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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico44縁を大切にすれば幸が巡る

 
前書き
縁を大切にすれば幸が巡る/意:人との関わりを大切にしておくと、多くの嬉しいことや楽しいことが必ず巡ってくる、という例え。

※修正はまた後日。いってきま~す! 

 
†††Sideルシリオン†††

「――いやいや、だからそんなに謝らなくても良いって」

『でも・・・』

俺が権威の円卓からの命令で配属させられている部署である本局内務調査部・査察課オフィスで、チーム海鳴のなのは達と通信している。人数分のモニターに映るなのは達は、俺の誕生日を一緒に祝うバースデーパーティに今年は参加できないからと、申し訳なさそうに謝るわけだ。

『あたし達の誕生日の時はちゃんとパーティ開いて一緒に祝ってくれたのに・・・』

『それなのにルシル君の誕生日だけを参加できないってなると・・・』

『心苦しいというか・・・』

『うん・・・。本当にごめんね』

アリサとすずかとフェイトとアリシアもまたずーんと沈み込んでいる。そこまで俺の誕生日のことを大事に思ってくれているのはすごく嬉しい。嬉しいけど少し重い。男は女の子ほどバースデーパーティに固執はしない・・・と思う。だから「本当に気にしないで良いから」こっちがそこまで悩ませてすまないと謝りたいくらいだ。

「それにさ。これから本格的に目的の役職に就いたりして管理局務めがさらに忙しくなると、普通に集まるのも難しくなるだろうから、今回のはその予行練習みたいなものさ」

とは言っても、小学生の間は基本的に休みが合うように調整される・・・はずなんだが、今回だけはかみ合わなかったようだ。これは本当に運が悪かったということだ。笑顔を浮かべてそう言ってみるんだが、なのは達の表情は一向に晴れることはない。

「だったらさ。また空いた日にお祝いしてくれ。別に当日しか祝ってはいけないなんてルールなんてないしさ」

『・・・うん。それしかない、みたいだね』

『そうね。それじゃまた』

『後日にお祝いしに行くね』

『今日はありがとう。そう言ってくれて良かったよ』

『ルシル、誕生日プレゼント、楽しみに待っててね♪』

「ああ。楽しみ待っているよ」

なのは達が振ってくれる手に俺も手を振り返しながら通信を切り、モニターを閉じる。とそこに「モテモテで羨ましいね、ルシル君」査察官としての先輩であり、嬉しくもない恋のライバル認定をしてくれた、ヴェロッサ・アコースが俺に声を掛けてきた。

「どうもお疲れ様です、ヴェロッサ」

「うん、お疲れ様。いやぁ、羨ましいね~」

俺の両肩に手を置いて同じことを2度も言った。先の次元世界ではありえない程のウザさ。ヴェロッサはイリスに恋をしている。お似合い・・・とまでは言わないが、応援はしたい。いつまでも俺に無駄な時間を割かせるよりはマシだ。だが、恋敵として見られていつも張り合ってくるのは正直勘弁してもらいたい。

「今日は誕生日だそうだね。おめでとう。それで、イリスはどうなのかな?」

「彼女は一応は同課員なので祝ってくれるとは思いますけど・・・」

「へぇ~、そうなんだ。幸せそうで何よりだよ」

ギュッと俺の肩を掴む手の力が強まる。俺は「まぁ嬉しいことは嬉しいですけどね」そう返しつつ俺に与えられたデスクの椅子から立ち上がってヴェロッサの手から逃れる。そしてビシッと敬礼をして・・・

「本日の査察課での仕事はこれにて終了ですので、お先に失礼します! 先輩方、お疲れ様でした!」

「あっ、まだ僕の話は終わっていないよルシル君!」

査察課の先輩たちの「お疲れ様~!」労いの言葉を背中に受けながら逃げるようにオフィスから出る。向かうは特別技能捜査課のオフィス。八神家全員が配属されている部署だ。今日は1日デスクワークという予定だから、はやて達もオフィスに居るはずだ。

(アイリは今日もガアプ課長に怒られているかな?)

