| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Element Magic Trinity

作者:緋色の空
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

涙の主と嘘つきな従者


光線が、消える。
五重魔法陣・御神楽を防御も出来ずに喰らったルナは倒れ、魔法陣の範囲内で霧幻奈落によって眠っていたセスも、何が何やら解らぬまま倒れた。

「これが、ギルド最強候補の魔導士・・・」

無意識に、ヴィーテルシアは呟く。
相手である2人だって、弱くはなかった。妖精の尻尾(フェアリーテイル)で言うS級魔導士レベルではあったとヴィーテルシアは思っているし、現にティアについてS級クエストの討伐対象を何度も倒してきたヴィーテルシアではセス1人に手も足も出なかった(相手が万能攻撃系、自分が変身系の魔法を使っていたから、というのもあるだろうが)。
が、目の前で静かに佇むミストガンは、結果としてほとんど無傷で2人相手に勝利してしまった。
超人か、と呟いて、ヴィーテルシアは瞬きを繰り返す。

「大丈夫か?」
「え?あ、ああ、問題ない。体力も魔力も限界だし歩くどころか立ち上がる事も出来ないけど問題ない」
「・・・それは問題あるんじゃないか?」

突然声を掛けられた為、自分でも何言ってるか解っちゃいない。
5本の杖を背負い直したミストガンはヴィーテルシアに向き直ると、一体どこから取り出したのか文庫本サイズの瓶を差し出す。

「・・・それは?」
「治癒薬だ。歩けるほどには回復するだろう・・・ティアを助けるなら、動けないと意味がないからな」
「確かにな・・・すまない、お前には何から何まで世話になる」

ミストガンの言葉に苦笑しながら、ヴィーテルシアは瓶を受け取る。
小さく瓶を揺らすと、ドロリとした明るい黄緑の液体がゆっくりと揺れた。

「すまないが、私が手伝えるのはここまでだ。私にもやらなければならない事がある」
「解っているさ。きっとそうだろうとは考えていた。ここは私に任せておけ・・・と言える状態ではないが、必ずティアを助けだす。お前は気にせず、やるべき事をやっていてくれ」
「すまない、恩に着る」
「それは私のセリフだ」

ヴィーテルシアがクスクスと笑う。
小さく会釈したミストガンは、その体を霧のように、ふわりと空気に溶け込ませた。
姿も気配も完全に消える。

「にがっ」

明るい黄緑の液体を飲み干し、その苦さに顔を顰めながら瓶をその場に置く(ゴミはゴミ箱に、と言いたいところだが、生憎ゴミ箱がない)。
それと同時に体が淡い黄緑の光に包まれ、ヴィーテルシアの傷を癒していった。
体力も徐々に回復し、何事もなかったようにヴィーテルシアは立ち上がる。
勿論、少しの傷は残っているし、魔力は女帝の業火(エンプレス・オブ・エンプレス)1発分ほどしか回復していないが。

「さて、と・・・行くか」

乱れた金髪を三つ編みに結び直す時間さえも勿体なく感じ、金髪はそのままにヴィーテルシアはオーロラガーデン片手に駆け出した。













「たあっ!」

声と共に、フィレーシアンを振るう。
それだけで縄は簡単に斬れるし、得意の突きを繰り出せば鎖だって破壊出来る。
―――――が、それではヒジリを倒せない。

「死ねァ!地獄の猟犬は大人しく地獄に逝けっ!」
「断る!」

ヒジリの叫びに律儀に返しながら、ライアーは生きているように動く縄をぶった斬った。
続けて地を蹴り、突撃しながら突きを三連続。そこから壁へと近づき、壁を床にして駆け、ズバババババッ!と、走り抜けると同時に横薙ぎに鎖や縄を斬り刻む。
タン、と壁から足を放して着地し、それを狙ったヒジリの攻撃を飛んで避け、一発も外さず突きを放つ。ジャラジャラと音を立てて鎖だったモノが落ち、邪魔なそれを蹴飛ばしてライアーは最初の構えへと戻った。

「やっぱ強ぇな、さすがは“オントス・オン”の1人って事か」
「知っているのか」
「ま、有名っちゃ有名だからな。究極のお姉ちゃんっ子が率いるチームだって」
「・・・」

思わず遠い目。
言うまでもないが、『究極のお姉ちゃんっ子』はクロスである。

「他にもあるぜ。満面の笑みで飛竜(ワイバーン)を操る少女だろ、とりあえず一発ぶっ放してから作戦を考える妖精戦闘狂(バトルマニア)だろ、怒り狂って後先考えず砲撃ぶっ放す魔王だろ・・・」

