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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第1章 光をもとめて
  第9話 リーザスの王女

~リーザス城下町・中央公園~


 その後、ユーリはてきとうに城下町を歩いている所でランスと合流できていた。そこにはユランはおらず、行為も終了していたようだ。

「やれやれ、本当にそれだけが目的だったとはな」
「がははは! 当然ではないか、 ユランちゃんとヤることが第一だ! 面倒で、むさそうな リーザス軍と戯れる時間など、オレ様にはなーい!」
「はぁ、ま そう言うだろうと思っていたけどな。オレとしても 名を売る程度にしか考えてなかったが、まさかエキシビジョンがあるとは思わなかった。……訊けば運営側のサプライズだったらしい」
「ふん! サプライズだろうが、サロンパスだろうが知らんが、オレ様は男に売れても嬉しくないわ。それよりも、ユランちゃんだ。がはは 抱いている時は可愛かったぞ!? 終わったら直ぐにいつもの調子に戻ったのは複雑だったがな。また、ヤってやらねばな。真の男と言うものを、ユランちゃんは知ったのだ。がははは!」
「ああ……そう」

 さして興味なさそうにそう言うユーリ。その姿を見たランスは、更に気分よくニヤニヤ笑った。

「がはは。ガキにはまだ解らんのだろうな。女体の良さと言うものが。生物としてもオレ様に劣っているな! がはは!!」
「……だ・か・ら! オレはお前より歳上だ! それに一応言っておくが、オレは経験くらいしてるわ! まるっきり興味ないわけでもない」
「ふん。口では 何とでも言える。それに、何を自慢にもならん事を」

 ユーリの言葉を訊いて、つまらなそうに言うのはランス。
『証拠がないのだから、口ではなんとでも言える。がはは。』と笑いながら言いそうだと思っていたユーリだったが、まぁ良いか。とすぐに考えるのをやめていた。ランス自身も、目の前の男の認識を無意識だが変えていたのだ。戦いも準決勝こそ見てないが、それ以外は見ている。それなりには強い事を理解もしている。
 そして、何よりも ガキガキと言っているが……よく見て見ると、危険なのでは? とも無意識下で直感しつつあるようだ。


――将来、沢山の女を取られそうな気がする。


 そう、無意識下で。
 だが、利用価値がある事もそうだし、色々と感じる所、思う所もある為、『始末しよう!』 とかは考えてなかった様だ。

「がははは! さて、試合後で疲れたのだ。そして腹も減った。オレ様に奢る事を許可しよう」
「んな許可ほしくないわ!! ほれ、ツツジだ。その蜜でも、吸ってろ」
「ふん! オレ様がそんなガキみたいなこと、するか!」

 そうこう言っても、結局は好奇心やツツジの蜜が欲しくなったのか、ちゅうちゅうと吸っていた。甘い蜜がランスの口の中に広がっている様で、かなり美味しそうに頬を緩めていた。

「うーむ、だが あの女忍者の行方に関しては手がかり0だな」
「まぁ、ニンジャマスターとは違ったからな」
「だが、何時如何なる時に現れて良い様に、シミュレートは繰り返しておくぞ!」
「……はいはい、がんばれー(棒)」

 ランスは、脳内でピンクな妄想を膨らませつつ 歩き 仕方が無いから、ユーリも一応エールを送りつつ、その後をついて行くのだった。





――……一方その頃。



 場所はリーザス場内中庭。大きな大きな木の下。そこで昼食を取る2つの影。

「へっ、 くちゅんっ!!」

 その内の1人が、盛大にくしゃみをしていた。鼻がムズムズする様で 必死に啜りつつ 持っていた手拭きで拭う。

「わ、どしたの? かぜ?」

 そして、もう1人が心配そうに顔を覗き込む。その手には昼食用に、作ってきたサンドイッチが握られており、今まで食べていたのだろう。美味しそうに頬を緩めていた。

「んー、平気、だけど…… 最近 すごく忙しくって……、体調管理がまずいかも……」

 彼女は鼻を拭い、啜りながらそう答える。……彼女は女忍者。ランスやユーリが探していたあの忍者である。 コロシアム内で監視をしていた、のだが。片方の男はいつの間にか、姿を消し、更に優勝した男に関しては、追いかけようにも、あまりの人の多さに断念してしまったのだ。
 そうこうしている内に、丁度お昼どきになり、一緒に食べている親友でもあり、優秀な軍人でもある少女、メナドと出会い 一緒に昼食をしていたのだ。

「忙しいって……仕事? そう言えば、極秘、なんだっけ」
「あ……、うん、ごめんね……」
「ううん、良いんだよ。大事な仕事だもんね。秘密なのは当たり前だよ」

 親友に秘密にしているのは心苦しいと思えるのに、メナドはさして気にする様子もなく、笑顔で接してくれている。だが、だからこそ、彼女は辛かった。

「(あんな事、してるって知られたら…… 軽蔑されるかな……)」

 話す事が出来ない。当然内容が内容だから、したいとも思えない。……今まで連れ去った少女たちがどうなったのか、彼女は知っているから。

「はぁ………」

 後悔をしているのだろうか。或いは、自身を縛っているのだろうか。彼女は思考の中で、自問自答を繰り返す。し続ける。


――……(リーザス)に忠を尽くすか? それとも自分自身の心に従うのか? 自分自身か? 恩人か? 任務か? 思想か? ……(リーザス)への、恩人への誓いか? 人への情か? ……今まで私は どれだけの人達の人生を狂わせてきたのか、そこまでして……守るべき……ッ


「大丈夫?」
「っっ!!」

 女忍者はずっと心にそれらの想いが渦巻いていた。空いた時間で、考えなかった事はない程にだ。 そんな彼女を見て、心配したメナドは、自身の膝の上に置いた弁当箱を持ち上げ。

「元気、無いね……? 厚焼き卵、1つ食べる?」

 弁当箱をメナドが差し出した。まだ、温もりが残っており その美味しそうな香り、匂いが彼女の鼻の奥を刺激する。

「うっ……美味しそう……、で、でも 私 忍者だから……」
「あー、そっかー、じゃダメか」

 ニコニコと笑いながら、弁当箱を引っ込めるメナド。このやり取りは、何度もしていたことであり、何よりも 彼女が元気になりつつある時に言っている事だから、メナドは少し安心した。

