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魔法少女まどか☆マギカ ~If it were not for QB~

作者:46熊
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碌話 甘言

 「……私、ずっと前から上条恭介くんの事をお慕いしてましたのよ」

 まどかが世界の現実を突き付けられた日の放課後、さやかは仁美に呼び出されて近所の喫茶店に来ていた。上品な風格の店で、さやかは全身がこそばゆかった。何と自分に場違いな事か、入店時は笑ってしまったものだったが。

 あまりに唐突で、ハンマーで頭を殴られるような衝撃。唐突過ぎて、口から出て来たのは笑い声。

 「……そ、そーなんだぁ! あはは、恭介のヤツも隅に置けないn」
 「さやかさん、上条くんとは幼馴染でしたわね?」
 「ん~、まぁ腐れ縁って言うか、何と言うか……」

 「本当にそれだけ?」

 こんな表情をする仁美をさやかは知らない。おっとりとした普段の柔和な表情とも違うし怒った様子も無く、何だか妙な違和感を感じる。

 「私、もう自分に嘘はつかないって決めたんですの……貴方はどうですか?」
 「どうって……仁美、あんた、変だよ……」
 「本当の気持ちと向き合えますか?」

 核心を突いた一言。さやかは黙り込む。黙り込んで……両目から涙が流れる。

 「好き、なんでしょう?」
 「……………」
 「ずっと前から知っていました……貴方は大切なお友達ですもの、抜け駆けも横取りも出来はしない」

 一日だけ待ちます、私は明日の放課後に上条くんに告白します……

 それまでに、後悔なさらないよう決めて下さい……と、仁美はそれだけ言って席を立つ。二人が頼んだ分の代金を律儀に置いて。それは今にも泣き崩れるさやかへの配慮であった。

 「ううっ……ひ、ひとみっ……っ」

 恭介を選べば仁美を失う。いや、選んだ所で恭介が自分を選んでくれるとは限らないのだけれど。好きだったかどうかは分からない。いや、どう強がっても自分は彼を愛していた。彼がヴァイオリンを弾けなくなって、特に楽器に興味があるわけでもないのに彼の不幸を少なくとも彼の次には悲しんでいた。別に好きでも無いクラシック曲を彼が楽しそうに聞くのを見ると楽しくて、そんな彼が好きだった。

 自分はどうすればいいのだろう……答えは出さなければならない。此処で引いたら負けだ、仁美には運動では勝てる。勉強では負ける。それで一勝一敗。

 それでも、あいつの事を傍で支えてやれるのは自分しかいない、そう信じている。


 「お、さやかか」
 「兄さん……」

 一人とぼとぼと歩いていると、向かい側に見知った男が立っていた。

 さやかが『兄さん』と呼ぶ相手はさやかが普段よく利用する音楽ショップ(割と中規模の店だが吹奏楽やオーケストラの楽器や小物、楽譜も色々置いてありCDの種類も豊富なのだ)に大体半年前くらいにバイトで入った大学生の青年で、事あるごとにお勧めのCDを教えたりしてくれる相手だ。クラシックはさやかには分からないので、良き相談相手となっている。

 「ん~、その恭介って奴が好きそうなCDは来週入る予定なんだけど、さやかが欲しいなら取っとくよ」
 「助かりますっ。てか兄さんいつもあの店でバイトして、学校はどうしてんの?」
 「別に、この時間は授業入れてないだけだよ。と言うかさやか……何か悩みでもあるのか?」

 この人は鋭い。しっかりハンカチで拭った瞳の奥を見抜いてくる。この人に隠し事は出来ないな。

 「……悩み事あるなら聞くけど」
 「……うち、今日は誰もいないんだ。多分兄さん一人くらい上げても大丈夫だよ。ただ……ちょっと今汗かいてるから、シャワーくらい浴びさせて欲しいんだけど」
 「……分かった。何か持って行くから、どっかで待ち合わせるか」

