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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第52話 鍵はチューリップ3号?



~ラジールの町・酒場~


 その場所でローラを見つけたのはランス達だった。灯台下暗しとはこの事であり、シィルは喜んだのだが……。結果は言わずとも知れた状態だ。ローラは、不貞腐れた様にまだふんぞり返りつつミルクセーキを飲んでいる。一体何杯目なのだろうか? そして、目の前には、パフェであろう グラスが何本もテーブルに広がっている。
 あれだけ、食べたのなら……、明らかにあの少女の胃袋の体積よりも 多い筈だが、とツッコムのは止めておこう。

「お、お願いします。あれはリーザスにとって大切な宝物なんです。あれが無いとリーザスは……」
「何度も言ってるでしょうっ! 私のウー君を返してくれたら考えてもいいわっ! そうじゃないと嫌だ、って言ってるのっ!」
「っ……!」
 
 温厚に済ませたかったかなみだが……、流石に怒りの表情が見え出してきた。それをユーリが抑える。

「そのウーって リスが死んだと言うのは誤解だ。彼はまだ生きている筈。人間になって戻ってくると言ってな」
「そんなの嘘よっ! それに、本当なら早く連れてきてよっ! じゃないとぜぇぇったい 信じないわっ!」

 ユーリがそう言っても信じない。でまかせを言っているとしか思っていない様だ。

「ふん! お前は自分の立場がわかっているのか? オレ様は、お願いしているのじゃない。命令しているのだ。さっさと渡せ、じゃないと100回は犯すぞ!」
「ふんっ! 犯したければどうぞ! なんなら、殺してくれても良いわ! ウー君のいない世界で生きていてもしかたないもん! ……それに、私を殺したら探し物の場所がわからないわよ!」
「くっ……、開き直ったヤツは扱いにくい。オレ様が女としての歓びを教えてやったと言うのに、恩を仇で返すとはこの事だ」
「も、お前は黙ってろって……、余計話をこじらせるし、逆なでするだけだ」
「なにおー!」

 ランス達と合流したまでは良かったが……、現状はよくない。彼女の目は本気だ。……目を見たらよく判る。真剣なのか虚勢なのかは。

「自分を産んでくれた親の事も考えろ。簡単に死んでもいいなんて思うんじゃない」
「何よっ! 私に説教をするつもり?? 簡単にウー君を殺したアンタ達にそんな事、言われたくないわっ!! 本当に生きているって言うなら、ウー君を出してって言ってるの! じゃないと、私はテコでも動かないわ!」

 ローラは、そういうと視線をユーリ達から反らせた。

 そして、窓から空を見る。恐らくは、自身が愛した彼との日々を思い出しているのだろう。相手が何なのかなど関係ない。互いを思いやる心があれば……。確かに素晴らしい事だと思えるが、現状は決して好ましくない。

「オレ様は、君とのあの愛の瞬間を忘れられないぞ? べちょんと濡らして求めてきた君のアソコが忘れられない。さぁ、真実の愛をもっと語り合おう!」
「馬鹿言わないで!! そんな話やめてよ! このファ○キングリーン!! ミドリムシっっ!!」
「だから、逆なでするなって!」
「私が今考えてるのは、どうしたら私の大事な人を殺したアンタ達をどうやったら、懲らしめられるか? それだけが私の生きがいの全てよ! 絶対に復讐を遂げてやるんだから!!」
「………」

 復讐と言う言葉を聴いて複雑なユーリ。
 だが、これは本当に筋違いな事なのは間違いないのだ。だから、もう、彼が戻ってくる事に一分の望みを掛けるしか無いだろう。

「同情はするけど、なんて酷い女の子なのよ……、この間にもリア様が……」
「そんなの、私の知ったことじゃないもん!」
「なっ……!!」
「かなみも寄せ。……一度引こう。このままじゃ埓があかない」
「ふんっ! 出てけ!!」

 そう言うと、ローラは再びパフェを頬張りだした。まだまだ 入る様子だ。

「ちっ!! おい、シィル! リーダーだ!」
「あ、はいっ! ランス様」

 心を読む魔法だ。そう言えばシィルは その魔法も使えると言う事を この時ユーリも思い出した。基本的な魔法の1つであり、基本的に今考えている事しか読む事が出来ない。尋問等で 読み取りたい事を考えさせなければ、ピンポイントでは得られないのだから、中々使いがってが難しい。

 今回もそんなに簡単にいくとは思えなかったが、案の定。

「(ランス殺すランス殺すランス殺すランス殺すランス殺すランス殺す……… 後、こっちの2人も死ね、死ね、死ね! いつか死ね!!!)」

 凄まじいまでの怨念、と言うより怒りが彼女の心を占めている様だ。

「だ、ダメです。ランス様。怒りで染まっていて、読み取れません」
「だと思った……」
「ええい! 面倒なヤツめ!!」

 心が読めない事は、大体理解していたが、ここまで的中しているとは逆に驚きだ、とユーリは思っていた。

「あー、もうっ!! 兎も角、本当にウー君が生きてるっていうのなら、返して!! ウー君を返してくれなきゃ、あのなんちゃら、っていう武具は、私のものよ! ぜぇぇぇったい、返さないんだから!!」
「……リスなんぞ、その辺に沢山いるだろ。お前らのいた洞窟、《リスの洞窟》って言う名前なくらいだし、あそことかにいるんじゃないか」

 ランスがそう言ったと同時に、ぶつん、とどこかで何かが切れた音がした。

「はぁ……」

 ユーリにも、勿論それは聞こえた。だから、素早く何処からともなく取り出した耳栓。都合よく3つ持っていたから、これまた素早くかなみとシィルに渡した。そして、その1秒後に、それ(・・)は来た。



「はぁぁぁぁぁぁぁっ!? なによそれ! どう言う意味!? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ウー君の代わりなんて、この世界のどこに行っても見つからないわよ!! 大体、ウー君はリスの洞窟、最後の生き残りよ! 彼が最後になって、孤独に打ちひしがれていた所で私と出会った! そんな可哀想なリスのウー君にあんな事をしたあんたは、何考えてんのよ!! このミジンコ以下の存在っっ!!」


 特大のボリュームの声が酒場に響く。
 その音響は衝撃波の様に広がり 店のガラスにヒビを入れていた。……攻撃魔法?

