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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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夢と幻


「―――――――ミストガン」

顔を覆面で隠し、5本の杖を背負い、覆面から僅かに覗く目から鋭く相手を睨む男。
その男の名はミストガン。
妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士であり、最強の男候補と呼ばれる1人だ。

「最強候補ですかデス」
「これは少し不利ですかね」

突如現れたミストガンに、セスとルナは顔を顰める。
ミストガンはそれを一瞥すると、倒れるヴィーテルシアに目を向けた。

「こんな事を聞くのもおかしいが、大丈夫か?」
「大丈夫だ・・・と言いたいところだが、見ての通りボロボロだ。とっくに限界を超えている」

そう答えるが、ヴィーテルシアの表情はどこか明るかった。
相手は2人、自分は限界。
そんな絶望的な状況に最強候補が駆けつけてくれた為、幾分余裕が出来たのだろう。

「だがお前・・・どうしてここに?」
「私とて妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士、ギルドの者の危機を見過ごす事は出来ないのでな」
「・・・そうか」

その言葉に、ヴィーテルシアは嬉しそうに微笑む。

「ここは私に任せてもらおう」
「ああ・・・すまない。恩に着る」

杖を構え2人を見据えるミストガン。
セスとルナも標的をヴィーテルシアからミストガンへと変え、戦闘態勢を取る。
その後ろ姿を見つめるヴィーテルシアはオーロラガーデンを手繰り寄せて右手で握りしめ、鋭く前を見据えた。












苦戦を強いられているのはこちらも同様だった。
1本に結わえた長い黒髪が、動く度に大きく揺れる。
愛槍フィレーシアンを握りしめ、ライアーは視界に映る空間全体を使って攻撃を避け続けていた。

「オラオラァ!どうした地獄の猟犬さんよォ!避けてばっかじゃティア嬢救えねーぞォ!?」

拘束(ボンテージ)を駆使してライアーを追い詰める極悪なる拘束者(ヴィシャス・バインダー)―――――ヒジリ・ファルネスは、その両手から鎖や縄を放っていく。
それを時に斬り、時に貫き、ライアーは何とか攻撃を凌いでいた。

「チッ・・・白銀連斬!」

フィレーシアンを横一直線に振るう。
すると、槍の軌跡から白銀の光線が放たれ、向かってくる拘束具達を一掃した。
タン、と小さい音を立ててライアーは着地する。
そして、ヒジリの斜め右後ろにいる、青い髪の少女の幻に目を向けた。

(ティア・・・)

白い左腕の、禍々しくも美しい模様。
対象を攻撃すると、別の人間が痛みを受けると言う、生体リンク魔法の一種。
ライアーがヒジリを攻撃すると、設置された鎖が幻を攻撃する。そして、その痛みはカトレーン本宅にいるティアが受けてしまう。
ライアーがティアを攻撃しているのと同じ事だ。
だから先ほどからライアーは何も出来ずにいる。飛び交う鎖や縄を避け、消し去る事しか出来ない。

「厄介な・・・正々堂々と戦えないのか、貴様は」
「オイオイ、誰相手に正々堂々なんて言ってんだテメェ?闇ギルドにゃ正々も堂々もねぇんだよ!邪魔する奴は全員殺す。それだけだ!」
「正々堂々は分けて使う言葉じゃないぞ」

変な所に突っ込みながら、ライアーはフィレーシアンを構えた。











「参ります」

ミストガンと、セスとルナ。
最初に動いたのは太古の魔法(エンシェントスペル)の一種、惑星力(プラネタルパワー)を使う魔導士、ルナだった。

火星の炎槌(マーズ・ハンマー)!」

ミストガンに向けた右手。
手を中心に夜空色の魔法陣が展開し、そこから炎のハンマーが生み出される。
それを掴んだルナは大きく振り被り、ハンマーをミストガンへと投げ付けた。

「蓬莱陣」

それを見たミストガンは、宙に浮いた4本の杖で十字型の陣形を組ませる。
十字型陣形の杖は扇風機のように回転し、正面に向かって強力な竜巻を発生させた。
その竜巻はルナが投げた炎のハンマーに直撃し、風と炎の相性の悪さから、炎のハンマーはいとも簡単に消え失せる。

