の障壁も復活してるし、おそらく耐えられるはずや。今はそれを信じよ。グリフィス君。一応、地上本部の警備部に報告を」

『判りました』

そうして私たちは再びミーティングルームへ。今度は六課の全戦力が集合。スバル、ティアナ、エリオ、キャロのフォワード4名。すずかとシャマル先生とギンガ。あとグリフィスが、はやての席の側に控えている。

「みんな、プライソンからの宣戦布告は見たな? ゆりかごは起動して、他の兵器たちも私らに見せつけてきた。これから本格的な戦闘に入る。目的はプライソン一派に拉致されて洗脳を受けてるクイント准陸尉たちを始めとした要救助者の救出と保護。兵器の破壊。そして一派の逮捕や」

「皆さんが集合する前、本局のユーノ司書長、聖王教会の騎士イリスより連絡を受けました。ユーノ司書長からは聖王のゆりかごの詳細なデータを。騎士イリスからは教会騎士団の出撃する隊名を」

グリフィスの展開したモニターに、ゆりかごの内部マップや外観と兵装の位置を映し出された。別モニターには、イリスのロート・ヴィンデ、トリシュのゴルト・アマリュリュス、クラリスのグリューン・ガルデーニエ、アンジェリエのプルプァ・グラディオーレ、その4隊の出撃が決まったことを示す、各隊の紋章旗がザンクト・ヒルデの街に掲げられている映像が。

「ゆりかごと航空艦、そして列車砲と装甲列車の位置は現在、本局や各陸士部隊が割り出している最中です。おそらく、もうすぐ・・・――」

グリフィスがそこまで言いかけたところでコール音が室内に響いた。はやてが応じると、『こちらクロノ』の映るモニターが展開された。

「クロノ君。ちょうどええところに。これから出撃するって報告をしておこうって思うてたんよ」

『そうか。こちらからも報告がある。本局は、聖王のゆりかごを第1級危険指定のロストロギアと認定し、これを破壊することを決定した。聖王教会ひいてはザンクト・オルフェン議会も賛同してくれた。ユーノからゆりかごのデータを受け取っているな?』

「うん。今、モニターに出してる所や」

『ゆりかごの真価が発揮されるのは、衛星軌道上に上がり2つの月の魔力を受けられるポイントに着いてからだ。そこで本局は艦隊を出撃させて、そのポイントに着く前に宇宙空間で撃沈する作戦を実行することになった』

モニターに映るゆりかごのデータを見る。砲門の数、内部のマップ、全区画にはAMFが常時展開、自立型の防衛兵器、そしてクロノが言う衛星軌道上からの兵装についても記されてる。ユーノ、ちゃんと纏めてくれたんだね、判り易いよ。

「宇宙空間・・・。大気圏内での撃沈は出来ひんのやね」

『艦隊がそれまでに到着できない。さらに言えばゆりかごと護衛艦の位置と向かう先が、プライソンのアジトを捜索していた部隊から報告が上がった。東部のF92の森林地区。予測進路は首都クラナガン。大気圏内で撃沈できるならしたいが、たとえ艦隊が到着するのが早いとしても、首都にゆりかごが到着してからになる。首都上空で撃沈するわけにはいかないだろ』

「あれだけ巨大な艦体だ。その残骸を街中に落とすわけにはいかないな」

『そういうわけだ。・・・って、ルシル。君、なんか縮んで・・・』

「その話は後でしてやるから! 今は、本事件の話を進めてくれ・・・」

ルシルも本当に大変だよね。ひょっとして、本来の身長のルシルを見掛けた知人に、いっつも説明とかしてりするのかな。それはなんかすごい労力要りそうだし、何よりルシルのストレスが大変そうだよ・・・。クロノは『そ、そうか。それじゃあまた後で・・・。コホン。で、だ――』たじろいで、咳払いしてから話を本題に元に戻した。

『六課、おそらく・・・なのはとフェイト、ルシル辺りがゆりかごに突入することになると思うんだが。頼みがある。ゆりかごの駆動炉を押さえてほしい』

「駆動炉を・・・?」

『ゆりかごが衛星軌道上のポイントに到達するまでの予想時間は約4時間後。艦隊が到着するまで最速で4時間半。30分も差があることになる。この差はかなり大きい。だから――』

