| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Epos19奇跡の箱庭・第零技術部~Garden of Scaglietti~

 
前書き
ほーら、戦闘に入らなかった。これだから私の予告は当てにならないんだ!! 

 

†††Sideルシリオン†††

体と髪を洗った後、湯船に浸かりながら俺は「最悪だ・・・」先ほどのイリスの突然の行為に頭を悩ます。はやてからは聴いていた。イリスには特定の人物に会うと、急に泣き出してしまうという突発的な感情の揺らぎがある、と。
前世(シャル)の記憶のフラッシュバック。俺がイリスと逢うことで、シャルの記憶や想いが大きく表面に出てしまうかもしれないと危惧はしていた。していたんだが、まさかハグに告白にキスの3連コンボとは予想外だった。

(あれでは現世(イリス)が可哀そうだぞ、前世(シャル)・・・)

シャルの記憶に押し潰されてイリスの精神が壊れないか心配だ。それに心配事はまだある。イリスのあの行為ではやてと俺の関係に要らぬ壁が立つかもしれない、ということだ。はやては俺を家族として好きでいてくれた。俺とてそうだ。はやてを家族として慕い、守ってきた。
多感な時期である中学へ上がる頃までは一緒に暮らせると思っていた。しかし、はやての俺に対する態度に大きな変化がある場合は「すぐにでも家を出るべきだろうな・・・」いつかは出るべき家。遅いか早いかの違いでしかない。

『シャマル。はやての様子はどうだ?』

『あ、ルシル君。えっと・・・今のところは大丈夫。シャルちゃんともちゃんと話せているし。そんなに大きな異常は見られないわ。・・・それにしても。なのはちゃん達って本当に良い子ね。可愛くて優しくて、そして面白い。はやてちゃんのお友達になってくれて、すごく感謝してる』

『ルシル。お前の言う通りあの子たちならはやての友人として問題ないだろう。我々としても安心できる程に心優しい子供たちだ』

『その分、蒐集した罪悪感が凄まじいが・・・。いや、それを受け止めねば、な』

シュリエルとシグナムも念話に参加してきた。俺は、俺の描いた“闇の書”事件のシナリオを、そしてシュリエルは“闇の書”の真実を、はやて以外のみんなに伝えた。俺の話については多少の文句(もっと早く言え等々)はあったがシュリエルと同様、シグナム達は俺のシナリオに従うことを決めてくれた。全てははやての輝かしい未来の為だ、と。
問題は、シュリエルが語った“闇の書”の真実。すでに機能の大半が破壊特化へと変貌し、完成させたところで主であるはやてを取り込んで暴走、自滅するという結末の話。話を聴き終えたヴィータとシャマルが荒れたが、冷静なシグナムとザフィーラのおかげで説得することが出来た。もしあの2人まで荒れてしまっていたら、と思うと恐ろしい。

『それで? どうするのだ、ルシリオン。フライハイトからの告白の返事は』

『ルシル君。こういうことに干渉しちゃいけないのだろうけど、はやてちゃんのことも考えてあげてね』

『私としてはルシル。お前ははやてと共にあるべきだ、と思う』

シグナムの問いに応じる前にシャマルとシュリエルがそう口を挟んできた。みんなは知っている、“堕天使エグリゴリ”と決着をつければ俺は消えることを。オーディンと名乗っていた頃に話しているからな。それでもなお、はやてを選べと言う。

『とりあえず断るよ。イリスも言っていたけど、顔合わせは今日だったし、俺は彼女のことを何も知らないからな』

イリスのことは確かに何も知らない。彼女の魂――前世であるシャルのことは嫌というほど知ってはいるが。どちらにしても報われない恋をズルズルと続けさせるつもりはない。魂がシャルのものであろうがイリスはこの次元世界での存在だ。シャルとは別人だと見なくては。

『そうか。お前にとって最良な選択をするといい。我らが口を挟むべき話ではないからな』

『ありがとう、シグナム』

『気にするな。それにしても、だ。フライハイトの告白(あれ)は、エリーゼ卿を思い出すな』

『そうなの?』

『私とシャマル、ザフィーラはその場に居らず、ヴィータやアギト、アイリに聴いた口だから・・・』

『ああ、そうだったな。突然のハグ、告白、口づけ。エリーゼ卿もそうだった』

シグナムが感慨深そうに漏らした。そう言えばエリーゼもあんな感じでハグし、告白し、キスをしてきたな。何百年も前の話だが、つい最近のような気もするよ。シャマルとシュリエルはその場に居なかったためか曖昧そうだ。