 ジュースとお菓子でも持って行くよと約束し、彼はさやかと別れた。こんな悩み、クラスの誰にも言えなかったが外部の人間であるあの人になら話せる気がしたのだ。


 「此処が……結構いいとこ住んでんだな。俺の貧乏アパートとは大違いだ」
 「ま、女の子の部屋らしく結構かたづいてるんだから。ささ、上がって上がって」

 彼を上げると、さやかは適当にあったお菓子を取って来た。彼もテーブルの前に座り500mlのペットボトルを二本取り出し片方をさやかに差し出した。

 「さやかの両親って、音楽関係の仕事してんだよな?」
 「ああ、うん。お母さんは出張だし、お手伝いさんは夕飯の仕込みしたら昼で帰っちゃうし。あ、その関係でうちに金目の物なんて無いから、泥棒とか無駄だよ?」
 「するか。幾らお前が金持ちでも、そこまで金に困ってないっての」

 二人はあははと笑い、さやかはペットボトルのふたを開ける。意識しないで開けたのだが、その蓋は緩かった。まるで一度空いていたかのように。

 「ゴクゴクゴク……ん、やっぱり暑い日は冷たいもんだよね~」
 「……それで、悩みって?」
 「あ、うん……実はね、友達が恭介の事好きだって。だけど私に抜け駆けしたくないからって一日待つって言われたんだ」
 「それで、どっちも選べずにってわけか……さやからしくない」
 「そう、かな……」

 自分らしさなど考えた事も無かった。中学生なら当然かもしれないが、特にそんな事を意識する事に意味はなかったし、友達とそう言う話をした事も無かった。

 「ちなみに、恭介はお前とその友達、どっちの方が好きなんだろうな」
 「う~ん……あいつが入院してから、仁美もちょくちょくお見舞いくらい行ってるはずだから、会う回数って点ではそんなに変わらないと思うんだけど」
 「分からない、って事か……ま、さやかの事は嫌いじゃないんだろ?」
 「そうだって信じたいけどさ……」
 「ん、どうした?」

 なんだろう、視界がぼやける。頭が重い、どろりとした蜜が頭の中を埋め尽くすような感触にさやかは襲われる。

 「何か、ちょっと眠くなって……」
 「そっか……おやすみ、さやか」
 「えっ……」

 落ちて行く。それはもうどうにもならない事だった。


 「え……嘘……何で、何でよぉ!!!!!!??」

 さやかは上半身を椅子に固定され、あられもない姿のまま下半身を縛られていた。

 「にっ、兄さんっ……何で、どうしてこんな事するの!?」
 「知らなかったか? ……ずっとこうするつもりだったよ。こうする為にずっと準備して来た。お前言っただろ、今日は誰もいないって。だからお前に持って来たジュースに色々薬を混ぜておいた」

 全く気が付かなかった。何気なく開けたペットボトルの蓋が軽かったのは既に一度開いていたからだったのだ。

 彼の冷たい手がさやかの温かい頬に触れる。その温度差にさやかは身震いした。こんな彼をさやかは知らない。

 「大丈夫、力抜いて……ま、力なんて入らないだろうけど。さっき飲んだジュースに睡眠薬と弛緩剤、感覚を鋭敏にする薬を入れといたから」

 唇が重なる。それすらこれから始まる、死ぬよりも辛い惨劇の序章である事は明白であった。さやかは何も出来ずに涙を流す。それを彼は舌で掬う。

 「嫌ぁ……いやぁあぁああああああぁあああああっ!!!!!!!!!」


 「私……犯されちゃった……もう、やだ……」
 「さやかちゃん……」

 途切れ途切れに話してくれた内容から、まどかはさやかがどんな目に遭ったか容易に想像が出来た。夜の静寂が、特に寒くも無いのに二人の体温を奪う。

 「明日になったら仁美が恭介に告白しちゃう……仁美に恭介取られちゃうよ……」
 「さやかちゃん……」

 「わたし、何にも出来ない……こんな身体で抱きしめてなんて言えない、愛してなんて言えない、キスしてなんて言えないよぉ……っ!!!!!!」

 少女の悲痛な叫びは闇夜の一滴となってこぼれる。まどかは心に暗い影が落ちるのを必死で堪えた。それは魔法少女となったさやかが口にしていた言葉と全く同じ。

 魔法少女で無い、普通の人間であるさやかなら恭介に告白できるはずだったのに、それすらもこの世界は許さないと言うのか。

 「まどか……まどかぁあぁあああああああ!!!!!!!!!」

 まどかは何も出来なかった。一つ前の世界の、ほむらに庇護され何も出来ずにいた無力な自分と同じで。所詮自分は弱い人間なのだと、誰かを救う事など出来ないのだと言う事を痛感した。