「セスさん!」
「了解デス!雹よ、降れ(フォール・ヘイル)!」

ルナの声に答えたセスは魔法陣を展開させ、両手を天井に向ける。
すると、淡い水色の魔法陣から雹が降ってきた。
一粒一粒が大きく、鋭く尖っている。

「百八式!」

持っていた杖をくるりと回し、ミストガンは『五重魔法陣・御神楽』の百八式を繰り出す。
魔法陣が現れ、そこから鉄のような素材で出来た植物のようなものが伸びる。
それは降り注ぐ雹を貫き、砕き、雹は何のダメージも与えない氷のカケラとして降り注いだ。

「この程度か?」
「まだまだデス!雨よ、降れ(フォール・レイン)!」
海王星の剣雨(ネプチューン・ソードレイン)!」

続けてセスは雨を降らせ、ルナはその雨を凍らせて剣のようにし、ミストガン目掛けて落下させる。
先ほどの雹以上の数の氷の剣だ。
ティアの大海針雨(アクエリアスニードル)にも似ている。

「っ・・・」

それを見たミストガンは地を蹴り、後方へと跳んだ。
ズガガガガガッ!と音を立てて、氷の剣が床に突き刺さる。

「逃がしません!」

そう叫ぶと、ルナはくいっと両手を動かした。
その動きに合わせ、上から下に落下するだけだった剣が、床に当たる前にすいっと軌道を逸らし、低空飛行でミストガンへと向かって行く。

「ミストガン!」
「問題ない。三重魔法陣・鏡水!」

慌てたヴィーテルシアが叫ぶが、ミストガンは全く慌てず、先ほどヴィーテルシアを救った魔法―――――跳ね返しの魔法である、三重魔法陣・鏡水を放つ。
三重の魔法陣に、狙ったように直撃していく氷の剣は更に軌道を変え、セスとルナへと向かって行った。

「くっ・・・太陽よ(サン)―――――――」
「させるかぁッ!」
「あぐっ・・・ああああああああっ!」
「きゃあああああっ!」

太陽の光と熱で氷を溶かそうと考えたセスは、詠唱の為に口を開く。
が、それを阻止する為にヴィーテルシアがブーメランの要領で投げたオーロラガーデンが腕に当たり、走った痛みに思わず言葉を止めた。
そして2人に、跳ね返った氷の剣が直撃する。

「うくっ」
「だ、大丈夫か?」
「き、気にするな・・・」

ブーメランは、投げれば戻ってくる。
その要領で投げたオーロラガーデンも、当然戻ってくる。
が、ヴィーテルシアはそれを掴み損ね、くるくると回転するオーロラガーデンを思いっきり右手首にぶつけてしまったのだ。
それには思わずミストガンも戸惑った様な声色になり、じくじくと痛む右手首を抑えながらヴィーテルシアは無理矢理微笑んで見せた。

「ルナさん、大丈夫ですかデス?」
「ええ、私は大丈夫です」

が、2人は特に大きな怪我もなく立ち上がる。
勿論それなりの傷はあるし、体力も魔力も消費はしているが。

「それにしても・・・流石は妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強候補の1人。私とセスさんが3分以内に相手を殺せないのは初めてです」

パンパンとチュニックについた埃を払うと、ルナは真っ直ぐにミストガンを見据える。
冷たかった瞳が、更に冷たくなるのにヴィーテルシアは気づいた。
ふと視線を動かせば、セスの顔には妖しい笑みが浮かんでいる。

(・・・嫌な予感がする)

ルナとは知り合いだが、こんなに冷たい瞳は見た事がない。
セスの笑みも容姿と相まって妖艶さがぐっと増すが、この戦いの場ではそれが戦慄になる。
本気の表情だ、とヴィーテルシアは思った。
先ほどまで手を抜いていたのかは本人達にしか解らないが、今から何かが変わる気がする。
それも、ヴィーテルシア達側からすれば、よくない方向に。

「・・・おい、ミストガン」
「ああ、解っている」

その不穏な空気に、心配したヴィーテルシアが声を掛けると、ミストガンはこくりと頷いて杖を構えた。
覆面から覗く目が、更に鋭くなる。

「――――――」
「?」

小さい呟きが聞こえた気がして、ヴィーテルシアはミストガンを見上げた。
が、特に変わった点はない。
気のせいだったか、と視線を下げる。

(魔力量だけを見ればミストガンの方が明らかに多い。が・・・)

ヴィーテルシアは知っていた。
最強候補と呼ばれるミストガンの秘密を。
彼の強さを支えるモノが何なのかも、全て知っている。
だからこそ、相手が“それ”を知らない事を祈っている。