「た、助かりました。ユーリさん」
「はぅぅぅ……」
「危なかったな。ギリギリだ」

 3人は苦笑いをしていた。ランスは、直撃をした様だが そこは幾ら特大難アリ冒険者。多大なるダメージを耳に負いそうだが、問題は無さそうだ。

「リスなんぞ、どれも似たようなものだと思う……。―――が、そう言うと、『(`・ω・´)ムッキー!』 って怒りそうだから、黙っていよう」

 ランスは、『黙っていよう』とか言っていて、普通に声にだしていた。
 前(ナレーション)撤回しよう。ダメージなど負っていない、寧ろ反撃出来る余裕すらある様だ。ある意味驚愕である。

「ムキーーーッ!! 声に出てるわよっっ!!」
「おー、しまった」
「はぁぁ、もういいだろ? 一先ず出直すぞ」
「ふん、このくらいしないと、オレ様の気が収まらんわ」


 もうそろそろ、店側も可哀想な事になってきていたので、そのまま、4人は酒場を後にした。

 ランスはまだ、悪態を付いている用だったが……、自分が蒔いた種だと言う事を判ってない所を見ると……、やっぱり相変わらずだった様だ。

「ぅう……リーザスが、リア様が……」
「大丈夫だ。あのリスは生きている事は事実。それに、クルックーにも頼んである。時間は少々かかるかもしれないが、大丈夫だ。……時間がかかる間は周辺の町の状態を知る方が良いだろう」
「あぅ……、はい。すみません、お見苦しい所を……」
「がはは、だからへっぽこ忍者だと言っているのだ。忍者であれば、くればーに接しなくてどうするというのだ、がはは」

 ランスはここぞとばかりに罵倒する。
 シィルは必死に抑えているけれど……、効果はいまひとつのようだ……が続くのは周知の事実だろう。勿論、かなみも、そのランス・ボイスを ただ聞き流すだけの器用さはまだ持ち合わせていない。

「うっさい! この元凶!」
「はぁ……」

 ユーリは 苦笑いしつつ、ため息を吐いていた。
 今後の行動はどうするのだろうか。レッドの町に関しての事を捜索しようと思ってた時。

「ふん。とりあえず、マリアの所へ行くぞ。さっき司令部に行ったが、むさ苦しいおっさん1人しかいなかったのでな? 工場の方だ」
「……ん、そうだな。マリアになら情報も入ってそうだ」

 ……数時間前までは、遊んでいた筈だが、あれから時間も経っている。総司令である彼女であれば入っていても可笑しくないだろう。

「そうですね、その間にあのリス、ウーさんが戻ってきてくれれば」
「望みは薄いって思うけど……、今はそれしかないわね……」

 かなみもシィルの言葉に頷いた。

 確かに、転生の壺は 何処にあるかも分からず、それもAL教でバランスブレイカーに登録されている様なアイテムだ。……他の者に取られている可能性だって捨てきれないだろう。そうなれば、どれだけ時間がかかるのか想像すら出来ない。最悪ずっと戻ってこないと言う可能性だってある。

 ……悪い方向に考えてもよくないと言う事で、一行はマリアのいる工場へと向かっていった。






~ラジールの町・兵器工場~


 工場に近づいている、と言う事はよく判った。何故なら凄まじい騒音が響き渡っているからだ。そして、周囲がまるで地震が起きているかの様に揺れている様に感じる。

「なんなのだ? これは。まるで、ゴールデンハニーがタップダンスを踊っているようじゃないか」
「……実に的確な表現だな。納得せざるを得ない」
「がはは、超英雄であるオレ様ならば、当然なのだ」

 何が当然なのか、別表現したら、何が英雄なのかは、判らないけど……とりあえず突っ込まずに工場へと入っていった。中は更に一段階増してうるさい。

「頭……がんがんです」
「耳痛いわ……」

 シィルとかなみは、思わず耳をふさいだ。
 ここは耳栓着用の注意書きをしたほうが良さそうだ。あのローラのボイスで 耳栓も壊れてしまって、もうストックが無い。……一体どれだけの声なんだ? と言うツッコミはスルーの方向で。

 丁度、その時。

「あ、皆っ!」

 作業をしていたマリアが4人に気づいてこちらへと向かってきた。

「なーに? 私のチューリップの事を聞きたくて、来たの?」
「違うわ馬鹿。遊びに来ただけなのだ」
「それも違うだろ、情報だ情報」

 ユーリはやれやれとしながらそう話す。だが、マリアはお構いなしに続ける。

「そ、そんな事言わずに! これは究極の秘密兵器でね、名前を……」
「チューリップ3号だろ? 判ってるって、あの時だって言っただろうに。説明はいいぞ? 長くなる」
「ぶーー!」

 マリアは頬を膨らませていた。
 こんな仕草を見せられたらやっぱり、まだまだ子供だって思えてしまうのも無理ないだろう。……次に、マリアも人の顔の事言ったら、割と本気チョップをしてやろうと思ったユーリだった。

