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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico2シャルシルを以って集まる

 
前書き
シャルシルを以って集まる/意:シャルとルシルの魂に、かつて2人と関わり合った魂が寄り集まることのたとえ。 

 
†††Sideルシリオン†††

4月6日。とうとうこの日がやってきてしまった。聖祥小学校への編入。先の次元世界では、大学卒業済みという嬉しいステータスがあったから学校に通うことはなかったが、今回は残念ながらそんな都合の良いステータスを得られることはなかった。

(別段、学校に通うことが嫌なわけじゃないが・・・正直、めんどい)

この約2万年の中、小・中・高と学校に通った回数は3ケタ近い。いい加減飽きた。小さく溜息を吐きながら私室で制服の上着の袖に腕を通した後、上着の内側に入った後ろ髪を両手で掻き上げて出す。そして櫛で梳く。今日も枝毛なし、っと。うなじ付近で髪をヘアゴムで束ねつつ、「そろそろ切り頃かなぁ・・・」一束となった後ろ髪を手に取って眺める。

「ルシルくーん。はやてちゃんの準備、終わったわよ~!」

「ああ、判った! いま行くー!」

シャマルに応え、新品の聖祥小指定の鞄を手に取って自室を後にする。リビングには、俺と同じように聖祥小の制服を着たはやてと、シャマル達みんなが勢揃い。シグナムとヴィータとシャマルはすでに管理局員の制服を着用していて、ザフィーラはアルフから教わった仔犬フォームでシャマルの側に居る。

「やっぱり何度見ても、はやてちゃん、ルシル君。制服姿がとっても似合うわ♪」

「おおきに♪」「ありがとう」

シャマルの褒め言葉に礼を返していると、ピンポーン♪と呼び鈴が鳴った。はやてが「お? すずかちゃん達やな」そう言うと、「私が出ます」シグナムが玄関へと向かう。そして「おはよう。よく来てくれた、お前たち」シグナムの出迎えの声が聞こえ、「おはよう!」「おはようございます!」三者三様の挨拶返しが聞こえた。

「みんなー、どうぞ上がってー!」

「「「「「お邪魔しまーす!」」」」」」

そう言ってなのは達がリビングへとやって来た。彼女たちはもちろん制服姿。そんな彼女たちと朝の挨拶を交わす中、「わぁ、リインフォースさん、綺麗~♪」なのはと、「お化粧したんですね♪」すずかが、化粧が施されたリインフォースの顔を見て感嘆の声を上げた。
今のリインフォースは、黒のAラインの膝丈ワンピースに白のジャケット、首には真珠のネックレスという服装だ。そして彼女の唇には綺麗な薄い桃色。口紅によるものだ。頬も、チークを使って染めてある。リインフォースは色白だから薄い化粧で十分だった。

「ありがとう。ルシルがしてくれたんだ。似合っているのなら良かったよ」

「「「「え!?」」」」

「え、なに、ルシル、あんたがリインフォースにメイクしたの!?」

「女の子のわたし達より女子力高ぁー!」

なのは達、そしてアリサとアリシアからは特に強い驚きの目を向けられた。俺は、以前みんなに伝えた先祖から魔法等々を代々受け継いで来ているという大嘘に、「技術の継承だよ。その中には女性特有の技術もある」と付け足しておく。

「それがメイクってわけね」

「なるほど。この技術があれば、ルシルも立派な女の子に女装できるね♪」

「せんわ」

アリシアにツッコみを入れる。さて。何故、俺がこんなメイク技術なんて持っているのかというと、“界律の守護神テスタメント”としての契約の時、何度か性転換などという不名誉を受けたことがある。召喚と同時に女性、または女子として肉体改造を受けて・・・。ダメだ、思い出したら泣きそうになってきた。

