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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第65話 ハイパービルでの再会


~レッドの町~



 それはハイパービルへと向かう前の事。

「むむ。よし! マリア。景気づけにヤルぞ!」
「はぁ!! なんでそうなるのよっ! シィルちゃんは今大変なのよ!」
「がはは! オレ様の奴隷だぞ? そう簡単にへたるもんじゃない」
「ちょっと! シィルちゃんにもしも何かあったらどーすんのよ!」

 ランスとマリアが言い合っている。
 これから戦いに行くというのに、ランスは相変わらずなのだが、シィルに何かあったらどうするのか。とマリアが言った時。眼つきを一瞬鋭くさせた。

「シィルに手を出したら殺す」

 それは明確な殺意だった。相手が女だろうが魔人だろうが、関係ない。シィルに手を出したら殺す。並々ならぬ殺意を発したのだ。その殺意は、周囲にも伝わる程 凶悪なモノだった。

 だが、今からスル事は 頂けない。すぐ隣でいたユーリはため息を吐く。

「はぁ、これからの戦いを判ってるのか? 体力減るぞ……」
「がはは! オレ様がたった一発スルぐらいで体力減る訳ないだろ! スーパーなオレ様の体力だぞ! と言う訳で、戻ってきたら知らせるんだぞー! 下僕一号!」
「ちょっと! 私は、するって、同意した覚えないわよ!」
「がははは! マリアには色々と借しがあるだろ! ヒララ合金やらカスタムの窮地を華麗に救ってやったコトやら!」
「んもうっ! それ、ランスだけじゃ……ちょっ! や、やめっ! あんっ!」

 がはは、と笑いながらランスはマリアを抱えてそのまま消えていった。勿論宿屋に、である。

 ナニをするのかは、もう判りきっているが、止めても無駄だし、無理矢理に止めて、へそ曲げられる方が余程面倒だ。

「こんな状況でも、ランス殿は自分を崩さない。流石です」

 リックは、なんだか感銘を覚えた。と言わんばかりの表情だ。
 ……正直、今現在ではリックの方が戦力的には間違いなく上なのだしそこまで?とも思えるが、不思議とランスという男はそう言う風に魅せてしまうのだろう。勿論、考え方は 十人十色だが。

「む。まぁ、確かにな。……あの男が好色家だと言う事は判っているが、リックの言う様に、今でも崩さないのは、アレだな。並みの心臓じゃないと言う事、だろう。それに先ほどの殺気も 見事だった」
「……ですね。僕も感じました。あれ程の殺気は中々お目にかかれません」

 清十郎の中でのランスの評価も、どうやら、ややリックよりだ。強い男であれば、認める。と言った性格だからとも言えるだろうが。ランスの殺気に関してはユーリも同感だった。仮に、魔人に結界がなければ……、レベル関係なしに、有言実行をしてしまうかもしれない、と思ってしまうほどだ。

「……ま、肝心な所で、よくポカミスもするから、その辺はオレらがフォローだな」

 が、そこはランス。その性質についてはよく知っているし、頭の隅にでもとどめておかなければならない事は身にしみている。

「それにしても、志津香さんとかなみさんは遅いですかねー。確かに準備は大切だと思うのですがー、トマト印の回復アイテムは沢山持ち込んでますから、ダイジョウブ! と思うですが」

 トマトは、街の中心の方を見ながらそう言う。
 そう、この場にまだ来ていないのは志津香とかなみだ。2人とも、しっかりしているし、そこまでルーズではない。……普段は隙が多そうな気もするが、そこは女の子、ご愛嬌だ。

「お2人とも、それだけ慎重に行動をしていらっしゃるという事です。神も彼女達の頑張りを見てくださるでしょう。私もしっかりとしないと……」

 セルも、首から下げた十字架をきゅっと握りながらそう言っていた。
 ランスの行動には、正直思う所が沢山。たーーくさんあるのだが、何とか留める事ができた。説教はこの局面を脱してから、と言うことで。

「ま、確かに2人にしては珍しいな。……だが、状況が状況だ。あまりに遅くなるのなら、迎えに行こう」

 ユーリはそう言って、皆も頷いた。
 そもそも2人が残ってからまだそれ程時間が経っていないのだ。遅い、というにはまだ短すぎる。シィルの事は確かに心配だけど、冷静さを欠いてしまっては元も子もないし、物資を少しでも、持てるだけ……という判断を彼女達はしたのだから。


 と、ユーリも思っていた。志津香とかなみが遅れている理由を。だが実際は……。












~レッドの町 司令本部~

 
 それは数分前の事。
 ハイパービルに向けての進行とジオの町奪還作戦、そして 聖武具の回収。問題は山済みだ。その中でも最激戦区と言っていい、魔人が待ち受けているであろうハイパービルへと向かうメンバーに選ばれた志津香とかなみ。彼女達にも思う所は沢山ある様だ。
だが、2人とも降りるつもりは全くない。傍に頼れる人がいるから、という意味もあるし、かなみにとって大切な国、リーザスを取り戻す戦いでもあるのだ。良き友。……志津香にとっては、四魔女と呼ばれた4人に並ぶとも言える程に、かなみの事は想っている。親友だといえる程にだ。
 そんな彼女の国だからこそ。カスタムを救う手伝いをしてくれた事を抜きにしても、助けたいと思うのだ。

