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魔法少女まどか☆マギカ ~If it were not for QB~

作者:46熊
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最醜話 朽ちた聖女達の祈り

 『おい、何だよこれ……』

 唇がわなわなと震える。目の前に広がる炎、焼け落ちる聖堂。少し森に遊びに行っている間のほんのわずかな時間に、神権の象徴は倒壊した。

 『何だよ……何なんだよっ!!!!!!』

 佐倉杏子は走った。かつて自分の家同然であったその教会へ。しかし現世と地獄の境界を踏み越えようとした瞬間、彼女の小さな体は現世に引き戻される。

 『はっ、放せ!!!!! 私らが憎いんだろ、だからこんな事……親父が何したってんだよ!!!!!??』
 『違う、私たちじゃない……本部の司祭達の異端審問だ。お前の父に、本部の聖具を盗んだ疑惑がかけられていた、頑として否定するから、教会ごと焼き払って……』

 異端審問、宗教を笠に着た処刑だ。『清廉潔白な者は神の手により護られる』『そうでない者は神の加護を得られず炎に焼き払われる』、火あぶりだけでなく釜茹でや水没など多岐にわたるがその共通理念は一致している。

 杏子の父が教義に無い事も説法として解くようになり信者が次第に離れ、本部からも見放されていた事は知っていた。それでも慎ましく幸せに生きていたのに。

 『もしかしたら本部の奴らの言っている事すら嘘なのかもしれない……私達はあの人の素晴らしさを知っている、あの人はそんな事をする人では』
 『親父の教義から離れて行ったのは誰だよ!!!!! 何が素晴らしさだ、そんなもん露ほども思っちゃいないくせに!!!!!!』
 『違う……本部の連中に知れたら我々まで異端審問を受ける。我々も神父には話したんだ、本部の教義を守れと。だがあの人は聞き入れてはくれなかった』
 『……親父が、親父が悪いってのかよ!!!!! ううううっ、ぅうううぁああぁあああああああっ!!!!!!!!!』

 屋根が崩れ重力に魅かれ落ちる。幻想的な色彩感を醸していたステンドグラスは色が混ざり尚且つ焼け焦げ混沌としている。中で生き場を失っていた黒い煙が立ち上がる、中の様子は十分に想像がついた。


 鎮火後、白い鎧を着た神殿騎士が聖堂の中を懸命に(と言うほど真面目でも無かったようだが)探した結果、彼らの期待する物は何も発見されなかった。あの者達が事情を知っているかは定かでないが、結局は濡れ衣あるいは最初から杏子の家族を皆殺しにしたかったかと言う所か。

 彼らが見つけたのは三体の死体。全員が瓦礫に押しつぶされる事もなく、跪き腕を組んで十字架に祈りを捧げたまま焼きつくされていた。父は、母は、妹は、最後まで神への忠誠を守り抜き。神も家族を傷つけはしなかった。

 その姿はどんな苦痛にも自らの信条を曲げる事なく神の為に殉じた家族の姿であった。

 葬儀は村の辺境で慎ましく迅速に行われ、墓標すら立てる事は叶わなかった。杏子は三人の埋められた場所で泣き崩れる。

 『独りぼっちなんて、寂しいじゃねぇかよぉ……』


 ……………

 ………

 …


 キュゥべえはどこかでほくそ笑んでいるのだろうか。まどかは絶望の中で再び目を覚ます。誰もが絶望し死んで行く。希望すらないままに。

 何処へ行くでも無く、まどかは着替え下に降りて行く。一回には食事が並べられ、書置きがしていた。『タツヤを幼稚園に連れて行く 母より』と言う事だ。

 今日は学校の創立記念日で休みだから忘れていたが、今日は普通に平日なのだった。時計を見たらもうすぐ九時になる所だ。

 何処に行くでも無かったが、とりあえず朝食を済ませ家を出る。彼女の背中に暗い影が糸を引いていた。


 「あ……」

 図書館で勉強をしようと静かに歩いていたほむらは、横断歩道の手前に猫を見つけた。何かを食べているらしく口をもさもさしている。

 「ネコちゃん……」
 「にゃぁ……?」

 特に逃げるでは無く、猫はほむらに擦り寄ってくる。ほむらはしゃがんで喉を撫でてやると、猫は気持ちよさそうに寝転がり身体をくねくねさせた。

 「ふふっ……一人、ぼっちなの?」
 「にゃぁ……」
 「そっか……私と、同じなんだね」
 「にゃあ……」
 「あ、ちょっと待っt……」


 「ほむらちゃんっ!!!!!!!!!!!!!!」

 まどかは目の前の現実に顔をひきつらせた。白い猫を追って横断歩道へ飛び出したほむらの小さな体は横から突っ込んできた車に弾き飛ばされた。

 黒猫エイミーと対をなすかのような白い猫。まどかにはそれがキュゥべえに見えて戦慄した。だが、共に撥ねられたはずの猫は何処にも居なかった。

 しかも突っ込んできた車が急ブレーキをかけたせいで、後続のトラックが車に衝突し車も横転し後部が潰れていた。

 『家族でドライブに行った時、交通事故に巻き込まれてね……もう死ぬ、そう思った時にキュゥべえが現れたの』
 「ああぁあああ……」

 車の後部座席には巴マミが乗っていた。そうだ、彼女は交通事故で死にかけた時、生きつなぐ為にキュゥべえと契約したのだ。

 まどかが殺したも同然だ、自分が願わなければ、彼女は独りぼっちのままで人生を終える事も無かった。杏子も孤独に涙を流した。さやかも愛に裏切られ世界に絶望して心を壊した。ほむらは一度たりとも救われる事なくその短い生涯を終えた。

 皆、みんな壊れて行く。自分のせいで、希望もないままに。

 「ああぁあああ……ああぅぅぅあぁぁわぁああああああ……」

 口元が震える。まどかの頭の中には大勢の少女が夢破れて死んで行く姿が浮かんでは消えて行く。病院で出会ったお菓子の子は病の苦痛と両親の涙に蝕まれて心臓の鼓動を止めた。かつて国を統治していた女王は自らの力が無い為に国をまとめられず戦乱を招き多くの血が流れた末どこの誰とも分からない人間に刺殺された。

 「これが君の望んだ世界だよ、鹿目まどか。どうあっても君は、この世界を命がけで破壊してくれるんだね」

 絶望に泣き崩れているまどかの元にキュゥべえが現れた。どうして、お前は消滅したんじゃなかったのか。

 「さあ願うと良い、鹿目まどか。だけど君も分かったはずだ。どんな願いも……」




 最後ニハ、絶望ニ変エテミセルカラ…… 
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