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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico?舞い散る桜花の果てに銀雪は舞い降る~Settlement~

 
前書き
黄金竜スマウグ後半戦イメージBGM
7th DRAGONIII code:VFD「戦場 - 7の侵撃 」
https://youtu.be/Ad6mxOtwpV0
 

 
†††Sideシャルロッテ†††

ベルカ時代、ルシルがオーディンと名乗っていた頃に当時のフライハイト家に授けた“断刀キルシュブリューテ”・レプリカ。私はソレをイリスの実家から借りて来た。うん、無断だったけど、あとで返すからきっと大丈夫。

『シャルロッテ様! 居住区内で戦闘発生って、まさか・・・!』

『クララって子の強制転移が使えなくなってどうしようかって時に、スマウグから戦闘を仕掛けられたことで交戦に入った、と考えるのは妥当でしょうね』

私の来世の人格・イリスに予想を伝える。ルシルは本局での戦闘なんて絶対に仕掛けない。スマウグがどれだけ強大な存在かを知れば、その選択だけは絶対に選ばない。それでも交戦状態だということは、向こうから仕掛けられてしまったに違いない。
とにかく私は、戦場となってしまった本局・居住区へ走る。スカラボから居住区へ向かう中、本局内はエマージェンシーの警報が鳴り響いていて、局員が慌ただしく廊下を走り回ってるのを見る。

「クロノ! それにユーノ達も!」

私もようやく武装隊やら戦闘を行える執務官やらがわんさか集まってる現場に到着。結界担当のクロノ、ユーノ、アルフ、シャマル先生、セラティナ、あとクララに声を掛けると、「お待ちしていました、騎士シャルロッテ!」クロノから敬礼を返されちゃった。とりあえず「ん。状況は?」クロノ達が張った多重結界を見詰めながら訊ねる。

「戦況的にかなりまずいと、先程アリシアから念話がありました」

「紫天の盟主ユーリと、ルシルの魔術で、僅かなりと弱体化できたようですが、スマウグが本格的に反撃に打って出たようで・・・」

クロノとユーノから報告を受ける。相手の魔力を利用するユーリの魔法は最高の対抗策だ。ユーリを起点に戦術を組み立てれば、そこそこ良い戦いが出来ると思う。とりあえず「私も参戦するから、結界の方お願いね」私も結界内へ進入するべく歩きだそうとしたら「騎士シャルロッテ!」シャマルに呼び止められた。

「なに?」

「私の旅の鏡で、スマウグのリンカーコアを摘出するって方法は取れないのかしら・・・?」

「残念ながら無理。魔族の、特にスマウグのような魔獣属・竜種には魔力生成器官が無いの。その存在自体が魔力と神秘に溢れていて、その攻撃全てが魔術と同等以上になるわけ」

「じゃあさ、生物ってんなら心臓とか、生きるのに必要な臓器があるだろ、スマウグの心臓とかを潰しちまえば良いんじゃないかい?」

アルフがさらりと残酷な手段を提案して来た。その方法を実際にやることになるかもしれないシャマルが「ええっ!?」ドン引き。でも「それも無理」と私は両腕でバッテンを作った。シャマルが目に見えてホッとしたのが可愛かったなぁ~。

「なんでだい?」

「スマウグは火炎竜なの。体内の温度は数千度。臓器だってそれと同じくらいなんだから、触れた瞬間に消し炭にされるからね。そういうわけで搦め手は使えないの。正攻法で、真正面から叩きのめすしか・・・ね」

私が参戦したところで戦況は劇的に好転しない。生前、全盛期の私であったとしても、だ。それほどまでに存在としての格の差があり過ぎる。だけどこうなってしまった以上は、どんな手を使ってでも勝ちに行かないといけない。そう決意して改めて歩を進めた直後・・・

「ああもう! 竜ってこんなに強いの!?」

「カートリッジがすぐ切れちゃうよ~!」

結界の内側から飛び出して来たアリシアとレヴィ。アリシアは不機嫌丸出しで、煤で真っ黒に汚れまくってるレヴィは悔しそうに顔を歪めていた。そんな2人が私に気付いて「シャルロッテ! やっと来てくれた!」アリシアは表情を輝かせ、「赫ハネ! 待ってたぞ!」レヴィがニカッと笑った。

「シャマル先生! フェイトとなのはとアリサ、それにシグナムとヴィータのマガジンとカートリッジちょうだい!」

「ボクのとシュテルのと、あとフラムのも!」

「ええ! 持って行って!」

シャマルは足元に置かれているリュックサックから、“フレイムアイズ”、“タラスクス”用のマガジンと“レイジングハート”、“ルシフェリオン”用のマガジン、それにフェイトやシグナムとヴィータ、レヴィのカートリッジを、アリシアとレヴィに渡した。とんでもない数のカートリッジ。ルシル、かなりの大盤振る舞いね。

「シャルロッテ! 一緒に行こう!」

「え、ええ!」

「スマウグって竜、エルトリアに居る奴なんかよりずっと強いよ! でも勝つけどね!」

出入り自由の結界らしく、すんなりと入れた。まぁ一番大事なのは戦闘による被害を外に出さないことだからね。そして私も結界内の戦場に足を踏み入れた。そこは結界外とは全く違う世界だった。

『ひどい・・・!』

イリスから怒りの感情が流れ込んで来る。至る所に火柱が立っていて、建物の幾つは完全に倒壊してる。それに「グォォォ!!」大気を震わせるような雄叫びが轟き、無事な建物の窓ガラスなどが何百・何千枚と破砕される、地面に亀裂が入る始末。