「行きますよ、セスさん」
「荒らしますかデス」

きらり、とセスの瞳が輝いた。
先ほどまでとは比べ物にならない大きさの魔法陣が、天井に展開する。

天候魔法(ウェザーマジック)の奥義を―――――喰らうがいいデス!」

ぶわっ!と。
空気が揺れる音がした。
窓はカタカタと震え、髪が引っ張られるように流れていく。

「くっ・・・」
「何だ、この風は!?」

ミストガンは覆面を抑え、床に突き刺した杖を支えに持ち堪える。
ヴィーテルシアは全身の力を体を支える事だけに集中させ、どうにか凌いだ。
カッ!と瞼の外で強い光が溢れたのを感じながら、ヴィーテルシアは目を開き―――――

「なっ・・・!?」

言葉を失った。
ふとミストガンを見上げれば、覆面から覗く目が微かに見開かれている気さえする。
それほど、目に映る景色は衝撃的だった。
それが“魔法”という、並外れた力の結果である事は当然知っていたが、驚きは大きかった。






「――――――――異常気象(アブノーマル・ウェザー)






セスの呟きが、激しい雨と雹の音に混じって消える。
そう――――――雨と雹が降っているのだ。
()()()()()()()()()()

「異常気象・・・」

セスの言葉を繰り返してみて、納得する。
太陽の光に照らされながら雨と雹が降り、雷が至る所に落ちながら虹がかかっている。雪と霰、霙も降り始め、突風が吹き、小規模の台風を幾つも創り出す。
これは異常気象としか呼べない。

「・・・そういう事か!」

納得したと同時に、ヴィーテルシアは気づく。
すぐさま考えを巡らせて―――――1つの結論に辿り着いた。

「気づきましたか、リーシェ・・・既に出遅れなのですが」

ルナの不敵な笑み。
それが何を意味するかをヴィーテルシアは知っていた。
どうにかしなければ、と体を起こそうとして、痛みが走り、表情を歪める。

「貴方達の命は終わる。終焉の刻は来た」

小さい呟き。
ルナの両手から、光が零れる。
赤、青、緑・・・その色の数は、8。

「ミストガン!避けろォ!」

ヴィーテルシアが叫ぶ。
が、ミストガンは避けるどころか魔法を使う仕草も見せず、ただ立っている。
その様子に、ヴィーテルシアは目を見開く事しか出来なかった。

「諦めがいいのは素敵な事ですね―――――殺しやすくなる」

どこまでも平べったい声。
その声を聞いたヴィーテルシアがルナに目を向け、セスが笑い――――――







天体の交響曲(アストロナミカル・シンフォニア)!」







目も開けていられないほどの光が、放たれた。
ぎゅっと目を瞑ったと同時に、熱や冷気、突風を肌で感じる。
そして、爆発音に似た激しい音が耳に飛び込んできた。

「っ・・・ミストガン!」

全てが治まったのは、魔法発動から30秒ほど経った時だった。
恐る恐る目を開けたヴィーテルシアは、避ける動きさえしなかったミストガンの安否を確認するべく叫ぶ。
が――――――どこをどう見渡しても、ミストガンの姿は、ない。

「・・・ミストガン?おい、どこに行った!?返事をしろッ!」

その声が震える。
杖も、覆面も、影すら残っていない。
ヴィーテルシアは最悪の考えを思い浮かべたが、すぐにそれを否定する。
否定したかった―――――でも、その可能性は完全には消えなかった。
その考えを見透かしたように、ルナが口を開き、ヴィーテルシアを追い詰める。

「消えたんじゃありませんか?貴方だって知っているでしょう?天体の交響曲(アストロナミカル・シンフォニア)の威力は」

知っている、なんてモノじゃない。
あの魔法の威力は半端じゃない、とヴィーテルシアは知っている。
何故なら――――


「だって、貴方も受けてますものね?貴方がリーシェだった、最後の日の戦いで」


そう。
ヴィーテルシアがリーシェ―――――つまり、副作用の影響がなかった頃、リーシェとして最後に戦った相手が、ルナ・コスモスだった。
天体の交響曲(アストロナミカル・シンフォニア)を受け、今のようなボロボロの姿になり、それでも魔法を振るって戦ったヴィーテルシアは―――――その戦いで、副作用を受けた。
最後の力を振り絞ってルナに勝利したヴィーテルシアが元の姿に戻ろうとした時にはもう出遅れで、願うモノ全てに変身出来るハズの偽り姿を変える者(ディスガイズ・ライアー)の力をフルに使っても、元の姿にだけは戻れなかった。

