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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~

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Chapter40「理想と真実の物語〜路地裏に潜む魔」

 
前書き
最近スマホ専用ゲーム「テイルズオブアスタリア」にはまってしまってます。

そしてエクシリアシリーズファンである私にとって嬉しいことに、なんと常磐でエルが
登場。

分史ミラ様やルドガーがストーリーで出てきたら感動で泣いてしまうかもしれません(笑)

ちなみ私はアスタリアではここと同じゼロ・クルスニクのネームで遊んでいます。
またギルドも作ってまして、名前がチームオブゼロという名前になっております。

もしこの前書きを見てゲーム内で私と絡んでみたいという方がいたら
ぜひ声をかけてくださいね。

では、お話をどうぞ……
 

 
クエストを受け、ネコ派遣でネコが集めてきたアイテムをひらすら売り続けることを繰り返して何とか一部の移動制限を解除できることになったルドガー。

だが解除できると言ってもマクスバードとヘリオボーグのどちらか一方であり、片方を選べばまた借金を返して移動制限を解除しなければならない。
まず優先さを考慮すれば、マクスバードにまず行くべきだろう。

ユリウスを探している人物がいつまでもマクスバードにいるとは限らない。
そう決めたルドガーはノヴァにマクスバードの移動制限を解除してもらい、ジュードとエルと一緒にリーゼ・マクシアとエレンピオスを繋ぐ街、マクスバードへと向かった。

『なんか変な人がいるー!』
『……ははは……』

到着早々、さっそく港の貨物置き場で不審な女性を発見する。
黒いキャスケットを被ったその女性は、しゃがみこんで、貨物の間の隙間に居座るネコに必死に話してかけており、ジュードは女性と知り合いなのか、渇いた笑い漏らしていた。

『こわくないよー。こっちおいでー』

近くまで来たものの、話し掛けるかどうか悩んでしまう。
どうしようか考えていると、女性は背後に立つルドガーとエルに気付いて立ち上がり、振り替える。

『あ!怪しい者じゃないですよ』

手を振って、慌てて怪しい者じゃないと言うが、今の行動を一部始終見ていた人間からすれば、怪しさ抜群もいいところ。

『…何してるの、レイア?』
『ジュード!?』

呆れてような表情をしたジュードが少女に話し掛け、少女はジュードを見て驚く。
この少女の名はレイア・ロランド。
リーゼ・マクシア人で、ジュードの幼なじみ。

そんな彼女がこんなところで何をしているのかというと……

『ネコと遊んでるの?』
『じゃなくて、事情があって、あの子をつかまえなきゃならないの』
『レイア、新聞記者になったんじゃなかったけ?』
『だから、事情があるんだってば!』

どんな事情があるのかはわからないがこの時のルドガーをはじめ、六課メンバーもジュードが新聞記者という言葉を使わなければ、レイアがネコと戯れているか、ネコの世話をする仕事をしている人間だと思っていただろう。

『俺が捕まえてやるよ』

普段からルルの面倒を見ている自分ならネコの一匹や二匹くらい、捕まえる事なんて朝飯前。
自信満々な表示でネコの前に行き、手を伸ばすが……

『いつっ!』

捕まえようとするルドガーへ威嚇するネコは、彼の手を爪で引っ掻く。
レイアが手を焼いていた理由を身を持って知った。
どうやってネコを捕まるか考えていると、ルドガーが動く前にネコの方がどういう気の変わり方かはわからないが、自分から出てきた。
これを絶好のチャンスと見たレイアは、ネコを捕まえる事に成功した。
だが、ルドガー達は次のレイアの発した言葉に驚きを隠せなくなる。

『ユリウス、ゲットー!』
『ユリウス!?』
『はぁ!?』

この場で出てくるはずのない名前を聞き、耳を疑うエルとルドガー。
信じたくはなかったが、ビズリー達からもたらされた情報のオチがとんでもなく、笑えるものになるのではと予感してしまう。

そして案の定……

『そ。この子の名前。ユリウス・ニャンスタンティン三世』

このネコユリウスは、レイアの会社のスポンサーの飼いネコらしく、レイアは上司からネコユリウスを探すように言われていたらしい。

「ルドガーのお兄さんを探している人って、このレイアって子だったんだね……」
「とんだ無駄足やったってことやな……」

実際に足で動いて探しているわけでもないが、フェイトとはやても、ルドガーとエル程にもないが、全くユリウスと関係のない情報に踊らされ、当事者でなくても落胆してしまう。