それからそれから・・・と指を折りながら楽しそうに語るヒジリ。
一方、それを聞いているライアーは頭を抱える。
自分のチームメイトながら、思わず呆れてしまった。

「あ、でもお前の事はあんまり聞いた事ねぇな」
「そ、そうか・・・」

良い評判がないのは悲しいが、悪い評判がない事が救いだ、とライアーはホッとしたように息を吐く。
が、ヒジリはライアーの安堵を一瞬で砕いた。

「苦労人、万年片想い、陰で努力するけど報われない、とかなら聞いた事あるけど」
「最悪だなそれ!ていうか万年片想いってどういう事だっ!」
「そのまんまの意味だろ。聞いた話じゃお前、7年前からずーっとティア嬢に惚れてるらしいじゃねーか」
「なっ・・・何故お前がそれを!」
「安心しろって。そんなの災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)じゃ調査済みだから全員知ってるし」
「安心出来るかーっ!」

くわぁっ!と、今にも噛み付きそうな勢いでライアーが叫ぶ。
先ほどまでの冷静な雰囲気はどこへやら、頬を赤く染めて照れやら怒りやらを動力にツッコみまくるライアーの動きに合わせて黒髪が揺れる。

「まー落ち着けって」
「くっ・・・何故敵に落ち着かせてもらわねばならないんだ・・・」

ケラケラと笑いながら手を振るヒジリを睨みつけながら、ライアーはフィレーシアンを強く握りしめた。
すると、怒りで荒立っていた心がスッと静かになり、今自分が立つこの場所や状況の情報―――――相手の位置、利用出来そうなモノの場所など―――――が正確に入ってくる。
目を閉じて、ゆっくりと開いた時には、既にライアーは冷静さを取り戻していた。
ふぅ、と短く息を吐き、目の前を鋭く見据える。

(―――――大丈夫、いつも通りにやれば勝てるハズだ。勝率75%・・・くらいか)

そう思いながら、ライアーは知っている。
今の自分じゃ、“いつも通り”が出来ない事を。
その原因(という言い方もどうかとは思うが、それくらいしか当てはまりそうな言葉が無かった)は、ヒジリの後ろで死んだように眠る少女の、幻。
チラリ、と幻に目を向け、目を伏せ、唇を噛みしめる。

(腰を落として、槍を引き――――――)

それは、ライアーお得意の突きの構え。
武器魔法(アームズマジック)―――――愛槍フィレーシアンの形状を近距離戦闘用武器に変換させる魔法の使い手であるライアーは剣や斧も勿論扱えるが、1番扱いやすいのはこの槍なのだ。
特に得意なのが突きであり、“突く事”に関してはギルド1の威力を叩きだす。

(しっかり前を見据え―――――)

キッ、と前を睨む。
ふわり、と風が黒髪を揺らす。

(駆ける!)

自分の中で鋭く、叫ぶように呟き、思いっきり地を蹴った。
飛ぶように駆け、肌で風を感じながら、フィレーシアンの切っ先をヒジリへと向ける。
近距離線を得意とするライアーは、相手に距離を取られてもすぐに距離を詰められるようにと速度重視の戦法を叩き込まれている。同じ距離を走るにしても、最初の踏切に込めた力によっては跳躍距離が変わり、速度にも影響してくるものだ。

「ハアアアアアアッ!」

“オントス・オン”の中で1番のスピードを誇る魔導士、それがライアーだ。
勿論、速度が由来の異名を取るティアや、速度を上げる魔法を使うジェット、MAXスピードのハッピー辺りと比べてしまえば遅いが、それでも間違いなくギルドで10本の指に入る速度が出せる。

「貫けえええええええええッ!」

叫び、槍を一直線に振るう。
命中率の高い、ライアーが身につけた槍術の中の突き技の一種。
何の迷いも躊躇いもなく、ただ真っ直ぐに放たれる突き。
誰がそのような名称を付けたのかは不明だが、『直天突(まてんづき)』と呼ばれるその技は、ライアーの得意な技だった。
――――――――が。

「来たな地獄の猟犬(ヘルハウンド)!」
「!」
「特殊拘束・死の拘束(デス・バインド)!」

ヒジリはそれを解っていたかのように、魔法を発動させる。
思わず止まったライアーの足元に魔法陣が展開し、そこから漆黒の、古代文字で構成された鎖がライアーを締め付けた。

「なっ・・・何だこれはっ!うぐっ!」
「聞いてなかったのか?死の拘束(デス・バインド)だよ」

抜け出そうともがくライアーだが、拘束は緩むどころか逆にキツくなっていく。
呻き声を上げるライアーを、ヒジリは口角を上げて見上げた。

「それは拘束した者を死へと誘う呪いの拘束。逃れられた奴は1人もいねぇ!」

拘束を作るのは呪いの言葉を意味する古代文字。
徐々に力を奪われていく感覚が、ライアーを襲う。
重そうな音を立てて、ライアーの手からフィレーシアンが落ちた。

「あぐっ・・・うあっ・・・」
「ハハハハハッ!あと3分もすりゃテメェはあの世だっ!安心しろよ、ティア嬢も今日中にはそっちに逝くんだからなァ!」

ヒジリの笑い声が遠くなる。
声だけじゃない。その姿がどんどん霞んでいき、、ゆっくりと視界が狭くなっていく。
だらりと力が抜け、抵抗する力も吸い取られた様になくなる。