 思えば、最初の世界。ほむらを助けられたのは自分が魔法少女だったから。彼女が最初の自分に恩を感じて魔法少女になり、途方も無い回数同じ時間を繰り返しただけの話だ。鹿目まどかと言う人間は所詮何も出来ない人間なのだ。


 「稼いだ金はきっちり貢がせないと。女ってバカだからさぁ……」
 「犬か何かだと思って躾けないと駄目っすよね~」
 「捨てる時がホントウザイんだよな~……」
 「ねぇ」

 さやかは家に帰らなかった。あても無く電車に乗り、乗り合わせた二人のスーツ姿の男の前に立つ。

 「その女の人の話、もっと聞かせてよ」
 「何コイツ、知り合い……?」
 「お嬢ちゃん、中学生でしょ? 夜更かしは良くな……」
 「その女の人、あんたの事が大事だったんでしょ? よろこばせたくて頑張ってたんでしょ? 犬と同じなの? ありがとうも言えないの? 役に立たなきゃ捨てちゃうの!?」
 「お嬢ちゃん、言ったでしょ、夜更かしは良くないってさぁ……っ!!!!」

 停車と共にドアが開き、さやかは突き飛ばされる。辺境の駅。糞尿の臭いが立ち込める治安の悪い場所。お似合いのシチュエーションだ、さやかは打ちつけた頭をさすりながら笑った。

 「ねえ、この世界って何なの? こんな酷い目に遭ってまで、石にかじりつきながら生きて行かなきゃいけないもんなの? ねえ、教えてよ……今すぐ教えなさいよ!!」
 「教えてやるさ……直接、お前の身体にな」

 上着をめくられスカートを引きちぎられる。だがそれでも良かった。今更一人が三人になった所で、穢された事実は変わらない。どうせなら完膚なきまで穢れてしまおうじゃないか。

 戦う力を持たない彼女は、一般人に刃を向ける事は出来なかった。それを幸福な事だと偽善者は言う。現実はこうだ。逃げる強靭な足を持たない兎はただ狩られるしかないように。


 翌朝、保護された彼女は目の色に光が無く、ただがくがくと震え誰の声も聞こえず何も見えていなかった。

 「……私、ずっと前から上条恭介くんの事をお慕いしてましたのよ」

 まどかが世界の現実を突き付けられた日の放課後、さやかは仁美に呼び出されて近所の喫茶店に来ていた。上品な風格の店で、さやかは全身がこそばゆかった。何と自分に場違いな事か、入店時は笑ってしまったものだったが。

 あまりに唐突で、ハンマーで頭を殴られるような衝撃。唐突過ぎて、口から出て来たのは笑い声。

 「……そ、そーなんだぁ! あはは、恭介のヤツも隅に置けないn」
 「さやかさん、上条くんとは幼馴染でしたわね?」
 「ん~、まぁ腐れ縁って言うか、何と言うか……」

 「本当にそれだけ?」

 こんな表情をする仁美をさやかは知らない。おっとりとした普段の柔和な表情とも違うし怒った様子も無く、何だか妙な違和感を感じる。

 「私、もう自分に嘘はつかないって決めたんですの……貴方はどうですか?」
 「どうって……仁美、あんた、変だよ……」
 「本当の気持ちと向き合えますか?」

 核心を突いた一言。さやかは黙り込む。黙り込んで……両目から涙が流れる。

 「好き、なんでしょう?」
 「……………」
 「ずっと前から知っていました……貴方は大切なお友達ですもの、抜け駆けも横取りも出来はしない」

 一日だけ待ちます、私は明日の放課後に上条くんに告白します……

 それまでに、後悔なさらないよう決めて下さい……と、仁美はそれだけ言って席を立つ。二人が頼んだ分の代金を律儀に置いて。それは今にも泣き崩れるさやかへの配慮であった。

 「ううっ……ひ、ひとみっ……っ」

 恭介を選べば仁美を失う。いや、選んだ所で恭介が自分を選んでくれるとは限らないのだけれど。好きだったかどうかは分からない。いや、どう強がっても自分は彼を愛していた。彼がヴァイオリンを弾けなくなって、特に楽器に興味があるわけでもないのに彼の不幸を少なくとも彼の次には悲しんでいた。別に好きでも無いクラシック曲を彼が楽しそうに聞くのを見ると楽しくて、そんな彼が好きだった。

