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至誠一貫
第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十七 〜紫苑の覚悟〜
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一礼した。
「だが、調練の話はまた別だ。今はまだ、立場を弁えよ」
「わかりました。……では歳三様、すぐに荊州に立ち帰りますので」
「急な出立だな」
「ご心配なく、既に準備は整えさせていますから。では」
 颯爽と去って行く紫苑を、彩は呆れたように見送っている。
「何とも、思いきりの良い御仁ですね」
「そうだな。……だが、腕も人物も確かだ。我らへの加入、大きい事ではあるな」
「……は」
 彩は、しっかりと頷き返した。

 三日後の夜。
 私の部屋に、稟、愛里(徐庶)、それに疾風(徐晃)と彩を集めた。
「歳三さん。南海郡の戸籍と、税収をざっと纏めました。ご確認下さい」
「わかった」
 まずは現状把握から、これには皆、異論がなかった。
 そこで士燮らの協力を得て、まずは南海郡の調査を進めさせた。
 愛里と稟が中心になり、僅か三日でそれは完成を見た。
 ざっと、とは申したが、かなり詳細な報告書と言って良い出来だ。
「見事だな。二人ともご苦労だった」
「いえ」
「…………」
 む、稟の返事がないな。
「稟。如何致した?」
「……はっ。あ、い、いえ、何でもありません」
 心なしか、顔色が優れぬようだが。
「ならば良いが……。無理をさせたようだな」
「大丈夫です。それよりも、お改めを」
「わかった。……ふむ。人口は百万余か、存外多いな」
「ええ。とは言え、冀州はその五倍以上の人々がいた訳ですけどね」
 今度は、愛里が答える。
「それで、この中には中原から移住してきた者も含まれるのだな?」
「……それが、正式な移住者はほんのごく一部だけみたいです。黄巾党とか、中央の騒乱から逃れてきたような人はそれどころじゃなかったって」
「そうか。だが、戸籍は国家の礎。今一度、調べ直さねばなるまいな」
「そうですね。ただ、現状のままでは手が足りませんが」
 魏郡で共に働いた文官の多くは、そのまま留まっている。
 彼らは私の直属という訳ではなく、また朝廷に対しそのような許しも得ていない以上、我らだけの意で連れて行ける存在ではなかった。
 如何に愛里らが優秀とは申せ、それを補う人員は募らねばならぬ。
 郡の文官を割り当てれば、ある程度は解消するやも知れぬが……そうなれば、今度は士燮らの郡統治に支障を来すことになる。
「当面は、皆で分担するより他にあるまい。中原から流れてきている者の中には、文官としての心得がある者もいよう。至急、手配を」
「はい、既に募集の準備にかかって貰っています」
「うむ。そして、此方は収支だな」
「……ええ。魏郡で私がお仕えした当初は、あまりの赤字ぶりに眩暈がしたものでしたが」
 苦笑する愛里。
「ただでさえ黄巾党の一件で領内が荒れ果てていた上、郭図らの横領も酷いものであった。それと比較
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