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機動6課副部隊長の憂鬱な日々(リメイク版)

作者:hyuki
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第6話

 
前書き
ずいぶんと間が空いてしまいました・・・
 

 
2日後。
はやてとの約束の時間の5分前に、ゲオルグは自分の官舎の前に立っていた。
ゲオルグの官舎は本局の居住区の中央付近にある単身者向けの士官専用のもので、
20階建の威容を誇る淡いブラウンの建物である。
近所には家族向けの官舎や下士官以下用の官舎もある区域で住宅街然とした
雰囲気が漂う。

休日とあって、チェックのシャツにグレーのジャケットを羽織ったゲオルグは
自分の官舎の正面にあるスーパーマーケットに出入りする人々を眺めながら、
タバコをふかしていた。
吸い終わった吸いがらを灰皿に放り込んで顔を上げると、急に肩を落として
しゃがみこんだ。
その顔は口が大きくへの字に曲がり、目じりも大きく下がっていて
後悔に満ち満ちた表情をしていた。

(まずかったよなぁ、昨日のアレは・・・)

ゲオルグは後悔のもとになった出来事に思いをはせ、深くため息をついた。





話は前日の朝までさかのぼる。

前夜にべろべろに酔ってそのまま眠ったゲオルグは、
米神を押さえて二日酔いと頭痛に耐えながら自分のオフィスに出勤した。
早朝で誰もいないオフィスに入ると、自分の席に座って端末を立ち上げた。
端末が立ち上がるまでの短い間にデスクの上の書類箱から
前日の帰り際にゲオルグを呼びとめた班員が置いていったであろう
書類を取り出す。

その書類の束の一番上に付箋が貼り付けられていて
"先ほどはすみませんでした。 確認をおねがいします"
と書かれていた。
それを見たゲオルグは苦笑して"もう昨日だっての・・・"と呟くと
その書類を端末の脇に置き、ちょうど起動した端末を操作してメールを開いた。
未読メールの数を確認すると首から待機状態のレーベンを取り外して
端末の横に置いた。

「レーベン、未読メールのソートよろしく。 いつものように重要度順でな」

《はい、マスター。 お任せを》

レーベンの返答に満足げな笑みを浮かべると、ゲオルグは机上に置いてあった
カップにインスタントコーヒーの粉末を入れて立ち上がった。
他に誰もいないのをいいことに大口をあけてあくびをしながら通路へ出ると、
眠たげに目をこすりながら給湯室に向かう。

小さなシンクとポットが置かれた給湯室はまだ照明がついておらず真っ暗で、
ゲオルグは手探りでスイッチを探り当てて明かりをつけると、
ポットを軽くすすいでから水を入れて電源を入れた。

湯が沸くのを待つ間、壁にもたれかかって目を閉じていたゲオルグは
ポットが電子音で湯が沸いたことを知らせると、緩慢な動きで壁から
身体をはがしてカップに湯を入れた。
そして給湯室の照明を消すと、頭を掻きながらオフィスに戻っていく。

席についてカップの中のコーヒーに口をつけると、先ほどちら見した
書類を取り上げて中身を目で追い始めた。
一枚めくりコーヒーをひと口、という動作を3回繰り返して最後まで
書類をチェックすると、1枚目の隅に付箋を貼って"OK"とだけ書きいれ、
書類を脇に置いた。

「レーベン。メールのソートは?」

《終わっています》

「了解。いつもありがとな」

《いえ》

レーベンに頼んでいたメールのソートが終わっていることを確認すると、
ゲオルグはメールを上から順番に確認し始めた。
通常業務に関するメールをさくさくと何通か処理し、次のメールに取り掛かった
ゲオルグの手がピタリと止まった。

「なんじゃこりゃ?」

そのメールの題名を見た瞬間、ゲオルグは首を傾げて訝しげな声を上げる。
画面上には「明日」とだけ記されたメールのタイトルと、
「八神はやて」という差出人の名前だけが表示されていた。

「何の話か題名に書いとけよ・・・ったく」

呟くようにはやてに向けた愚痴を言うと、メールを開く。
そしてメールの中身を見て眉間に刻まれた皺を深くした。

「”ゆうべ言ったように明日は13時に官舎の前に行きます”って
 何の話だよ。意味不明・・・」

メールの本文に対して悪態をつくと、デスクに頬づえをついて
ゲオルグはメールの内容が意味することについて考え始めた。

(そもそも、明日っていつだよ?
 だいたいはやてと夜に話したことなんか最近ない・・・よな?
 ん? 夜・・・?)