「マリアさん。チューリップ3号の事は極秘なので、あまり濫りに話さない方が良いって思いますよ?」

 そこに入ってきたのが香澄だった。兵器の秘密を握っている身とすれば確かにそう思うのも無理はないだろう。

「良いのよ。ランス達は皆仲間なんだから。知ってるでしょう?」
「まぁ、そうですが……」

 何処から情報が漏れるか判らない状況なのは間違いない。用心しておくことに越したことはないと思うのは当然だろう。

「秘密兵器なら、一応最低限は秘密にしておいた方が良いだろう? マリアだったら、ちょっと興味持ったヤツがいたら、直ぐに講義しそうだ。敵味方問わずに」
「ちょっとっ!! 幾らなんでもそんな事、ないわよっ!」

 ユーリの物言い、それに抗議をするマリアだった。だが、あまり信じられないのは仕方がない。あの事件の件で敵だった+初対面の相手に堂々とその兵器についてを講義をしていたのだから。

 とまあ、それは置いといて、マリアはランスが他の方へと行っている(女の子を物色中)している所を確認すると、ユーリに耳打ちをする。

「ね? ね? それより、志津香とはどうだったの?? あのコの内容ってなんだったの?? 楽しめた??」

 肘で脇の部分をつんつんと突きながら、小声そう聞くマリア。随分と楽しそうだ。……兵器の話をしている所と同じくらいには。

「はぁ……気になるなら、志津香本人に聞いたらどうだ?」
「馬鹿ね~~、あのコが 言う訳ないじゃないっ」
「そうか。なら、オレも黙秘する」
「ぶー、いけずなんだから……」

 ユーリはため息を吐いているが……、何処かほんのりと赤めなのが判るマリア。一瞬だったから、審議は定かではないが……、少なくとも、恥ずかしい事があったのは 確かだとも思える。

「(えへへ~。良かったね~、志津香?)」

 まだ姿を見せぬ親友を思い浮かべてマリアはそう言っていた。でも、その想像上の自分でも抓られているのがわかったのは、置いとくとする。

「そういえば、そっちのコとは直接的な面識はなかったな。オレの名はユーリだ。色々と頼りにしている」
「あ、はい。私はマリアさんの助手の香澄です。頑張りますっ。よろしくお願いします」

 香澄はすっと頭を下げた。それを見たマリアは笑いながら。

「ちょっと~、ユーリさん? 香澄にまで手を出さないでよ?」
「誰が出すか、と言うか、『まで』とはなんだ、『まで』とは。そもそも誰にも出した怯えがない」
「えー、でも~、あの6人には出したんじゃないの~?」
「……ロゼと同調して、あんな大袈裟な装置まで作ったヤツの言う台詞か?」
「あはは……、そう言われればそうだけどね?」

 マリアはそう言われて笑っていた。後ろでいたかなみも何処か上の空だったが……。

「(そ、そうよね……私以外にもユーリさんと……///なにしたんだろう……??)」

 そんな事を考えているのは筒抜けだから、勿論マリアも判った。志津香とかなみは実にわかりやすいと思っているからだ。

「ふふ、かなみさんも頑張ってね」
「ひゃいっ!?」
「……はぁ、リーザスを取り戻す為にも頑張らないとな?」

 ユーリはユーリで、勿論判ってない。複雑なのだが、かなみは、ランスの事よりもこっちの事が先に慣れてきた様だ。

「む? おい、何の話をしておるのだ?」
「あ、ランス。どこにいってたの?」
「ふん。ここには可愛い女の子が沢山いるのだがな、どいつもこいつもマリアのよーな、機械馬鹿。作業を止める事も全くせずに聞き流されてしまったのだ」

 ランスは、ちょっぴり不機嫌気味になっていた。昨晩、相当ヤってるはずなのに……、ある意味ヤってるからこそ、このくらいで済んでいるのかもしれない。

「機械馬鹿とはなによっ! でも、皆本当に熱心で助かってるのは事実なの。この具合じゃ、完成も間近だわ」
「チューリップ3号とやらか?」
「私、紫でピンクの品種改良をされたチューリップを想像しちゃいました」
「馬鹿な事を言うな、シィル。場違いにも程があるだろ、大人しくしてろ!」

 乙女な彼女から出る台詞だから、大目に見ればいいものの……ランスはいつも通り、シィルを一蹴していた。

「そうだな。元々来た目的とはずれてるが……、その兵器の具体的な性能は一応聞いておきたい。今は戦争中だから、兵力はある方が良いからな」
「ふふふ、でしょ? でしょ?? 聞きたいでしょ??」
「馬鹿者、さっさと話せ」
「へへへー、すごいんだから。この子はストーン・ガーディアンより強固で、更にファイヤードラゴンより破壊力がある無敵の戦車なのっ」
「せんしゃ?」
「聞いた事がない単語ね……」

 マリアの専門用語が判らない面々だ。大体の想像はつくが。

「ん~、そうね。わかりやすく言うと、動く要塞。乗り物ってうしが引いているけど、機械仕掛けの動力だから、機動性に無良は無いし、火力もさっき言ったとおり!これが出来たらヘルマン軍なんか、簡単に蹴散らしてやるんだから」