「よぉ、2人とも」

 そんな時だ。ミリが彼女達に話しかけたのは。

「あ、ミリさん」
「今回はアンタは留守番ね。……こっちを任せたわよ。ランやミル、マリアの事頼むわ」

 かなみが反応し、そして志津香はそう答える。ミリは軽く笑いつつ手を上げた。

「ああ、こっちは任せとけよ。ほれ、選別だ」

 ミリが渡したのは、元気の薬や世色癌、竜角惨。回復アイテムの数々だ。

「オレが調合したからな。普通のよりは回復する筈だぜ?」

 にやっと笑うミリ。かなみは、感謝の意を示すように頭を下げていたが……、志津香は疑いの眼差しを向けていた。

「……へんなの入れたんじゃないでしょうね?」

 そうなのだ。
 なんと言っても、ミリだし前科もある。ユーリに一服盛ったのだから。状況と理由を考えたら致し方なくは感じるが、それでも警戒することに越したことはないだろう。

「何言ってんだよ ばーか。んな無茶な真似しねーって。これから行くところを考えたらよ?」

 ミリは、笑ってそう言うけれど、表情は至って真剣だ。

 彼女だって仲間。時には厄介な事をするけれど(ロゼの様に)、仲間なのだから。こんな全滅をしかねない悪戯はしないだろう。

「一応、信じておくわ」

 志津香はゆっくりと頷いた。かなみも同じ様に頷いた。

「ったく、一応、かよ」
「当然じゃない?」
「えと……わ、私も確かに……。志津香と同じ意見、かなぁ……」

 ミリは、志津香やかなみの回答に苦笑いをしていた。そして、2人とも皆と合流する為に、出ていこうとした時。

「おおっと、2人とも約束。忘れてはねーだろうな?」
「はぁ? 約束?」
「何の事、ですか? ミリさん」

 ミリの言葉の真意が判らぬ2人。
 ミリはにやっと、それも目に『☆』が浮かんでいるかのよーな、ウインクをかまし。

「ほれ。あの時(・・・)言ったろ? 『生きて帰れたら……お前ら、絶対アイツに想いを伝えろよ?』ってよ? お前らちゃーんと返事したし~、オレ達、ちゃーんと生きてるしー。だから、さっさと想いを伝えろって」
「「!!」」

 ミリの言葉に、びくっ! と身体震わせた2人。

 勿論、それの事を 忘れていた訳ではない。
 志津香は、ユーリに抱きしめられ、かなみも慈愛の表情を、視線を向けられた事もあり、すっかりと頭の中から抜け落ちていたのだ。……それと忘れていた事とどう違うのだろうか? と思うがスルーを。

「ま、オレとしては、基本的に全員公平にしてやりてーんだがな。アイツを想ってるヤツ、すげー多いし」

 ミリは、頭の後ろで手を組みながら、そして口笛を吹きながら、そう言う。

 それについても、2人ともよく知っている。
 皆、あからさまだし。判りやすい(自分の事を完全に棚に上げてる) だけど、その少女、乙女の中で ランは何だか出番が……っとと、口にチャックです。

「でもま。やっぱ それでも、お前ら優先にしたかったりする自分もいるんだよな。勝手なオレランキングで、1,2争ってると想うし、解放軍においても、貢献度でも上位キープだし。もう アレだぜ? トーダイ入れる偏差値だぜ?」

 トーダイ?……はい。ミリの言う事なので、スルーをしましょう。判る人には判るかと思われますが……、所謂この世界ででは、有り得ないので!


 志津香とかなみは、少しの間、放心していたが。

「馬鹿! 忘れてんのは、ミリ! アンタの方でしょ!」

 志津香が何やら顔を赤くさせつつ、考えついた様で、反論をしていた。

「ん? オレがか?」
「そうよ! あの時、『ここで勝って(・・・)、生きて帰れたら』って言ったじゃない。私たちは、あの女にボロ負けしたんだから、まだ無効よ!」
「あ、あ! そ、そうでしたね!」

 志津香。咄嗟の反撃にしては良い反論だ。かなみも感心しつつ、それに乗っかる。

 まだ、大変だし……、あの時は異常事態でついつい言っちゃった、同意しちゃった。でも心の準備が……と言う状態だったのだから。

「ほーぅ。 な~ら ここからが勝負って事か? これに勝ったら、って事で良いのか?」
「ええ! もちろん……ぁ」
「そうですっ! ……ぁ」

 ミリの言葉に大きく頷いてしまった2人。完全に誘導尋問されてしまっている2人。どうやっても、1枚も2枚も上手なのはミリだ。それを見てミリはニヤリと笑って。

「よっしゃ! ちゃーんと、シィルを助け出してこいよ! 吉報を待ってるぜー?」

 笑いながらそう宣言した。巧みに誘導したのか、2人に2度目の告白を言わせたのだから、やはりミリが何枚も上手だろう。

「それに、一夫多妻制は勿論ALICE様もお許し頂けるわ! ユーリの超鈍感も流石に面と向かって言ったり、押し倒したりすりゃ、だいじょーぶでしょ? わたしの調教じゃ、そこまでの防御反応はみせれない筈だしね~?」