『とにかく、だ。闇の書の完成まで100ページを切った。なのは達を始めとした管理局の捜査、リンドヴルムの収集戦が今の俺たちの壁だ。リンドヴルムには徹底抗戦。管理局には臨機応変に。ヴィータにも伝えておいてくれ』

『『『ヤヴォール』』』

思念通話を切り、「はぁ~~」肩まで湯に浸かって大きく息を吐いた。完遂してみせるさ。先の次元世界とは別の方法で“闇の書”事件を終わらせる。そして俺個人の意思だけでこの次元世界の歴史を変えることが、変え続けることが出来るか。それを確かめる。

(・・・シュヴァリエル・・・)

ロストロギア収集家リンドヴルムの一員であるらしいシュヴァリエル。今すぐにでも救済したいが、まず今の俺では勝てない、返り討ちに遭うのが関の山だ。だから俺はリンドブルムの私兵から本拠地がどこかを問い質さなかった。知れば俺は彼我の戦力差を理解しておきながらも急いて突撃しかねないからだ。
それで敗北して殺され、“神意の玉座”の本体ごと消滅・・なんて冗談じゃ済まされない結末を迎えることになっては、本体(ルシリオン)の創世結界に封じられているシェフィ、シエル、カノンの魂を解放出来なくなる。それだけは絶対に回避しないといけない。ゆえに俺は時間を掛けて成長し、勝てる、という確信を得てから三強を救済することを決めた。

(待っていてくれ、シュヴァリエル、リアンシェルト・・・ガーデンベルグ)

両手で掬った湯で顔を擦り、溢れてきた悔し涙を洗い流した。

†††Sideルシリオン⇒フェイト†††

スーパー銭湯、そしてレストランでみんなと楽しい時間を過ごした私とアリシアとシャル、そしてエイミィはハラオウン家に帰って来た。スーパー銭湯でははやての家族、シグナム達と仲良くなれた、と思う。
はやてとシャマルとシュリエル(リートは付けなくてもいいって言われた)とはシュワシュワしていて気持ち良かった炭酸泉に浸かってたくさん話をしたし、ヴィータとは泡風呂で遊んだし。シグナムとは滝湯で、シグナムが剣の先生をしているっていうことで模擬戦の相手を頼んでみたり。

(シグナムのような大人の背丈に慣れれば、きっとランサーとも打ち合えるはず・・・)

魔導師戦で背丈の差なんてあんまり意味は無いけど、近接戦になる対騎士戦ではそうはいかない。リーチが重要になってくる。まずはそれに慣れないと。さすがに一般人のシグナムにランサーと同じように動いて、なんて言えないけど。
うん、とにかくはやてから聴いてた通り、シグナム達はすごく良い人たちだった。はやてのことを本当に大事にしていて、大好きで、強い絆で結ばれた家族だった。問題は、レストランでのシャルだ。

「ふんふ~ん♪」

鼻歌交じりにリンディさん(この敬称を普段から使わないと、はやて達の前で提督って言っちゃう)に買ってもらった携帯電話をいじるシャルを見る。きっとアドレス帳を見ているんだ。

「ねえねえ、何してるの、シャル?」

「ルシルにラブメール❤」

「・・・レストランで断られたじゃん」

アリシアが言い難そうに返した。そう。シャルはルシルにフラれた。それでもなおシャルは幸せそうだ。

◦―◦―◦回想です◦―◦―◦

スーパー銭湯で十分楽しんだ後、私たちは夕ご飯を済ますためにレストランにやって来た。ファミリーレストランっていう場所でテーブル席がいくつもある。私たちは団体客ということで一番奥、壁続きでベンチになってる団体席に案内された。通路を挟んで右のテーブル2卓に大人組が座って、左のテーブル2卓に私たち子供組が座る。
ベンチに座っているのは通路から順にシュリエル、ヴィータ、はやて、ルシル、そしてシャルは速攻で場所を取ってしかもルシルの手を引っ張って隣に据えた。向かい合うように座っているのが通路から順にアリサ、すずか、私、アリシア。