(ダメだ・・・ここで、倒れる、訳・・・には・・・いかない・・・)

そう思いながらも、瞼は意志に反して閉じていく。
呼吸が浅くなっているのか、少し息苦しい。
右手がフィレーシアンを求めるように動くが、その手にフィレーシアンは無く、床に落ちている。

(倒れる・・・訳、には―――――――)

――――――視界が、完全な黒へと染まった。












夢を見た。
これは7年前、丁度ライアー達が妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入した頃。
それを、ライアーは鮮明に覚えていた。
忘れる事なんて出来なかった―――――自分を見るなり言った、彼女の第一声。




「女みたいね、髪が長くて」




言葉を失った。
というか、突然すぎてどう答えていいのか解らなかった。
当時11歳のライアーは考える。
確か今、自分はギルドの紋章を押してもらい、何となくギルドの外に出てみた。理由は特にない。強いて言うならば、このお祭り騒ぎなギルドの空気にあまり馴染めなかったから、だろう。
で、何となくで外に出ると、仕事から帰ってきたのか、ショルダーバックを下げた少女がこちらに向かって歩いて来て、ライアーを見るなりこう言った。
女みたいね、と。

(・・・俺はどうしたら?)

戸惑った。当然戸惑った。
だから、とりあえず目の前の少女が一体何者かを見極めようと目を向ける。
背は自分より低いが、いろんな意味で勝てそうにない圧倒的な気迫がある(結婚したら、きっと旦那を尻に敷くタイプだろう、とライアーは思った。そしてすぐに失礼だと気づいて思考から消した)。華奢な体型で、肩から下げたショルダーバックがやけに大きく見えた。

(可愛らしい顔をしているな・・・って俺は一体何を考えているんだ!)

少女には大きめの白い帽子の下から覗く顔は、誰がどう見ても可愛らしい。
長く贅沢な睫毛に縁どられた青い瞳。スッと通った鼻筋に、きゅっと結ばれた小さな唇。青い髪は肘に届く長さで下ろしてある。
誰かに似ているな、とライアーは思った。が、思い出せない。

「何」
「へ?」
「さっきから人の顔ジロジロ見てるけど、私の顔に何かついてるの?」
「い、いやっ・・・そういう、訳じゃ」
「だったらジロジロ見ないで」
「す、すまない」

不機嫌そうに小さく息を吐いた少女。
その顔を見て、ライアーはふと気づいた。

「主?」
「は?」

少女が怪訝そうな顔をする。
それに対し、ライアーは納得したように頷いた。

(そうか。誰かに似ていると思ったら主に似ているんだ)

今日から仕える事になった生涯の主―――――クロス。
少女は彼に似ている。
髪の色や瞳の色は同じだし、背の高さも同じくらいだろう。顔立ちもどこか似ているし、細身な所もそっくりだ。
すると、ライアーの呟きを聞いた少女は、何かに気づいたように「あ」と呟く。

「もしかしてアンタ、クロスの従者?」
「え?ああ・・・主を知っているのか?」

ライアーの問いに少女はキョトンとした様に瞬きを繰り返す。
10回目の瞬きを終えると、はぁ、と溜息をついた。
腰に手を当て、真正面からライアーを見つめる。


「私、クロスの双子の姉だから」


停止。脳だけ稼働。
双子の姉、という言葉の意味は当然解る。が、ライアーは1つ聞かされている事があった。
主の祖母であるシャロンは、こう言ったのだ。

『いい?クロスの姉は三流、出来損ないなのよ。姉を名乗るようならすぐに教えなさい。アンタにクロスの姉を名乗る権利はないとね!』

が、はっきり言ってライアーには、彼女が出来損ない等には見えなかった。
容姿は整っているし、何となく頭がよさそうな雰囲気がある。ズバズバとモノを言う感じだが、間違った事を言っている訳ではない。
近寄りがたい雰囲気ではあるが、何でか放っておけない。見た目だけでも解る戦闘慣れした雰囲気だが、触れたら消えてしまいそうな儚さがあった。

「・・・姉?」
「そう、ティア=T=カトレーン」

漸く呟いた言葉に少女―――――ティアはこくりと頷き、自己紹介をする。
が、名前以外には何かを言う訳ではなく、その後は先ほどまでのように沈黙していた。
その目が真っ直ぐに自分を見ている事に気づき、そういえば名乗っていなかったとライアーは口を開く。

「俺はライアー・ヘルハウンド。よろしく」
「随分な名前ね。嘘つきな地獄の猟犬って」
「・・・出来れば直訳しないで貰いたい。自分の名前は好きじゃないんだ」
「ふぅん、でも私よりかはマシなんじゃない?」
「?」

