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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第63話 襲撃の魔人サテラⅡ

 


 町の外から、巨大な影が近づいてくる。今は深夜。夜の闇が周囲を支配している時間帯だと言うのに、その輪郭ははっきりと見えてきた。その異形な姿を。

「……人ではない、な」
「アレは ヘルマン兵よりも遥かに巨体です」

 清十郎とリックは、僅かに滲み出る汗を拭う。
 それは、先ほどまで模擬戦をしていたから、と言う理由もあるが、これからやってくる相手が只ならぬ力の持ち主だと言う事を瞬時に理解した様だ。

「ちっ……!!」

 ユーリは、この瞬間、はっきりと判った。襲撃者が一体相手が誰なのかを。そして、考えられる最悪の事態の可能性もあると言う事を。

「テキ、シニン……。サテラサマノ メイレイニシタガイ セントウカイシスル」
「………」

 巨体なその姿。見覚えがある。あの時(・・・)のガーディアンの2体だ。

「清、リック」

 ユーリは静かに口を開く。
 あれ(・・)の事を手短に伝える為だ。リックも、現れた相手がガーディアンだと言う事は直にわかった。だが、通常のガーディアンのそれとは比べ物にならないと言う事は知らない様だ。……ガーディアンの力量は、その製作者の力量に比例する。
 つまり、持ち主が強すぎると言う事だ。

「……あいつ等はただのガーディアンじゃない。云わば魔人の使徒だ」
「っ!!!」
「……ほう」

 リックは驚愕し、清十郎は冷や汗を感じながらも、笑みをこぼした。
 魔人達の動きは正直判らなかったから、いつ現れてもおかしくない、と思っていたが まさかこのタイミングとは思っても居なかったのだ。まるで、奇襲をしてくるかのようなタイミング。あの者達の力量を考えたらそんな、小細工はしてこないだろうと言うのが、当初の考えだったのだが、当てが外れた様だ。

「2人とも気を抜くな。……集中力が切れたら、即殺られるぞ」

 静かに、そして力強くそう言うユーリ。その言葉には、確かに説得力があった。

「言われるまでもない。……面白い。この世界に来て、一番の強敵だ」

 清十郎は、2本の剣を抜き……、そして鞘を放り捨てた。
 かつて、自分がいた世界では その刀の鞘を捨てると言う行為は勝つ気がない、勝てると思ってないとされている行為だ。故に『敗れたり!』と言う台詞も伝わっている程だ。何故なら、戦いに勝てば、刀を鞘に納めるのだが、それを捨てているのだから勝負を捨てていると取られるのだろう。

 だが、清十郎はそうは思ってなかった。

 慢心の一切を捨て、そして退路をも断つ。相手は明らかに格上だ。2本ある鞘を捨て、少しでも身軽な方が良いに決まっている。

 ……あの2体の異形な姿の者を倒してゆっくりと鞘を拾えばいいのだから。


「此処が正念場。……リーザスの最後の砦だ。此処からの通行料は高くつくぞ」

 リックは燃える様な赤く長い剣を引き抜いた。そして、剣に闘気を込める。所作はユーリと何処と無く似ている行為。その赤い刃が更に輝きを増したかの様に見えた。

 リックの言うとおり、此処が解放軍の総本山だ。此処が落とされると言う事、即ちリーザス壊滅に繋がる。その事実を強く認識していた。

「……合図だ」

 ユーリがそう呟く。自分に、そして2人に。……相手に。

 2人は丁度並列に並んだ陣形。当然、3人とも超がつく程のアタッカーだからだ。

 ユーリの言葉に、2人は頷いた。それを視界の端で捕らえると、剣に力を集中させる。

「煉獄……」

 それは、居合いの構え。鞘にまで帯びる煉獄の黒炎の闘気。

「………」
「………」

 僅かだが、2体のガーディアンは歩く速度を遅くした。警戒をした様だ。……この場にユーリが居なければ、そこまで警戒はしなかっただろう。あの時の戦いを学習したからこその行動だった。

 そして、何よりもサテラの命令、殺さずに抑えると言う事を考えた上での事だ。



「斬光閃!」

 ユーリが放ったのは、居合いの速度から繰り出される飛ぶ斬撃。
 それは、上空に飛翔し、そして夜の闇だと言うのに、大音響とそして光にも似た何かが弾けて飛び散った。

「行くぞ!」
「応ッ!」
「いざ……!」

 人間界屈指の実力者である3名、そして人あらざる者、魔人従者、2体のガーディアンとの戦闘が始まったのだった。










~レッドの町・宿泊施設~



 これは、よく言われていた事だった。ユーリに言われていた事、だった。

『オレは町の外に、入口の傍で休息をとっている。……何かあったら、皆に知らせる。その時の事、頼めるか?』

 ユーリは かなみであれば、その合図を見逃さないだろう、と信頼して伝えたのだ。かなみは、信頼をしてくれている事はとても光栄であり、嬉しかったのだが、それ以上に感じたのは戸惑いだった。

 ユーリは これまでも最前線で、強敵と戦ってくれている。戦い続けてくれている。

 自分たちにもよく休息を、と言ってくれているが、かなみは ユーリにも夜の休息時には、休養をしっかりと取ってもらいたいと思っていたのだ。何より、見張りと言うその役割は任せて貰いたかった。自分は……忍者なんだから。陰ながら守護するのが本来の役割だ。

