魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~
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Chapter39「理想と真実の物語〜反転する日常」
前書き
毎度更新が遅れて申し訳ありません。
少ない文量ですが、楽しんでいただけると幸いです。
『ここがユリウスさんの家?』
『ルルのお家?』
『ナァ~』
ドヴォールでクラン社発注のクエストをこなし、得た報酬でトリグラフまでの移動制限を解除できる借金を返済したルドガーはジュードとエルを連れ、トリグラフの自宅マンション前に居た。
『……俺の家だよ。居候だけど』
『知ってる!イソーロってニートのことでしょ』
『………』
指を指して得意気に話すエル。あながち間違っていないのでルドガーは何も言えず、若干八歳児に告げられた一言でどうにか就職先を探す決意を固めるのであった。
「エルちゃんって……どこでそんな言葉覚えたのかな……?」
「さぁね。きっと、アンタより頭はいいんじゃないかしら」
「ティア酷いよ!」
室内に入って直ぐまずどうどう動くか考えていたルドガーとジュードは、餌場で鳴くルルを見て、ここに帰ってくるまで何も食べていなかった事を思い出して、空腹感を満たすため、食事を取る事にした。ここからはルドガーの腕の見せ所。食い気のあるスバルやリインはどんなルドガーのトマト料理が出てくるのか心待ちにする。
『あ!エル、トマト苦手!』
キッチンでザルに乗っているトマトを手にしようとした時、エルが咄嗟に話した。
『わかった。トマトは入れないよ』
『まったく、パパとか大人は、なんでトマト好きかなー?』
トマト嫌いなエルは、腕を組んでトマト好きな人間が理解できないと話す。
「あれ?」
「どうしたの、はやてちゃん?」
ルドガー達の会話を見て何かに気付いたようなそぶりを見せるはやてに、なのはが尋ねる。
「いやな、ルドガーやったらトマト嫌いってエルちゃんが言ったら、お子様だなとか好き嫌いはダメだとかワリと厳しい事を言うと思ってたんやけど……なんか違和感を感じたんよ」
「そう言えばルドガーさん、ニンジンが苦手だって話したら好き嫌いはダメだぞって、言われた事がありました」
はやてに限らず、キャロやルドガーを知る者からすれば、彼がエルにトマト嫌いという言葉に対してかけた一言が微妙に引っ掛かっていた。
(なんやろう?ルドガーとエルちゃんが接している姿見とると、まるで……)
自然に話すルドガーとエルの姿を見て、頭の中で出掛けた決してありえる事のない一つの単語を思い浮かべたが切り捨てる。
テーブルにジュードとルドガーの作る食事を心待ちしていたエルの前に、一皿に注がれたスープをルドガーが並べていく。当然トマトは入ってはいない。それもあってエルは口にスープを含んですぐ、あまりの美味しさにん~!と唸り、ジュードは彼のスープの味をプロ並みと絶賛し、鼻が高くなるルドガー。
そんな時、エルが感想でパパのと同じくらい美味しいと口にした事で、まだエルの父親が現在どこにいるか気になったジュードはエルに尋ねるが、エルはわからないと話し、カナンの地を目指しているのは、父親を助けてほしいと願うためだという。そんなエルから事情を聞いていた時だった。
この場所に絶対姿を現さないような人物が訪れたのは。
『お邪魔するよ、ルドガー君』
ルドガー宅に秘書のヴェルを連れたクラン社社長ビズリーが現れる。
列車テロ後安否がわからなかった、突然のビズリー達の来客に一同驚いく。
『ビズリーさん!無事だったんですね』
『私は、な』
何か試すような目を向けるビズリー。
そして直ぐにその目が意味する事を身を持って知る事になる。
『ぐっ!』
いつからそこに居たのか、突如天上からサングラスを着けた銀髪の男が現れ、ルドガーを蹴り飛ばした。あのルドガーが不意討ちとはいえ、あっさり倒れたのを見てシグナムは、今の彼から現在では想像がつかない未熟さを覚え、ここからどうルドガーが強くなっていくのか知りたくなっていた。
『驚いているヒマが!』
ルドガーを倒した男は、今度はジュードに襲い掛かるが、逆に今度はあっさりと後ろに回りこまれると腕を取られ、押さえつけられた。
『ある……ようだな……』
『イバル……』
「……変なのが出てきたな」
ジュードの言動から、イバルという男と顔見知りだと知るヴィータ達。
イバルの行いを見て笑うビズリーは、イバルの事を気に入ったのか、彼を雑務エージェントに任命する。
雑務という言葉を聞けば、あまりいい感じがしないが、天下のクラン社社長に仕事を与えられる事は実は凄い事だったりする。
『なんのマネですか?』
突然の来訪から、自分達への襲撃。挨拶にしてはやりすぎだ。
厳しい口調で、ビズリーに問うジュード。
『状況がわかっていないようだな』
秘書のヴェルに目で指示を出し、リビングにあるテレビのスイッチを入れさせる。
画面に表示されたのは、やはり列車テロ絡みの内容だった。
もうあれから何時間も立っており、色々と状況も変わってくる頃だ。
