| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ランス ~another story~

作者:じーくw
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第3章 リーザス陥落
  第62話 レッドの町に迫る驚異


~レッドの町・教会~


 一行は、とりあえずスーの事もある為、セルの元を訪れていた。
 流石に、神の家といっていい教会にフェリスを連れて行く訳にもいかない為、それとなく彼女は悪魔界へと還した。自然にフェードアウトしていった為、ランスは気づいていない様だった。……この時もフェリスは、ユーリに少なからず、感謝をするのだった。
 線引きを強く意識している為か、フェリスは 決して口には出さなかったけれど。

 そして今回の事を、事情を説明すると、セルは快く引き受けてくれた。話によれば、彼女はスーの事を、知っていたとの事だ。森の中の女の子の事を。正しき道へと歩ませる為に、導く為に、セルは笑顔で頷く。

「任せてください。……スーさん、宜しくね? この町の皆はいい人たちですよ。皆、優しくて、貴女の事をいじめたりする様な人はいないから、安心してね」

 セルは、スーに笑いかけながらそう言った。その慈愛に満ちた表情、流石はシスターだと思える。裏も表もない。心からの言葉だと言う事。それは、悪い人間も幾度と見てきたスーにも感じることが出来た。だから、スーは、にこっと笑うとセルに飛びついた。

「ヨロシク、セル!」
「はい。よろしくお願いしますね」

 セルの胸の中に飛びつくスー。
 それは、まるで母親に飛びついている子供の様にも思えた。ラプの長老が父親であれば、セルが母親、と言ったところだろうか?……随分と、歳が若いので、お姉さんにしておこう。セルは怒らないと思うけど、ちょっとこの歳で、大きなコを持つ母親にするのには可哀想だ。

「がははは! オレ様の活躍もあっての事なのだぞ? セルさん!」
「まぁ、ランスさんがこの子を。貴方も判ってくれたのですね。喜ばしい事です」
「そうだろう、そうだろう! だからこそ、今夜こそ、オレ様と一発っ!」

 ランスは、堂々と宣言するが、……セルは、ため息を吐いた。
 スーを森からつれてきてくれた事があるにはあるが、その考えはまだまだ変わってなさそうだ、と思ったから。

「ランスさん。男女の営みは神聖な夫婦の営みなのです。己の欲望のままにそれを犯してはなりません。やはり、貴方にはお話を聞いていただく必要がありそうですね」
「………」

 セルの瞳はいつ見ても真剣そのもの。流石のランスもたじたじだった。これから始まるであろ説教(おはなし)が想像出来るから。

「はぁ、懲りないな? ランスは。セルさん、折角だ。丸一日かけて、ランスを変えてやってくれ。健全な青少年へと」
「任せてください! ALICE神に誓って、ランスさんを更生」
「ちょっとまて! そんなのオレ様は嫌だ!」

 ユーリの言葉に胸を張りながら答えるセル。
 何事も根気、そして熱意、誠意を持って尽くせばきっと判ってくれる、とセルは信じているのだ。……その志は良いし敬服するものがあるが。

「ランスさん、判ってください。神の子として許されない事が多くあるのです。ユーリさんも判ってくださいましたし、私が貴方を正しい方向へと導いていきます」

 セルの説教は続く……、どころか、このまま一緒についてくる勢いだ。幸いにも、教会にはセル以外にも世話をしてくれる人は沢山いる。歳の近しい子供たちも少なからずいるから、スーが寂しい想いをする事はないだろう。

「ユーリノ、言ウトオリダッタ!」
「ん?」

 まだ言い合っているランス達を見て苦笑いをしている時。スーは、ユーリの服の袖を引っ張りながら言っていた。

「どうした? スー」
「ミンナ、ミンナ、イイ人。スー、ココニキテ ヨカッタ」
「そうか……」

 ユーリは、ニコリと笑ってスーの頭を撫でた。面倒見の良いユーリだから、妹の属性?がある女の子には特に好かれる性質を持っているのだろう……。

「デモ、ユーリ 間違イアッタゾ」
「オレに間違い? ん…… 何かあったか?」

 スーは、ユーリの腕を取った。そして、ぎゅっと抱きつくと 最大級の笑顔を見せつつ。

「ユーリヨリ ズットズット、優シイッテ事ダ。ユーリモ優シイ。負ケテナイ! トテモ、トテモ 優シイカラ ソレ間違イっ!」

 笑顔のまま、……満面の笑顔のまま、そう答えるスー。
 それを聞いたユーリは恥ずかしそうにしながらも笑みを見せ、スーの頭を撫で続けた。
スーも、気持ち良い様で目を細めていた。

「おーおー、流石ユーリだなぁ? 早速手を出すとは。やっぱり、たらしだったみたいだな?」
「……人聞きの悪い事言うな」

 ミリの言葉に真っ向から否定するユーリ。
 頼ってくれる事は嬉しいし、信頼してくれることも同様だ。スーの様な複雑な事情を持っている子なら特に。……が、ランスの様に見境が無いような事はしない、と強く思ってもいた。

「でもよ? 志津香の前であんま口説きまくるなよ? なかなか強力な足技を味わう羽目になるぞ?」
「……何度も味わってるよ。あいつの格闘技能なら。……それに、いつ、誰が、誰を口説いたって言うんだ。冤罪も良いところだ」

 ため息が続く中……当の志津香達の方を見た。セルの懸命な説教。だけど、ランスも必死に躱す。それを見たかなみと志津香。

「セルさん? セルさんには悪いと思うけれど……ランスを更生させるなんて……ぜっっっっっっっっっったいに、無理ですよ?」
「そうよ。今更ランスの事を改心させるなんて、不可能。因果律を覆すよりも難しい事。……っと言うより、そんなのこの世界の創造主でも無理」