 でも、その後のユーリの言葉を聞いたら、頷く以外の選択肢はなかったんだ。

『……かなみは、皆に伝令を。そして ヒトミや優希、戦えない者を頼む。危険な場所から、逃がしてやってくれ』

 その事だった。
 ヒトミとはよく就寝を共にしている。忍者である以上、自分も色々と諜報活動をしたり、町の様子を見たりとしていた。だけど、夜は彼女達の傍に居てくれという事を聞いていたから。……自分にできる事にも限界があるから、と言って笑いながら。

 就寝やお風呂も一緒にしている。本当に仲が良い友達……、姉妹の様に。

 それは、ほかのカスタムの皆とも同じだ。良い関係を築けて、本当に嬉しいと思っているし、感謝もしている。

『かなみお姉ちゃんっ!』
『かなみさん……!』

 ヒトミや優希はメンバーの中でも特に歳も若い方で、守ってあげたいと言う気持ちにはなるんだ。……守りたいと言う気持ちが強く持てるんだ。

 でも、正直そんな何かあった時、なんて来て欲しくなかった。戦争中であり、リーザスを奪還する為とは言え、危ない状況だとは言え、そんな事なんてあって欲しくなかった。ユーリ程の実力者が、危険を知らせる程のことが起きるなんて。

 だけど……それは来てしまった。

「っっ!!」

 かなみは、はっきりと見た。町の入口付近。夜の闇の空に 何かが光って弾けたそれを。それが、ユーリが言っていた合図なのだという事は直ぐに判った。

「お、起きてっ! ヒトミちゃんっ 優希ちゃんっ!」

 だから、かなみは急いで皆を起こした。彼女達を起こしたら、ほかの皆を。

 ユーリとの約束を守るために。……皆を安全な所へと誘導する為に。そして、ユーリの力になる為に。














~レッドの町・入口~




 ガーディアンのその実力は、紛れもなくこれまで戦ってきた人間のそれを遥かに上回っている。その固い身体は如何なる刃も通さず鈍器でも崩せず。その固い拳は、人間のヤワな身体であれば瞬く間に貫き、叩き潰してしまうだろう。

「……成る程。まさに化物と呼ぶにふさわしい者達だな」

 清十郎は、二刀を振るい、ガーディアンの所々に傷を作った。だが、それは人間で言うかすり傷程度にすらなっていないと言うのはよく判る。人間であれば、血が出て影響が有るやも知れぬが、相手は例え傷を作ったとしても、その場が欠けるだけだ。
 まるで効果がない。

 それでも笑みを崩さない清十郎は流石の一言に尽きるだろう。

「ウラァァ!!!」

 清十郎の背後から襲いかかるガーディアン、イシスの拳撃をリックの剣閃で防ぐ。防御にも攻撃にもなる剣術は見事なもの。だが、それでも相手の拳に手傷を負わせた程度だった。

「……おかしい」

 遭遇し、戦闘開始してから、数合、攻防が続いたが、この者達の実力がこんなものじゃない事はユーリはよく知っている。一度、途中までとは言え、直接ぶつかった相手なのだから。あの時のガーディアンの攻撃。無表情で繰り出す一撃一撃は、まさに無慈悲の攻撃。土塊だからこそのもの、だと思えたが、今はそうでもない。そして、人間だから、と言う理由で、遊んでいるようにも見えない。

「ユーリ!」

〝がきぃぃぃんっ!!!〟

 背後より迫ってきたシーザーの攻撃を察知した清十郎が、素早く割り込み、二刀を交差させ、受け止めた。

「散漫だ! そんな余裕があると言うのか!?」
「いや、違う。こいつらは、何かを狙ってる。こいつらの実力はこんなもんじゃ……っ!!」

 ユーリはこの時に気づいた。否、気づくのが遅すぎると後悔した。

 このガーディアン達の主は、あの魔人(・・・・)だ。

 ガーディアンは従者。なのに、その主と離れて行動している意味は一体なんだというのだろうか?
 あの時は3人が一緒に居たはずなのに、今はあのサテラがいないのだ。

「まさか、皆の所……っ!?!?」

 そう口走った瞬間、イシスが距離を一気に詰めてきた。間違いなくこれまでには見せた事のない速度で。

「ユーリ殿ッ!!」
「大丈夫だ」

 凶悪な速度のままに繰り出される拳。
 その破壊力は、間違いなくさっきまでのそれとは一線を超えているだろう。だが、ユーリも負けてはいない。抜刀の鞘走りを更に加速させ、渾身の居合で迎え撃ったのだ。

「煉獄・居合!」
「………!?」

 イシスは、喋れない。
 喋る機能が備え付けられてないからだ。だが、想う事はできる。今の攻防、間違いなく、初速は自分が上だった。相手はテンポが遅れた筈なのに、追いついてきたのだ。つまり攻撃の速度の領域では 自身よりも遥かに上だと言う事。

 今のこの男は、あの時の男じゃない。と言う事は何処かで判っていた。
 あの状態じゃない者。確かに人間にしては、強い。と思っていたが、ここまでとは思いもしなかったようだ。

「サテラサマノ、ジャマハ、サセナイ!」
「………」

 ガーディアン2人は、『決して逃がさない』と言わんばかりに構えた。
 その気迫と殺気が等しく混じりあった気配は、この場で背を向ければ即座に殺られると言う事を理解するのに十分過ぎた。