 対人兵器としては、圧倒的な力を秘めていると言う事は大体理解できた。それに、後ろで製造中のその兵器を見たら大体判る。

 あれが動いて、更にドラゴン級の破壊力なら……、厄災に匹敵しかねない。

「ん。だが、その攻撃力なんだが、何でドラゴンと同等だと判る? ストーンガーディアンはまだ良いが、ドラゴンなんて、検証できるのか?」
「ま、まぁまぁ、細かいところは置いといてよ。兎に角凄いのっ!」
「それは、誇張表現と言うヤツではないか、本番でポカミスしたら、お仕置きだからな?」
「もうっ! ランスまで茶々いれないでよっ! 絶対に大丈夫だからっ!」
「オレは茶々をいれたつもりじゃないんだが……」

 どうやら、ドラゴンのはあくまで、大きく見せるだけの為の表現の様だ。それはそうだろう……、ドラゴンと言うのは殆ど絶滅しており、世界にも個数が少ないのだから。

「っとと……話が脱線してたな。ここに来たのはレッドの町について、情報が入ってないか? と聞きたかったんだ」
「そうだそうだ。ユーリの馬鹿が、レッドの女の子を襲う前に、オレ様が救ってやらないといけないからな。とっとと教えるのだ」
「……それって、逆じゃない? ランスがするんでしょ?」
「うるさい。さっさと教えるのだ!」
「はいはい。ヘルマン軍はレッドの町の周辺に部隊を配備しているわ。その数は約4000。でも、このチューリップが完成したら、蹴散らしてみせるわ! それに、エクス将軍も情報を集めてくれているし。真知子さんも休んでいいって言われてるのに、手伝ってくれてるわ」

 それはお互い様だと思える。
 カスタムの皆はリーザス軍の計らいで、休息を……だったのだが、皆ある程度休んだらさっさと仕事を再開したのだ。…不安も少々残るが、実に頼りになり、そして強靭な精神力を持っている人たちなのである。一部の女性は、やっぱり、《あるエネルギー》を充填したからこそ……、だろう。

 そして、マリアが話していたその時だ。工場に誰かが来たようだ。

「ユーリ殿、ランス殿」
「ん……、ああ、エクス将軍。丁度良かった。レッドの事に関して聞きたかった所なんだ」
「ええ、その事でこれから作戦会議をしようと思ってます。お手数ですが御足労願えませんか?」
「ふん、何でオレ様が男ばかりのムサイ所に行かねばならんのだ」
「はぁ……、マリア、それにシィルちゃん。 悪いがコイツの面倒を見ててくれないか? オレが行ってくる」
「はいはい。判ったわ」
「あ、はい」
「何が面倒だ!! それに、シィルまで頷くとは何事だ! 奴隷の癖に! お仕置きしてやる!」
「ひんひん……」

 シィルには申し訳ないが、ランスをとりあえず置いといて、ユーリはエクスの方へと向かった。それは、かなみも同様だ。この場には、ランスが好きなシィルとマリアがいれば十分だと思っていたし、何よりも、抑えてくれているユーリがいないのに、残りたくないと言うのもあるだろう。
 ランスも、男ばかりの所には行くつもりは本当に無いようで、異論は無かった、と言うか聞いてもいない。

 そして、再び ランスとシィル、ユーリとかなみの2手に分かれて行動をする事になったのだ。










~ラジールの町・司令本部~



 工場から、本部へと戻ってきたエクス将軍とユーリとかなみ。
 その場所では、バレス、ハウレーンの現時点リーザスのトップ2人がいた。

「おお、ユーリ殿。どうも御足労ありがとうございます」
「そう、畏まらないでくれ。バレス将軍。オレは一冒険者に過ぎないんだから」
「いえいえ、ユーリ殿も謙遜なさらずに。今は同じ解放軍。リーザスの軍の皆なら兎も角、僕は貴方にはトップの地位に勤めていただきたいとすら思ってますよ」
「……随分と、オレを買いかぶってくれてるみたいだが。まぁ良いさ。オレも作戦については聞いておこう。それに、こちらも話しておきたい事があるからな」

 ユーリは、軽く頭を降るとそういう。

「(……やっぱり、ユーリさんは凄い。私なんて、この人たちに囲まれてるだけで圧倒されちゃいそうなのに……)」

 いつもの事を考えればかなみにとっては仕方がないだろう。親友であるメナドなら兎も角、軍の将校クラスとこうも接する事など少ないのだから。だけど、それを必死に隠しながら話を聞いていた。

「まずはレッドの町についてです。……情報は間違えておりませんでした。かの町に配備されているリーザスの洗脳部隊は赤の軍で間違いなさそうです」
「……それは真か?」
「ええ、確かな情報です。リック将軍の姿は見受けられないとの事でしたが、恐らく彼程の実力者は前線ではなく、後衛に配備されている可能性があります」
「成る程……、前線で戦わせて失う可能性よりは、向こうの司令官の護衛って所か。あの死神が護衛か。オーバースペックの様な気がするがな。……彼だったら」

 ユーリは、その姿を思い浮かべながらそう思う。
 実況席であるのにも関わらず……《彼》は戦いたそうにしていたし、その視線もあの妙な仮面越しに感じるものがあったのだ。

「……ユーリ殿はリック将軍と面識がお有りなんですか?」

 ハウレーンはユーリにそう聞いていた。
 確かに、彼の実力でただの護衛であればオーバースペックだといっても間違いない。ついこの間までの赤の副将、メナドと同じようなものだ。彼女も相応の実力を持ちながら、副将になれる程の実力を秘めていながら門兵をしていたのだから。

「……いや、遠目で彼を見ただけだよ」
「それはおかしいですね。公務であれば兎も角、非番の彼を赤の将軍だと見分けられるのは不可解ですよ?」

 ハウレーンはそう返した。
 ここだけの話だが、各国に名を轟かせ、恐れられていると言ってもいい、リーザスの赤い死神は、その素顔も国家機密となっているのだ。だから、冒険者であり リーザスと面識が無い(リアの件は、闇になっている)ユーリが知る由もないと思っていたのだ。