 ランスに対する苦言が飛びまくる。思わず苦笑をせずにはいられない。神があの男を真面目に出来る。……否、する様な事をすると思えるか?とユーリは一瞬頭をよぎっていたのだ。一瞬頭の中を過ぎり、そして首を直ぐに横に振った。
 そんな事をする筈が無い、と。

「あう……」

 流石のシィルも庇いきれない。
 真面目になったランスに仕える事もとても良い、と何処かで思ってしまっていたが、それも夢物語だと、シィル自身、思ってしまっているのだから。

「おいこら! 黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって! そもそも、オレ様は正しい行いしかしていないぞ! それを人を悪者みたいにいいやがって!……まったく」

 清々しいまでに、明後日の方向へと進んでいるランス。
 天上天下唯我独尊とはこの事であり、ランスがした事は全て『良い事』と捉えてしまっている。意図して言っている訳じゃないから、更に性質が悪い。

「………」

 流石のセルも、ランスの一言を訊いて、ちょっと黙ってしまった様だ。

「はぁ……」

 ユーリも傍から聞いててセルに同情をしてしまっていた。茨の道……と言うより針山地獄に登ろうという気位は必要だろう。

「ははっ! 流石はランスだな。ここまで来りゃ清々しいってもんだ」
「……ミリの対抗馬だよ。あいつは」
「何言ってんだ? ランスのテクじゃ、オレは満足しないぜ?」
「誰も んなこと言ってない」

 ミリとユーリのやり取りは、まだスーには難しいらしく、首を傾げている。だけど、何処となく楽しそうなのは伝わった様なので、笑っていた。

 そして、セルはと言うと……、その試練を前にして一声!

「とにかく、私の力でランスさんを正しい人に導きます!これは、神が私に与えられた試練です!」

 ……まるで、諦めてなかった様だ。何処となく、あきらめの悪さは、ランスに似ていると言っていいだろう。

「このままだと、本当に付いてくる、って言いそうだ」
「ナラ、スーモ!」
「スーは駄目だ」
「ナンデ……?」

 それを聞いて、悲しそうな顔をするのはスーだ。拒絶された、と思ったからだ。短い時間だったけれど、ユーリの事は信じてたし、好きだとも想っていたのに。

「……危ないからな。これから行く所はこれまでよりもずっとずっと」

 だが、スーはユーリの目を見て、理解した。それは拒絶をしているのではない。ただ、自分を思ってくれての事だということを。

「それに、ここにはスーより、小さな子達がいるだろ?」
「アッ……」

 ユーリは指をさしてそう言う。教会には、他にも孤児達がいる。中には、年端のいかない子供も多く、スーの方が歳上だろう。

「今日からスーの家族になるんだ。ラプ達にしてあげた様に、皆を守ってくれ。……出来るな?」
「ウ、ウンっ!」

 笑顔でスーはユーリに抱きつく。

「……これの何処がたらしじゃないんだ? ああ、天然って事だな」
「うぅ……ユーリさぁん……」
「うぉっ! かなみ、いたのか……」

 気配を消していた?と一瞬思ったが、よく考えたら、ユーリのやり取りをニヤニヤ笑いながら、集中して聞いてたから散漫になってしまっていた様だ。

「………」

 そして、勿論彼女もいた。足に炎を宿している。ユーリの脚に狙いをつけている様だ。自動追尾もばっちりであり、それは チューリップ1号も真っ青な砲撃。

「まっ、これは所謂、良い男の特権ってヤツだな。頑張んな、ユーリ」

 ミリは、この先に何が起こるのかを寸分違わず予知出来た様で、苦笑いをしていた。

 そして、数分後。

 ミリのその予知は100%的中するのだった。直撃を受けたユーリから、悲痛な叫びが僅かに出てくるが……、所謂ギャグっぽい感じだったから、大丈夫だった。


 そして、セルは新たな仲間となった。


 それは、まさに正統派シスターの加入の瞬間だった。何処かの不良さんとは一味違うシスターだ。


『へっくしょんっ!……んん? だーれが私の噂してるのかしらん? 人気者は辛いわね~♪』

 ……誰のくしゃみ、セリフなのかは説明を省くとする。










~レッドの町・軍司令部~


 そしてその後 一行は、司令部へと戻ってきた。セルも勿論一緒に来ている。レイラの看病は 彼女はずっと合間を見て行い続けてきたから。今も同じだ。

 ランスの事、ランスの更生に関しては 何処まで出来るのか、正直見物だと思えるが、今はレイラの事だ。

「皆さん、よくぞご無事で……」

 出迎えてくれたのはバレス1人だった。
 まだまだ、ジオの町奪還の為に、其々が行動をしているのだろう。レイラの事も心配だろうが、それでも国の為に、忠を尽くすのが彼等軍人なのだから。

「おっさん。マリアはどうした? 約束のものをとってきたぞ」

 ランスは、ずかずかと入ってきて、バレスにそう聞く。
 はっきり言って、『男はいらんから女だせ!』 と、ランスは言っている様なものだけど、バレスは別段気にした様子もない。ランスの性質などこの解放軍全体に広まっているから、今更、荒波を立てたりする様な者もいない。

「奥におられます。それでは、さっそく呼んできましょう」

 バレスは司令本部の奥にいるマリアを呼びに行った。

 そして、数秒後、マリアが顔を出す。マリアは 皆の顔を一通り見た後、笑顔をみせた。

「お疲れ様、皆。その様子だとユニコーンの蜜は手に入ったようね?」

 マリアの言葉に皆が其々応えた。笑顔で答える者、手を上げる者、頷く者……と様々だ。
勿論ランスは豪語。

「がはは! そんなものは当然なのだ。オレ様が、しくじるなんて事は、0.00000000000……32%すらないのだ」
「最後の32は一体何だ?」
「ゆー……。バカに突っ込むのは時間の無駄よ」
「おいコラ! 聞こえてるぞ!」

