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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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救世主


「くっ・・・うぅ・・・」

傷だらけの体に鞭を打ち、ヴィーテルシアは立ち上がろうと力を込める。
が、立ち上がる為の力がもう底をついており、腕や脚が震え、歯を食いしばらないと立ち上がれない。
限界寸前状態ながら何とか立ちあがり、魔導杖『オーロラガーデン』を握りしめる。

「まだ立ち上がりますかデス?」
「当たり前、だっ・・・私は、負ける訳には・・・行かな―――――――」

最後まで言う事は不可能だった。
ヴィーテルシアの夕日色の瞳に宿る闘志を確認したセスは、緩やかな動作で右腕を薙ぎ払うように振るう。
その動きに合わせて魔法陣が展開する。

雷よ、落ちろ(フォール・サンダー)
「ああああああっ!」

煌めいた魔法陣。
そこから、金色に輝く雷が、ヴィーテルシア目掛けて落ちる。
ブチッと音を立ててヘアゴムが切れ、ふわりと金髪が広がった。
それと同時に、ヴィーテルシアの体が再び床へと倒れ込む。

「私は強い相手と戦うのが好きなんデス。あなたは強いと思っていたのに・・・がっかりデス」

ふぅ、と息を吐き、セスは首を横に振る。
じくじくと痛む傷に意識を持って行かれそうになりながら、ヴィーテルシアはセスを睨んだ。

(まずい・・・奴の魔法は万能で攻撃系。変身主体の私が相手するには分が悪い・・・)

ぐっ、と唇を噛みしめる。
ここにティアがいてくれたら、と考え、その考えを瞬時に打ち消した。

(いない人間の事を考えていても仕方がない。今の私に出来る精一杯の事をしなければ・・・)









「オラァ!」

鎖が飛んだ。
それを視界に入れたライアーは、握りしめた愛槍、フィレーシアンを構える。

「ハアッ!」

鉄で出来ている鎖の繋ぎ目。
そこを狙い、ライアーは鋭い突きを繰り出す。
突いて貫く事は、槍使いであるライアーの何よりの特技だ。

「ケッ、やるじゃねーか。嘘つきさんよォ」
「嘘は嫌いだ、そう呼ばないで貰いたい」

鋭くライアーが睨みつける先にいるのは、青年。
灰色の髪に、左が青、右が赤のオッドアイ。
黒いTシャツに灰色のパーカー、ベージュの細身パンツ。
指の部分だけがない手袋から、蛇のようにうねうねと動く鎖が伸びている。

「にしても、名乗ってもいないのに俺の名を知っているとは・・・」
「敵の事知るのは当然だろ?“嘘つきな地獄の猟犬”」
「・・・人のフルネームをわざわざ直訳するな。俺とて自分の名は好んでいない」

むっ、と不機嫌そうに眉を寄せるライアー。
1つに結えた黒髪が揺れる。

「人の名を知っておきながら己は名乗らないというのは些かおかしいと思うんだが。貴様、名を名乗れ」
「名前聞くのに“名を名乗れ”は上から過ぎると思うけど、まぁ答えてやっか」

ガシガシと髪を掻き毟る。
首元に、狂ったような道化師(ピエロ)の紋章―――――災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)の紋章があった。

「オレはヒジリ・ファルネス。災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)の魔導士だ」
「・・・極悪なる拘束者(ヴィシャス・バインダー)か」
「何だ、知ってんのか」

ライアーは答えない。
ただ、その頭の中に、目の前の青年に関する噂を浮かべていた。

(“殺しこそがコイツの生きる理由”・・・とか何とか言われていたか)

曰く、鎖で骨を砕いた。
曰く、縄で人を貫いた。
曰く、拘束以外の行動をせず人を殺した。

「・・・どうしようもない奴だな」
「初対面のテメェに言われたくねぇよ!つか、言ってる事がルナと同じだっての!」

噂を思い出し、無意識にライアーは呟いていた。
その表情には凄まじいまでの呆れが見える。
それを聞いたヒジリは思わずキレた。

「ルナ?誰だ一体」
「テメェにゃ関係ねーだろ!?そのウザったい口一生使えねーように封じてやんよ!」
「それは困るな」

ヒュンヒュンと飛び交う縄を、ライアーは最低限の動きだけで避ける。
相手は感情的すぎて動きが単純になっていて、避けやすいのだ。

「だーっ!ヒラヒラヒラヒラ避けやがって!うぜぇから動くなっ!」
「断る!」

空気を切り裂く音と共に、ライアーはフィレーシアンを振るう。
縄を切り、続けて飛んだ鎖を突き、跳躍して、振り下ろす。
目の前で飛び交う鎖や縄を着実に消していきながら、ライアーはヒジリへと向かって行く。

