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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第58話 守りたい者、譲れない想い

~リーザス城?????~



 空間が歪み、捻れ、世界の色合いがおかしい場所に1人たっている者がいた。その表情は、険しく……そして顰めている。

「……パットン。このあたしにも何も言わずに、んな無茶な真似をして」

 どこか、呆れもあるが、それよりも 若干悲しさも見える呟きと表情だった。
 そう、彼女はヘルマン評議員の1人であり、今リーザス、自由都市へと侵攻しているパットン・ヘルマンの守り役にして、乳母でもあり、姉でもあり、時には恋人でもあり、そんな複雑な関係を持つ異色のカラー。

 《ハンティ・カラー》である。

「こんな事なら、宝石をとっととパットンに渡しとけば良かったよ。位置情報を掴むだけで時間がかかってしまったからね……」

 ハンティは、そのまま歩きだした。

 向かう先は、リーザスの玉座の間。恐らくはそこにパットンがいるだろうと確信して。

 そして、歩くこと数分。

「いた……」

 玉座の間に座しているパットンを見つけ、ほっと一息を入れるハンティ。瞬間移動から、戻ったら一発ひっぱたいてやろうか?とも思ったが一先ずそれは無しにすることにした。

「……コイツは」

 その無しにした最大の理由の1つが、パットンの背後に控えている異形の存在。その背丈は云うにパットンの二倍以上はあろうか、と思える巨体。ヘルマン人である、パットンも軽く凌ぐ程の大きさだ。そして、佇まいからも只者じゃない、と言うのが判る。
 全ての時間が停止しているこの世界にいると言うのにだ。

 そして、僅かながらに見えた素顔を見て、はっきりと判った。……この者が誰なのかを。

 ハンティは、一瞬だけ驚愕するものの、直ぐに表情を引き締めた。そして元の次元へと戻っていく。世界は急速に元の姿に戻り、停止していた時間も動き出した。




 その時、丁度 パットンは激高していた。何故なら レッドの町での敗戦を訊いたからだ。フレッチャーが敗れ、解放軍に落ちた。腸が熱を持って神経を逆なでしながら蠢く様子だった。

「ぬぐ……ぐぬぬぬぬぬ! 敗北を喫したリーザスの残党共が、何故この様な…… ぐぅっ」

 不満を盛大にぶちまける様に、固めた拳を玉座に振り下ろした。その衝撃で肘掛を軋ませる。この場に残された警備兵達は皆萎縮してしまう。

「……ただ 待つ身と言うのは、腹が立つだけだ。こうなれば……」

 何かを考え、行動を起こそうとした時だ。

「―――落ち着きなよ。パットン」
「―――っっ!!」

 声が聞こえてきた。それは女のモノ。謁見の間には全員が男の兵士と魔人であるノスのみであるのにも関わらず、その声が聞こえてきたのだ。聞き覚えがある声、そして 突然聞こえるのも何時もの事だ。

「っ!! な、何者だ!?」

 突然、ヘルマンこの謁見の間に現れた者に驚きを隠せない兵士達だったが、直ぐにパットンが制した。

「来た、のか……ハンティ!」
「……ああ、来るさ。あたしには距離は関係ないからね」

 玉座から、飛び降りる様に彼女へと近づくパットン。
 周りの兵士達も、冷静になりその姿を見たら直ぐに判った。この女性は、味方だと言う事が。それも、最も頼りになる者の1人だと言う事が。

「それで、おかしな術で正気を失ってたりは……しないか」
「……なんのことだ?」
「ったく、あたしの知らないトコで、魔人と手を組むなんて……」

 ハンティはチラリと視線を移した。そこには魔人が佇んでいる様だ。ハンティが現れたことに、若干だが反応した。……だが、それだけだった。さしてそれ以上気にする様子もなく、警戒すらしていないのだ。

「……少し 席を、外します」

 ノスは野太い声を静かに発すると、そのまま消え去った。

 ハンティは、警戒心を強めていたが、完全にこの部屋から気配が消えたことを確認すると、改めてパットンのほうを見た。呆れた表情を浮かべつつ、睨む。
 
 そして、その視線を受けたパットンは思わず視線を反らせた。黙ってことを進めた事は……いや、最早自分は子供でないと自負をしている。いちいち干渉される謂れもないのだ。

 パットンもノスがいなくなったのを確認すると。

「奴らが忠誠を誓っているなどとは思ってない。利用できるうちに利用するだけだ」
「ああそうかい。一応、対抗策は持ってきたんだけど……、それより、本国じゃ大騒ぎだよ」
「騒ぎ?」
「重臣連中が非難囂々。――パットンは魔人に操られて軍を動かした。ってさ」
「オレは皇族だぞ! それに、成功すればそんな差し出口、黙らせるのは容易い」
「ま、あんたの想像の通り、率先して非難してんのは、シーラ派……ステッセルの腰巾着だけだけどね」
「……こんな所でまで、奴らの名前は訊きたくはないな……」

 それはパットンの義母に当たるパメラ、そしてその娘であるシーラ。……ステッセルは、2人を担ぎ上げる宰相ステッセル。それはパットンにとって、リーザス軍よりも厄介だと思える、本国の政敵だ。