「こいつら以外にもまだいると言うのか」

 清十郎は、その言葉を聞いて、軽く汗を拭った。ユーリはその言葉に頷く。

「ああ、……こいつらの主だ。魔人サテラ」
「魔人。……こいつらよりも遥か上、か」

 清十郎は、この時ばかりは少し、驚きの表情を見せていた。
 確かに、清十郎は魔人にはこの世界に来てまだ会った事も手合わせをした事もない。真の意味での人外との戦いはこのガーディアンが初だ。その力は今まさに感じている。底知れぬパワー、そして巨体から考えられない程のスピードも。

 かの世界では、銃弾すら剣で防ぎ、コンクリートを素手で砕き、鉄をもへし折った体術、そしてその豪腕から繰り出す剣術が殆ど通じていないのだ。

「く、くくく。面白い」

 命の危険を感じた死合と言うものは、まだ知らない。
 ゲリラ戦においては、確かに多勢に無勢だったが、それでも、まだここまでのものは感じた事がない。

 だが、それが、それこそが嬉しい。清十郎は強くそう想っていた。

「くっ……、まさか魔人が直接乗り込んでくるとは」

 リックも、流れ出る汗を感じながらそうつぶやいていた。
 剣の速度、即ち攻撃の速度はこちらがやや優勢だ。だが、耐久力と攻撃力では間違いなく向こうが何枚も上手だろう。それも、全力を出し切っているか怪しい相手がだ。

「……皆を信じよう。オレ達は全力で、こいつらを叩きのめす。……こいつらとサテラが合流したら、敵の戦力は倍どころじゃない」

 ユーリは剣を構えた。
 正直、魔人相手に皆が勝てる、とは思えない。あいつらには攻撃が通じないのだから。理不尽極まりない代物を、生まれたその瞬間から持ち合わせているのだから。

「(……ランス、そっちは何とかしろよ! 皆……!)」

 ユーリが思うのはあの男の事。
 才能限界値が∞と言う本来なら有り得ないスペックの持ち主。自身の事も十分に有り得ない者だと言う事は認識しているが、同じ気配を纏っている男。鍛えれば鍛えるだけ、際限なく強くなる男。

 ……なのに、戦いを得てしばらくすると、下がってしまうと言うこれまた有り得ない体質?

「(皆……、無事でいろよ!)」

 直ぐに手助けに行けない自分に歯がゆささえ残っているが、そんな雑念を持って今のこいつらとは相手ができない。……それに、今はあれ(・・)を使う事も出来ないのだから。切れない切り札程意味のないものは無い。だが、それでも。

「何を企んでいるのかは想像が付く、が」

 ユーリは剣を、2本目の刃、忍者刀を引き抜く。

「……邪魔はさせてもらおう!」

 そして、二刀を構えた。

「応ッ!!」
「いざッ!」

 ユーリの言葉とほぼ同時に 再び清十郎とリックも構える。

「サテラサマ ノ メイレイハ ゼッタイ!」
「………!!」

 シーザー達も構えた。
 ここからが全力。サテラが別の場所にいると言う事がバレた今、相手もこれまで以上にかかってくるだろう。そして、自分達はこの者達の足止めしなければならない。殺さず足止め。それは、全力で戦い続ける、それよりも遥かに力がいる事だから。

〝がきぃぃぃぃ!!!!〟

 異形のガーディアンの拳と人間の刃。

 その二つの武器が再び交差し合う。

 第2ラウンドの始まるのだった。

















~レッドの町・解放軍司令部 1F~


 外の尋常じゃない戦闘音は当然街中に響いている。
 ユーリが、知らせたその合図のそれよりも遥かに大きな衝撃音がほとばしっているのだ。何かが、起きた。それを察知出来ない筈はない。だからこそ、すぐさま、外へと向かおうとしていたのだが。

「がはぁっ!!」

 誰1人として司令部のある建物から外へはいけなかった。

「やっぱり、人間って雑魚ばかりか。……つまり、アイツ(・・・)が別格なだけと言う事だな」

 山の様に積み上がっているリーザス兵達の前に、黒い鞭を構えた赤毛の女がいた。

「っ……、なんですか、この禍々しい気配は」
「あの女からです……!」

 比較的、入口の傍の部屋で明日のジオ戦の準備を進めていたエクスとハウレーン。だから、直ぐに相対することができた。……絶望的な戦力を持つ相手と。

「また、雑魚が来た。でもま、そこの連中よりはやるかな? ちょっぴりだけだけど」

 鞭を手に持ちながら歩くサテラ。

「いくら問題無いからって、サテラ1人じゃ、疲れちゃった。もう1人くらいガーディアン作っておけば……、でも もう1人いても アイツにぶつけてたわね」

 サテラはそう言うと、ぶんぶんと頭を振った。手早く済まさないと、シーザー達が危ないと思えるからだ。

「何者だ! ここをリーザスの解放軍、指令本部だと知っていての狼藉か!?」

 ハウレーンが剣を構えながら間合いを詰めた。

「勿論よ。……ここにランスのバカが居るはず。さっさとサテラのとこに連れてきて。急いでるんだから」
「ランス殿に……? ま、まさか……」

 エクスの中で最悪のシナリオが頭の中を過ぎっていた。ランス、そして魔人。連想されるのは1つしかなかった。

「こんな事なら、あの時に聖武具、奪っとけば良かった。……ま、まぁ そのおかげでアイツのこと、サテラは知れたんだけど……ぁぁああ! もうっ! とっとと連れてきて! サテラ、今気が立ってる」

「っっ!!」

 その最悪のシナリオ。それを魔人自らが言葉にしていた。連中が狙っているのはカオス。……そして、ランスがその鍵である聖武具を持っていることを知った。(厳密には今はないが、魔人が知る由もない)