「シャルロッテ! わたしの代わりにコレ、みんなに渡して! わたしじゃどうしても遅れちゃうから!」

アリシアから差し出されたカートリッジとマガジンを「判った。アリシアはここで待ってて」と受け取り、『こちらシャルロッテ! 今より戦線に出るわ!』みんなに現着し、戦闘に参加することを伝える。

VS・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は財宝を集め護りし竜族の王スマウグ
・―・―・―・―・―・―・―・―・VS

――真紅の両翼(ルビーン・フリューゲル)――

背より魔力で創り出した一対の翼を展開させ、空へと上がる。レヴィも「よーし! 次こそ仕留めてやる!」そう言って飛び立った。目指すは翼を羽ばたかせて宙に君臨するスマウグ。アールヴヘイムで見た時、アイツの全身の鱗は黄金に覆われていたけど、今は見るも無残に本来の赤い鱗が目立つ。

「みんな・・・!」

スマウグの周囲には様々な色の魔力光が飛び交っている。桜色はなのは。茜色はアリサ。藤紫色はすずか。金色はフェイト。白色ははやて。蒼色はルシル。紫色はシグナム。赤色はヴィータ。藍白色はザフィーラ。紫色はディアーチェとユーリ。赤色はシュテル。黄色はフラム。翠色はアイル。薄紫色はアミタ。空色はキリエ。射撃、砲撃、スマウグへ接近しての近接攻撃が繰り返されるけど、奴は火炎のブレスで反撃を続けてる。直撃は・・・死だ。

『アリシアからカートリッジを預かったから、ドラウプニル組はカートリッジ組を援護してあげて!』

“ドラウプニル”組のすずか達はさらに苛烈な攻撃をスマウグへ加え始め、カートリッジ組は分散して、まずは「シャルロッテさん!」なのはと、「頂戴します!」シュテルが来た。さすがにみんな一斉には来ないよね。アリサ達は“ドラウプニル”組の援護を受けつつ、私の元へ近づいて来ながらも攻撃を続けてる。

「なのは、シュテル。スマウグはどんな感じ?」

2人の防護服や肌は若干だけど煤汚れてる。砲撃魔導師ということもあって遠距離戦を担当しているのに、それでもあれだけ汚れてる。

「強いよ。私たちみんなの全力全開を受けてもビクともしなかったし、ルシル君の儀式魔術を何度受けても全然堪えてないし・・・」

「今のところスマウグにダメージを与えることの出来たのはユーリだけですが、それ以降警戒されてしまっていて近付けない始末ですね」

私がここに来るまでの間に、なのは達がどんな戦術でスマウグと戦っていたのかを聴いた。

「そう・・・(やっぱりドラウプニルとカートリッジだけじゃ足りないんだ)」

『なのはとシュテル、カートリッジの補給完了!』

『了解だ。次は私とヴィータが補給させてもらいたい』

『あたしとシグナムのデバイスって装填数が少ねぇからな。しかも消費量も半端じゃねぇし』

『援護するでありますよ!』

なのはは魔力砲「ディバイン・・・バスターッ!」を、シュテルは火炎砲3連射の「ブラストファイアー!」を放ちつつ前線に再び加わった。それからシグナムやヴィータ、フェイトとフラムにもカートリッジを渡して・・・

「久しぶりね、スマウグ! これから私も参戦するから!」

「剣神か! よい、これで舞台は整ったわけだ!」

私も参戦する。右手に“断刀キルシュブリューテ”を、左手にデバイスの“キルシュブリューテ”を携え、神秘カートリッジをロード。

「双牙・・・烈閃刃!」

両手に携える“キルシュブリューテ”の刀身に閃光系魔力を纏わせ、それを剣状砲撃として放った。スマウグはブレスで迎撃。やっぱ神秘の差があり過ぎて簡単に迎撃されてしまった。とりあえず、『ルシル!』の元へ急ぐ。魔術師化にはルシルとのキスが必要なんだから。

『?・・・あ、そうか!』

ルシルはすぐに察してくれたけど、スマウグへの攻撃が忙しくて私のところにまで来てくれそうにない。やっぱりこちらから行くのが筋だよね。

「飛刃・八閃!」

スキルとしての絶対切断を付加した魔力刃を左右の“キルシュブリューテ”を振るって放ちつつルシルの元へ。そして「ん・・・!」キスを交わす。これで私は一時的に魔術師だ。

(なんかもう・・・ルシルとキスし過ぎてドキドキも何も無くなっちゃたな~)

そう嘆息しながらもすぐにルシルと別れ、「飛刃・八閃!」スマウグの意識を私に向けさせるために攻撃を再開。ユーリの存在を警戒して接近させないようにしているんなら、私も囮になるしかないんだから。

(さぁ、こっちに意識を割け!)