「それで、何のようだ? その話をしに来たのか?」

 僅かだが、視線を逸らせたまま、パットンはハンティに殊更に問う。今の目を、ハンティには見られたくなかったのだ。

「いいや。……そう言うわけで、手古摺ってると面倒なんだ。あたしが片付けてやろうかとね」
「う……」
「リーザス解放軍、だっけ? その頭を始末してくれば、終わりだろ? まぁ 何処の誰が頭か判らないから一概には言えないけど。 ぱぱっと殺ってくるよ」

 後半の言葉にやや、引っかかりがあるものの、パットンはハンティをよく知っている。それが決して大口を叩いていると言う訳ではないということを。
 ハンティがそれをする、と言えば 文字通りあっという間に敵の首を上げて帰還するだろう。……だが、パットンは首を横に振った。

「い、いや……その必要は、ない」
「ん?」
「今回は、オレが……っ、オレ1人でやりたい、のだ。手は出すな……」

 台詞を止めるつもりはなかったが、喉が引っかかり絞り出すような声になっていた。

「………ふーん……」

 ハンティは僅かにその琥珀色の瞳を大きくした。確かに 言った様に さっさと終わらせて、本国に戻る事が一番先決だと思っているハンティ。敵側の将、恐らくはリーザス軍の残党、トップであるのなら、将軍クラスの者だろう事は判る。

 だが、100%とは言えない。 ()を、知る必要もある程度あるのだ。

 色々と考えていた時に、パットンのその言葉を訊いた。

「ま、いいさ。じゃあ、やってみな」

 だからこそ、パットンに完全に任せる事にしたのだ。自身は手だしはしないで。

「でも、カタが付くまでは、こっちに居させて貰うよ。ここまできて、帰れ。とは言わないだろ?」
「あ、ああ……当然だ」
「あんた、ちょっとは頑丈だけど、戦いの、剣の腕はからっきしだもんねぇ? パットン坊や」
「う、うるさいぞ!!」

 怒鳴り声に、きしし、と少しだけ笑うハンティ。からかいがいのある男など、ハンティの中でそういるものではない。状況が状況であるから、そこまで楽しめるものじゃないが、一先ず、パットンが無事である事を改めて胸に刻み、安堵をしていた。

 そして、顔を赤くさせているパットンを尻目に、ハンティは謁見の間から出て行く。

 安堵をした、とは言っても それはわずかだけ。……まだまだ、不安、心配事は多いのだ。

「(……でも、パットン。あんたが助力を得た、あの魔人どもは……)」

 その不安要素は、勿論魔人の存在だ。
 自身の記憶が間違いないのなら、あの場所にいた魔人の正体は、極めて危険とされている魔人の1人だから。 
 だが、一先ずそれは置いておく。今のヘルマンとリーザスの戦況についてを 思考した。

「……ま、レッドの町の指揮官は、フレッチャーだって言うし、あのズボラで、怠惰を貪ってたヤツが今負けたって別段不思議には思わないけどねぇ」

 ため息を吐くハンティ。今から30年程前では、大陸最強の拳法家として、名を馳せていたのだが、もう見る影もない事はよく知っているのだから。

 若干ハンティは呆れた顔をしていた。素質は紛れもなく世界最強だと言うのに、と少なからず もったいない、とも。

 未だにあの巨漢は伝説となっているが、それはひとり歩きするものだ。現在、人類最強と称されているのがトーマ・リプトン。そのトーマが問題にならない程の者だったから、半ば嘘ではない。
 魔人にさえ、引けを取らず、あの理不尽な結界が無ければ、打ち勝てるまでの力量だった。

 ……が、それも遠い過去の話。

 伝説の男ともてはやされて、怠惰を貪り、今の姿になっている。正直、友にならなくて良かった、とさえハンティは思っていたのだ。トーマとは友達の関係だが。


 ハンティが去った後、パットンは改めて今回の敗戦を思い返し、拳を握しめていた。

「フレッチャー……。何と言う事だ……」

 パットンも、ハンティが来た事もあり、余裕も生まれたのだろう、平静を保ててはいるが、信じられないと言った様子だ。ハンティがこの場にいたら、『あの豚の実力を明らかに見誤っているだろ!』と強く言う事だろう。

「リーザス解放軍は、勢いを増し、進撃を続けております。このままでは、ジオの町まで落とされる危険性も……」

 フレッチャーを破った解放軍は勢いそのままに、ジオにまで落とそうとしていると言う話を聞いたパットンは、立ち上がり声を荒らげた。

「トーマに我軍の主力を集めさせて、解放軍を全滅させろ! 急げ!」
「はっ! ……で、ですが、今我が軍はリーザス各地の制圧に散らばっております。この状況で軍を動かすと、リーザス各地で反乱の火の手があがる危険性がありますが……」
「構わん。まずはリーザス解放軍を撃破するのだ。これ以上奴らが大きくなる前にだ。間違いなく彼奴らが、主力部隊。頭を潰せばあとは烏合の集だ」

 この時のパットンの采配は正しい。
 現時点で最大のリーザスの兵力はこの解放軍であり、各地に点々としているリーザスの残党が全て集まった所で、リーザス解放軍の2割にも満たない兵力なのだ。逆に、リーザス解放軍と言うデカい光に集い、更に勢力を増す方がヘルマン側にとっては最大の驚異なのだ。

