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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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きれいな声


どれだけの力を持ってしても戦えない――――否、戦いたくない存在がいた。
ロキが星霊界を追放された切っ掛けの星霊といっても間違ってはいない存在、アリエスが呼び出される。
――――――ロキの、敵として。

「カレンの星霊・・・」

ヒビキが呟く。

「何でアンタがカレンの星霊を!?」
「そうだよっ!確かにカレンが死んで契約は解除されたけど・・・」

ロキの件でカレンとアリエスの事を知っているルーシィとルーは叫ぶ。
それに対し、エンジェルは何でもない事のように軽い口ぶりで言った。

「私が『殺した』んだもの。これはその時の戦利品だゾ」
「あう」

物を扱うようにポンポンとアリエスの頭を叩くエンジェル。
かつての所有者(オーナー)を殺した相手が目の前にいる―――ロキは険しい表情でエンジェルを睨みつけた。
そして・・・この場にはもう1人、険しい表情を浮かべている人間がいた。

(カレンを『殺した』・・・?この女が・・・僕の・・・『恋人』を・・・殺した?)

ヒビキである。
彼はカレン・リリカの恋人であり・・・だからロキやアリエスの事を知っていたのだ。

(星霊魔導士が・・・カレンの命を・・・)

思考が歪み始める。
闇がじわじわとヒビキの思考を埋め尽くしかけ――――――

「ヒビキ!考えるのストップ!」
「!」

ルーが声を掛けた。

「何考えてるのか解らないけど、顔が闇っぽくなってたよ!考えちゃダメだよ!ニルヴァーナにえーっと、えーっと・・・支配されるよっ!」
(そうだ・・・こんな事を考えていたらニルヴァーナに心を奪われてしまう。くそっ・・・ダメ・・・だ・・・考えちゃ・・・)

必死に頭を回転させながら紡いだ言葉はヒビキに光を齎す。
が、それで完全に心が晴れた訳ではなく・・・ヒビキは心を奪われないよう必死に考えないようにするが、やはりその思考は完全には消えなかった。

「ルーシィ・・・」

ルーが呟く。
ルーシィは持っている獅子宮の鍵を悲しそうに見つめた。

「せっかく会えたのにこんなのって・・・閉じ・・・」

伸ばした右手。
それががしっと握られ、動きと言葉が止まる。

「見くびらないでくれ、ルーシィ」

止めたのは、ロキ本人。
その目に映るのは、『敵』のアリエス。

「たとえかつての友だとしても・・・所有者(オーナー)が違えば敵同士。主の為に戦うのが星霊」
「たとえ恩ある相手だとしても、主の為なら敵を討つ」

アリエスの表情が真剣なものへと変わる。

「それが僕達の・・・」
「私達の・・・」

お互いがお互いをしっかりと睨み――――――――



「誇りだ!」
「誇りなの!」



戦いは始まった。
ロキは両手に獅子の光(レグルス)を、アリエスは両手にもこもことした羊毛を纏い、駆け出す。
お互いの主の為に・・・戦いたくない相手と。

「あっれ~?やるんだぁ?ま・・・これはこれで面白いからよしとするゾ」

バキッ、ドカッと音が響く。
ロキが光を纏った拳でアリエスを殴り、負けじとアリエスは羊毛をロキに向かって放つ。
その戦いを、ルーシィは見ていられなかった。
俯き目を閉じ目を背け、獅子宮の鍵をその手に持つ。

(違う・・・こんなの間違ってる・・・)

何故3年ぶりに再会した2人が傷つけ合わなければならない?
何故かつて友だった2人が、所有者(オーナー)の為という理由1つで戦わなければならない?
それが星霊の誇りだとしても・・・ルーシィには見ていられなかった。

「う~ん・・・さすがに戦闘用星霊のレオ相手じゃ分が悪いか・・・よーし」

ロキとアリエスでは明らかにロキの方が攻撃力が高い。そして戦闘用星霊である為頑丈に出来ている。
それを見たエンジェルはアリエスの鍵ともう1つ・・・銀色の鍵を手にした。