「時間稼ぎのための駆動炉封印か、もしくは破壊」

私となのはとルシルが顔を見合わせた。そして「駆動炉は俺が押さえる」ルシルが名乗りを上げた。

「魔力吸収のイドゥンがあれば、駆動炉くらいすぐに終わるだろ」

フォルセティとの戦闘があるかもしれないけど、ルシルには魔力攻撃殺しの魔法イドゥンがある。昔、チーム海鳴で模擬戦した時、なのはを完封した魔法だ。でも属性――変換資質で変換された魔力、私の電撃やアリサの炎熱などの魔力は吸収できない。だけど艦の動力炉(ゆりかごもおそらく魔力で動いてるはず)なら効果覿面だと思う。

『そうか。ならルシルに任せよう。・・・では機動六課。出撃してくれ。武運を祈る』

私たちは席を立って「了解!」クロノに敬礼をした。

・―・―・―・―・

本局のどこに在るとも知れない広大な空間。明かりらしい明かりは無いが、空間自体が明かりとも言えるため視界は開け、その空間に何があるかは確認できる。正四角形の足場らしき物が縦横無尽に点在しており、中央付近には培養液が満たされたカプセルが3基と並んでいる。そのカプセルの中に浮かんでいるのは、人間の脳と脊髄だ。

『――俺のスポンサーでありクライアントの最高評議会、そしてヴァーカー・ホドリゲス大将、レジアス・ゲイズ中将、リチャード・フォーカス少将。観ているか?』

その脳の収められたカプセル3基の前には、プライソンによる宣戦布告の映像がモニターに映し出されていた。最高評議会の名前が出た瞬間、カプセル内に気泡が勢いよく現れた。それは感情が露わになった証拠だ。

『おのれ、プライソンめ・・・!』

『よもや我々、最高評議会の名を出すとは!』

『しかし何故だ! サブナック、ガアプ、アーリー、コスンツァーナの名が出されていない!』

3つの脳の正体は、最高評議会の議長デュランゴ、評議員リョーガ、書記トレイルだった。150年前に次元世界を平定し、75年前に管理局を設立したことで前線を退いた。それからは管理局の表と裏を支配してきた。とは言え、平時は運営方針には口を出すことはなかった。もっぱら裏の支配者としての存在していた。

『クライアント・・・。奴に仕事を依頼した名前だ。サブナック達は、プライソンとは個人的なつながりが無い・・・!』

『我々も道連れにするつもりか・・・!』

『隠蔽しようにも管理世界全域にリアルタイムで発信されている。最早、内務調査部が我々に迫るのは避けられまい』

『こういう日の為に、ルシリオンを調査部のトップに挿げ替えようとしていたが・・・。おのれ、先手を打たれた』

元は利用するために生み出したプライソンの反逆に、最高評議会は焦っていた。しかしそれだけでは済まなかった。

『――俺の研究所に忍び込んだ馬鹿が居た。まぁ痛い目に遭わせてお帰りいただいたが』

『『『なに!?』』』

モニターに映るジェイル・スカリエッティの遺体と、彼の娘たちであるシスターズ。

『馬鹿な! 何故、ジェイルが殺されている!?』

『拘置所に勾留していたはずだ! いつの間に脱獄した!?』

『拘置警備課は何をしていた!』

プライソンの後継として考えていたジェイルの死。最高評議会は悉くその計画をかき回されていた。ジェイルを操れる自信はあったのだ。シスターズを人質に取ってしまえば、いくらでもと。だが混乱ばかりしている暇もないのは確か。すぐに、宙ぶらりなってしまうプライソンとジェイルの技術をどうするか、それを決める話し合いになる。まずは自分たちの今後の境遇について話し合うのが普通だろうが、もはや裏から管理局を操れば問題ないと、自然にそう答えが出て来てしまっていた。

『ミミルはどうか?』

『ミミル・テオフラストゥス・アグリッパ、か・・・』

『確かに、プライソンとジェイル、スカリエッティシリーズを我々の依頼で生み出したのはあの女だ。その頭脳はスカリエッティシリーズと同等か、もしくはそれ以上。2人の技術を受け継ぐのに相応しいとも言える。しかし・・・』

『あの女は危険すぎではないか? 複雑かつ理解できない、あの突き抜けた思想・・・。我々はそれを危険と判断し、管理局から追放したのだから』

ミミル・テオフラストゥス・アグリッパ。ミッド北部に位置するベルカ自治領ザンクト・オルフェン、その北区カムランに居を構えている技術者だ。ベルカ先史時代、最も戦力と技術力の高かったイリュリア国の技術者の末裔とされ、融合騎の製作などを行える数少ない存在だ。