「ねえ、ルシルって携帯電話って持ってる?」

「一応持ってるけど・・・」

「じゃあ番号とかアドレスを交換しようよ♪ ほら、なのは達もどう?」

シャルが積極的にルシルと携帯電話を向い合せてアドレス交換を行いつつ、「シグナム達は持っていないの?」って訊ねる。だけどシグナム達からは、持っていない、との返答が。常にはやてと誰かが一緒に居て、携帯電話を持つルシルとも常に誰かが居るから持ってなくても問題ないってことみたい。そして私たちもルシルと番号やアドレスを交換、注文した料理が来るまで楽しく歓談した居た時、「イリス」ルシルが真剣な面持ちでシャルの名前を呼んだ。

「シャルって呼んで。その方がわたし嬉しいから」

「・・・シャル」

「はにゃあ~❤」

シャルは頬を赤く染めてデレデレと照れていて、そんなシャルを見ているはやては少し面白くなさそうに「むぅ・・・」ルシルとシャルを交互に見る。うぅ、壊れないでね、私たちの友情・・・。ルシルはさらに「・・・シャル、シャル・・・」って2度名前を口にして、「どうしてもシャルじゃないとダメか?」なんて訊いた。それは不思議な問いで、私たちは小首を傾げる事に。

「出来れば、なんだけど。確かにわたしの名前はイリスで、シャルロッテはフライハイト家の当主、次期当主としての証明・称号のようなもの。名乗るならイリスだって思う。でも、わたしはシャルロッテという名前が好きなの。名乗ることが許されるなら名乗りたいし、呼ばれたい」

シャルもまた真剣な面持ちでルシルに答えた。ルシルは少し考える仕草をした後、シャルに視線を戻した。

「判った。それじゃあこれからは、シャル、って呼ばせてもらうよ」

「っ! う、うん・・・ありがと」

手に取ったコップの縁に唇を付けてブクブクと水に息を吹き込んで泡立てるシャルは、本当に嬉しそうに頬を緩めてる。

「じゃあシャル。本題だ。さっきの告白、悪いけど断るよ」

ルシルから告げられたシャルの告白への返事はノーだった。楽しい雰囲気だった私たちは全員絶句、エイミィ達の座る大人席の方にも聞こえていたみたいで話し声がピタッと止まった。シャルの顔が恐すぎて見えないから俯く。
さっきまで本当に楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうな顔だったのに。でもキッパリと断られた今、どんな顔をしているのか。反動は途轍もなく大きいはず。チラッと上目使いで周りを見ると、なのは達も俯いているのが見えた。でもはやてとヴィータ、断った本人のルシルだけは真っ直ぐシャルを見ているようで、俯いていない。

「そっか。まぁ想定内だよ、断られるの」

耳に届いたのは軽い口調でそう言ったシャルの声。ここで私たちはハッと顔をあげてシャルを見る。シャルの顔は全くと言っていいほどに堪えてなくて、いま言ったように想定内だからそんなに傷ついてないって風。

「確かに急だったもんね。わたしの一方的な想い、ルシルが戸惑うのも仕方ないって思う。だから大丈夫。まぁだからと言ってこれで諦めるつもりはないけどね♪ わたしを好きになってくれるまで、アプローチは止めない。ルシルに本当に好きな女の子が出来て、もうルシルの心を手に入れることが出来ないって思い知った時こそが、わたしの初恋が終わる時だって思う」

それでもシャルは諦めないと言って笑った。そんな堂々としたシャルに、私たち子供組や大人組は思わず拍手。はやてはシャルを眩しそうに眺めて、ルシルはボソボソと何かを呟いた後に大きく溜息を吐いた。

◦―◦―◦回想終わりです◦―◦―◦

「そうだね。でも聞いていたでしょ? わたしは諦めない、って。だから完璧に、完全に、徹底的に負けないことにはわたしはルシルにアプローチを続ける」

シャルの決意には一切の揺らぎが無い。それが私にはまだサッパリな恋愛であっても、格好いいって思えてしまう。その決意に当てられたアリシアが「じゃあ、わたしはシャルを応援する!」シャルの恋路の味方をするって言い出した。