「黙れ! リーザスの敵っ! かくご……っ!?」

 ハウレーンが一歩、サテラに近づこうとしたのだが。

「あまりにも遅いから、もうヤっちゃった。サテラ、気が立ってるって言っただろ。雑魚」
「ぁ……が……」

 サテラの高速の鞭がハウレーンに直撃。
 その一撃は、ハウレーンの顎を捕らえた。鞭で顎を……、と思った時には脳が揺れ、頭蓋に数十回以上左右に叩かれる。そのまま、意識は闇の中へと沈んでいった。

「ハウッ……!!」
「じゃま」

 エクスもハウレーンに近づくまもなく、首にサテラの一撃を受け、昏倒した。

 それは、リーザス司令本部となっている建物、1階の精鋭全てが壊滅した瞬間だった。






~レッドの町・解放軍司令部 2F~


 足早に、1Fへと続く階段へと駆けつけてきたのはバレスとレイラ、そして黒の軍の精鋭たちだ。

「あの者か!」

 バレスは、即座に理解した。
 1Fにいる者のその佇まい、そして威圧感。全てがこれまでに感じたことの無いものだったからだ。

 何度となく戦場で相見えてきた男、人類最強と称されているあのトーマでさえ、ここまでの威圧感は放てないだろう。だからこそ、本能的に理解できた。

「魔人」

 相手が、あの魔人だと言う事を。

「バレス将軍!」

 レイラも横に並ぶようにたち、構える。相手の強さは判っているつもりだ。自分は洗脳されていたとは言え、魔人の傍で恐らくこの場の誰よりもいたのだから。底知れないあの気配を、忘れる筈もない。精神に刻みつけられているのだから。

「また、出てきた。何だお前ら。ザコの癖に」

 サテラは、そう呟くと鞭を手に持った。

「……バレス将軍。こんな奴、蹴散らしてやりましょう! 我らリーザスの力を思い知らせてやりましょう!」

 レイラはそう言う。……彼女は 相手との力量の差を見極められない程未熟ではない。相手の力量をしれることも、強さの内だからだ。だから、判っていた。絶望的なまでの戦力差を。

 でも、今臆する訳にはいかない。

 ここが、リーザス最後の砦だから。

「きゃははは! 疲れてる流石のサテラも思わず笑ったぞ? このサテラを蹴散らす?」

 サテラは、額に手を当ててひと笑いした後。冷酷に睨む。

「バカ」

 その一言が戦闘開始の合図だった。

「かかれ!!」

 バレスの号令と共に、リーザスの兵士たちが突撃を開始した……が。

「サテラ、暑苦しいのは嫌いなんだ。散れ、ザコ」

 サテラが振るう鞭の速度は亜音速。人間の目に映らぬその速度は、攻撃直後、攻撃を貰ったと認識さえ出来ない。

 吹き飛ばされ、意識を手放す瞬間に、理解するのだ。圧倒的な力の差を。

〝ずぎゃっ!!〟

 あの鞭と、その魔人の姿形からは、想像が出来ない。人間がまるで紙屑の様に飛んでいるのだ。
 ある者は天井部に、またある者は壁に、其々が身を持って風穴を開けた。

「お、おのれ!」
「み、みんなっ!!」

 一瞬で敗北を喫した仲間を助ける余裕などない。もう、目の前にサテラ、魔人が来ていたのだから。

「わかったらどいて。サテラが用があるのはランスのバカだけ」
「どくわけにはいかぬ!」
「ここからは通さないわ!」

 バレス、レイラの2人が立ちふさがるが。

「バカみたい。まだやる気なの……? サテラの足元にも及ばないってこと、理解できないのか? こいつら」
「敵うかどうかの問題じゃない!」
「その通りじゃ! 粉骨砕身。この命尽きるまで!」

 バレスとレイラは互いに構えた。

「リーザスに身を捧げた戦士として、例え敵わなくても」
「敵に背は向けぬ!!」

「あっそ。もういい。急ぐから」

 並みの敵であれば、或いは気圧されたかもしれない程の気迫だ。人間界の中でも屈指の実力者達の裂帛の気迫。……だが、相手は並ではない。……それどころではない相手だ。

 勝敗が喫するのはまさに一瞬だった。

「さて、ランスのバカは何処だ?」

 悠々と、2Fフロアを歩いていくのは、サテラ。

 2人は地に伏し、動かなくなっていた。持っていた剣、斧も粉砕されて。

「む、無念……」
「り……っく……」








 そして、更に奥。
 バレス達が負ける数分前の事。

「かなみ、良いか? アイツが来たら、挟み討ちで一気にケリをつけるんだ。それで、志津香はメルフェイスと一緒に、後方から構えていてくれ。あんまり思いたくないが、オレ達が突破されたら、後は頼む」

 ミリ、かなみ、志津香、メルフェイスの4人が策を練っていた。アスカも、と思ったが彼女の能力は高いが、今は眠っている。そして、相手と彼女の歳を考えたら、参加させるべきじゃないだろう。そして、戦力としては申し分がない。十分すぎる程力を備えているメナドは まだ万全じゃない為、医療施設で眠ってもらっている。
 トマトやラン、ミルと言ったカスタムの精鋭達も、連日の無理が祟っているだろう事と、就寝場所が司令本部から 離れた位置にあった為、気付かなかった様だ。


 使える策は少ないが、今できる最大限の攻撃方法はこれしかない。


 屋内の戦闘だから、1番の火力を誇るチューリップ3号も使う事が出来ない。下手に使えば倒壊し、こちらが全滅する可能性だってあるのだ。方や志津香やメルフェイスの魔法は、範囲も絞ることができ、無駄な破壊もしない。間違いなく最大最強の火力は魔法使い達だ。