この数百年の間にシュヴァリエルによほど鍛えられたのかサポート役である融合騎らしからぬAAAランクの魔導師・魔力ランクを取得し、なおかつ頭の出来も悪くはない。それでも若干のめんどくさがり気質が書類作成ミスを誘っている。

「おっと。まずは昼食か」

いつもは家族で摂るんだが(日によってはなのは達も一緒だ)、今日は生憎と俺は査察課での仕事だったため、昼食ははやて達に先に済ませておくように言っておいた。だからまずは昼食だな。オフィス区画から一般人も出入り自由な生活区画へ向かう。
本局はその巨大さゆえに管理局員やその関係者の家族のみならず普通の一般人も多く住んでいる。仕事の話も聞こえてこないため、仕事に疲れたら憩いの場の公園などで時間を潰すと結構リフレッシュ出来たりする。先の次元世界での俺はそうだった。

「あ、ルシル!」

レストラン街を歩いていると背後から声を掛けられた。その声の主は確認するまでもなく知っているから「よう。ユーノ」振り向きざまに名前を呼ぶ。そこには俺の数少ない男友達(言ってて悲しくなる)のユーノが居た。

「ちょうど良かった! 行き違いとかにならなくて!」

「ということは偶然じゃなくて俺に用事があったのか?」

「そうだよ。お昼と摂ってから査察課や特捜課に行こうと思っていたんだけど。良かったよ、ここで逢えて」

「連絡をくれたら無限書庫に行ったのに」

「それだと意味ないからさ」

ユーノは脇に挟んでいた包みを「はい。僕からのプレゼント」俺に手渡してくれた。大きさと重さから言ってA5判のハードカバーかと思われる。

「ルシルって読書家でしょ? 絶版になってたレア本を見つけたから、プレゼントにはちょうど良いかなって思ったんだ」

「開けてもいいか?」

「もちろん!」

通行の邪魔にならないように近くの噴水公園に寄って、そこに有ったベンチにユーノと並んで座る。包みを丁寧に開けて紙袋より1冊の書物を取り出した。かなり古い物で、紙独自の香りがした。カバーに記されたタイトル、英雄になったバンディクーを一度は見たか、読んだか、と脳内検索。俺は読んだ本のタイトルは忘れない。時折、内容は忘れるが。そして検索の結果・・・

「(未読本だ!)ありがとう、ユーノ! 読んだことのない本だ!」

これまでの読んだことのない本だったことが判明。俺はジャンル、面白いつまらないを問わず本が好きだ、大好きだ、愛している。だからタイトルがB級臭がしようとも全然構わないのだ。

「そうだ、ルシル。時間はある?」

「ん? ああ、あるけど・・・」

本を紙袋の中に戻しながらそう答えると、「お昼は奢るよ。はやて達はどう?」ユーノがそう言いながらはやて達の姿を捜すように周りを見た。

「いや、今日の昼は俺だけなんだよ」

「そっか。じゃあ僕たけになるね」

「ゴチになります」

ユーノの心遣いを無下に出来ないためお言葉に甘えさせてもらうことにした。そうして互いに近況報告をしながらレストランで遅めの昼食を摂る。

「――それでユーノ。なのはとはちゃんと逢っているか?」

食後のティーブレイクにそう訊ねてみると「ぶふっ!」ユーノがコーヒーを噴き出しかけた。そして咽ながら「急に何を・・・!」若干睨みが効いたジト目を俺に向けてきた。俺は「親友の恋路はほら、応援したいだろ」そんなことを言ってみた。先の次元世界は結局、俺とフェイト、クロノとエイミィだけだったから。その後はどうなったのか判らないが、なのはとユーノは絶対に上手く行くと思うんだよ。

「男2人で恋話ってどうかと思うんだけど・・・」

「で? なのはとは逢ってるのか?」

「少しは話を聴こう!?・・・・なのはとは時間に余裕があったら逢ってるよ」

「なんだ、結局話してくれるのか」

「なんだよ! 話さないといけない感じだったから話そうと思ったのに!」

からかい過ぎた。プンプン怒っているユーノに「ごめん、ごめん。それで逢ってるって話だけど」謝りつつも話の先を促した。

「なのはが無限書庫にまで逢いに来てくれるからね。お互いに時間がある時はご飯も食べたりもしてる」

「ほうほう。やることはやっているんだな」

「でもそれだけなんだよね、やっぱり」

大きく溜息を吐くユーノ。今回の次元世界のユーノは先に比べて割と積極的か。先では想いはあるけど気付かれないならそれはしょうがない、みたいな感じだったからな。

「ま、俺が言えることは、ゆっくり好感度を上げていけば良いさ、くらいだな。なのははユーノ以外に靡くような乙女でもないし、特別な異性となればユーノを超えるような男も現れないだろう」