 ミリと志津香、かなみの間にいつの間にか入ってきていたのはロゼ。

 いつもいつも神出鬼没なのである。或いは、周囲に目が向けれない程、テンパっている2人だから、と言う理由だってあるだろう。

「ひゃあ!」
「ロゼっ!!」

 慌てている2人だけど、もう遅い。この場にいる2人が聞いてしまったのだから。宣言したのを。

「んじゃ、お2人さん! 頑張ってきてねん。月の加護はけっこー高価だから、大事に使ってよね~♪ ユーリLOVEパワーと融合させてねん♪」

 ロゼは 現れたかと思えば、ひらひらと手を上げて即座に退散。この為だけに出てきたのか? と思える程の清々しい退散ぶりである。

「おっ、お前ら。そろそろ町入口に集まんなきゃいけねーんじゃね?」
「「ああっ!!」」

 結局最後の最後まで振り回される2人だった。ユーリ達を先に行かせて色々と準備をしていたのが、話す前。時間が結構経ってしまっているのだ。

「お、覚えておきなさいよー!」
「おう! ちゃんと覚えとくよ。だから、ちゃーんと言えよ?」
「あ、あぅっ~~!!」

 志津香は、やや怒りながら、かなみは表情を真っ赤にさせて、急ぎ足で退散した。




 そして、2人を見送ったミリ。 笑っているのだけど、何処か やれやれ、とため息を吐いてもいる様だ。

「……こんだけ言っときゃ、意地でも死なねえだろ? 想いを伝えるまではな。……頼んだぜ。2人とも。それに皆」

 戦えない、戦力になれない自分が歯痒い。
 ミリとてそう思ってしまうのだ。だから、自分の分も、と考えつつ、2人に発破をかけたのだ。想いの強さってモノは時として、大きな力を与えてくれるのはいつかに、ミルを助けに行ったあの時に体現出来ているのだから。

「……アンタも、結構ムリしてるのね」
「ロゼ、か。……行ったんじゃなかったのか」
「ご生憎様。わたしゃシスターよん? 私の前で偽ったり、隠し事したりな~んて、誰にも出来ないわよ。それが、神でも悪魔でも。……アンタでも、ね。……それに、一体何時から アンタと飲み友してると思ってんのよ」
「……ああ、そうだったな。流石 ロゼだ」

 ミリは手を上げて降参のポーズ。
 今まではユーリにしか打ち明けていなかった事実をロゼに伝えた。自身の身体を蝕むのを。

 全てを訊いたロゼは、少しだけ険しい表情をしていた。ある程度推測はしていたようだ。

「……なるほど、ね。この戦争が始まってから、随分と飲みが甲斐無いと思ってたんだけど、そうだったって訳」
「ああ、そうだ。オレも随分と厄介なモノ、抱えちまったよ。どーせ抱えるなら、ユーリの子供でも良かったんだがなぁ?」

 ミリはニヤっと笑いながらそう言う。
 不治の病に侵されながらも自分を崩さないのは流石だといえるだろう。

「ミリ。私は気休めは言わない」
「それは 判ってるよ」
「AL教の秘蔵のアイテムでも、アンタのそれを 完全に治すモノはまだ存在してないわ。延命は出来るかもしれないけどね。いつか、必ず蝕まれてしまう。……あの法王(じじぃ)ならわかんないけどね。アイツは、女神ALICEと謁見してるらしいし」
「お? 女神様とヤってんのかな? 羨ましいこった」

 ミリの言葉を聞いて笑うロゼ。

「あー、そうでもない見たいよ? だって カミサマに会ってから、あのじじいは壊れちゃってる感じがするから。あ~~、或いは、思いっきりなSMプレイさせられて、調教されたのかもね?」
「そりゃ、見てみたいもんだ。カミサマ直々の調教プレイってのは興味があるな」

 2人はそういい。そして笑っていた。
 仲が良いのは、なにも志津香とかなみだけではない。この2人もいろんな意味で波長が合っている様なのだから。

「……ま、でも 私は なにも心配してないからね」
「ああ、オレもそうだ」

 ロゼは、軽くミリの腹部に拳を当てた。

「だってさ。アイツ(・・・)が、なんとかしてくれんでしょ? アンタの事も、今回の事も」
「……だな」

 ミリはロゼの拳を手で握り、そして返した。

「それにしても、アイツとヤっちゃうの、この中で一番早いのはアンタになりそうね?」
「そりゃ良いな? 愉しみだ」

 それを最後にミリとロゼは笑いながら、其々の持ち場へと帰っていったのだった。














~ハイパービル~


 ユーリ達がしばらく待った後の事。かなみや志津香は帰ってきた。迎えたユーリだったが、何やら顔を赤くさせており、訳を聞いたら、志津香の踏みつけが待っていて、なんだか理不尽な制裁を受けてしまうのだった。

 それはとりあえず置いといて、一行はハイパービルへと向かった。

 位置は、レッドの町の南部。迷子の森とレッドの町の丁度中間地点。その場所に近づくにつれて、その高くそびえる建造物がまだ遠いのにも関わらず、目に入る様になった。更に近づいてみると、その大きさが本当によく判る。超高層建造物、と言うべき建物だ。人工建造物でこれクラスのモノは中々お目にかかれないだろう。いったいいつの時代に、誰が作ったモノなのか、それらは一切なぞに包まれている。

「随分と、無意味な建造物だな」

 ランスのコメントはあっさりと、そして辛辣だった。

「あー、上、見上げてると、首がだるくなってきた」

 見上げていたランスは、首を摩りながらそう言う。確かに判らなくもない。これに近づけば尚更だ。

「トマトは、ユーリさんと、この頂上を制覇ですかねー!」
「馬鹿者! お前はオレ様との性技を極めるのが先なのだ」
「ランスさんじゃ、ムリですかねー。今までもそうだったですし」
「なにおー!」