「確かに彼は最強候補・・・でも、何の防御もなしにあの魔法を受けて生きていられる訳がない。そうでしょう?リーシェ」

ルナの声は、至って普通だ。
が、その普通の声がヴィーテルシアをじわりじわりと追い詰めていく。

「邪魔者の排除は終わりました・・・さぁ、リーシェ。次は貴方の番です」
「来るなッ!女帝の(エンプレス)――――――むぐっ!」
「させませんよ」

オーロラガーデンの先を紅蓮に光らせるヴィーテルシアの言葉を遮るように、ルナは右手でヴィーテルシアの口を塞ぐ。
そして、空いた左手に淡い水色の光を灯す。

「残念でしたね。貴方はもう相棒には会えない・・・でも、安心してください。貴方の愛しき相棒も、今日中にそちらに逝きますから」
「・・・!」

夕日色の目が見開かれる。
その目が揺れ始め、ゆっくりと潤みだし、涙が零れた。
クス、とルナは微笑む。

「泣くほど相棒が恋しいですか?でも、ここから先へは行かせません」

ティアが恋しくない、と言ったら嘘になる。
が、ヴィーテルシアの涙の理由は別にあった。

(何も・・・何も出来ないのか、私は・・・!相棒(ティア)の危機に、動く事も出来ないのか!)

十数年前、空腹だったネコ姿のヴィーテルシアの食糧を与えてくれたのはティアだった。
ヴィーテルシアという名前を与えてくれたのもティアだったし、ギルドという居場所や家を与えてくれたのもティアだとヴィーテルシアは思っている。
いつだって、いつだってティアはヴィーテルシアに何かをくれた。
――――――なのに。

(私は、恩を仇で返す事しか出来ないのか・・・真面な礼もしていないのに!)

ぐっ、と拳を握りしめる。
足掻けるだけ足掻いてやる、とヴィーテルシアはルナを鋭く睨みつけるが、殴る力は残っていないし、魔力もとっくに底をついていた。

「ティア嬢と出会っていたのが、全ての間違いでしたね」

ティアが相棒じゃなかったら。出会う事さえなかったら。
確かに、ここに乗り込んではいないだろう。
が、ティアが起こした問題で傷ついた時や、今のような状況でも、ヴィーテルシアは思っている。

(ティアと出会わなければ、私は私じゃなかった・・・そんな暗い結末に比べれば、私の選択は明るかったハズだ)

最後まで、そう信じると決めた。
誰が何と言おうと、2つの結果の明るさにさほどの差は無かろうと、ヴィーテルシアがそうだと思えばそうなのだ。
これは、ヴィーテルシアの選択なのだから。
他の誰かにとやかく言う資格なんてない。

水星の剣(マーキュリー・ソード)

その左手に、水の剣が握られる。
切っ先は、ヴィーテルシアの首に向けられていた。
ふわり、と金髪が揺れる。

「今度こそ本当にお別れですね、リーシェ」

剣が振り上げられ、振り落される。
真っ直ぐに、何の躊躇いもなく水の剣はヴィーテルシアの首を狙い――――――








「いい夢は見られたか?」









「!」

声が、それを遮った。
反射的にルナは振り返り、ヴィーテルシアは驚いた表情でその声のする方を見つめる。

「ミストガン・・・?」

覆面に5本の杖、服の左腿辺りに描かれた『煉獄神楽』の文字。
そこにいるのは、ヴィーテルシアが見知ったミストガンその人だった。
突然現れたミストガンにヴィーテルシアは目を見開き、ルナも信じられないモノを映すように驚愕している。

「そ・・・そんな・・・貴方、何で無傷なんですか!?私の天体の交響曲(アストロナミカル・シンフォニア)を喰らったのに・・・!」

そう―――――そこに立つミストガンは、無傷だった。
ルナが驚く理由はそれである。
セスの異常気象(アブノーマル・ウェザー)と、ルナの天体の交響曲(アストロナミカル・シンフォニア)、このコンビは最強だと言っても間違ってはいない。
ルナの魔法、惑星力(プラネタルパワー)は惑星の力を借りて攻撃や防御をする魔法。例えば、火星の力を借りれば、火を操ったり、その場にある火を味方につける事が出来る。
つまり、そこに操れる属性が多ければ多いほど、ルナの力は増していく。
異常気象(アブノーマル・ウェザー)によって齎された、様々な属性が1つに集まるあの状況は、ルナにとっては自分の魔法の力が十分に発揮出来る、ルナの為の状況だった。
そんな完璧な状況下での魔法だったのに、ミストガンは傷1つ負っていない。

