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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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君は自由だ


「エルザとは誰なんだ・・・?何も思い出せないんだ」

何も思い出せない―――――。
自分の事も、目の前に立つエルザの事も、ジェラールの記憶にはなかった。
否、その記憶すら消えていた。

(コイツ・・・記憶がねえのか!?)

コブラの目が見開かれる。

「ジェラール・・・」
「く・・・来るな!」

視線を下げ、つかつかとジェラールに歩み寄るエルザ。
そんな彼女に怯えるように、ジェラールは魔法を放った。
魔法は直撃し、煙が晴れ―――――

「く・・・来る・・・な・・・」

エルザは立っていた。
額から血を流しながらも、しっかりと立っている。

「ならばお前が来い」

煙を切り裂くようにして、エルザは1歩1歩足を進める。

「私がエルザだ。ここまで来い」

ジェラールの表情が戸惑ったように変わり、瞳が揺れる。
エルザはゆっくりとジェラールの事を語り始めた。

「お前の名はジェラール。私のかつての仲間だ。だが乱心したお前は死者を冒涜し、仲間をキズつけ、評議院さえも破壊し・・・シモンを殺した」

わざわざ罪を隠す事はしない。
ジェラールを語る以上、彼の全てを語るのだ。
それがどんなに重い罪であろうと。

「それを忘れたと言うつもりなら、心に剣を突き立てて刻み込んでやる!ここに来い!私の前に来いっ!」

力強いエルザの叫び。
それにジェラールは体を小刻みに震わせる。

「オレが・・・仲間を・・・そんな・・・」

その震えに恐怖はない。
一瞬にして突きつけられた自分という存在、自分の犯した罪へのショックが震えとなっていた。

「オレは・・・何という事を・・・オレは・・・オレはどうしたら・・・」

左手で顔を抑え、辛そうに呟く。
隠れていない右目からは涙が溢れていた。
それを、エルザ自身も小刻みに震えながら思う。

(これが・・・あのジェラール?まるで・・・)











「ん?」

樹海の奥地。
滝壺に落下したナツ、ルーシィ、ルーの3人は―――

「痛た・・・」

目を覚ましたルーシィはズキズキと痛む左腕を抑えながら起き上がった。

「あれ?治療・・・」

左腕に触れたルーシィは、そこに包帯が巻かれている事に気づく。
その包帯には乙女座のマークが描かれていた。

「てか何!?この服」

そしていつの間にか服が変わっていた。
ホルターネックの青いワンピース。髪はツインテールになっている。

「星霊界の御召し物でございます。ボロボロでございましたので」
「バルゴ!?」

ルーシィの問いにバルゴが答えた。
滝壺へ落ちた3人の治療や着替えはバルゴがやってくれたらしい。

「!ここ・・・どこだ!?」
「あれ・・・?僕達どーしたんだっけ?」
「ナツ様とお揃いになっております。ルー様とは色違いです」
「いらんお世話!」

ルーシィの声に反応したのか否か、ナツとルーも目を覚ます。
そんな2人はルーシィのワンピースと同じ模様の服を着ており、ナツは青、ルーは赤と色違いだった。

「ジェラール!あの光はどこだ!?」
「あ、あれだよ!」

ルーが指さす。
その先には、確かに天へと伸びる光の柱があった。
が、色が黒から白へと変わっている。

「近いわ。てか・・・色が変わってない?」
「ええ・・・3人が気絶していらした間に黒から白へと」
「むぐぐぐぐ・・・」

ルーシィの言葉にバルゴは淡々と答える。
ナツは真っ直ぐに白い光の柱を見ていた。

「ぐぐぐ・・・」

恨めしそうに見つめ――――

「はぁ」

落ち着いたのか諦めたのか溜息をついた。
そしてギロッとルーシィとルーに目線を映す。
2人は同時にビクッと反応した。

「助かった。ありがとな」
「な・・・何よ、いきなり」
「どーいたしまして」

笑みを浮かべて素直に礼を言うナツにルーシィは照れくさそうに頬を染め、ルーは変わらない笑顔で小さく首を傾げる。

「でぇきてぇる」
「どこでハッピーのマネなんて覚えたの?」
「僕がこの間教えたんだー」
「アンタが原因か!」

ハッピーのマネをするバルゴにルーシィが呆れながら問い、ルーの言葉にツッコみを入れる。

「そういやハッピーは?お前ら、エルザと一緒じゃなかったのか?」
「みんなはぐれちゃった」

困ったように両腕を広げて溜息をつくルーシィ。

「仕方ねぇ。オレ達だけであの光に行くか」
「だね!皆あの光は見えてるだろうし・・・自然と集まるよ」

ナツの言葉に同意するように頷き、ルーが光に目を向ける。

「姫・・・私はこれで失礼します」
「あ!バルゴ・・・って」

バルゴは星霊界へと帰っていった。
それを引き留めようと声を掛け、ルーシィは自分の状態に気づく。

(今・・・自分(バルゴ)自身の魔力で(ゲート)をくぐって来てた・・・もしかしてあたし・・・今、魔力0!?)