「あっ! で、でも ほら。ちょっとくらいなら…… その、臨機応変と言うか、現場での判断、と言うか……」
「くすっ……。ふふ、はーい」

 空腹気味な事と、その美味しそうな匂いに完敗した彼女。……親友の前だからこそ、出せる本当の彼女の顔の1つだった。
 伸ばした箸で、しっかりとその厚焼き卵を掴むと、そのまま口の中へと。咀嚼をし、噛み締める様に味を楽しむ。

「ぱくっ……うう、おいしい……、堕落の味だわ……」

 ん~~っと 味を噛み締めつつ そう言う彼女。それを訊いたメナドはますます笑顔になる。

「大袈裟、だなぁ。 これって結構簡単だよ? 作り方、教えようか?」
「……っ、そ、それは…… うん、ええっと……、私、忍者、私忍者……だから。じゃあ、ちょっと……ちょっとだけ……」

 普段の彼女の前に見せる本当の自分と、本当の自分を押し殺し 忍者としての素顔を、その仮面を作っている彼女の両者が、狭間で 葛藤しているのだが、それでも親友の笑顔の前では、忍者としての仮面は一時的に消え去ると言うもの、だった。

「あははは! 忍者、たいへんだねー!」
「うう……、そうね、大変。最近はする事が多いし。……変な男と、関わるハメになるし」

 彼女が変な、と思うのは、勿論片方の男。……学園に侵入させているのであろう桃色の髪の女の子に関しては筒抜けだ。……が、潜入させているのにも、関わらず 学園内で、情事を行っている所もバッチリ見てしまっているし、他にも、女の子を襲っている? 所も何度も見ている。 だからこそ、良心と言うのも薄れると言うものだ。

 そして、もう1人いるのだが……、彼の事は中々つかめない。

 尾行をしようとするのだが、警戒を常にしているのだろうか? と思えてしまい、距離を積める事が出来ないのだ。……自分の位置が直ぐにバレてしまいそうで。

 つまり、変な男、と言う面に関しては1人しか知らない。そして、もう1人は中々情報が掴めない、と言う苛立ちもあり、それをぶつける様に手製の忍者食をがりがりと齧った。

「ん? 変な男??」
「うん、すごくバカで、その上スケベで……、おかしくなったわんわん? いや、わんわんの方がマシって思えるヤツ」
「そ、そっか、大変だね……」

 散々ないい方なのだが、本当に本心からの言葉だという事が、その表情から判った様で、メナドはため息を吐いていた。でも、彼女は直ぐに表情を引き締める。

「ん、でも、あの方の為……、だから」

 何処か、哀愁を漂わせているけれど、それを覆い尽くすだけの決意も、見えていた。

「そだね」

 だから、メナドはまた、安心した。時折、思いつめている顔もするから。……だから、メナドは話題を変える事にした。いや、自分から話したかったのかもしれない。

「あっ! そうだ。男の人、と言えばさ。ボク、すっごく格好いい人に出会ったんだよ」
「……へ? 何、ほんとに?? 城門で見かけたとかじゃなくて?」
「じゃなくて。すごく強くて、格好いいんだよー。最初はさ。可愛いかな? って思ってたんだけど……、すごく強かったから、そんなの吹き飛んじゃったんだ。格好良かったんだー」

 思い出しているのだろうか、メナドは目をキラキラと輝かせていた。

「へぇ、強いって、どこくらい? メナドよりも?」
「うん。危ない所、助けてもらっちゃってさ。……なんと、あのゾンビエルフをあっと言う間に一蹴! ボクが1匹モンスターをやっつけてる間に、2,3匹も余裕で、倒しちゃって。ボク、勝負挑んだのに、完敗しちゃったよ」

 てへへ、と笑うメナド。負けたと言うのに、そこには悔しさなどはなく、出会えた事の喜びの方が大きい様だった。

「え? そ、それは凄いね。ゾンビエルフって……私でも正面からだったら 押し切れるかどうか……。それに メナドが言うって所も凄い。 ……ふーーーん、へーーー……、すごいのね。ほんと。その人って、軍の人?」

 彼女も興味を持った様だ。共に訓練をする事も多いメナド。だからこそ、その強さに関しては自分でもよく知っているのだ。向上心もあるから、どんどん力もつけて行っている。……だからこそ、完敗した、と言う言葉に驚きを隠せれない。
 でも、軍の人であれば、不思議ではない。メナドは強いとは言っても、やっぱり門番だから、実戦経験が少ないから。
 メナドは、笑いながら首を左右に振った。 

「ううん。違うよ、えっと……本人から直接訊いた訳じゃないんだけど、多分冒険者、かな」
「へー……、リーザスで依頼でもあったのかな? 冒険者かぁ……。ん? ひょっとして、メナド もう付き合ってたり?」
「うぇっ?? い、いや、そうじゃ、ない。よ? ちょっとそんな感じは……」

 モジモジとしながら、恥ずかしそうに俯かせるメナド。そんな親友の顔を見てしまえば、いじってしまいたくなる衝動が湧き上がる。

「うわー、ほんとー? 前はそんな事、一言も言ってなかったのにさ?」
「う、うん。でも、ボクを助けてくれた時の彼は……格好良かったんだ。女の子扱いをしてくれたのも、とっても嬉しかった。ボクが、み、魅力的、なんだよ? ……わ、笑っちゃうよね?」

 恥ずかしそうで、でも嬉しそうで……、その感じからまだ互いに想い合っている訳ではないだろう。
 でも、メナドが男の人を《彼》と呼ぶなんてことは訊いた事がなかった。

「(うわっ、彼って、彼って。それに、顔があっかー)」
「うんうん。ギャップがあって、最初はびっくりだったかもだけど、そう思ってた最初の頃のボクをはっ倒しに行きたいよ! 『すごく格好いいんだぞー!』 って言いながら」

 目をキラキラと輝かせているメナド。それを見て、流石に逆に心配していた。

「(あー……、完全にのぼせてるわね。本当にそんないい男なら、いいんだけど……)」
「えへへ……。あ、あとね ゾンビエルフとの1戦がメインなんだけど、他のゾンビをやっつける時なんてさー」

