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少年少女の戦極時代Ⅱ

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禁断の果実編
  第60話 偽りの月


 変身時、ロックシードの力でアームズを生成すると平均して20~30センチ、身長が伸びる。
 加えて貴虎の声に近く設定した変声機を装着した。これで正体が知れるとしたら、葛葉紘汰がこの身の胸、特に乳房を思いきり掴んだ時くらいだ。それも密着しなければ容易く回避できるリスクである。

 全ての事項を脳内で確認し終えた湊耀子は、口元に三日月のような弧を描き、「斬月」として葛葉紘汰に存分に斬りかかった。

 …

 ……

 …………

 のこのこと工場に現れた葛葉紘汰は、湊扮する「斬月」の弓閃によって傷つき、床に転がった。

「何すんだよ!? どうしたんだよ、貴虎!」

 「斬月」は答えない。紘汰に一方的に斬りかかり、紘汰を地面に転がし倒した。とどめとばかりに弓を振り上げる――

 その「斬月」を、斜め上から降ってきた一斗缶が直撃した。
 「斬月」はたたらを踏んで、一斗缶が飛んできた方向を睨めつけた。

「ふん。やはりこういうことか」
「戒斗!?」

 駆紋戒斗はコンテナから飛び降り、紘汰の横に立った。

 彼は貴虎が斬月の装着者だとそもそも知らない。問題はない。湊はそう判断し、改めて弓を構えた。

「問答無用というわけか」

 戒斗が構えたのは、他でもない湊が与えたゲネシスドライバー。因果応報かしら、と益体もないことを考える。

「待て、戒斗! 貴虎は敵じゃない!」
「ここまでされて何を言う!」

 言い合いは大きな隙。「斬月」は戒斗に、そして紘汰に弓を揮った。だがどちらも今日まで戦ってきただけあって躱されてしまった。

 戒斗のほうがゲネシスドライバーを腹に装着し、レモンエナジーロックシードを開錠してセットする。

「変身」
《 レモンエナジーアームズ  ファイト・パワー ファイト・パワー ファイ・ファイ・ファイ・ファイ ファ・ファ・ファ・ファ・ファイト 》

 赤いライドウェアにレモンの鎧をまとったバロンが、同じ弓で斬り込んでくる。「斬月」はバロンの弓を全て受け流し、時には足元のドラム缶を転がしてこちらからもソニックアローを撃った。

 ――アーマードライダーデュークは、例えば戦極凌馬のような戦いに不向きな人間でも高い性能を発揮するよう、斬月・真、シグルド、マリカにはない改造が、アーマーパーツのあちこちに施されている。
 ゆえにデュークとの賢い戦い方は、なるべく切り結ばず、ソニックアローで遠距離からダメージを与えること。
 だが、駆紋戒斗の正面突破型のスタイルは、デュークの性能とマッチして、「斬月」を押した。

(ソニックアローを飛ばす隙がない……!)

 湊はぶるりと震えた。
 恐怖にではない。彼女は歓喜していた。
 強い人が好き。その強さがどこまで行くのかを見たい。それこそが彼女の戦う動機なのだから。

(いけないわね。今は仕事中なんだから)

 「斬月」はバロンと弓で切り結び、弾き合って下がった。



「何でだよ貴虎……本気で俺たちを……」

 紘汰が呟いた。「斬月」はマスクの下でほくそ笑んだ。

 そう、葛葉紘汰にそう思わせることこそ、今回の目的。
 室井咲、呉島碧沙と共に逃亡した貴虎が、葛葉紘汰と接触する前に、彼らの関係に亀裂を入れておく。さすれば両者の、特に葛葉紘汰の性格から、彼らの共闘関係は簡単に決裂する。そうして孤立無援となった彼らを一人ずつ仕留めればいい。

 バロンが踏み込む。「斬月」も前へ出た。弓による必殺を期した一撃が炸裂する――

「っ……ゃめろおおおお!!」
《 カチドキアームズ  いざ出陣  エイ・エイ・オーッ 》

 変身時特有のオレンジの光粒子を放ちながら、葛葉紘汰が「斬月」とバロンの間に飛び込んだ。
 「斬月」とバロンの一撃は、鎧武の両手のカチドキ旗によって止められた。二人して弾き飛ばされる。

 だがその優位の状態から、鎧武はカチドキ旗を投げ捨て、地団太を踏んだ。

『貴虎、何でだ! 分かってくれたんじゃなかったのかよ!』

 今になってさえそれを問うのか。今までは笑いを堪えていた湊も、ここまでの愚直さに少しずつ苛立ちを覚え始めていた。

(これは確かに、光実君やシドが苛立ってもしょうがない類の人間ね。――付き合いきれない)

 「斬月」はロックシードをバックルから外し、弓にロックした。

《 ロックオン  メロンエナジー 》

 頭上にエネルギーを撓めたソニックアローを放つ。翡翠と金のソニックアローは空中の一点で爆ぜ、矢の雨を鎧武とバロンに降らせた。

 その隙を突き、「斬月」は廃工場から速やかに撤退した。 
 

 
後書き
 今回は長めです。シーンとしてはあっというまなのに。アルェ?
 タイトルは読んで字の如し。ただし中の人は違いますがね。

 湊さんにした理由は本作の現時点で湊さんが一番自然だったからです。
 それともう一つ。光実の誤射(本人の中では誤射という認識)の件が、彼女の中に小さな棘を残しているのでしょうね。 
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