さっきなのはとシュテルから聴いた戦術は、ユーリを最大の攻撃手としてスマウグにダメージを与え、、ルシルがヴィーザル(確かルーンと魔力を馬鹿みたいに使う、ダメージ固定の魔術だったはず)を撃ち込んでスマウグを弱体化。他はその援護。なら私も援護に回るべきだ。

「本来の力を発揮できない魔造兵装(キルシュブリューテ)など見たくはないのだがな」

「だったら目を閉じたらどう!? その方が私たちは大助かりだけど!?」

――飛刃・八閃――

「そうはいかん。私の魔力を利用するなどという娘も居るからな・・・!」

私の攻撃をブレスで焼き払った後、スマウグはそう言った。そして直上から急降下して来たアミタとキリエ・・・の2人の背後に隠れてるユーリに気付いたようで、奴は首をもたげて口を大きく開けた。完全に殺す気満々。

――ゲシュウィンディヒカイト・アオフシュティーク――

「させない!」

――絶刃・斬舞一閃――

大きく翼を羽ばたかせて飛行速度を跳ね上げさせ、イリスが組み上げた魔術を私は発動。デバイスの“キルシュブリューテ”の刀身に、神秘が付加された絶対切断能力を有する魔力刃を纏わせる。飛刃のように飛ばせないけど、スキルとしての絶対切断に比べればいくらかマシになる。狙うのは、みんなも狙ってる目。

「せぇぇぇぇい!」

両手に持つ2つの“キルシュブリューテ”を逆手に持ち変え、スマウグの大きな右目へと突き入れ・・・られない。目を護るまぶたが閉じて、私の攻撃を完全防御した。

「先程、あの娘らにも言ったが狙いの着眼点は良い。しかし、私の神秘には届かなかった。それだけだ」

舌打ちをしていると『退いてちょうだい!』アリサから念話が来た。

「うりゃぁぁぁぁぁ!」「おおおおおおおおお!」

半物質化の魔力剣を完全な燃え滾る炎の剣になってる“フレイムアイズ”と“タラスクス”を、アリサとフラムはバッテンに掲げて2つの炎の剣を融合。そして・・・

「「プロミネンスキャノン!!」」

振り下ろした。2つの炎の剣は巨大な炎球となって私とスマウグの元に迫って来た。巻き込まれたりしたら私でも墜ちるほどの威力。急いでその場から離れた直後、ドォン!とスマウグの顔の側面に着弾して大爆発。奴の顔がアミタ達から明後日の方へ向いたけど、それより早く不完全とは言えブレスが吐かれたことで、アミタ達は接近を断念して回避行動に移った。

「其は大地の怒りを噴き出せし者。天に牙剥く破壊者を率い、噛み砕く牙に貫かれし者を、断ち斬る爪に穿たれし者を、天より墜とし地へと撒き散らす。しかしてその者らも破壊者と一となりて、共に天へ牙を剥くだろう!」

「彼方より来たれ、ヤドリギの枝!」

『銀月の槍となりて、撃ち貫け!』

「『ミストルティン!』」

女神の地憤(コード・フィヨルギュン)!」

そこに、石化効果を有する砲撃8発をはやてが放ち、それらはスマウグの右翼の根元に着弾。そしてルシルも儀式術式に必要な詠唱を終えると、スマウグの直下にある公園一面の土を利用した、間欠泉のように勢いよく噴き上がる8つの土石流を造り出し、はやてのミストルティンと同じ右翼に着弾させた。

凍結せし巨いなる聖剣(スパーダ・デ・ニエベミトロヒア)!」

永遠なる凍土を生ずる王剣(スパーダ・デ・フリオサタナス)!」

フィレスの発動した冷気の大剣と、セレスの放った冷気の剣状砲撃が、左翼の根元に直撃した。

「アイルちゃん、私たちも!」

「判っていますわ!」

――クーラーイロウション――

すずかとアイルは、スクライア姉妹のように指を絡めての――俗に言う恋人繋ぎをした手を前方に突き出して、展開した魔法陣から砲撃4発を発射。その砲撃も左翼の根元に着弾。すると「なに・・・!?」スマウグが墜落を始めた。右翼は石化、左翼は凍結。翼を羽ばたかせなくなったことで、奴は真っ逆さまに墜落したんだ。

「状態異常は通用する・・・?(ユーリとルシルのヴィーザルのおかげかな?)でもそれなら・・・!」

勝てるかもしれない。それから私たちはデカイ後ろ脚で着地したスマウグへと攻撃を加え続け、アイツもブレスや業火弾で迎撃してくる。被弾は即死。回避を最優先に攻撃を続けるんだけど、「そろそろ飽いてきたな。どれ、これはどうだ」そんな中でスマウグは初めて見せる、熱エネルギーによる光線を吐いて・・・結界魔導師として優秀すぎるセラティナとユーノを含めたメンバーが作った多重結界を撃ち抜いた。

「うそ・・・!」

「まずい、結界が・・・!」

大穴が開いた部分からヒビが拡散して行って、ボロボロと崩れ始めていく。

「はっはっは! 結界とやらは、私とお前たちの戦闘による被害を漏らさないためのものだろう? それが砕けた今、私の炎は一体どれだけの人間の魂を焼くのだろうな!」

スマウグが攻撃体勢に入る。外には対神秘の力が無い局員たちが居る。ううん、たとえ有っても防げないほどの火炎なんだ。そんなものを結界の外に吐かせるわけにはいかない。私は紅翼を羽ばたかせ、スマウグの真正面を目指す。だけど「やめろぉぉぉ!!」スマウグは圧縮された業火弾を吐き出した。向かうは結界の穴。アレを通り抜け、どこかに着弾したら・・・大勢の人が焼き殺される。

「させません!」

「ここで行き止まりだ!」

――アキレウスシールド――

――女神の護盾(コード・リン)――

ユーリとルシルが業火弾に立ちはだかって、紫色に輝くミッドとベルカ両方の二重シールドと、女性が祈る姿の模様が描かれたサファイアブルーに輝くシールドが展開、そして業火弾が着弾。とんでもない爆発が発生して、目の前が真っ赤な炎いっぱいになる。

――真楯(ハイリヒ・フライハイト)――

フライハイト家の紋章であるFの両側に2頭の翼竜が描かれた、私の最強の防性術式を発動。遅れて爆炎が到達して「ぐぅぅ・・・!」その衝撃に意識が飛びそうになる。こんなバカみたいな神秘と火力、至近距離で貰ったユーリとルシルが心配過ぎる。必死に治まるのを耐えて・・・ようやく「はぁはぁはぁ・・・!」治まった。