名を直訳され、困ったように目線を逸らして頬を掻くライアーに、ティアは小首を傾げて呟いた。
その呟きに目線を戻し、こちらも首を傾げる。

「私なんて(ティア)だもの。しかも由来が、私が生まれた瞬間一族全員が泣いたから、ですって」
「え、でもそれは・・・」

命の誕生に対する感激じゃ、と言いかけて、止まる。
その青い瞳にふわりと現れた愁い。
口元は薄く笑みを湛えているが、その笑みは無理矢理作ったような、楽しさも嬉しさも感じられない笑みだった。

「酷い話よね・・・生んだ母親からも、“こんな子いらない”って言われたらしいの。唯一兄だけは私の誕生を喜んでくれたけど、愛人の子である兄の一族での立場を更に悪くするだけだった」

何かに触れるように、右腕が空に伸ばされる。
指先が何かを求めるように動き、その手が柔らかく何かを握りしめ、下がった。

「弟は聖なる子って意味で十字架(クロス)。兄は解らないわ、愛人が付けた名だから」

ふ、と目を伏せる。
青い髪の一房を、耳にかける。
それだけの仕草なのに、彼女の儚さが増した気がした。
今にも空気に溶けてしまいそうな―――――そんな感じ。

「私は涙の子。一族に居場所はない、出来損ないのいらない娘。クロスと兄さんは良くしてくれてるけど、それは2人の自由を奪っている事と同等じゃない」

握りしめた拳が震える。
俯き、逸らしていた目がティアを見つめる。
抑え込んでいた全てを放つように、気づけばライアーは駆けていた。

「そんなの――――――――――っ!」

何かを言いかけ、止まる。
それと同時に感じる、自分を囲むような力。
じわりと滲むように、元々冷たいティアの体に温かい熱が伝わる。
小さく目線を動かせば、真横で揺れる長い黒髪。

「っ言うな!それ以上言うなっ・・・!」

悲痛な声。
ぎゅぅ、と込められた力が強くなる。
即座にティアは理解した。
初対面の奴、しかも男に抱きしめられている、と。

「いらない奴なんかじゃない。お前はっ・・・()()()()()!」
「!」

俺とは違う。
確かに、ライアーはそう言った。
ティアはライアーを正面から見るべくその方を掴み、引き離した。
そして、思わずため息をつく。

(何で―――――そんなに泣きそうなのよ)

今にも泣きだしそうな表情。
泣くのを堪えるようにぎゅっと唇を噛みしめて、それでも真っ直ぐにこっちを見る少年。

「・・・何か、あったの?」

無意識のうちに、そう訊ねていた。
その問いにハッとしたようにライアーは目を見開き、少しの間目線を逸らす。
それから十数秒後、意を決したようにライアーは口を開いた。

「悪いが場所を変えたい・・・いいか?」








選んだのは、河川敷だった。
腰を下ろし、膝を抱えてライアーに目を向ける。
ライアーはしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開き、ポツリポツリと語り始めた。

「・・・俺には、2つ年下の妹がいた。アニストという名で、親は妹を愛していた。勿論、平等にとまではいかなかったが、俺も親に愛されていた・・・と思う」

そう言いながらも、ライアーには親に愛されていたと言える自信がなかった。
どちらかといえば、愛されていなかったという方が自身を持てる。
チラリ、とティアに目を向けると、彼女は「嘘つき(ライアー)正直(アニスト)の兄妹ってなかなか面白い名前付けたわね、アンタの親は」とズレた事に興味を持ったようだ。

「俺は妹が好きだったし、アニストも俺を慕ってくれていた。俺は何をやってもアニストには勝てなかったが、武器の扱いだけは俺の方が得意だった」

背負った槍、フィレーシアンの柄に触れる。
カトレーン一族の加治屋が造ったこの槍は今日受け取ったばかりだったが、もう何十年も一緒にいるような気がしていた。
同じくクロスの従者であるスバルのエウリアレーも、ヒルダのセルリヒュールも、カトレーンの鍛冶屋お手製である。

「妹は両親の誇りだった。アニストも期待に応えようと頑張っていた・・・頑張って、いたんだ」

視界がぼやけかけ、慌てて服の袖で拭う。
ティアは無言で川を眺めながらライアーの話を聞いていた。
日の光を受けた川が、キラキラと輝く。

「・・・けど、アニストは死んだ―――――――自殺、だった」
「!」

ぴくっとティアが反応し、ライアーに目を向ける。
その目が信じられないモノを見るように大きく見開かれていた。

「部屋に遺書が残っていて、こう書かれていた。“もう疲れました”と―――――」

期待、しすぎたのだ。
期待されればその期待に応えようと頑張る。が、その期待が大きければ大きいほど、期待に応えられるか不安になってくる。
もし応えられなかったら―――――そう考えてもおかしくない。