「桜花連斬!」

フィレーシアンを横薙ぎに振るう。
その動きに合わせ、桜の花弁が縄に向かって飛ぶ。
刃のように鋭く尖った花弁はいとも簡単に縄を切り裂き、鎖に張り付いて小規模の爆発を起こした。

「チィッ!」

魔法で生み出した縄達が簡単に斬られたヒジリは表情を歪めると、床を蹴る。
ドカドカドカ!と音を立てて花弁が床に突き刺さり、ざっと数えただけでも軽く20を超える傷跡を残した。
喰らっていたら一瞬で傷だらけだっただろう。

(やべーな・・・拘束(ボンテージ)じゃ攻撃主体のアイツにゃ勝てねぇ。近距離専門のアイツから距離取っちまえばこっちのモンなんだがな・・・)

ライアーは近・中距離攻撃を得意とする魔導士だ。
槍が届く範囲なら敵はなし(だと思う)、桜花連斬のような“飛ばす”魔法もあるが、それでも『術者がいる距離から槍が届く範囲まで』と飛ぶ距離は決まっている。
対照的に、ヒジリはどちらかといえば遠距離攻撃を得意とする。
彼の魔法―――――拘束(ボンテージ)はその名の通り拘束する事に特化した魔法。遠くから伸ばした縄や鎖を振るって相手を殺すのがヒジリの戦法だ。
が、当然相手は自分の得意な近距離で仕掛けて来る訳で、しかもライアーはスピードもある。
こちらが距離を取る前に相手に距離を詰められてしまう為、ヒジリの攻撃が間に合わないのだ。

「鎖共!嘘つきな地獄の猟犬ぶっ殺しちまえ!」
「人の名をわざわざ直訳するなと―――――――言ったハズだッ!」

ジャラリ、と音を立てる鎖を、ライアーは躊躇う事なく斬り裂き、突く。
実はこの男、苦労人である事で霞んでいるが、チーム内ではクロスの次に強い魔導士なのだ。
勿論、遠距離戦は苦手なので、遠距離攻撃ではスバルやヒルダに軍配が上がるが。

「テメッ・・・」
「漆黒連斬・・・」
「がっ!」

ギリッと歯を噛みしめたヒジリ。
そんなヒジリを鋭く睨みつけたライアーは、容赦なくフィレーシアンを振るった。
縦に振るい、横に振るい、壁を蹴って宙を回転。

「常夜!」
「ぎいっ!」

落下しながら、容赦なく一撃叩き込む。
小規模の闇がヒジリを襲う。
ビリビリとした、全身を襲う痛みに、ヒジリは思わず膝をついた。

「どうした。もう終わりか?」

ライアーが呟く。
ヒジリはライアーを見上げ、睨んだ。

(オレがここまで手こずるたぁ、久々だな。コイツの強さはホンモノだ・・・)

ニィ、と。
口角が上がる。

(だけど)

ヒジリの本性―――――悪の、塊。
今までは、ただのお遊び。言うならば準備体操。
もう、準備は十分だ。

(テメェの弱点は知ってんだよ・・・地獄の猟犬(ヘルハウンド)!)

ライアーとて人間、弱点の1つや2つは当然存在する。
そして、それをヒジリは知っている―――――否、教えてもらった。
道化の中の情報網、月の女神の名を有する少女に。

「特殊拘束・幻影の拘束(ファントムバインド)ッ!」

バッ!と両腕を広げる。
魔法陣が床に展開し、光を放った。
否、光と言うよりかは、闇と言った方が正しいのだろう。
漆黒の闇が輝いた時―――――そんな感じだ、とライアーは思った。

「・・・何も起こらない?」

ふと、自分の体に目を向ける。
が、拘束されるどころか傷1つない。
魔法は不発か?等と考えていると、ヒジリが口角を上げたまま顔を上げた。
その表情は、悪に歪んでいる。

「ククク・・・何が起こったか解らねぇって顔してんな」
「その通りだからな。それ以外の表情など出来ない」
「だったら教えてやるよ。これがテメェの最後だってなぁッ!」
「?何を・・・」

ぶわっとヒジリが腕を振るい、漆黒の闇の光を消し去る。
瞬いた光に思わずライアーは腕で目を覆い―――――光が消えたのを確認して、目を見開いた。

「そんな・・・まさか!」

声が震える。
声だけじゃない。フィレーシアンを握る手も、足も、身体全体が震えている。
ライアーは視力はいい方だが、今回ばかりは自分の目が悪くなったのかと疑った。
自分の目に映る者が現実なら、そこにいるのが確かなら―――――。