『安否確認!』

黒煙で視界が潰されちゃってる。とにかく全員に念話を送ると、『大丈夫です!』なのは達から無事を知らせる念話が返って来た。だけど・・・

『ルシル君!? ルシル君!』

『ユーリ! 返事をせんか、ユーリ!』

はやてとディアーチェが大声で返事をくれない2人の名前を呼ぶ。私も、みんなも、『ルシル、ユーリ!』2人の名前を呼ぶ。そんな中で「くっ・・・!」とんでもない突風が起こって、視界を潰していた黒煙が吹き飛んだ。

「ほうほう。人間がごろごろしているな。さぁ、神器王! これで最後だ! 貴様の持つ神器を全て渡せい! さもなければ、ここに居る人間どもを焼き払うぞ!」

石化と凍結が解除された翼を羽ばたかせていたスマウグが視界に入る。それに結界がすべて破壊されてしまったことで、武装隊や執務官たちは巨大な竜の姿に大騒ぎ。そんな中で私はクロノ達の安否を確認するべく周囲を見渡して、「ルシル! ユーリ!」の姿が確認できた。横たえられた2人はシャマルの元で治癒魔法を受けていた。それであの2人が撃墜されたんだと判った。

「最悪すぎ・・・!」

対スマウグ戦で一番必要な戦力が墜ちてしまった。ディアーチェが「このトカゲ如きが!」とブチギレて、アミタ達は武装隊員たちから神秘の無い魔法を受けては笑うスマウグを睨みつけた。なのは達もキッと睨みつけると、「よい怒りの目だ。止めて見せよ、我が歩みを」スマウグがルシル達の元に向かって歩き出した。

「ルシル君たちの方へは行かせへんよ!」

「これ以上、我らが盟主に指一本とて触れて見よ! 必ずその首を刎ね飛ばしてくれる!」

『ユーリです! 戦線に復帰します!』

再びなのは達、復活を果たしたユーリの総攻撃が始まる。だけど結界が無いから、流れ弾の威力によってはとんでもない被害が出るかもしれない。だからと言って「放置するわけにもいかないっしょ!」私も攻撃に参加しようとした時、『シャル・・・』私の名前を呼ぶ声が。

『ルシル・・・!』

『あー、くそ。・・・もうこの手段しか無い。俺の魔力を使って・・・創世結界を開け。このままだと、本局や人命が危うい。頼む』

『・・・そうなると、あなたは戦線離脱ということになるけど・・・』

『なんとかする・・・! 好きなだけ持って行ってくれ・・・!』

ルシルの言葉に強い意志を感じ取ったからこそ『解った。詠唱、一緒にお願い』承諾した。ルシルの魔力を引き出す。これでまたルシルは記憶を失う。それはつまりルシルの戦力を削ることと同意。ガーデンベルグを斃すまで保つかどうか判らない恐怖が襲って来る。でも・・・。ルシルがそれでも良いって言うのなら・・・。

「『其処は剣戟の極致に至りし者の君臨する世。風が鳴き、桜は舞い、陽の明かり、地を満たす。月が輝き、星は流れ、夜の蒼闇、空を満たす。いざ開かれよ、剣神の座する天城と俗世を隔てる聖門。流転する運命・織紡がれる絆に祝福された王の名の下に彼我を招き、その偉容を示せ・・・!』」

――剣神の星天城(ヘルシャー・シュロス)――

“断刀キルシュブリューテ”を縦一閃に振り降ろして現実世界の空間に切れ目を作り、そこに創世結界の術式を割り込ませる。現実世界に開いた切れ目を基点に、創世結界が現実世界を侵すように爆発的に広がる。切れ目から桜の花びらが無数に吹き出し、周囲一帯を桜色一色に塗り替え、そして・・・

「な、なんですかコレは!?」

「わ、わーお・・・」

「世界が変わっただと・・・!?」

「桜・・・」

「おお、すごい、すごい!」

「なんて美しい景色なのかしら・・・」

「こ、これも魔法なのでありますか!?」

「す、すごいですー!」

そこは桜の花びらが舞う私だけの世界。雲1つとしてない蒼天。周囲には城や塔といった建造物群。そして私たちの居るところはコロシアム。創世結界内での戦闘を行うためだけの施設だ。当たり前だけど、創世結界を知らないエルトリア組が驚きを見せた。

――其は生命の源なる母の片割れたる大地の化身――

「行くよ!」

――フォイアロートフェーニクス――

“キルシュブリューテ”のカートリッジを全弾ロードした後で待機モードの指環に戻し、“断刀キルシュブリューテ”の柄を両手で握り直し、「完全解放・・・!」神器としての本来の能力を発動。そして紅翼を散らし、ルシルの空戦形態と同じ薄く細長いひし形の魔力翼を8枚と展開。戦力外のルシルやクロノ達と一緒に武装隊などの連中は結界の外に弾き出したし、これで派手に暴れても問題ない。

「創世結界か! 神器王ならまだしも剣神が使えるとは知らなかったぞ!」

「作戦は同じ! ユーリ、いける!」

「あ、はい! ルシリオンが私を庇ってくれたのでダメージは最小限で済み、湖の騎士のおかげで、体も魔力も万全です!」

同様に驚きを見せたスマウグが翼を羽ばたかせて空に飛び上がって、ブレスを吐き出した。私たちはその効果範囲から離脱して、私は早速「真技!」具現した鞘に“キルシュブリューテ”を納めて、居合抜きの構えを取る。