「ありがたい話だけど、今のはなのはに対して何気に失礼だよね」

「事実だろ?」

「まあ・・・、そうかな」

「「・・・あはははは!」」

話のネタにしたなのはには悪いが、実際になのはは恋愛に関しては同情レベルを超えた鈍さだ。付き合って下さい、と言われても、いいですよ、どこに付き合いますか?みたいなマンガのノリになるに違いない。

「ルシルの方がどうなの? シャルとはやての2人から想われてるし、聞けば学校のクラスメイトからも。大変だね♪」

「笑顔で言うなよ。本当に大変なんだぞ」

「はは、ごめん、ごめん♪・・・ところでルシル、話は変わるんだけど」

ユーノの表情が神妙なものへと変わった。なにか大事な話だということはすぐに察することが出来た。だから俺も居住まいを直して聴く姿勢になる。

「こんな時に何なんだけどさ」

「うん」

「局と学校の両方での纏まった休みが出来たらなんだけどさ」

「なんだよ、ユーノ。遠慮なんて無しだぞ」

貴重な男友達だ、大事にしたい。というか今、ゲイだとかホモだとか聞こえた気がしたから周囲を見回してみるが、どうやら気のせいだったらしい。ユーノからの「どうかした?」問いに、「いや、なんでもない。それで、なんだっけ?」話の続きを促した。

「無限書庫の未整理区画の整理を手伝ってくれないかな。ルシルも司書の資格、取っていたと思うんだけど」

確かに俺は無限書庫の司書資格を取得している。無限書庫の出入りや各区画を自由に移動するには司書資格が必要だからだ。書庫内に俺にとって都合の悪い本が無いかを確認するために取ったんだが、リアンシェルトがすでに隠していてくれた。まったく、半端な優しさは逆に辛い。もしかしてそれ狙いだったり・・・するわけないか。俺とシェフィが生みの親と憶えていないし。

「どうかな? やっぱり家族サービスで忙しかったりする?」

「あはは、家族サービスて。確かにそれも大事だけど、事情を伝えれば判ってくれるさ」

「そう言ってもらえると助かるよ。僕の方としては何時でも良いから、その時が来たら連絡をお願いするよ」

「ああ、任せてくれ」

ユーノと無限書庫内の整理の約束をした・・・ところに、コンコンと窓ガラスをノックする音がした。すぐ横を見ればそこには知人が1人いた。そこに居たのは「パーシヴァル・・・?」オーディンと名乗っていた頃の俺と、当時世話になっていたエリーゼ・フォン・シュテルンベルクの間に生まれた双子の子孫だ。髪型は俺と同じインテークだが、髪色や瞳の色はエリーゼ譲りの茶色に青色。背丈は175辺りか。

「ルシルとそっくり。あぁ、彼が話に聞いたシュテルンベルクの・・・」

「ああ。魔神オーディンの直系だな」

ユーノと話していると、パーシヴァルが「こんにちは、ルシル」店に入り、そして俺とユーノのテーブル席にまでやって来た。パーシヴァルに「こんにちは」と返し、そして「彼はユーノ・スクライア。チーム海鳴共通の親友だ」と、ユーノを紹介する。

「無限書庫で司書をしているユーノ・スクライアです。お会いできて光栄です、騎士パーシヴァル」

「おお、かの有名なスクライア一族の方か! こちらこそお会いできて光栄だ! 俺は聖王教会騎士団所属、パーシヴァル・フォン・シュテルンベルクだ」

ユーノと握手を交わし終えたパーシヴァルは席に付き、流れる動作でドリンクセットを注文。そして誰かにメールを送信し「待ち合わせなんだ。時間潰しに少し付き合ってくれ」と頼まれてしまった。