「私が主はやてとルシルの保護者として学校へ行かなくてはならないから。ノーメイクにラフな格好とはいかないだろう」

リインフォースが両手を握り拳にして、うむ、と強く頷いた。その表情には僅かばかりの緊張がある。登校初日の今日、まずは保護者同伴となる。俺とはやての保護者は、リインフォース。石田先生に頼もうかとしたが、リインフォースが自ら買って出た。

――仕事でお役に立てない今、家庭でお役に立ちたいのです。ならば、保護者同伴につきましては是非、この私を!――

そう言うわけで、リインフォースが俺とはやての保護者役となった。一応、石田先生にも連絡してみた。仮にもこれまではやてを面倒見てきた彼女だ。すると石田先生は、こう言った。

――お受けしたい気持ちでいっぱいですが、リインフォースさんにお願いするのが筋なのでしょう――

とのこと。家族が居るのなら家族に任せるのが良い、という話だ。とまぁそんな話を終えた後、「それじゃそろそろ行こうか」俺がそう告げると、「そうね。ちょっと早いかもだけど、これ以上リンディさんを待たせるのもどうかと思うし」アリサが呟いた。リンディさん(公私混同しないように敬称は変える)が、シャルの保護者代理だ。

「それじゃ、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、行ってくるな」

これから本局へ向かうシグナム達に挨拶するはやて。俺も「行ってくるよ」と挨拶する。

「気を付けてね、はやて。それとルシル」

「いってらっしゃいませ、我が主、ルシリオン」

「ルシリオン。主はやてをしっかりとお守りしろ」

「はやてちゃん、ルシル君。気を付けてね。いじめっ子とか居たら教えてね。私・・・頑張っちゃいますから♪」

シャマルが右手を頬に添えてニコリと微笑みながらそんなことを言うものだから俺たち全員が「なにを?」と若干声を震わせながら訊き返したんだが、「ふふ、色々とです♪」シャマルは濁した。とりあえず聖祥小にいじめっ子が居ないことを祈ろう。その子のためにも。というか、そうならないように俺が居るわけだが。

「えと、大丈夫よ。うちの学校に、いじめなんてする陰湿な生徒っていないし」

「「そうだよね~♪」」

アリサが胸を張ってそう言うと、なのはとすずかがニヤニヤしながらアリサを両側からサンド。すると「ぅぐ!」アリサがたじろいだ。意味が解らず小首を傾げるはやてとフェイトとアリシア、そしてシャル。ヴィータとシャマルも似た感じだな。

(確か、アリサのイジメ紛いの悪戯がキッカケだったか? なのは達の出会いは)

「そのことについてはもう、学校の怪談ん時に謝って完全・完璧に済んだ話でしょうが!」

「「あはは、ごめーん♪」」

うがー、と両腕を振り上げたアリサに、笑いながら謝るなのはとすずか。事情を知らないはやて達がなんの話なのかと根掘り葉掘り訊こうとしたところで、「ほら、行くわよ!」アリサがズンズンと大股で玄関へと向かったため、「いってきまーす!」はやてとリインフォース、それになのは達がシグナム達に挨拶して玄関へ。

「じゃあ行ってくるよ。シグナム達も気を付けてな」

シグナム達の「いってらっしゃい」を背に俺も玄関から外へ。外にはアリサが1人待っていてくれて、「この狭い道じゃうちの車、入って来られないからさ。悪いわね、ちょっと歩いてもらうけど」そう言って、先に行かせたのか前を行くはやて達に追いつくために駆けだした。

「車で送ってもらうってこと自体に感謝しているよ。さすがにリインフォースとリンディさんを、聖祥小の通学バスに乗せるわけにはいかないからな」

タクシー・バス代も馬鹿にならんし。そういうわけで昨日、すずかの家でチーム海鳴・聖祥小制服バージョンの集合写真を撮り終えた後で、アリサからバニングス家のリムジンを出そうと提案が。登校初日がリムジンで、というのはどうかと思ったが、他の生徒が集まる前に登校すれば目立たないだろうという話になり、こうして早い時間で登校することに。

