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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~

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Chapter38「理想と真実の物語〜負債は道連れと共に」

見知らぬ部屋で目覚めるルドガー。
バーらしき店に設置されたテレビからは、ニュースが耳に入ってくる。

[完成したばかりの自然工場アスコルドへ暴走した列車が脱線衝突し、大敗しました。被害規模と死傷者の数はつかめていませんが、当局は、リーゼ・マクシアとの和平に反対する、テロ組織アルクノアによる、要人殺害を狙った自爆テロという見方を強めています]

ルドガー達が無事だったことは幸いだが、列車がアスコルドに衝突して数えきれない人間が亡くなった事に、異世界で起こった事とはいえはやて達は心を痛め、こんな大事件を自分達の世界で起こさない事を誓う。

『列車テロだってさ。ぶっそうだねぇ』

バーチェアに座る長髪の赤いスーツの男が言葉とは裏腹に感情のこもっていない声で、テレビを見ながらルドガーに話しかける。

『何がどうなってる?』
『ここはドヴォール。線路脇で君たちを見つけたんだが、病院は怪我人でいっぱいでね。やむなく、ここに運んで治療した、というわけさ』

命の恩人だと話す男からは胡散臭さが臭うが、ルドガー達を治療した事に変わりはない。
赤いスーツの男に礼を言う。

『リドウさん、ルドガーたちの様子はどうですか?』

バーの扉を開けて、ジュードが入ってくる。ジュードの無事を確認して安心する。

『目が覚めたんだね!痛むところはない?』
『問題なく治療完了。二人ともね』

ソファーで横たわるエルは目立った怪我もなく、その姿を見て安心する。

『さすがクランスピア社の医療エージェントですね』
『いやいや、俺の医療黒匣が、精霊術より優れているだけだよ』

「うわぁ……嫌な奴」

ヴィータがリドウの態度を見て正直な印象を口にする。
実際リドウの性格の悪さと医療エージェントとしての腕は天下一品だ。
勿論こうなったのには理由があるが、それはルドガーでもわからない事。
GHSが鳴り外に出て行くジュード。

テーブルの上には金の懐中時計が置かれている。列車でユリウスの持っていた物とエルの時計が一つになった事が思い出され、手に取ってまじまじと見つめる。

『うう……ん』

目を覚ますエル。
ルドガーが持つ時計を見て返してとせがむ。

『エルの時計!返して!』

ルドガーの時計とエルの時計が一つになった事から考えれば、厳密にはエルの時計ではないが、子供にわかる理屈ではないのだろう。
現にエルは今後長らくこの時計を自分の物だと言い続けた。