「開け、彫刻具座の扉」

鐘の音が響き、魔法陣が展開する。

「カエルム」

エンジェルが新たに呼びだした星霊は、機械のような形をしていた。
そして呼び出されたと同時に、カエルムからレーザーが発射される。






―――――――――そのレーザーは、貫いた。







――――――敵であるロキと、味方であるアリエスを。







「!」
「がっ!」
「いぎっ!」
「あははっ!上手くいったゾー♪」

そのレーザーに迷いはなかった。
カエルムとロキの間にいたアリエスを確実に巻き込むように、直線でレーザーは放たれていた・・・。

(味方の星霊ごと・・・)

ルーシィの目が見開かれる。
一瞬にして貫かれた2人の星霊を、ルーシィは呆然と見つめた。

「アリエス・・・」
「レオ・・・」

苦痛に表情を歪めながら、2人はお互いに手を伸ばす。

「すまない、ルーシィ」

貫かれたダメージは大きく、2人は星霊界へ帰る。
その体は金色の光の粒子になるかのように(くう)へと吸い込まれていく。

(いい所有者(オーナー)に会えたんだね)

2人の戦いは終わりを迎える。
その戦いの幕引きは・・・何とも非道な行いによるものだった。

(よかった・・・)

お互いに伸ばされた手。
その手は届く事なく――――届く前に、2人は星霊界へと帰っていった。

「ぐっ!」
「ああっ!」

ルーシィの目の前で、2人は星霊界へと帰る。
機械音を立てながらカエルムが剣のような形状へと姿を変えた。

「見たかしら?これが二体同時開門。んー♪強力なレオはこれでしばらく使えないゾ」

二体同時開門とは、その名の通り1度に2体の星霊を呼び出す事だ。
魔力が多ければ可能だが、ルーシィには出来ない。
カレン・リリカもロキが人間界にいる状態で、つまり他の星霊が呼べない状態で仕事に行き、二体同時開門を試みるが失敗、エンジェルに殺されたのだ。

「信じらんない・・・」
「何が~?どうせ星霊なんて死なないんだし、いーじゃない」

そういう問題ではない。
死ぬ死なないの問題は関係ない・・・星霊をあんな風に扱うなど、ルーシィの中では有り得ないのだ。

「でも痛みはあるんだ・・・感情だってあるんだ。アンタ、それでも星霊魔導士なのっ!?」

目に涙を浮かべ、ルーシィは叫ぶ。

「開け、金牛宮の扉!タウロス!」
「MOーー!」

続いて呼び出されたのはタウロス。
呼び出されたと同時にタウロスは斧を構え、エンジェルへと向かっていく。

「ジェミニ」

エンジェルはやはり慌てずジェミニを召喚し、ジェミニはルーシィへと変身する。

「ウフ♪」
「MOホ~!」

タウロスはジェミニルーシィの色仕掛けに見事に引っかかった。
そしてタウロスは剣へと変形したカエルムを持ったジェミニルーシィに斬り裂かれ、帰っていく。

「タウロス!」

ルーシィは叫び――――

「!」

突然、がくんと膝をついた。
ばしゃ、と水の中に座り込む。

「え?あれ?あたし・・・」
「たいして魔力もないくせに、そんなに星霊バンバン使うからだゾ」

サジタリウスにアクエリアス、ロキにタウロス。序でに言えば毒で苦しむエルザを見ていた際にはプルーも。
この戦いだけで黄道十二門を4体召喚したルーシィに、もう魔力は残っていなかった。

「そんな・・・あぐっ!」

魔力切れにより動く事すら難しくなったルーシィに、ジェミニルーシィの蹴りが決まる。

「自分に殺されるってのもマヌケな話だゾ。あははははっ!」
「いっ、あっ!」

動けないルーシィに連続で蹴りを決めるジェミニルーシィ。

「ルーシィ!魔の力よ、悠久なる空を・・・ぐっ!」

自分の魔力をルーシィに与えようと、一旦回復を止めて立ち上がり、両手に淡い緑の光を灯すルー。
が、立ち上がって詠唱を始めた瞬間、ぐらりと視界が揺れた。

(くそっ・・・こんな時に魔力が・・・)

