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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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追憶のジェラール


「あれ・・・あたし・・・何が起こったの・・・?痛っ」

キョトンとした表情のルーシィは辺りを見回す。
どうやら先ほど超魔法『ウラノ・メトリア』を放った事は覚えていないようだ。

「ヒビキ!ルー!ハッピー!」
「僕は大丈夫、ただの魔力切れだし・・・それより」

ルーシィに知識を与える事で魔力を使い果たしたヒビキとジェミニグレイによって氷漬けにされたハッピーからの返事はない。
唯一起きているルーは笑みを浮かべて手を振り、くいっと顎でルーシィの背後を示した。

「そうだ!ナツ!」
「おおお・・・」

その先にいるのは未だにイカダに乗って酔っているナツ。
血の流れる左肩を抑えたままルーシィはイカダに近づき―――――

「!」

足を止めた。
突如後ろでザバァ、と大きな音が響いたのだ。

「負け・・・な・・・い・・・ゾ・・・六魔将軍(オラシオンセイス)・・・は・・・負け・・・ない・・・」

そこに立っていたのは、エンジェル。
ウラノ・メトリアを喰らい見るも無残なほどにボロボロになりながらも、エンジェルはカエルム片手に立ち上がった。

(何・・・コレ・・・全然力が入らない・・・てか・・・何でコイツ、こんなにボロボロなの!?)

超魔法ウラノ・メトリア。
その魔力消費はかなりのものであり、完全に魔力を使い果たしたルーシィは力を入れる事さえ難しかった。

「一人一殺・・・」

機械音を立ててカエルムが変形する。

「ルーシィ危ないっ!」

それを見たルーが慌てて駆けだすが、魔力切れ状態にある為フラリとよろける。
その間にもカエルムは変形を終え――――

「朽ち果てろォ!」

砲撃が放たれた。
その砲撃は真っ直ぐにルーシィへと向かう。
当たる事を予想し覚悟を決めて目をルーシィは瞑る。

「!」

砲撃は当たった。
―――――ルーシィの後ろの、木の欠片に。

「は・・・外した・・・」
「まさか、カエルムにまでルーシィの想いが・・・?」

ルーシィは避けていない。
途中まで直線だった砲撃がルーシィを避けるかのように曲がったのだ。
――――――が。

「おお、おおおお」
「ナツ!」
「一難去ってまた一難ってヤツだねこれ!」

その砲撃が砕いたのは、イカダを止めていた木の欠片。
それが崩れてしまえばイカダは動く・・・ナツは流される。

(私の祈り・・・天使のように・・・空に消えたい・・・)

先ほどの攻撃で力尽きたエンジェルは己の祈りを思い出し―――――

「・・・って水の中かい!」

望んだ空ではなく、川の水の中に消えた。
が、そんな事を気にしている場合ではない。

「ナツー!」
「う・・・うご・・・うご・・・」
「しっかりしなさい!手を伸ばして!ナツ!」
「おおおお・・・」

ルーシィが声を上げるが、ナツは弱々しい声を上げるだけ。
すると、横から伸びてきた手がナツの腕を掴んだ。

「ルー!」
「ルーシィは僕の手掴んで!ナツは僕が掴んでるから!」
「解った!」

頷き、ルーの左手を掴む。
と、同時にイカダがガクンと大きく揺れた。

「きゃっ」
「わっ」
「うぷ」

その拍子にルーシィとルーもイカダに乗り上げる。
そしてそれが合図だったかのように、イカダの流れるスピードが増した。

「ひー!何よォ~急流~!?」
「おわぶああああ!」
「わあああああああ!ルーシィ前!前っ!」
「!」

急流に入ってしまったイカダはさらに進む。
そしてその先、ルーが慌てて指さす先には・・・滝があった。
このままでは、落ちる!

「ちょっとォ!ウソでしょオ!?ルー!魔法でイカダを浮かばせたり出来ないの!?」

それに対し、ルーは

「・・・てへっ」
「誤魔化すなあああああっ!」

今のルーにイカダを浮かばせろとは今のルーシィにロキを召喚しろというのと同じ事。
しかし、ここで逃げるわけにはいかない。
こっちには乗り物酔いで弱っているナツがいるのだ。
2人は覚悟を決め、ぎゅっと目を瞑る。

「あああああああ!」
「うああああああ!」

そして遂に・・・2つの悲鳴と共にイカダは滝壺へと落ちた。








痛みを感じた。
封印が解かれたニルヴァーナへと向かうブレインは、自分の顔の右側に手をやる。

「バ・・・バカな・・・エンジェルまでが・・・」

スー・・・と、顔のラインが1本消える。

「うぬらの死、無駄にはせんぞ」

フッと完全に消えたライン。
ブレインは天へと伸びる黒い光の柱を見上げた。

「光崩しは直に始まるのだ!」








その頃、星霊合戦が行われた川では―――

「死んでないゾ」

プカー・・・と、エンジェルが川に浮かんでいた。










樹海に緋色が揺れる。
ブレイン同様に黒い光の柱へと向かうエルザは、真剣な表情で前を見据えていた。

(ジェラールが生きて・・・)