「おはようございます、みなさま」

リムジン側に控えていた初老の男性――バニングス家の執事兼ドライバーの鮫島さんがドアを開け、恭しくはやて達に挨拶をした。はやて達が「おはようございます!」と挨拶を返し、まずリインフォースがはやてを横抱きに抱え上げ車内へ。
そして車外へ戻って来て、車椅子を押して鮫島さんと一緒にトランクへ移動し、畳んだ車椅子を鮫島さんと一緒に持ち上げてトランクにしまうと、リインフォースはなのは達に続いて車内へと戻って行った。そして俺も鮫島さんと「おはようございます」と挨拶を交わす。

「鮫島。すぐに出るわ」

「かしこまりました」

アリサに続いて最後に俺が乗り込むと、「おはよう、ルシリオン君」フォーマルスーツを着込んだリンディさんから挨拶を貰った。

「おはようございます、リンディさん」

挨拶を返しながら、四方の内壁に沿うように設けられたソファに座ろうとしたら、「ルシル君」はやてと、「ルシル」シャルが、自分の隣が空いているとその空席をポンポンと叩いて示した。選択によっては学校に着くまでの間、車内の空気が悪くなるのは必至。

「(ま、普通は・・・)はやての隣だよな」

「そうやんな♪」「チェッ」

嬉しそうに笑みを浮かべるはやてと、不満そうに頬を膨らませるシャル。と、「シャルちゃん。私と代わろう」なのはが俺の左隣から退き、シャルに席を譲ろうとした。すると当然「ありがとー❤」シャルは勢いよく立ち上がってなのはに抱きついた。
とその時、信号なのか車が停車するためにブレーキ。静かな制動だったが、シャルに勢いよく抱きつかれていたこともあり、なのはは彼女を支えきれずに「わっ!?」2人揃って仲良く転倒。そして「あいたーっ!?」なのははフェイトと、シャルはアリシアと頭をごっつんこ。4人とも「~~~~~っ!」額を押さえて蹲った。

「まったく。何をしているんだか」

「みんな大丈夫・・・?」

「もう。イリス、余所様の車内なのだからはしゃいではダメよ?」

「すごい光景を見た気がするわ」

「ゴチッてホンマにすごい音したけど・・・、大丈夫か?」

俺が真っ先に呆れて、すずか、リンディさん、アリサ、はやてと、目の端に涙を浮かべているシャル達に気遣いの声を掛ける。シャル達は「大丈夫・・・」と応え、シャルは俺の左隣へと座り、なのははリンディさんの隣に座り、フェイトとアリシアは姉妹仲良く「痛かったね」とお互いの赤くなった額を撫で合った。

「――そうそう。はやてさん、ルシリオン君。話すのが遅れたけど、イリスを含めたあなた達のクラスは、4年2組になりました」

リンディさんからそう伝えられると、「別のクラスになっちゃったね、シャルちゃん達・・・」なのはがガックリと肩を落とした。フェイト達も「一緒のクラスが良かったね」と、俺たち3人と別々のクラスになったことに落ち込んでくれていた。

「ごめんなさいね。私も出来るだけ、3人をなのはさん達と同じクラスにしてあげたかったのだけれど・・・」

「いいえ。ルシル君とシャルちゃんが居ってくれるだけで、わたしは十分です♪」

「俺も。はやてを独りにしないでいただけただけで十分です」

なのは達と同じクラスに編入させてあげられなかった、と頭を下げて謝るリンディさんに、はやてと俺は非難ではなく感謝を返した。リンディさんの働きが無かったら、俺とはやてがバラバラになってしまうようなことがあったかもしれない。さすがにそれは冗談じゃ済まされない。

「わたしは、ルシルと一緒になれたことだけでも満足ですぅ~❤」

そう言って俺の左腕に抱きつくシャル。負けじと「シャルちゃんは居らんでも良かったかも」なんてはやてが挑発しながら俺の右腕に抱きついた。もう胃が痛くなってきた。俺にとっての救いは、アリシアが居ないこと。あの子まで同じクラスだったら、卒業するまでに絶対に胃関連の病で入院する。