「・・・摩天楼」
「そうだ」

慌てるルナの後ろで、ヴィーテルシアはポツリと呟いた。
その呟きを聞いたミストガンは頷く。

(私が聞いたあの呟きは・・・摩天楼、だったのか)

摩天楼。
それは、相手に幻覚を見せる魔法。
ヴィーテルシアがミストガンの呟きを聞いたのは、セスが異常気象(アブノーマル・ウェザー)を発動するより前。
つまり、そこから先の光景は全て摩天楼の効果を受けている。
ルナが攻撃したのは幻のミストガン―――――本体であるミストガンが無傷なのも当然だ。

「っセスさん!もう1度です!異常気象(アブノーマル・ウェザー)を・・・」
「無駄だ」

くい、とミストガンがセスを指さす。
ヴィーテルシアとルナはその指さす先に目を向けた。
そこには、俯いて立つセスの姿。

「なっ・・・」

ルナが目を見開く。
2人がこっちを見るのを待っていたかのように、2人が向いた瞬間に、セスは糸の切れた操り人形のように倒れ込んだ。

「セスさん!」

ルナはヴィーテルシアから離れ、セスに駆け寄る。
慌ててその体を起こすと、規則正しい寝息が聞こえた。

「霧幻奈落か?」
「ああ、眠ってもらった。私が解除しない限り、眠っている」

霧幻奈落は睡眠の魔法。
確かに、先ほどからセスが静かだな、とは頭の片隅で思っていたが、まさか眠っていたとは。
ヴィーテルシアは「なるほどな」と頷く。
すると、ルナがセスを寝かせ、振り返った。

「ならば私1人でお相手します。セスさんの力がなくても、天体の交響曲(アストロナミカル・シンフォニア)の威力は・・・!」

ルナが叫び、止まった。
固定された訳でもないのに、固定されたように動けなくなる。

「効果はあったようだな」

ニヤリと笑みを浮かべたのは、ヴィーテルシアだった。
俯せ状態から、オーロラガーデンを支えに座り込む状態に変わったヴィーテルシアは笑みはそのままに、空いている右手に持つ長方形の紙に張ってある、丸いシールのようなモノを見せる。

「ティアお手製の“麻痺ノ印”。お前は私を追い詰める事に意識を持って行かれ、これが貼られている事に気づかなかった。あと3分は効果が持続する」

先ほどの接近を、ヴィーテルシアは無駄にしなかった。
ニヤリとした笑いをそのままに、ミストガンを見上げる。

「すまない。後は頼む」
「任せておけ。既にアイツは、私の術の中にある」
「!」

その言葉に、ルナは辺りを見回した。
気づけばルナの周りには、ミストガンが背負っていた5本の杖がルナを取り囲むようにして突き立てられている。
そして―――――1つ、また1つと魔法陣が展開し、最終的には5つの魔法陣がルナの頭上に現れた。

「な・・・何これ・・・」
「いいか?ヴィーテルシア」
「構わん。知り合いとはいえ、ティアを危機に晒すのであれば―――――敵だ」

一応念のためにミストガンが問うが、返ってきた答えは聞くまでもなかった。
そうか、と小さく呟き、ミストガンが―――――吼える。








「五重魔法陣・御神楽!」








「きゃあああああああああああっ!」

5つの魔法陣から放たれた、強力な光線。
麻痺ノ印によって動けないルナに防御の手はなく―――――叫びと共に吹き飛ばされ、そのまま気を失った。








落ちていく、落ちていく。
ゆっくりと落ちる意識は、在りし日の記憶を夢として見せる。
忘れ去りたい、でも忘れられない、永遠に残る記憶。
逃げ出そうとして、逃げられなくて、それが自分の罪であると諦めたあの日。









それが本当に夢ならばどれだけいいか、と。










―――――――眠る少女は、何度も何度も願い続けた。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
最近更新ペースが戻って来てる気がする今日この頃。
さて、マミーにザイールにセスにルナが倒れ、次はヒジリかなー。
・・・なんて考えて、グレイとパラゴーネも書いたのにその先がまだな事を思い出しました。
しかもライアーVSヒジリより書いたの先なのに・・・。
・・・でもライアーかな、どうしても書きたい事があるので。

感想・批評、お待ちしてます。
ミストガンの口調って難しい・・・。 
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