 ユーリの疑問に、志津香が辛辣な言葉で代弁。
 勿論ランスには聞こえているので、突っかかるが志津香は簡単に回避していた。

「ら、ランス様。これを早速レイラさんに使いましょう!」
「うむうむ。レイラさんは美人だからな。こんな廃れた建物の中で死なせる訳にはいかんからな! オレ様の上で腹上死ならともかくな!」

 ランスは高笑いを続けながら、ユニコーンの蜜が入った瓶を渡した。
 いい方は相変わらずだが、一応身を案じてくれている、と言う事もあり。とりあえずマリアは礼を言った。

「ありがとう、これでレイラさんを救えるわ。早速レイラさんに飲ませてくるわね」

 マリアは、瓶を片手にレイラのいる場所へと行こうとした。……勿論、ランスはついて行くつもり満々だった。

「がはは! よし、オレ様も立ち会おう! レイラさんが心配だからな。ぐふふ……」
「ダメに決まってるでしょ!!」

 かなみが、断固として拒否。
 今のレイラの姿を見て欲しくなかった。彼女は、親衛隊長。金の軍の将として皆の憧れでもあった気高い人だ。そんな人の今の姿を見せる訳には、と思ってしまうのだ。……それがランスなら尚更だ。

「ったく、あいつは……」

 志津香もランスの行動は目に余る。
 普段は一蹴して終わり、だけど、今回はつい口を開いていた様だ。

 そして、そんな時。マリアが突然振り返った。

「あ、ユーリさんは来てもらえますか?」
「ん? オレか?」

「「んな!!」」
「なんだとっ!!」

 まさかのユーリは立ち会いOK!と言うより、立ち会い希望。マリアからの言葉に絶句する2人と驚き……と言うより怒りに満ちてるランス。

「こらぁ!! オレ様を差し置いて、ユーリだけはOKとはどういう領分だ!!」
「それも、ダメに決まってるじゃない!!」
「だ、ダメですよっ!!」

 猛抗議をする3人。ユーリはと言うと。

「……大体、オレを呼ぶ理由は判ってる。もしも、ユニコーンの蜜でもダメだと言うのなら、また 連絡を来れ。……レイラさんの状態を見て、他の方法を色々模索しよう。時間内に必ずだ。……だが、ユニコーンの蜜は 聖の名を冠するアイテムで その手の中では最高クラスだと言っていい。だから、レイラさんは 十中八九大丈夫だ」

 そう言いつつ、マリアを改めて見た。

「だから、マリアとシィルちゃんの2人に頼むよ。勿論 何か問題があったら直ぐに言ってくれ。……もう、マジで足が痛いから、その方法で頼む」

 最後の方にはげんなりするユーリ。
 これは、最早恒例になりつつある、志津香の踏み抜きだが、威力が増しに増し続けているのだ。……こちらの防御力もあげないとそろそろ辛い。追加装甲を加工して、ブーツに仕込んでおきたいくらいだ。そうすれば、多分蹴るポイントを変えるだけだと思えるけれど。

「はぁ、しょーがないわね。ま~~ったくも~~、志津香は、しょーがないんだから~♪」
「うっさいっ!! 楽しんでんじゃないわよ!!」

 真面目にユーリに見てもらいながら、アイテムユニコーンの蜜を使おうとしていたんだが、志津香は当然の行動を取ってしまっていた。かなみも勿論だ。

 マリアは、今回は狙ったわけじゃなかったんだけど、結構久しぶりに志津香の可愛い所を見れて良かったと、内心満更でも無かった。
 そして、そのままシィルと共に奥へと行った。

「……はぁ、足痛いなぁ」
「う、うっさいわねっ! それくらい我慢しなさいっ!! 男でしょ!」
「だから横暴だ!! お前の蹴り、マジで痛いんだからな!」
「……ほっ」

 完全に棚に上げてる志津香と、何処となく肩の力を抜いたかなみ。ユーリと傍にいれば、多分彼女も無意識のうちに踏んづけていただろう。

「ふん! 当然だ。オレ様の女、志津香の制裁を受けるがいい! オレ様を差し置いて、淫乱美女を見に行こうとするからだ!」
「ランスもだ! お前ら オレの意志をもっと尊重しろ! 何も言ってないだろ!」
「誰がランスの女よ!」

 ……このメンバーが集まった司令本部は、いつもの2倍は騒がしいのだった。

「ふふ、ユーリさんは、本当にいろんな方に慕われているんですね。優希さんの言うとおりです」
「……だろ? オレも同感だ」

 傍で一部始終をまるで、観客の様に見ていたセルとミリは笑っていた。

「セルってさ、笑うと随分と可愛いじゃねえか。どうだ? 今晩オレとヤらないか?」
「……ランスさんと同じような事を言うのですね。それに同性愛は神に仕える者として、全てを否定する訳にはいきませんが、私の純血は 神に捧げた身です」

 セルは、そう言うと、ミリの方をまっすぐと見据えた。ミリは直感的に判った。これは、説教モードだ、と言う事が。

「ミリさんにも、一から説く必要がありますね?」
「バカだな~、じょーだんだよじょーだん! ほらさ。こう言う空気も良いだろ? ……戦争で殺伐としてたんだからさ。休息だって大事だ。だが、心にも安らぎ、ゆとりがあったって良い」
「あ……、それは確かにそうですね。皆さんの気持ちを安らぐ事ができますし」