「ユーノ。予定は?」

「僕はまだ大丈夫だから構わないよ」

そういうわけで俺とユーノは、パーシヴァルの連れが来るまで付き合うことになった。とりあえず「誰と待ち合わせなんだ?」一番の疑問をぶつけると、「妹とクラリスと待ち合わせなんだよ」そう答えてくれた。

「トリシュと・・・、クラリス?」

「クラリスはトリシュと同じSt.ヒルデ魔法学院の生徒で、次期レイターパラディンとして名高い騎士なんだよ」

レイターパラディン、騎兵騎士か。そういやアリサが陸士訓練校で組んだペアというのがクラリスだったか。それはともかく、どうして本局に居るのかという話になると、「ドクター・スカリエッティに預けていたロンゴミアントを取りにね」とのことだった。

「第零技術部もそうだけど、あの技術部区画は一般人は立ち入り不可だからですね」

「そうなんだよ。だからイリスやルミナのように教会騎士でもありながら局員でもあるクラリスに取りに行ってもらったんだ」

「?? トリシュはこの話のどこに入ってくるんだ?」

「本局の一般住宅区画に友達が住んでいるらしいんだ。俺とクラリスが本局に行くと知って付いて来たんだよ」

本局に居る理由にも納得。そして注文したパンケーキ・ドリンクセットが届き、パーシヴァルが食し始めた中で俺は「改めてだけどありがとう」そう頭を下げた。ユーノは小首を傾げ、パーシヴァルは「アイリのことなら、礼は結構だよ」とサラッと返された。
アイリを取り戻してすぐ八神家(俺はある事情で通信で参加)は、アイリを引き取りたいと許可を貰いにシュテルンベルク家に行った。アイリが俺たちの側を離れないことは誰もが解っていたが、シュテルベルク家に話を通さずに引き取るわけにはいかない、と。そこでパーシヴァルは・・・

――アイリは確かにシュテルンベルク家の歴代騎士の融合騎だった。だけどアイリが誰に仕えたい・・・というより共に戦いたいかを決めるのは彼女自身だ。だから八神家の元で暮らすのが一番だと思う。それに実際にアイリと共に戦ったシグナム様たちと一緒に暮らすのが自然だと思うから――

そう言ってくれた。そういうわけでアイリはめでたく八神家入りを果たした。

「――ところでルシルのその紙袋はなんだい?」

それから俺とユーノはドリンクを再注文して、パーシヴァルと世間話をしていた時、俺の側に置かれているユーノからのプレゼントが包まれた紙袋を指差した。今さらながらの指摘だな、と思いつつ「誕生日プレゼントだよ」そう答えた。

「誰かの誕生日が近いのかい?」

「ルシルのですよ。今日はルシルの誕生日なんですよ。その紙袋は僕がルシルに贈ったプレゼントなんです」

俺とユーノで微笑み合っていると、「聴いてないよ!」パーシヴァルはバンッとテーブルに両手をついて立ち上がったから俺とユーノはビクッとした。ユーノが「言ってなかったの?」と俺に訊いてきたため、言ったかどうかを思い出してみる。そして、「あ、言ってないか」その結論に至った。

「だろうね! 初耳だから!」

「とりあえず落ち着きましょう、騎士パーシヴァル!」

他の客や店員からの視線が集中するからユーノが宥める。パーシヴァルはスッと席に座り直し、「プレゼント、何が良い!?」何を贈れば喜んでくれるか、と訊いてきた。俺は正直に「お祝いの言葉だけでも嬉しいけど」と物品は求めなかった。

「おめでとう、ルシル! いやしかし、これだけじゃダメだろう、さすがに! 何か、何か贈れる物!」

服のポケットを漁り始めるパーシヴァル。何でも良いが、ゴミのような物を渡されても困るし、怒るぞさすがに。そしてパーシヴァルは何を思ったか「このアルバムを贈ろう!」そう言ってジャケットの内ポケットから通信端末を取り出して操作を始める。その結果・・・

「「っ!!?」」

テーブル中央に写真サイズのモニターが数枚と展開された。被写体は今の子供姿の俺にそっくりな少女、トリシュタン・フォン・シュテルンベルクだ。年代は今の11歳(いや、もう12だったか?)から0歳までのもので、水着姿や家族以外の男に見せてはいけないような写真もあった。だからユーノは両手で目を隠したうえで俯いた。