「ああ……確かにそうだな。あの姿を見たら違いない。オレが見たのは、赤い服に仮面をつけていたから彼だって判ったんだ。それに、公のコロシアムの実況が彼の事を公開していたから」
「それは………っっ!」

 ハウレーンは、ユーリの言葉を訊いて、はっとしていた。
 確か、以前のリーザス・コロシアムでリック将軍は実況を依頼された。それ以外では、まだ無かった筈だ。そして、ユーリの実力もうろ覚えだが、この場の人間は皆覚えていた。

「ユーリ殿」
「ん? なんだ? バレス将軍」
「もしや、と思いますが……あのコロシアムの優勝者と言うのは……」
「あーー……。まぁ な。どっかの馬鹿は棄権したからオレが不戦勝で優勝の形に収まったんだ。……ひょんな事からオレも参加する事になったんだ。あまり、広めないでくれよ」
「(あの時のユーリさん……格好良かったなぁ……///)」

 かなみは、当時の事を鮮明に覚えている。

 名目は、リアに近づく危険性がある者の監視。だけど、その強さに目を奪われてしまったのも事実だった。

 そして、今は憧れていて……、初めて好きになった男性になっていた。それを思い返すとどうしても顔が赤面するのが止められない様子だった。

 かなみとは正反対。バレスは驚愕していた。

 あの大会が終わった後のリックの意気込みをずっと間近で見ている。彼をあそこまで駆り立てた男が今ここにいるのだから。だが、納得出来る所ももちろんあった。先の戦いにおいて、洗脳されていたのだが、朧げに覚えている所もあるのだ。その圧倒的な戦闘力を目の当たりにした事を……。

「………」
「バレス将軍? どうかしたのか?」
「っと……、申し訳ない。少々考え事をしておりました」
「いや、別に問題はないが……、オレに敬語はしなくていい。オレ自身もする事は苦手だし、されるのも苦手なんだ」
「いや、すまぬ。儂はこう言う性分なので」
「なら、無理にとは言わないが……」

 ユーリはそう言って頭を掻いた。
 バレスは、尊敬出来る者は敬う性分であり、それが自国の者でなければ尚更なのだ。それも時と場合によるだろう。

「……それで、今後の作戦についてを説明します。まずはレッドの町を解放しようとしていますが、レッドの町への道中にも大量の魔物軍とヘルマン軍、そして洗脳のリーザス軍が配備されている為、正直 正面突破は得策ではありません」
「それはそうだな。人数の差を無くす為には洗脳軍をこちら側へと入れるのが前提なんだ。それに、連日の連戦ともなると解放軍の士気にも関わってくる」
「ええ、ですが そこで頼りにしているのが、マリア殿の兵器の事です」

 エクスは、黒板にチューリップ3号の設計図と完成図を貼り付け、そう言った。どうやら、あの兵器についてはある程度マリアから色々聞いている様だ。そこから、作戦の条件にまで組み込んでも構わないと言うくらいのモノだと判断したのだろう。

「それ程までなのか……」
「ええ、一通り確認をさせて貰いましたが、彼女の才覚は素晴らしいものがあります。戦争の歴史が変わると豪語しておりましたが、確かに納得をせざるを得ないかと」
「終わったら、リーザスに引き込むか?」
「ふふ……どうでしょうか」

 エクスは、ニヤリと笑った。
 どうやら図星のようだが、マリアがカスタムの町を離れるとは到底思えないから肩透かしを喰らいそうだとユーリは思っていた。

「私としては、貴方こそ我が白い軍に入っていただきたいのですがね?」
「……残念だが、それは辞退をさせてもらうよ。オレは、今は何処かの国に所属するつもりは無い」
「ふふ、聞いてみただけです。マリス殿からも話は伺っておりますよ。ユーリ殿。ですが、心の片隅にリーザスの名を置いていただけるとありがたいかと」
「ああ、それは問題ない」

 ユーリはそう言って頷いた。この国(リーザス)ににも友人は沢山いるのだ。そして、今後共に戦う仲でもある彼らを考えたら、当然だろう。

「それで、ユーリ殿は、マリア殿から話は伺っていないのですか?」
「ん? 一体何の話だ?」

 ハウレーンがユーリにそれを聞いた。
 かくいうユーリもマリアからは特に何も聞いていない。聞いたのは、如何にあの兵器が凄い!とか、後は志津香の事くらいだ。……正直、そんな重要な話をされたイメージが全く浮かばないのだ。ユーリはそう思っているのだが……それを知った志津香は怒りそうな気がする、のは気のせいじゃないだろう。

「いえ、あの兵器の燃料となるのは、ヒララ合金なのですが、それが不足しており実践投入が困難になっている事です」
「……相変わらずだな、マリア」

 ユーリは、額に指を当てながらため息を吐いていた。

 こう言う展開、確か覚えがある。以前は、確か……撃てないチューリップを持ってて、それでヒララ鉱石があれば……という話をしていた筈だ。今度はヒララ鉱石から、合金に変わっただけ、マリアと言えばそうなのだろうか?とも思いたくなる。となれば《この次》は何があるのだろうか……。

「それで、ヒララ合金が不足している訳はあるのか?」
「ええ、それは烈火鉱山で手配をしていたのですが、現地でトラブルが起きた様で」
「成る程……」

 その事を考えたら、一概にマリアだけを責めるのは酷だろう。
 以前は、完全に過失と言うか、おとぼけだった?って思えていたが、今回は手配をしていたのだが、アクシデントに見舞われていたのだから。