 目を更に輝かせながら話すメナド。

「(でも……、やっぱりちょっと 羨ましいかな……)」

 そう思うのは無理もない。彼女の永遠の願いでもあるのだから。

「はぁ……、いいなぁ 私も恋 したいなぁ……」

 いっそのこと、星にでも願おうか? とも思える彼女。

 なかなか叶わない願い、望みをため息と共に吐いてから、味気ない忍者食を、更にもう1つ。メナドがくれた厚焼き卵の香りが残っている口内へと放り込んだのだった。




 それは、図らずしも、叶うことになるのだった。だが、もう1つの悩みも……できる。大きな悩みの1つが。




 『一方通行』 




 それが、キーワードだった。



 そして、そんな時。

「おーい、メナドー」

 門番の1人が、呼ぶ声が聞こえてくる。メナドはそれに直ぐに気がついた。

「ああっ、もうこんな時間だっ お、オーバーしちゃうよ!」

 慌てて、弁当箱を片付けるメナド。どうやら、彼の事を話す事に熱中しすぎて、時間をすっかりと忘れてしまっていた様だ。

「メナドは真面目だからな。別に少しくらいなら、構わないぞ」
「い、いや。悪いです。直ぐに行きます!」

 メナドは、そう言うと、まだ哀愁を漂わせている親友に向かって。

「ご、ごめんね。時間、忘れてた」
「あ、えー。うん。また 今度ね」
「うん! お互いお仕事頑張ろうねー!」

 そう言い合って、互いの持ち場へと戻っていくのだった。











 場面はランスとユーリの方へと戻る。

「ぶえぇぇっっくしょいっ!! ひぃっきしっっっ!!」

 盛大にくしゃみをしているランス。それも二度。

「(……確か、真知子さんの占いでは、二度のくしゃみは、あまりいい噂をしているのではない、だったか?)」

 ユーリは、そんなランスを横目で見つつ、そう考える。

「がはは。二連発とはな。いい男には噂が絶えないと言うものだ。まったく」

 なんでもポジティブに考える男、ランス。ユーリはその気概だけは見習わないといけない、と思いつつ ため息をしていると。

「ひっっきし。……くしゅんっ しゅんっ」

 小さいくしゃみが二度、三度と出てくる。口元を直ぐに抑えたからこそ、ランスには訊かれなかった。

「(三度連続は……ん。なんだっけ?)」

 ユーリは、以前に真知子に訊いた事がある話を思い出そうと思っていたが、思い出す事が出来ない為、直ぐに忘れ去った。


 そして、《ふらんだーす酒場》へと足を進める2人。


 何だかんだ言っても金銭的に余裕のあるユーリが結局は支払うのだろうと、予測は出来ていたが……、この次の展開は予測できなかった。

「あの、すみません。少しよろしいですか?」

 後ろから突然声をかけられたのだ。
 声色からして、女性。振り返って見ると、白い薄いローブを羽織った美しい緑色の髪の女性。そのローブの性能は高そうであり、高級ローブであろう事は直ぐに解った。これまで街中で見た事のなかったため、王宮関係者だろうかとユーリは思った。

「少し、お時間をいただけませんか?」
「おおっ! 長身美人ではないか。構わないぞ。がはは」
「貴女は?」
「私はこのリーザスで王女の侍女をさせていただいている、マリスと申します」

 名乗ったその時、ユーリは表情には出さず内心で笑みを浮かべた。垂らした釣糸に喰いついた獲物はでかそうだ。

「先ほどのお2人のコロシアムでの戦い。大変お見事でした」

 優雅な仕草だが、礼儀正しさも一目でわかる程の姿勢で頭を下げていた。

「王女の侍女……。……大層な身分の人が一冒険者であるオレ達に何か?」

 ユーリはそう返す。
 所々、棘があるような言い方だが、この手の相手は頭の回転も速く、喰えない人物だと言う事を直感したようだ。そして、誘拐犯とつながりが無いともいえない。
 しかし、あのコロシアムで、相当顔と名は知れているから本当に無関係かもしれない。だから、話しには集中して聞いていた。

「申し訳有りません。コロシアムで貴方方の腕は拝見いたしました。その腕を見込みまして、お力をお借りしたい事がありまして。……少し、お話させていただきたいのですが、構いませんか?」
「ほほぅ……。がはは! いいぞいいぞ! 君の様な美人の頼みならいくらでもな! 大歓迎だ! (90点は軽く超えているぞ! がははは!)」
「ふふふ。ありがとうございます。そちらの方は、よろしいでしょうか?」
「ああ。連れが興奮している様なんでな。……一先ずは構わない」

ランスは下心満載でそう言うが、その女は首を左右に振った。

「あの、内密なお話なので……」

 指し示された先は、城門の方、即ちリーザス城の中。
 
 マリスを先頭に、歩いていく。

「今回の件ですが、コロシアムでのお力を拝見しまして。お力を貸して頂きたいのは、王女様の方です」
「王女……様?」

 この国のトップと言ってもいい存在からの依頼。喰いついた獲物は、最上級クラスだとこの時判った。

「王女様だと………?」

 ランスは途端に表情を顰める。
 マリスは何かを悟られたのか?と、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ同じように顔を顰めていた。その強張りを、ユーリは見逃す筈もない。……と言うか、ランスの次の言葉くらいは直ぐに予想がついていた。

「美人なんだろうな? 君が仕える王女様と言うのは!?」
「………」

 マリスは一瞬だけ呆けに取られたようだ。
 難しい表情をしていたから、何事かと思いきや、王女の容姿を心配していたようだ。だが、すぐさま表情を元に戻す。その辺りは流石だろう。

「はい。それはそれは、勿論。あれ程の美しさと気品を兼備えたお方を私は知りません。私なぞ、足元にも及ばないでしょう。ふふ、コロシアムにも興味を持っておられる御方ですから、貴方達に大変興味があるのです」

 マリスはそう語る。
 ランスはその言葉を聞き、目の前の美人より更に美人と言う事を聞いて更に気合が入ったようだ。

「がはは! それは楽しみだな!」

 マリスはその返答に一礼し、今度はユーリの方に視線を向けていた。呆れ果ててる……と言うのがよく解る表情だった。気持ちは解らなくも無い。

「ユーリ様は、どうでしょう? ……お力をお借りできませんか?」
「ん。因みにその案件と言うのは? 内容も踏まえて考慮したいのだが」
「詳しい内容はお城でお話します。……でも、貴方たちにもそんな話にはならないはずですよ。……そうですね、探し物が見つかったりするかもしれません」

 一気に空気が、ぴん……と 張り詰めた気がした。

 諜報系は決して得意とはいえないが、それなりには気を使い行動をしてきたつもりだった。だが、相手は大国リーザス。甘く見すぎていた事を痛感する。
 綻びは、あの女忍者だろうか、或いは……本当にコロシアムで目をつけただけなのかは判らないが。