「ありがとう、はやてさん、ルシリオン君。あ、でもなのはさん達のクラス、4年1組とはお隣で、合同授業もたくさんあるみたいだから。そうよね・・・?」

「あ、はいっ。2クラス合同で体育とか色々な授業をすることもあるから、その時は一緒にお勉強しようね、シャルちゃん、はやてちゃん、ルシル君♪」

「「うんっ♪」」

「ああ。その時はよろしく頼むよ」

それから学校に着くまでの間、休み時間は俺たちのクラスに逢いに行くとか、昼食は屋上に集合とか、学校での俺たちの生活基盤を決める話し合いをした。

†††Sideルシリオン⇒イリス†††

時刻は7時50分。これから3年間と通う聖祥小学校に到着。校門脇に停車したリムジンから降りて、正面玄関へと向かってみんなで歩いていると、「あーら、アリサさん。今日はリムジンで御登校とは。良い御身分ですわね」正しくお嬢様然とした口調な女の子の声が背後から聞こえてきた。なんかアイルを思い出す。

「朝からヤな奴に絡まれちゃったわね。なんの用よ? 木花咲耶・・・!」

アリサが溜息ひとつ吐いて、やれやれ、って言った風に振り返った。わたし達もアリサとほぼ同時に後ろに振り返る。そこに立っていたのは、チョココロネ(わたしは生クリーム派)みたく螺旋状に巻いてある茶色のロングヘアをポニーテールにした女の子が居た。アリサに、さくや、って呼ばれた子が「あ、あら? はやてさん。それに・・ルシルさんも」はやてとルシルの存在に気付いて、2人の名前を呼んだ。

(この子、どっかで会ったかな・・・? なのは達じゃないにしろどこか懐かしい・・・?)

以前までなら記憶のフラッシュバックで感情をコントロール出来なくかったけど、今はわたしの前世――シャルロッテ様の覚醒によってフラッシュバックは起きなくなってる。だから確かめようがないけど、でも・・・会ったことがある気がする。

「咲耶ちゃんや。久しぶり~♪」

「久しぶり、咲耶。木花さ・・・結さんからもう聞いているかもしれないけど、今日から同学年だ。よろしく頼むよ」

「いえ。こちらこそよろしくお願いしますわ❤」

ん? なに、あの笑顔。アレは完全に恋する乙女の顔。ただでさえ、はやて、っていうライバルが居る中で、さらなるライバルの参戦など認めてなるものか。はやては一体どんな顔をしてるのかな、なんて思って見てみると、「こちらこそよろしくな、咲耶ちゃん♪」笑顔返しをしてた。

「はい。それではわたくし、新たな教室のお花を変えなくてはなりませんので、これで失礼いたしますわ」

そう言ってドリルポニー(わたしがたった今、命名した)を揺らしながら颯爽と去って行った。とここで、「なによ、はやて、ルシル。アイツと知り合いなわけ?」アリサが不機嫌そうに訊いた。ここまでアリサが不愉快そうにするのも珍しい。

「わたしが通てる病院で働いてる看護師の、結さんって人の妹さんなんよ、咲耶ちゃんは」

「ちなみに俺が男だってこともすでに話している。病院で女装している時に咲耶と何度か出会っているからな。流石に騙しきれないと判断した。そのついでに石川先生にも、俺が実は男だったってことも伝えた」

ルシルがはやてを診てくれてる医者の石川先生に、実は男でした、ってことを伝えたって話は聞いてた。ちょっとばかり怒られたらしいね。でもま、ルシルの境遇――家族が居ない中での一人旅の果て云々ってことを聞いて、納得はしてくれたそうだけど。

