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八条学園怪異譚

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第六十話 時計塔その十

「そうよね」
「私にしてもね」
「けれど私達はね」
 本当に二人共だった、幸運なのか運命なのか。
「泉を探すことになってね」
「そこで救われたわね」
「学園の中の妖怪さんや幽霊さん達とも出会えて」
「色々な場所を回っていってね」
 多くの人と場所と話して見てきた、二人で。
 そしてそれがだ。二人をだったのだ。
「変わったわね、私達」
「子供の時と一緒になったし」
「ずっと愛実ちゃんと一緒にいられてね」 
「二人でね」
「一人だと私続かなかったと思うわ」
 泉を巡って回ることをだ、聖花は自分だけではとても今ここにいられなかったというのだ。その遥か前に挫折していたというのだ。
「とっくにね。諦めてたわ」
「私も。聖花ちゃんが一緒にいてくれたから」
 そしてこのことは愛実もだった、この娘にしても。
「今ここにいられるのよ」
「愛実ちゃんも一人だったら途中で諦めてたのね」
「だって一人だとね」
 何も出来ない、力も足りない、寂しいというのだ。
「だからね」
「私と一緒だから最後まで来られたのね」
「聖花ちゃんと一緒よ。一人だったら本当に最初の方で諦めてたわ」
「調べることも」
 聖花は二人で学園の図書館の中で泉のこと、つまり学園の怪談話について調べたことも思い出して述べた。
「それもよね」
「だって私あまり図書館とか行かないから」
 聖花程は行かない、愛実が学校の成績では聖花より劣るのはこうしたことからも出ていると言えるだろうか。
「調べるとかね」
「しないからなのね」
「そう、だからね」
 それでだというのだ。
「そんなこともしなかっただろうから」
「そうなのね」
「そう、本当に二人だったから」
 最後の最後、泉まで辿り着けたというのだ。
「聖花ちゃんと一緒だったからね」
「私達って子供の頃に出会って」
 聖花はここで遠い目になった、階段を進みながら。
「それから色々あったけれど」
「ずっとお友達でいられてるわよね」
「よかったわ。けれどね」
「これまで何度か喧嘩したりしたわよね」
 この二人でもこうしたことはあった、いつも仲がいいかというとそうではないのだ。友達同士でも喧嘩はあるのだ。
「一度や二度じゃなくて」
「これまで何度もね」
「それでお互いに妬んだりもして」
 これは気付かないうちにだった、二人が。今はこのことをそれぞれ認識していて非常に苦い思いをしているが。
「綺麗なものじゃないわね」
「完全にはね」
「世の中完全なものはないっていうけれど」
「友達同士の関係もよね」
「そうよね、私達も」
「人間ってね」
 二人だけでなく彼等もだった。聖花は言った。
「そんなのよね」
「完全に綺麗じゃなくてね」
 汚い、もっと言えば醜くもあるものだというのだ。
「そういうものよね」
「そうね、綺麗なだけじゃなくて」
 本当にだというのだ。
「醜くもあってね」
「けれどその醜いところがね」
 誰もがその仲に持っている忌まわしいものをだというのだ。愛実もまた遠い目になっていた。そのうえでの言葉だ。
「大きくなっていったら」
「よくないわよね」
「友達同士でもどんなものでもね」
「壊れていくわよね」
「気をつけないとね」
「うん、絶対に」
 このこともよくわかった二人だった、それぞれの心の中を振り返ることで。 
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