「ティア!」







叫んだのは、少女の名。
想って想って想い続けて、結局そのまま何年もの月日が経った相手。
カトレーン本宅にいる筈の彼女が、そこにいた。
彼女の師匠のような服を纏い、髪をポニーテールに結えて。

「何で・・・貴様、何のつもりだ!」
「何のつもり、って・・・そうだなぁ、殺しちまうには惜しいし、オレの女にでもするか」
「なっ・・・!」

ティアの白い頬をスーッと撫でる。
歪んだ笑みを浮かべるヒジリを、無意識のうちに鋭く睨んでいた。
1度抜けかけた力が戻る。
驚愕で震えていた体が、今度は怒りで震えていた。

「貴様・・・ッ!」
「ははっ!冗談に決まってんだろ?ティア嬢に手ぇ出したとなりゃ、オレはシャロン様に殺されちまう」

溢れそうな感情を必死に抑え込もうとするライアーを、ヒジリは心底可笑しそうに笑って眺める。
もしライアーが炎の魔法を使っていたなら、辺りの温度は急激に上がり、陽炎さえ見えていただろう。

「それにコイツは幻影・・・ニセモンだ。ホンモノは本宅にいる」
「何!?」
「言ったろ?特殊拘束って。ティア嬢から魔力を少し拘束させてもらった。で、その魔力でティア嬢の幻作っただけだ。ホンモノそっくりだろ?」

ケラケラと、ヒジリは笑う。
確かにそっくりだ、と思った。
眠るように(実際に眠っているのだが、それをライアーは知らない)目を閉じ、白い肌に映える青い瞳は姿を隠している。吐息を零す小さな唇。スッと通った鼻筋に、華奢な体型。手足はスラリと長く、典型的な(何て言ったらクロスが激怒しそうだが)美少女である。

「それで・・・貴様は一体何がしたい。ティアの幻を作る必要があるのか?」
「必要ねーなら作らねぇよ」

嫌な予感がした。
気づかぬ内に、じっとりと汗が滲む。
ごくり、と唾を呑み込み、嫌な予感が予感で終わりますようにと祈る代わりに、フィレーシアンを握りしめた。

「見えるか?ティア嬢の左腕。模様があるだろ?」
「・・・ああ」

頷くのは何となく癪だが、その通りなので頷く。
ティアの白い左腕。
そこには、禍々しくも美しい模様が、ブレスレットのように輪になって巻き付いていた。

「これは生体リンク魔法の一種でな。対象を攻撃すると、別の人間がその分の痛みを負うってモンなんだ。で、この幻は“対象”・・・」
「・・・まさか」

嫌な予感は、予感で終わってくれなかった。
溜息をつきそうになって、慌てて息を呑みこむ。





「“別の人間”はティア嬢本体って訳だ」





当たっていて欲しくなかった。
外れる事を願っていたが―――人生、そう甘くはない。

「言っとくけど、オレは幻を盾にしようって訳じゃねぇ」

少し意外だった。
ライアーは目を見開く。
こういう場合、高確率で自分を守る盾にするものだ―――――と、ライアーは多くの戦闘経験から学んでいた。

「こうするだけだ」

口角が、僅かに上がる。
幻の周りに魔法陣が展開し、そこから植物のように鎖が生えた。
うねうねと動く鎖は、その矛先を幻へと向けている。

「テメェがオレに攻撃しようが構わねぇ。けどな、オレが攻撃を受けた瞬間、鎖が幻を攻撃する―――――あとは言わなくても解るよな?」

解った。が、それを受け止めたくなかった。
ライアーは返事はせず、ぎゅっと唇を噛みしめる。

(つまり、俺がアイツに攻撃をすると鎖が幻を攻撃する。が、痛みを受けるのはティア本体・・・という訳か)

つまり、ライアーは攻撃出来ない。
ライアーが攻撃をすれば、目に見える傷を負うのはヒジリだ。が、痛みを負うのはティアである。
そんなの、ティアを傷つけている事に他ならない。
そして、ライアーには恋心を抱く相手を傷つける事なんて、出来ない。
だからずっと想い続けるだけだったようなものだ。自分が想いを告げた時、ティアがそれによって苦しい思いをするんじゃないか、と不安で。

「汚い手を・・・」

ヒジリを倒すには、最低でもあと10回の攻撃が必要だろう、とライアーは読んだ。
だが、それではティアが10回痛みを受ける事になる。
そして、10回以内で倒せなかった場合は――――――――その先は、考えるのを放棄した。
魔法が使えない状態にあり、尚且つ眠っているティアに防御の手はない。