「こちらにメリットが大きそうだ。……詳しくお願いする」
「ありがとうございます。ユーリ様。ランス様。それではご案内させていただきますので、こちらへ」

 その笑みは何処か妖艶であり、綺麗な花には棘があると言う言葉がしっくり来る。手入れはしっかりと施した薔薇だが、棘を何処かで隠している。そんな印象を受けた。
 ユーリは軽く目を瞑り、そして開いて。

「判った」
「がははは!」

 その先は茨の道。
 深い闇へと誘われていく気がした。

「ふ……」

 だが、何処か笑みも浮かべている自分がいた。

  

――この程度が闇? 温い。



「どうかなさいましたか?」

 その笑みに気がついたマリスは、歩きつつユーリにそう聞いていた。

「いや。……たった一度の大会出場でここまで顔が売れるとは思って無くてな。……フードも新調しなくちゃと、苦笑していたんだ」

 ユーリは軽くフードの先を摘み 深く被るようにし、弾いて元の位置へと戻した。痛みすぎている。しっかりと 表情を隠しきれていないのだ。

「あ……、いえ、私は貴方様のお顔は素敵だと思いますよ。ええ。歳相応ですとも。19歳ですから」
 
 マリスから、年齢を口に出された瞬間、場が凍りついた。いや、ユーリの中で何かが凍りついたのだ。 先ほどまで、上機嫌だったランスも、即座に食いついた。

「なぬ!! ショタコンだとでも言うのか? マリスは!!」

 そう、ユーリに興味がある、素敵だという言葉から、様々な事を連想させた様だ。勿論、凍っていたユーリだったが、そこまでいわれて黙っている筈も無い。

「って、誰がショタだコラァ!!」

 ランスの言葉に思わずつっかかるユーリ。

 それと同時に、ユーリは思う。確かにマリスは、外面は本当によさそうだ。外交的、とも呼べるだろう。だが、その奥に秘めているモノ、腹の底が黒そうな女にそういわれても……。 いわれても……。

「(嬉くなんか……。年齢も、絶対に調べていた筈だ……。そうだ。絶対。……その筈、……だよな?)」

 ランスに怒鳴っていた筈なのに、いつの間にか黙り込んでしまっているユーリ。

「なにやってんだお前は……」
「……うるさいな」
「………ぁ」

 歳の話題が出てから、ちゃんと年齢を言ってくれてから、ユーリは軽く顔をペチペチと叩いている。 その姿をランスに見られ自分が少し情けなく感じてしまい。
 マリスは逆に、決して演技ではなく素で、ユーリの事が可愛いと思ってしまっていた。




~リーザス城内~


 その後、城内へと案内される2人。
 構造自体はさほど複雑ではないが、歩いている時違和感に気がついた。

(……これは、結界。だな。侵入者避け迷路タイプのものだ。成る程 あの盗賊団のとは一味も二味も違いそうだ)

 ユーリはそう確信する。目を凝らしてみてみれば、空間が歪んでいる事が一瞬だが感じ取れた。恐らくは術者もしくは、解除の術を知っている者以外は、目的地へと向かう事は無理だろう事も。だが、さして気にする程の事でもない。術者が常にいるタイプではなく、あの盗賊達が使っていた簡易式だと言う事が経験から判別出来た。
 そして、何よりも今は案内人がいる。

(……見)
「どうかしましたか? ユーリさん」

 歩いている途中。マリスは、ユーリが視線を壁の方へと向けていた事に気がついたようだ。何か気になるものでもあったのか、とそう聞いていた。

「いや……。一冒険者であるオレ達がここまで来た事に若干驚いていてな。……コロシアムやカジノ範囲なら兎も角」
「がはは! 何をビビッておるのだ!? これだからg「ガキじゃない」オレ様の話しに割り込むな!」

 2人はまた、言い合いを続けていた。これまでも何度かあるが、いつも容姿関係での事。……これ程言われたら、気にするのも仕方ないと思わずにはいられないマリスだった。

「そうですか。しかし、貴方達は大変優秀な冒険者ですから、私は驚きませんよ?」

 ニコリと笑ってそう言うマリス。だがユーリには、その笑みは作り笑いにしか見えなかった。ランスは別で。

「がははは! 当然であろう! オレ様は超絶優秀な冒険者。空前絶後の英雄だからな!」
「ふふふ……」

 気を良くしたようで、腰に手を当てて高らかに笑いをあげていた。そして直ぐ横で口元に手を当てて同じく笑うマリス。

(……相当な狸だな。この女は)

 ユーリは自然とそう思っていた。
 数多の人間を見てきたユーリにとって、この手の人物は初めてではないが、共通している、決まっているのが、喰えない相手だと言う事。この目の前の女性こそが陰謀渦巻くこのリーザスの頂点か、と思えてしまうほどだった。


 そして、3人は巨大な扉の前へとつく。
 そこは、謁見の間とさほど変わらないほど豪華な作りで大きさも同等。

 リーザス王女の大居室である。





~リーザス城 王女の大居室~


 玉座に座して待っていたのはリーザス王女である女性。美しい容姿、そして流れるような長く青い髪。純白なドレスが良く似合い、部屋に入ると微笑、迎えていた。

「あら、ごきげんよう」

 その純白のドレスの両端を摘み上げ、正式な礼儀作法でお辞儀をする王女。

「はじめまして、ランスさん。ユーリさん。リア・パラパラ・リーザスよ」

 優雅に、そう言う王女。
 その振る舞いからも気品に満ちており、姿はまさしくお姫様と言っていいもの。ランスも第一印象・容姿から、完全にロックオンしているようだ。目元がにやけているのが隣でいてよく解る。

「おう。オレ様はランスだ。よろしくな」

 ランスが、その王女の全身を食い入るように見つめた後、更にニヤけ顔になる。品定めでもしていて、相当な点数だったのだろう。

「……」

 ユーリは、流石に素顔を隠しているのは失礼に値するから、フードをとり頭を軽く下げた。ランスの様に無礼極まりない言い方では流石に不躾と言うものだろう。

「お初にお目にかかります。私は、ギルド。キース・ギルドに所属している冒険者。名をユーリ・ローランドと申します」

 ユーリはそう名乗ると、軽く頭を下げる。 ランスはランスでいつも通り、自分を全くブレる事はない。一国の王女の前で、それも初見で、且つ王女にまでそんな振る舞いをするランスは、流石だと思えた。公私くらいは弁えた方が良いとも思えたが、まだ、グレーゾーンには突入していないだろう。