 比較的、動揺を抑えつつ ミリはセルに説明。

 そして、なんとかシスターの説教を回避する事に成功するのだった。ランスよりも一枚も二枚も上手なのは ランス以上の性剛であり、いろんな意味でのテクを持ち合わせているからだろう。



 そして、数分後。

 マリアとシィルは足早にこの場所へと戻ってきた。いや、マリア達だけじゃない。その後ろには彼女(・・)も還ってきていた。彼女も漸く呪縛から解放されたのだ。

「皆さん! 大成功ですっ! ユニコーンの蜜が効いてレイラさんが治りました」
「レイラさんは無事よ!」
「……どうも、ご迷惑をおかけしました。皆さん」

 ゆっくりと頭を下げるレイラ。その物腰には気品もある。あの時の彼女とは思えない程だ。

「レイラさんっ!」

 かなみは、レイラの姿を見て、即座に駆けつけた。そして、その目には薄らと涙を浮かべている。

「良かった……、本当に良かったです……っ」
「……かなみ。本当にごめんね。心配かけて」
                                    
 かなみの事を優しく包み込むレイラ。                  
 自分がどうなっていたのか、と言う記憶は殆どない。あるのは、敵の手先となってしまったという事。……軍人として、あるまじき行為をしてしまっていたという事だけだ。

「……自分を責めるなよ。敵の力は、魔人の力は人知を超えているんだ。無理もない事だ」

 表情から、何を考えているのか読まれたのだろうか。
思わずレイラはその言葉に反応して、ユーリの顔を見た。

「あっ、レイラさん。この方がユーリさんです。……リーザスの大恩あるお人ですっ」

 かなみは涙を拭いながらそう説明をする。

「成る程、貴方が……。本当にありがとう、貴方の言うとおりよね。悔いる事なんかいつだって出来る、……それにそんな事をしてたら、前に進めない。前に進むためにも。リーザスを救うためにも、……これからは私も力になるわ」
「……良い返事だ。これから、よろしく頼む」

 レイラは手を差し出し、そしてユーリもその手を受け取った。
 ランスは面白くなさそうに見ているが、今日辺りにレイラがお礼にくるだろう! と言う事と、ユーリとそんな展開にはならないだろう、なったら全力でコロス!!と考えているから、一先ず落ち着いている様だった。


 その後。

 レイラが復活した事は、瞬く間に広がった。そして、心配事も解消し、万を持して、ジオの町への攻撃、その作戦会議を開始した。

 リーザス側の人数は大分増えている。代表的な者達で言えば。

 白の軍 《エクス》《ハウレーン》
 赤の軍 《リック》《メナド》
 黒の軍 《バレス》
 金の軍 《レイラ》
 紫の軍 《メルフェイス》《アスカ》

 其々の色、その将達が集ったのだ。後、この場に揃っていないのは青の軍だけであり、それも時間の問題とも思える。

 メルフェイスについては、レッドの町解放戦の際に解放する事が出来た、リーザス紫の軍副将だ。……とある問題を抱えている女性だが、今は大丈夫だった。

 紫の軍の将軍はアスカだが彼女は幼いと言う事、彼女の祖父が出来る事も限界がもあるから、実質指揮をしてるのはメルフェイスだ。

「うむ。皆が揃った所でそろそろジオの町についての作戦会議を始めましょう」

 その言葉に場の全員が頷いた。
 ここまでくれば、本当に壮観だと言えるだろう。黒の軍、白の軍、赤の軍、金の軍、紫の軍。其々の主力が集まったのだから。ただのヘルマンの兵隊相手ならまるで問題視しない程の武力が結集したと言ってもいいだろう。だが、これでも全く安心は出来ない。

 ……あの敵の存在を考えたら。

「よし、そろそろやってやるか。で、敵の状態はどうなのだ?」

 ランスは、珍しく同意していた様だ。
 性欲もあるが、暴れ足りない、と言う欲求も少なからずはあるのだろうか。

「(ぐふふ……、更に恩を売ってヤらないとな? この場には美味しそうな美女が多いからな……ぐふふ)」

 ……そう言う事だ。ランスにそんな欲求は皆無。性欲だけだった。

「私が説明しましょう」

 現在の状況を説明する為に、エクスが一歩前へと出た。

「カスタムの真知子氏、リーザスの優希氏。優秀な情報屋である彼女達にも協力を仰ぎ、信頼の出来る情報として、纏め上げる事が出来ました。敵側(ヘルマン)は、自由都市に対する侵攻軍であった《フレッチャー》《ヘンダーソン》の両部隊が壊滅したので、基本的な実戦部隊は、もうありません」

 そして、そこで区切った。それを聞いてランスは高笑いをする。

「がはは、なら一方的に攻め込んで終わりだな。お前達がちゃっちゃとやって来るのだ!」

 総大将は放任主義の様だ。楽して、戦いに勝つ!それが一番。

「おう。そうだな。ランスは もう十分だ。休んでろ。後は オレ達がヤっとく」

 と、いつも通りユーリの言葉でランスは再び奮起するのだった。こう言う場面では、良いように使われているのは、ランスだったりする。



「それはそれとしまして、まだ続きはありますよ」

 エクスが中断しかけた話を再開させた。

「情報によると、リーザスの各地を制圧していた制圧舞台を集結させているという話があります」
「……早い内に、叩けるところは叩いておいたほうが良いな。リーザスの各地の兵を集めたら、随分の数になる、だろう?」
「ええ、その通りです。全てが結集したら2~30,000は軽く超える大軍になるはずです。ユーリ殿が言うとおり、各個撃破するのが最善かと。それに、各地でリーザス軍のゲリラの抵抗で思うように進んでいない。ゲリラの中に、青の軍、ゴルドバ殿がおられる可能性が濃厚です。それならば、進んでいない理由も納得できる。……今ならいけます」