「父さんも母さんもアニストに期待しすぎた。本来なら俺が背負うべき期待も、全てアニストに向かった。だから・・・疲れたんだ。期待される事に」

期待するのが悪い事だとは言わない。
が、期待は時に人を押し潰し、苦しめる。

「葬式の間、父さんと母さんはずっと泣いていた。泣く事しか出来ない人形のように、ずっと」

脳裏に蘇える、2年前のあの日。
来る人来る人黒い服を着ていて、ライアー達は来る人全員に頭を下げる事を繰り返していた。
お悔やみ申し上げます、と言われる度に、ライアーは苦しかった。
何も出来なかった自分への不甲斐なさで胸がいっぱいで、その後どうしていたのかも覚えていない。

「次の日、だった。俺が起きて家のリビングに行った時、母さんが朝食を作っていた。俺が声を掛けると、母さんは・・・こう言ったんだ」

その時の辛さは、覚えている。
苦しくて言葉にならない。

「・・・っ」

言わなければならないのに、言えない。
言うのが辛い。
もう2度と聞きたくないのに、自分で言うのか――――――――。

「いいよ」
「!」

辛そうに俯くライアーに、ティアは呟いた。
反射的に顔を上げると、柔らかく微笑むティアの姿。
優しくて、柔らかくて、温かい微笑み。

「言いたくないなら無理には聞かない。でも、どんな辛い事だとしても」










―――――――私が全部、受け止めるから。










その言葉は、ティア本人としては無意識だったのかもしれない。
ただ思った事を言っただけ、なのだろう。
でも、ライアーにはそれが嬉しかった。

「母さんは・・・」

声が震えている。
言いようのない不安が襲い掛かってくるような感じがして、ぎゅっと己の身を抱く。
大丈夫、と言うように、ティアが小さく頷いた。





「おはよう、アニスト―――――――――って」





ライアーを見て、アニストと言った。
最初は自分の聞き間違い、もしくは言い間違いだろうと思った、とライアーは言う。
キラキラと輝く川が、目に映る。

「俺はライアーだって言った・・・そしたら母さんは微笑んで首を傾げて・・・『何を言っているの?ライアーはこの間死んだでしょ?』って。父さんも・・・『忘れたのか』・・・って」

怖くなった。
勝手に自分を死んだ事にした母親が。
残酷な事を微笑んで言い放つ母親が。
それに何の迷いもなしに頷く父親が。

「2人に必要なのはアニストで、俺は不必要だった。だから・・・2人は、俺をアニストとして育てようと考えたんだ」

身代わり。
死んだのはアニストじゃなく、ライアー。
生きているのはライアーじゃなく、アニスト。
ライアーは、妹アニストである事を、静かに強要されたのだ。

「・・・俺に反論の手はなかった。俺はその日からアニストとして生きるしかなかった・・・アニストのように髪を長く伸ばし、武器を握る事はやめ、アニストが得意だった舞踊を学んだ。勿論女になれる訳がないんだが、2人はそれで満足みたいで・・・」

ふわり、と黒髪が揺れる。
アニストを演じるべく長く伸ばした、黒髪が。
特に結わえる訳でもなく、ただ下ろしただけの髪。
結わえた方が邪魔にならないのだが、アニストはいつだって髪を下ろしていた。
だから、結わえる事はしない。

「・・・だから、いらない奴っていうのは俺のような者を言うんだ。ティアは違むぅっ!」

う、と言おうとして、言えなかった。
一瞬何が起こったのか解らなかったが、徐々に今の状況を理解していく。

(・・・口が塞がれている。これはティアの――――――――手?)

白くて、ひんやりとした手。
それがライアーの口を塞いでいた。
下げていた目線を前に戻して――――――ぎょっとする。

(う、うわっ!?)

まず見えたのは、青い瞳だった。
続いてその顔全体、輪郭、青い髪、白い帽子、帽子から垂れる青いリボン、乗り出した体、それを支える細い腕――――――。

(近っ・・・近すぎるだろこれは!)

まあ、ライアーの口を手で塞ぐと言う事はそれなりに近づくのだが、気づけばティアは握り拳2つ分くらいの距離まで近づいており。
女性というものにあまり免疫のないライアーは、それだけで赤くなる。

「全く・・・さっき私も似たような事言ってたけど、聞いてる側からしたらバカらしいわね」
「なっ!」

ティアは呆れたように肩を竦めた。
これにはライアーも思わず怒る。
自分はこの事でずっと苦しい思いをしていたのに、目の前の彼女はそれをバカらしいの一言で片づけてしまった。

「だってそうでしょ?自分の苦しみを他人に話したって、その苦しみを解ってもらえる訳じゃない。口では解るって言うけれど、同じ経験をしていない奴に解る訳ないのよ。そんな上辺だけの同情、求めるほどの価値があるかしら?」