 トマトの言葉にランスが反応。また馬鹿をやりそうになっていたから。

「馬鹿言ってないで、さっさと中に入るわよ」

 志津香が早々に止めた。
 今はそんな戯れあいに付き合う様な状態じゃないから。

「………」
「このビルの中に……」


 志津香とかなみは、息を飲んでいた。当然だろう、一度は完膚なきまでにたたきつぶした相手がいるのだから。今回はユーリ達と一緒とは言え、そのユーリ達を迎え撃ったあの化物達もいるのだから。

「……このビルの中から、魔物の気配がします」
「ああ。あの土塊の連中の独特な殺気もな。サテラ、とやらは判らんが、オレは一度相対した強者の事は忘れん」
「清十郎殿の言う通り、ですね。……確かに感じます。あの夜の時よりも更に濃い気配が」

 セルが、魔物を感じ、そして清十郎とリックがあのガーディアンを感じていた。圧倒的な大きさの建造物の中にいると言うのに、その外にまで発せられる気配、殺気。ここからの激闘を予感させるのには十分すぎるだろう。

「んなもん、とっとと倒してしまえば良いだけなのだ」
「おう。期待してるぞ? ランス」
「当然だ。オレ様の奴隷をさらった罰として、S○X100連発、アヘアヘの刑にしてやるわ!」

 ランスは大股で歩きながら入っていく。
 何だかんだと言いながらも、シィルの事、相当気にしているのだろう。ユーリは軽く笑うと、ランスの後に続き。

「……行くぞ」

 チラリと後ろを振り向き、仲間達にそういった。皆が其々頷き、其々の得物、剣を杖を刀を、其々が確認していた。

 ゆっくりとハイパービル内部へと入る一行。
 ランスはもう既に中に入っており、『遅いぞ、馬鹿者!』と苦言を言っている。少しは慎重と言う言葉を覚えてもらいたいモノだったが、直ぐにその考えを思考から消去した。

「ランス。止まれ」

 ユーリの視界に映ったのだ。
 ……その先にいた者の姿を。リックや清十郎も同様だった。其々の剣に手がかかる。

「っ……!」

 かなみも、視力に関してはこの中でもトップクラスだ。薄暗いビル内部でも、しっかりとその姿を、身成を確認できた。間違いなく、あの時の女、魔人だと。

「ぴ、ピリリとくるですかね……」

 今回ばかりは、ある意味ではムードメーカーとも言えるトマトも押し黙った。嫌な汗が流れ、そして緊迫する空気も感じられた。今回が初邂逅だ。

 ここまでの威圧感とは想像出来てなかった様だ。

 サテラがゆっくりとこちら側へと歩み寄る。丁度、外の灯りがビル内に照らした位置にサテラが来た時、全員が完全に視認した。

「……サテラ」

 志津香も杖を握り締めた。
『あの時の様にはいかない』と強く自分に言い聞かせる様に。

「あら、弱いみなさん。一応、約束通りに来てくれたの事はサテラ、嬉しいわ」

 笑いながらそう言うサテラ。
 その言葉を聞いてランスはサテラの方へと向き直すと。

「おい! 生意気な小娘! シィルを返してもらうぞ!」
「……くすっ」
「それじゃ、聖剣と聖鎧を持ってきたのか? ……それに、し、指定したオトコも一緒に。じゃないと、サテラ、彼女は返さない」
「ふん! 誰がお前なんかにやるか! この前は寝ぼけてて、不覚を取ったが、今日はそうはいかないぞ! S○X100連発の刑だ!」

 ランスは、盛大にそう宣言。
 身体が大きい為、ランスの後ろにいた何人かをサテラは完全に視認していなかったようだ。その目的の、指定した男も居る事をわかってなかった様だ。

「ふん。サテラにまだ歯向かうつもりなのか? お前らは。お前らなんかがたばになったってサテラに敵う訳ないじゃないか。学習能力が無い底なしの馬鹿」

 サテラがそう言い切ると、ランスは剣を抜いた。

「行くぞ!!」

 ランスの声に反応し其々が武器を構える。

「馬鹿、どうせ無駄なんだからな。サテラに攻撃あてらんないんだから、無駄な努力せずに、指定した男と聖武具を持って来い」

 サテラはため息を吐きながらそう言う。
 以前レッドの町を襲った時も、かすり傷1つ負わなかった。聖武具が魔人に対向できる代物なのだとすれば、警戒する必要があるかも知れないが、それすら持ってきていない。そんなのを相手にしたところで時間が無駄になるだけ。

 そんな時だ。

「……聖武具は無いが、サテラ、お前はオレに用があるんだろ? なら、オレが遊んでやる。……その代わりにシィルちゃんを返せ」

 ランスの肩をぐっと握り、そのまま前へと躍り出たユーリ。

「ゆぅっ!」

 志津香も思わず向かおうとしたのだが、ユーリが手を出した。
 来るな、と言う仕草だった事は直ぐに理解できた。心情的には理解したくないが。それでも、魔人が持つ特殊結界の事はユーリから事前に聴いている。それが存在する限り、人間は決して抗えないと言う事も。

「ユーリ殿」
「ユーリ」

 清十郎達も同様に向かおうとしたが、ユーリは軽く首を振った。目的がなんであれ、サテラは自分を要求しているのだ。

 自分であれば……手はある。

 だが、仲間達はムリだ。あの結界の前には強さは全く無関係だから。アレを回避するのに必要なのは、強さではなく、異能だから。

「………」

 サテラは、と言うとコンマ数秒間だけ、放心してしまっていた様だ。
 ユーリがここに来ている、事を知らなかったからであり、ランスと言う男の後ろから、まさかの登場に驚きを隠せない。