「あ、そう。アイツ、シャル達と同じ2組だし、仲が良いのは結構かもね。でも、もしあたし達かアイツを選ばなくちゃいけなくなった時は・・・解っているわよね?」

「まぁ、付き合いの深さで言えばアリサ達だから、もしの時はみんなの方を選ぶだろうけど・・・。しかしアリサはどうして咲耶を目の仇に・・・?」

ルシルに続いてわたしも「うん。なんかあったの?」そう言って頷く。するとアリサは「あっちから一方的にケンカ売って来てんのよ」って鼻を鳴らして、話してくれた。バニングス家と木花家はお互いに複数の会社を経営する家柄だそう。それだけならそこまでいがみ合う理由も無いんだろうけど・・・

「なんか知らないけどうちの会社が、アイツん家の会社に決まりそうだった案件を横から奪ったとかなんとか。もうそっからは会う度に嫌味をぐちぐちと。最初は無視してたけど、あまりにしつこかったからこっちも徹底抗戦に入ったってわけ」

「私となのはちゃんは、木花さんとも仲良くしたいって思ってるんだけど・・・」

「仲良く出来るような空気じゃないんだよね・・・。とほほ」

そんなアリサのライバルが居るクラスに編入することが決まったわたしとはやてとルシル。なのは達とは別のクラスになっちゃったけど、退屈はしなさそう。問題は、さくやって子もルシルに僅かばかりの恋心を抱いてる模様ってこと。病院で顔合わせをしたようだけど、ルシルは一体あの子に何をしたのか。

『ねえ、はやて。あの子、絶対にルシルに気があるよ?』

『うん。そうやな』

『そうやな、って・・・』

『そうは言うてもなぁ。わたし、咲耶ちゃんには危機感抱いてへんし』

『というと?』

『咲耶ちゃんは脅威にならへんってゆうことや。わたしにとって一番のライバルは、シャルちゃんだけや』

『・・・光栄っ♪』

わたしははやての座る車椅子の隣に移動して、はやてとコツンと拳を軽く打ち合った。突然のわたしとはやての行為に「主はやて・・・?」車椅子を押すリインフォースや、「シャルちゃん・・・?」なのは達が小首を傾げたけど、「なんでもな~い♪」わたし達は笑顔でそう返すだけ。
そしていよいよ昇降口に辿り着いて校内へ入ったところで、「シャルちゃん達は、反対側の靴箱ね」なのは達が4年1組と表記された札が側面に張られたシューズラックのところで止まった。そしてわたしとはやてとルシルは、なのは達の使うシューズラックの向かい側に設けられた2組のラックへ。そしてリンディ提督とリインフォースは、お客様用のラックへ。

「俺とシャルはここだな。はやてはそこだ」

「ん、ありがと♪」「おおきにな♪」

靴をしまっておくスペースの扉にはわたし達の名前が記された名札があった。靴を脱いで、すのこっていう素足で上がるための木製足場に上がって、新品のルームシューズ(上履きって呼ぶみたい)に履き替える。
上履きに履き替え終えたわたしとルシル、そしてなのは達は、「んしょ、んしょ」車椅子に乗ったまま靴と上履きを替えてるはやてを眺める。はやてからは、自分で出来ることは自分でやる、っていう決意を聞いてるから、手伝って、って協力要請が無い限りは見守る。

「よしっ。お待たせや、みんな」

「主はやて。車椅子をお持ちいたしました」

客人用スリッパに履き替えたリインフォースが、校内専用のために学校が用意してくれたっていう車椅子を持ってきた。ここで、「ルシル君、頼めるか♪」はやてがルシルに向かって両腕を伸ばした。

「さすがに車椅子から車椅子に移るには人手が要るよな。・・・ほら、掴まれ」

「うん、おおきにな♪」

ルシルがはやてを真正面からハグして立ち上らせた。落ち着け、わたし。あの抱っこには邪な感情は無しっ。無しなのだっ。と、「っ?」はやてがルシルの肩越しからわたしに向かってニッコリ笑みを向けてきた。イラッ☆ な~に、今のは? その笑顔には何の意味があるのかな?

