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八条学園怪異譚

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第六十話 時計塔その九

 二人は茉莉也との話が一段落してからだった、後ろを振り返る。そこには時計塔がある、二人が探しいていた場所が。
 その時計塔をあらためて見てだ、茉莉也に微笑んで言った。
「じゃあちょっと」
「行って来ますね」
「すぐに帰ってきますから」
「そうしてきます」
「待ってるからね」
 茉莉也もその二人を笑顔で見送る、そしてだった。
 二人は時計塔の方に足を踏み出した、そのうえで。
 時計塔に入り階段を登っていく、中央に時計を動かす機械を中に入れた柱に蛇の様に巻きついている螺旋階段を登りながらだった、愛実は聖花に言った。
「ううん、この階段ってね」
「螺旋階段?」
「はじめて登るけれど」
 階段は煉瓦だ、塔と同じものである。
 その煉瓦の階段を登りつつだ、こう言うのだ。
「趣があるっていうか」
「あれよね、ゲームに出て来るみたいな」
「そんなのよね」
「面白いわね、如何にも泉に行く感じで」
「ええ、本当にね」
 聖花も愛実の言葉に頷く。
「趣きがあるわね」
「徐々に。回る様に巡っていくって」
 それはというのだ、愛実は再び言う。
「面白いわね」
「そうよね、私も螺旋階段を登るのははじめてなのよね」
 このことは聖花もだった、登りつつの言葉だった。
「お話は聞いていたけれど」
「最後の最後でこうした場所を来たのも」
「何かの縁かしらね」
「そうよね、それにしても私も聖花ちゃんもね」
 二人共だった、このことは。愛実はここでこうも言った。
「泉を探していて学校の色々な場所に行って」
「色々な人に会ってね」
「色々なものを見てきて」
「成長したのかしら、私達って」
「皆そう言ってくれるけれどね」
 ここで自分達から成長したとは言わないのがこの二人だ、それで主観をあてにせずそのうえでのやり取りだった。
「どうかしらね」
「そうだったいいけれどね」
「少なくとも。私は聖花ちゃんに嫉妬したりしなくなったわ」
 このことは確かだというのだ。
「そうしたことはね」
「私も。愛実ちゃんにね」
「そのことはよかったわよね」
「ええ。その時の私凄く嫌な気持ちだったから」
「私もよ」
 愛実はその頃の自分を思い出して唇を噛み締めた。
「あの時はね」
「妬むのって嫌よね」
「今思うと私凄く嫌な娘になっていたわ」
 唇を噛み締めたままだった、今の愛実は。
「思い出しただけでも」
「嫌になるわよね」
「若しあのままだと」
 そのままだ、聖花を妬んだままだったらというのだ。
「私こうして今聖花ちゃんと一緒にいなかったわ」
「私も。愛実ちゃんと一緒にいなかったと思うわ」
 それは聖花もだった、振り返り思うことだった。
「とてもね」
「そう思うだけでね」
「嫉妬ってね」
 聖花はその嫉妬についても思いそのうえで愛実に話した。
「とても悪い感情だと思うわ」
「他の人を妬むことはね」
「誰でもあると思うけれど」 
 それでもだというのだ、嫉妬というものは。
「それでその人を憎いとか思う様になって歪めていくから」
「私も歪みかけてたのね」
 愛実も気付いた。、自分のこのことを。 
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