スッ、と手を下げ、ティアが首を傾げる。
ライアーはと言うと、呆気にとられていた。
同情を価値で見る人間なんて見た事がない。

「無価値な同情をされるくらいなら、私は過去なんて見ないし語らない」

「だってそうでしょ?」と言い切って。
立ち上がって背を向けていたティアは、くるりと振り返った。
その顔には、自信だけで構成された笑み。






「振り返るほどの価値が、過去にあるのかしら?」






彼女は主と同い年、つまり自分より1つ年下のハズ。
そんな少女の言葉に、ライアーは何も言えなかった。
多分言える事もあったのだろうが、何かを言う気になれなかった。
反論出来る事だろうに、反論出来ない。

「・・・ないな。振り返るほどの価値は」

ふはっ・・・と笑い声が零れる。
そうだ、そう言われてしまえばそうなのだ。
振り返るのが苦しいのなら、振り返る事を止めればいい。
そんな単純な事に言われなければ気づかなかったのか、とライアーは自分の事ながら呆れる。

「でしょ?悩むだけ無駄なのよ。だったら悩まなきゃいいんだわ」
「ははっ、お前は正しいな。恐ろしくなるくらいに」

ライアーの言葉に、ティアは一瞬きょとんとしたが、すぐに「まあね」と頷いた。
しばらく笑っていたライアーは、ふと自分の髪を見つめる。
アニストを演じるべく伸ばした黒髪。
でも、演じる必要はもうない。だから――――――

「・・・切ろうかな」
「え!?」

ポツリと呟いた言葉に、ティアが大きく反応した。
思わぬ反応にライアーもびくっと驚く。

「切るの?」
「あー・・・多分」

先ほどの大きな反応に戸惑いながらも頷くと、ティアが不機嫌そうに眉を顰める。
何か気に障る事を言ったのか、と内心焦りまくりのライアーに、ティアはずいっと顔を近づけた。
突然顔が近づいて、ライアーは思わず仰け反る。

「え、えーっと・・・どうした?」
「切るのね?本当に」
「た、多分だけどな。でも、俺としては髪短い方が好きだし・・・」

近い、と思いながらライアーは答える。
不機嫌そうな表情はそのままに、ティアは口を開いた。

「私、ライアーの髪は長い方が好きよ」
「!?」

たった一言。
それだけなのに、ライアーの顔が、自分でも解るくらいに真っ赤になった。
耳の横に心臓が移動してきたのかと疑いたくなるほど、鼓動がうるさい。

「でもまあ、切っちゃうなら仕方ないか・・・」
「き、切らないっ!」
「・・・は?」

少し残念そうなティアを見て、反射的に叫ぶ。
ティアはきょとんとした表情で、ライアーの顔をまじまじと見つめた。
それも何となく恥ずかしくて、目線を逸らす。

「切るのはやめる。何となく長いのも気に入ってたし・・・結わえる事にする」
「・・・そう」

ライアーの言葉に少し嬉しそうなトーンでティアが呟く。
そしてライアーの後ろに回り、くいっと髪を引っ張った。

「うわっ」

突然の事に、ライアーの頭も引っ張られる。
スーッと髪の間を指が通っていく感じがした。続いて髪が1つにまとまる感じ。
そして最後に、髪を括るようにキツく縛られる感覚。

「はい、出来た」

パッ、と手が離れた。
何が起こったのかイマイチ解っていないライアーに、ティアはショルダーバックから取り出した大きめの手鏡を渡す。
受け取ったライアーは鏡を覗き込んで―――――気づいた。

「あ」

長い黒髪が、首の少し上辺りの位置で1本に結わえられている。
少し頭を振れば、それに連動して黒髪が揺れた。
満足のいく出来(と言ってもゴムで結んだだけ)だったのかティアは頷くと、こてっと首を傾げる。

「どう?私的には上出来なんだけど」
「・・・る」
「ん?」

ライアーが何か言ったが、小さすぎて聞こえない。
首を傾げてティアが聞き返すと、ライアーが無言で立ち上がった。
俯いている為、顔が見えない。

「え・・・っと、ダメだった?」

困ったように薄い笑みを浮かべ、ティアが自分より背の高いライアーを見上げる。
すると、ライアーはバッ!という効果音が似合いそうな速度で片膝を立てて座った。
そのまま頭を垂れ、立てた右膝に右腕を乗せ、左腕は真っ直ぐに下ろす。



「感謝する、我が主の姉君よ」



―――――そして、言った。
その姿は令嬢とその執事のような。

「・・・え、はあ!?」

先ほどまでと全く違うライアーの口調や様子に、ティアは思わず目を見開く。
が、ライアーの様子は全く変わらない。
頭を垂れたまま、続ける。

「この恩は必ず返す。俺はお前の弟君の従者だが、お前とも従者契約を結ばせて頂きたい」
「な、何言ってるのよ!アンタも知ってるでしょ?私にその資格はないのよ。ていうか、私と契約したらアンタ・・・お祖母様に消される可能性だって・・・」
「解っている!」