――汝は大地と火を、粗大なるものと精妙なるものを、静かに巧みに分離すべし――

「飛刃・翔舞十閃!」

そして抜き放ち、スキルとは比べものにならない本来の絶対切断能力が付加された斬撃がスマウグを襲う。アイツはブレスによる迎撃をしつつ回避した。

「もうちょいや、王さま!」

「貴様と共闘するなど思いもしなかったが。フンッ。存外に楽しめたぞ子鴉!!」

――フローレンベルク――

「王さまがデレてくれた~!」

「ええい! 今はとにかくユーリをあのトカゲの元まで連れて行くのに集中せんか!」

はやてとディアーチェはお互いの腰に腕を回しての密着状態で、そして2人の魔力を合成した特大砲撃を撃ちながら口喧嘩のようなことを始めた。仲が良いんだか悪いんだか。

「なのは。あなたやチーム海鳴との共闘、大変心が躍りました」

「私も! これが私の一番望む、シュテルとの関係なんだよ!」

――ヒュペリオンゲイザー――

なのはの放つ桜色に輝くエクセリオンバスターに、シュテルの放つ3連火炎砲ブラストフィアーが寄り添うように螺旋を描く。スマウグは空を翔け回りながらブレスや業火弾を吐き、私たちの接近を拒み続ける。

――其は大地より天に昇り、たちまち降りて、優と劣の力を取り集む――

「こうなったら・・・! ヴェスパーレッドモード!」

ユーリの色彩が変化する。確かあの子の核である永遠結晶エグザミアの出力を上げたらああなるって話だっけ。人格も戦闘向きになる、完全な戦闘形態。でもユーリは「行きますよー!」普段と変わらない口調だった。

――アルゴス・ハンドレッドファイア――

大きく広げた魄翼の翼の表面から特大の火炎砲撃を100発と発射。スマウグも負けじとブレスを吐くけど、ユーリの機動力をグンと上がっていることもあって効果範囲外に簡単に出ていける。その代わり・・・

「いや~ん!」

「あっつ、あっついです!」

――アクセラレイター――

キリエとアミタが若干巻き込まれちゃってるけど。ユーリも「ごめんなさい!」謝りつつも「ヘカトンケイルフィスト!」魄翼から、怪物のような巨大な前腕部のみを造り出し、それを射出。ソレらがガツンガツンと音を立ててスマウグに着弾して行く。

――其は万物のうちで最強のものなり――

「墜ちろぉぉぉぉーーーーーーッ!」

『ギガント・フリーレンシュラァァァァーーーーーク!!』

「レヴァンティンを剣として使えんのは少々窮屈だな・・・!」

――シュツルムファルケン――

ヴィータの一撃が右翼に打ち込まれたことでスマウグが「おのれ!」ガクッと体勢を崩し、シグナムが2射連発した矢は左翼に着弾して爆発を起こした。翼は撃ち抜けなかったけど、爆発による影響で一時的に翼の羽ばたきが止まった。

「飛刃・翔舞十閃!!」

そこに私も真技を撃ち込む。迎撃も回避も出来ない以上は「むっ・・・!」スマウグはまともに受ける。けど「やっぱ致命には至らないか・・・!」背中に着弾した十閃は、鱗に10個の太刀傷を付けたけど出血はない。鱗がどうしても撃ち抜けない。やっぱ腹に撃ち込まないとダメか~。

――すべての精妙なものに勝ち、あらゆる物体に滲透するが故に――

「足掻かずに墜ちろ!!」

――破城の戦杭――

墜落寸前のスマウグの背中にザフィーラの対結界魔法である巨大な杭が打ち込まれたことで、アイツは「ぐぅ・・・!」コロシアムの観客席に墜落した。

(魔力攻撃じゃなくて打撃の衝撃で体勢を崩し、その間にユーリの魔法を仕掛ける。これが一番か!)

「捉えましたよ、スマウグ!」

ユーリがスマウグの背中に着地した。そしてユーリは背中に両腕を突き入れ、「エンシェント・・・!」スマウグの魔力を利用した大剣を引き抜いた。アレが撃ち込まれれば、さらに私たちの勝率が上がる。スマウグもそれを解っているからこそ「おのれぇぇぇぇ!」怒声を上げた。いける。そう思ったけど・・・

「え・・・?」

うつ伏せのままのスマウグの全身が真っ赤に発光し始めた。私は“キルシュブリューテ”をまた鞘に戻し、『逃げてユーリ! みんなも距離を取って!』念話をユーリ達に送る。送るまでもなく、みんなは本能的にスマウグから距離を取り始めていたけど。そして・・・

「これぞ我、黄金竜スマウグが炎ぉぉぉぉーーーーーーッ!!!!」

――かく、世界は創造せられたり。かくの如きが、示されし驚異の変容の源なり――

――女神の土濤(コード・ヨルズ)――

スマウグの全身から全てを焼き尽くすほどの業火の砲撃が全方位に放たれ、それと同時にアイツを覆い隠すように全周囲から土石の津波が発生。アレ、ルシルの誇る土石系最強の大魔術だ。私の創世結界のために魔力枯渇状態だって言うのに、苦手な土石系、しかもその土石系最強の魔術を発動、さらには創世結界外から遠隔発動なんて・・・正気の沙汰じゃない。でも、そのおかげで・・・

