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竜のもうひとつの瞳
第六十六話
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ら見りゃあ俺はまだまだガキなんだろうが、これは決して底の浅い気持ちじゃねぇ。
十年以上、ずっと温めてきた俺の気持ちだ。主だとかそういうのを全部抜きにして、一人の男として少しでも考えちゃくれねぇか」

 真っ直ぐに言われたその告白に、誰も茶化す人間はいなかった。
こんなことやったら冷やかしの声の一つも上げる伊達軍の面子が誰一人として何も言わなかったのは、
政宗様がそれだけ真剣だったのが伝わったからだろう。

 いつもの傲慢で不敵な政宗様でなくて、不安に揺れる左目に何処か縋るような口調。
奥州筆頭だの独眼竜だのと呼ばれた人間とは思えず……いや、これが素の政宗様なのかしら。
この人はいつもポーズで人と接するから、本当のところってのがどうにも見え難いのよね。
一番信頼している小十郎でさえも奥州筆頭としてのキャラクターで接してるからさ。

 ……卑怯だよ、政宗様。そんなギャップで攻められたら揺らがないわけがないじゃん。
でも、ここで陥落するほど私も甘くは無い。それだけやられたことは大きいのだからチャラには出来ない。

 「……今はまだ、失点の方が大きいです。貴方に恋することは出来ません。けれど」

 一呼吸置いて、しっかりと政宗様の目を見た。

 「本気で落とそうって言うのなら、私がうっかり恋焦がれるほどのいい男になって下さい。
……私は好きでもない男に脚開くほど、安い女じゃないですよ」

 こんなことを言う私に政宗様はにやりと笑う。いつもの不敵な笑みに、何となく安心するのは何故だろう。
いや、政宗様はこっちの方が似合ってる、そう思っているんだと思う。

 「上等……俺のことしか考えられなくなるほど、いい男になってやる」

 「でも悠長に構えてる時間はありませんよ?
幸村君が攫いに来るって言ってますし、私だって三十ですからいいおばさんですしね」

 「……攫う? あの野郎、そんなこと言ったのか?」

 おおっと、それは流石に言わなかったのか幸村君。こりゃ完全に蛇足でした。
いや、ヤバいな……また手篭めにされちゃうか? でも流石にそれは御免だから、先手を打たせてもらうか。

 「皆、政宗様の言葉聞いた!?」

 そう叫べば、皆一様に笑って返事をしてくれる。
これを聞いた政宗様は何処か頭が痛いという顔をしていたが、仕方が無いとばかりに溜息を吐いていた。

 「私にいい人が出てくる前に、いい男になって下さいよ?」

 「分かってるさ」

 軽く触れるだけの口付けをした政宗様の横っ面を叩いてやろうかとも思ったけど、
唇を離した瞬間に見せた小さな笑みに一瞬見惚れてしまって、完璧にその機会を逃してしまった。
政宗様には似つかわしくないほどの優しい笑みを浮かべるもんだから、私だって戸惑ったり
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