『ケガ、大丈夫なのか?』

時計のことよりエルのケガのことが心配だったルドガーは、素直にエルのことを気遣った。

『……大丈夫……みたい』

自分の体を確認しながらそう話すエルを見て安心する。
だが持っていた時計を腰のポーチにしまうと、エルは黙ってはいなかった。

『エルの時計とったー!ドロボー、ドロボー!ドロボーーー!!』

ルドガーにしがみ付き、ドロボー呼ばわりするエル。
小さい子供にここまで言われると、濡れ衣でも良心が痛む。

『取り込み中すまないが、二人あわせて、1500万ガルドだ』
『!?』

それまで2人のやり取りをカウンターで眺めていたリドウが2人の前に立って、エルをつまみ上げ、とんでもない金額を請求しようとする。

はやて達はガルドでの金の価値はわからないが、ルドガーの反応を見て決して直ぐ払えるものではない金額だと悟る。

『治療費だよ。君たちの命の値段』
『エル、お金なんてもってない……ひっ!』

つまみ上げていたエルをソファーに押さえつけ、冷たい目で威圧する。

『稼ぐ気さえあれば、金はつくる手段はいくらでもあるんだよ。子どもだろうが、なんだろうがな』

その一言に同じ医療に携わるシャマルはリドウに対して嫌悪感を抱く。
変な奴に目を付けられたと思いつつも、エルを押さえつけているリドウの腕を掴み、睨みつける。

『おっと、力ずくかい?社会のルールは守ろうぜ、ルドガー君』
『くっ……』

こんな社会のルールがまかり通るなら世の中なら、悪意が渦巻くだけの非情な世界だろう。
しかし、ルドガーは何も言い換えす事ができなかった。

『あの、リドウ様はこちらに……?』
『よく来てくれた、ミス・ノヴァ。彼女は、ヴェランド銀行のスタッフだ』

新たに現れた人物は列車で事件に巻き込まれ、ユリウスに殺されたはずのノヴァだった。

『ルドガー!?借金の申し込みって、あなたなの?』
『ノヴァも無事だったんだな』

借金はともかく、ノヴァが生きていた事を喜ぶルドガー。

しかしノヴァは……

『無事って……なんのこと?』

ノヴァは列車に乗っていた事など知らないとでも言うかのように、ルドガーの無事だったかという安否確認を理解できていないようであった。

「妙だな。あのノヴァという娘は確かに殺されたはずだ」
「ええ……一突きですもの……どういうことかしら?」

ザフィーラは列車で確かにノヴァは絶命したと語る。
仕事上、死体を目にする事があるシャマルもザフィーラと同意見のようだった。
ではこのノヴァは、幽霊だとでもいうのかと、シグナム達数名が議論を始めたが、状況は移りかわっていく。

『ま、それなりに大金だ』
『いやっ!』
『好きなだけ考えるといい』
『フーーーーッ!』

エルを無理矢理引っ張って行くリドウをルルが尻尾を吊り上げ、威嚇している。
悩むルドガー。ここで全て借金をエルに押し付けて、逃げ出すという選択肢もある事にはあるが、こんな幼い少女に重荷を背負わせて、自分だけ逃げ出してさよならなんて事はルドガーには選べなかった。

『わかった。契約する』
『O・K。賢明な判断だ』

エルを解放するリドウ。2人は直ぐ契約書を書く為に、斡旋役のノヴァから説明を受ける事になる。

『ごめん、話しこんじゃって……なにしてるの!?』

通話を終え、戻ってきたジュードはこの状況を見て驚いていた。

『いや、治療費が払えないというのでちょっとローンをね』
『こんな金額……!』

契約書に記載された金額を見てジュードは驚かずにはいられなかった。

『ルドガー、サインしたらどうなるか聞いた?』

首を横に振る。

『簡単に言うと、君の行動がGHSで管理され、制限されるんだ。預金残高も、細かくチェックされるはず』

つまり何もかもルドガーの行動は監視されているという事だ。

『高額債務のリストにあがった人はね、返済できるのに、ぱーって使っちゃう人も多いから』
『で、ぱーっと人生棒にふると。ルドガー君は、そんな人じゃないだろ?』

その自分の人生を鎖で縛りつけようとしている人間だけには言われたくはないが、それを言ってどうにかなるはずもない。

『だからって……』
『なら、君が肩代わりしてくれるのか?』
『そ、それは……』
『できないよなぁ?源霊匣の研究、資金が足りないんだろ?』

ジュードにはジュードの成さなければならない事があり、力になりたくてもできない。

『ね、他の方法を考えようよ』
『ああ、身内に泣きつく手があるな。例えば、兄貴にとか』
『……っ』

明らかに煽る事が目的の言葉だったが、ルドガーは兄に頼る気等毛頭なく、逆に契約書にサインをする決意が固めてしまう。それが、今のルドガーに出来る精一杯の意地だった。
契約書にサインを書くとリドウを睨みつけ、ノヴァに契約書を渡す。