「私たちは、レッドの町のヘルマン軍への警戒、牽制を致します。そこで、申し訳ないのですが、ユーリ殿にそちらをお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ、燃料(ヒララ合金)を届ければ良いんだな? 了解だ」
「はい。詳しくはマリア殿に聞いて頂ければ良いかと思われます。彼女の方でも色々と手はずを整えるとも言っていたので」
「それなら、マリアさんもこちらに来てもらった方が良かったですかね?」

 かなみもそう聞いた。
 確かにマリアはカスタムの防衛軍を束ね、そしてラジールの町を解放した立役者の1人であり、この軍の総司令に位置している人物でもあるのだから、それが妥当だろう。……だが。

「そりゃ無理だって思う。マリアが機械を弄り始めたら止まらん……」
「……恐れながらその通りでした。その、一度は軍議にお呼びしたのですが、完成させる方が先決だとおっしゃいまして、それに全権をバレス殿にとも言ってましたので」
「……んな簡単に手放せるものじゃないと思うが……」

 それを聞いてユーリはため息を通り越して呆れていた。一言で言えば、多分邪魔するなと言いたいとも思えそうだ。カスタムの町での司令官の力量は大したものだと思っていたんだけれど……、こればかりは仕方ないとも思える。

「あはは……」

 かなみも苦笑いをしていた。
 まだ短い付き合いのマリアだけれど……、機械をイジっている時の彼女を見たら、そして喜々としてあのアミダくじの装置を作ったと言う話を聞いたら、そしてチューリップ3号の話とやらを聞いたら……、大体判るんだ。

「……かなみも、ユーリ殿と共に頼めるか?」
「あ、はい! 任せてください」

 バレスの言葉を聴いてかなみは強く頷いた。

 その後は、ユーリ達がヒララ合金を取りに行っている間、その兵器が完成した後の事、レッドの町について等の話を一通り聞いた後。

「さて、細部に関しては大体は説明し終わりました。質疑があれば承りますが」
「いや、大丈夫だ。理解したよ。とりあえず、ヒララ合金が、あの兵器が無ければ始まらないんだ。目の前の事に集中をする……ん? ……あっ」

 ユーリはこの時にある事を思い出した。それはついさっきあった彼女の事。聖武具シリーズを取り戻すには、彼がいなければ始まらない。確かにクルックーには頼んだとは言え、どれくらい掛かるのかも想像が出来ない為、軍の人に動いてもらう方が良いと思ったようだ。

「すまない。1つだけ頼みがあるんだが」
「はい? なんでしょう」

 エクスは、ユーリの話を聞いた。

 聖武具に関しては、彼らも十二分に知っている。そして、かなみの言葉からもあったが、今回の件……魔人が絡んでいる事からも、最重要物だと言う事もよく判っている様だ。

「……成る程、俄かには信じがたいですね。人とモンスターが……」
「種族間を超えた相手同士と言う事を考えたら、美しい話では有りますが、状況が状況です。……はい。私も捜索に協力致します」

 ハウレーンは強く頷いた。
 エクスは違う方向に考えていたのだが、彼女は判っていない。エクスが考えていたのは、最悪の展開の事。彼と言うものが万が一にでも死んだと言う方向になった時の対処だ。死ぬ覚悟があるとは言っていたが所詮は一般人。それに、死ぬよりも辛い事など、軍人であれば心得ているのだから。

「父上……バレス総大将も宜しいでしょうか」
「うむ」

 バレスも頷く。
 他にも目の前の驚異……レッドの町のヘルマン軍勢の事もあるが、そちらにも意識を向けなければならないのだ。否定する理由が全くない。

「エクス将軍」

 ユーリは、考え込む彼に声をかけた。大体、何を考えているか理解した様だ

「彼女は、色々と問題を起こした、だが、それでも彼女は一般人だ。手荒な真似は極力しないでもらいたい」
「……そうですね。僕も女性を手にかける様な事をしたくはありません。……ですが、聖武具はリーザスの宝であり、何よりも魔人に対抗する鍵でもある。……万が一の時には、最悪の選択を取らざるを得ません」
「……そうならない様に願うまでだな」
「……そうですよね(あのバカのせいで……もうっ!)」

 あれだけ愛し合っていた2人だ。
 もう一度くらいなら、引き合っても良いじゃないかと思える。運命などはないと信じているユーリだから、彼の事を信じた様だ。あの時に言った必ず人間になって戻ってくると言った言葉を。

かなみも、あの時ばかりは 頭に来るモノがあったが、あの純愛を目の当たりにしている者としては……、その最悪の選択を快くは思わない。だから、特に思うのはあの時面倒な事をしでかしてくれたもう1人の男の事だった。

 そして、その後は軽く挨拶をすると、ユーリとかなみは司令本部から出ていき、マリアの元へと向かった。




 この場に、残っているのはリーザス軍の3人。




「ユーリ殿がリックを虜にしてしまった剣士だったのか……」
「僕は別段驚きませんでしたがね」

 バレスの呟きに反応したのはエクスだった。その言葉にハウレーンが疑問を投げかけた。

「それは何故ですか? エクス将軍」
「……以前に、少なからずマリス殿に聞いていた事もありますし、それに……、これは恐らくバレス殿も感じていると思いますが、かの戦場で僕は立ち会っているのですよ。彼と」