「って! 防ぎきれてないよ!!」

全高90m、厚さ10mっていうサイズを誇る12重の土石の津波を、スマウグの砲撃が貫通して行く。ユーリは津波のおかげで砲撃の直撃は免れたけど「砲撃が止まないです!」大剣を放つ隙を与えられてない。
あの砲撃は全盛期の私やルシルでも防げるレベルじゃないし、「飛刃・一閃!」絶対切断の能力を1つの刃に集束させての1発も「ああんもう、ダメ!!」だった。さすがの王クラス。砲撃はなんとか裂けても本体であるスマウグの熱の装甲に防がれた。

『シャルロッテさん! 結界が!』

すずかからの念話にハッとして空を見る。私の創世結界が大きくヒビ割れ始めていた。さらに『スマウグが燃えだしたぞ!』レヴィからの知らせ通り、スマウグが炎の塊になった。やっぱり私たち人間じゃ・・・

「勝てないの・・・?」

歯噛みした直後、スマウグが爆発した。目の前が炎一色になった。

†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††

ユーリに引っ付けたサーチャーの魔術であるイシュリエルから見ていた創世結界内での戦闘。スマウグは奥の手とでも言うように全身を覆う火炎を爆発させた。

「うそ・・・!」

シャマルが声を震わせる。シャルの創世結界が、強大な火炎によって強制的に解除されてしまい、俺たちの目の前に「オオオオオオオオッ!!」雄叫びを上げるスマウグが現れた。

「フェイト、アリシア!」

「はやてちゃん、みんな!」

「こんな馬鹿なことが・・・!」

アルフ、シャマル、クロノが「う・・・ぅ・・」呻き声を微かに上げて倒れ込んでいるはやて達の名を呼んだ。俺に肩を貸してくれているクロノが「やはり勝てないのか・・・!」悔しげに呻いた。武装隊の連中も「ひっ・・・!」さすがに怯えを見せている。

「クロノ、離してくれ。俺が行く・・・」

「馬鹿を言うな! 先程から吐血も治まらず、何度も記憶を失っているんだろう!? 無茶にも程があるぞ!」

土石系の最強ヨルズと第2位のフィヨルギュン、創世結界展開のための魔力消費で、今の俺の体は中も外もボロボロだ。まともに戦えないどころか自力で歩くことも出来ないが、「あの子たちを逃がすことくらいは出来る・・・!」はずだ。

「しかし・・・!」

「奴の狙いは俺の創世結界に眠る神器やロストロギアの複製品だ。殺されはしない。だが、はやて達は違う。俺を屈服させるために、スマウグは平気ではやて達を殺す。それだけは・・・!」

させてなるものか。クロノもそれが解っているからこそ「僕も囮くらいにはなるだろう」そう言って、氷結の杖“デュランダル“を持ち直した。

「私もよ!」

「あたしもさ!」

「私も!」

「私だってもちろん!」

シャマル、アルフ、セラティナ、クララも、スマウグを睨みつける。俺は「アンピエル!」剣翼12枚を展開して、それをはやてたち人数分の羽根へと分散。さらに「エイル!」上級治癒術式を発動、羽根に効果付加させる。はやて達へと羽根を飛ばし、そして触れさせて回復させる。意識が戻れば、自力で撤退させることも出来る。

「シャマル達ははやて達の回収ができ次第、即離脱! ・・・すぅぅ・・・、スマウグぅぅぅーーーー!」

スマウグの意識を俺に向けさせるために大声を上げ、俺は“エヴェストルム”を起動させ、杖代わりにしてよろよろと奴の元へ歩き出す。

「ん? おお、そこか、神器王。では改めて最後通告だ」

「・・・・判った。その代わり・・・!」

「この娘たちに、これ以上の危害を加えないと約束しよう」

「他の人たちにもだ」

「貴様が私の願いを叶えさえすれば、必ずや約束を果たそう。私は殺戮を好まない。私はひたすらに財が欲しいのだ。命ではない。しかも、私に奥の手を使わせるほどの英雄だ。意識を失っている間に殺すほど、私はクズではない」

スマウグにはスマウグの矜持がある。それが俺たちにとって最大の助かりだ。だが「待ってくれ、スマウグ。俺は今、神器を収めている創世結界が使えないんだ」この事実を伝えた時、奴はどう動くかが不安だ。

「ほう?」

「創世結界のアクセス権が、ある呪いによって失われている。だからすぐには渡せない。しかし必ず――」

「・・・私は永遠に近い年数を生きる。数分、数時間、数日、数年、数十年。その程度の年数は私にとっては刹那に過ぎない。だがな、宝を目の前にしてお預けを受けている今、その体感時間は数千年となるのだ!」

スマウグがはやて達に口先を向けた。口の隙間から漏れ出す炎。

「や、やめ、やめろ・・・やめてくれ・・・やめろぉぉぉぉぉーーーーーーーッ!!」

涙で視界が滲む。こんなことで、こんな形で、はやてを、彼女たちを失うわけにはいかない。いかないんだ。はやて達の元へと何度も転びながらも駆け、「我が手に携えしは確かなる幻想!!」詠唱。しかし、創世結界は応じてくれない。そして・・・「恨むなら神器王を恨め、幼き英雄たちよ」スマウグの口から火炎のブレスが放たれた。

「ちくしょぉぉぉぉぉーーーーーーッ!!」


――我が氷雪に炎熱に届かない(ニパス・プロクス)――


はやて達へと迫っていたブレスだったが、「何をやっているのですか?」そんな聞き憶えのある声と共に猛吹雪の幕が発生し、ブレスを完璧に防いだ。ゾワッと全身に悪寒が走る。近付いて来る。アイツが、俺たちの元へ。俺は声のした方へと振り向き、声の主を視認した。