「はっ! わかりました。全軍をトーマ将軍の元に集結させます」
「………」

 確かに、采配は正しいが、屈辱感と敗北感が頭の中に過るパットン。それは表情に顕著に現れていた。


 伝令を伝えるべく、走り続ける兵士。謁見の間を出て、長い赤いカーペットの敷かれた通路を走る。
 その時だ。

「……ちょっと良いかな?」

 突如、後ろから声が聞こえてしまい、思わず尻餅をつきそうになってしまう。

「おいおい。大丈夫か? この程度で慌ててちゃ、ここを守れないぞ?」
「は、はい! 申し訳ありません。なんでしょう? ハンティ殿」
「レッドの町周辺の地図……、自由都市の全体の地図なんかないか? 周辺にある町の名が知りたいんだけど」
「わかりました。こちらです、ハンティ殿」

 それを訊いて、常備している自由都市の全体地図を広げた。そして、説明に入る。

「恐らくは驚異になる発端は、このカスタムの町からかと、思われます。……レッドの町の壊滅の一手になったのは、彼奴らの存在があったと報告を受けましたので」
「…………」

 ハンティは、その言葉はてきとうに相槌をうって聞き流した。

 彼女が知りたいのは、そこではないからだ。この周辺に……あの町(・・・)があるか、否か、それだけが知りたかったのだ。

 長年生きているが、時が経てば、町の名も変わるし、壊滅する事もある。だから、そこまで細かく覚えていなかったのだ。……そんなマメな性格じゃない、と言う事もあるが。
 視線を忙しなく動かし続け、やがて1点に止まる。

「ここ……か。……結構近くだね」
「アイス……の町ですか。そこは、まだ一度も侵攻しておりませんが、特に驚異は……、問題視にもしておりませんが?」
「………いや、何でもないさ。ありがと、もう行っていいよ」
「? はっ」

 ハンティはそのまま、歩きだした。

 変わりゆく、パットンの姿。最早見限った軍上層部の幹部連中や、将軍で言えば、ロレックスの反応は確かに正しいのかもしれない。

――……そして 今は亡き、親友との約束もある。

 だが、それ以上にハンティは頭を抱えた。

「(それにしても……参ったね)」

 それはハンティのもう1つ、気がかり。それは、さっき見た位置情報……自由都市の地図。

 町を少々挟んでいるとはいえ、比較的近い距離にあの町があるのだから。近隣の町に親交があったとしても何ら不思議ではない。

「こう言う再会は、あたしは願ってないんだがね……ユーリ」

 そのハンティの呟きは誰にも聞こえていない程の大きさのものだった。

 それは、以前知り合ったギルドの冒険者。とんでもない逸材と言える人間の1人だ。

 ……何よりも恩があり、信頼さえも出来ると言っていい男。いつかまた出会うだろう……と思っていたが、よもやこう言う形になるとは思っていなかった。それはお互い様だろう。

「(……また、ユーリ……あんたと相対するかもしれない、とは……ね。でも、そうであったとしても、あたしにも譲れないものはある。守りたい者だっている。……守らなきゃならない約束だって……あるんだ)」

 ハンティも強く……拳を握っていた。頭の中に響くのは、あの時の声。

『立ち止まらずに進め。真っ直ぐに只管進め……時代の流れに身を任せて』

 あの時の声。心に響いてきた声。

『……愛おしき、ドラゴンのカラー』

 そう言ってくれたのは、もう何年ぶりだろうか。気の遠くなる様な時間。時代と言う時代を遡った更に過去。

「(………)」

 再会を願っていたハンティ。だが、その胸中に過る複雑な思いは拭えなかった。








~リーザス城 地下牢~


 この場所で、リア女王と筆頭侍女のマリスが牢に繋がれている。
 今日も終始激しい拷問を受けてやっと夜になり、開放された所だった。所々に、生々しい傷が、血が、痣が出来ており、そして……その肌には白く異臭を発する液も付着していた。秘部からも、ドロリと流れ落ちている。

「マリス……」
「リア様……、申し訳ありません。私がいたらぬばかりに……」

 流石のリアも自我を保っているのがやっとと言う程にまで疲弊しているのが見て取れた。精神力と、必ず助けが来るという希望を胸にここまで耐えてきたのだ。……だが、その姿を視るのも辛いのがマリスだった。

「そんなの、良いの。マリス。……きっと、きっとダーリンが助けに来てくれるもん。……一緒に、リア達を……」

 この時、名前を口にしなかったのは 誰が見ているかも判らない、聞いているかも判らない状況だった為だった。その名前から、ガードの魔法をかけてまで守りたかったものが奪われてしまう恐れがあるからだ。それだけはなんとしても回避しなければならないのだ。

「……でもね、マリス」
「はい……」

 リアは、虚ろな表情でマリスを見つめた。

「リア……今日も汚された……責められた……、リアは……ダーリンのものなのに」
「……」
「だから……せめて、少しでも忘れたい……、リア、マリスにだったら……良いの」
「リア様……。」