「汚い?へっ、バカ言ってんじゃねぇよ。戦いってのはな、勝つか負けるか、倒すか倒されるかなんだ。手なんて関係ねぇ。結果だけが全てなんだよ!」

ヒジリは叫ぶ。
ティアを助ける為に相手を倒さねばならないのに、攻撃をすればティアが傷付く。
手詰まりのこの状況に、ライアーは唇を噛みしめた。












「あぐっ!」

床に叩きつけられたと同時に、全身に痛みが走る。
乱れた金髪を結え直す事はせず、ヴィーテルシアは傷だらけでボロボロの体を無理矢理起こした。
更なる痛みが身体を襲うが、気づかないフリをし続ける。
そうする事で、痛みが少し和らぐんじゃないかと考えたのだ。

「強くはないけどしぶといデス。いいからとっとと朽ち果てるデス!」
「お断りだ!戦女神よ、罪深き者に断罪の剣を(ヴァルキリー=ソード・オブ・コンビクション)!」

上空から降る、聖なる剣。
が、セスは特に慌てる様子を見せない。
それどころか、避ける仕草も、魔法で防ぐ仕草も見せない。

「アイツ、一体何を・・・」

相手の不審な行動に、思わずヴィーテルシアが眉を顰めた。
―――――――その時、だった。






土星の盾(サターン・シールド)






土の盾が、セスを守った。
剣はいとも簡単に受け止められ、消える。

「アルカ!?いや、違う。これは・・・太古の魔法(エンシェントスペル)か!」

一瞬、土系の魔法を操るアルカを思い浮かべたが、アルカにセスを守る理由はない。
それに、アルカの魔法なら最初に『大地(スコーピオン)』とつくはずだ。
それに合わせて漂う普通とは違う魔力・・・失われた魔法(ロスト・マジック)を使うヴィーテルシアは過敏に反応した。

「セスさん、私がいるのに気づいているからと言って無防備になるのはやめて頂きたいのですが」
「ごめんなさいデス。でも貴女ならきっと守ってくれると思ったデス」

響く、ブーツの音。
しゃらり、と軽やかな音も聞こえる。
1人の少女が、暗闇から姿を現した。
現れた姿に、ヴィーテルシアは目を見開く。







「ルナ・コスモス―――――――――……!?」







栗色の髪を左耳の横でお団子に結え、紫のリボンで飾り、銀色のストーンが散りばめられた紫のチュニックと七分丈のデニムを纏う少女。
先ほど聞こえた軽やかな音は、彼女が付ける星のネックレスの音だろう。
彼女の名はルナ・コスモス。
災厄の道化(ミスフォーチュンクラウン)の魔導士だ。

「え?・・・ああ、貴方ですか。リーシェ」
「その名で呼ぶな。今の私はヴィーテルシアだ」
「随分と長ったらしい・・・女っぽいですが、リーシェの方が短くて呼びやすいですけれど。それにリーシェは貴方の本名でしょう?」
「過去の話だ。今の私はヴィーテルシアであり、それ以外の名ではない」

夕日色の瞳が、ルナを睨む。
対するルナの瞳も冷たくなる。
・・・唯一この状況から外されているセスは、ルナに声を掛けた。

「知り合いですかデス?」
「ええ、まあ。彼女・・・いえ、彼がフリーの魔導士として活動していた時に、少し」

そう言って、ヴィーテルシアに目を向ける。
ヴィーテルシアは、文字通りボロボロだった。
傷だらけで、体力も魔力も既に限界。ワンピースはズタズタで、金髪は乱れ、所々で長さが違う。
その瞳に宿る闘志だけは、戦う前と変わっていない。

「もう諦めたらどうですか?私だって知り合いを殺したくはないんですよ。解るでしょう?」
「解せないな」

ルナの言葉を、ヴィーテルシアは直ぐ様否定した。
ピクリ、とルナの眉が上がり、セスは意外そうに目を見開く。

「これが私1人の戦いなら、とっくに諦めている」

オーロラガーデンを支えに、ヴィーテルシアは立ち上がる。
その脚はがくがくと震え、立っている事さえやっとな状態だった。

「だが、これは私1人の戦いではない。私がここに立っていられるのは、誰かの力があったからだ」

それは、外で戦っているギルドのメンバー達であり。
それは、別の塔で戦っているであろうメンバー達であり。
それは、固い意志を更に固くする、囚われたティアの存在であり。