ウェンディに解毒してもらって意識を取り戻してすぐ、ナツがジェラールの名を口にした。
あの光にジェラールはいる、と。
だからエルザは誰にも告げずに行動したのだ。

(どうやって・・・いや・・・なぜこんな所に・・・)

彼女の脳裏に様々な光景が浮かぶ。
楽園の塔で邪悪な笑みを浮かべるジェラール。奴隷時代の優しくて勇敢なジェラール・・・。
友であり、仲間であり、敵である存在が生きている・・・エルザは複雑な表情を浮かべていた。

(私は・・・どんな顔をすればいいのか・・・)










「なんと!?」
「ニルヴァーナっつーのは人の性格を変える魔法だってのか!?」
「その通りデスネ」

ニルヴァーナの影響で闇から光へと入れ替わったホットアイの言葉にジュラとアルカは目を見開く。

「そしてその最初の段階・・・あの黒い光は善と悪の狭間にいる者を強制的に変えてしまうのデスヨ」
「すると主はあの時、善と悪の狭間にいたと?」
「お金を稼ぐとはいえ・・・ちょっぴりいけない事してる気持ちありましたデス」
「オイオイ・・・随分調子いいじゃねーか」

アルカが呆れたような表情を浮かべる。
それに対し、ホットアイは笑顔を見せた。

「弟の為です。全ては弟を探す為にお金欲しかったデスネ」

ホットアイの弟思いな言葉を聞き、ジュラとアルカは一瞬顔を見合わせ笑みを浮かべる。

「ジュラ。あなたを見てると昔を思い出しマスネ」
「まさか・・・ワシが主の弟殿に似てるとでも?ふふ」

ジュラの言葉にホットアイは続ける。

「昔・・・弟と食べた『じゃかいも』にそっくりデス」
「野菜!?」
「ぷっ・・・くくっ・・・」

まさかのじゃがいもに似てる発言にジュラは目を見開き、アルカは心底楽しそうに笑い声を零す。

「さあ・・・愛の為にブレインたちを止めるのデス!」
「っしゃー!よーやく面白くなってきたァ!」
「ウ・・・ウム」

じゃがいも似発言に少々釈然とせず、変わり者2人に囲まれるジュラは困ったように返事をしながらアルカとホットアイと共にニルヴァーナへと向かっていった。











血が舞った。
目を見開いたレンは膝をつき、倒れ込む。
それをミッドナイトは無表情で見下ろしていた。

「2人目・・・つまんないなァ、もっと強い奴はいないの?」












「私・・・来なきゃよかったかな・・・」

エンジェルから逃げてきたウェンディ、シャルル、アラン、ココロの化猫の宿(ケット・シェルター)メンバーとヴィーテルシアは高い丘の上にいた。

「まーたそういう事言うの?ウェンディは」
「だってぇ」
「後ろ向きな事を考えるな。闇に心を奪われてしまう」

膝を抱えながら呟くウェンディにシャルルとヴィーテルシアが厳しく言葉を紡ぐ。

「私・・・ルーシィさん達置いて逃げてきちゃったんでしょ?」
「仕方ないさ。結果としては僕もココロも逃げてきちゃったし」
「ウェンディちゃんは気を失ってたし・・・気にする事ないよ」
「どーせ3人とも、あの場にいても役に立てなかったからね」
「「あう・・・」」
「うっ・・・それを言われるとキツイなぁ・・・」

シャルルの容赦ない言葉に頭垂れるウェンディとココロ、困ったように笑みを浮かべるアラン。

「やっぱり私・・・」
「でもアンタがいなきゃ、今頃エルザは死んでたのよ」
「でもニルヴァーナも見つかんなかったし、私じゃなくてもルーさんがいたよ」
「どうだろうな。ルーの魔法はお前と違って回復専門という訳ではない。後方支援や防御、多少の攻撃さえ熟す。完全な解毒が出来るか解らん」

俺の傷は完全に治したがな、とヴィーテルシアは呟く。
続くようにシャルルが口を開いた。

「ヴィーテルシアの言う通りよ。それにアンタだってジェラールって人に会えて嬉しかったんでしょ?アランとココロも面識あるみたいだけど」
「それは・・・」
「嬉しかったよ。でも、状況が状況だし・・・」
「私はまだ直接会ってないから」

シャルルの問いかけに3人は顔を見合わせ困ったように返す。

「ねえ?何なの、あのジェラールって。恩人とか言ってたけど私・・・その話聞いた事ないわよね」
「そうだね・・・話してなかったね」

ウェンディは目を伏せ微笑み、話し始めた。

「あれは7年前、天竜グランディーネが姿を消して、私は1人・・・路頭に迷ってたの。その時助けてくれたのがジェラールとアラン君。てゆーか、彼も道に迷ってたんだって。そして私達は一月くらいあてのない旅をしてたの。その途中でココロちゃんと出会って・・・」
「私はウェンディちゃんと同じ。灰竜グラウアッシュが消えて路頭に迷ってた時にジェラールに助けられたんだ」