 エクスの言葉にバレスも頷く。
 あの場で、曖昧ながら記憶が残っているのはバレスだけではなかったという事だ。

「2人がかりだと言うのに……、我々は物の見事にやられてしまいました。完敗と言う言葉があれ程似合う状態は無いでしょうね。……今考えたら、リック殿が惚れ込むのもよくわかります。こう言う職についてますから……確かに、僕は情報戦を得意としてて、強さのジャンルも少し違うと思いますが……どうしても憧れるんですよ。《強い者》には。正直に言えば、僕は、ぶっちゃけここで会った時から、彼を抱きしめたかったくらいですよ」
 
 そう言って苦笑いをしていた。バレスもその言葉に深く頷いた。

「主と儂の2人がかりでもやられてしまったから……な。儂もエクスの言っている事がよく判る。それに、朧げにだが、よく判った。……あの戦いででも、ユーリ殿の底はまだまだ見せてはおらんと言う事をな。……これは黒の軍も定期的な勧誘をかけておかなければなるまい。……一冒険者じゃ惜しすぎる」
「おっと、そう言う事であれば、白の軍も負けませんよ? 頭一つ抜けた……飛び抜けた軍人は魅力的ですからね」
「私も手合わせさせて貰いたいですね……」

 この中では唯一ユーリと手を合わせていないハウレーンだったが……、国の将軍の2人を圧倒したユーリの話を聞いて、感服をしたようだ。エクスも父であるバレスも、虚偽を言うような人格ではないのは一番判っているから。

「さて、しなければならない事は多いぞ」
「はいっ!」
「僕もリスについては情報を集めておきます。人里に下りたとすれば、情報も集まりやすいでしょう」

 そして、3人とも行動を開始していった。

 それにしても、3人の話はユーリ一色となっていたようだ。


 ……同じく冒険者であり、女王がゾッコンであると言う稀有な存在であるランスの事は語られる事が無かったのはまた別の話。一国の王女がそこまで執着するランスの事も、ユーリとは負けずと劣らない程の話題になってもおかしくはないのである。









~ラジールの町・工場~


 相変わらず、工場に近づいていると言う事がよく判る状態。近づけば近づく程、騒音……ランス曰く『ゴールデンハニーがタップダンスを踊る』様な音が聴こえてくるのだ。

「ふむ。完成にはまだ掛かりそうだな。燃料は置いといて」
「そうですね……、ああ、しかし頭が痛いです」

 かなみも耳が難聴になりそうで、表情を歪ませていた。ユーリも苦笑いをしつつ、工場内へと入っていく。外でも騒音が酷かったが、中は一段と響く。随分と作業環境の劣悪な場所だと熟思うユーリだ。

「あ、ユーリさん。どうしました? 会議は終わったんですか?」

 入口付近にユーリの姿を見たマリアは、そう聞いていた。近くに行かなければ声も届かないから、傍にへと向かってきて。

「ああ、まあな。それでマリア。ヒララ合金の件、オレが何とかする様になったんだが」
「……あっ! そうだった、それ、ユーリさんやランスに頼むんだったわ! 忘れてた!!」

 マリアはヒララ合金の事……今回は素で忘れていた様だ。

「やれやれ……、チューリップの事の紹介に熱を入れる前に動かせる様にする事の方に力を入れろよ」
「う゛……」

 ぐぅの音も出ないとはこの事である。
 志津香達とユーリの~第一回~に関してはよく覚えてる癖に……と思ってしまうのも無理は無いだろう。

「ま、まぁ! でも 良かったわ。ユーリさんが来てくれて。ヒララ合金なんだけど、ミリとトマトさんに取りに行ってもらってるんだけど、今あそこは大変らしいの」
「事故が合ったと言ってたからな。ヒララ合金どころじゃないのかもしれないな」

 ユーリはそう言っていた。
 どの程度の事故かは判らないが、滞ってる所を見ると小規模ではないと思える。そして、発掘出来なければ、ヒララ合金だって手に入らないだろう。

「うん……それもあるんだけど、烈火鉱山の中に凶悪な怪物が現れたって言う情報も得たの」
「ったく……、今日は皆リーザス軍の人らの計らいで休みを取ってくれたって言ってたのに。お前ら全員 無茶し過ぎだ」

 ユーリは、そうため息を吐いていた。
 確かに、レッドの町にはかなりの軍勢がいて、驚異だが……それでも連日の無理が祟って、倒れてしまえば本末転倒だろう。

「ま、まーそうなんだけど、彼女達、いつもよりも調子良さそうだったわよ? ユーリさんが色々としてくれたからなのかな?」
「………」

 ユーリは、それを聴いて口を噤んだ。言わなくてよかったとも一瞬思ったのだ。

「兎も角、ミリ達に手を貸しに言ってくる。マリア達も無理はするなよ? 軍の人らをもっと頼れ」
「あはは、判ってる。大丈夫よ」

 マリアは、ぐっと親指を突き立てた。
 本当に判っているのか、微妙だけど……まぁ本人が大丈夫なら大丈夫なんだろう。

「それで、ランスはどうしたんだ?」
「あー、ランスなら、ミリ達が帰ってこないって言う情報が入った時に、『オレ様が言ってくる! その報酬として、ミリ達を抱かせる事と、解放軍の全指揮権を渡せ! がはは。オレ様がリーダーだ!』だって」
「……まぁ言いそうだな。途中で投げ出すよりは、収まるところに収まって貰った方が都合がいいが」

 ユーリはそう言うと、結構大きくため息を吐いていた。

「んー……ミリは大丈夫だって思うけどトマトさんには酷だから、一応 本人と交渉して、とは言ったけどね。私にそこまでの権限はないって事は伝えたし、一応納得してくれてから」
「ま、マリアなら簡単に司令官の地位くらい譲渡しそうだよな? エクス将軍にもいったんだろう?」
「え? ん~……そうだっけ?」
「無意識かよ……」