「いい度胸じゃない、はやて~?」

「ん~、なんのこと~?」

「「あはははは」」

はやてと一緒に笑い合う。なるほど。宣戦布告ってわけ。上等じゃない、はやて。学校生活においても手加減なんてしてあげないんだから。はやてと真正面から含み笑いの応酬を開始。

「・・・って、あれ? なのは達は?」

「え? あ、あれ、みんな居らへん・・・?」

ふと気が付けば、周りに居たはずのなのは達の姿が見えなくなってた。わたし達の周りに居るのは、リンディ提督とルシルとリインフォースだけ。はやてと一緒に小首を傾げると、「もういいかしら? イリス、はやてさん?」リンディ提督が怒り雑じりの笑顔を浮かべた。

「君たちが馬鹿をやってる間に先に教室に向かったぞ」

ルシルも呆れ口調で大きな溜息。あのリインフォースですら「主はやて・・・」その綺麗な深紅の瞳に僅かばかりの非難の色を湛えた。これには「ごめんなさい」はやてと一緒に頭を下げた。

「はい。それじゃ、職員室に向かいましょうか」

リンディ提督の後ろについて廊下を進む。時間が早いからか廊下に他の生徒の姿は見えないけど、先生とは何人かすれ違ったから、これからお世話になるわたしとはやてとルシルは、「おはようございますっ!」すれ違う先生に元気よく挨拶。すると「はい。おはようございます」笑顔で挨拶を返してくれる。くぅ~っ、改めて実感するよ、学校に来たって。

「失礼いたします。矢川先生はいらっしゃいますか?」

「ああ、ハラオウンさん、八神さん。お待ちしておりました。・・・はじめまして、八神はやてさん、イリス・ド・シャルロッテ・フライハイトさん、ルシリオン・セインテスト君」

リンディさんの呼びかけに応じたのは、矢川先生って名前の若い女性。でも見た目と実年齢が合った人ってあんまり見かけないんだよね。リンディ提督然りなのはのお母さん然り。とにかく「はじめまして!」わたし達はお辞儀を返す。

「はい、はじめまして。あなた達が編入するクラスの担任の、矢川枝姫(えひめ)といいます。これからクラス替えがされるまでの1年間、クラスのみんなと一緒に楽しく過ごしましょう♪」

「「「はいっ!」」」

「それでは矢川先生。よろしくお願いいたします」

「お願いいたします」

「はい。大事なお子さん方を、確かにお預かりいたしました」

リンディ提督とリインフォース、そして矢川先生がお辞儀し合った。ここでわたし達を職員室にまで連れて矢川先生に引き合わせるっていう用事を済ませた「イリス。しっかりね」リンディ提督と、「ある――コホン、はやて、ルシル。良い学校生活を」リインフォースは帰宅した。

「それでは、まずは、これから君たちの教室へ案内するから、ついて来てね」

矢川先生について職員室を出ると、「八神さんにはこちらのエレベーターを使ってもらいますね」

聖祥小学校のパンフレットに載ってた通り。聖祥小は海鳴市内でいち早くバリアフリー化を行ってるって書いてあった。ちなみにエレベーターは付近には監視カメラがあって、他の生徒が遊ばないように職員室で監視できるようになってるってこと。

「基本的に付き添いの子と一緒に乗ってもらうようにしてね」

「はい。じゃあ、ルシル君。ええかな?」

「ああ、もちろんだとも。矢川先生、何階でしょうか?」

「3階よ。エレベーターを降りたら、私とフライハイトさんが向かうまでそこで待っていてね」

「「はい!」」

ここでさらにはやてとルシルと一旦お別れ。矢川先生と2人で階段階段を上がって2階へ。2階に上がるとすぐさまエレベーターのところへ向かう中、なのは達が廊下でお喋りしてる姿を視認。向こうもわたしに気付いて手を振ってくれたから、こっちも手を振り返す。すると『はやてとルシルは?』フェイトが思念通話を送って来た。

