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機動6課副部隊長の憂鬱な日々(リメイク版)

作者:hyuki
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第7話

 
前書き
すげえお久しぶりです。 

 

カリムとの会談が終わり、ゲオルグとはやては並んで通路を歩いていた。
2人とも押し黙ったまま、ただ足音だけがあたりに響く。

(・・・数多の海を守る法の船もくだけ落ちる、ね)

ゲオルグは両手をズボンのポケットに突っ込んで、
カリムの予言について思い返していた。

(何が起こるかは判らない。でも、結果は予測できる・・・ってのも怖いな)

彼の指がポケットの中にある1枚の紙に触れ、かさりと微かな音を立てる。

(予測にしても最悪だな、成就すれば)

彼は眉間にしわを寄せ、睨みつけるように真っ直ぐ前を見据えていたが、
ふいに目を閉じると大きくため息をついた。

「どないしたん?」

隣を歩くゲオルグの様子を見ていたはやてが声をかけると、
ゲオルグは目を開け、はやての方に視線を向けた。

「騎士カリムの予言を思い返してたんだよ。
 予言が成就するとして、それまでにどんなことが起きるんだろう、ってな」

ゲオルグの問いかけに対して、はやては腕組みをして俯く。
しばしそのままの姿勢で固まっていた彼女は、1分ほどしてから顔を上げた。

「・・・わからへんわ。 正直言って想像もつかへん」

そう言ってはやてはお手上げとばかりに力なく首を横に振る。

「だよなぁ・・・。 だからこそ、何をすればいいのかもわからん」

そんなはやてに苦笑をむけながら、ゲオルグは頷いた。

「そうなんよ、情報が足りなさすぎてな。
 そやから、情報収集と分析に慣れてるゲオルグくんに来てもらって、
 サポートしてもらいたいな~と思ってんけどね」

はやてはそう言ってゲオルグの顔を上目づかいに見上げる。

「わからなくもないけどな。
 でも、その程度のことならフェイトがいれば十分じゃないのか?」

ゲオルグの答えに、はやては不満げに顔をしかめる。

「そやから言うてるやんか。 フェイトちゃんだけでは荷が重すぎるやろうし
 部隊運営にはある程度の余剰人員もいるやろ。実戦部隊やねんから」

「なら、別に俺でなくてもいいだろ。情報収集にしろ分析にしろ
 俺よりも上のヤツはいくらでもいるし、ユーノに協力を仰ぐ方法だってある。
 にもかかわらず、戦力制限をさらに厳しくさせてしまう俺を選んだんだ?」

「それは・・・ゲオルグくんが長い付き合いの友達で信用できるからや」

語気を強めたゲオルグの問いに対してはやてが一瞬言い淀みつつも答えを返すと、
ゲオルグは鼻を鳴らしてはやての顔をじっと見た。

「まあ、なのはやフェイトなら信じるだろうな。その話」

ゲオルグはそう言ってニヤッと笑う。
対してはやては、ゲオルグの言葉に対して一瞬驚いたように目を見開いたが、
やがてゲオルグと同じようにニヤリと笑ってみせた。

「かなわへんなぁ・・・ゲオルグくんには」

はやてはそう言ってバツ悪げに頬を掻く。

「お察しのとおり、ゲオルグくんを選んだ最大の理由はその人脈や。
 特に情報部、ヨシオカ1佐のな。
 カリムの予言の件については管理局内部、しかもその中枢にまで
 調査の矛先を向けなあかんかもしれんやろ。
 査察部には私もコネが効くからええねんけど、そういう表通りだけやなくて
 裏道からもアプローチできる手段は用意しときたかった。
 これがゲオルグくんを選んだ最大の理由やね」

「なるほどね」

一息に言い終えたはやてに向かって、ゲオルグは納得顔で頷く。

「とはいえ、もちろんゲオルグくんの指揮官としての能力には期待してるし、
 友達として人となりを知ってるから信用してるってのもホンマやで」

「わかってるよ。 そこは疑ってないから」

少し慌てた様子でゲオルグにつめよりながら付け足すはやてに対し、
ゲオルグは苦笑し、手を振って応じる。

「まあ、そういうことなら納得かな。
 ただ、1佐が俺に全てを話してくれる訳じゃないと思うぞ?
 それでもいいのか?」

そして再び真剣な表情へと戻ったゲオルグがはやてを見据えて尋ねると
はやては肩をすくめて苦笑した。

「そんなんわかってるっちゅうねん。
 それでも私が訊くよりは多くのことを教えてくれるやろ。
 それにゲオルグくんが居てくれたら、いざっちゅうときには情報部との
 共同作戦も期待できるし」