『……契約成立です。でば、貸し出した2000万ガルドをリドウ様の口座に』
『ふえてる!』

借金の金額は1500万ガルドだったはずだが、ノヴァの口から出た金額は更に500万増えて2000万ガルドになっていた。

『悪い、君の家族の治療費を忘れてた』

リドウのセリフが誰を指しているか、ルドガーには直ぐわかった。

『ンナァ……』

「コイツ、ルルって猫からも金を巻き上げやがった!」
「落ち着け、ヴィータ。アイゼンから手を離せ」

記憶の映像だという事を忘れ、デバイスを起動させリドウに殴りかかろうとするするヴィータをシグナムが嗜める。

しかし、止めるシグナムもついさっき愛剣レヴァンティンに手を伸ばしていた事を思えば、気持ちはヴィータと同じなのだろう。

『また治療が必要になったら呼んでくれ。格安で相談にのるよ』

契約を結べた事を確認するとリドウはその場を後にする。
残されたルドガーにノヴァが気休めの言葉を掛けるが、そんな言葉などなんの気休めになりはしない。こうしてルドガーの苦悩の連続の日常が始まりを告げた。

「……いつか私に治療費が2000万必要か聞いてきたのは、そういう事だっのね」
「シャマル?」
「えっとですね。はやてちゃんがルドガー君と初めて会った後、ルドガー君が私に治療費が2000万くらいかかるか聞いたことがあったんです……これが原因であんな事を……軽いトラウマにもなっちゃうわよ」

誰もが納得する。
これでは相手からの親切を受けても、リドウから受けた仕打ちを思い出して、トラウマスイッチが入るのは必然だろう。

パー・プリボーイから出た一行はドヴォールの見るからに治安の悪そうな裏通りを歩きながら今後の事を話し合う。

解決しなければならない事は借金だけではなく山積みなのだ。

『これからどうするの?』
『カナンの地!』

開口一番、カナンの地と口したエル。

『エルは、カナンの地にいかないと!』
『?』

ルドガーは列車から気になってはいた。
エルがひっきりなしに口するカナンの地の事を。

『カナンの事は、古い精霊伝承に出てくる伝説の場所でね。魂の循環を司る精霊が棲んでるって言われてるんだ』
『なんでもお願いを叶えてくれる、不思議なトコロなんだって』

だんだん話が眉唾になってきたと、訝しく思えてきたルドガー。
無理もない。どんな願いも叶えてくれる場所があると聞いても、おとぎ話程度でしか取らなければ、エルのような子供が話しては更におとぎ話だと取ってしまうはずだ。
現にルドガー以外でもシャーリーやヴィータもルドガーと同じような考えだった。
特にシャーリーは精霊術を魔法と同じ科学的方面から解釈している事もあって、魂の循環を司る精霊がいると言われても信じられない。

『ほんとなのー!エルのパパが言ってたんだがら!』

あからさまに信じて無さそうな表情をするルドガーを見て、体を使って抗議するエル。
しかしそれも、次にジュードが話した言葉でルドガーの考え方が少し変わる事になる。

『……一概にお伽噺とは言えないかも。伝説では、カナンの地は、意志の槍をもった賢者クルスニクが辿り着く場所とされてるんだ』
『!』

「賢者…クルスニク?」

クルスニクの名を呟くフェイト。
まさかルドガーのファミリーネームの名の伝承の人物が存在したとは思いもしなかったのだろう。以前はやて達の前で自分の世界の話しをした際、クルスニクの名を話してはおらず、一年前のジュード達の旅で鍵を握るクルスニクの鍵についても触れてはいなかった。

「クルスニク一族……感でしかありませんでしたが、やはりただの家系ではなかったようですね」
「うん。一族って使ってる時点で何となく思っとったけど……でもまだ何かありそうやな」

そう……クルスニク一族には、はやての予想するとうり、まだ秘密が隠されている。
しかしそれが彼女の予想を大きく上回るものだとは、この時はまだ知る由もないだろう。

『槍もってた!』
『あれが現実ならカナンの地だって……けど、あれは一体……』
『………』

精霊伝承に詳しいジュードが知らないことを、エレンピオス人であるルドガーが知るはずもない。

『エルは、どうやってカナンの地に?』
『……わかんない。パパが、あの列車にのれって……』

俯いてそう話すエル。どう見ても迷子にし
か見えない。不安が見て取れる彼女を見兼ね、ルドガーはある提案を持ちかける。

『……一緒に来るか?』

ルドガーのその一言が嬉しかったのか、エルは子供らしい表情を見せた。
まあそれも直ぐにいつものツンツンしたものに変わるが。

『い、いってもいいけど……時計、返してもらってないし。あのメガネの怖いおじさん、カナンの地知ってるっぽかった』
『ユリウス……クルスニク……あれは、本当にルドガーのお兄さんだったの?』
『兄さんのはずない!』