『レイアは、ネコを捕まえる人?』
『ちーがーうー!新聞記者!真実を追求する誇りある仕事なんだから』

自身の仕事について自慢気に語るレイア。しかし、これは好機だ。
駆け出しとはいえレイアは新聞記者だ。
新聞記者という職種は幅広い範囲の情報を収集し、世間に広めることが仕事。
ルドガー達が欲している情報を彼女が持っていてもおかしくはない。

『ね、なにか列車テロの新情報入ってない?』
『あの事件は謎だらけだよね。クランスピア社のエリート、ユリウス・ウィル・クルスニクが指名手配されて……』

そこまで言い掛けて、レイアはある事に気がつきはっとなる。

『ユリウス……クルスニク!?』

ルドガーとユリウスに共通するキーワードである“クルスニク”のファミリーネームに気がついたレイア。

『また面倒に巻き込まれてる?』

問い掛けに対して、頷くジュードを見てガックリとうなだれるレイア。
この反応で六課メンバーはジュードが筋金入りのお節介を焼く人間だと確信したが、なのはとフェイト、はやては彼と自分達が似た者同士だとは気付いてはいなかった。

『でも、ルドガーは』
『わかってる。ジュードの友達だもんね……行こ!』
『行くって?』
『ドヴォール』

ドヴォールにはレイアの顔見知りの情報屋がいるらしく、その情報屋なら列車テロについて何らか情報を持っているかもしれない。ルドガー達はレイアをパーティに加え、ドヴォールに向う事にした。
自身に関係のない事でも、他者を助けようとするその人柄は、ジュードと同じで彼女の美点だ。

『……あれ?さっきのネコさんは?』
『しまった、逃げられたぁぁっ!せっかく捕まえたのにぃ~!』

おかげで、本来の仕事を失敗してしまったが、頑張り屋なレイアなら落ち込まずに前に向かって進むだろう。
フォワード達には彼女の良いところを見習ってもらいたいと、この場にルドガーがいたならそう思うはずだ。

『あの黒いメガネの人、見たときある!』
『……ははは……』

マクスバード・エレン港の駅に向かっている中、エルがしゃがんで何かをぶつぶつと話している、イバルを発見する。立て続けに顔見知りでしかも、変人じみた行動を見たジュードは、やはり渇いた笑いしか口からでてこなかった。

『ふむふむ、束縛される生活に嫌気がさし、自由を求めて旅に出たと……気持ちはわかるが、浮き世の風
は冷たいぞ?』

「ねぇ、ティア……あの人ネコに話しかけてるみたいだけど」
「みたいじゃなくて、そうなのよ」

隣のスバルが話しかけてきた内容に簡単に応えはしたが、ティアナ自身ネコと会話できる人間を見たことがないため、正直自信を持ってそうだとは言ってはいない。

『なんとか三世としゃべってる!』
『うわっ!そのコ捕まえて!』
『えっ!?』

レイアの大声に驚いたイバルは、何故か持っていたハンマーを地面に落としてしまう。
当然、ネコユリウスはイバル以上に驚いて逃げ出していった。
だがネコユリウスのことより、六課メンバーはイバルが持っているハンマーの方に興味があった。
彼の持っているハンマーは彼女達もよく目にしていたクランズウェイトだったからだ。