はやての言葉をじっと聞いていたゲオルグは、しばらく目を閉じて考え込んだあと
大きく頷いてから目を開いてはやてに目を向けた。

「よし。 じゃあ俺もはやての部隊に参加することにするよ」

そう言ってにっこり笑うゲオルグの顔を、はやては両の目をぱちくりさせつつ
見上げた。

「ええのん?」

心配そうに尋ねるはやての顔をゲオルグは苦笑しながら見下ろした。

「いいんだよ。 それより、悪かったな」

ゲオルグが口にした謝罪の言葉の意味をつかみかね、はやては首を傾げる。

「悪かったって、なにが?」

「いや。せっかく誘ってくれたのに、疑うようなことばかり言ったろ?」

「ああ、そのことかいな」

ゲオルグがすまなそうに肩をすくめると、はやてはすんと小さく鼻を鳴らして
二度三度と首を横に振った。

「ええんよ、別に。 ただ、もうちょっと私のことを信用してくれても、
 とは思ったけどな」

はやてはおどけたようにゲオルグの肩に拳をぶつける。
対して、ゲオルグははやての頭に手をおくと、おかえしとばかりに
彼女の髪をかきまわした。

「ちょっ、やめてえな」

はやてはゲオルグの手を払うと、少し乱れた髪を手で整える。

「ま、おかえしだな」

「やりすぎやっちゅうねん」

ひとしきりじゃれ合った2人は、遠巻きにそのやり取りを見ていた運転手に
謝罪の意もこめた会釈をしながら待っていた車に乗り込んだ。





それから来た時とまったく逆の道のりを経て、2人はゲオルグの住まう
官舎の前に到着した。
既に日は落ち、辺りは暗闇に包まれている時刻である。

車が停車し、運転手の手によってドアが開かれると、
ゲオルグは隣に座るはやてを目をやった。
彼の視線に気が付き、はやては怪訝な表情を浮かべる。

「なに?」

「あ、いや」

はやての短い問いかけに対して、ゲオルグは一瞬言葉に詰まる。

「ありがとな、誘ってくれて。 一緒に働けるのを楽しみにしてるよ」

「え? あ、うん。 こっちこそ」

あっけにとられたように口を半開きにして、ぽかんとしているはやてをよそに
ゲオルグは彼女に向かって手を振ると、車を降りて官舎の中へと入っていった。
その後姿をぼんやりと見送ったはやては、ゲオルグの姿が建物の中へ消えてからも
しばらくそのぼんやりとした視線を官舎の玄関に向けていた。

「・・・騎士はやて?」

そんな彼女をいぶかしんだ運転手が車の外から彼女の顔を覗き込むようにして
尋ねると、彼女はフッと我に返った。

「んっ!? あ、うん。 なに?」

「いえ、これからいかがいたしましょうか?」

控え目に尋ねる運転手に向かって、はやては首を傾げる。

「いかがって・・・何が?」

「いえ、ですから、どちらまでお送りすればよろしいでしょうか?」

そう言われて、自分がなにを問われているのかはやては把握できた。
バツが悪かったのか、彼女は少し目線を落とした。

「自宅に帰るわ」

「承知しました」

はやてが一瞬考えたのちに答えると、運転手は鷹揚に頷いて
静かにドアを閉めると運転席に戻った。

そして、車は滑るように走りだす。

窓越しに流れていく景色に目をやりながら、はやては先ほどまで隣に座っていた
友人のことを思う。

「それにしても、もうちょっと自分自身のことを信用してもええのになぁ・・・」

小さくそう言うと、自らその考えを否定するようにかぶりを振って天井を見上げた。

「いや、信用されてへんのは私のほうかな・・・」

そして彼女は自嘲めいた笑みを浮かべると、再び小さく首を横に振った。

「なんて、私もゲオルグくんのこと言えへんなぁ・・・」





それから1週間ほどたった、ある日の午後のことである。
昼食を終えたゲオルグがエレベーターから降りると、その姿を見つけた班員の一人が
息を切らせて駆け寄ってきた。

「班長、探しましたよ!」

「ん? なんの用だ?」

思い当たる節のないゲオルグは、怪訝な表情を浮かべてその班員に尋ねる。

「1佐が班長をお呼びです。 応接会議室にと」

「応接会議室? なんでそんなとこに・・・」

普段あまり使われることのない、外部からの来客との打ち合わせ用の会議室に
来るようにとの伝言に対して、ゲオルグは眉間にしわを寄せる。
が、すぐに気を取り直し伝言を伝えに来た班員に笑いかけた。

「判った。 伝言助かったよ」

その班員と別れてヨシオカが待っているという会議室に向かったゲオルグは
その扉をノックしてから、扉を押し開いた。
中には革張りのソファがひと組置かれており、床には絨毯がしかれていた。
ソファにはヨシオカ1佐ともう一人、ゲオルグにとって見知った女性が座っていた。