「ええ。アイツは1人。……あの時はガーディアンの化物も入れて3人だったわ。……ユーリさんが、ユーリさんたちが 抑えてくれているのよ! なら、絶対にここは通さないっ! 私の全部をかけて……アイツを止めてやるッ」

 かなみは、忍者刀に力を入れた。

 ユーリの言葉を忘れずに、日々の鍛錬を欠かさなかった。忠臣となれる様に、……彼と釣り合う実力者になるために。メナドと共に頑張り続けたんだ。

「……任せて。あんた達も絶対に死なせない。私の魔法の準備が出来たら叫ぶから、絶対に飛び退いて。……判った?」

 志津香の言葉に、ミリもかなみも頷いた。心強く感じる。

「私も全身全霊を込めて放ちます。……私は、この様な時為に、あの秘薬を使ったのです。私も、私の全てを賭けます」

 メルフェイスも強く頷いた。己の能力を向上させる秘薬。そのせいもあって、日常生活に支障がきたしているのだが、後悔はない。寧ろ、感謝しかない。この時の為に、自分がいる。自分の力がある、と考えられる様になったから。

 そして、4人が同時に頷いた。

「かなみよ、志津香よ」

 最後に、それぞれの配置につこうとした時だ。ミリが2人に声をかけた。

「はは、最初に言うが、死亡フラグって思うなよ?」
「……こんな時に変な冗談は止めて」
「そうですよ! 皆で、皆で勝つんですから! 今日勝って、明日に繋げるんですから!」

 ミリの言葉に思わず強く言うかなみと志津香。

 ……だが、相手が相手。相手が誰なのかは判っている。

 あの時のアイゼルと違って、敵側は退く様子など全く見せないのだ。完全に攻めに入っている魔人だ。

 そして、何よりも こちら側には ユーリ達もいない状況。何を言うかはわからないが、言ってしまうのも無理はない、と思ってしまっていた。

「勿論だよ。オレだってそう思ってるさ。ミルは残してきてるんだからな。……だからだ、ここで勝って、生きて帰れたら。明日の日を拝めたら……お前ら、絶対にアイツ(・・・)に想いを伝えろよ?」
「「っ!!」」
「ん……」

 メルフェイスは、少しだけ 離れた。そう言う場合ではないがこの話は彼女達のものだから。勿論 最低限度の距離で。

「言っとくが、これは冗談の類じゃないぞ? そして ふざけてる訳でもない。……それくらいの気概で攻めたいって事だ。勝って想いを伝えるまで、……死ねないだろ? お前らは特にさ」
「ぁ……ぅ……」
「…………」

 かなみは、かぁぁ、と赤くなるのを必死に止めた。
 志津香も、同様だ。仄かに表情が染まっている。ミリはふざけて言っている訳じゃない。少しでも、活力。負けるものかと言うそれを自分達に入れる為のはっぱをかけた。

 2人ともが そう理解した。だからこそ 頷いたのだ。

「うん。ゼッタイっ」
「……勝って、生きて帰れたら。ね」

 志津香もかなみも、ゆっくりと頷いた。相手が相手。これまでで、最大の脅威なんだから。……これも考えたくないけれど これが、本当に最後かもしれないんだから。

「よし! いい答えだ。ならオレはそれをおかずに頑張るとするか! ……オレも入れさせてくれよ? ヤル時は勿論!」
「……それは、勝っても負けても嫌!」
「当然ですっ!!」

 ……こんな時にする話じゃない。だけど、いい具合に肩の力は抜けただろう。

「……きました。皆さん。もう少し、後数十秒でここに来ます」

 メルフェイスが先を凝視した。
 魔法で、この通路の先を見る事ができる様に監視魔法を設置したのだ。……女が1人、近づいてきているのが判った。

「よし。かなみとオレは左右から。……志津香達、その後は頼んだぜ?」
「ええ」
「判りました」

 それとアイコンタクトを最後に、別れた。必ず勝って生き残ろう。そう胸に秘めて。

 ………だが、敵の戦力は、遥か強大。





 足音が聞こえてきた。
 それは、普通の人間のものと何ら変わらない物。でも、なぜだろうか、ありきたりな足音の筈なのに、絶望の様に聴こえてくる。だが、行かなければならない。決して引くことのできない戦いだから。

「今だ! 行くぞ!」
「はいっ!!」

 ミリがドアを蹴破る音と共に、かなみも飛び出した。

「ふーん。そんなトコに隠れてたんだ。ま、サテラには関係ないけどな」
「舐めんじゃねえ!! 引っ捕えて、存分にその身体を嬲ってやる!」
「やぁっ!!」

 ミリとかなみの攻撃が同時に、ヒット。だが、まるでダメージがないと言う事が判る。ダメージどころの話じゃない。攻撃が、当たらない。サテラの身体に当たる前に何かに当たって、防がれたのだ。防いでいる様子は一切無いと言うのに。

「サテラ、遊んでる場合じゃないんだ。さっさとどけ」
「っ!!」

 サテラの鞭は、かなみを捉えた。
 ……尋常じゃない速度の攻撃だったが、何とか飛び退くことができた。

「へー、ザコの癖に、動きは早いじゃん。ザコ、って言う虫って所か?」
「舐めないで!! リーザスの為にもっ、あんたを倒す!!」

 かなみは、両の手を合わせて、構えた。
 物理的な攻撃は、なぜか防がれてしまう。……ユーリが言っていた特殊結界と言われているもの、だろう。ハニーに魔法が通じないようなものだろうか。