『見たか、ルドガー!猫もまっしぐらに逃げ出す新装備だ!ありがたく受け取るがいい』
『…………』

気を取り直してクランズウェイトを振り回してルドガーがに手渡すが、だんだんとイバルのことが色んな意味ど可哀想に見えてきた為、顔を反らす。

『くっ、使い方は、わかっているんだろうな!』

ハンマーの使い方をレクチャーするため、サングラスを放り棄て、二振りの短刀を構えるイバル。
いきなりすぎだ。

『ハンマーのコツを教えてやる!それは!「ふるパワー」だ!』
『え?』
『なに…この人…』

ドヤ顔で声高にギャグを叫ぶイバルに、対峙するルドガーと近くで見ているエルは冷ややかな視線を向けている。

「うわぁ……ぜんぜん、笑えへんわぁ……」
「リインはちょっと、おそろしさすら感じたですよ……」

イバルからハンマーの扱い方を実戦で受けるルドガーと同様に、はやて達はイバルのズレたジョークのセンスに若干引いていた。

『き、基本はわかったようだが、一つ言っておく』

初めてとは思えない槌の扱いで、イバルを退けたルドガー。
遠慮なく痛めつけられたイバルは、肩で息をしながら少しの間をおき、ルドガーへ指を差して叫んだ。

『街中で、遠慮なく振り回すな!』

日頃の鬱憤と自宅で受けた借りを上手く返す事に成功し、得意げな表情を見せるルドガー。

『まったく、人の迷惑を考えろ……』

言うことをきっちり告げたイバルは、ヨタヨタと歩いてルドガー達の前を去っていく。
その後暫しの会話をした後、レイアの知り合いの情報屋と会うため、ドヴォール行き列車へと一同は乗り込んだ。

「それにしてもクルスニクは、初めて使う武器をああも容易く使いこなすとは」
「ルドガーにはある意味、天性の才能があるのかもしれないね」
「天性の…才能……」

シグナムとフェイトの会話を聞いたティアナは、話しの中心であるルドガーの天性の才能という言葉について考えてしまう。自身の事を強くないとティアナにルドガーは語ったことがあった。
本当の強さは力の強さではないとも彼は言った。
今のティアナにはまだ、ルドガーの言う強さが何なのかはっきりとわからない。
だが、それもルドガーの記憶を見れば何かわかるような気がしていた。

『レイア、おそーい!』
『ごめーん』

ドヴォール駅に着いたルドガー達は、レイアの知り合いの情報屋、ジョウと改札前で落ち合った。
見た目からしてとても情報屋に見えないが、今はこのジョウという女性から列車テロに関わる情報をどんな些細な事でも得なくてはならない。ルドガーは情報を得る為に情報量として代わりに、列車で自分が見た事をジョウに話し、いくつかの情報を得る事ができた。
その内容は近頃ブラートという民間自治組織が、アルクノアに源霊匣の素材に必要な精霊の化石と増霊極を流しているという情報だった。
更に源霊匣の研究者であるジュードに免じて、ジョウはもう1つ興味深いネタをくれた。
この街の裏路地に“魔神”が出るらしいのだ。
もしかすれば、その魔神はユリウスかもしれない。
そう考えれば真相確かめる必要がある。
さっさく一行はジョウから仕入れたネタを確かめため、裏路地へと向かった。

だが……

『動くな、Dr.マティス』

ジュードの背中に銃口が突き付けられる。

『ジュード!』
『奴らから、あんたの身柄確保も依頼されてるんだ』

裏路地でルドガー達を待ち構えていたのは、魔神ではなくブラートのメンバー達だった。

『こんな街中で!』
『問題ない』

男が言葉を言い終えて間もなく、無数の足音と共に数人のブラート達に袋小路に追い込まれてしまう。状況は明らかに不利だが、このまま何もしなければジュードは連れ去られ、アルクノアに引き渡される事になる。当然目撃者であるルドガー達も間違いなく口塞ぎに始末される。
この状況を打開する為、そしてジュードを助ける為にルドガーはブラートに悟られぬよう、周りを見渡し突破口を探す。

(……ごめん、ルル)

これから行うことを心の中で謝罪しながら、足下にいるルルの尻尾を踏みつける。

痛みのあまりルルはたまらず鳴き声を上げる。

『ギャニャ!?』
『!?』

ルルの鳴き声でジュードに拳銃を突き付けるブラートの注意が逸れる。

『ぐわっ!』

ジュードはその隙を見逃さず、一瞬で体を翻して、ブラートを突き飛ばす。
突き飛ばされたブラートは弾みで拳銃の引き金を引く。

裏路地に銃声が鳴り響いた。

『きゃああっ!』

銃声に驚いたエルが悲鳴を上げる。すると、周りの景色が飲み込むれるように歪んでいく。

「これはあの列車の時と同じ!」

列車で同じ光景を目撃していたなのは達も、同じように世界が飲み込まれていく様子を見て異変に気付く。次に目に映った中に、ブラートの面々は消えていた。
街の様子もどこか雰囲気が違う。