ティアの言葉を、強い口調で無理矢理遮る。
そう―――――ライアーはクロスに仕えるべくフルールを離れ、マグノリアに来た。
それ以外の理由はない。だから、クロスに仕えるのを止めた瞬間、ライアーはフルールに強制的に戻される。カトレーンの異端児であるティアと従者契約するのも、強制的に戻される事は無いが、シャロンに消される恐れがあるのだ。
が、そんな事ライアーはとっくに知っている。

「消されてもいい、何があろうと構わない!俺は、お前をっ・・・!」

そこまで言いかけ、止まった。
いや―――――止まったというより、何を言おうとしたのか忘れたのだ。

(お前を、何だ?)

つい数秒前まで頭にあって、言おうと思っていた事のハズ。
ライアーは、自分の記憶力はいい方だと思っている。幼いころの思い出もある程度鮮明に覚えているし、細かい所では今日マグノリアに行く為に乗った列車で食べたサンドイッチに挟んであった具の順番も覚えている(左からレタス、卵、ハムだった。トマトが入っていたが、苦手な為スバルにあげた)。
なのに、数秒前の事も覚えていないとは。
とても大事な事だった・・・気がする。本当なら勢いに任せて言うような事じゃなかった気も。

(あれ・・・?)

必死に脳内を漁る。
漁っても漁っても、これだ!という言葉が思い出せない。
どれをどう当て嵌めても違和感がある。
思い出せず頭を掻き毟りそうになった、その時―――――



「・・・そんなに言うなら、契約する?」



戸惑った声色。
ハッとして顔を上げると、小首を傾げたティアが立っていた。

「は、へ?」
「私、よく解らないんだけど・・・契約ってどうするの?」
「えと・・・特に何かが必要な訳では、って待て!」
「?」

聞かれるままに答えていたライアーだったが、思い出したように制止を掛ける。
それに対し、ティアは不思議そうに首を傾げた。

「い、いいのか?」
「だって、消される覚悟もあるんでしょ?それ以外の断る理由はないし」

何か問題でも?というように首を傾げるティア。
その様子に思わず脱力しかけながら、ライアーは何とか立ち上がった。

「それじゃあ・・・よろしく。えっと・・・女主?」

少し考え、呟く。
主だとクロスと被ってややこしい為、女主と呼んでみる。
すると、ティアは不機嫌そうに眉を顰めた。

「何よそれ、ティアでいいわ」
「ダメだっ!主は主と呼ばねば!」
「その主が名前で呼べって言ってるんだけど?」
「うぐっ・・・」

ずい、と1歩近づく。
思わず1歩下がる。
青い瞳が真っ直ぐにこちらを見ていて、頬に熱が集中した。

「う・・・解った。ティア、でいいんだな?」
「ええ、それ以外で呼んだら契約破棄だから」
「そこまでするのか!?」
「当たり前でしょっ!私の名前はティア、それ以外の名はないしね」

そう言ってギルドに帰るべく歩き出したティアを慌てて追いかける。
ギルドに入って初日の為、まだマグノリアの事をよく知らない。1人でギルドまで戻れる訳がなかった。いくらギルドの建物が大きいとはいえ、だ。

「俺の正式な主は弟君だが、ティアの事も生涯守り抜くと誓おう」
「突然どうしたの?・・・ま、私はそう簡単に守られやしないわよ」
「か・・・形だけでも、だ!それが俺達従者の生涯の仕事なんだからな」
「ふぅん、それじゃあ・・・」

ピタリ、と。
突然止まったティアの足に合わせるように、ライアーも足を止める。
どうした?と聞こうとして、それを遮るかのようにティアがくるりと振り返った。



「私が本当に危険な時は、守られてあげるわ」



そう言って、微笑む。
柔らかいその微笑みは、夕日を浴びて輝いていた。

(うー・・・そういう、事かっ)

それを真正面で見て。
鼓動が響いて、頬が熱くなって、直視出来なくなって。
――――――ライアーは、己の感情に気づく事となった。











「!」

目を開く。
完全な黒だった視界に、色と光が現れる。
死の拘束(デス・バインド)は緩む事なく締め付けてくるが、今のライアーは、不思議と苦しさを感じなかった。



―私が本当に危険な時は、守られてあげるわ―



彼女の言葉。
本当に危険な時―――――それは、今だろう。
ライアーはカトレーン一族をそれなりに知っている。どんな一族かも、当主であるシャロンがどんな女かも。
それを踏まえて断言出来る。

(今のティアは、危険だ)

それも、命の危機だ。
ティアを救えなかったら、確実にティアは死ぬ。
ライアーの女主は、仲間は、同居人は―――――片想いの相手は、死んでしまう。

(・・・そんなの)