「火丼の術!」

 ならば、これでどうだ。
 物理攻撃でも魔法でもない、忍術の1つ。魔法とは概念が違い、そして物理攻撃でもない。だが……。

「なにコレ? 全く熱く無いんだけど」
「なっ!!」

 炎の中で、あの女は悠々と立っていた。まるで 通じていない事は一目瞭然だった。かすり傷1つ負わせる事が出来ていない。

 そして。

〝ぎゅるるる!!!〟

 サテラは、凄まじい速度で鞭を振るい、風圧を持って炎を消し飛ばしてしまった。最大の火力で放ったかなみの炎は、まるでマッチの火の様にあっという間に消し飛んだ。……それは かなみ、諸共。

「きゃあっ!!」

 かなみは、吹き飛ばされ潜んでいた部屋の壁に激突。

「ぁ……(ゆー……り、さん……ご、ごめん……な……)」

 かなみは、そのまま、動かなくなってしまった。役に立てなかった事を心の中で謝罪しながら


「かなみっ!!」
「お前もジャマ。いい加減サテラのムカつき度、上がってきた」

 サテラが鞭を構えようとしたその瞬間。

「ミリ!! 避けて!!」

 奥の部屋の扉が、〝ばんっ!〟と言う音と共に、左右に開かれた。

「行きます!」

 メルフェイスと志津香が、両手を構えた。その手から、強大な魔力が迸る。

「白色破壊光線!!」
「氷柱地獄!!」

 辺り一面、光と共に其々の魔法に含まれた属性がサテラに迫った。

 それを見たミリは、武器を投げ捨て、後ろに跳躍。待ち伏せていた部屋の中へと飛び込んだのだ

 志津香とメルフェイスの魔法は当たらなかったが、その衝撃破と冷気の勢いの余波を受け、弾き飛ばされてしまった。かなみ同様に、いや かなみと比べたら比較的軽傷だが、今の自分の状態を考えたら、戦闘不能になりうる衝撃だった。

「ぐっ……」

 だが、はっきりと見えた。
 あの志津香の魔力とメルフェイスの魔力が、確実にあの女に直撃したのを。あまりの光の強さに最後は見えなくなったが。

「(……や、ったか?)」

 背中に受けた衝撃のせいで、瞼が重くなってしまったが、必死に片眼だけでも開きその場を見た。魔法による光は消え失せ、あの女が居た場所の光が完全に止む。

 そして、そこには絶望が撮されていた。

「(ば、か……な……)」

 それを見てしまったミリは最後の気力も根刮ぎ奪われてしまった。それは、あの女が立っていた。身に付けている服すら傷ついていない。全くの無傷だったのだから。

「まったく……」
「効いてない、の…?」

 メルフェイスも志津香も唖然としていた。
 メルフェイスは、これまでの戦いで、自分の強化した魔力がまったく効かなかった事など無かった。志津香自身も、あの化物に成り果てたラギシスにすら通じた自身最強の魔法がまったくの無傷。

 志津香に関しては、アイゼルにファイヤーレーザーを防がれた事があったが、今回は自身が使える最大にして最強の魔法だ。溜めに溜めた白色破壊光線。それが 効かない。服すら 傷ついていないのだ。

 その絶望的な結果を見て、戦慄した。

「ちゃちな魔法じゃ、サテラには効かないわ。撃つならもっと強力なの使ってみなさいよ。せっかくザコとは言え、2人ががりなんだから」
「くっ………」
「ぅ………」

 今の魔法は、其々にとって最強のもの。
 ミリとかなみの2人が時間を稼いでくれたおかげで放つ事が出来た物。最強の魔法なのだ。あれよりも強力なものは、今の自分達には出せない。

「なんだ、今のが最強魔法か? もう、遊ばない。サテラから行くわよ」

 これまでの攻撃とは違う攻撃、魔法を受けて 少なからず 楽しめた感じがしたのだろう。


 だが、それも一瞬だった。

 高速の鞭が志津香達に迫る。志津香は、その最後の瞬間まではっきりと見る事が出来た。魔法使いの身体能力、動体視力では到底追いつけるものじゃないのに、はっきりと見えた。


「(ゆ……ぅ……)」






 そして、最奥。
 ランスが使用している部屋だ。

「ランス! 急いで! じゃないと、アイツが……!!」

 マリアがランスを呼びに部屋へと来ていた。この状況を知らせる為に。だが。

「あいつって、サテラの事かしら?」
「っっ!!」

 すぐ後ろにまで、もう来ていたのだ。つまり、志津香達は……。

「志津香っ!? 志津香たちは!?」
「ああ、さっきそこでいた奴らか? あんな雑魚、サテラの相手になるわけないだろ」

 そう言うと、マリアを吹き飛ばした。マリアはそのまま、気を失ってしまった。最後まで、志津香達の事を案じながら。

 ランスはというと。

「このオレ様に抱いてもらいたいんだったら、もっと大人しく偲んでくるんだな! 騒々しいのは嫌いなんだ」
「ふん、誰がお前なんか。……まさか、あの時のバカが聖武具保有者だとは思わなかったわ。……サテラ選択をミス……った事も無いか」

 サテラは髪をかき分けながらそう言う。
 シィルは、不安そうに、ランスの隣にたった。目の前には、人類の敵である魔人がいるのだから仕方ないだろう。恐怖を感じてしまっても。