暫く辺りを歩いていると、再びブラートの男が近づいてくる。

『どうした?ずいぶん顔色が悪いが……』

親切を装うブラートの男。
別に背後から拳銃を取り出して近づく男に気付いたジュードは、素早く拳銃を抑え相手の自由を奪った。

『あなたたちやアルクノアが、僕を憎む気持ちはわかります……』

説得をしながら、抑えていた男を解放する。

『でも、源霊匣は信じてください!あと一歩で実用化できるんです!』

目の前にいる人間達からすれば、ジュードは邪魔な存在なのだ。
だがそれでもジュードは、源霊匣のことを彼らに信じてもらいたかった。

しかし……

彼の必死の説得は通じず、ブラートの男は仲間を呼び集める。

『ジョウめ、喋ったな!』
『手加減するな。どうせリーゼ・マクシア人だ!』
『……っ』

結局以前と同じような状況に陥ってしまった。
袋小路に追い込まれ拳銃をルドガー達に向けるブラートの面々。

万事休すかと思われたその時……

『では、こちらも遠慮なく』

静かな声と共に突如短剣が降ってくる。
地面に刺さった3本の短剣が、光の線を結んでブラート達の動きを封じる。

『精霊術!』
『危ないところでしたね』

ブラート達を拘束するものが精霊術だとわかったジュード達の前に白髪の老人が現れる。

『ローエン!』

はやて達もこの老人がルドガーの仲間の1人、ローエン・J・イルベルトだと顔を見て直ぐに気付く。

『誰……?』
『一緒に旅をした仲間なんだ』
『なんでも知ってる、頼りになる人だよ』

エルの質問に対してジュードとレイアが答える。

『カナンの地が、どこにあるかも?』
『カナンの地……ですか?』

なんでも知っているという事を聞いて、エルはカナンの地がどこにあるか、ローエンなら知っているのではと期待を寄せる。

『そう、なんでも願いを叶えてくれる不思議な場所!』
『それは……』

カナンの地の事を聞いたローエンが何か言い掛けるが、動きを封じられたブラート達が言葉を遮る。

『ふん、そんな場所があるなら願いたいもんだ。リーゼ・マクシア人を皆殺しにしてくれってな!』
『素手でこんなマネできる化物どもを同じ人間と思えるか!』

カナンの地の事を知ったブラート達が叫ぶ。
全てのエレンピオス人が彼らのような事を思っているわけではないのだが、2つの世界の住人ではないなのは達は人と人とが分かり合うということが、言葉以上に難しい事なのかと思い悩む。

『……同感です』

何を思ってそう話したのかブラート達にローエンは同感だと告げる。
そして自らの術に拘束されるブラート達に向き直り、別の術を新たに行使するローエン。

『ぎゃあああっ!』

三角に結ばれた線の中で炎が燃え盛る。
その中にいたブラート達は、その身を焼きつくす業火のような炎に断末魔の叫びをあげる。
直ぐに彼の叫びも聞こえなくなった。
幼いエルに見せないようルドガーはエルを庇い、同じようにフェイトもエリオとキャロの立つ。
炎が収まったその場にブラート達の姿はなかった。

『ローエン、何を!?』

ブラート達を精霊術で燃殺したローエンに、彼をよく知るジュードとレイアも信じられないような目をしている。

『知れたこと。エリーゼさん、ガイアスさん、ドロッセルお嬢様……皆の仇を討つ。断界殻を消してしまった罪を償わなければ』
『違う、この人は……』

目の前のローエンの姿をしたナニかは、自分達の知るローエンではない。
レイアは確信する。

『そのお二人も始末しましょう』

エレンピオス人のルドガーとエルに向け、取り出したサーベルを向けた。

『ローエンじゃない!』

姿や口調は同じでもわかる……自分達の知るローエンはこんな冷たい目はしていない。

『どのみちエレンピオス人は、皆殺しにするのですから』

目の前のローエンが黒く変色する。

そう……これは列車の中で見たユリウスと同じものだ。
異形と化したローエンはルドガー達に襲い掛かる。
ルドガーはジュードとレイア、仲間とリンクアーツを駆使してローエンと戦いを繰り広げる。