 そのエクスの言葉に皆が奮起した。
 状況は間違いなく……、風向きは間違いなく我々リーザス解放軍側に向いているのは間違い無いのだから。

「まずはジオの町だな。がはは! オレ様が瞬く間に殲滅してやろうではないか! おい、可愛い子は殺すなよ!」

 ランスの宣言にとりあえず頷く面々。何せ、一応彼が総大将だから。……なんで、その隣の男じゃないのだろう? と言う疑問は、最早 ご愛嬌だ。隣の男が 上手く操縦桿を握っているからこそ、スムーズに事が運んでいるんだと思えるのだから。

「僕達の赤の軍も準備万端です。いつでも行けます」
「ええ。勿論」

 メナドとリックの2人が頷く。

「紫の軍。元より、支障はありません。行けます」
「だおー!」

 メルフェイスとアスカも同様だ。
 アスカは可愛らしく拳を突き上げている。……この中でも屈指の実力者なのだと思えば、やはり違和感があるのは仕方ないだろう。

「やりましょう。ヘルマンをリーザスから追い出すのです!」

 レイラも気合を入れて声をあげた。
 金の軍、親衛隊は今も十分に揃ってはいない。女性中心だったと言う事もあり、リーザスの方で奴隷のように扱われている為、自由都市侵攻部隊には含まれていなかった様なのだ。……レイラは実力が折り紙つきだった為、先発部隊として選ばれた。
 いや、アイゼルに選ばれたと言うのが正しいだろう。

「我ら、軍の準備は万端です」

 そして、リーザス軍総大将、黒の軍将軍バレスも貫禄のある表情で頷いた。

「……こちらは?」

 ユーリは後ろを振り返る。後ろに控えているメンバーを其々見た。

「勿論! 行けますよ!」
「ああ、血の代償はまだまだ続くぜ。それに、オレ達がいればそんなの朝飯前だろ?」
「私も お姉ちゃんと一緒! 私も頑張るっ!」
「トマトも行くですよー!! 迷子の森では不覚(不参加)をとった為、力も有り余ってますですー!」
「ここまで来たら最後までが当然でしょ」
「……リア様、直ぐにでも、参ります。……はい! 大丈夫ですっ!」
「頑張りましょう! 皆さんっランス様!」
「頑張らなくても楽勝なのだ! がはは!」

 こちらのメンバーも全員が強く頷いた。士気は十分高い。

「がはは! よーし、細かな準備はお前達に任せるぞ! オレ様はひとやすみをする事にする」

 ランスは、そう言うと。

「シィル! 行くぞ」
「あ、はい!」

 そのまま、出て行った。……向かう先は 恐らく宿屋の方だろう。

「あのバカっ、まだ終わってないのに……」

 志津香は出て行ったランスに苦言を言うが。ユーリが抑える。

「やる事は判ってるさ。あいつも。……今は休息が重要だろう? 絶対に勝てる戦いこそ、危険だ。万全な体制で行かないとな」
「……まぁ、間違えではないけど、アイツ絶対に体力が減る様な事、シてるわよ」
「それが、アイツのカンフル剤だと思え」
「思えないわよ!」

 志津香の気持ちも判らないでもないが、ランスと言う男は 本当にヤル時はヤル。決めるべき時には、持ち得る最高のパフォーマンスを見せる。ムラがある実力だと思えるが、そのムラには法則性があるから。

 そして、作戦会議は終了した。

 明日のジオの町解放に向けての休息を各々が取る事になった。ユーリ達も、迷子の森へ向かっていたと言う事もあるから、少なからず疲れはあるだろう。

「皆、明日に向けて、今回ばかりは 十分に休んでくれよ? ……特に志津香とかなみだ」
「なんで名指しですかっ!?」
「そうよ! なんだか失礼よ! ユーリ!」
「……なら、いつもいつも夜遅くまで起きてるな、って事だ。そう言う休息もあるとは思うが程々にしておいてくれって事、だ。前科ありだからな」

 苦笑いをしながらそう言うユーリ。
 
 それは、ヒトミの事を相手にしてくれてたりしてる事だってあるけれど、ちゃんと休息をとらなければ気力が回復だってしないだろう。嬉しい事は嬉しいが、戦いの前夜くらいは眠ってもらいたいものだ。

「あ、あぅ……」
「わ、判ったわよ」

 ……会話をやめられないのは、ユーリの事をヒトミと中心に話してるから、と言う事が多いから?それを考えたら、苦笑いが止められないのだ。

「というわけで、ユーリさーん! 今日はトマトと眠りましょ~!」
「馬鹿トマト! 一体何言ってるのよ!」
「むむ、志津香さんばかりずるいですー、トマト、迷子の森ツアーに 参加できなかったですよー? 欲求不満なのです!」
「だだ、ダメですよっ!」

 トマトの行動を阻止せんと立ち振る舞う志津香とかなみ。

「元気有り余ってるねぇ……」
「……その元気をとっておけ、と言いたいんだがな? 一番は」

 トマトの発言から、更に周囲を巻き込んでいく。

 ランも、その輪に加わってきて、この場から出て行ったのはランスだけだった。休息の意味を履き違えている様な気がしないことも無かった。

 そして、更にユーリの元へと来た人がいる。

「メナド。どうしたんだ? 何か用か?」
「ううん。何でもないよ。……ユーリには、本当にお世話になりっぱなしだから。だから、会議が終わった後に、改めて言いたくてさ。……中々、ユーリと話せそうになかったから、タイミング測ってたんだけど」