「ありがと♪」

シャルが私とエイミィを期待の眼差しで見てきた。エイミィは「ま、友達としては応援するのが良いんだろうけど・・・」ちょっと迷っている感じだけど応援するみたい。でも私は・・・。俯いて顔を逸らして見せると、「いいよ、フェイト」シャルは微笑んでくれた。

「ごめん・・・。やっぱりはやての事が・・・」

「うん。だからいいんだよ」

シャルの恋路を応援できないって伝えてもシャルは笑顔を浮かべたまま。そんなシャルと向かい合っているところで、通信コールがリビングに鳴り響いた。エイミィが「はいは~い」とコールに応えて通信を繋げた。

『エイミィか。クロノだ。そこにフェイトは居るか?』

スーパー銭湯に誘う前に本局へ向かっていたクロノからだった。隣にはアルフが居る。私は「居るよ、クロノ」モニターに映り込むように移動して、アルフに手を振る。と、アルフは笑顔で手を振り返してくれた。

『フェイト。そしてなのは達のデバイスの修復が完了したことを連絡しておく。いつでも取りに――』

「いま行く!」

クロノの話を遮って答える。“闇の書”の守護騎士ヴォルケンリッターがいつ動くか判らない今、いつでも対応できるように一刻も早く“バルディッシュ”を手にしておきたい。ハラオウン家に設置されているトランスポーターに向かおうとした時、「じゃあ、なのは達にも伝えた方がいいよね」アリシアにそう言われて私は足を止めた。

『そうだな。それぞれの機体の詳細な説明などを伝えたいと、マリエル技官も言っている。来るなら明日、学校終わりで良いんじゃないか、フェイト?』

「その方がいいよ、フェイトちゃん。今日はもう遅いし、明日も学校だし」

「わたしもその方がいいと思う」

「そうね。いきなり実戦で新しいデバイスを使うことにならないよう、ちゃんと余裕をもった方がいい」

クロノにエイミィ、アリシア、シャルにもそう言われた私は「うん、そうだね」と頷いて応える。そういうわけで、デバイスの受け取りは明日、学校から帰ってから、という事になった。

†††Sideフェイト⇒アリサ†††

昨日の夜、フェイトとシャルからデバイスの修理が終わったって連絡を貰ったあたし達は学校帰りに本局へとやって来た。シャルとアリシアを先頭に、あたし、すずか、後ろになのはとフェイトと続いて行く。
そして向かうのはメンテナンスルームとかが集まっている技術研究区画の奥も奥。通路の壁にはZeroth Engineering Department――第零技術部って彫られた翼を広げた鳥型のプレートが案内板として設置されている。

「この前行ったメンテナスルーム過ぎたけど・・・」

「あそこの設備でも修理は出来るけど、どうせなら次元世界最高の技術が集う、最高の設備のある場所で修理した方がいいでしょ」

「そんなにすごいところなの?」

アリシアの疑問に「まあね♪」とウィンクしつつ返すシャルが“キルシュブリューテ”がインテリジェントデバイス化した時のことを話した。元々AIを積んでいないアームドデバイスだった“キルシュブリューテ”をインテリジェントデバイス化させたのが第零技術部で、そこの部長であるジェイル・スカリエッティという人だって。ドクターっていう愛称でその人の技術力は次元世界では指折りで、あたし達のデバイスの改良にはその人も加わったって話。

「見えてきた。きっとすごい改良が施されてるはず」

ZEROと大きく描かれた左右に開くスライドドアがあたし達の前に現れた。シャルがドア横の操作キーのような物に手を振れて、「どうも~、イリス執務官補です」って言うと、『待っていたよ、入って来たまえ』って男の人の声が返ってきた。

「それじゃあ、行こうか」

開かれたドアをあたし達は潜った。ドアの奥に在ったのは応接室のような場所で、中央には2mほどの長テーブルが一卓、テーブルを挟むように同じくらいの長さの黒い革張りソファがあった。そのソファに座っているのは「ようこそ。第零技術部へ」さっきあたし達を招いた声をした男の人だった。紫色の髪に金色の瞳をした、なんていうか言ったら失礼だけどマッドサイエンティストみたいな顔をしている。