ぐっ、と。
抜けたはずの力を込める。
歯を食いしばって、残った力を込めて、集めて、解き放つ。

「オオオオオオ・・・」
「んあ?」

勝利を確信していたヒジリは、ライアーに目を向けた。
ミシミシ・・・と嫌な音が響いていく。
ヒジリの目が、信じられないモノを映すかのように見開かれた。

「お・・・オレの死の拘束(デス・バインド)が・・・」
「オオォォォォオオオオオ!」

ライアーの気合いの声。
それに合わせるように切れていく、呪いの古代文字。
文字が揃えば文になり、文になった時呪いを意味出来る。バラバラになってしまえば、そこにあるのは呪いじゃない。

「引き千切られてるだと!?」
「オオオアアアアアアアアアアアアッ!」

ブチィッ!と。
漆黒の拘束が、音を立てて弾け飛んだ。
タン、と軽く床に降り立ったライアーは、愛槍を拾って握りしめる。

「・・・魔滅連斬」

感情を抑えた声で呟き、フィレーシアンを突き立てる。
すると、ティアの幻とそれを囲む鎖が―――――消えた。

「なっ・・・!」
「もっと早くこの手を思いついていれば良かったんだがな」

ヒジリが目を見開き、ライアーは淡々と告げる。
ハッとして振り返ったヒジリは、思わず後ずさった。
そこにいたのは―――――――恐怖。
鬼でも悪魔でも魔王でも足りないような、絶対的な恐怖の対象。

「貴様は俺を怒らせた。それ相応の報いを受けてもらわねば気が済まない」

淡い水色の光に包まれ、フィレーシアンが形状を変える。
槍から、薙刀へと。
長い黒い柄を握りしめ、銀色の刃を煌めかせ、ライアーは歩く。

「テメッ・・・どうやって死の拘束(デス・バインド)を引き千切りやがった!あれはテメェが死なない限り拘束されっぱなしのハズだ!」

ヒジリが喚く。
相手が死ぬか、術者であるヒジリが解除しない限り解けないのが死の拘束(デス・バインド)だ。
それを自力で引き千切った者など当然初めてである。

「知るか、そんな事」

ライアーにとって、1番扱いやすい武器は槍だ。
だからフィレーシアンの形状は常に槍で、剣や斧に変える事は滅多にない。
だが、“扱いやすい”事と“強い”事は違う。

「俺はただ、従者としての仕事をする為に障害を消したまで」

ライアーが扱う近距離戦闘用武器で1番強い武器は、薙刀だ。
全体の長さが長くて持ち歩きにくい事や槍の方が扱いなれている事から、変換する事は滅多にない。
が、威力を重視する際には薙刀を用いている。

「主を守る・・・それが俺の仕事であり、生きる意味であり、存在理由」

薙刀を用いる舞踊が、フルールには昔からある。
ライアーは元々武器の扱いが上手い。
そして、アニストを演じる為に様々な舞踊も習得している。
勿論、薙刀を必要とする舞も習得済みだ。
つまり、舞に戦う為の基礎を足し、薙刀を握れば―――――ライアーにとっては、これ以上ないくらいに得意な戦闘方が出来上がる。

「主の危機とあらば、俺は――――――――」

地を蹴る。
スピードを落とさず、薙刀と化したフィレーシアンを握りしめ、一気にヒジリへと接近した。
ヒジリの目が、見開かれる。

「どんな状況であろうと、主の下へ参上する!」

叫び、右肩からの袈裟斬り。
ヒジリが何かを喚こうとしたのか口を開くが、ライアーは言葉を発する隙も与えない。
瞬時にフィレーシアンの柄でヒジリの鳩尾を突く。
バランスを崩したヒジリを睨むように見つめ、フィレーシアンの刃を横一線に向け―――





魔海閃撃(まかいせんげき)!!!!」






閃光のような速度で――――――空間を、裂いた。
あと少しでヒジリに到達する、という、僅かな距離を残して。
ブォオン!と空気の裂くような音を響かせたフィレーシアンを槍に戻し、ライアーは短く息を吐いた。

「安心しろ、殺しはしない。これ以上の流血も望まん」

短く告げ、見下ろす。
そこには、白目を剥いて気絶するヒジリが倒れていた。

「死への恐怖を忘れたお前には、恐怖の報復が相応しい」

返事はない。
それを解っていてライアーは呟き、何事も無かったかのように静かに歩みを進めた。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
更新ペースが戻ってきたと思ったらまた遅れ・・・。
次はいつだろうなぁ。
そろそろ血塗れの欲望(ブラッティデザイア)にも動いてもらいましょうか。

感想・批評、お待ちしてます。
・・・この話、EMTで1番の文字数だったかもしれない。
10000文字越えとか久しぶりだな・・・。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