 リア王女も笑顔で聞いていたからだ。

 ただ、マリスは無表情で王女の傍で控えていた。ユーリの挨拶を訊き、軽く微笑みながら。

「コロシアム、見てたわ。貴方達、とても強いのね。特に、ユランが負けちゃうなんて、思ってもなかった」
「がはは! あれくらいは楽勝と言うものだ。リーザスの歴史に名を刻む男、それこそが、このランス様なのだ!」

 リアの褒めちぎりに、ランスは更に上機嫌になる。

「ユーリさんも、とても強かったわよ。凄い!」
「……光栄ですね」

 ユーリは、ただ 頭を軽く下げるだけに留まった。それを見た、リアは軽く笑うと、本題に入る。

「実は、そんな腕利きさんにね、お願いがあるの」
「ほうほう、美人の頼みごとなら、訊くぞ。言ってみろ」

 ランスは、そう返事を返し、ユーリは無言だが、頷いた。2人ともが了承したと判断したリアは内容を説明する。

「ふふ、ありがと。実はね、この城下町に私の別荘があるんだけど……最近、そこに幽霊が出るらしいの」
「幽霊が?」
「ええ、そうなのよ。このままじゃ別荘が使えないし……、何とかしてもらえないかしら」

 それは単純極まりない頼み事。コロシアムでの戦いを見て、その腕を見込んでの頼みだった。

「ふぅん。……幽霊退治か。いいぞ。幽霊なんぞ、指一本でちょちょいのちょいだ!」
「オレ自身も、特に問題ない」

 ランスも、ユーリも頷いていた。だが、解せない部分はある。

「ですが、王宮の兵士達に任せたほうが早いのでは? なぜ、我々なのです?」

 その事だ。如何に世界一豊かとされている国、リーザスでも軍は常備されている。そして、ヘルマンとの不仲は有名だ。故に、その程度であれば、こなせない筈が無いだろう。
 そのユーリの疑問に、マリスが代わりに答えた。

「……それは、この頼みは、リア様の個人的なものだからなのです。兵達を動かす権限を持ち合わせておりません。リーザス王も大変忙しい身の上なので、ランスさんとユーリさんに頼んだ所存です」

 そんな時、ランスがずいっと前へでると。

「そうかそうか。そこで、コロシアムで活躍をしたオレ様。超強くて超格好いいオレ様と、この下僕1号に頼みに使いを出したわけだな?」
「……ふふ、そうね。すごく頼りにしてるわ」

 下僕発言を軽くユーリは流すと、次の質問に入った。

「その幽霊が出ると言う、別荘はどの辺りにあるのでしょうか?」
「はい。それは城下町、中央公園から北にある大きな屋敷です。少し奥まった目立たない場所ですが、立て札はありますので解るかと思います」
「成程、位置は大丈夫です。大体は把握いたしました」

 その中央公園の北にある廃れた屋敷についてはユーリもよく知っていた。その屋敷の情報についてもある程度は仕入れているからだ。だが、そこまで重要な場所でない為立ち入ってまではいない。

「がははは、報酬についての要望だが」

 ランスは、本領発揮、と言わんばかりに そう言い始めるが マリスが先に口にした。

「訊けば、ランス様とユーリ様は 正体不明の忍者を追ってらっしゃるとか」
「む……」
「………」

 突然のマリスの言葉に、やや驚いているランスと、警戒心上げたユーリ。勿論表情には出さない様にしていたが。ユーリは、人差し指の第二関節を曲げ、口元につけて考え、そして口に出す。考えていた疑問を。

「……少なからず解せない部分はありますね。我々の事を知ったのはコロシアムでしょう。リア王女も、そうおっしゃられていた。 ……ですが、我々の ≪依頼内容≫まで知っているのでしょうか? 依頼については、コロシアムに参加するよりも以前に受けたモノですが」

 そのユーリの疑問、それに答えるのは、今度はリアの方だった。

「ふふ、リーザスの情報網は、完璧。凄いのよ。ね? マリス」
「はい。その通りでございます。世界でも屈指だと自負させてもらってます。忍者、そしてヒカリの情報も 貴方達にお渡しします」

 何処か、楽しそうに笑っているリアと、その傍で微笑みを絶やさないマリス。
 そして、ランスも納得したのか、頷いていた。

「ヒカリちゃんの事まで知っているのか……、ふむふむ。(報酬に王女か、マリスを頂こうか、と思ったんだが……、まぁいいか)」

 最初から、ランスは全く疑ってさえいない様子だ。だが、ユーリは違った。

「……成る程、随分と優秀な諜報員がいる様だ。忍者から、ヒカリまで知っているとなると」
「……はい。リア様の側近ですから。とても優秀です」

 後ろで控えていたマリスが静かに頷き、そして、同調するようにリア王女がニヤリと妖しい笑みを浮かべていたのだ。その瞬間空気が変わったのが解った。張り詰め、緊迫感も軽く増した。

「ま、オレ様が引き受けた以上、大船に乗った気でいろ。ちゃちゃっと解決してやろう」

 やや、緊迫した空気だったのだが、ランスはそんな事は一切気にする様子もなく、陽気な声でそう言う。それを訊いたリアは、にこりと笑うと。

「頼もしいわ。お願いね」
「ありがとうございます」

 リアとマリスがそう礼を言い、ランスは意気揚々とこの場から立ち去っていき、ユーリもランスの様に軽く返事を返す。

「それでは吉報をお待ちください。失礼させていただきます」

 軽く一礼すると、再びユーリはフードを被り背を向け、この王女の大居室から退出していった。

「よしよし、新たな手がかりだ。流石はオレ様。が、王族も大したものだな。忍者はおろか、ヒカリちゃんの情報まで持っているなんてな。がははは! 多分、優秀な諜報員がいるのだろうな」
「……優秀な、ね」

 ユーリは、軽く苦笑いをしつつ、ランスの隣にたった。

「ああ、ランス。悪い 先に行っていてもらえないか?」
「む? 貴様、サボる気じゃないだろうな?? これからは、うし車の様に働かねばならないのだぞ!」
「……アホ。こき使われるつもりはないわ! アイテムを揃えに行くんだよ。幽霊相手だ。物理攻撃は通りにくい。ランスも魔法を使える訳じゃないんだろう? ……ある程度は揃えておこうと思ってな」