それだけは自信を持って言える。
少なくとも、あの黒いユリウスはルドガーの知っているユリウスではなかった。

『じゃ、あの怖い人、だれ?』
『………』

何も答えられない。
あまりにもルドガーの持つ情報は少なすぎる。
事の真相を暴くにはまだ鍵が足りない。

『わかった。本物のユリウスさんを捜そう』
『!』
『ユリウスさんのGHSにかけてみた?』

まだユリウスのGHSに連絡を入れていない事を思い出し、早速GHSを取出し、ユリウスの番号を選んで、呼び出す。しかし、案の定というかユリウスのGHSは応答できない状態だと音声が知らせ、結局何も進まずじまいだ。
最後の希望は自宅にユリウスが何らかの知らせを残している事を願い、トリグラフのマンションに戻るため、ジュードとエルと共にドヴォール駅へと足を運ぶ……しかし、そこで始めてついさっき自分が立たされる事になった現実を思い知る事になる。

『発券はできないよ』

ドヴォール駅で、トリグラフ行きの切符をGHSで発券をしたら警告音が鳴り、駆け付けた駅員がルドガーを見て当たり前のようにそう告げた。

『なんでー!?』
『なんでって、この男の移動には制限がかかってる。見逃したら、こっちが処罰されるんだ』

間もなく移動制限についてノヴァから連絡が入る。
エレンピオスは携帯端末GHSで個人情報が管理されている。
これは犯罪者や、多額債務者の逃走を防止するためのシステムであり、ルドガーの場合は後者に当たり、移動制限コードが発動したようだ。

無論このシステムは、段階的ではあるが、移動制限を解除する事が可能だ。
しかし、周囲のルドガーの事情を知らない者は、移動制限がかけられている事を聞いただけで、根も葉もない話しを始め、ルドガーに軽蔑の視線を送っていた。

『まったく何をやらかしたんだか』
『まだ若いのに、人生詰んでるな』

隠すことなく堂々とルドガーの耳に入る様、駅員達は心ないことを話しながら業務に戻っていく。ノヴァのどーにかなるという軽い一言は案の定気休めにもなる事はなく、むしろ自分に課せられた重荷による重圧と、返済の先が見える事のない多額の債務により希望を失いかけそうになる。
エルを守る為に取った選択は、予想以上の険しい道のりだった。

だがルドガーにはまだ希望があった。

『ばーか!なんにも知らないクセに!』
『ナ゛ァァァ!』

改札受付に消えた、駅員にエルとルルがルドガーを庇う言葉を投げつける。

『……いこ、ルドガー!』
『町で仕事を探してみようよ』

それは他人からすれば何の価値のないものかもしれない。
でも今のルドガーにはそれが確かなる道を照らしてくれる希望の光であった。


それを支えに、ルドガーはこの借金地獄から抜け出すため、新たな一歩を踏み出した。



---オマケフェイスチャット---

「借金返済」


ジュード『キレイだけど……ただの貝殻だね』
エル『ダメかぁ……見つけるのに、一日もかかったのに……』

借金に悩むルドガーに、以前時間をかけて見つけた貝殻で借金返済に当てようと子供ながらに考えたエル。その行為にルドガーは素直に嬉しく思っていた。

ルドガー『ノヴァは友達だ。なんとかなるさ』
エル『なんとかしてくれるかなー?あのノヴァって人。ルドガーのドーキューセーで、トクベツな関係じゃないんでしょ?』
ルドガー『なっ!?』

はやて「……殺……」
なのは「あの……はやてちゃん?」
フェイト「……い、今、殺って口から出てなかった?」
シャマル「お、お二人とも~!触らぬ神に祟り無しですよー!」
リイン「リ、リイン達は夢が覚めたら、はやてちゃんを止めなきゃいけませねー…ア、アハハハですよー」

 
 

 
後書き
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