ぶつぶつと独り言をつぶやきながら考えを進めていくと、
自分で言った夜という言葉に引っ掛かりを覚えて、ゲオルグは目を閉じて
右に左に首を傾けながら考え込む。
そうして1分ほど経った頃、ゲオルグはゆっくりと目を開けた。

(ゆうべ・・・か? 何も覚えてないけど、相当酔ってたもんなぁ、俺・・・。
 もし、ベロベロに酔ってるときに連絡貰ったんなら謝らないと・・・)

想像とはいえ概ね事実に行きついたゲオルグは、しかめつらで左腕の時計に
目を向けた。

(この時間なら起きてる・・・よな?)

時刻は朝7時半。
定時に出勤するなら起床している時間である。

「レーベン、はやてにつないでくれ」

《了解しました、マスター》

ゲオルグの前に通信ウィンドウが現れ、ほどなくして呼び出し音が止む。

「ふぁい・・・八神れふけど」

通信ウィンドウの中に現れたのは、眠たげに目をこするパジャマを着た
はやてだった。

「あれ? まだ寝てたのか?」

「ふぇ? ゲオルグくんかいな・・・。昨日遅かったから、寝てたんよ。
 で、なんやねんな、こんな時間に・・・」

寝ぐせのついた頭を掻きながらはやては眠たげな眼をゲオルグに向ける。

「あ、悪い。 後にしようか?」

気遣うように尋ねるゲオルグであったが、はやてにはそれが逆に癇に障ったのか
苛立たしげに頭をガシガシとかき回す。

「もう!! ええから、早く用件を言ってくれへん!?」

「ん、悪い。 あの、昨夜メールくれただろ? 
 あれ、意味がわかんないから、どういうことか訊きたいんだけど」

ゲオルグがおずおずと控えめに尋ねると、はやての口元がピクリと動く。
そしてはやては目を閉じ、深いため息をついてからゲオルグの方を
呆れたような顔で見た。

「ゆうべのこと、全然覚えてへんのかいな・・・」

がっくりと肩を落としてそう言うと、はやてはゲオルグが酔って
すっかり忘れてしまった前夜の出来事をまくしたてるように、
若干の愚痴を交えて2分ほどで話しきった。

「・・・すみません。 本当にすみませんでした」

はやてが話し終えると、ゲオルグは身体を小さくして平謝りに謝った。

「・・・ほんなら、明日は13時に迎えに行くから。 よろしく」

だがそんなゲオルグの謝罪ははやてに感銘を与えることはできなかったようで、
はやては仏頂面のまま吐き捨てるように最後の台詞を言い放つと、通信を切った。

ゲオルグは数秒間通信ウィンドウの消えた虚空を見つめると、
深いため息をついて自分の椅子の背もたれに体重を預けた。





(酔って何も覚えてなかったのはともかく、連絡する時間は
 もうちょっと気を使うべきだったよなぁ・・・。はぁ・・・)

前日の出来事を振り返っていたゲオルグはもう一度深くため息をつく。
そのとき、官舎の前に一台の乗用車が止まり、後部ドアの窓があいた。

「おーい、ゲオルグくん」

聞こえてきた声につられてゲオルグが顔を上げると、
開いた窓の奥から手を振る笑顔のはやてと目があった。

「はやて?」

「お待たせやね。 乗って」

はやての言葉を聞いたゲオルグは、すぐに立ち上がって車の方に歩み寄ると
後部ドアを開けて車に乗り込み、はやての隣に腰を下ろした。
そしてゲオルグがドアを閉めると、車はすぐに走り出した。