 ユーリは苦言を呈しながらも、ちゃんと行く所を伝えていた。

「ふむ、そうか。なら アイテムを100コ買っておけ。そして、オレ様によこせ」
「……まず、アイテム100コ持ってみろ。出来たら、考えてやる。ああ、クズアイテムでも構わんぞ。そこらへんの石でもな。それに、ここの客室にそれなりに、アイテムはあるだろう。……盗まなかったら大丈夫だ」
「あほ言え! 面倒くさいわ!」
「なら 言うな」

 100コも持つのは不可能だという事を早々に悟らせて、ユーリとランスは一先ず分かれて行動をする事になるのだった。






~リーザス城下町 情報屋 I,NET~



 二手に分かれたのには勿論理由はある。
 ユーリは、道具を買ってくると言うのは本当だが、情報屋へと寄る事にもしていたのだ。情報屋の彼女とは面識は勿論あるし、その知り合いがランスの毒牙にかかるのは流石に黙認出来ない。そして、出会った経緯を考えたら、あまりランスに合わせたくないと言う事もある。

「さて……」

 ユーリは、足を進めた。同じ城下町に手ある為直ぐについた。情報屋の《I,NET》の扉をゆっくりと開けると直ぐに奥から声が聞こえてきた。

「いらっしゃー……あっ、ユーリさんっ!」

 奥から早足で出てきた少女。
 その腕には簡易コンピュータが備え付けており、カスタムの真知子の受け入りのもの。彼女の名は《色条優希》

 出会いは真知子の時と同じで、優希もその場に居合わせていたのだ。それが縁で、知り合った3人。冒険者としては、情報屋と面識を持つのはかなりメリットが大きいのだ。……が、当然の事だけど 最初は同い歳と思われていたようだ。
 ちなみに彼女は15歳である。

「お久しぶりですねっ! 試合、準決勝だけですけど、見ましたっ! やっぱり、本当に凄いですっ!」
「ああ、見に来てくれてたのか。態々ありがとな。それに、タイミングが合わなくて悪いな。優良な情報を提示してくれていたというのに」
「いえ、私はユーリさんに会えただけでも嬉しいです。あの時は……本当にありがとうございましたっ!」
「ああ。初めて出会った時の事か。……いや、偶々居合わせただけだ。それにオレの方が優希には世話になってるからな」

 いつも元気一杯の彼女。だが、襲われた当初は違った。
 彼女は、荒くれに襲われた経験もあり、若くして心に深い傷を受けていた事があるのだ。その時は何とか他の客が来た事もあり、難を逃れたがその出来事が彼女の心を深く傷つけていた。

 そして、再びトラウマを思い出すかのような出来事が起きたのは、その少し後だった。





~1年前 リーザス領 辺境~




「ぎゃーはっはっはっは!!」
「女はヤれ!! 男は殺せ!!!」

 荒くれに止められ、女は抱かれ、男は殺され。最悪な光景。それはまるで地獄の様な。そして優希自身の番が回ってくるのは時間の問題だった。その時優希は心底思った。

――自分は……こう言う運命なんだ。

 そう半ば諦めていた、運命だと、受け入れていたその時。

 1人の荒くれが血飛沫を噴出し、断末魔をあげていた。

 そして、男は倒れ、その向こう側に 立っていたのはある人物。
 初フードで顔を隠しているから、男か女かはっきりわからなかった人物が立っていた。

「……下衆には似合いの末路だ」

 剣を鞘に収めてそう呟く。その声色からは、そのフード頭を覆った人物は、男だった。

「な!! や、やろう、やりやがったな!! 殺せ!!!」

 仲間が血飛沫をあげ、倒れ伏した事に 驚いた男達のリーダー格が嗾ける。その仲間達も半狂乱になりながらも、一斉に飛びかかってきた。

 だけど、そこからは、もう殆ど一瞬だった。

 すれ違い様に、あっという間に男達を切り伏せる。振るう剣が 全く見えないなど初めての事だ。それに、荒くれの男達は、あのフードの男の四方八方囲っていた筈なのに意に返さない。 まるで、大人と子供、それ程の差。

「あっ……あっ……」

 突然の事の連続で、頭が働かない。身体も全く動かなかった。

「大丈夫……大丈夫だから……」

 自身をぎゅっと抱きしめ、落ち着けせてくれた。……守ってくれたのが同じく居合わせていた真知子だった。抱きしめつつも、戦況を見ていた。
 その圧倒的な力の差。
 ここまでくれば、荒くれ達が可哀想にも見えてくるが、決して同情はしない。だが……、まだ男の真意はわからない。傍から見れば助けてくれているようにも見えるが目的がはっきりとしないのだ。……多少腕の立つ傲慢な男は何人も見た事があるから。その中でも随一の実力者だが。

「な、あんなに、いたのに……っ ば、ばけものか……?」
「失礼な、人間だ。……それになんだ? 自分がこれまでしてきた所作と何処が違う? 他人にする以上……覚悟をしてなかったのか。呆れ果てるほどの小物だな」
「んだとぉぉ!!! てめえ!!! ぶっころ………ぁ………」

 大斧を振り上げ駆け出そうとしたが……。まるで、時間が止まったかのように、身体が止まっていた。

「……小物でも下衆は下衆だ。……其れを 生かすほど オレは優しくない」

 いつの間にか、荒くれの背後に回っていた男。

 ちんっ……と鞘に剣を収めたその瞬間、最後の1人の男は倒れていた。

 全てが終わった後。

「……大丈夫か?」

 座り込んでいる2人に手を差し伸べる。

 その時、真知子はフードの中の顔を見れた。優希も同じで……、悪い人には見えなかったんだ。

「あ、ありがとう」
「………っ」

 真知子は礼を言う、だが、優希はこの時は言えなかった。だけど……落ち着く事は出来たようだ。身体は震えているものの、何とか動く事は出来ていたから。

 そしてその後、助けてくれた彼はうしバスの護衛を引き受けてくれた。

 後部座席で座りあたりを警戒していた。どうやら、この辺りではうしバスを狙った強盗が現れるとの事だった。
 ここに立ち寄ったのは 偶然と言う訳ではなく、その討伐依頼で来たとの事だった。