盾を張り、短剣を作り、空を飛び、回復をする。
大した事なさそうな行動ばかりだが、ルーの魔力はそこまで多くない。
ルーシィと同じくらいか少し上、程度だ。
それに加え、ウェンディの治癒魔法程ではないが、回復には多くの魔力を使う。
先ほどからヒビキと自分の怪我を治していたルーも、魔力切れ状態にあった。

「きゃあ!やっ!」

蹴りに続けて拳が決まる。

「あははははっ!いい気味ー!」
「いいきみ・・・」

大笑いするエンジェル。
それに同意するかのように、ヒビキが小さい笑みと共に呟いた。

「がはっ、ゲホッゲホッ」

ルーシィは倒れない。
どれだけ蹴られようとも、エンジェルを睨みつける。

「な~に?その目。ムカツクゾ」

目を細め、エンジェルが問う。
ルーシィはそれに答えず、ただ一言言い放った。

「アリエスを解放して」

体を小刻みに震わせながら、ルーシィは言い放つ。

「は?」
「あのコ・・・前の所有者(オーナー)にいじめられてて・・・」

酷すぎるカレンからの仕打ちをルーシィは知っていた。
そして今、エンジェルからも酷い仕打ちを受けていた。
これ以上アリエスに辛い思いをしてほしくない・・・ルーシィは解放を願う。

「きゃあああああああああああっ!」

その左腕を、ジェミニルーシィがカエルムで斬り付けた。
溢れる血を抑えるように右手で傷を抑える。

「人にものを頼む時は何て言うのかな?」

溜息をつきながらエンジェルは言う。
傷を抑えたまま、ルーシィは頭を下げた。

「お・・・願い・・・します・・・」

出血は止まらない。
傷は痛む。
だけど、アリエスを解放してほしいという思いは変わらない。

レオ(ロキ)と一緒にいさせてあげたいの・・・それが出来るのは、あたし達星霊魔導士だけなんだ・・・」

目から涙を溢れさせ、ルーシィは願う。
ロキと敵対するなんてアリエスは望んでいない。
ロキもアリエスも、一緒にいる事を望んでいるはずだ。

「ただで?」
「何でもあげる・・・鍵以外なら、あたしの何でもあげる!」

星霊同士が一緒にいられるのなら、何もいらない。
ルーシィは涙を流し、叫んだ。

「じゃあ命ね」

――――しかし、その願いをエンジェルは一言で切り捨てる。
ルーシィが死んだ場合、所有者(オーナー)を失った星霊達は契約が解除される。
そうすればルーシィの持つ鍵は全てエンジェルのものとなるのだ。

「ジェミニ、やりなさい!」

今のルーシィに次の攻撃を避ける力はない。
所有者(オーナー)の命令に従い、ジェミニルーシィはゆっくりとカエルムを持つ右腕を上げた。

――――――そして、止まる。

「ジェミニ!?」

動きを止めたジェミニにエンジェルが声を掛ける。
目の前で座り込むルーシィを、ジェミニはぷるぷると小刻みに震えながら見つめていた。
その口が、ゆっくりと開かれる。

「きれいな声が・・・頭の中に響くんだ」

ルーシィの声とジェミニの声が重なる。
ジェミニはコピーした人間の容姿・能力・思考を始めとする全てをコピー出来る星霊だ。
そして・・・ジェミニの脳裏には、コピーしているルーシィの記憶が溢れていた。


『ママ・・・あたし、星霊大好き』

『星霊は盾じゃないの!』

『目の前で消えてく仲間を放っておける訳ないでしょ!』


流れ溢れる記憶は全て、ルーシィの想いへと繋がる。
ルーシィがどれだけ星霊の事を思っているか・・・それをジェミニは1つ残らず感じていた。

「できないよ・・・」

つー・・・と、一筋の涙が流れる。





「ルーシィは心から愛してるんだ・・・星霊(ぼくたち)を」





ジェミニはルーシィの星霊を思う優しい心までコピーした。
自分達をここまで思ってくれているルーシィを殺すなんて出来ない。
ジェミニは涙を流し、エンジェルの表情が驚愕へと染まっていく。