 リアは、温もりを求めていたのだ。それは信頼出来る人。あの人以外には、リアにとってこの目の前のマリスだった。ずっと、幼い頃から一緒にいたマリスだった。

「私でよければ……」
「マリス……っ」

 マリスとリアは、抱き合っていた。互いに傷を舐めあうと言えば聞こえは悪いかもしれない。だが、極限の状態で……その中では唯一の安らぎになるのだ。

 マリスとリアは身体を重ね合わせ……必ず助けが、ランス達が助けに来ると信じていたのだった。





 その絶叫と嘲笑が絡まりあって響く地下から離れ、赤毛の魔人は1人、その地下へと続く階段の前で座り、考え込んでいた。
 ずっと、ずっと考えていた。何故、自分の心が判らない? 何故、こんな気持ちになっている? と。

 そんな時だ。

「―――サテラ」

 音もなく、巨体がサテラの正面に現れた。

「っ……、の、ノスか。なんだ。いきなり……」
「リーザスの王女はどうなっている」
「さぁ。適当に楽しんでるんじゃないか。殺すな、とは言ってある。……だから大丈夫だ」
「うむ……」

 何処か上の空であるサテラを見るノス。アイゼルの言う通りだ。その根幹は判らないが、何かがあった様だ。よもや、人間の世界でサテラがどうにかなるとは思っていないが、何か、思う所があるのだろう。
 その理由に関しては決して口に出さないのだが。

「……鍵は、リーザス王家の生き血。《カオス》を得る為に必要だ。調べて判った事だ。絶対に殺すな、と改めて伝えろ。……拷問をしている者共に。殺したければ、姿を消した王族をやらを探してこいと。……無論、聖武具を見つけたあとでな」
「……判ってる」

 今のサテラこそ、適当に相槌をうっている様に思えるが、今は良いだろう、とノスは判断した。

「町の1つ、2つ程度であれば、焼いても構わぬ。聖武具を持つものをあぶりだせ」

 その言葉を訊いたサテラ。それは頷く事はなかった。

「……だが、あの方も並行して探してるんだ。人間の街を荒らしすぎるわけにはいかない」
「ぬ……あのお方、か……」

 わからぬ自身の感情を見つめ直しているサテラだったが、そんな中でも 決して曲げる事の無かったのが、その任務だ。

「ああ。魔王様。……リトルプリンセス。サテラには、誰よりも大事、だろ。ホーネットも望んでいるんだ」

 未覚醒のまま逃亡中である現魔王。彼女を確保することは、正当な魔王を奉じるホーネット側の魔人には、至上命令と言えたのだ。だからこそ、自身の事は、とりあえず(・・・・・)二の次なのだ。

「……そうだな。魔王は、全てに優先される」

 頭巾に隠されたノスの眼光が一瞬鋭さを増す。

「その、聖武具に関してはサテラも探している。……名前がわかれば、と思ったが、ラ、だけじゃ流石に無理がある。人間の数が多すぎるんだ」
「見つからんでは、済まされぬ。……あらゆる手を使え」
「……けど情報がない。王女からも、もう望みも薄いし」

 ここ数時間に渡って、色々と考え込んでいるサテラ。真面目に尋問などしていないのに、すらすら~とそう言えるのは、どういう事だろうか?

「(……シーザーに頼んでいるから大丈夫なんだ!)」 
 
 ……と、言うことだった。

 そして、この場に新たな来訪者が現れる。

「それは、ランス……のことでしょう」

 金色の髪を靡かせながら、歩いてくる男。魔人アイゼルである。

「アイゼル。……どこに行ってたんだ? それに、らんす?」
「無理、戦場に。……色々とありましてね。恐らく、ですが ラ、から始まる名であり、聖武具を持つ可能性が高いのは、彼でしょう」

 アイゼルは、そう言う。それを訊いたノスは。

「聖武具は? あったのか?」
「いいえ。すれ違った程度ですので、そこまでは……」

 僅かにだが、表情を顰めているアイゼル。その姿とサテラの状態が、僅かにだがかぶって見えた。

「おや、サテラは 訊いてくる、と思ったのですがね。しきりに、そのラ某の容姿のことを訊いていた様ですし」
「……そんなの、どうだっていい。それで、そいつはどんなヤツなんだ。場所と一緒に詳しく教えろ」
「はい。もちろん」

 サファイア、そしてレイラ。二度まで、手の者を退けたランス。……そして、何よりもあの妙な声の正体。 ……感じた印象を総合すれば、サテラでは荷が重いと思える。だが、それは、あの男と相まみえれば、の話だ。

「(……次は魔人。本物の魔人が相手です。いかがしますか……? ランス。……そして、アイツ(・・・)は姿を表す、でしょうか。……サテラにも確認が必要、ですね。……必要であれば、私も参戦すべきでしょう。……印象通りの戦力を秘めているとするのなら……やむを得ないでしょう)」