 話している内に真知子は、直ぐに打ち解けたが優希は中々そうはいかなかった。でも、ゆっくり、ゆっくりと……話が出来るようになっていった。
 それには勿論理由がある。

「それにしても随分とお若い冒険者さんなんですね? 凄いわ」
「ッ……」
「う、うん。私と……変わらなさそうなのに」
「ぐっ……」

 そう、彼の素顔を見た時から、真知子は警戒心を少しずつ解く事が出来ていたのだ。腕が恐ろしいまでに立つ少年。それが第一印象だった
 優希も、その顔を見たからこそ ゆっくりだが、話す事ができる様になったんだ。 もしも、 もっと歳が上な 戦士であれば こうはいかなかっただろう。

 そして、この会話で、多分気がついたと思うけれど……。その≪男の子≫の表情がどんどん曇っていくのが判った。

「ど、どうしたの……?」

 恐る恐る優希は話しかけようとした。
 でも、真知子は、このコが異性に話しかけれるだけでも凄い進歩だと思えていた。多分、≪歳≫近しいからだろう。

「………はぁ」

 優希が必死に話そうとしているのを見て、強くは言えなかったのだろう。彼は、何故だか盛大にため息を吐いていた。
 真知子は、何事か、と思ったがその《男の子》と思っていた彼がゆっくりとした動作で、ギルドカードを差し出した。

「オレは、キースギルド所属している冒険者のユーリだ。……歳は《18》」
「……ええっ!!」
「……う、うそっ!!」

 その告白に驚きを隠せない様子のお2人さん。真知子に至っては、自分よりも歳が4つも上だという事に驚きが隠す事が出来なかった。普段からポーカーフェイスだと言うのに、彼女にしては本当に珍しい事だった、と言う事はこの時のユーリに知る由もない。

「はぁ……」

 だが、真知子は心底思う。それにしても、若く見える。……物凄く、と。

 そして、恐らく……と言うか見て解るようにものすごーく顔の事、気にしてて。さっきまでは、物凄く強いから 若くても少し怖い人だと思っていたのに。なんだか、その姿がとても可愛くて……可愛くて……。

「「ぷっ……」」

 2人は思わず吹き出してしまっていた。

「……笑うなよ。結構気にしてるんだから。あーー もう。このフード、もうちょっと大き目のサイズにしようかなぁ……」

 ユーリはぷいっと顔を背けつつ、今後の装備についてを考えていた。今度は表情をすっぽり隠しても戦闘に支障が無いようにする事も考えていた。

「ご、ごめんなさい。その、お顔がとてもかわ……っ いえ、格好いいですよ?」
「……世辞をどうも」
「そんな事、ないですよっ! ユーリさんっ!」
「……どーも!」
 
 こんな感じで、ひょんな切欠から、優希は次第に心を開き……懐くようになったのだった。






~現代 リーザス城下町 情報屋I,NET~


 軽く思い出話を始めた優希だったけれど。随分と時間がかかったような気がしていた。でも、それは気のせいなのである。

「そう言えば……あれから結構たってるんだな」
「そうですね。でも私は嬉しいですよ。ユーリさん。私の所によく来てくれますから」

 優希は笑顔でそう答えた。
 あれから、優希は本当に元気になったと思える。ユーリは、その時から真知子とも、付き合いが出来て、優希についても聞いていたが、今の時代 そう言う境遇の娘は数え切れない程いる。でも、その1人にさせないで本当によかったと思っていた。
 ……そんな時に、ランスになんか合わせられる訳にはいかないって思うのは普通だろう。

「優希、リーザスのリア王女の別荘の事、なんだが」
「別荘……、妃円屋敷ですね。あの屋敷はここ最近では モンスター、悪霊達が屋敷全体に取り憑いてしまっていて……、あっという間に幽霊屋敷になってしまったんです」
「……成る程、間違いは無いようだな」
「屋敷がどうかしました?」
「いや、悪霊を退治してくれ、と言う依頼を受けてな。……リア王女に」
「っ……」

 優希の情報収集能力は、真知子直伝であり、更には免許皆伝だと言う事は聞いている。2人のその能力の高さは驚愕するものであり。ユーリが信頼している人物の1人なのだ。

「ユーリさん。今回の1件ですが、本当に危険すぎます……。学園での失踪者を遡って調べたましたが……、相手は、r「ストップだ」っ」

 ユーリは、人差し指を優希の口元につけた。彼女が≪それ≫を口にした瞬間。彼女自身にも その身に何が起こるのか判らないから。

「何を知ったかは解るが、≪相手≫が≪相手≫だ。口にするのは危険過ぎる、だろう? 線引きは大切だ。……見誤るなよ」
「あぅ……// そう、ですね。すみません。私は、ユーリさんを信じてます。信じてますからね!」
「ああ……。任せてくれ。闇を払ってみせるよ」
「はいっ!!」

 優希は笑顔でそう答えた。真知子さんに言われた事を、すっかり忘れてしまっていた。ユーリが心配だから、思わず口に出そうとしてしまったのだ。確かに、冷静に考えれば口にするのは、危なすぎる。
 極めて平和な国だからこそ、渦巻き、そして蔓延る闇。 安全で、安心して娘を預ける事ができる学園内でさえ 起きたのだから。
 

 その後、ユーリは情報屋を後にした。

「……はぁ、真知子さんの言いつけ、破っちゃいそうになったよ。……私だけじゃなく、ユーリさんにも迷惑、掛けるトコだった」

 大いに反省をする優希。
 自分が大変な目に合うだけならまだしも、ユーリに迷惑を掛けるのだけは、嫌なのだから。恩人である彼だけは。

「……でも絶対にユーリさんって格好良いのに、なんで 皆気づかないのかなぁ……。でも、 これって、すっごい ちゃんすだよね? きっと、その事に気づいてるの私だけだし! あ、でも真知子さんも……、ううんっ! 真知子さん1人なら、きっと大丈夫っ!」

 それは 恐らくハズレである。



~リーザス城下町 レベル屋 藤崎レベル~


 そして、ユーリは続いてレベル屋へと足を運んだ。
 レベル屋は、中央公園より南側に位置し、妃円屋敷とは正反対の場所だが、行く前に寄るのは悪くない。経験値が溜まっていれば、レベルが上がるし、今のレベルでも問題ないと思えるが、過信は禁物なのが冒険者の間では当然の事だ。

 玄関先に店主が立っており、笑顔で迎えてくれた。

「ようこそレベル屋へ。ユーリさんお仕事は順調ですか?」
「ああ。それなりにはな。今回のは大仕事になりそうだ」
「成程……、経験値も溜ってそうですね。ここに来たのはレベルアップの儀式、ですよね?」
「ああ、その通りだ。よろしく頼むよ」