「ジェミニ・・・」
「消えろォ!この役立たずがっ!」
「くっ!」

ルーシィが顔を上げて呟く。
激昂したエンジェルは強制閉門でジェミニを星霊界へと帰した。

「あっ!」

ルーが声を上げた。
突然ヒビキがゆっくりとルーシィに向かって歩き出す。
そしてルーシィの背後で止まると、手を置く。
――――――彼女の首を、絞めるかのように。

「え?」
「!」
「ヒビキ!?」
「まさか・・・!闇に落ちたのかこの男!あは・・・あははは!」

そんなヒビキを見て動揺を隠せないルーシィとルー。
エンジェルは再び大笑いを上げた。
ヒビキの顔には、邪悪な薄い笑みが浮かんでいる。

「ヒビ・・・キ・・・」

このままでは首を絞められる・・・そう考えたルーシィはヒビキを正気に戻そうと声を掛ける。

「じっとして」

しかし、首は絞まらなかった。
ヒビキの両手はゆっくりとルーシィの首を離れ、頭へと持っていかれる。


古文書(アーカイブ)が君に1度だけ、超魔法の知識を与える」


そう言った瞬間―――ルーシィの周りに小さい長方形が幾つも浮かび、満たされていく。

「うぁっ!」
「な・・・」
「凄い!」

一瞬にして満たされていく小さい長方形達。
ヒビキの行動にルーシィは戸惑い、エンジェルは目を見開き、ルーは顔を輝かせた。

「こ・・・これ・・・何・・・!?頭の中に知らない図形が・・・」

休む暇なく流れ込み続ける超魔法の知識にルーシィは更に戸惑う。

(危なかった・・・もう少しで僕は闇に落ちる所だった。だけど君と星霊との絆が、僕を光で包んだ・・・君なら、この魔法が・・・)

ルーシィの言葉や想いは星霊だけでなく、ヒビキも救った。
金髪に手を置いたまま、ヒビキは笑みを浮かべる。

「おのれェ~っ!カエルム!やるよォーーー!」

スコーピオンはデート中、アリエスはダメージで呼び出せない、ジェミニはルーシィに影響されている。
持っている黄道十二門の星霊が誰1人として呼び出せないエンジェルはカエルムを構え、ルーシィへと駆けだす。
――――――が、それよりも早く、最後の小さい長方形が満たされた。

「頼んだ・・・ルーシィ・・・」
「ヒビキ!」

知識を与え終えたヒビキは力尽きたように倒れ込む。
それを慌ててルーが支えた。

「天を測り、天を開き、あまねく全ての星々、その輝きをもって我に姿を示せ・・・ナトラビブロスよ・・・我は星々の支配者。アスペクトは完全なり、荒ぶる門を解放せよ」

ルーシィは呪文のようなものを唱え始める。
それと同時にエンジェルの周囲に光る球体がいくつも現れた。

「全天88星」

金髪が揺れる。
目を閉じたまま、ルーシィは呟いた。

「な・・・何よこれぇ!ちょっ・・・」

次々に現れる光の球体は星の様で、エンジェルは動揺を隠せない。

「光る」

ルーシィがカッと目を見開いた――――――――瞬間。






「ウラノ・メトリア!!!!」






星空は輝いた。

「きゃああああああ!!!!」

星空のような輝きがエンジェルを包み襲い、一瞬にしてエンジェルはボロボロになる。

「!?」

エンジェルが宙を舞う。
ヒビキとルーが笑みを浮かべてルーシィを見つめ、ルーシィはハッと正気に戻った。

「きゃふん」
「ひっ!」

ボロボロになったエンジェルが落下してきた事にルーシィは体を震わせる。
―――――が、ウラノ・メトリアを喰らったエンジェルは動かない。

「・・・!?あれ?」

ルーシィはキョトンとした表情を浮かべた。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
いやー、エンジェル好きだったけど、この話でそーでもなくなりました。
アリエスもレオも可哀想すぎる・・・。

最近思う事。
・・・オリキャラの活躍が少ない気が。
今回もですが、原作キャラがよく目立つ。
・・・過去編で頑張ろうっと。

感想・批評、お待ちしてます。 
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