 あの時の感覚がアイゼルにはまだ残っている。手に滴る汗の感触も。たった一瞬の出来事だと言うのに、強く印象に残っているのだ。








~レッドの町~


 結局は、最大の驚異であった魔人アイゼルは逃げたものの、当初の目的であったレッドの町の解放は成す事が出来た事に皆は歓喜をしていた。そして、勿論この男は。

「がははは! まぁ、オレ様が指揮すれば、ざっとこんなものだな? がははは!」

 腰に手を当て、高笑いをするランス。シィルも傍で笑顔で言う。

「お疲れ様です。ランス様。やりましたね!」
「これが当然というものなのだ! がははは!」

 高笑いをするが、冷ややかに見つめる者も勿論いる。

「……全くアイツは」
「はぁ、本当にガキね。アイツって」

 軽くため息をしているのは、かなみと志津香。今回、ランスも確かに戦ってくれて、間違いなく貢献した者達のなかでも上位に位置するだろう。

 赤の軍副将であるメナド・シセイを抑えていたのだから(……正直、女性陣にとってはかなり複雑だが)。……が、それよりも。

「……やっぱり、ユーリさんは凄いよね、志津香。……リック将軍を止めた上に、打ち負かすなんて……」

 かなみは、今回は驚きを隠せられないままにそう言っていた。


 赤の軍将軍リック・アディスン。

 リーザス一と謳われた剣の天才であり、その戦場では圧倒的に目立つ赤色、そして圧倒的な強さから《リーザスの赤い死神》とも呼ばれている将軍だ。かなみも、その実力は勿論知っている。メナドと共に何度も修練をしているから。圧倒的な手数と早すぎて見えない剣閃。人間が死神に勝てる筈がないのと同義で、一体誰が彼を倒せるものか、と本気で思ったくらいだ。

「……ま、アイツはアイツで戦闘狂だしね。だから勝てたんじゃないかしら?」

 志津香は、何処となく誇らしそうにも思っている様に見えた。

 ……心から信頼しているとも。その男は、今はリーザス解放軍の司令室に趣いている。今後の事、今回の事、そして顔合わせを含めて。まだ、作戦会議は行ってない様だが、司令本部にはリーザス軍の主力が揃っているから。

「……でも」
「ん? どうかしたの? かなみ」
「う、ううん。なんでも……」
「?」

 志津香は、少し気になった様だがそこまで言及はしなかった。

「(……メナドの言葉が、ちょっと気になる。よく、覚えていないから……。ま、まさかだけど……、メナドも……ならないよね? ゆ、ユーリさんの事を……)」

 かなみが思っていたのは、メナドが倒れる前に言っていた言葉。

「(以前、何かって言ってたっけ……? 一体なんだったっけ……。私、あの時結構いっぱいいっぱいだったし……)」

 思い出そうとしても、中々思い出す事が出来なかった。ただただ願うのは、親友が恋敵にならないで、と言う事だった。

 親友であるメナドとそんな関係になるのは……流石に嫌だったから。











~レッドの町 リーザス解放軍 司令室~


 町長の屋敷がこの町で一番の大きさであり司令室にする場所として最適だと思えるが、ヘルマン軍達が、防護壁の変わりと、屋敷周辺に大きな溝を開けた事もあり、色々と不便だから、別の場所にしていた。レッドの町の中では、かなり大きい方の建物であり、恐らくはヘルマン兵達の休養所にでもしていたのだろう。

 医療具も揃っていて、傷ついた洗脳兵達を介護する場所としても最適だった。……流石に、全員を収容するだけの大きさは無かったが。

「……これで、黒、白、赤の3人の将軍。その副将達も殆ど揃ったか。世界でもトップクラスの軍達の将達か。……壮観、だな」

 ユーリは、揃っている男達を見てそうつぶやいた。

「これもユーリ殿のおかげです。……深く感謝しています」

 比較的、傍にいたエクスがユーリに頭を下げた。それを聞いたユーリは、軽く笑うと。

「……なに。オレだけじゃないだろう? それに間違いなく、一番の功労者はマリアだ。……レッドの町の解放の一手は間違いなくアイツのチューリップに決まりだ。……正直、あれはあれで対人兵器じゃないって思ったよ。攻城兵器って言った方が良い」
「それについては、僕も同意見です。ヘルマン軍は、身体の大きさに合わせて、装備も通常よりも強固な重装備ですが……意味を成さなかったですから」

 エクスもユーリの言葉を聴いて苦笑いをしていた。間違いなく、歴史に名を残す兵器となるだろう、と思える程の物。それが、何処かの軍に所属している技術者ではなく、カスタムの四魔女とはいえ、殆ど一般人の女性なのだから、末恐ろしくさえ思える。

「……ユーリ殿、それでも私からも礼を言わせてください。……皆を、メナドを、ありがとうございました」

 そんな中、副将であるハウレーンがこちらに来て、深く頭を下げた。その目には涙さえうっすらと浮かべている。メナドと再開した時の彼女の表情は、かなみにも負けない程のものだった。

「……約束、してたからな。それにまだまだ、これからだ」

 ユーリは、少々照れくさかったらしく、そう一言だけ言うと、顔を背けていた。

「……はいっ!」

 ハウレーンも力強く頷いた。
 確かにレッドの町は解放でき、赤の軍の洗脳を解く事が出来たが、まだまだ先は長い。青の軍の解放もまだであり、最後のリーザスの解放という大きな仕事が残っているのだから。

 そして、ユーリはその後もバレスにもリックにも礼を、と言われていて、本当に照れてしまっていた。そんな場面をカスタムのメンバーの前で見せなくて良かった、と思わずユーリは思ってしまっていた。