「なあ、はやて」

一息ついてゲオルグが話しかけると、窓の外の景色に目を向けていたはやては
目を瞬かせてゲオルグの顔を見た。

「なに?」

「昨日の朝の件なんだけどな、寝てるところに連絡しちゃって済まなかった」

「ん? ああ、あれ? まあ、迷惑は迷惑やったけど別にええって。
 ゲオルグくんは私が前の日に帰りが遅かったんなんか知らんかったんやし」

神妙な顔で頭を下げるゲオルグに対して、はやては苦笑しながらヒラヒラと
手を振って答える。
その様子を見てはやてが前日のことを怒っていないと理解したゲオルグは
ホッと胸をなでおろして、ふぅっと大きく息を吐いた。
そして改めてはやての方を見る。

「で、今日はどこに行くんだよ?」

「えっと、とりあえず今は転送ポートに。 そこから先は、内緒や」

「転送ポート、ってことはミッドか?」

「内緒やっちゅうに」

「ケチくせえ・・・」

苦笑しながら行き先を言おうとしないはやてに、ゲオルグは不満げな表情を浮かべ
窓の外に目を向ける。
折しも車は転送ポートのある区画に差しかかっていた。

数分で2人を乗せた車は転送ポートの前に到着し、2人は車を降りて
白い建物の中に入っていく。
建物の中は本局への出入りを管理するためのゲートがずらりと並んでおり、
行きかう人々がカードをかざして通りぬけていく。

はやてとゲオルグも管理局のIDカードを取り出すと、ゲートをくぐり
案内表示に従って転送装置の方へと歩いていく。
そしてミッドチルダと本局を繋ぐ大型転送装置のところまでたどり着くと
人の流れに乗って立ち止まることなく装置の中に足を踏み入れた。

次の瞬間、2人はミッドチルダの転送ポートに転送されていた。

再びゲートをくぐって建物から出ると、はやてはなにかを探すように
きょろきょろとあたりを見まわす。
しばらくしてはやては遠くにとまった一台の車を指差すと、"あっ!"と声を上げて
薄桃色のスカートをひるがえして走りだした。

「あっ、おい!」

はやての急な動きに取り残されたゲオルグは、慌てて走りだして
はやての背中を追う。
重厚な黒い乗用車のそばで立ち止まり、自分に向かって手招きするはやての
隣でゲオルグは足を止めた。

「いきなり走りだすなよ、子供じゃあるまいし」

「私の出身地では大人なんは20歳から。 そやから私はまだ子供なんですぅ~」

結構なスピードで走ってきたにもかかわらず、息ひとつ乱さずにゲオルグは
はやてに話しかける。
呆れたような口調ではやての突発的な行動に苦情を言うゲオルグに対して
はやては冗談でそれに応じてみせた。

2人がそんな会話をしていると、運転席から回り込んできた20歳くらいの
男性が2人の前に姿勢を正して立った。

「お待ちしておりました、騎士はやて。 どうぞ」

そう言って男性は車の後部ドアを開ける。

「はいはい。どうもおおきに」

はやてに続いてゲオルグが乗り込むとドアが閉められ、滑るように走りだした。
管理局や行政組織の建物が林立するクラナガン中心街を抜けると、
車は郊外へと向かう幹線道路に入った。

「で、行き先は聖王教会か?」

「ん? なんで?」

「これだよ」

はやてがひた隠しにしてきた行き先についてゲオルグが尋ねると
はやては小首を傾げてゲオルグがなぜそう思うのかを聞き返す。
ゲオルグはその問いに、後部座席のひじ掛けを指差して応じた。