『我々と共に次元世界を平定した同胞リアンシェルトが連れて来たため、そのまま局に置いて初代技術部長に据えていたが。彼女への恩だけでは看過できないレベルだった。それほどまでにあの女、ミミルは危険だ』

『ではどうするのだ?』

僅かに沈黙が流れた後、『月村すずか』そう響いた。

『ツキムラ・スズカ?・・・ジェイルの取ったという弟子か!』

『まだ19と幼いが、ジェイルがその技術を叩き込んだと言うのは有名な話だ』

『しかしその者は、チーム海鳴のメンバーなのだろう? ルシリオンとの契約はどうする?』

最高評議会を始めとした権威の円卓の支配下に置かれる代わりに、チーム海鳴には手を出すな。ルシリオンとはそういう契約で関係が築かれている。それを反故にした瞬間、ルシリオンは徹底的に敵となり、今以上のまずい状況を運んでくる。ゆえに最高評議会は頭を悩ませる。

『いや待て。先に破ったのはルシリオンだ。機動六課襲撃時、奴は戦闘行為を執った。誰に許可を取らずに。それを餌にすれば、月村すずかの件も受けざるをえんだろう』

『違いない』

『では決定だな。プライソンの一件が片付いた後、ルシリオンを招集す――』

「随分、楽しそうですね。何かありました?」

最高評議会の話に突然割り込む女性の声。現れたのは『おお、リアンシェルト』だった。本局の運用部の一切合財を手中に収めている総部長にして少将の肩書を持つ、管理局最強の魔導師トップエースだ。そして最高評議会と共に次元世界を平定し、管理局を設立した最古参でもあった。

『うむ。ジェイルが脱獄し、しかもプライソンに殺されるというのは予定外だったが、奴とプライソンの技術を継承させる技術者を発見したのだ』

『月村すずか。彼女を新しく我々の顧問技術者として任命しようと思うのだ』

『ジェイルやプライソンに比べればまだまだ使えないだろうが、それはまだ経験の無さが原因。追々役に立ってくれるだろう』

「彼女はチーム海鳴の一員では? ルシリオンとの契約が――」

『先に契約を破ったのは彼だ。それを餌に、彼を従わせるのだ』

「従わせる? あの人を・・・?」

リアンシェルトの様子が変わった。顔を俯かせて肩を震わせている。最高評議会は彼女のそんな様子に気付かず、呑気にルシリオンとすずかについて話を進めていた。そしてそれは突然起きた。

『『『っ!?』』』

1基のカプセル内の培養液が急速に凍結していって、議長である『デュランゴ!』の脳が氷の中に沈んだ。他2人の脳が収められたカプセル内に気泡が勢いよく発生する。先と同じ強い感情が現れているからだ。

『どういうつもりだ、リアンシェルト! 何故、デュランゴを!?』

『我々が何か機嫌を損ねるような事でも言ったのか、したのか!?』

「ええ、その通り。あの人を、ルシリオンを従わせる。これほど私をイラつかせる言葉はありません。これまでずっと耐えてきたけど、もう我慢なりません。あの人の大切なお友達であるすずかにも手を出そうとした。・・・これも良い機会でしょうし。そろそろあなた達には退場してもらいますね」

リアンシェルトがニッコリと可憐な笑顔を浮かべた。まるで穢れの知らない乙女のようだ。だがやっている事はある種の殺人だ。たとえ、相手が脳と脊髄だけと言っても。

『我々とあなたの仲ではないか! あなたの指示通りに我々は戦った! 次元世界を平定した! 時空管理局を作った! 最高評議会を生み出した! それを! あなた自ら捨てると言うのか! なんて、なんて勝手な・・・!』

『何故ルシリオンに固執する! あの少年とあなたとの間に、一体どのような関係があると!?』

リアンシェルトがその問いに答える前に、通信を知らせるコール音が鳴り響いた。彼女は断りを入れずに「はい」通信に応じた。展開されたモニターに映るのは少女で、その名は「レーゼフェア」だ。リアンシェルトと同じ“堕天使エグリゴリ”の1機で、プライソンとそれなりに親交のある少女。

『リアンシェルト。依頼どおりにコイツらを自殺に見せかけて殺しておいたよ』

レーゼフェアが陽気な声で、そんな物騒な言葉を吐いた。切り替わる映像に映るのは2人の初老の男性局員。執務デスクに突っ伏すような姿勢で、デスク上には血溜まりが出来ていた。彼らの手には拳銃が握られており、こめかみには銃創がある。一見すれば拳銃自殺だが、犯人であるレーゼフェアがすでに殺害したと自供済みだ。とは言え、その事実が公になる事はおそらく永遠には無いだろうが。