「町の復興処理は、マリアを筆頭にカスタムのメンバーがしてくれるそうだ。だから、将軍達は、次の町……、ジオの町の解放に向けての作戦を練れば良いと思うが、どうだろうか?」
「有難い限りです。町の損害も元をただせば、我らの不手際から生まれたもの……、その殆どを頼む事は心苦しいですが」
「……今は、一刻も早くヘルマン軍を殲滅する事が先決でしょう。それが、彼女らに対する敬意です」
「そうですね。ジオの町の兵力、そして司令官の能力と実績を考えても我々が負ける事は有り得ないと判断出来ますが、損害を極力抑えつつ、速やかに解放出来る様に策を練りましょう」

 そして、その後ユーリを交えたメンバ―達が色々と議論を交わした。
 町の地理的条件と敵の規模の再確認。そして、こちらの消耗度を加味した兵力を。

「……一先ず、この辺りですな」
「だな。今回の件は、カスタムの皆、清には勿論、……聞くかは判らんが、ランスにも一応耳に入れておきたい所だ」
「そうですね。本当は、今回の作戦でそれ程消耗していない我らだけで、下地をするだけでしたが、ユーリ殿やリック殿が戻られて、大変有意義な会議となりました。明日の配置関係、補給状況の確認・指示もスムーズに行えそうです」
「……まぁ、よくよく考えたら、レッドの町を解放してそんなに時間、経ってないからな。っと、流石にオレも疲れてたんだった」

 ユーリは、そう言うと軽く腕を回していた。シィルや、ロゼの回復魔法やアイテムをもらっているが、流石に全快復、とまではいかないのだ。もう常人の域ではないユーリとは言え、人間なのだから。

「……ユーリ殿」

 リックが、傍に来て、すっと頭を下げた。

「ん? どうした。先ほどの礼なら、も、良いぞ。……流石に何度も言われるのは……あれだし」

 ユーリは苦笑いをしながらそう返した。だが、リックの言葉は違う。

「いえ、おぼろげですが、僕はユーリ殿に傷を負わせてしまった記憶が残っております。……その事のお詫びがまだ出来てません故……」

 その事だった。
 ユーリは、なんともなさそうに、平然と経っているが、その下には治療の後があり、包帯も巻いている。それが自分が与えた傷だと言う事もリックは判っていたのだ。

「それは、お互い様だろ? 剣士として、正面から正々堂々と戦って受けた傷。背中の逃げ傷では無く、正面。……それも強者から受けた物だ、……それを誇りにこそすれ、恨んだりするつもりは毛頭ない。それに、腕の良い治癒術士もいるしな? ……後で色々と請求されそうだが」

 ユーリはそう言って笑っていた。あの戦いは、正直楽しかったと強く思っているのだから。リックも頭を上げた。

「……本当にこれ以上の詫びは要らないぞ。また、手合わせ願いたい、と言う誘いなら良いが。……勿論、リーザスを解放した後でな?」
「勿論です。ユーリ殿。こちらこそよろしくお願い致します」

 ユーリの言葉にリックも頷いき、笑っていた。


「……リック殿とユーリ殿の一戦。……十分に学べる事が多いでしょう」
「じゃな。……年甲斐もなく、胸が湧き踊っておる自分が此処にいる」
「そうですね」

 3人も、リックとユーリを見ていて、色々と思うところがあるのだろう。

 真の強者の戦いは、周りをも魅了する。時を忘れて魅入ってしまうだろう。解放出来た暁には、特等席でその戦いを見てみたいと3人共が思っていたのだった。









~レッドの町・復興工事現場~


 ヘルマン兵達に破壊された家屋や施設は、かなり大規模だった。短期間で何とか出来る様なものじゃない……、と思っていたのだが。

「……これは凄いな」

 司令室から出てきて各様子を見に来ていたユーリは驚き、目を見開いた。町はまだまだ、爪痕が残るものの、瓦礫の撤去はほぼ終わっており、重機が忙しく動いている。

 カスタム製!と大きく書かれたその重機は間違いなくマリアが作ったものだろう。

 大きな作業は一段落終えた様であり、マリアも休憩をしていた。

「あ、ユーリさんっ!」

 ユーリに気がついたマリアは手を振って迎えた。

「……正直、驚きを隠せないぞ? なんだってこんなに復興処理が早いんだ? マリア、お前って、オレなんかよりずっと、力も体力も上で、その上 有り余ってるのか? 大の男 数人の仕事量どころじゃないぞ? これは」
「そんなわけないでしょっ! 私は、これでもか弱い女の子ですっ!!」
「まぁ、それは冗談だが、本当に早いな、と思ったのは事実だ。驚いているよ」