 自分はどうすればいいのだろう……答えは出さなければならない。此処で引いたら負けだ、仁美には運動では勝てる。勉強では負ける。それで一勝一敗。

 それでも、あいつの事を傍で支えてやれるのは自分しかいない、そう信じている。


 「お、さやかか」
 「兄さん……」

 一人とぼとぼと歩いていると、向かい側に見知った男が立っていた。

 さやかが『兄さん』と呼ぶ相手はさやかが普段よく利用する音楽ショップ(割と中規模の店だが吹奏楽やオーケストラの楽器や小物、楽譜も色々置いてありCDの種類も豊富なのだ)に大体半年前くらいにバイトで入った大学生の青年で、事あるごとにお勧めのCDを教えたりしてくれる相手だ。クラシックはさやかには分からないので、良き相談相手となっている。

 「ん~、その恭介って奴が好きそうなCDは来週入る予定なんだけど、さやかが欲しいなら取っとくよ」
 「助かりますっ。てか兄さんいつもあの店でバイトして、学校はどうしてんの?」
 「別に、この時間は授業入れてないだけだよ。と言うかさやか……何か悩みでもあるのか?」

 この人は鋭い。しっかりハンカチで拭った瞳の奥を見抜いてくる。この人に隠し事は出来ないな。

 「……悩み事あるなら聞くけど」
 「……うち、今日は誰もいないんだ。多分兄さん一人くらい上げても大丈夫だよ。ただ……ちょっと今汗かいてるから、シャワーくらい浴びさせて欲しいんだけど」
 「……分かった。何か持って行くから、どっかで待ち合わせるか」

 ジュースとお菓子でも持って行くよと約束し、彼はさやかと別れた。こんな悩み、クラスの誰にも言えなかったが外部の人間であるあの人になら話せる気がしたのだ。


 「此処が……結構いいとこ住んでんだな。俺の貧乏アパートとは大違いだ」
 「ま、女の子の部屋らしく結構かたづいてるんだから。ささ、上がって上がって」

 彼を上げると、さやかは適当にあったお菓子を取って来た。彼もテーブルの前に座り500mlのペットボトルを二本取り出し片方をさやかに差し出した。

 「さやかの両親って、音楽関係の仕事してんだよな?」
 「ああ、うん。お母さんは出張だし、お手伝いさんは夕飯の仕込みしたら昼で帰っちゃうし。あ、その関係でうちに金目の物なんて無いから、泥棒とか無駄だよ?」
 「するか。幾らお前が金持ちでも、そこまで金に困ってないっての」

 二人はあははと笑い、さやかはペットボトルのふたを開ける。意識しないで開けたのだが、その蓋は緩かった。まるで一度空いていたかのように。

 「ゴクゴクゴク……ん、やっぱり暑い日は冷たいもんだよね~」
 「……それで、悩みって?」
 「あ、うん……実はね、友達が恭介の事好きだって。だけど私に抜け駆けしたくないからって一日待つって言われたんだ」
 「それで、どっちも選べずにってわけか……さやからしくない」
 「そう、かな……」

 自分らしさなど考えた事も無かった。中学生なら当然かもしれないが、特にそんな事を意識する事に意味はなかったし、友達とそう言う話をした事も無かった。

 「ちなみに、恭介はお前とその友達、どっちの方が好きなんだろうな」
 「う~ん……あいつが入院してから、仁美もちょくちょくお見舞いくらい行ってるはずだから、会う回数って点ではそんなに変わらないと思うんだけど」
 「分からない、って事か……ま、さやかの事は嫌いじゃないんだろ?」
 「そうだって信じたいけどさ……」
 「ん、どうした?」

 なんだろう、視界がぼやける。頭が重い、どろりとした蜜が頭の中を埋め尽くすような感触にさやかは襲われる。

 「何か、ちょっと眠くなって……」
 「そっか……おやすみ、さやか」
 「えっ……」

 落ちて行く。それはもうどうにもならない事だった。


 「え……嘘……何で、何でよぉ!!!!!!??」

 さやかは上半身を椅子に固定され、あられもない姿のまま下半身を縛られていた。

 「にっ、兄さんっ……何で、どうしてこんな事するの!?」
 「知らなかったか? ……ずっとこうするつもりだったよ。こうする為にずっと準備して来た。お前言っただろ、今日は誰もいないって。だからお前に持って来たジュースに色々薬を混ぜておいた」