『ホドリゲス、フォーカス!?』

遺体の正体は、権威の円卓のメンバーの将校だった。

「あの2人も、あの人を利用しようとしていた。プライソンの暴露によって、どうせ先の無い人たちです。これまで甘い汁を飲んでいたのですし、もういつ亡くなっても問題ないでしょう。そしてあなた達もまた、もう利用価値の無い存在です。どうぞ先にお休みください」

『『待っ――』』

最後まで言い切ることが出来ないまま、書記トレイル、評議員リョーガの脳が収まっていたカプセルも凍結された。リアンシェルトは「安心してください。権威の円卓は、私が引き継ぎますから」と言って、カプセル3基それぞれに手を付いて、ガシャァン!と粉砕した。

『リアンシェルト』

「レーゼフェア。お使い、ありがとう。私からは以上だから、あとはあなたの思うままにあの人と闘ってきてちょうだい」

『うん。それじゃリアンシェルト。僕、先に逝っているね』

「ええ。私も後から逝くから、待っていてね」

『ん!』

リアンシェルトとレーゼフェアは微笑み合いながら手を降り合って、通信を切った。

「私は・・・、私の名は、リアンシェルト。リアンシェルト・ブリュンヒルデ・ヴァルキュリア。あの人は、ルシリオンは、私の愛した・・・、いいえ今でも愛する父です。これが先ほどの返答です。デュランゴ、リョーガ、トレイル。・・・おやすみなさい」

粉々に砕け散った最高評議会だった3人の脳の破片を見ながら、リアンシェルトは問いに答えた。彼女はその足で医務局へと向かい、そして辿り着いたのはある一般病室で、「失礼します」と入室。ベッドの上には男性が1人、眠りについていた。

「レジアス・ゲイズの処遇については、あなたに任せます。ですからそろそろ目を覚ましましょうか。ゼスト・グランガイツ」

†††Sideイリス†††

プライソンが本格的に戦闘を行うために、様々な兵器の戦地投入を開始した。本局から、旗艦・“聖王のゆりかご”と護衛艦・“アンドレアルフス”が東部から中央区画・首都クラナガンへ向けて飛行中という連絡を貰ったことで・・・

「空戦が可能な騎士は全員、このまま首都クラナガンへ向けて飛行! 空で航空機およびガジェットの撃破! 陸戦騎士は、他の隊や局の部隊と連携して、戦車・装甲車やガジェットの撃破!」

わたしたち聖王教会騎士団も順次出撃を開始。問題は、さっきのプライソンの声明には登場しなかった兵器・戦車と装甲車だ。ガチの質量兵器。それらが東西南部の地方に突然出現して、首都へ向けて一斉進軍を開始した。その数、それぞれ約2千の計4千台。マジでアホか。数年程度で完成されられるような数じゃない。ずっと前から、今日という日を待っていたんだ。

銀薔薇騎士隊(ズィルバーン・ローゼ)、出撃!」

そういうこともあって、教会騎士団最強の少数精鋭部隊、ズィルバーン・ローゼもとうとう出撃となった。ルミナとパーシヴァルくん以外が全員40代以上の中年・初老の騎士。だけどその分の経験がある。いくら若くて魔力もあって、特別なスキルを持っていしても越えられない壁だ。

「ターゲットは陸戦兵器の破壊! 民間人に傷1つ付けさせるな!」

隊長のプラダマンテからの指示にルミナ達が「了解!」応じた。ルミナ以外のパラディンは空戦が出来ないから、自然と対陸戦兵器戦となる。さらにわたしや他の隊からも陸戦騎士が街に散開して行く。そしてわたし、トリシュ、アンジェの隊長3人+空戦騎士は空へ。隊の指揮は副隊長や分隊長たちがしっかりしてくれるから、安心して空へと上がれる。

「汝は遥かなる空を支配する者。羽ばたきは氷獄の風、咆哮は煉獄の炎。行く手に群がる者らを吹き飛ばし、燃やし尽くし、背後に死の山を築く。汝が主の名に応じ、いざ参れ! ワイバーン!」

クラリスが展開した召喚魔法陣より姿を見せるのは飛竜。クラリスの有する最強の召喚獣。トリシュがそんなクラリスのワイバーンに乗った。トリシュも空を飛べないけど、精密狙撃と高威力砲撃が出来る固定砲台役として一緒に来てもらう。