「ちょっ、なに考え――・・・あ」

パーシヴァルの背後、そこに鬼が現れた。俺の目線に気付かないままのパーシヴァルが「ほら、可愛いだろ? この時のトリシュはおねしょして、俺に泣きついて来たんだよ♪」そんな話をした瞬間、「何を話しているんですか!」鬼――トリシュが怒鳴り声を上げてパーシヴァルの後頭部を鷲掴み、テーブルにガツンと打ち付けた。

「ルシル様! 観ないでください、観ちゃダメです、目を閉じてぇ~~~~~!」

「のわ~~~~!」

俺の顔に覆い被さるように突撃してきたトリシュは「クラリス! モニター閉じて!」と、連れの少女・クラリスにお願いした。大戦時、シャルロッテ率いる騎士団の副団長だったグレーテルの子孫だということで、彼女と同じスノーホワイトのショートヘア、アップルグリーンの瞳を有している。服装は学院制服のトリシュとは違い、局の制服だ。
そのクラリスという子がパーシヴァルの手から通信端末を取り上げ、操作し、モニターを消すまでの間、女子特有の甘い香り、そして柔らかな胸に顔を押し潰されていないといけないわけだ。

(トリシュが今の方が恥ずかしい状態だと気付いたら、俺・・・どうなるんだろ・・・)

「トリシュ、消したよ。というかその男の子の顔にちょうど胸を押し当ててるけど恥ずかしくないの?」

(余計な事を!!)

俺の顔に押さえ付けられていたトリシュの胸が勢いよく離れる。トリシュの顔はもう真っ赤っかで口はわなわな震え、目は涙で潤んでいた。そして・・・

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!」

パァン!と良い音が鳴った。

「へぶっ!?」

目にも留まらない速度でのビンタが俺を襲った。とんでもない威力で、一瞬だが意識が落ちかけた。撃沈された俺はテーブルに突っ伏し、耳だけで状況を知ることになる。最初に聴こえてきたのは「ごめんなさい!」俺への謝罪。次に「兄様の所為ですよ!」パーシヴァルへぶつける怒声。そして「お客様。他のお客様に迷惑になりますので」店員からの注意。

「ちょっと、ルシル、大丈夫?」

「なんとか・・・」

テーブル下に潜り込んで来たユーノにそう答える。ちょっとの冷静時間の後、改めて「ごめんなさい、ルシル様」トリシュから謝られた。気にしないように言うが、肩を落とすばかりだ。ちなみにパーシヴァルは気を失っている。強いなぁ、トリシュ。

「ねえねえ、ルシル君。どうしてトリシュの恥ずかしい写真をパーシヴァル君に見せてもらってたの?」

「クラリス!? その話はもういいから!」

注文した特大パフェを、早送りで見ているかのような速さで頬張るクラリスが話を蒸し返そうとするからトリシュがまた怒鳴る。この短時間でトリシュは踏んだり蹴ったりだな。可哀想に。だが気にはなるようで「あの、ルシル様・・・。どうして?」と訊いてきた。

「今日、俺の誕生日なんだけど、パーシヴァルは今日・明日・明後日と仕事だということでプレゼントを贈れないと知り、慌てた結果がトリシュの写真集みたいな・・・?」

「今日がお誕生日なんですか!? 聞いてませんよ!」

「あー・・・、うん、言ってないよな? 悪い」

「そんな、酷すぎます! 今日、これからプレゼントを買いますので、ここでまた逢えませんか!?」

「いいよ、そんな、今日じゃなくたって。変に慌てるとプレゼント選びも難航するだろうし、妙な物を買いそうじゃないか?」

「っ! で、では明日、明日の正午、近くの噴水公園でいらしてください! 出来ればお1人で!」

「ああ。明日の正午、噴水公園に1人で。判った」

「ありがとうございます! では私はこれで失礼します! ルシル様、ユーノさん、ごきげんよう! ここの支払いは兄様にしておきますね。クラリス、行きますよ!」

トリシュはパーシヴァルのポケットから財布を取り出して、注文した分のお金を抜きとった上で伝票を手に支払いカウンターへ向かった。その流れるような行動に俺やユーノは何も言えなかった。