「私が諦めるという事は、仲間の協力を拒むという事に等しい」

ぐぐぐ・・・と、体に力を込める。
息を切らし、痛みが走り、変身する魔力も攻撃系魔法を使う魔力も残っていないけれど。




「人の善意を拒んで倒れる事を許されている程、私は立派な存在じゃない」




全て、倒れる理由にはならない。
ヴィーテルシアが倒れるのは、自分の中から戦う意志が消えた時。
何度確認しても、何十回何百回と確認しても、自分の中には戦う意志がある。
なら、まだ戦える。
絶対に、立ち上がる事が出来る。

「・・・そうですか」

ふぅ、とルナが息を吐いた。
その目が、凍る。
冷たい眼差しが、真っ直ぐにヴィーテルシアを見つめる。

「そこまで言うのであれば、知り合いとして、私がトドメを刺しましょう。我が惑星力(プラネタルパワー)を用いて」

右手が、淡い光に包まれる。
その色は青。
青が何を示すか、ヴィーテルシアは知っていた。

(・・・最後まで強がる事しか出来ないとは、情けない事だ)

目を伏せる。
戦う意志はある。が、動けない。
諦めていい理由は無いはずなのに、その意志に反して体が動かないのだ。
杖を振るえば攻撃系魔法は一発くらいは放てるだろうが、今杖を攻撃に使えば、ヴィーテルシアの体の支えが無くなる。

(すまない、ティア・・・もう、動けないみたいだ)

がくり、と。
ヴィーテルシアは膝をついた。
支えがあっても立つ事が出来ない。それは、限界が来た事を表していた。
―――――否、とっくに限界は来ていたのだ。
ヴィーテルシアがそれを限界と認めず、無視し続けていただけで。

(皆・・・後は、頼んだ、ぞ・・・)

ふらり、と体が後ろに倒れ込む。
それを視界に入れながらも、ルナの右手には魔力が集まっていた。

「さよなら、リーシェ」

その小さい呟きが、ヴィーテルシアの耳に届いたかは、解らない。
右手に魔法陣が展開し、青い光を帯び――――――




水星の砲撃(マーキュリーブレイカー)




その手から、水の砲撃が放たれた。
避けるほど体力はない。防げるほど魔力はない。
本当の意味での、終わりだ。

(ティア・・・)

ヴィーテルシアは、最後に思い出す。
青い髪を靡かせ、青い瞳を向け、薄く微笑む相棒の姿を。
つられる様に、ヴィーテルシアも微笑んだ。

(お前に会えて、幸せだった・・・)

最後に会えない事を寂しく思いながら、ヴィーテルシアは瞼をゆっくりと下ろす。
砲撃はすぐそこまで迫っていた。
――――――――だが。

「!」

ヴィーテルシアと砲撃の間。
そこに、人が入り込んできた。
その姿を見たヴィーテルシアは、目を見開く。

「あれは・・・」

その名を呟こうとした。
が、それより早く、その人物が行動に出る。







「三重魔法陣・・・鏡水!」







魔法陣が三重に展開する。
その魔法陣目掛けて向かって行く水の砲撃は、魔法陣に当たって“跳ね返った”。

「なっ・・・」
「何事デス!?」

ルナとセスも何が起こったのか解らない。
ふわり、と魔法陣が消え、その人物の姿が明らかになった。
――――明らかになった、と言っていいのか解らないが。

「お前は・・・」

ヴィーテルシアが小さく呟く。
そこに立つのは、男だった。
腕や脚はもちろんの事、顔さえも覆面で覆った姿。僅かに見える目元の、鋭い瞳。
杖をその手に握り、真っ直ぐにルナとセスを睨みつけている。

「本来なら、裏で動くだけのハズだったのだが・・・ギルドの仲間の危機は見過ごせん」

その、圧倒的な魔力。
全身を覆った明らかに怪しい容姿でありながら、絶対的な信頼を置ける存在。
安心したヴィーテルシアの目には、涙が浮かんでいた。

「来て・・・くれたのか・・・」

男は何も言わず、ただこくりと頷く。
絶対的な安心に包まれたヴィーテルシアは、救世主である男の名を呟いた。














「―――――――ミストガン」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
よし、今のところ書きたいように書けてる・・・ハズ。
次回はVSセス&ルナ決着です。

・・・ふと思った事。
ライアーのシーンを書いてる時に、最近ライアーお気に入りだなーって思っていて、「そういやEMTで1番人気って誰なんだろう・・・」と。
やっぱりティアなんですかねー・・・。
作者お気に入りはライアーとパラゴーネです。

感想・批評、お待ちしてます。 
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