 呆れ果ててしまうのも仕方ない。
 もっと周りに目を向けろと言いたいが……、マリアには無理な話だと早々に手を上げた。


「ユーリさん。ミリさんやトマトさん達が心配です……」
「ああ、あの2人なら大丈夫とは思うけど、万が一もあるからな。マリア。オレ達も烈火鉱山に行ってくる」
「うん! よろしく頼むわ!」

 ユーリも頷き、マリアも頷いた。だが かなみはと言うと。

「(いや……私としては、ランスに襲われちゃう心配の方が……特にトマトさんが……)」

 かなみはそう思っていたのだった。
 一応ライバルな彼女だけど、望まない行為は見たくないのだから。ユーリは、この時はモンスターにやられる可能性。別の事の危険性を考えていた様だが、一応ランスに幻覚をかけた本人だから気にはしているようだった。

 そして、2人が出て行ったその後。

「あっ……志津香に声かけてるんだったわ~。言うの忘れてたわね~」

 わざとらしく、テへっ! ペロっ! と頭を掻きながら笑うマリアだった。

「わざとらしいですよ……マリアさん」

 そして横で見ていた香澄は、正直にそう突っ込むのだった








~ラジールの町・入口~



 とりあえず、必要な物資を一通り整えた所で、ユーリ達は町の入口へと来ていた。烈火鉱山は、アイスの町の北側に位置する場所。地図で一通り確認をしていた所で。

「っ!! ゆ、ゆー!?」

 突如、声が聞こえてきた。振り向くとそこに立っていたのは……。

「ああ、志津香か。……ん? ひょっとして、志津香もミリ達の手伝いに?」

 そう、魔想志津香その人だった。

 あの部屋からはちゃ~んと出てきていたのだ。何度も何度も、自分に言い聞かせ、ポーカーフェイスを装っていた彼女だったが……、突然の不意打ちのようにユーリに出くわしてしまった為、トレーニング?がちょっと無駄になってしまったようだ。

 だが……

「え、ええ。そうよ。話によればランス達も向かったって聞いたから。アイツじゃ心配だしね。……それでユーリも?」
「そうだ。チューリップが要だと言うのも聞いたし、レッドの町の状況も」
「ふ、ふーん。なら一緒に行かない?正直人手不足だと思ってたし」
「ああ、そのつもりだよ。行き先が同じだと聞いてからな」

 ユーリはそう言うと笑った。
 志津香は、予想が的中した事への憤怒が一瞬湧き出ていたが……、そのおかげもあって、気持ちも収まっていたようだ。

「志津香、よろしくね?」
「ええ、かなみも」

 志津香とかなみは互いに握手を交わしていた。

「さてと……、先ずはカーマの町……それでアイスか。道中にモンスターと出くわしたら小一時間はかかりそうだな」

 ユーリは町の外を見ながらそうつぶやく。その間の2人はというと……。

「……かなみは、何したの? ユーリと」
「う、うぇっ!? ///な、ナニって……」

 あの時の話で盛り上がって?いた。一方的に圧力をかけているのは志津香の方だと思えるが……。

「し、志津香こそ……ユーリさんと何が当たったの??? そ、それと実行も出来たの??」
「っ……」

 当然だが、かなみも一応は負けてない。
 呼び捨てにし合って、信頼関係も築けた今は前とは違う様だ。……それでも、押しの強さでは志津香には到底叶わないようだが。

「秘密……よ」
「な、なら私だってっ……、ひ、秘密だもん///」

 互いに赤くなっている2人。そんな2人に。

「おーい。そろそろ行くぞ?」
「……はい」
「判ってるわよ!」

 なんにも変化が無いユーリを見て何処か複雑なかなみと、憤怒を覚えている志津香はそう返事をしていた。先は色んな意味で長く険しいものだと痛感せざるを得ない2人だった。






~丁度その頃~



 勿論、そんな面白展開を見ていない訳はない。1人の女性が町の入口でその光景を見て笑っていた。

「あ~っはっはっは! 流石はユーリよねぇ~。アイツの表情からは読めないわ! 悩める仔羊達を導く私でもね~」

 勿論それはシスターロゼである。どうやら今回も、ロゼが持っている面白センサーに引っかかったからだろう。

「あー、付いていったらもっと面白そうなんだけど……、流石に今日は色々あるしねー。最近ダ・ゲイルとヤってないし」

 口に出てきたのは、彼女の悪魔の名前だった……。
 いや、もしやユーリ達2人きりならぬ、3人きり?にしてあげよう!とか思ったとか?だけど、ロゼの表情からもそれを読み取る事は出来なかったのだった。






















〜魔法紹介〜


□ リーダー

 対象の思考や情報を読む事ができる初歩の情報魔法。呪文を唱える必要もある為、相手に気付かれずに使うのは、それなりに高難易度。シィルはランスの命令で何度も使ってきた為 魔法に関しても 隠密関係に関しても上達をしている。その魔法の性質上、精神防御の魔法の方がランクが上であり、それなりの使い手でも、防御を施せば読まれる事はない。
 事実、マリスの魔法で魔人の魔法を防いでいる。




〜場所紹介〜


□ 烈火鉱山

アイスの町の北部に位置する鉱山。
採掘場の為 マリアはよくこの場所からヒララ鉱石や合金を入手していたが、とあるトラブルにより困難になった。


〜アイテム紹介〜


□ ヒララ合金

金色に輝く鉱石。非常に硬度もあり、加工は勿論。燃料としても極めて優秀。
マリアは、チューリップ3号の燃料として以外にも、チューリップ1号の性能をあげる為にも使用しているとか。














 
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