「さ、痛い目に会いたくなかったら。さっさと3つの聖武具、サテラにちょうだい」
「嫌だね。そうだな、どうしても欲しかったら、オレ様の前で淫らにオナ○ーでもしてもらおうかな、うひひひひ……」

 こんな所でも、ランスはランス。決してブレない曲がらない。唯我独尊。ある意味凄い精神力だが、流石に相手が悪かった。

「きゃはは。勘違いするなよ? バカ。あいつがいない お前らなんか、一瞬で消せる。サテラはお願いをしているんじゃない、これは命令だ。早く渡せ」

 サテラはそう言う。
 だが、ランスは頑なだった。サテラが言っているあいつ、と言うのが誰の事か、判らないが水を差させている様で更に不満をました様だ。

「ふん、ゼッタイ嫌だ。オレ様は、他人に命令されるのは、だーーーいっきらいなんだよ」
「バカに話して理解される訳無いか。ここがゴールだし、手早く終わらせるわ。いくわよ」
「ふん! シィル、行け!」
「は、はい! ランス様」

 シィルは、ランスの言葉に頷き、自分の扱える最大の必殺魔法を放つ。

「ファイヤーレーザー!!」

 炎の柱が一直線上に、伸びサテラに直撃する。……だが、シィルは判っていた筈だった。

 ここまでに配置されていた志津香とメルフェイス。2人は、間違いなく自分を遥かに上回る魔法使いだ。その2人が、負けたのだから、自分の魔法が通じる筈がないと。

 だけど、信じたくなかった。

 ランスと一緒に、必ず勝てると信じていたから。……そして、ユーリも。

「それが全力? さっきの連中の方がまだ、強かったぞ。……ま、サテラにしたら、どっちもどっちだがな」
「そ、そんなぁ……」
「幼稚中の幼稚というやつだ。そんな魔法、何百発撃とうがサテラには」

 圧倒的な力の差。
 敵は攻撃をした訳ではなく、防いだだけ、それだけでわかってしまった。いや、厳密的には防いだ素振りはみせなかった。普通に立っているだけで、魔法がはじかれてしまったのだ。つかれている様子も見えない。彼女が言うように、何百発撃てたとしても、カスリ傷1つ負わすことが出来ないと、シィルは悟った。

「くそ! この役立たず。オレ様の奴隷は下僕たちよりは役に立つと思ったのだがな! ち、面倒だ。オレ様自らが戦ってやろう!」

 ランスは、とう!っと叫びながら、サテラの前に来た。

「やい、小娘! 最強の美剣士ランス様の素晴らしい攻撃の前に、恐れをなして消えるがいい。がはははは!」
「お前が? 最強? 美剣士?」

 サテラは目を丸くして、ランスを見た。全身を満遍なく見て……、そして高笑いをする。

「きゃはははは!! なーに似合わない言葉使ってんだ? これだからバカは困る。言葉の使い方と言うものを知らないから」
「なんだとぉ!! ゆるさーーん!! 必殺 ランス・アタァァァック!!!」

 ランスの攻撃が炸裂!! 衝撃破と共にサテラを襲うが……。

「遅すぎ」

 サテラは、その剣は勿論、後から発生する衝撃波の全ても躱したのだ。

「ふん」

 サテラは、その隙に鞭を振るった。
 ランス・アタックの衝撃波もあったからか、若干鞭の勢いが相殺され、これまでの仲間達同様に一撃で意識を刈り取られる事は無かった。

「くそう!!」

 だが、意識を失った方が良かったのかもしれない。攻撃力が元々高い魔人の一撃を中途半端に受けてしまった為、鈍い痛みが響く。

「口ほどにもない。お前が最強? サテラは勿論、あいつの足元にも及ばないぞ」
「誰だ! その あいつというのは!」
「お前らの……っと、それはいい。あいつとお前を同類にみたくない」
「なにぃ!!! 今のは手を抜いただけだ!! 今度は本気中の本気で行くぞ!!」
「ふーん。なら、サテラもちょこっとだけ、力入れたげる」

 ランスは、再び剣を構えた。高々とあげる剣。そして、跳躍し一直線に振り下ろす。

「超必殺!! スぅぅぅパぁぁぁラーーーーンスッ!! あたぁぁぁぁぁぁっく!!!!」

 跳躍し、落下しながら行う為重力も剣にかかる。攻撃力の全てを一撃に込めたまさに必殺の一撃。だが、それは勿論並の相手であれば、と言う事だ。

 サテラは余裕を持ってそれを躱した。

「く、ちょろちょろと逃げ回りやがって! 堂々と勝負しろ! この卑怯モン!!」
「それじゃ、いくわよ」

 サテラは宣言通り。
 鞭にこめる力を上げた。明らかに先ほどよりも数段早く、重い鞭の一撃が。……いや、一撃ではなく連撃。振り回した鞭をそのままランスの全身に浴びせた。