「聖王家の紋章・・・。なるほど、これはうかつやったね」

ゲオルグが指差した先にある聖王家の紋章の彫刻を見てはやては苦笑する。

「で、なんで聖王教会に? そもそも今日は何の用だよ?」

真剣な表情で尋ねるゲオルグに対して、はやては人差し指を顎にあてて
小首を傾げて考え込むそぶりを見せる。

「んとな、私が立ち上げようとしてる新部隊にゲオルグくんをスカウトしたいって
 話をしに行ったやんか。
 そのときにゲオルグくんが部隊の設立目的がようわからんって言ってたから
 それについて補足を入れようと思ってん」

「そんなこと言ってねえよ。俺が言ったのはあれほどの戦力を集める目的が
 判んねえっていったんだよ。
 それにしても、補足・・・ねえ。 それはありがたいけど、
 わざわざ聖王教会までってのはさすがに面倒だろ。
 本局じゃできない話なのか?」

「本局でも話だけならできるんやけどね。
 ただ、もう少し情報に信ぴょう性を持たせたかったんよ」

「あ、そ・・・」

ゲオルグは呟くように言うと、窓の外の景色に目を向けた。





転送ポートから1時間ほど走り、2人を乗せた車は聖王教会の敷地に入った。
道の舗装が石畳に変わり、小刻みな振動がゲオルグとはやてにも伝わる。
やげて車は大きな石造りの建物にある車寄せで止まり、運転手がドアを開けて
2人は車を降りた。

「俺、ここに来るのって初めてだわ」

「そうなん? ぜひゆっくり案内してあげたいとこやけど、今日は勘弁な。
 時間ないし、人を待たしてるし」

「いいよ、別に」

2人は見上げるような大きさの木の扉を抜けると、石壁に囲まれた通路を
靴音を鳴らしながら歩いていく。
双方無言のまま5分ほど歩き、ある扉の前ではやての足が止まった。

はやてが扉をノックすると女性の澄んだ声で"どうぞ"と返答があり、
はやてはノブに手をかけてドアを開けた。

はやてに続いて部屋に入ったゲオルグを、部屋の真ん中に置かれた丸いテーブルの
向こうで柔らかな微笑みを浮かべている金髪の女性が出迎えた。

「ようこそ、シュミット3佐」

ゲオルグは女性の顔を見て何度かまばたきをすると、慌てて姿勢を正し敬礼した。

「お初にお目にかかります、グラシア少将閣下」

大声を張り上げる・・・というほどではなかったにしろ、
結構な音量でそう言ったゲオルグの顔を隣に立つはやては目を丸くして見上げた。

対してゲオルグがグラシア少将と呼んだ女性は、笑みを崩すことなくゲオルグに
語りかけた。

「ええ。はじめまして、シュミット3佐。
 確かに私は管理局の少将という地位を頂いています。
 けれど、見ての通り今の私は聖王教会の騎士、カリム・グラシアなの。
 少将閣下、ではなくカリムと呼んでいただけると嬉しいわ」

「は、はあ・・・では、騎士カリムと」

ゲオルグがカリムの言葉にたじろぎつつ答えると、カリムは笑みを深くして頷いた。
そしてゲオルグとはやてに椅子にかけるよう促すと、ゲオルグとはやては
円形のテーブルを囲むように置かれた椅子に腰を下ろした。

ゲオルグが落ち着かない様子で部屋の中をきょろきょろと眺めていると、
すぐに部屋のドアが外からノックされた。
カリムが"どうぞ"と応じると、静かにドアが開かれてティーセットの乗った
トレーを持ったシスターが入ってくる。
彼女はカップをテーブルに置き、その中に紅茶を注ぐと、席についている
3人に向かって深く頭を垂れた。