[自然工場アスコルドを巻き込んだ列車テロの被害状況が明らかになってきました。列車衝突による爆発で、アスコルドは全焼、列車の乗客と工場の人員、合わせて2000名以上が死傷しました。被害額は100億ガルドを越え、最終的には500億ガルド以上にのぼるとみられます]
被害は甚大だった。テロでもミッドでは例がない被害の規模に、はやて達は絶句してしまっている。
だがこれはまだ始まりに過ぎない。
[当局はテロ首謀者として、クランスピア社社員…ユリウス・ウィル・クルスニクを、全国に指名手配しました]
『……っ!』
画面にユリウスの顔社員が映されると同じく、イバルがユリウスとは似ても似つかない手配書を見て、驚くルドガー達と六課メンバー。
『違います!ユリウスさんは---』
『あの状況で私に斬りかかった男が無実だというのかね?』
『警察は、複数の共犯者がいるとみて、関係各所を捜索中です』
『当然、君は最重要参考人だ』
ユリウスの手配書を持つイバルが、もう片方の手にルドガーの手配書も取り出す。
……相変わらず本人とはかけ離れた人相だ。
はやては手配書のやる気の無さを見て、警察は事件を解決する気があるのか若干呆れてしまう。
しかし今はそんな事よりも、ルドガーが立たされている状況が重要だ。
重要参考人とは形だけで、実質共犯扱い。
法の下で動く自分達だからわかる。
いつ逮捕に踏み切られてもおかしくはない。
『エルもルドガーも関係ないってば!』
『容疑者の弟が、事件の日に偶然駅に勤め、列車に乗り込み、容疑者と一緒に消え去った……これを信じろと?』
『くっ……』
『信じてよー!』
ルドガーは完全に濡れ衣を着せられているが、これを今ビズリーに証明する事はできない。
その上今の自分が立たされている状況すら理解できていないのだ。
『事実なら証明してみせろ。ユリウスを捕えれば、真実は明らかになるだろう』
『!?』
『でも、メガネのおじさんは……』
『あの男は生きている』
『数時間前、社長のGHSに連絡が入りました』
『!』
ヴェルの話した内容は兄ユリウスの生存情報だった。
兄が生きていた事に安堵するも、この時は驚きの感情の方が勝った。
そして何故無事だったのなら連絡をくれなかったのか。
『我が社のトップエージェントだ。警察に捕まるたまじゃない……が、身内になら隙を見せることもあるだろう。どうだ?やるというなら、警察は私の力で抑えよう』
ビズリーがルドガーに与えた選択はあまりに酷なものだった。
この提案に従わなければ、ルドガーは間違いなく警察に逮捕される事になる。
『わかった。兄さんを捕まえる』
進む道は1つしかない。ルドガーはビズリーの提案に乗ることにした。
ルドガーも知りたかったのだ。
自分とユリウスが巻き込まれているこの騒動について。
『迷いがないな。いい判断だ』
『ルドガー……』
「解せんな」
シグナムはビズリーがルドガーを執拗に事件に関わらせようとする意味を理解できない。実力があるとはいえ、ルドガーのような一般人を巻き込む意味がどこにあるのか?
身内の立場を利用する以外に、何か他にビズリーの狙いがあるように見えていた。
『これで君はクランスピア社の保護下に入った』
『現在の有力情報は、ふたつ。前室長は、ヘリオボーグのバランという研究者と交流があったようです』
ヴェルが現在ユリウスの足取りに関する情報をルドガー達に伝える。
『また、マクスバードで、執拗にユリウスについて探る人物が目撃されています』
『バランさんが……』
『いっぱい言われてもわかんないですー!』
情報を伝えたビズリー達は部屋を後にしようとする。
『ヘリオボーグとマクスバードに行ってみろってことですね』
何の意味もなく、ビズリーがこんな情報を残していくはずはない。
ジュードの言うとおり、ビズリーはルドガーに2つの場所に行けと行っているのだ。
だがそれには……
『また、お金ないとダメかも……?』
不安の表示を浮かべたエルの言うとおり、移動制限のかかっているルドガーは自由に列車を使うことができない。
その為には、借金をまた少し返す必要がある。
せめて2つの場所への移動制限を解除に掛かる借金の返済をビズリーに頼もうとするが……
『結果も示さず報酬を求める……ユリウスは、君をそんなふうに育てたのか?』
『っ!』
自分の考えが甘えたものだったとはいえ、大切な兄を馬鹿にされたルドガーは、ビズリーをキッと睨む。
だが睨まれたビズリーは全く気にもせず、ヴェルとイバルを引き連れ今度こそ部屋を後にした。
「なんや……次から次に悪い話しが舞い込んでくるなぁ……」
「ルドガー君って大分苦労してたんだね」
目的地への移動制限を解除する為、クエストをどんどんこなしていくルドガーを見て、彼が壮絶な人生を歩んでいたのだと思わず声をもらすはやてとなのは。他の者も同じ気持ちなのだろう。
だがこれはまだほんの序章に過ぎずこれから更にルドガーが苦しむことになるとはこの時まだ、誰も知る由もなかった。
後書き
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