 頭を軽く掻きながらそう言うメナド。真面目なメナドらしいと言えばそうだ。

「ははは……。なに。構わないさ、今も 勿論 《あの時も》。オレも随分と助かったんだ。あの時は、メナドのおかげだよ」
「で、でも やっぱり僕の方が……」
「気にするな。……知り合い。そして 自身の背中を預けたんだ。それだけで十分だ。以前にも言っただろう? 助けるのが当たり前だ。……無論、無条件に、と言う訳じゃないがな? メナドだったら 愚問だと思うけど」
「え? それってどう言う意味……?」
「いや、気にするな」

 ユーリは、そう言って笑っていた。例え信頼出来る仲間だとしても、盲目だったら意味はない。……間違えていたら、道を間違えていると感じたなら、それを止める事も大切だ。
 そして、それは自分自身にもあると言える。自分自身が全て正しいなどと、おこがましい事は思わないから。

「これからも、よろしく頼む」
「う、うんっ 一緒に頑張ろ。ユーリ! 僕も、頑張るから! ユーリの隣で、頑張るっ!」

 メナドは、笑顔のまま、そう答える。そして、その後ろには影があった……。

「ふーん。一緒に、隣で、ねぇ~?」

 そんな光景を見ていた影は、ミリだ。ニヤニヤと笑いながら。

「傍から見たら、愛の告白にも見えなくないなぁ~?」
「んなっ!!」
「ふぇぇ!?」
「はぁ……」

 相変わらず、ミリの明後日の方向。だが、そんな中でも驚いているのがかなみとメナド。

「そそ、そんな! 僕の様なのが告白なんてっ!! ゆ、ユーリが気を悪くしてしまうよ! こ、こんなに男っぽいんだしっ!!」

 メナドは、慌てて否定をしていた。少し、安心したかなみだった……が。

「まぁ、ミリが言う事だし、話半分に聞いたほうが良い。こう言うヤツだ。……後、気を悪くなんてしないさ」
「えええっ!! な、なんで? 僕なんて男勝りだし、なんにも可愛くなんてないしっ! 告白なんかした日には……相手が可哀想だよっ」
「……なんでそこまで自分を卑下にする? そんな事は無い、と思うぞ。可愛くない?……十分に魅力的だとオレは思うが。って、これ 以前にも言った様な気がするぞ。自分をあまり過小評価しない事だ。……自信を持て、メナド」
「っっ!!!」
「わ、わぁぁぁ!!! ゆ、ユーリさんっ!! 今日は皆早くおやすみするんですよねっ!早く休みましょ!! 明日は、明日からは、とても大変ですよっ!!」

 ……出だし、遅れてしまったかなみ。
 メナドは、顔を赤くなるのを止める事ができなかった。

 そう、あの日の夜。

 ゾンビ達を一蹴した時、助けられた時、言ってくれたんだ。メナドはその時の事を鮮明に思い出していた。

「?? ま、まあそうだな。さっき言ったとおり、かなみと志津香は特に、だ。ゆっくりと休むんだぞ」
「は、はい! 勿論ですっ! ほら、メナドっ! 行くよ!」
「う、うんっ……/// ユーリ、また、またね……///」
「(あ、あぅぅぅ……////ま、まさかメナド……も???)」

 慌ててこの場から出て行くかなみとメナド。その後ろ姿を眺めて、疑問を浮かべていた時。

「……かなみ、顔真っ赤にしてたけど、何か変な事、したんじゃないわよね?」

 志津香が遅れてこちら側に。
 話の内容を聞いていれば、間違いなく踏み抜きが来ていたと思われるが、ちゃんと聞いてなかったから大丈夫だった。

「いや、オレは かなみとは、あまり話してないぞ? まぁ、早く休めよ、程度に話したくらいだ」
「そう?」

 志津香はそれを一応信じた様だ。

 ユーリは、決して嘘は言っていない。

 志津香はかなみと~と言ったからだ。この時、メナド?と言えば……、ユーリもバカ正直に話していただろう。そして、その脚にダメージを被る事になる。

 それを事前に阻止出来たのは、持ち前の鈍感故にだった。












~リーザス司令部前~



 日も傾き、黄金色の空が辺りを照らす時間帯。町の入口の正面にある司令本部の前でユーリは空を眺めていた。

「……清も戻ってきたみたいだ。……こちらの準備は万端、だな。……だが 何処だろう。嫌な予感がする。……拭えない」

 ピリっと肌に走る悪寒を感じていた。
 これまでに何度も死地を体験、体感してきた自分だからこそ、感じ取れる信頼出来るこの第六感だった。

――……何かが起こる。

 ユーリは、そんな気がしたのだ。

「ユーリ殿」

 そんな時、声をかけられた。その相手は、甲冑に身を包んでいる男だ。

「ああ、リック将軍。どうかしたのか?」

 司令部でも、そのヘルメットを被り、素顔を見せていない男。少なからず疑問に思ったが……、別に良い。とユーリは思った。素顔に関しての事は兎や角言わないのが彼だ。……話題に出したくない、と言う事でもあるだろう。

「いえ、僕は修練がありますので、この場に。比較的に広いですし、それに何か異常があれば直ぐに察知する事ができます」
「まぁ、ここは町の入口から近いからな」

 ユーリは町の入口を指さした。
 目と鼻の先……とまでは行かずとも、何かがあれば、直ぐに判る。他にも町へと入る手段はあるが、司令本部が比較的近いのがここだ。援軍を呼ぶにしろ、迎撃態勢に取るにしろ、対応が取りやすいのだ。

「……ユーリ殿も、何かを感じますか?」

 修練を開始したリック。
 その長く赤い剣を振るいながら、ユーリにそう問うていた。その言葉を聞いて、ユーリは悟った。このリーザス軍の頂点とも言える男も、同じ事を感じていると。