「シスター・シャッハ、でしたよね?」

何度かまばたきしたゲオルグが語尾をあげて尋ねると、
シャッハはゲオルグに向かって頷いた。

「ええ。 覚えていて下さったんですね」

「シュミット3佐。 座れ」

ヨシオカの言葉に対して頷くと、ゲオルグはその隣に腰を下ろした。
と、同時にヨシオカが話を始める。

「こちらが今回の作戦で現場指揮をとるシュミット3佐です。
 まあ、既に顔見知りのようですが」

「ええ。先日お会いする機会がありまして」

「そうですか。 それは話が早くて助かります」

穏やかに談笑するヨシオカとシャッハ。
ゲオルグはその2人の間に割って入ることにした。

「ところで、作戦というのはなんですか? 自分は初耳ですが」

ゲオルグの実務的な台詞を受け、ヨシオカは表情を引き締め直すと
ゲオルグの方に少し身体を向けた。

「以前から調査を進めていた第24管理世界の過激派ゲリラのことは知ってるな?」

「ええ、まあ、もちろん」

その集団は管理局の派遣部隊に対するゲリラ活動で知られており、
ゲオルグ自身もその根拠地のいくつかに対する潜入調査に参加していた。

「収集した情報を分析した結果、ベルカ諸王時代の遺跡のひとつに
 潜伏していることが判明した。
 これを受けて、上層部は掃討作戦の実行を決定し、我々がその任務に
 当たることになったわけだ」

「なるほど」

ゲオルグはヨシオカの説明に頷いたあと、引っかかることがあったのか
首を傾げてシャッハの方に目を向けた。

「それは理解したのですが、なぜシスター・シャッハがここにおられるので?」

「ヨシオカ1佐。それは私からお話したほうがよいのでは?」

シャッハは話を続けようとしたヨシオカに声をかける。
ヨシオカが頷いてから、彼女はゲオルグの方に向き直ると話を始めた。

「ご存知のように、聖王教会ではベルカ諸王時代の遺物の保存活動を
 行っております。
 ヨシオカ1佐からは、今回対象となる遺跡の資料提供のご依頼を受けたのですが、
 遺跡保護の観点から聖王教会からも1名、作戦に同行させていただきたいと
 お願いに伺った次第なのです」

シャッハが話を終えると、ゲオルグは納得顔で頷いた。

「判りました。 それで、同行されるのはシスター・シャッハなのですか?」

「ええ。 騎士カリムからそのように仰せつかっております」

「そうですか・・・」

そう言ったゲオルグの表情が僅かに曇ったのをシャッハは見ていた。

「何か御不審な点でもありますか?」

彼女の言葉にゲオルグが慌ててかぶりを振った。

「いえいえ。 ただ、戦闘任務ですので、その・・・」

言いづらそうに口ごもるゲオルグの様子を見て、
シャッハは口元に手を当ててクスリと笑った。

「ご心配なく。 戦闘の心得はありますので、自分の身を守るくらいはできます」

「そうですか。 それは失礼しました」

ゲオルグは恥ずかしげに頭をかきながら苦笑して言う。
そして気を取り直すように咳払いをすると、真剣な表情を浮かべて
シャッハの方に顔を向けた。

「では、作戦の打ち合わせを始めましょうか」





それから3人は作戦の打ち合わせを始めた。
ゲオルグたちが持っている遺跡の情報と聖王教会の記録をすり合わせながら、
突入ルートや予想される敵の反撃などについて確認しつつ、
作戦の進め方を2時間ほどかけて決めていった。
打ち合わせが終わると、ゲオルグはシャッハを見送るために玄関へと降りていった。

「シュミット3佐・・・」

「ゲオルグで結構ですよ」

エレベーターの中でシャッハはゲオルグに話しかけた。
ゲオルグの応対に対してシャッハは口元を緩める。

「では、ゲオルグさん。 はやてのつくる部隊に参加されるのですね」

「ええ。 はやてから聞かれたので?」

「はい。 喜んでいましたよ、はやて」

「そうですか」

シャッハの言葉にゲオルグは短く答える。
その淡々とした口調に、シャッハはわずかに表情を曇らせる。

「ゲオルグさんはあまり嬉しそうではありませんけど、
 6課に参加されるのは乗り気ではないのですか?」

やや直截に過ぎるようにも思えるシャッハの問いかけを受け、
ゲオルグはその表情を緩める。

「いえ、そんなことはありませんよ。
 彼女たち同士ほどではありませんけど、はやてたちとはそれなりに
 長い付き合いですし、プライベートでも会う仲ですからね。
 同じ職場で働けるのは楽しみです。
 ただ、不安な面もあるので喜んでばかりもいられない、というのが本音ですね」