「私はここ第零技術部を統括しているジェイル・スカリエッティ。同僚や友人からはドクターと呼ばれている。君たちもぜひそう呼んでくれたまえ。っと、客人を立たせたままだ、すまないね。まずは掛けてくれたまえ」

「ではお言葉に甘えて。みんな、座って」

シャルに促されたあたし達は「失礼します」と一言断ってからソファに座っていく。

「今マリエル君が君たちのデバイスを、そしてうちの娘がお茶を用意している。もう少し待っていてくれたまえ」

ドクターがそこまで言ったところで、「失礼します」って奥のスライドドアから1人のスーツ姿の女性が入って来た。デキる女キャリアウーマン、って感じがする。ドクターに「ウーノ。この可愛らしい少女たちにお茶を」って言われた女の人――ウーノさんは押して来ていたワゴンに載せていたティーカップを「どうぞ、皆さん」あたし達の前に置いて行く。

「それとドクター。気持ち悪いです。ロリコンは好感度を下げますのでご用心を」

「酷いな、私は素直に思った事を言っただけじゃないか」

「皆さん、ドクターに変な目で見られた際は我々シスターズにご報告を。必ずお助けします」

ウーノさんの周囲に展開されたモニターに映る女の人3人+女の子1人。ウーノさんから、ちょっと暗めな金髪がドゥーエさん、ドクターと同じ紫色の髪がトーレさん、茶色い髪がクアットロさん、唯一の女の子で銀髪がチンクさん、と紹介された。トーレさんとチンクさんは知っているわ。レーゼフェアに負けた映像をPT事件の時に観たし。ということは、ウーノさん達シスターズは純粋な人間じゃないのかもね。

「ドクターってロリコンだったんだ。これからは2人っきりで会わないようにしないと。管理局に入ったフェイトはもちろん、なのは達も気を付けてね」

「騎士イリス、君までそんなことを・・・」

項垂れるドクター。こんな人が次元世界屈指の天才科学者、ねぇ。まぁ天才と変人は紙一重なんて言われているし。そこまで深く考えるようなものじゃないわね。そんなやり取りの後にあたし達の自己紹介が終わった頃、ようやく「待たせてごめんね、みんな」奥のスライドドアからオルゴールのような箱を手に持ったマリエルさんが出て来た。

「これがみんなの新しいデバイスだよ♪」

第零技術部(われわれ)装備部の技官(マリエル)君との合作! 実に素晴らしいデキだよ、少女たち!」

ドクターはソファから立ち上がって長テーブルの上座に移動、白衣をバサッと翻して大きく笑う。それを見たアリシアが「悪の科学者みたい」ってボソッと呟いた。ドクターには聞こえなかったみたいだけど、ウーノさんには聞こえたようで「フフ」小さく笑い声を上げた。

「じゃあ、まずはフェイトちゃんからね」

マリエルさんが箱から“バルディッシュ”を手に取るとフェイトがソファから立ち上がってマリエルさんの前に移動、“バルディッシュ”を受け取った。次がなのは、そしてすずか、最後にあたしが“フレイムアイズ”を受け取った。

「ではそれぞれのデバイスの新機能を説明しよう。まずはフェイト君のバルディッシュからだ。ベルカ式カートリッジシステムを搭載し、その名称をバルディッシュ・アサルトと改めた」

ドクターが説明に入った。“バルディッシュ・アサルト”。フェイトの新しいデバイス。形態は待機を除いて3つ。通常の戦斧形態アサルトフォーム。魔力刃を展開した大鎌形態ハーケンフォーム。ここまでは以前までと同じね。まぁ、性能はグッと高められているわけだけど。

「――そして最後に、ザンバーフォーム。新たに追加した形態で、フルドライブフォームと呼称している。巨大な魔力刃を展開した大剣形態だ。魔力刃は伸縮自在で、威力・範囲・距離の応用性能は高いため、集団戦でもその能力を発揮できるはずだ。が、性能の大半を攻撃や効果破壊に注いでいるため、君が得意とする高速機動が大きく殺がれる。その分、無詠唱の結界破壊効果、大威力斬撃・砲撃を可能とする」