 全く気が付かなかった。何気なく開けたペットボトルの蓋が軽かったのは既に一度開いていたからだったのだ。

 彼の冷たい手がさやかの温かい頬に触れる。その温度差にさやかは身震いした。こんな彼をさやかは知らない。

 「大丈夫、力抜いて……ま、力なんて入らないだろうけど。さっき飲んだジュースに睡眠薬と弛緩剤、感覚を鋭敏にする薬を入れといたから」

 唇が重なる。それすらこれから始まる、死ぬよりも辛い惨劇の序章である事は明白であった。さやかは何も出来ずに涙を流す。それを彼は舌で掬う。

 「嫌ぁ……いやぁあぁああああああぁあああああっ!!!!!!!!!」


 「私……犯されちゃった……もう、やだ……」
 「さやかちゃん……」

 途切れ途切れに話してくれた内容から、まどかはさやかがどんな目に遭ったか容易に想像が出来た。夜の静寂が、特に寒くも無いのに二人の体温を奪う。

 「明日になったら仁美が恭介に告白しちゃう……仁美に恭介取られちゃうよ……」
 「さやかちゃん……」

 「わたし、何にも出来ない……こんな身体で抱きしめてなんて言えない、愛してなんて言えない、キスしてなんて言えないよぉ……っ!!!!!!」

 少女の悲痛な叫びは闇夜の一滴となってこぼれる。まどかは心に暗い影が落ちるのを必死で堪えた。それは魔法少女となったさやかが口にしていた言葉と全く同じ。

 魔法少女で無い、普通の人間であるさやかなら恭介に告白できるはずだったのに、それすらもこの世界は許さないと言うのか。

 「まどか……まどかぁあぁあああああああ!!!!!!!!!」

 まどかは何も出来なかった。一つ前の世界の、ほむらに庇護され何も出来ずにいた無力な自分と同じで。所詮自分は弱い人間なのだと、誰かを救う事など出来ないのだと言う事を痛感した。

 思えば、最初の世界。ほむらを助けられたのは自分が魔法少女だったから。彼女が最初の自分に恩を感じて魔法少女になり、途方も無い回数同じ時間を繰り返しただけの話だ。鹿目まどかと言う人間は所詮何も出来ない人間なのだ。


 「稼いだ金はきっちり貢がせないと。女ってバカだからさぁ……」
 「犬か何かだと思って躾けないと駄目っすよね~」
 「捨てる時がホントウザイんだよな~……」
 「ねぇ」

 さやかは家に帰らなかった。あても無く電車に乗り、乗り合わせた二人のスーツ姿の男の前に立つ。

 「その女の人の話、もっと聞かせてよ」
 「何コイツ、知り合い……?」
 「お嬢ちゃん、中学生でしょ? 夜更かしは良くな……」
 「その女の人、あんたの事が大事だったんでしょ? よろこばせたくて頑張ってたんでしょ? 犬と同じなの? ありがとうも言えないの? 役に立たなきゃ捨てちゃうの!?」
 「お嬢ちゃん、言ったでしょ、夜更かしは良くないってさぁ……っ!!!!」

 停車と共にドアが開き、さやかは突き飛ばされる。辺境の駅。糞尿の臭いが立ち込める治安の悪い場所。お似合いのシチュエーションだ、さやかは打ちつけた頭をさすりながら笑った。

 「ねえ、この世界って何なの? こんな酷い目に遭ってまで、石にかじりつきながら生きて行かなきゃいけないもんなの? ねえ、教えてよ……今すぐ教えなさいよ!!」
 「教えてやるさ……直接、お前の身体にな」

 上着をめくられスカートを引きちぎられる。だがそれでも良かった。今更一人が三人になった所で、穢された事実は変わらない。どうせなら完膚なきまで穢れてしまおうじゃないか。

 戦う力を持たない彼女は、一般人に刃を向ける事は出来なかった。それを幸福な事だと偽善者は言う。現実はこうだ。逃げる強靭な足を持たない兎はただ狩られるしかないように。


 翌朝、保護された彼女は目の色に光が無く、ただがくがくと震え誰の声も聞こえず何も見えていなかった。


 (アタシッテ、ホントバカ……)

 その言葉は、誰の耳にも届かない…… 
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