「ありがとう、シャッハ」

「いえ。それでは失礼します」

シャッハが退室すると、カリムは自分の前に置かれたカップを手に取り
紅茶をひと口飲んでからはやてに話しかけた。

「こうして直接会うのは久しぶりね、はやて」

「ん? そうやったっけ? 1カ月くらい前に会わへんかったっけ??」

「そうね。 でも1カ月も会わなければ寂しいわよ。 大切な妹だもの」

カリムの言葉を聞いて、はやては照れ臭そうに頬を掻く。

「妹?」

一方で、ゲオルグはカリムが発した"妹"という言葉に対して怪訝な表情を見せる。

「ええ。私にとってはやては妹のような存在なんです。ねえ、はやて?」

「ん? まあ、そやね」

はやては優しく微笑むカリムの言葉に対して、恥ずかしげに俯いた。
そんなはやての様子をゲオルグは僅かな驚きとともに、カリムは慈愛に満ちた
表情で見つめていた。

「ところではやて」

次いでカリムの口から発せられた言葉には、直前までの優しさ口調とは違って
真剣な雰囲気が多分に交じっており、その変化に気がついたはやてとゲオルグは、
椅子の上で少し姿勢を正してカリムの顔を見た。

「そろそろ本題に入らない? ゲオルグさんもお忙しいでしょうし、ね?」

カリムの言葉に頷くと、はやてはゲオルグの方に真剣な目を向けた。

「車の中でも言ったけど、私が設立しようとしている部隊の設立目的について
 もうちょっと詳しく話して、ゲオルグくんが私の部隊に来てくれるかどうかを
 考える材料にしてもらおうと思ってん」

"判ってる"と自分の言葉に対してゲオルグが小さく頷くのを見たはやては、
カップの中の紅茶で口の中を湿らせる。

「前にも言った通り、部隊設立の目的はレリックの件を追いかけるため。
 それと、より迅速に事件を解決できるようにしたいっていう、私や
 なのはちゃんたちの夢を実現させるためや。 表向きは・・・」

「表向きか・・・」

はやての話を真剣な表情で聴いていたゲオルグは、彼女が最後に小声で付け加えた
言葉を聴いた瞬間に、テーブルに肘をついて考え込むような仕草を見せた。

「うん。 もちろん、より迅速に事件を解決できるように、っていうのは
 私が心から実現したいと思ってることではあるんやけど」

「わかってるよ。 それより、真の目的ってのを早く聴きたいね、俺は」

ゲオルグは何度か小さく頷くと、鋭い目をはやてに向けて低く押し殺した声で
はやてに話しかける。

「うん、そやね・・・」

そのゲオルグの言葉に対して、はやては歯切れの悪い口調で応じ、
それまで無言で2人のやりとりを見ていたカリムに目を向けた。
はやてからの視線に対して、カリムは軽く頷いて応じると
ゲオルグの方に顔を向けた。

「それについては私からお話します。そのためにここまで来て頂いたので」

「なるほど・・・」

はやてのあとを引き継いで話し始めたカリムの言葉に、ゲオルグは頷く。

「はやてが作ろうとしている部隊の本当の目的には、
 私の希少技能が深く関係しているんです」

「希少技能・・・ですか?」

「ええ。私の希少技能はこれから先に起こることを予言する能力なんです」

「・・・予言、ですか?」

「ほんまやで、ゲオルグくん。 
 まあ、私も最初に聞いたときは"ほんまかいな?"って思ったけど」

僅かに首を傾げて小さく声を上げたゲオルグの様子を見ていたはやては、
彼が何を考えているかを見透かしたように話しかける。

「別に騎士カリムのことを疑っているつもりはないんですが、
 予言と言われるとなかなか・・・」

ゲオルグは、意地悪げな笑みを浮かべるはやての方を一瞥すると
頭を掻きながら弱り顔でカリムに話しかける。

「大丈夫ですよ。 にわかには信じがたいというお気持ちは判りますし、
 同じような反応に何度も遭遇してますから。
 それに、予言といっても古代ベルカ語の詩文形式ですから解釈も難しいですし、
 精度としてはせいぜいよく当たる占い程度のものなんですよ」

