暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第三章 贖罪のツヴァイヘンダー
第44話 ダタッツ剣風
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
とになる。

「む……やはり、決め手はその技か」

 ヴィクトリアは勇者の剣を構え――再び螺剣風の体勢に入るダタッツを睨み付ける。すでに一度破った技であるが、彼女の眼に慢心はない。
 彼の眼差しから感じ取っていたからだ。今度の一発は、本気で当てに来ると。

「いかんッ! ダタッツ、その剣で螺剣風を使うなッ!」
「バルスレイ様!?」

 刹那、ダタッツの構えを目の当たりにしたバルスレイは顔を青くして叫び出す。何事かと視線を移すダイアン姫を尻目に、老将はまくし立てるようにその行動の意味を彼に伝える。

「螺剣風は己の腕を回転させ、貫通力を高める投剣術最強の奥義! だが、それは回転による腕の負担が大きく、使用者を確実に苦しめる諸刃の剣なのだぞ! しかも……その威力と負荷は、放つ剣の重量に比例するのだ!」
「なんだって!?」
「それは……本当なのですか……!?」

 その発言に、ダイアン姫とロークは驚愕して彼を問い詰める。バルスレイは、あるがままの真実で応えた。

「……事実です。比較的質量の軽い勇者の剣や予備団員の剣ですら、腕に相当な負担をかけていたというのに……」
「じゃ、じゃああの両手剣で同じ技を放とうものなら――」
「――腕が吹き飛んでも、不思議ではない」

 バルスレイが言い放った冷酷な結末に、ロークは同時に血の気を失い――切迫した面持ちでダタッツに制止するよう呼びかける。
 だが、その叫びは途中で遮られてしまった。王国が誇る姫騎士、ダイアン姫の眼で。

「なんでだよ姫様、このままじゃダタッツが!」
「――大丈夫、です。きっと大丈夫。ダタッツ様が、守ると……仰ったのですもの」
「姫様……」

 その時の彼女は、彼の身を案じながらも――ひたむきに、愛する男の勝利を信じる乙女の姿そのものであった。
 必ず勝ってくれる。彼女をそう信じさせる力が、ダタッツの瞳に宿っているのだ。
 今まで、幾度となく回復魔法を捧げることを躊躇ってきた彼女だが――もはや、その碧い瞳に迷いはない。すでに彼女の体からは、新緑の光が滲み出ている。
 この時代に残された、癒しの力が。

「聞いての通りだ、ヴィクトリア。君の言う通り――次の一撃が最後になる」
「恐れを知らぬ――否、知った上で敢えて突き進む、その気勢。確かに見せてもらった。ならば私も……この激情を剣に乗せ、あなたに捧ぐ」

 姫騎士の熱い視線を背に、螺剣風の構えを見せるダタッツ。その姿を見据え――ヴィクトリアは勇者の剣に走る亀裂を気にする気配もなく、再び弐之断不要の体勢に入った。
 この一閃さえ放てれば、後のことなどどうでもいい。そう言わんばかりの、捨て身の姿勢に。

「そして死ね――帝国勇者ァァアッ!」

 それが、彼女が迷いの末に出した結論。
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