「……聞こえないのか? サテラ」
「……はっ!!」

 ユーリの言葉を聞いて、我に返る事ができた。ばく、ばく、と何もしてないのに、心臓が脈打つ。全く沈める事が出来ず、更に頬も……。

「す、素直に、聖武具を持ってきたらだ!! ご、ごぎゅっ…… 53階までなっ!! 通す、通すのは ゆ、ユーリだけ、だ! 通す様に、シーザー達にい、言っておくから! そしたら、返したげる!」

 メチャメチャに噛みまくって、動揺しているのがまるわかりだった。
 ユーリは、その動揺する意味を勿論理解した。自分に、いや、《神威》に圧倒されたあの時の事を考えているのだろうと思ったのだ。

「じゃ、じゃあ!!」

 それだけ言うと、さっさとサテラは消えてしまった。

「……(不利だと悟ったか? どちらにせよ、人間じゃない。……魔人だからか、出方が読みにくい)」

 ユーリはそう分析。サテラが消えた方を見つめていた。

「馬鹿者! 何を逃がしている! オレ様が突入すれば、あっという間に解決だっただろうが!」

 そんな時、当然! と言わんばかりにランスが攻めて来る。ユーリはとりあえず真面目に応対をする事にした。

「……事前に言ってるだろ? 魔人が持つ特有の《結界》がある事を。ランスの攻撃が通らなかったのは偶然じゃなく、ましてや 寝不足でもない。……まぁ、実際に剣を結界で遮るまでもなく躱されたんだったら別だが、兎も角。普通の攻撃は当たらん」
「オレ様は普通ではないのだ」
「ああ、それ知ってる」
「こらぁ!! どう言う意味だ!! 妙に納得するな!」

 こんな時でさえ、ケンカできるのだから、本当に大したものだ。清十郎とリックもとりあえず其々の武器を収めた。

「どうする? 53階、と言っていたが聖武具とやらは持ち合わせていない。一度出直すと言う手もあると思うぞ」
「僕もその選択肢が生まれたと思いますね。……彼女は、武器、そしてなぜかユーリ殿に固執している様に思えます」

 そうユーリに言う。ユーリはその言葉を聞いて軽く考えた。

「馬鹿者! さっさと言って、さくっと犯して終わりだ。出直すもクソもあるか!」

 ランスはさっきユーリが言っていた結界の話はすっかり忘れた様だ。或いは本当にできるのだろうか?……もしくはユーリに丸投げするのか?ランスの真意はわかりづらいが、シィルの事を強く想っている事は判る。

「まだ入口だしな。……偵察の意味でも、奥を見た方が良い。サテラの口ぶりだと、53層にいるのは間違いないだろう。……つまり、相手にするのが一番難しい相手はそこだけだ。ガーディアン達も強力で堅牢だが、理不尽な結界は持っていないからな」

 ユーリがそう説明。
 つまり、行くと言う事だ。その言葉にランスは笑い、そして清十郎・リック達も頷いた。

「とにかく、屈するのはよくないと思うですかねー。トマトはユーリさんにさんせーですよ! ユーリさんとなら、何処まででも登って行きますです!」

 トマトは、剣をぎゅっ!と握り締めて、抜き出し ブンブンと振り回す。
 ……その手が震えている事には勿論気づいた。精一杯の去勢を張っているのだ。ここで、足でまといにならない様に。トマトは、各段にレベルが上がってきているが、やはりこのメンツの中では実力は劣るから。

「ああ、そうだな。トマトはセルさんの事もフォローしてあげてくれ。彼女は、戦いの場に慣れていない。……頼めるか?」

 ユーリは、トマトにそう言う。
 信頼に満ちたその目。それを見たトマトは、ぐぐぐ、っと力を込めた。

「勿論ですかねーーー!! ユーリさんが、期待してくれるです! 頑張るですかねー!」

 腕の震えも震えもなんのその、だ。トマトは、セルの傍にピタリとつき、そしてセルは感謝の意を示していた。

 志津香とかなみがやけに静かだ。

「……大丈夫か?」
「……」
「……」

 ユーリの言葉に反応しない。
 臆してしまったのか?と一瞬思ったが、この2人は、一度戦い敗れているのにも関わらず、この場に来ている。それは多分無い、とユーリは判断して、もう一度声をかけた。

「志津香、かなみ。大丈夫か?」

 やや、声のトーンを上げた。それを聞いて流石に、気づいた2人は、同時にユーリを見た。

「ええ。大丈夫」
「はい……」

 志津香は何処か怒っている様で、そして、かなみは 何やら複雑そうだ。

「よし、なら行こう。……手がかりを掴まないとな。このビルも一筋縄ではいかない様だ」

 魔物の気配がする、と言っていたセルの言葉は正しい。唸る様な生き物の声等が聞こえてくるから。

「よーし! まとまったな。行くぞ! オレ様の下僕達!」

 ランスを先頭に一行は進む。この時ばかりは、下僕~云々はもうとりあえず置いておくユーリだった。気にしてるのは、自分だけの様だし。



 因みに、志津香やかなみが考えていたのは全く別の事。

「(あの、感じ)」
「(……あ、あの声)」

 2人の脳内で再生されるのは、先ほどのやり取りの映像。ユーリがランスの影から出ていき、そしてサテラと相対した。以前に、追い返したと言う事実は聴いているし、それだから、サテラが警戒をしているんだと思った。……ユーリが1人で向かおうとした時は本気で心配もした。