 マリアは、ユーリの発言にぷんぷんと、怒っていたが、気を取り直して説明をした。

「町の皆も手伝ってくれてるのよ。皆、ヘルマンの奴らに蹂躙されて身も心も疲れてる筈なのに、こんなに頑張ってくれてるの」

 マリアは、頼もしい! と言わんばかりに腕を組みながら頷いた。

「うん、私も殆ど作業も終えて、今後の復興スケジュールも組めたから、リーザス解放作戦の方に戻れるわ。そっちがメインだしね」
「……はぁ、本当にカスタムの面々は」

『スペックが高い』
 そう思わずには要られないユーリだった。

「それで他の皆はどうした? ……勿論、ランスは言わなくていい。どーせ、『面倒で地味なのは全て任せたぞ。がはは!』とか言って、シィルちゃんとどこかでヤってるんだろうし」
「……流石、付き合いが長いわね。ユーリさん……、一言一句間違いなく、誤字すら無いわ。ランスのバカは、バレスさんや、エクスさんに祝勝会の時にでも話を、って言われてたんだけど、お2人をホモ扱いして一蹴しちゃってたし」

 マリアは、呆れた様子でそう答える。……マリアが呆れるのも無理はないだろう。面倒だから、断るのは百歩譲ってまだ良いが、ホモ扱いとは何だ?って思える。

「……まぁ、ランスだからな。バレス達も色々と判ってきてるだろう。……腕は立つのは間違いないから、色々と複雑だと思うが、そこは我慢してもらうしかない」
「そうよね……」

 最後には、互いにため息を吐いてしまっていた。

 そして、マリアは続きのメンバーについてを言う。

「えっと、ミリ、トマト、ミル、ラン達は、教会に薬や生活品、色んな物資を運んでくれてる。町の怪我人、軍の怪我人達はあそこでも安静にしてもらっているしね。かなみと志津香はさっきまでここで色々と手伝ってくれてたけど、少し風に当たってくる、って言って離れてて、清十郎さんは、町の入り口でヘルマン軍達が奇襲に来ないか、監視をしてくれてるわ。それからー、えっと、真知子さん、優希ちゃんは情報の整理に当たってくれてて……」

 マリアは、顎に指を当てて、思い出しながら更に続けた。……もう1人の問題児?がいる事を思い出しながら。

「あー、ロゼも色々と回復してくれてたんだけど、『ちょっと英気を養ってくる~』とかなんとか言って借りてる部屋に言ってるわ。数少ない綺麗で大きな部屋だけど、色々と貢献してくれてるし、ね……。ナニしてるかは想像つくけど。」
「………はぁ。だな。オレもスルーしておく」

 マリアの言葉を聞いてユーリはため息を吐いていた。ロゼだ、と言えばそうなのかもしれないが……中々なれれる様なものではないだろう。ランスの事を女性達が中々慣れれないと言う事と同じく。

「あ、そうだ。ユーリさんを探してた子がいてn「お兄ちゃんっ!!」そうっ、ヒトミちゃん」

 マリアの言葉が終わる前に、ヒトミの声と共に、背中に軽く衝撃が走った。どうやら、ヒトミが飛びついてきた様だ。身体は軽いから、そんなに問題ないが、流石に疲れているから、バランスを若干乱しそうだったが。

「本当に良かったよ……、お兄ちゃんが無事で……」
「……ああ、ありがとな? ヒトミ」
「ふふ、ヒトミちゃんも皆の為に頑張ってくれてるんだよ? 世話だってしてくれてるし、すっごく助かってるんだから」
「えへへ……」

 ヒトミは褒められて嬉しいのか、頬を緩めて笑っていた。ヒトミが自分自身に掻けている認識阻害効果は、十分に機能している様で、彼女の正体を知っている者はユーリと比較的近しい者達しかいない。だから、ミル同様、頑張ってくれている可愛らしい女の子位にしか見られてないのだ。その愛らしい笑顔とひたむきな姿勢、献身的な看病は、皆に安らぎを与えてくれているのだ。

 ユーリは、それも聞いていて。

「そうか。ありがとな? ヒトミ」

 そう言って彼女の頭を撫でた。ヒトミは、ニコリと笑うと答える。

「ううん! 無理言ってついて来たんだから。私も役に立てたら嬉しいもん。お兄ちゃんの傍にもいられるしね!」

 ひょいっとユーリの肩に乗って、丁度肩車の態勢に入った。

「コラ ヒトミ、重いぞ?」
「ぶーー!! お兄ちゃんっ! 女の子に酷いよっ! ぁ……って、言いたいけど……そうだよね。お兄ちゃんもすっごく疲れてるのに、ゴメンなさいっ」

 ヒトミは、そう言うと身軽な身体を活かしてするするとユーリから降りて、その手を握った。

「いや、軽いジョークのつもりだったんだが……」
「女の子相手に重いって、その言葉の意味と同じで、軽いジョークにならないわよ。バカね」
「ああ、志津香か」

 風に当たってくる、と言ってから志津香も戻ってきた様で、ため息を吐きながらそう言っていた。

「志津香お姉ちゃんも お疲れ様っ」
「ふふ。はいはい。でも、まだ 頑張らないといけないけどね?」

 ヒトミは志津香の手もぎゅっと握ってそう言う。志津香もやや、そっけない感じの言い方だが、その顔は穏やかで、優しさに満ちていた。随分と珍しい顔だと思える程に。

「ユーリさん、お疲れ様です」
「ああ、かなみもな。……メナドは大丈夫か?」
「うぇっ!? め、メナドですか??」
「? オレ何かおかしい事、言ったか?」
「い、いえ……、メナドは大丈夫! ですよ。ちょっと催眠の影響もあってか、心労で眠ってはいますが、問題は無いとの事です。(……ま、まさか、あんなふうに考えてた、とは言えないよぉ……)」
「ん、そうか。それは良かった」