『はやてはほら、車椅子でしょ。エレベーターを使ってる。んで、ルシルはその付き添い』

『あ、そっかぁ。あのエレベーターって、階段を自力で上れない子や、その子の付き添いをする子しか使えないんだよね。ということは、はやての付き添いとしてならわたしも乗れるのかな♪』

アリシアがエレベーターを使いたそうに言うと、『ルシル君が居るから無理じゃないのかな?』すずかが、はやての付き添い=ルシルの式を組み立てた。う~ん、それってつまり、階層移動する時は常に2人は狭い個室の中に2人っきりってことに。

(なんか嫌だなぁ。・・・うん、わたしも同じクラスだし、わたしも付き添いになればいっか)

『ま、とにかくさ。始業式が終わったら一度集まって、それから一緒に帰りましょ。初日だからスクールバスに乗ってさ』

『ん。はやてとルシルにも伝えておくね。それじゃ、また後で』

アリサにそう返して思念通話を切る。エレベーター前に着くと、すでにはやてとルシルが居て、わたし達が来るのを待ってた。

「待たせてごめんね、八神さん、セインテスト君。それじゃあ行こうか」

今度ははやてとルシルと一緒に、なのは達が居た教室前の廊下に向かって、4年2組っていう表札が掲げられた教室に到着。最初に矢川先生が教室に入ると、「・・・あれ、おはよう、みんな。早いのね」誰かに挨拶した。そういえば確か、さくやって子が居るんだっけ。はやては仲の良い友達ってカテゴリだけど、わたしは恋敵ってカテゴリに入れてある。

「八神さん、フライハイトさん、セインテスト君。入って来て。・・・コホン。ちょっとフライング気味だけど、今年度からの新しいお友達を紹介します!」

矢川先生に呼ばれるままに教室に入る。教室にはすでに何人かのクラスメートが居た。その子たちの顔を見たわたしは、「・・・っ!?」起こることがないってされてた感情の揺らぎが生まれたのに少し戸惑った。

「わたくしは先ほどお会いしました。ですが改めて。4年2組の委員長、木花 咲耶ですわ」

「・・・私? 私もこのクラスの委員長で、五十鈴 依姫(よりひめ)。困ったことがあったら遠慮なく言って」

「次はわたしよね? 比佐津(ひさつ) 天音(あまね)。よろしく♪」

「ぼくは、比佐津 天守(あまもり)。見た目と名前で判ると思うけど、天音(コレ)の双子の弟」

「コレとか言うな。殴るぞ? 依姫が」

「天音と天守は黙ってろ。・・・おれは、武塔 亮介。一気に3人増えるなんて、1組の双子みたいじゃん。同じ外国人っぽいしさ」

「えっと、僕は・・・真神(まがみ) (まもる)っていいます。よろしくです」

三者三様の自己紹介をしてくれたこの子たちのこと、わたし・・・たぶん知ってる。泣くまでは行かなかったけど胸の奥が熱くなったことで、わたしはそう強く思った。

 
 

 
後書き
グッド・モーニング。グッド・アフタヌーン。グッド・イーブニング。
遅くなって申し訳ありませんっした!! 再び我が目を襲うシャレにならない程の痛み。さらには風邪・熱がこの1週間続いていました。が、昨夜にやっと全快しました。そして今日1日で今話を書き上げたので、少々つまらないものとなってしまいました。
さて。今話は日常編の基盤作成の回としました。はやてとシャルシルが編入することになった4年2組の中心人物を登場させました。にじファンからお世話になっている読者さまにとっては懐かしいメンバーでしょう。はい、「ハコにわ生徒会」に登場させたキャラで、生徒会長シャルや副会長ルシルと同じ、生徒会執行部のメンバーだった連中です。詳細は次回以降で、となります。
 
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