ルーシィは自分の両掌を見つめる。
そんなルーシィに目を向け、ルーは自分の左手を見つめた。

(魔力は多少回復してるけど・・・これじゃあ戦えないし、回復も1人くらいしか出来ないね・・・全く、回復が出来ないんじゃ僕はお荷物じゃないか)

不機嫌そうに眉を寄せ、目線を外す。

「ひっ!」
「何!?」

すると、突然背後の茂みが揺れた。
ルーシィは小さく悲鳴を上げ、ルーは警戒するように眉を吊り上げる。
ガサガサと音を立てて現れたのは―――――

「シェリー!」

虚ろな目をしたシェリーだった。

「よかった!無事だったんだね」
「お前、確かガルナ島の・・・」
「遡り過ぎだよう、ナツ」

ルーシィは現れたシェリーの無事を喜び、ナツの発言にルーが呆れたようにツッコむ。
すると、シェリーがぽつりと呟いた。

「見つけた、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士」

その言葉にルーシィは首を傾げる。

「?何?」

シェリーの口角が上がる。
虚ろな目が、ナツ達を見つめた。

「くくく」
『!』

不気味な笑い声を零しながら、シェリーは周囲の木を操る。
大きな手の形になった木がナツ達に向かい―――――――

「バカヤロウがーーっ!」
「何やってんのよアンタはーっ!」
「がふあ!」

シェリーの背後からグレイとティアが現れた。
2人がかりでシェリーを抑え込む。

「グレイ!」
「ティア!」
「無事かお前ら!」
「こらっ!暴れないの!」

馬乗り状態のティアは暴れるシェリーを力づくで抑え込む。

「放せ!くそっ!まだ生きてたのか!リオン様の仇っ!」

じたばたと暴れながらシェリーは叫ぶ。
その頭と左腕をグレイが抑え、ティアは苛立ちを表情に浮かべる。

「コイツ・・・あの光の後、急におかしくなりやがってよォ」
「お前もさっきまでおかしかったじゃねーか!」
「は?」
「何言ってるのアンタは。私もグレイも、アンタと別れてから今までアンタに会ってないわよ。ていうか、私達も今まで別行動だったし」
「ナツ・・・あれはニセモノよ」
「ピーリピーリってね!」

ルーがジェミニのマネをする。
どうやらグレイとティアはシェリーの操る木に首を絞められた後別行動をとっており、ナツ達に襲い掛かるシェリーを偶然見つけ同時に止めた、という事らしい。
エルザとアルカ、ハッピーとヴィーテルシアを除いた妖精メンバーが会話する中、シェリーは暴れ叫び続けていた。

「許さない!リオン様の仇!」
「ああもうっ!リオンリオンうっさいのよ!私の前でその名前を連呼するな!仇取りたいなら倒すべきは私達じゃないでしょうが!」

ぎゃあぎゃあと喚き続けるシェリーとティア。
すると、そこに声が響く。



「誰の仇だって?」



『!』

背後から聞こえてきた声に一斉に振り返る。
そこには、見覚えのある姿があった。

「オレを勝手に殺すんじゃない」

ボロボロの姿。
それでも確かに生きている、リオンがいた。

「リオン様・・・」
「アンタ・・・生きてたの?」

そんなリオンを信じられないものを見るように見つめるシェリーとティア。
どうやらティアもリオンが生きていた事は知らなかったようだ。
グレイと別行動をとっていたからだろう。

「しぶてぇんだ、コイツは」
「貴様等ほどじゃない」
「何だとォ!?」
「何だってぇ!?」
「そこ、噛み付くトコ?」

グレイの言葉にリオンが返し、それにナツとルーが噛み付き、ルーシィがツッコむ。
何事も無かったように会話するリオンを見て、シェリーの目からボロボロと涙が溢れた。

「よかっ・・・た・・・」

笑みを浮かべ、安心したように呟いて気を失う。

「いい加減シェリーから降りたらどうだ」
「コイツが暴れるからよ」

リオンの言葉に心外だと言いたげな表情でシェリーから降りるティア。
青い髪を耳にかけ、ぼそりと呟いた。

「・・・よかった」
「?」

偶然聞こえた言葉にリオンが目線を向ける。

「何か言ったか?」
「別に」

ふいっと視線を逸らし、ティアは目を伏せる。

(・・・死んでなかった。私の前で、アイツは死んでなかった)