 ユーリはそのまま一歩前へと出た。

 レベル屋とは少し特殊な為ここで、少し説明する。

≪レベル屋≫
 冒険者が戦闘、鍛錬で得た経験値を正確に計り、自身の能力を向上させるレベルアップの儀式を行ってくれる店なのだ。因みに、ここリーザスのレベル屋は 目の前の彼女《ウィリス・藤崎》。
 非常に優秀な実力の持ち主であり、数多くいるレベル屋の中でも極僅かなものにしかチャンスを与えられないレベル神への昇格試験を近々に控えていた。ここが、レベル屋が人気な所以である。亜人であるカラーなら兎も角、人間が神になれるのはレベル屋しかないからだ。

「それでは、儀式を行わせてもらいます」
「ああ……」

 ウィリスが一度目を瞑る。そして、水晶玉に手を翳した。

「うぃりす、ふじさき、しーろーど……うーら、めーた、ぱーら、ほら、ほら、らん、らん、ほろ、ほろ、ぴーはらら!」

 もう聞きなれた呪文だが……やっぱり意味が良く解らない。勿論そんな野暮な事は言わないユーリであった。

 そして、呪文も終了し、目を見開いたウィリス。すると神々しいと思える光が水晶玉に走った。眩く部屋を照らす光。それが収まったその時が終了の合図だった、

「……残念ですが、経験値が不足しています。レベルは上がりませんでした」
「そうか。構わないさ。確認の為に来たのが正直な気持ちだからな」
「ああ……成程、そうですね。ユーリさんほどのレベルの持ち主がそう簡単に上がりきるとは思えませんでしたし」

 ウィリスは納得したようにそう答えた。
 当然だが、レベルは上がれば上がるほど、必要経験値も比例して増してくるからだ。前回の仕事もあり、そして今回の仕事、盗賊の討伐、コロシアムの出場。
 それらで、レベルが上がったのかと思っていたが、どうやら、目測を誤ったようだった。

「手間をかけてしまったな。今日はありがとう」
「いえいえ。ユーリさんの様な優秀な、とても優秀な冒険者さんに御贔屓にしてもらえて嬉しいですよ」
「そうか?」
「はいっ! おかげで、私も昇格試験を受ける事が出来ますしっ!」

 ウィリスは、目を輝かせながらそう言っていた。レベル神になる事は数多くいるレベル屋を営んでいる者達の最終目標だ。人が神になろうと思えば、その方法しか 見出していないのだから。

「……それは良かった、な」

 この時、ユーリの表情には陰りが出来ていた。フードでその素顔ははっきりとは見えない。だけど、雰囲気のそれも、何処か暗い。

「ユーリさん?」

 ウェリスも 何処か気になったのだろう。首を傾げていた。

「ああ、悪い。何でもないよ。まだ、この街にいるかもしれないから、利用させてもらうよ」
「本当ですか? 嬉しいです。……はぁ ユーリさんの様に誠実なら良いのに」

 ウェリスは、ユーリに感謝をしていたが、最後の方にはため息を吐いていた。

「……それは、誰の事、とは訊かないでおく。大体判る。想像つくから」
「はい。……想像の通りで間違いないです」
 
 お互いにため息を吐いている場面は何処となくシュールだ。

「水晶を勝手に触ったり、突然飛びかかってきたり、勝手に机の中を見たり……」
「………」

 誰の事を言っているのか、本当によく判ると言うものだ。名前を言っている訳じゃないけれど、絶対《ラ》から始まる名前の男だ。

「それに、私の可愛いこのぬいぐるみの事をいじめたり、変な名前をつけたりするんですよっ! 信じられますか! ユーリさんっっ!!」
「あー……えー……、それ? このぬいぐるみ?」

 ユーリは、ウェリスが指さしながら絶叫しているのを見て 改めて聞いた。ちょっと名状しがたく、何処となく狂気じみていて、更に冒涜的な表情を浮かべている。
 レベル屋と言う職業は、その上位にAL教がある。そんなレベル屋の者が持つ物、とは思えない。
 ……ぬいぐるみ、と言うより怪物?

「……なんですか? ユーリさん。その目は」
「いやーなんでもないぞー」
「もうっ!! ユーリさんも同類なんですかっっ!!」
「なんでそうなる! それに、感性は十人十色だろ。オレは否定したりはしない。……まぁ 多分」
「多分、ってなんですかっ!」

 その後、ウェリスに一通り悶着をして。

「はぁ、連れを待たせているんでな。もう、良いか?」
「む、むぅー 何だか納得出来ませんが」
「これから優先的にウェリスのレベル屋でレベルを上げる、って約束をする」
「判りました♪ よろしくお願いします♪」

 あっという間に、笑顔に戻るウェリス。『何だかな……』とユーリは思っていたんだけれど、刺激しない様にしつつ レベル屋を後にした。


 次に目指すはリア王女の別荘《妃円屋敷》。


 その場所に、今回の真相が、真実が眠っているのだった。彼女の苦しみ、嘆きと共に……。

 
 

 
後書き
〜人物紹介〜


□ リア・パラパラ・リーザス

リーザス国王女。美しい容姿、そして凛とした立ち振る舞いを魅せる正にお姫様。
だが、ユーリが顔を合わした際に何かを感じた。それは、背後に見えるのはその美しさとは反対のもの。
深く……淀んだ闇が見えているようだった。


□ マリス・アマリリス

リア王女の侍女にして側近。
詳しい事は解らないが、あって見て解った事は、非常に優秀な頭脳の持ち主である事。そして、リア王女同様に、薄暗い闇を持っていると言う事だった。


□ ウィリス 

リーザス城下町のレベル屋で働く女性。
だれとは言わなかったけれど、恐らく間違いなくランスの事でしょう。美人な為、ランスに狙われたのだが とっておきの武器を利用し、回避したとか。


□ 色条優希 (ゲスト)

Lv2/12
技能 情報魔法Lv1

リーザス城下町で情報屋を営んでいる少女。
以前までの彼女は、野盗、荒くれに襲われた事がある為、人間不信、特に男性不信になってしまっていた。襲われたとは言え、未遂だった為 純血は守り通しているとの事だ。
そして、ユーリに救われた時に、縁が始まった。
何度か情報屋に足を運んでもらい、時にはまた助けてもらって。好きになったとの事だ。
自分の処女を捧げるのはユーリしかいないと心に決めている。

名前はFLATソフト作品「シークレットゲーム」より
 
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