「あんぎゃぁぁぁっ!!」

 あまりの攻撃の速度、威力に、ランスも成す術なく倒れてしまった。

「弱いくせに、サテラエに歯向かうからだ。命あるだけありがたく思え」

 サテラは倒れふしているランスにそう言う。

「ち、ちくしょう……」

 ランスは 身体がピクリとも動かない。その間にサテラは物色を始めた。

「これは、聖盾ね。……後の二つはどこかしら?」
「くっ……」
「サテラに隠し事? なら、取る行動は1つだ」
「きゃ、きゃあああ! ランスさまぁぁ!」

 この時、ランスの耳にシィルの悲鳴が響いてきた。

「シ……シィル!!」

 シィルは、サテラの一撃を受け、気を失った様だ。

「む、サテラが背負わなきゃ行けないか。……仕方ない。この女を返して欲しければ、聖剣と聖鎧を持ってハイパービルにまで来い。そこで女と交換してあげる」
「なんだと!!」
「あー……っっ! こ、交換相手も指名するわ。ユーリって奴、いるだろ? そいつに持ってこさせろ」
「はぁっ!? なぜ、この場におらん役立たずを連れて行かにゃならん!」
「これる訳ないだろ。ユーリはシーザー達が必死にアイツを……っと、シーザーたちがやっつけてる所だ。もしいきてたら、ユーリに持ってこさせろ。それが条件だ。サテラの前に連れてくるのはユーリだけだ。他はお断り。それじゃ」

 サテラは言うだけ言い終えると、そそくさと立ち去っていった。司令本部は凄惨たる光景。死傷者が何人いるか、想像もつかない程、人間が倒れてしまっていた。


















~レッドの町・入口~




 司令本部が完全に崩壊したその時も、3人とガーディアンとの戦いは続いていた。

「コイツラ、ホントウニ、ニンゲンカ?」

 シーザーは腕をぶんぶんと振りながらそうつぶやく。確かに足止めをと言われたから、殺さずに制限して動いている。だが、それを考慮してもここまで強いとは思ってなかった様だ。

「はぁ、はぁ……、き、キサマらの様な化物にそう言われるのは光栄だが、な……」

 さすがの清十郎も、極度の疲労からか、肩で息をしていた。
 だが、攻撃は加えている。彼の異能術である《犠血》によって、無数の槍を飛ばしているのだ。だが、それは使えば使うほど、自身の血が流れる事を意味している。
 故に体力の消耗が激しい諸刃の剣だ。

「…………」
「攻撃型と速度型。……厄介極まりないッ!」
「早くしないと、皆が……っ!」

 ユーリとリックも構えながらそう呟いた。
 ユーリの煉獄の一撃とリックのバイ・ラ・ウェイを何度か繰り出した。それでも、相手の速度型、イシスを捉える事は難しい。そして、イシス程ではないがシーザーも速度はある。……速度以上に攻撃力が凶悪だった。防げなければ一撃で致命傷になりかねない程故に一瞬の気も緩められない。

 そんな時だ。

「シーザー! イシス!!」

 声が上から聞こえてきた。それを訊いて全員が反射的に上を見上げる。

「目的は達成した。行くぞ」
「ハ、サテラサマ」
「………」

 イシスは、持ち前の速度を活かし、サテラの元へと瞬時に移動。

「あれは! シィル殿っ!!」

 リックがそれに気づいた。
 サテラがイシスに渡したのは、シィルだった。気を失っているのか、身動き1つしてなかった。

「!!」
「そうだ、この女は聖武具との交換だ! ハイパービルで待つ。……早く持ってこいよ!(ユーリっ!!)」
「サテラサマ、サイゴノ キコエテナイト オモワレマスガ」
「い、良いんだよ! ランスのバカに伝えてる! 早く行くぞ!!」

 サテラたちはそう言うと、恐るべき速度で暗闇へと去っていった。


「ぐっ……、戦っていたのは、ものの数分、なのに……皆は……っ!」

 リックは、拳を振り下ろした。だが、今は嘆く時ではない。

「立て、リック。……皆が気がかりだ。シィルは大丈夫。アイツが 交換と言う以上、聖武具を持っていくまでは少なくとも、手荒な扱いはしない。……今は皆だ」

 ギリッと歯をくいしばるユーリだ。

「……ああ。オレもそれに賛成だ」

 清十郎も、放り捨てた鞘を広い、そして刀を仕舞った。





 それは、たった数分から、数十分程の時間。たったそれだけの時間で、これからの作戦において致命的とも言えるものだった。
















~レッドの町・街道~


 サテラたちはハイパービルに向かっていく。

「サテラサマ、ゴブジデ?」
「大丈夫だ。言っただろ? 人間なんかサテラにかかったら、何でもないんだ。……まぁ、多少手加減するのには 疲れたが」
「テカゲン?」
「……一応、あいつの仲間だから。いくら雑魚の人間でも殺したらあいつが……って、何でもない!! 忘れろ、今のは!」
「???」
「良いな!」
「ワカリマシタ」

 サテラは慌ててシーザーとイシスにそういった。その時だ。彼らの身体の所々に傷が増えている事に気がついたのは。

「……お前らは大丈夫なのか?」
「ハイ。コウドウニ、シショウハアリマセン」
「イシスは?」
「………」

 イシスは頷いた。どうやら、特に問題はないようだが。

「……まさか、アイツが目を覚ました、のか?」
「イイエ、ソレハナカッタデス。……モシモ ソウデアレバ コノテイドデスマサレテマセン」
「………」

 イシスもシーザーの言葉を聞いてこくこくと頷いた。あの戦いの記憶はどうやら、はっきりと2人のガーディアンに刻まれている様だ。

「そ、そうだよな。……よし! さっさと行くぞ、ハイパービルに! そこで、応急処置、しといてやるからな。身体、拭いてやる」

 サテラはそう言うと、ハイパービルへと移動する速度を上げたのだった。































〜魔法紹介〜


□ 氷柱地獄


両手から巨大な冷凍光線を打ち出す魔法。中級魔法であるレーザー系の魔法の上位版。
氷属性:上級魔法に分類





 
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