カリムはゲオルグを安心させるように笑みを浮かべる。
そして再び真剣な表情へと戻り話を続ける。

「そしてここ数年の予言の内容が、はやてが部隊を設立しようとしている
 理由になっている、というわけです」

「なるほど。 で、その予言というのは・・・」

「こちらです」

納得顔で頷くゲオルグの問いかけに対して、カリムは一枚の紙を
テーブルの中央に置いた。

「失礼します」

ゲオルグは手を伸ばして2つ折りにされたその紙を手に取ると、
慎重な手付きで開き、そこに書かれた文字を眺めた。

「これは・・・」

読み終えたゲオルグは、神妙な顔でカリムとはやての方を代わる代わるに見る。
彼と目があった2人は、同じく神妙な顔で頷いた。

「それぞれの単語が意味するものを正確に把握はできていませんし、
 この予言全体が意味することを正確に推定することも難しいでしょう。
 ただ・・・」

「想定される最悪のケースは、管理局による次元世界管理体制の崩壊、ですか?」

絞り出すように言ったゲオルグに向かって2人はゆっくりと頷く。

「そう。 そやから私はその最悪のケースを想定して動くことに決めた。
 そのための新部隊。 そのための機動6課やねん」

はやては低く押し殺した声でそう言うと、ゲオルグに向かって鋭い目を向けた。
ピリピリした空気が2人の間に流れる。

「だからこそのあの戦力・・・か。 まあ、判らないではないけど、
 なんで本局や地上本部の上層部に報告して対処を求めないんだ?
 言っちゃあなんだが、たかだか1個部隊で対処すべき事態じゃないだろ?」

思案顔で腕組みをしながら、ゲオルグははやてに話しかける。
するとはやてはゲオルグの方をキッと睨みつけた。

「もちろん報告したっちゅうねん。本局はもちろん地上本部にもな。
 そやけど・・・」

「ですが、地上本部の反応は"そんなものにいちいち関わっていられない"という
 ものでしたし、本局のほうはそこまでではないものの、やはり
 局を上げて大々的に対策に乗り出すのは不可能だ、という反応でした。
 そこでせめて私の力で出来るだけのことをしようと思い・・・」

「その結果が、"機動6課"というわけですか・・・」

ゲオルグの問いに、カリムとはやてはゆっくりと頷いた。
2人の仕草を見たゲオルグは再び腕組みをして目を閉じる。

3人ともが黙りこくり、部屋の中は静寂で満たされる。

カリムの後に開いた窓から赤みがかった光が差し込み、
その向こうから届いた小鳥の鳴き声が部屋の中に響く。

「・・・はやてがあれだけの戦力を集めようとしている理由は判りました」

5分ほどの間をおいて顔を上げたゲオルグが、押し殺した口調でカリムと
はやてに向かって話しかける。

「ほんなら、ゲオルグくんも6課に・・・」

「はやて」

ゲオルグの言葉に対して、笑みを浮かべて声を上げたはやての言葉を
厳しい表情のカリムが短く遮った。

「そんな風にゲオルグさんをせかしてはダメよ。
 今抱えている仕事や部署との関係を考えなくてはいけないのだから。
 あなたも組織に所属する人間ならそれくらい判るでしょう?」

カリムが穏やかに諭すと、はやては口の中でもごもごと二言三言なにかを呟いてから
ゲオルグに向かって小さく頭を下げた。

「・・・ごめん。焦ってもしゃあないのは判ってんねんけど・・・」

「いや。俺の方こそ、すまない。即答できればよかったんだけどな」

ゲオルグがそう言うと、はやては小さく首を横に振ってから笑顔を浮かべた。
しばし無言で見つめあう2人の姿を眺めていたカリムは、紅茶に口をつけた。

「私のほうからお話することは以上です。
 私としても、はやてに力を貸して頂けると嬉しいのですが、
 それについては今日お話したことも含めて考えていただけますか?」

カップを置いたカリムが柔らかく微笑みながら言った言葉に、
ゲオルグは大きく頷いて見せた。
 
 

 
後書き
お読みいただきありがとうございます。

相当間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。

どうにも時間が取れず・・・

感想など頂けるとありがたいです。 
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