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至誠一貫
第一部
第六章 〜交州牧篇〜
七十七 〜紫苑の覚悟〜
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 或いは、劉表と我らが、朝廷に無断で軍事協定、または同盟を結んだ可能性がある、と。
 我らもそうだが、そうなれば劉表にも累が及び、要らぬ波風を立てる事になる。
 仮にそうならずとも、紫苑自身が何らかの処罰を受ける事にも繋がりかねない。
「紫苑。気持ちは有り難いが」
「うふふ、私の事を気遣って下さっているのでしょう? それでしたら、ご心配なく」
 何故か、にこやかな紫苑。
 聡明な紫苑の事だ、私の懸念に気付かぬ筈がないのだが。
「歳三様。お願いがあります」
「……申せ」
「はい」
 と、紫苑はその場に跪いて、
「私を、正式に貴方様の下に置かせていただきたいのです」
「紫苑殿! いきなり何を言われる?」
「彩、待て」
「し、しかし……」
「まずは話を聞く事が先だ。紫苑、続けよ」
「ありがとうございます。……確かに劉表様は、荊州を戦乱から守り抜き、見事な治政をされておいでです」
「…………」
「ですが、この度の事、どうしても受け止める事が出来ないのです。火事場泥棒のような真似をされる御方が、本当に仁君なのかと」
「だが、交州は荊州に接している地だ。此所の安定は、荊州の平穏に取っても無縁ではあるまい?」
「ええ。ですが、それならば士燮さん達と連携すれば済む話です。例えそうだったとしても、軍を催し他州に向かわせるなど、やはりおかしいと思います」
 毅然と、紫苑は言い放った。
「人は誰しも私利私欲があるのは仕方ありませんわ。ですが、それをこのような形で発揮するような方を、私は主と仰ぎたくありません」
「私はそうではない。そう見るのだな?」
「勿論です。そうでなければ、これだけの人材が集う訳がありませんもの。ねえ、彩ちゃん?」
「あ、彩ちゃん……。ま、まぁ、確かに殿はそう言った意味で我欲のない方ですが……」
 劉表を見限っての事か。
 ……恐らくは、昨日今日の思いつきではあるまいな。
「ならば紫苑。何故私を選んだ? お前が理想とするような人物なら他にもいよう」
「ええ、そうかも知れませんわね。……強いて言うならば」
 と、紫苑は私を見上げ、微笑む。
「女の勘、って奴ですわ」
「勘?」
「そうですわ。私も、自分の眼と勘を信じたい……それだけの事ですわ」
 どうやら、決意は固いようだ。
 私としては異存はないが、このまま紫苑を受け入れる訳にはいかぬ。
「紫苑。お前の気持ちは良くわかった。……だが」
「わかっています。劉表様には、自分の口からお話するつもりです」
「……ならば、私から申す事はない。けじめをつけた後、改めて参るが良い」
「では、お許し下さいますか?」
「許すも許さぬもあるまい。……お前ほどの武人、歓迎出来ぬ程私は愚かではないつもりだ」
「ありがとうございます、歳三様」
 紫苑は、
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