「リアンシェルト・・・!」

“堕天使エグリゴリ”の1機、局の制服を身に纏ったリアンシェルトがコツコツと靴音を鳴らして、こちらに向かって来ていた。アイツの正体や魔術などを知らない武装隊・執務官連中は手放しで「おおおお!」リアンシェルトの登場に歓声を上げ始めるが、気を失ったのか突然バタバタと倒れ始めた。それにセラティナやクララまでもが倒れてしまった。

「なっ・・・!?」

「おい、何をしている・・・!?」

「これから私が見せる魔術で騒がれては面倒なので、気を失ってもらっているだけですよ」

――私の両手は、大切な存在(ひと)達の血に塗れて――

「「「魔術・・・!?」」」

はやて達の元へ向かっていたクロノとユーノとアルフが、リアンシェルトの口から魔術という単語を聞いたことで驚きを見せた。シャマルはアイツの正体を知っているため、敵意丸出しで睨みつけている。

「リアンシェルト総部長・・・なんで・・・?」

「逃げて・・・ください・・・」

「この竜・・・普通じゃない・・・です」

「いくらトップエースでも・・・勝てないです・・よ・・・」

――かつて抱いた想いは今、私の存在を大きく軋ませる――

さらに俺のエイルのおかげか意識を取り戻したはやて達も、今この場に姿を現したリアンシェルトを不思議がっている。スマウグへの攻撃には神秘が必要。そこに、次元世界最強と謳われる氷結魔導師であっても神秘の扱えないリアンシェルトが現れても意味はない、と。彼女たちの目がそう言っている。だがアイツは、今の俺とは比べようもないほどの神秘を有しているんだ。スマウグの近くに居る所為か気付いていないようだが・・・。

「やはりあなたの魔術の影響を強く受けている彼女たちは、そう容易くは眠りに着かなかったのですね」

――この身には、もう貴方への想いはあってはいけない――

アミタ達はクララ達のように意識を失っているままだ。しかし、はやて達は意識を取り戻した状態のまま。リアンシェルトの言う通りなんだろう。

「なんだ、この娘は? 私のブレスを、よもや氷雪系の魔術で防ぐなど・・・」

「・・・。少々はしゃぎ過ぎたようですね、黄金竜スマウグ。これ以上、私の居場所を壊すような真似を控えて頂きたい。それゆえにこのまま去りなさい。それが聴けないと言うのであれば、ここからは私が相手をします」

――そんな私に許されるのは、その存在(ひと)達を傷つけた罪に苛まれ、己を罰する時間のみ――

「ふん。多少はやるようだが、氷雪系の使い手なんぞに私は負けんぞ。我が名はスマウグ! 魔界最下層にて、王の一角に数えられし火炎竜なのだからな!」

「どうしても去らないと?」

「愚問。私は神器王の有する神器が欲しいのだ。これ以上のお預けの時間など、我慢できない!」

――あれから幾星霜。己を許せずにいられない私は、苦しさから逃れたくて心が凍てつくことを願う――

「そうですか。ならば、仕方ありませんね」

リアンシェルトがスノーホワイトの魔力光に覆われた後、魔術で言う戦闘甲冑、魔法で言えば防護服の姿へと変身した。レースの付いた純白のハイネックのロングワンピース。胸元にはサファイアのブローチ。その上から青のクロークを羽織っている。当時から変わらないデザインだ。

――だけど懸命に消し失わせようとした想いへの未練に泣き、いつか貴方の手で滅ぼされる日を待ち望み続けながら涙する――

高貴なる堕天翼(エラトマ・エギエネス)

リアンシェルトの背よりクジャクの尾羽のような翼が20枚と放射状に展開された。それを見たはやて達は「そんな・・・!」と絶句。クロノが「エグリゴリ・・・!?」と膝を折った。

「そうだ・・・。セインテストの悲願。エグリゴリの救済。そのターゲットの1人が、リアンシェルト・キオン・ヴァスィリーサなんだよ」

アイツはとうとうその正体をはやて達にも見せた。とは言え、管理局の幹部である以上、見せたとしてもいろいろと手を回すことも出来るだろうが。

「神器王。こんな大きいだけの火トカゲ相手になんてザマですか。この程度の魔族も斃せないのであるなら、・・・この私には到底勝てませんよ」

――この庭園に咲き誇る薔薇と共に散り逝くその時を、いつか必ず迎えられますように――

「真技・・・」

リアンシェルトの魔力と神秘が膨れ上がり、「なんだ、この娘は!!」スマウグもとうとう困惑し始めた。

極寒薔薇園(ロドン・パラディソス)

術式名を告げたリアンシェルトの足元から猛吹雪が発生し、俺たちの視界を真っ白に覆った。次に視界が開けた時、そこは現実とはかけ離れた異世界へと変わっていた。真っ白な満月が浮かぶ夜天。そして地平線の彼方まで続く、無限とも言える数の氷の薔薇の園。雲は無いがさんさんと雪が降っている。

「・・・っ! はやて達は・・・!? 居ない・・・? 結界の外か・・・!」

リアンシェルトの真技である創世結界・極寒薔薇園の中に居るのは俺、リアンシェルト、スマウグのみ。俺にとっては嬉しいことだ。アイツの氷雪系魔術に巻き込まれる危険が無いのだから。リアンシェルトが足元に咲く氷の薔薇を一輪摘み取り、「では、終わりにしましょうか」そう言ってキスをした。直後・・・