「あ、はーい。ごちそうさまです、パーシヴァル君。それじゃあね、ルシル君、ユーノ君」

トリシュとクラリスが店から去って行き、「はあ」俺とユーノは大きく溜息を吐いた。

「なんか疲れたね、ルシル」

「ああ、疲れたな、ユーノ」

「帰ろうか」

「ああ」

ここの支払いはパーシヴァル持ちになったため、俺たちは「ありがとうございました~♪」そのまま店を出る。パーシヴァルは放っておいたが、まぁいいだろう。

「それじゃあ僕もそろそろ行くよ。・・・誕生日おめでとう、ルシル」

「ありがとう、ユーノ。またな」

ユーノと別れ、改めて特捜課オフィスへ向かい、「お疲れ様でーす」今もなおデスクワークをしていたガアプ課長、セラティナの2人に声を掛ける。しかしはやて達の姿は見えないな。

「お疲れ様、ルシル君。査察課のお仕事、御苦労さまでした」

「お疲れ様です、ルシル」

「・・・はやて達の姿が見えないようですが・・・?」

オフィスにはやて達の姿が無いからそう確認してみたら、「はやて達はもう帰りましたよ?」セラティナがサラッと答えてくれたんだが、「へ?」連絡なしで帰られるとは思わなかったからちょっとばかりショックを受けた。

「そう、なんだ。では俺も帰ります。ガアプ課長、セラティナ。お先に失礼し――」

「おおっと」

「まだ帰らさないよ~?」

「っ!? クララ先輩!? テレサ先輩!?」

俺の肩をガシッと掴んできたクララとテレサ。いつの間に、というより「帰らさないとは一体・・・!?」俺を留めておく理由が解らない。さらには「私たちにもお祝いさせてね♪」特捜課のナンバー3、トゥーリア一等陸尉が俺の前に回り込んできた。そして近くのデスクから椅子を持って来て俺を座らせた。

「今朝寄ってくれた時にお祝い出来なくてごめんね♪」

「その代わり、これからお祝いするから」

「ハッピーバースデ~、ルシル君♪」

――リングバインド――

「ちょっ、はあ!?」

四肢をバインドで拘束された。数日前にようやく回復した魔力炉(システム)の回転率を上げてバインドブレイクを発動するんだが、「堅・・・!」なかなかプログラムに割りこめない。どれだけ強固なバインドだよ。

「ガアプ課長! ヘルプです!」

「ごめんなさいね。助けられないの」

頼みのガアプ課長が使えないと来た。セラティナも手を合わせて「ごめんなさい」と謝った。特捜課揃ってグルかよ。トゥーリア一尉たちは櫛やらリボンやら化粧道具を持って迫ってくる。嫌な予感しかしない状況。必死にバインドのプログラムを侵食して行くが、「おっと、ダメだよ♪」テレサがさらにバインドを掛けてくる。

「(逃げられないのか・・・!)誕生日なのにぃぃぃ~~~~~~!!」

それからどれだけ経っただろう。シュヴァリエルに斬られて短くなっていた後ろ髪も今では背中の半ば辺りにまで伸びている。その後ろ髪を弄られて様々な髪型にされた。ツインテールにポニーテール、三つ編みおさげ、俗にお団子といわれるシニヨン(後頭部やダブル側頭部)、サイドテール、ロールなどなど。果てには口紅やチークまで入れられる始末。

「「「「「「可愛い❤」」」」」」」

「・・・・満足しました? そろそろ解放してもらいたいんですが・・・(涙)」

時折、俺を弄っている最中で時計を確認していたのは判っている。何かしらの時間を待っているようだった。今もガアプ課長が時計を確認していた。一体何を待っているのか。嘆息しているとPiPiPi♪と電子音が鳴り響いた。すると一転「はい。お疲れ様~」俺は解放された。化粧落としでメイクを落とされた後・・・

「はい。化粧箱や装飾品が、私たちのプレゼントです!」

そう言って化粧箱などを渡された。男の俺にこのプレゼントは無いだろ、とツッコみたいが今は「お先に失礼します(泣)」一刻も早く家に帰りたい一心で敬礼し、オフィスを出る。
そしてスカラボから八神家のトランスポーターへ直通転送。トボトボと階段を下りて「ただいま~」ダイニングへ入った瞬間・・・