『ハアッ!』

戦いの終盤、再び意思とは関係なく骸殻が発動し、現れた槍でローエンを貫く。
引き抜いた槍の先端には列車で見た歯車らしいものが貫かれた形であった。
そして歯車は時期に砕け、運命共同体とでもいうかのように世界も砕け散った。

気がつくと同じ場所で、眼前にローエンに殺されたはずのブラート達が、ルドガー達を血眼になって探していた。

『い、今なにをした!?』

ルドガー達に気付いたブラートは、拳銃を向ける。

『精霊術ってやつか!?』
『やっぱり、リーゼ・マクシア人は化物だ!』

もう何度目か分からない、数えることすら疲れてしまう窮地の状況。
ルドガーはエルを庇うように立ち、ブラート達と戦う意思を決める。


『そこまでだ』


双剣を構えようとしたその時、路地裏に威厳と自信に満ちた声が響き渡る。
ブラート達の背後に黒いコートに身を包んだ男と、ローエンが立っていた。

「ロ、ローエンさん!?でも、ローエンさんは……」

「って、あの黒髪の人って確か……」

消えたはずのローエンは勿論だが、その隣に堂々と立つ男の素性に気付いてリインとスバルは口をパクパクして驚いていた。

『なんだ、貴様ら---』

ローエン達に気付いたブラート達は警戒して拳銃を向ける。
だが、ブラート達が持っていた拳銃は全て男が長刀を使い、目にも止まらぬ早さで弾き飛ばした。
その卓越した剣技を目にして、騎士としての闘争心を刺激されたシグナムは、この男と刃を交えたいという欲求を必死に心の奥底に抑えこもうと自分自身と戦っていた。

『ひとつ教えてもらおう』

ブラートの1人に長刀の切っ先を首に突き付ける。

『アルクノアは、なぜ源霊匣の素材を集めている』

男はルドガー達が知りたかったアルクノアが源霊匣を集める理由についてブラートに問う。
そしてブラートは語る。アルクノアは源霊匣の暴走をテロ利用し、
その危険性を世間に広め、源霊匣の信頼と和平政策の妨害を効率よく図るという内容だった。

『なるほど、策としては悪くない』

目的を聞き出すと、男は首から突き付けていた長刀を下ろす。

『殺さないのか……?』

殺されると思っていたブラート達からすれば、なぜ目の前の男が長刀を下ろしたのか理解できないのだろう。

『俺は化物ではないのでな』

男が刃を振り下ろさなかった理由を知ると、ブラート達は一目散に逃げ出した。

「この男が……ガイアス王か」

ガイアスという男の名を呟いたシグナム。

彼女はガイアスの背中を見て、彼がただの実力が高いだけの男ではないと感じていた。

『一朝一夕にはいかんな』
『この街は、リーゼ・マクシア人への反発が特に根強いようですね』

ガイアスとローエンは逃げるブラート達の背中を見ながら、越えなければならない壁の高さを改めて実感している。

『カナンの地に願えば、うまくいくかも……』
『カナンの地?』

警戒をするルドガーの後ろから、恐る恐るだがエルなりの言葉でガイアス達に話しかける。

『お願いを叶えてくれる不思議なところ……です』

次にエルの言葉に対してどうこの二人が反応するのか。
いつでも武器に手をのばさるように身構える。

『ほっほっほ、夢のあるお話ですね』

返ってきた言葉はルドガーとエルの思ってもみなかったものだった。
雰囲気も優しい物腰の老人という印象だ。
あの黒く変色したローエンとはまるで別人だ。

『でも、人の心を自由に変える力があるとしたら恐ろしいことです』
『人が人である理由がなくなるのだからな』

人の心を自由に変えられるということは、人から意志を奪うことだ。
世界は良くも悪くも人が動かし、未来へと進んでいく。
もし歩みを止めた世界で生きていたとしても、それは生きているとはいえない。

『大丈夫、本物だよ』

2人を警戒し、その話す内容に呆気に取られていたルドガーとエルを安心させる。
街に来てから気を許せない状況が続いていたが、ここでようやく落ち着くことができ、肩の荷が落ちる。