噛みしめるように言葉を心の中で繰り返し、ぎゅっと拳を握りしめる。
すると・・・シェリーの体から白い光のようなものが飛び出した。

「何だ!?」
「やっぱり何かに取りつかれて・・・」
「これが・・・」

光は空中に霧散する。
それを見たルーシィは小さく呟いた。

「ニルヴァーナ」








「黒い光が白くなったわ」
「何が起きてるんだろう?」
「よく解らないけど・・・いい事じゃなさそうだね」
「一体何が・・・」
「ニルヴァーナの光の色が変わる・・・復活は近いという事か?」

化猫の宿(ケット・シェルター)メンバーとヴィーテルシアは光の柱を見つめ、呟いた。










「んしょ、んしょ」

氷から解放されたハッピーはヒビキを川から引きずり出そうと頑張っていた。

「みんな・・・無事だよね」











ニルヴァーナの封印場所。
向かい合うエルザとジェラールの後ろから、カツカツと足音が響く。

「テメェの記憶がねえのはよく解った。どうりで心の声が聴こえねえ訳だ」
「!」
六魔将軍(オラシオンセイス)!?」

現れたコブラに目を見開いて驚愕するエルザとジェラール。

「どうやってここまで来た?で・・・なぜニルヴァーナの封印を解いた?」

しゅるるる・・・とコブラに巻き付いた毒蛇キュベリオスがシャアアア・・・と睨みを利かせる。
コブラの問いにジェラールは一瞬苦しげな表情になり、ゆっくりと口を開いた。

「眠っている時に誰かの声が聞こえた。『ニルヴァーナを手に入れる』・・・と。微かにその魔法と隠し場所は覚えていた」

元評議員だからか、それとも楽園の塔関連で調べたのか。
ジェラールはニルヴァーナの封印場所を知っていた。

「これは危険な魔法だ。誰の手にも渡してはいけない」

光の中、ニルヴァーナと思われる何かが見える。
ジェラールは、躊躇う事なく続けた。



「だから完全に破壊する為に封印を解いた」



その言葉に、コブラの目が見開かれる。

「な・・・!」
「ニルヴァーナを破壊する・・・だと?」

コブラだけでなくキュベリオスも驚愕し、エルザは意外そうな表情で呟く。

「『自律崩壊魔法陣』を既に組み込んだ。ニルヴァーナは間もなく自ら消滅するだろう」

出現しつつあるニルヴァーナ。
そのニルヴァーナに細かいヒビを入れていくかのように、紫に似た色合いの魔法陣が展開していく。

「テメェ!何て事を!くそぉーーーっ!」
「その解除コードはオレしか知らない」
「ジェラール」

コブラは魔法陣を解除しようと駆け出す。
ジェラールの行動に戸惑うエルザに、ジェラールは薄い笑みを浮かべた。

「何だよ、この高度な魔法陣は・・・このままじゃニルヴァーナが崩壊する!ジェラール!解除コードを吐きやがれっ!」

魔法陣は広がる。
解除コードは解らず、コブラは慌ててジェラールに解除コードを吐くように叫んだ。

『!』

次の瞬間、エルザとコブラは目を見開いた。
―――――――ジェラールの口から、コプッと血が吐き出されたから。

「エルザ・・・その名前からは優しさを感じる」

ゴホ、ゴフッと咳き込みながら、ジェラールは続ける。

「やさしくて明るくて、あたたかさを感じる・・・きっと君はオレを憎み続ける。それは仕方ない。当然の事だ。しかし憎しみは心の自由を奪い、君自身を蝕む」
「お・・・お前・・・」

苦しそうにジェラールは息をする。
その胸辺りに・・・魔法陣が現れた。

「オレはそこまで行けない・・・君の前には行け・・・ない・・・」
「コイツ・・・!」

そこで気づいた。
くら、とジェラールが後ろへと倒れ込む。

「ジェラールから解放・・・され・・・るんだ。君の憎しみも悲しみ・・・も・・・オレが・・・つれていく」

ジェラールの体には、魔法陣があった。
―――――ニルヴァーナにあるものと同じ、自律崩壊魔法陣が。

「自らの体にも自律崩壊魔法陣を・・・!」

エルザの目が見開かれる。
コブラが叫んだと同時に――――――

「君は、自由だ・・・」

ジェラールは、倒れた。
その顔には薄い笑みが浮かんでいる。

「ジェラーーーール!」

エルザは名を叫び、ジェラールへと駆け寄った。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
楽園の塔編書いてる時はジェラール嫌いだったけど、ここ最近は好きなキャラです。で、私の好きなキャラはティアと絡ませたくなる性分です、はい。

最近思った事。
・・・アルカのキャラが変わってきている。
最初は結構御尤もな事言うキャラだったのに、今じゃ1番変なキャラに・・・あれ?

感想・批評、お待ちしてます。 
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