 なのに、サテラの感じ、仕草……それに、なんだかとても親近感が湧いてきたのだ。

 人外の化物、人類の敵。今回の事件の最大の障害の1つ。様々な形容が当てはまる魔人・サテラ、だったのだが……。

「(あの、表情)」
「(……か、噛んでたし。動揺も……)」

 何度、先ほどの光景を 脳内で再生しても、……何度考えても、サテラの表情が、言動が意味するのは1つしか感じられなかった。

 そう、云わば《恋する乙女》の様な様子だと言う事。
 
 薄暗かったから、赤くなっているかどうかは確認出来なかったけれど、一気に緊張した感じと言い、あの動揺具合と言い、ただ警戒しているだけじゃないと思うのは極々自然の事だ。攻勢に出る訳でもなく、その場にいたたまれなくなって退散していたし。魔人の年齢は判らないけれど、外見を考えたら 完全に女の子だから。

「………」
「………ぁぅ」

 ユーリには前科、と言うか、ヒトミの事もある。

 だから、まさか魔人も……?と考えに至ってしまったのは無理もないだろう。もしかしたら、あの魔人と 戦わずして、終える事ができる可能性も出てきたのだが、全く歓迎できない自分達も確実にいた。

 志津香に至っては、あの夢が、悪夢が 悪い意味で現実になりそうな気もするからだ。

「神が我々を守ってくださいます。……がんばりましょう」

 セルがそう言うと、ほとんど同時に探索を開始した。……志津香達の殺気が増していく気がしたが、ユーリは、多分サテラの件でだろう。と結論。間違えていないのだが……、本当に間違えていないのだが……、勿論この時自分が関与している事はいっっっ切、考えていなかったのだった。





 その後、ハイパービル内を進んでいく。



 モンスターとして、ワー婦警さんやワー看護婦さん、等らと交戦はあったものの、考えられるパーティの中でも最強クラスの構成であるメンバーにとっては造作もない事だった。……ランスが、女の子モンスター達をイジめていたのはいつも通りであり、それを邪魔するかなみと志津香もいつも通りだった。サムライも何体か現れたが、そこは男性陣があっという間に撃破。女の子モンスターであれば、情けをかけようものだけど、相手が男の子モンスターで、殺す気で向かってくるのだから、仕方がない。

 そして、更に奥へと進むと。

「ユーリさん。ここのエレベーターは第1エレベーターで、ID-CARDが無いと動かないみたいです」

 かなみは、注意書きを見ながらそう説明。
 ランスに、『何カンニングをしておるのだ!』とか、わけわからん事言われていたけど、今はかなみの頭の中は魔人の事、ユーリの事が大半を占めていて、ランスを無視できたのだ。

「なる程な。だが」
「ああ、第1と言うのだから、他にもあるだろう」
「探しましょう」
「がはは! その通り、オレ様はそれが言いたかったのだ」
「……どの口が言ってるんだか」

 呆れ気味の志津香。色々と考えて、思考の渦に飲まれかけたけど……、今はとりあえず目の前の事を解決するのが先、と一応は決着をつけた様だった。


 そして、さらにさらに先へと進んでいく。

「ユーリさーんっ! 宝箱の中身、世色癌でしたですかねー!」
「ナイスだ。トマト」
「えへへ~ですかねー」

 ここで、本領を発揮したのはトマト。
 無数に置かれていた宝箱を無事開ける事ができたのだ。それも、ノーミス・ノーコンティニューだ。流石、宝箱のスキルを持つだけのことはある、と感心する。

 因みに、宝箱から、ラレラレ石が出てきた時。

『ユーリさーん! 一緒にみましょー!』

 とトマトが提案してきて、ダメだしを食らったりもしてる。勿論とばっちりを受けているのはユーリだったりもする。魔人とあって、色々とあったのに、ほんと精神力が半端ない人たちなのだ。いろんな意味で。

 そして更に先へと進み無事第2エレベーターの前にたどり着いた。

 そこには表示はなく、動かすのは問題無いようだ。

「よし! さっさと53階へ行くぞ!」
「ダメよ。ランス。このエレベーターじゃ、52階までしかいけない」
「罠か……? いや、そんな事をしてもあまり意味はないだろう。1階位なら対してからわないし」

 ユーリは色々と考える。リックも同様だ。

「待ち伏せの可能性は十分に有り得ます」
「そうだな。心理的に言えば、52階、つまり一番53階に近い場所に行くだろうと考える。……そこに罠を、と言う可能性も高い」

 1~52階まで移動できるエレベーターだ。

 だから、サテラの言葉を忘れて、考えると52分の3の確率で遭遇するだろう。おまけに退去しようがないこの狭い空間で。文字通り一網打尽にする罠がある、と言う考えも否定は出来ない。最悪サテラ以外にも他にいる可能性も。

「馬鹿者、考えるまでもない! 52階だ。52階。ボロだが、それで我慢してやる!」

 ランスが勢いに合わせて決定。

「我慢なんかしなくてもいいんじゃない? ランスは歩いて上まで上がったら」
「馬鹿が! んな無駄な事誰がするか!」
「なら、さっさと行くの! 考えなしに話の腰をおらずに」

 ランスが決定したのに、渋々とエレベーターに乗る。全員が乗ったところで、エレベーターが上へと動き出した。パネルに表示されている数字がどんどん上がっていく。そして、51階に差し掛かり、更に少し上に上がった所で。