――……何かが起こる。少なくとも今晩から明日にかけて。

 そう、予知染みた物を感じ取ったのだ。

「ああ、何か見えない粘液がカラダにまとわりついている様だ。……こう言う嫌な感じは結構当たるんだ。嬉しくないがな」
「自分もです。……ですから、それを振り払う為に、身体を動かしているのかもしれません」

 剣を何度も振るい、そう答えるリック。
 修練、と言っていたが、彼が言うようにある種の不安を消す為にしているという事もあるのだろう。

「……なら、付き合おう」
「え、しかし。ユーリ殿はお疲れに……」
「大丈夫だ。ここには 腕の良い治癒術者達もいるし、……それに、色々とコネのある不良神官もいるんだ。それなりに無茶しても、無茶に入らない。……身体を動かした方が気も紛れる」
「そうですか」

 ヘルメットの奥にあるリックの素顔。それも笑っている様に感じた。

「では、軽く手合わせ願います」
「ああ。宜しく」

 ユーリも鞘から剣を引き抜いた。その剣を見て、リックは口を開ける。

「それは、妃円の剣。……リーザスの剣ですね」
「ああ、以前、依頼でちょっとな。火事場泥棒か、とも思ったが。廃屋だったから、ダンジョンで手に入れた宝と解釈してるよ。一応 許可っぽいのは貰ってる。……まぁ、返してくれと言われたらちゃんと返すよ」
「いえいえ、剣は主を選ぶ。と言います。私も何度かそれを振るっている者を見た事がありますが……、貴方が持っているその剣の様に輝いては見えませんでした。……何処か曇って見えてました。ユーリ殿はその剣の全てを引き出しているのですね。剣も貴方に使ってもらって本望でしょう」
「随分と大袈裟だな? ただ、オレの手入れが良いだけ、なのかもしれないぞ? 冒険者だから、結構武器のメンテは マメにする様にしてるんだ。何年も使っていて所々傷んでいたからだけど、以前のコロシアムで武器を壊しているから」

 ユーリは笑いながらそう言う。

 リックは、本気でそう思っていた。最初見たときは、それが妃円の剣とは判らなかった。だが、鞘と刀身の根本に小さな紋章があり、それを見て判ったのだ。

 そして、ある疑問も見受けられる。あの剣は由緒正しい名剣だ。だが、その歴史は古く……何度か使われているのも見た。如何に名剣といえど、使い続ければ刃こぼれが生じていく。……如何に優秀な鍛冶屋といえど、修復には限度があるのだ。

 だが、ユーリの使っているそれは、輝きを遥かに増しているのだ。まるで、剣が生きているかの様に、人と同じ様に 使えば使うほど、強くなっているかの様になっているのだ。

「行きます」
「来い」

 リックは、疑問を胸の内にしまうと、ユーリに打ち込んだ。袈裟斬り気味に打ち込むが、ユーリの剣はそれを弾く。きぃぃんっ!と言う音が周囲に響き渡った。

 数合、打合いが続く。

 模擬戦と言える戦いだが、一歩間違えれば大怪我をしかねない程の速度で切り込んでいる。それを笑いながら出来るのは、この2人だから、だろう。

「……随分と楽しそうな事をしているな?」

 そんな時だ。もう1人この場に現れた。

「あ、神無木殿」
「清、か」

 一先ず剣を止め、声のした方を振り返った。この場所に来たのは清十郎だった。その腰には2本の刀を差していた。

「……周囲の状況の偵察とは随分と骨の折れる作業だな。だが、戦いは無く不満があった。そんな中、お前達が戦っているのが見えてな」

――……ものすごく加わりたい。

 清十郎のそんな気持ちが手に取る様に判ったし、伝わった。だからこそ、ユーリは笑いながら答える。

「真剣での三つ巴は少々危険だ。明日も戦いが有る筈だしな。……だから、これならどうだ?」

 ユーリが取り出したのは、木刀。殺傷力は剣に比べたら少ない物だ。打撲程度は致し方ないが 斬られるよりは遥かに良い。

「自分は構いません。戦いの前に怪我をさせてしまう訳には行きませんし」

 リックも頷いた。模擬刀も持っている為問題なかったのだ。

「ほう、だが 一太刀も浴びなければ良いだけではないか? と言いたいが、オレは お前達の実力は知っている。一太刀も浴びない事、それは無理の様だ。……全力で死合う訳にはいかんし、そう言う状況でもないからな」

 清十郎は、2本の木刀を手にとった。

「鈍った身体に喝を入れるのに丁度良い気付けになる」
「ああ。そうだな」
「……行きます」

 3人の強者の刃が……中心で交わった。
 それは、木で叩く音とは全く違う。爆音の様な物が木霊し、あたりに衝撃波の様なものまで迸らせていた。









~レッドの町・周辺街道~



 レッドの町に忍び寄る魔の手。
 ユーリとリックの感覚は間違ってなかった。人間では、どんな感覚神経をもってしても察知しきれない場所から、見ている異形なものたちがいた。

「サテラサマ、カクニンデキマシタ。レッドノマチ リーザスカイホウグンガ、イルバショ ランスモソコニ」
「漸くだな! ……アイツ(・・・)もいる筈だ、行くぞシーザー、イシス」
「ハッ」
「……」