当時を思い出すように、ココロの瞳は輝く。
それとは対照的にアランの表情は暗かった。

「僕は・・・未だに自分でもよく解らないんだけど」

桃色の目を伏せ、ポツリポツリと語り始める。





「僕の住んでた街が・・・空に開いた穴に吸い込まれたんだ」





吐き出すように放たれた言葉。
それにはウェンディとココロも目を見開いた。

「え?アラン君はジェラールと偶然出会って旅を始めたんじゃ・・・」
「うん。間違ってはないんだよ。ジェラールさんと会ったのは偶然だし・・・でも、街が消えた話はしてなかったね」

風が灰色の髪を揺らす。

「何の前触れもなく、空に穴が開いた。その日は大雨でね・・・家の窓から空を見てたら、突然穴が開いたんだ。それで・・・一瞬で全てが消えた。吸い込まれたって気づくのには時間がかかったよ。で、何故か僕だけ残された。そこでジェラールさんと出会って・・・旅を始めて、ウェンディとココロに出会った」
「それから4人で旅をしてたんだけど、ある日急に変な事言いだして」
「えっと・・・何だっけ」

アランが首を傾げる。
それに答えるようにココロが口を開いた。

「確か・・・『アニマ』って言ってた」
「アニマ!?」
「何だそれは」

ココロの言葉にシャルルは僅かに目を見開き、ヴィーテルシアは訳が解らないというように眉(人間でいう眉辺りの毛)を顰めた。

「うん・・・私達にもよくわかんないんだけど・・・ついてくると危険だからって近くのギルドに私達を預けてくれたの」
「それが化猫の宿(ケット・シェルター)だよ」
「で・・・ジェラールはどうなったの?」
「それっきりなの・・・最後に会った7年前のあの日から、ジェラールには会ってない」

シャルルの問いにココロは悲しそうに首を横に振る。

「その後・・・噂でね、ジェラールにそっくりの評議員の話や、最近はとても悪い事をしたって話も聞いた」
「でも・・・それにエルザさんやナツさん達が関わってたとしても、僕達には信じられないんだ」
「私達の知ってるジェラールは、とても優しい人だったから。少なくとも、あの頃は」

ウェンディ、アラン、ココロは恩人の事を懐かしそうに、嬉しそうに語る。

「ジェラール・・・私達の事、覚えてないのかなぁ?」










樹海の奥・・・ニルヴァーナの封印場所に、エルザはいた。
封印が解かれた事に影響しているのか風が強く、舞い上がる砂埃を両腕で防ぎながら歩みを進める。
そしてエルザが顔を上げ――――――。
――――――その目が信じられないものを映すかのように、見開かれた。



そこに立つのは友であり仲間であり因縁の相手。



亡霊に取り憑かれた哀れな理想論者。壊れた機関車のように止まらない亡霊。



――――――ジェラールが、確かにそこにいた。



その様子を、岩陰で見ている男がいた。

(エルザ!?復活したのか!?くそ!このオレが接近に気がつかねぇとは・・・ニルヴァーナの本体が起動するまではジェラールはやらせんぞ)

毒蛇キュベリオスを連れたコブラだ。
エルザを睨みつけながら、岩陰に身を隠す。

「・・・ジェラール」
「エルザ・・・」

お互いがお互いの名を呼ぶ。
呆然と、呟く。

「お・・・お前・・・どうして・・・ここに・・・」
「わからない」

エルザの問いにジェラールはそう答える。
エルザは目を伏せ、俯いた。
――――――が、すぐに視線を上げる事になる。

「エルザ・・・エル・・・ザ・・・」

ジェラールは呆然と、壊れた機械のようにエルザの名前を繰り返す。
俯いたジェラールは、体を小刻みに震わせながら口を開いた。





「その言葉しか覚えてないんだ・・・」





紡がれた言葉はエルザとコブラの目を見開かせ、驚愕させる。

「え?」
「!?」

驚愕の声を上げるエルザに構わず、ジェラールは頭を抱える。
そして苦しそうに言葉を続けた。

「教えてくれないか?オレは誰なんだ?」

体は小刻みに震え、その表情は見えない。

()はオレを知っているのか?」

君――――。
他人のような呼ばれ方に、ジェラールの言動に、エルザの表情は驚愕へと染まっていく。
ジェラールは頭を上げ、苦しそうな表情で言い放った。




「エルザとは誰なんだ?何も思い出せないんだ」




その言葉を聞いたエルザの両目に、涙が滲んだ。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
これは予定ですが、過去編終了後に『EMT裏話』をやりたいな、と思ってます。
各キャラの初期設定や元素魔法(エレメントマジック)が何故生まれたか・・・等を語りたいなと。
予定ですが。

感想・批評、お待ちしてます。
次回、久々にナツとティアが同じ場所に集います。 
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