「扱いに慣れるまで苦労しちゃうかもしれないけど、フェイトちゃんならきっとすぐに扱えるようになると思うよ」

「あ、はい、ありがとうございます!」

「次はなのは君のレイジングハートの説明だ。レイジングハート・エクセリオン。それが新しい名前さ」

“レイジングハート・エクセリオン”。中距離射撃と誘導管制、強靭な防御力を含めた中距離高速戦専用のアクセルモード。ディバインバスターとかの砲撃を撃つための形態バスターモード。以前より射程と威力の強化に特化しているとのこと。

「――そして最後に、フルドライブのエクセリオンモード。多量の魔力消費と引き換えに持ち主のなのは君の全能力を底上げし、そして爆発的な出力を生み出す。この形態の最大の特徴はAccelerate Charge System――瞬間突撃システムだ。使いこなせれば君が得意とする砲撃戦の戦術幅が大きく広げてくれるだろう」

「エクセリオンは強力だけど、本当に窮地に陥った時にしか使わない方がいいかも。強大な力を使えるけど、その分魔力消費が激しいから。なのはちゃんなら他のモードだけで十分騎士たちと渡り合えると思うよ」

「ありがとうございます!」

「次に、アリサ君のフレイムアイズの説明だ。フレイムアイズ・イグニカーンス。君のデバイスはなのは君やフェイト君のデバイスとは違って一形態のみだった。騎士イリスに聴けば君のデバイスの誕生の経緯は特異だ。イメージのみによって形作られたことで剣の刃とライフルの機関部を兼ねたデバイスになった、そうだね」

「えっと、はい。最後まで剣にするか銃にするかで迷って、気付けば一緒くたになったんですけど・・・」

刃はあるけど銃身も銃口もない。カートリッジシステムっていう形で機関部が存在しているのは幸いだって思っているわ。それすらも無かったら今頃どうなっていた事か。

「あのね、アリサちゃんってフレイムアイズの別形態が欲しい、みたいな事を言ったんだよね・・・?」

「え?」

マリエルさんにそう言われたあたしは早速自分の記憶を漁ってみる。

――なのはやフェイトのデバイスのように、あたしのフレイムアイズも変形とかさせてみたいわねぇ。せっかく銃の機関部があるんだからやっぱり銃・・・ライフルとか――

いつだったか確かにポロッと漏らしたことがある。でもそれはあくまで独り言、誰にも言った覚えも聞かした覚えもないんだけど。その時あの場所に居たのって「シャル・・・?」があたしに一番近いところに居た気がする。という事はマリエルさんに話したのはシャルね。

「それで私たちは、君のリクエストである銃形態を今回の改良にてイグニカーンスに追加してみたんだ。まずはこれまでの剣形態をファルシオンフォームと呼称することにした。使い勝手は今まで通り。しかし魔力・炎熱伝達率、刃やフレームの強度などは今までとは比較にならない程に強化したよ」

あたしは手の平に乗る桃色の宝石――待機形態の“フレイムアイズ”を眺める。今すぐにでも起動してみたいって思いに駆られる。まさかあたしの独り言が叶っていたなんて思いもしなかったんだもの。なのはやフェイトも新機能をすぐにでも試したいようでソワソワしてる。

「で、次は銃というより銃剣形態であるバヨネットフォーム。銃口より炎熱射撃・砲撃を可能とする形態だ。しかし君の魔法資質に遠距離は無いために射程はなのは君のように広くはない。その分、銃身下にファルシオンフォームの刃が付いているので近接戦も続行できるため、刃での近接戦・射砲撃による中距離戦の切り替えが早く、その戦術の幅を広げられるはずだよ」

「そしてフルドライブ、クレイモアフォーム。これはフェイトちゃんのフルドライブ、ザンバーフォームと同じで大剣形態ね。アリサちゃんの炎熱変換と攻撃力を最大限に引き出させることが出来るよ」

形態が増えるってすごい感動。あとはそれらを上手く使いこなせるように頑張るのみだわ。説明してくれたドクターとマリエルさんに「ありがとうございますっ!」大きく頭を下げて礼を言う。2人は微笑みながら頷き応えてくれた。

「では最後に。すずか君のスノーホワイト、新名称スノーホワイト・メルクリウスを説明しよう。すずか君には申し訳がないが、ブーストデバイスである以上は今まで通り一形態のままとなる。その分、他のデバイスのように変形機構に回すべきリソースを全て性能強化に回すことが出来た」