「ん」

 ユーリが非常停止ボタンを押した。

“ガコンっ!”と言う音と共に、エレベーターは沈黙する。

「おいコラ! 何をするのだ。 このオレ様の偉大な舌を噛むところだったではないか!」

 ランスがモンクを言っていたが、とりあえず、何も言わずにした事を侘び。

「まさか、階層の中間、51.5階を狙って降りるとは思ってないだろ?」

 ユーリはそう言うと、ゆっくりと閉じられたエレベーターの扉に手をかけ、力尽くで、ゆっくりと開いていく。
 リックも意図に気づいた様で、片方の扉を担当し、清十郎が開いたら、直ぐに確認できる様に目を凝らした。少し開いたその先には52階と51階の入口が見えており、51階の方には誰も待ち伏せはなく。

「52の方は見えづらいな」

 やや、低かった様で清十郎はそう答えた。そこで。

「私が偵察に行きます。身軽ですので、任せてください」

 かなみが名乗りを上げた。
 まだ、52階までは少しばかり距離がある為だ。仮に、52階で待ち伏せをされていて、エレベーターでそのまま行ってしまったら……とは考えたくない。大きな機械だから、少しだけ動かす!等と言う微調整もできそうにない。

「……わかった。危険だと、判断したら、直ぐに戻ってこいよ」
「頼むわ。かなみ。……気をつけて」
「任せるですかねー。かなみさん!」
「神の御加護を……」
「……異常があれば、バックアップはする、異常があれば声を出せ」
「はいっ」

 皆の言葉を胸に、かなみはぐっと力を入れた。そして、ランスはと言うと。

「がはは、下から押し上げてやろう!」

 イヤラシイ笑みを浮かべながら、ワキワキ~と、手を動かす。明らかに、揉むつもり満々だ。かなみのおしりを。

「いやよっ! これくらいなんとでもないわ!」

 かなみは否定しつつ、扉に手をかけた。
 それを見て、扉を開ける力込め、開いたままの状態をキープしているユーリは。

「かなみ、オレを土台にして良い」

 そう言っていた。
 正直、ユーリを踏みつけるなんて事はしたくない。でも……正面から、扉に手をかけている以上、接触は致し方ない。

「は、はい。すみません……」
「構わない。……ただ、気を付けろよ」

 ユーリはそう言うと、かなみは頷いた。ゆっくりと、ユーリの身体をつたって登る。こんな状況じゃなければ、ユーリと身体を密着出来ている事に、興奮を覚えそうだが……、あいにくそうはならなかった。鉄等で出来たエレベーターが通る通路の突起物等に手をかけ、更に上へと登る。

 かなみは、ゆっくりと気配を殺しつつ覗き込んだ。

 どうやら、敵はいない様だ。

「みなさん。大丈夫です。……気配を探りましたが、少なくともエレベーターエリア周囲に気配はありません」

 かなみがそう答えると、完全に52階のフロアへと登りきる。

「わかった。エレベーターを動かす。当たらない様にしろよ」
「はい!」

 ユーリは、再びエレベーターの操作盤に手をかけた。

 因みに、ランスはと言うと、密室の状態なのをいい事に、トマトやセルに迫り……、志津香に粘着されていたのだった。




 そして、一行は52階に降り立つ。




 エレベーター前のエリアには敵の影はなかったが、1ブロック進んだ先に、大きめの部屋があり、そこで大量の女の子モンスターと出会ってしまった。部屋にびっしり、その外にもびっしり……、不自然な程にいる数だから、おそらくは魔人やガーディアン達を恐れて逃げ出した可能性もあり得る。魔人と魔物がケンカをする事は中々無いのだが、突然縄張りに入ってこられたら、と考えたらあり得るのだ。

「流石に鬱陶しいわ」
「だりゃー! トマトの剣、ユーリさん直伝の剣技受けてみるですかねー!! レンゴク・トマトですかねーー!」
「はぁっ!!」

 志津香、トマト、かなみは、セルを援護しつつ、各個を撃破。
 清十郎やリックも普通のモンスターであれば、体力消耗避けられなくとも、倒すことは問題ない。

「……BOSS達と合間みえる前にあまりこう言う戦いはしたくなかったがな」
「だぁ! ワラワラと出てくるんじゃない!! 不細工モンスターめ!!」
「短期戦です! 早く倒し、戦線を整えましょう」
「心得ている!」

 薬や、セルの神魔法も無限ではないのだ。無駄な消費は回避したいのだが、この数は仕方がないだろう。

「……不安要素だ」

 攻撃を全く受けなければ問題ない……事はない。
 疲労と言うものは蓄積していくものであり、魔法使いも戦士も皆同じだ。疲労が貯まれば、技も鈍るし、魔力も現象するから。

 こんな事なら、何とかだまくらかして、ロゼ位引っ張ってきたら良かったと思ったユーリ。色々と無理難題をふっかけられそうだが、全部受諾したら或いは……とおもえるのだ。今となっては考えても意味はないが。

「煉獄・斬光閃」

 ユーリは、力を使うが、遠距離攻撃を多用し、仲間たちと自分に、敵からの反撃をもらわない様に距離をとって攻撃を続けるのだった。








 そして、無事戦闘も終えた後。

「大丈夫か? 皆」

 ユーリが状況を確認した。ケガらしいケガはしていないようだが。

「オレは問題無い」
「同じく。僕も大丈夫です」

 リックと清十郎は大丈夫そうだ。ランスは……。

「だぁぁ! 鬱陶しい!!」

 残党相手に暴れている。間違いなく、十分過ぎる程元気だ。

「ふぅ…… ま、大丈夫でしょ」
「私も、いけます!」
「トマトもですかねー。トマト印の竜角惨が力を振るうですよー!」
「私は、皆様に守っていだいただきましたので。大丈夫です。皆さん、ありがとうございました」