『ありがとう、ローエン。ガイアス』
『……アーストだ』

少しの間を置いて、礼を言うレイアにガイアスはそう応える。

『今の俺は、一介の市井の男。ゆえにアーストと呼んでもらおう』
『エレンピオスの民衆の声を知るため、お忍びで行動されているのです』
『でも、いいのかな?リーゼ・マクシアの王様なのに?』
『王様!?』

ガイアスの正体がリーゼ・マクシアの王だと知り、目を輝かせているエル。
子供にとって王様とは絵本に登場する人物でありまさに夢のような存在だ。
以前ガイアスがアーストと言う名で忍びで世界を歩いていたことをルドガーからはやては聞いていたが、やはり口調と独特の雰囲気から身分を上手く隠せていないような気がしてしまう。
また“王様”の称号を持つ人間はクセの強い人間ばかりだなと、ガイアスを見て自分とよく似た容姿をした少女の事も思い出していた。

『エル、王様って初めて見た!』

エルと同じルドガーも実際に王様を見るのは初めてだった。
ガラにもなく少し緊張してしまい、ガイアスの事を何て呼ぶか考えるが直ぐにまとまったようだ。

『ありがとう、アースト』
『……それでいい』

心から感謝の言葉を告げる。
リーゼ・マクシア人が化物だと騒いでいるエレンピオス人がいたが、その化物達の頂点に立つことになるガイアスを見れば、騒いでいる人間の声なんて侮辱もいいところ。
エレンピオス人もリーゼ・マクシア人も何も変わらない同じ“人”なのだ。

『意外と子どもっぽいこだわりがあるようで』
『なにか言ったか?』
『いえいえ』

笑って軽く誤魔化す。
会話だけを聞いていれば一国の王と宰相のものとは思えない。
だがそんな2人だからこそリーゼ・マクシアという国の舵をきることができているのかもしれない。

『ひょっとして、路地裏の“魔人”ってガイ……アーストのことだったのかな?』

ガイアスと言い掛け、本人に睨まれてしまい、慌ててアーストと言い直すレイア。

『けど、怖いその人も、メガネのおじさんに似てた』
『怖い私?』

ジュードは自分達の周りで起きている現象の説明をガイアスとローエンに始める。
話しを聞いたローエンは自慢の髭を撫でながら情報を整理する。

『気になるか、ローエン?』
『かなり』
『根拠は?』

ジュードの話しから導き出した考えの根拠を求めるガイアス。
名軍師“指揮者(コンダクター)”の異名を持つほどのローエンが現実離れしたルドガー達の話しを注視するという事実が、彼が事態の深刻さが高いものと取ったのだと、はやて達は思っていたのだが……

『勘です』

問いに対するローエンの口から出た応えは彼女達が予想していたものと斜めにいくものだった。
以前ルドガーからローエンの事について聞かされてから、彼の能力に興味を持っていたティアナだったが思いがけない言葉に思わず「は?」と口にしていた。

『わかった。調査は任せる』
『かしこまりました』

ガイアスに一礼するとローエンはルドガーを見る。

『そういう訳で、お供させていただいてよろしいでしょうか?』
『かまわないよ』

ローエンの同行を断る理由もなく、むしろ頼りになる味方が増えることは願ったりことだ。

『ローエン・J・イルベルトです。お見知りおきを』

ローエンは気品ある落ち着いた声で、改めて自己紹介をする。

『ジュード---』
『わかってる。落ち込んでる暇があったら、源霊匣を完成させる努力をするよ』

ジュードの決意を確認したガイアスは、路地裏から去っていく。
はやてには去りぎわのガイアスが、ジュードの決意を確認してふっと笑ったように見えた気がした。
結果としてユリウスの情報は入らず、おもいっきり空振りではあったものの、一部のエレンピオス人の中で高まりつつある反リーゼ・マクシア感情の実態と源霊匣を悪用しようと動く、アルクノアの策略を知ることが出来たのはジュードは勿論、ルドガーにとっても良い収穫だった。

この世界の進む先に何があるかは未だわからないが、いつでも分岐点をきるのは人でありその意志だ。


はやて達は何かを“選択”するという意味を改めて考えるこになった。


 
 

 
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