「それと、すずかちゃんは回復や強化などの補助魔導師ということで魔力の運用が大変だと思ったから、魔力変換効率をスムーズにして魔力消費を3分の2にまで減少させることが出来る機能を追加したの。それと大気中の魔力素の収集率を高める機能も追加済み。安心して魔力行使が出来るからね♪」

「ありがとうございます、マリエルさん、ドクター!」

2人からのデバイス新機能の説明はこうして終わった。なら次はどうするか。決まっているわ。ドクターが「ウーノ」って指をパチンと鳴らすと、ウーノさんは「はい、ドクター」って頷いてシャルに向いた。

「デバイスの新機能を試す場所が必要だと思いまして、第28トレーニングルームの使用申請をしておきました。使用できる時間は1時間ですのでご注意を。騎士イリス」

「ありがとう、ウーノ。あとロリコンドクター」

「まだ引っ張るのかい、そのネタ!?」

ガーンとショックを受けるドクターや可笑しそうに笑うウーノさんにお礼を言って、あたし達はトレーニングルームへとダッシュで向かった。

†††Sideアリサ⇒ヴィータ†††

『こちらバスター。リンドヴルムの私兵をきっちり片付けたぜ』

“アイゼン”を肩に担ぎながらシグナムとルシルに思念通話を通す。あたしらは異世界で再度襲撃してきたリンドヴルムの第3小隊・ドラゴン・ウィングと戦闘して、そんでたった今撃墜してやったところだ。
確かに前回の第6小隊・ドラゴン・スケイルに比べりゃ強かったさ。だけどな、こっちにははやてを守りたい・救いたい・助けたい、って強い想いがあるんだ。ただ殺したい・暴れたい・奪いたい、ってくだらねぇ思いしか抱かないクズどもに負ける道理がねぇってんだ。

『こちらセイバー。私の方も片付いた。損傷は軽微だ』

『ランサーだ。こちらは余裕勝ちだ。3人がかりで来た時はどうしようかと思ったが、雑魚過ぎた。前回の女の方が手強かったよ』

『そうかよ。そんじゃ、掃除も終わったことだし帰るとするか』

『そうだな』

『バスターとセイバーは先に帰還してくれ。私が私兵とロストロギアを回収して局施設に連行する』

『おう、頼んだ』

『手伝うか?』

『いや、1人で十分だ』

ルシルの言葉に甘えてあたしらは先にはやての待つ家のある海鳴の街に帰る事にした。思念通話を切って、さぁ帰ろうかってところで「なんだ・・・?」転移反応が目の前で発生したのに気付いた。誰かが転移して来る。“アイゼン”を構え直して、警戒態勢に入る。たぶん、リンドヴルムの新手だ。連戦させて疲弊しきったところで一気に潰すってこったろうな。その手には乗るかよ。魔力配分を徹底すりゃ乗り切れるはずだ。

「カートリッジは残り8発。十分だぜ! 来なッ!!」

転移があと少しで終わる。そしてソイツはあたしの前に現れた。ソイツを見たあたしの第一声は「は?」だ。あまりに予想外な奴だったからだ。いや、頭の片隅にはあったんだ。だけど、ここで来るとは思っちゃいなかった。

「バスターちゃん・・・」

はやての友達、「高町・・・な、の、は・・」よし、言えた。スーパー銭湯であたしはアイツの名前を上手く言えなかった。どうしても、なにょは、って言っちまう。どうしてこう言い難い名前なんだろうな。今のようにちょっと区切らないと言えねぇよ。

「あ、あれ? どうして私の名前を・・・?」

「へ? あっ・・・あの後、ランサーが調べたんだよ、あんた達のこと」

「そう、か・・・」

とりあえずは、『セイバー、ランサー。あたしんとこに高町な、の、はが来たんだけど』シグナムとルシルに思念通話を通すことにした。


 
 

 
後書き
おはようございます、こんにちは、こんばんは。
ついになのは達が新たな力、カートリッジシステムを搭載したデバイスをゲット。このまま三騎士と戦闘に入りたかったのですが、文字数の関係で次回へ持越しです。
え? ロリコンドクター・ジェイルですか? 彼は本作ではギャグ要員の予定ですけどなにか?

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