「「「「「「おめでとう~!」」」」」」

祝いの言葉と共にパン! パン!と破裂音が続いた。パサッと顔に掛かる紙で出来たカラフルなリボン。クラッカーの物だ。

「おめでとう、ルシル君♪」

「「「おめでとう、ルシル!」」」

「おめでとうです、ルシル君!」

「ルシル君、お誕生日おめでとう♪」

「「おめでとう、ルシリオン」」

はやて達がダイニングに集まって、俺にクラッカーを向けていた。テーブルには豪勢な料理が並べられていて、壁には折り紙で作られた鎖が掛けられている。ここで俺は全てを察した。はやて達が連絡も無しにさっさと帰ったのは、この準備をするためだったんだ、と。それを念頭に置けば、特捜課の面々の行動も理解できた。時間稼ぎだ。

(でもだからと言って化粧までしなくても良いだろ・・・)

何かもっと別の手段があったと思うが、もう忘れよう。

「ほら、ルシル君。席に着いて! 今日の夜ご飯は、わたしとシャマルとアイリとリイン、それにシャルちゃんが協力して作ったんよ♪」

見ればリインやアイリの指には絆創膏が何枚か巻かれていた。慣れない調理だっただろうに。俺は2人の頭を撫でながら「ありがとう2人とも。嬉しいよ!」感謝をした。2人は「えへへ♪」と気持ち良さそうに、嬉しそうに笑ってくれた。

「はやて、シャマル、シャルもありがとう!」

「「うんっ♪」」

「ささ、冷めないうちに食べましょう♪」

家族も増えてきたことで新調したダイニングテーブルに着く。そして「いただきます!」楽しく食事会だ。話題は調理中の失敗談――リインが調味料を間違えたり、アイリが力み過ぎてボールを吹っ飛ばしたりしたことや、俺が本局で体験した嬉しいこと――ユーノやトリシュの祝われたこと、悲しいこと――特捜課に化粧させられたことなどなど。ちなみにパーシヴァルの写真の一件は伏せておいた。

「あちゃあ。時間稼ぎのためにルシル君を引き止めておいてください、ってお願いしてたんやけど、そんなことになってたんかぁ~。なんやごめんな」

「写真撮ってないかセラティナに連絡しておかないと!」

「やめてくれ!」

笑い声と笑顔に包まれた夕食の後、「ハッピーバースデ~、ルシル~♪」誕生日の歌と共に運ばれてきたチョコレートケーキがテーブルに載せられた。10本のロウソクとクリームで、ルシルお誕生日おめでとう❤、というメッセージが書かれている。翠屋で頼んでもらっていたのかなと思ってよく見たら、パティシエールの桃子さんには珍しい不格好さがある。

「もう気付いてるかもやけど、このケーキもわたしらの自作なんよ♪」

「アイリがメッセージを書いたんだよ!」

「リインはクリームでデコレーションしたです!」

「わたしとシャマルはスポンジを焼いただけなんやけどな」

「でもとっても上手に焼けたんですよルシル君」

嬉し過ぎてもう泣きそうだ。ちなみにシャルは「わたしはノータッチ」とのことだった。シャマルが綺麗にケーキを切り分けて、それぞれの受け皿によそってくれた。そしてみんなの目が、どうぞ!となっていたため「いただきます!」フォークで一口サイズにして、パクっといただく。リインとアイリが期待や不安が混じった表情で身を乗り出してきている。

「・・・うんっ、美味い! 美味しいよ!」

「「「「やったぁー!」」」」

はやて達が超笑顔で万歳した。こいつは本当に嬉しい。やばい、俺、本当に幸せだ。決意も覚悟も揺らぎそうになる。こんな時間をもっと過ごしたいと思えてしまう。チラッとシャルを見る。彼女も笑顔でケーキを頬張り、はやて達と微笑み合っている。

(俺も生まれ変わったら・・・、なんて都合の良い奇蹟・・・。馬鹿だな、俺)

砕けそうになる心をなんとか繋ぎとめ、俺も笑顔でみんなとの会話に参加した。家族特製のケーキに舌鼓を打っていると、「ルシル。これがアイリのプレゼントだよ♪」アイリが俺の側へとやって来て「チュー❤」頬ではなく、あろうことか口にキスして来た。