「不安、ですか?」

「ええ。 私自身が役割を果たしきれるか、部隊のメンバーにうまくなじめるか、
 はやてたちともただの友人として振舞うわけにもいかなくなるでしょうし、
 心配ごとはいろいろとありますよ」

ゲオルグの言葉に、シャッハは頷く。
そして2人は玄関の自動扉を潜ってビルの外に出た。
ゲオルグは車寄せを見まわすが、シャッハの迎えの車は
まだ到着していないようだった。

「車はまだのようですね」

「ええ。 だいたいの時間しか伝えていませんでしたので」

並んで立つ2人の間に、しばし無言の時間が流れる。

「ゲオルグさん」

おもむろにシャッハが声をかけて沈黙を破ると、
ゲオルグはシャッハの方に顔を向けた。

「なんですか?」

「私はあなたのことをよく存じ上げていませんので偉そうなことは
 言えないのですが、少なくともはやてはあなたのことを信頼していますよ。
 以前からそのようなことを言っていましたから」

シャッハの言葉に、ゲオルグは僅かに目を見開いて彼女の顔を見た。
ゲオルグの表情を見たシャッハは口元をゆるめて小さく頷く。

「それに騎士カリムも言っていましたよ。
 ”あの方なら、安心してはやてのことをお任せできそうね”と」

「そうなんですか?」

今度ははっきりと表情と声色にその驚きを表しつつ、ゲオルグが尋ねる。
それに対して、シャッハは大きく頷いた。

「ええ。 今回、私が同行するのも騎士カリムからの言いつけですから。
 ”ゲオルグさんが参加されるのなら、大丈夫よ”と言っておられましたよ」

その言葉に続けてシャッハは、”ずいぶん信頼されてますね”とにこやかに言う。
ゲオルグは、”はあ・・・”と照れ臭そうに頬をかいて応じた。

ちょうどそのとき、シャッハの迎えの車が到着する。
ゲオルグと別れの挨拶を交わしたシャッハが後部座席に乗り込む。
ゲオルグが一歩下がって車を見送ろうと待っていると、後部座席の窓が開いた。

「ゲオルグさん。 よろしければ、今度お手合わせをお願いしますね」

そう言って笑いかけるシャッハに向かってゲオルグは一瞬驚いた表情を見せた後で、
大きく頷いた。
その姿を見ていたシャッハは笑みを深くして軽く会釈する。
そして窓が閉まり、すぐに車は走り出した。

車を見送ったゲオルグは身をひるがえして、建物の中へと戻る。
情報部のフロアへ上がると、自分の席がある大部屋へは戻らずに
ヨシオカの部屋の扉をノックした。

部屋に入ったゲオルグをうすら笑いを浮かべたヨシオカが迎える。

「シスターどのはお帰りか?」

「はい」

ヨシオカの言葉に頷いたゲオルグは、ヨシオカのデスクの前に
背をピンと伸ばして立つ。

「ところで今度の作戦なのですが」

ゲオルグは低く抑えられた声でヨシオカに話しかけながら、
デスクの前に置かれた椅子に腰を下ろしてヨシオカと向き合う。

「なぜ我々が担当することになったのですか?」

「なぜ、とはどういう意味だ?」

「我々は公然化しづらい準軍事作戦を専門とする部隊です。
 ですが、今回の作戦は他の部隊でも対応可能な作戦であると考えます。
 にもかかわらず我々が本作戦に従事するということは、何か特別な理由でも?」

難しい顔で腕組みをするヨシオカに問われ、ゲオルグは自らの考えを述べた。
すると、ヨシオカは目を閉じて大きく息を吐いてから、再びゲオルグの顔を見た。

「理由は二つある。
 1つは聖王教会のカリム・グラシア女史からのご指名。
 もう1つは・・・」

ヨシオカはそこで一旦言葉を切った。
そしてゲオルグの方に1枚の紙をおしやった。

「これだ」

「拝見します」

ヨシオカが差し出した紙を手に取り、ゲオルグはそこに書かれた文字を見た。
直後、ゲオルグの表情がサッと変化する。

「なるほど・・・こういうことですか」

そう言ってゲオルグは不敵な笑みをヨシオカに向ける。
対してヨシオカもにやりと笑う。
2人はしばし顔を見合わせていたが、ゲオルグが立ち上がりドアの方に歩き出した。
その背に向かってヨシオカが声をかける。

「頼むぞ」

「了解です」

背を向けたまま頷いて、ゲオルグは部屋を出た。


 
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