――氷刃舞う砕嵐(テュエッラ・クスィフォス)――

「む!?」

スマウグの周囲に咲き乱れる何百という薔薇が一斉に散り、何千という花弁となって奴を覆う竜巻と化した。竜巻の色が徐々に赤く染まっていく。スマウグの鱗を突破し、尚且つ肉を裂いている証拠だ。だが、スマウグとて大人しく負けてはいない。竜巻の内側から光線が突破して来た。

「火炎の竜たる私を・・・氷雪で討とうなどと・・・なんたる屈辱かぁぁぁぁーーーーッ!!」

「うるさい。神器王を討つのは私たちエグリゴリです。それを、火トカゲ如きが横から掻っ攫おうなどと・・・!」

――炎熱を奪取せし雪風(ピュレトス・エピクラテーシス)――

「恥を知れ!」

怒りの形相となったリアンシェルトが手に持つ一輪の薔薇をスマウグへとスッと向けると、さらに散った別の薔薇が渦となって、血だらけになっているスマウグへ向かって行く。スマウグは血が滴る口を開け、「燃やし尽くしてくれる!」と業火弾での迎撃をしたが、業火弾は一瞬にして凍結されてしまい、薔薇の渦と共に空中で砕け散った。神秘で完全に負けてしまっている証拠だ。

「右翼、頂きました」

「なんだと!?」

スマウグの意識が薔薇の渦に向いている中、奴の後方からも同様の渦が迫って右翼に着弾。すずかやアイル、そしてフィレスとセレスの魔法や魔術を受けてもビクともしなかったスマウグの右翼全体が一瞬にして凍りつき、「ぐごぉぉぉぉぉ!?」ガシャァンと砕け散った。右翼を根元から失ったスマウグはそのまま墜落を始めた。

「今度はその熱き命と魂を・・・貰い受けます」

――天魔万象を凍てつかせる氷華(コーリスモス・アントス)――

スマウグの墜落するその先に咲き乱れる無数の薔薇が一斉に散ると渦を巻き、奴以上の巨大さを誇る花が大きく咲いた。そしてスマウグはそのまま花の中心へと墜落し、「おのれ、おのれ、おのれぇぇぇぇ!」全身や翼がズタズタに切り裂かれては傷口から凍結が始まる。さらには花弁が閉じ始め、スマウグを閉じ込めようとする。

「こんなに・・・あっさりと・・・」

俺たちがどれだけ頑張って攻撃を加えてもどうにもならなかったスマウグが「馬鹿な、あり得ない、こんなことが、何故だ、な――」リアンシェルト1機の力によって・・・負けた。氷の花弁に覆い尽くされたスマウグからはもう二度と声は上がらなかった。

「火は氷に強い。そんなセオリーなど、私の前には無意味です」

持っていた一輪の薔薇をスマウグを閉じ込めた巨大な花へと放り投げるリアンシェルト。薔薇が花に当たると砕け散り、続けて花も大きな音を立てて砕け散った。そして中から氷漬けになっているスマウグが現れた。

「良いことを教えてあげます、神器王。今となっては私が、ガーデンベルグをも超える最強のエグリゴリなんです」

「っ!!」

「良かったですね。私に勝てるレベルにまで成長し、そして私を討ったその時こそ、ガーデンベルグに確実に勝てるんです」

リアンシェルトはそう言って俺の顔を見た。ガーデンベルグ以上の強さだって? 冗談はやめてくれ。そう思う反面、良かったという思いもあった。リアンシェルトの言うように、アイツにさえ勝てば俺はガーデンベルグにも勝て、元に戻れるのだから。まぁそれが事実であれば、だが。

「では帰りましょうか。あぁ、そうでした。この後、権威の円卓会議がありますので、ガアプ一佐と共に参加しください。サボりはダメですよ? ルシリオン特別捜査官」

最下層魔族、その中でもトップクラスであった黄金竜スマウグすらも容易く殺せる創世結界が解除されていく。そして完全に解除されたことで、俺たちは現実世界である本局・居住区へと帰って来た。

「ルシル君!」

「ルシル!」

「無事で良かったよ~!」

俺の名前を呼ぶのは「はやて、シャル!」だった。ヴィータとユニゾンを解いたアイリが飛んで来て、頬擦りをしてくる。アミタ達やセラティナ、クララ、武装隊や執務官連中も無事に目を覚ましており、「スマウグが・・・」俺の背後で氷漬けとなり、そしてバラバラに崩れていくスマウグの姿に呆けた。

「医務局に連絡しました。そちらの民間協力者の皆さんも手当てを受けていってください。それと、チーム海鳴には3日間の臨時休暇を与えます。私から各部署に通達しておきますから、今日の疲れをゆっくり癒してください」

そしてはやて達は、リアンシェルトに声を掛けられたことでビクッと肩を震わし、デバイスをギュッと握りしめた。その表情にあるのは困惑と悲しみ。また知り合いだった者が“エグリゴリ”だったことによるものだろう。

「安心してください。私があなた達に手を出すことは永遠にないのだから」

そう言ってこの場から立ち去るリアンシェルトの背中を、俺たちは無言で見送った。
 
 

 
後書き
ブーナ・ディミニャーツァ。ブナ・ズィウア。ブーナ・セアラ
エピソードⅢにおけるラスボス・黄金竜スマウグ戦、これにて終了です。結局ルシル達は勝つ事が出来ず、スマウグ以上の魔力と神秘を有するまでスペックが上がったリアンシェルトが圧勝。ルシルはいつか対峙する時が来ますが、さぁ勝てるのでしょうかね(笑
次回は、フローリアン家との別れ。その次が最終話の卒業式です。番外編を抜きにすれば、ギリギリ3月で完結させられそうです。
 
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