 女性陣たちも、問題はなさそうだが……、コンディションは間違いなく落ちているだろう。それ程の物量だったから。

「(並みの相手なら大丈夫だが……)」

 ここから、待ち構えている相手の事を考えたら、どうしても不安要素になってしまう。
 気力が減った状態を考えたら……、ゲーム的に考えたら動けなくなる。勿論、そんなわけないが、実際には注意力が散漫になったり、力が落ちてしまったり、不協和音になってしまうのだ。だから、冒険者にとって自身の体調は、体力にも負けない位重要なのだ。

 だが、ここまで来たら引き返すのも得策とは言えない。

 結局はここまで来なければならないのだから。精神的に、来るだろう。ここでギブアップをしてしまった、と。

「……治癒術士(ヒーラー)がもう1人、もう 1人居れば全然違うと思うんだが」

 ユーリはそう思う。
 そもそも、ヒーラーの割合は、この部隊では圧倒的に少ないのだ。その内の1人であるシィルが攫われてしまった、と言う事も、戦力を考えたら大きいのだ。

「おや? 回復が必要ですか。では、任せてください」
「ああ、助かるよ」
「みんなのいたいのいたいの、とんでけー」

 そう、今後の事を考えたら、更に必要になってくる。

 ヘルマン軍の中枢。そして、サテラ以外の魔人の2人。前線に来ておらず、控えているところを考えると、間違いなくサテラより上だろう事も推察されるのだ。……疲労も出てくる今は特に。

「はい。どうでしょうか。一通りは施しました」
「ああ。ありが……と……?」

 この時、漸く違和感に気がついた。いつの間にか、人数が9人になっていた事にだ。そして、自然に溶け込んでいる。違和感なく。

「誰だ!」
「……っ!」

 清十郎もやや離れていた為、気づくのが遅れた様だ。そして、リックも。

 だが、ユーリが手で制した。誰が来たか、判ったからだ。

「大丈夫。オレの知り合いだよ。皆」

 志津香ら女性陣たちも気にしていた様だが……、取り合えず警戒を解いていた。その中で1人が前に出てくる。

「クルックーさん!?」
「おや? ……セルさんもいらっしゃいました。どうも」

 セルだ。クルックーの姿を見た時から、驚きの表情だったのだ。どうやら、同じAL教であるから顔見知りだった様だ。

「この人の事、知ってる人ですかねー? セルさん」
「も、勿論です。とてもお若いのに、司教見習いをしている素晴らしいお人です。後の司教候補の1人として上げられているお人です」

 4人しかいない司教。その上に法王が控えているだけの為、トップ10には入るであろう地位の持ち主なのだ。見習いと言うポジションが他にあるとは聴いていないから、実質的に考えれば、5人目の司教とも言える。

「いえ、私よりも熱心な貴女にこそ、相応しいと思われますよ」
「あ、ありがとうございます。これからも 私もがんばりますので」

 セルがすっと頭を下げた。……ユーリが思っていた以上だった。

「久しぶり、だな。と言っても数日ぶり程度だが」
「はい。お久しぶりです。ユーリ」
「回復、助かったよ。ありがとう」
「いえ、問題無いです」

 ぺこり、とクルックーは頭を下げた。

 そのやり取りを見てた女性陣はと言うと。

「……またライバルですかねー」

 まず、トマトが警戒心を出し、声を上げていた。

 それは、かなみ、志津香も同じ様子、決して言葉にはしてないけど。

「……それより、ランスが気になるわ」

 志津香はランスの方を見つつそう言う。

「何かあったの? 志津香」
「なんでですかねー?」

 志津香の言葉にかなみもトマトも判らない様だった。なんで、主にユーリの話だったのに、ランス?と。

「いえ……、女の子がここに来たのに、なんの反応も見せずに、あんな感じだから」

 志津香が指差した方にいるのはランス。ある程度、発散できた様子で、今は鼻をほじっている。興味なさそうに。

「ぁ~……確かになんか不自然だね」
「これは、槍でも降るんじゃないですかねー?」

 かなみとトマトは納得していた。が、別に何かがいがあるわけでもないから、そのまま放っておくのだった。

 んで、ランスはと言うと。

「(うーむ。なぜだ? 女の子だというのに、全く興味が向かん。それなりに可愛い外見なんだが……)」

 そう考えていたのだ。クルックーの方を見て、ボーイッシュ系だ! と一瞬は考えたものの、ハイパー兵器が全く反応しない、と言う事が直ぐにわかった。

「(ふむふむ、オレ様も大人だからな! ガキのよーに所構わず、欲情しなくなった、と言う事だな)」
「がははは! 流石オレ様!」
「……何突然、馬鹿みたいに笑ってんのよ」

 突然笑い出したランスを見て、志津香は苦言を言うのだった。

「それで、クルックー。何でここに?」
「ああ。ユーリを探してまして、たまたま此処に」
「……たまたまで、来れる、来る様な場所じゃないと思うが」

 ユーリは、相変わらずな感じのクルックーを見てそう思う。

 そして、クルックーが合流した事によって、状況が一変するのだった。


                                    






























 


〜場所紹介〜


□ ハイパービル

 自由都市地帯にある古くからある建造者不明の謎の巨大ビル。
地上201階であり、制御コンピュータはエロヤックALV。度々バグに襲撃されて困っているらしい……。



 
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