「今だけはトリシュがロードだから、しっかり守ってあげてね、ワイバーン」

クラリスがワイバーンの首を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。クラリスは残念ながら陸戦側で、ロッサや自分の騎士隊を率いてプライソンのアジトを陥落させる任務に赴く。そんなクラリスとも別れて、私とトリシュとアンジェ、それに空戦の出来る騎士29人は一路クラナガンへと向かう。

「こちら教会騎士団のイリス。機動六課(アースラ)、応答願います」

『はい。アースラ、ロングアーチ01・シャーリーです』

「はやて達は出撃した?」

『たった今、出撃をしました』

シャーリーの話じゃ結構チームを分けたみたい。スバルとギンガ、アリサとヴィータとティアナは南部の列車砲・装甲列車攻略。アルトの駆るヘリに乗って向かったらしい。あそこにはクイント准陸尉が居るし、当然だとも思う。んで、護衛艦攻略はシグナムとエリオとキャロのライトニングなんだけど・・・。

「ちょっと少なくない?」

『あとですずかさんが合流予定です』

「ん? すずかは別行動中なの?」

『はい・・・。地上本部へ』

そう言われてハッとした。ドクターとすずかは技術者として師弟の間柄だし。そうだよね。放っておけないよね、あんなウーノ達を・・・。ホント家族のような関係を築いていたもんね。だから余計に、プライソンへの怒りが膨れ上がる。

――はじめまして、イリス君。私が、ここ第零技術部の部長ジェイル・スカリエッティだ。是非ともドクターと呼んでくれたまえ!――

――ドクター。イリス様が引いていらっしゃいます――

――安心して。マッドサイエンティストっぽいけど・・・――

――そういうことだ――

――根は真面目な人ですから~♪――

――イリス。私チンクも側に居る。そう怯えるな――

――お、怯えてないし!――

はじめてドクター達と出会った頃を思い返した。だけどもう、あの白衣バサッが見られないのね。ドクターの仇は、必ずみんなで取ってやる。

『ウーノ一尉たちと話をした後、すずかさんもアンドレアルフス攻略に参加します。あと、それでなんですが、八神部隊長からシャルさんにお願いが・・・』

「お願い?」

『シャルさんにも、アンドレアルフスの攻略に参加してほしいと』

「あぁ、そういうお願い・・・」

わたしの隣を飛ぶアンジェと、背後を飛ぶワイバーンの鞍に座るトリシュへと目をやる。2人は頷いてくれた。だから「判った。わたしも参加させてもらうよ」そう応じた。

『はい! ありがとうございます!』

そして、はやてとなのはとフェイト、それにルシルとアリシアが戦闘機隊やガジェットの撃破をこなしながら、ゆりかごに突入する機会を狙っているって話だった。飛べないアリシアは突入班じゃなく、ヴァイス陸曹の駆るヘリからの狙撃で、ガジェットの破壊などのサポート役とのこと。

「そう。わたしとトリシュタンとアンジェリエ、以下29人の騎士もこれより敵航空戦力と交戦に入る。はやて達にもよろしく言っておいて」

『判りました! お願いします!』

シャーリーとの通信を切って、そのまま空を翔ける。目指すは東部と中央区画の間。そして「ガジェットを視認!」した。そのずっと向こうには、護衛艦・“アンドレアルフス”のお尻が見える。

「トリシュ、アンジェ!」

「「はい!」」

「「「いざ・・・」」」

わたしは“キルシュブリューテ”を、トリシュは弓形態の“イゾルデ”を、アンジェは魔力旗をすでに展開した“ジークファーネ”を起動して、ギュッと握りしめる。

「参る!」「「参ります!」」

そしてわたしたち教会騎士も、ガジェットとの交戦に入った。

 
 

 
後書き
サルウス・シス。
結局ね、本格的な戦闘開始までいかなったのですよ。何なんでしょうね。私にも解りません。
というわけで、今話にて判明した、リアンシェルトが実は記憶を取り戻していた・・・の話ですが、すでにそうなんだろうな~って気付いていた方も居ると思います。まさしく、その通りでございました。

そして、新たな兵器を登場させました。戦車ワーウルフと装甲車オーガ。コードネームはこの先、出すかどうか判らないのでココで出しておきます。
ワーウルフのモデルは、ナチス・ドイツの6号戦車B型ティーガーⅡ。オーガのモデルは、ドイツの装甲車ルクス。
 
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