 3名は、ゆっくりと町へと近づいていく。凶悪な気配を忍ばせながら。

「サテラサマ、アノオトコ、イマシタ」
「な、なにっ!? 本当か!? シーザーっ!」

 サテラはその言葉を聞いて驚いた。ガーディアンの性能は自分と同等クラスだ。そして、その視力も人間の数倍から数十倍。遥か離れていても、障害物がない限り、見えるのだ。

「ハ。戦ッテイルヨウデス」
「え? 戦い? 誰か攻めてるって事か?」
「イエ、リーザス軍ノ者デス クンレン、ダト推察シマス」
「………」

 サテラの顔が僅かだが紅潮した。だが、顔を直ぐにふり、調子を元に戻す。

「シーザー、イシス。お前達は正面から行け。サテラは回り込んで行く。ランスを探しだして、そして 聖武具を取ってくる」
「シカシ、サテラサマヲ オマモリシナイト……」
「大丈夫だ。このサテラだぞ? 弱い人間が何百、何千集まっても問題無いさ。も、問題はあの男だけだ。(……2人っきりで合えるんだったら、こんな事しないっ! な、なにを考えてっっ)///」
「サテラサマ?」
「な、何でもないっ! だから、シーザー達は抑えておいてくれ。……で、でも殺すなよ?」

 サテラは指示を出した。殺生はしないと言う指示。これまでにはあまりなかった事だ。だが、相手を殺さずに制するのは、殺す事よりも、かなりの時間がかかるだろう。

「デスガ、サテラサマの元ニ スグニ イカナイト……コロシタ方ガハヤイデス」
「サ、サテラは大丈夫って言ってるだろっ! それに、シーザー。アイツ(・・・)の事、忘れたのか? アイツは追い込めば追い込むほど、強くなる奴だっ! だから、時間稼ぎをしろっ! ……魔人であるサテラとシーザー、イシスを圧倒した相手だぞ。もうお前達忘れたのか?」

 この時だけ、真面目な顔をするサテラ。当初の絶対的な力の差を思い出したためか、表情が変わったのだ。

「……ワカリマシタ」
「………」

 覚えていない訳がない。
 この硬度の硬さの攻撃を、身動きすらせずに受け止めた。異常なまでの堅さ。そして、その力。……覚えていないわけはないのだ。

「だから、頼むぞ! 今は聖武具の方が先決だ! ……アイツには全部終わったら、ホーネットとサテラのトコに……」
「??」
「な、何でもないっ! だから、頼んだぞ!? シーザー、イシス!」

 サテラはそう言うと、離れていった。シーザーとイシスは互いに頷き合い……、そして足を進めた。時刻はもうそろそろ、日が陰り暗黒があたりを支配するであろう時間帯に迫っている。

 逢魔が刻、と言った時間帯。レッドの町に、リーザス軍に。魔人サテラの驚異が迫ってきた。











~レッドの町・入口~



 暫くは身体を動かし、戦っていた3人だったが、辺りが暗くなってきた為、もうやめていた。刀を其々が収め、先ほどの戦いについてを話していたのだ。

「清の二刀流は見事だな。刀を2つ操るのはそんなに簡単な事じゃない」
「ふ、ユーリも二刀を使うと言う事は聞いているんだがな。切り札、と言う事か?」
「ユーリ殿は二刀流も扱えるのですか」

 清十郎の言葉に、リックも聞いていた。

「オレの場合は清のそれとは少し違う。忍者刀とオレの長剣との二刀流。小回りが利かない長剣をフォローする為の二刀流。防御の役目が濃い二刀流、と言った所か? 清十郎のそれは、どっちも攻撃主体だろう? 基本的にはオレは一刀流だ。二本は結構疲れるからな」

 ユーリはそう返していた。
 ……自身の二刀は、清十郎の言うように切り札、奥の手、と言えばそうだ。かなみから、忍者刀を譲り受ける前から、それは形になっていた。だが、二刀を使うと言う事は、単純に2倍の疲労をするのも同義だった。

 其々の刀に力を込める為だ。あまり無理をし続ければ致命的にもなりかねない。

 だからこその奥の手、切り札だ。

「なる程な。だが、常に二刀を使っていたら両方に警戒されるだろう。……突如、もうひと振りの刀が来たら、と考られるが」
「まぁ、勿論。それもある」
「流石、ですね」
「リックの剣速も目を見張った。……接近しているというのに、消えるのを経験する事など、そうはないだろう。リーザス一とは言ったものだ。真の強者。……オレは本当についてるな」

 清十郎は、そう言っていた。リックは軽く俯かせる。

「いえ、僕はそんな大層な者じゃありませんよ。僕は決して強くない。だからこそ、いつも鍛えなければならないんです。不安で仕方がないから、僕は鍛え続けられてるんだと思います」
「……そう、だな。慢心してはならない。いつも刻みつけている事だ。……そして」

 ユーリは、町の外を眺めた。
 決して気付かなかった訳ではない。ただ、気づくのが少しだけ遅かっただけだ。

「強大な敵にも背は決して向けない。……後ろに守るべき者がいるなら尚更だ」

 腰に差している剣の柄を握り締めた。

「……そうだな。だが、ここまで接近されるとはな。正直 やり過ぎた様だ」

 清十郎も、木刀を投げ捨て、剣の柄に手を添えた。

「何時、如何なる時でも……僕は全力を尽くすのみです」

 リックはその長く赤い剣を引き抜いた。赤く輝く魔法剣を。




 もう、驚異は直ぐそこに迫っていた。



























〜人物紹介〜


□ メルフェイス・プロムナード

Lv25/48
技能 魔法Lv2

 リーザス紫の軍副将軍。
自分の故郷を属から守るために、禁断の秘薬を飲み、強大な魔力を手にしたが……その代償に強い男に二ヶ月に1回、抱かれないと気が狂ってしまう。
今回では、エクス将軍に抱いてもらっており、特に問題なかった。
紫の軍の副将軍だが、幼いアスカに変わって軍をまとめあげている。
故に部下からは相当に慕われている。(勿論アスカも大好き)
 


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