 かなみもハウレーンもかなり気にしていた相手だ。
 先ほどもハウレーンに聞きたかった事ではあったが、看病をしていたのは、かなみだった為、かなみに聞いたのだ。

「(かなみお姉ちゃん。またお兄ちゃん関係の恋の悩みっ?)」
「うぇっ!?」
「ん? どうした?」
「い、いえっ! なんでも無いですよ??」
「うん、何でもないよー。お兄ちゃん!」
「??」

 いつの間にか、かなみの傍にはヒトミがいて、何かを話していた。勿論、ユーリには聞こえない声の大きさで。

 その後も、楽しそうな女子トークが続いているのだった。……途中で志津香も加わって。



「えっと、清十郎さんも問題なさそうでしたよ。先ほど、色々と食事を出しに行ってきました」
「そうか、今回、アイツには世話になってるからな。直接礼を言っておくか」
「止めときなさい。たぶん、ユーリ自身が礼を言われた時に返す様な答えが返ってくるだけだから。言うなら、コレからも頼む。の方が良いと思うわよ」

 志津香がそう答えていた。
 付き合いは短いが、清十郎の性質を大体把握している様だ。……彼は、ユーリと同等クラスの戦闘狂なのだ。

「……まぁ、そうだな。そう言えば、他の抵抗軍(レジスタンス)の皆はどうしたんだ? アリオスやユランの姿は見えないが」

 ユーリは次に抵抗軍(レジスタンス)の事を聞いた。
 この町の解放が迅速に達成できたのは、彼らの裏支援があったからこそだと思えるから。労いの言葉をと、バレスも言っていたのだが。

「あ、あの人たちは、別の町に向かいましたよ。なんでも、アリオスさんを慕う人達が、彼に救出を求めたから、それに答えに行くと言い残してます」
「……あいつ等だけでか? それは幾らなんでも無茶だろ?」
「はい……。私もそう思います。でも、話によれば問題ないとの事で、こちらの方は、ユーリさんや清十郎さんに任せると言ってました。……彼はユーリさんが解放軍の要だ、って判っていた様ですね」
「……たく。一言でも言ってくれれば良いものを」

 ユーリはそうは思っていたのだが、そこまで心配はしてなかった。

 あの男は……、絶対に死なないと確信しているからだ。……あの男が、勇者(・・)である限り。

「場所はポルトガルと言ってました」
「……東の果てか。手伝いに行くよりも、彼らの腕を信じて、さっさと本拠地を叩く方が良いな」

 ユーリの言葉にマリアが答える。

「彼ら抵抗軍(レジスタンス)だけど、少しずつ、規模を大きくしていくから、心配ない。今の兵力だけで良いと言っていたわ。ユランも申し分ない実力だしね。寧ろ別れちゃったのが痛手って思うくらいの実力者……こっちも大変だけど、少しくらいまわそうか? って思ったんだけど……、アリオスさんもユランさんも必要ないって言ってて」
「……強気な彼女なら言いそうだな」

 ユーリは軽くため息を吐くと、改めて決めた。


『進路変更は申し立てず、彼らを信じて、こちらはリーザス解放まで、一直線に進む』と。






 レッドの町の復興は視界良好だ。
 そして、ジオの町の解放も時間の問題、ポルトガルの情報も真知子曰く、ラジールやレッドは疎か、ジオの町のヘルマン軍の半分にも満たない程であり、問題ないとのこと。

 だから、何もかもが上手くいっているかに思えた。



 ……だが、その次の日、新たな問題が出てきたのだった。



 安静にしていた彼女(・・)の身に変化が起きたのだった。





























〜人物紹介〜


□ ハンティ・カラー(3)

Lv-/-
技能 魔法Lv3 剣戦闘Lv1

言わずと知れた、ヘルマンの伝説の黒髪のカラー。
今回は、カラーの娘たちを無事、町にまで送り届けた後、ほどなくしてヘルマンに帰国、そして事態を知った。
彼女の立場から、パットンを守る事以外に選択肢は無く、もしユーリと相対したとしても、出方次第だが、戦う覚悟も決めている模様。
彼女にとって、何よりも大切なのは、今は亡き友との約束なのだから。


〜町紹介〜


□ ジオの町


自由都市地帯の北部に位置する町。
リーザスに隣接する町であり、比較的早く占領されてしまったが、直ぐに降伏した事もあり、そこまでの被害は無かった。
傍のレッドやラジールに力を入れていた為、兵力も少なく、問題ない。
……はっきり言ってしまえば通過点である。


□ ポルトガル

自由都市地帯最東端に位置する町。
独特な訛りのある言葉を使うのが特徴であり、薬、武器、防具等幅広く扱う「プルーペット商会」の拠点。
今回、位置的にもまだ占領された、とは言えないが徐々に拡大してきているヘルマン兵達に手傷程度を負わされたのは事実。
アリオス等が助けに向かった。

明らかに規模を考えれば、それはオーバースペックだし、オーバーキルとも思えるが、そこはアリオスのある特性だったり……。


 








 
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