「「ああああああああああ!!」」

はやてとシャルがガタッと立ち上がって叫んだ。リインは顔を真っ赤にして両手で顔を隠し、シグナムは「なにか懐かしいな」と緑茶を啜り、ヴィータは「だな~」とケーキを頬張り、シャマルは「あらあら」右手を頬に添え、ザフィーラは「うむ」と一言。

「わたしのプレゼントもチューにする~~~❤」

「させへんよ、シャルちゃん!」

俺に跳びかかろうとしたシャルの腰にタックルを食らわして一緒に倒れ込むはやて。はやては「ザフィーラ、シャルちゃんを少し押さえといて!」と頼み、「承知」狼形態のザフィーラは前脚でシャルの背中をぎゅむっと踏んだ。

「のわっ!? ちょっ、ザフィーラ!?」

「すまんな、フライハイト。主の願いゆえ、しばらく大人しくしていてくれ」

「お待たせ、ルシル君! コレ、わたしらみんなで協力して買ったプレゼントや!」

はやてが自室から持ってきた分厚い紙袋を受け取った。ユーノから貰った物と同じ。袋の中を見せてもらうと、「こいつはまた・・・」古めかしいハードカバー本が4冊と入っていた。

「ルシル君って読書家やろ? 実はな、ザンクト・オルフェンで開かれてた芸術強化月間の古書店で買うたんよ」

「ルシル君は、レンアオムから帰って来てからずっと高熱で、11月は動けなかったですから、はやてちゃん達と協力して買ったですよ」

シュヴァリエルとスマウグとの連戦で無理がたたって11月は動けなかったし、その後も魔導師としても魔術師としても不能に陥ったしな。だから楽しみにしていた古書展にも行けなかったんだが。そうか、買っていてくれたのか。でも「どうして早く渡してくれなかったんだ?」という疑問が出るわけで。

「どうせ渡すならお祝いの日に一度に渡した方がもっと喜んでくれると思う、ってシャルちゃんが・・・」

「てへぺろ☆」

ザフィーラから解放されたシャルが舌を出す。ツッコむ気分でもなし。俺は「ありがとう! 大切にするよ!」はやて達の心遣いに心から感謝した。



――翌日。



トリシュとの約束の為に噴水公園にやって来たんだが・・・

「あぅ~。どうしてこんなことに・・・」

学院制服を着たトリシュの背後には黄色い歓声を上げている少女が数人と居た。以前、はやて達と一緒に学院を見学した時に世話になった4年3組の面々だった。だから「セレネとエオスも一緒かよ」スクライア姉妹の2人も居た。トリシュは「頑張れ」だとか「当たって砕けろ」だとか「骨は拾ってあげる」など、応援しているのかどうか判らない声援を受けていた。

「あのっ! お誕生日おめでとうござます! 誕生日プレゼントと、お昼ご飯を頑張って作ってみました!」

ベンチに2人で座り(セレネ達はベンチの周りで俺たちを見ている。結構気になる)、トリシュからまた別の古書(コレも未読作だったからすごい嬉しい)と弁当箱を貰った。

「初めて料理したので、絶対に美味しいとは言えないですけど。あ、でも味見はしていますから食べられないことはない、かと。も、もし不味ければ残してください!」

慌てふためくトリシュに「いただきます」と言ってから、デコレーション弁当(桜でんぶで、おめでとう、と書いてある)をいただく。確かにおかず類には焦げた物もあったが、そんなことが気にならない程に「美味しい。うん、美味しい!」上出来な味付けだったから素直に褒めた。

「ほ、本当ですか!? 良かったです!」

嬉し涙を流して喜ぶトリシュの様子にセレネ達も「やったぁ~!」と大喜び。
そんなこんなでとても満足な俺の誕生日は過ぎていった。
 
 

 
後書き
タロファ。
いつ以来だろう、ユーノを出すの。すごい久しぶりだ。というわけで、ルシルの誕生日回となった今話。去年みたく本局でカラオケ大会、みたいな派手さはないですけど、こういうのは普通の誕生日だと思うので、これで良いかと思っています。次話はユーノだけでなくクロノも出す予定。
 
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