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不老不死の暴君

作者:kuraisu
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第二十話 幻・落日の王国

魔人ベリアスがいた部屋の奥の扉を開けるとまるで神殿のような雰囲気を持つ場所に出た。
奥の台には蝋燭のようなものがあった。
しかし光っているのは火ではなく王家の証のひとつ【暁の断片】である。

「どうした」

バッシュがウォースラが何か迷っているような表情を浮かべていたため声をかけた。
するとウォースラは軽く首を振りアーシェの方を向く。

「殿下。急ぎましょう」

ウォースラに促されアーシェは【暁の断片】に近づいた。
すると【暁の断片】が輝き出した。
すると目の前に死んだアーシェの夫の姿があった。

「ラスラ・・・」

アーシェは夫の名前を呟いたが周りの殆どはアーシェの呟きの意味が理解できなかった。
何故ならラスラの姿が見えていないからである。
しかし見えている奴もいた。

「なぁパンネロ。あの人誰だ?」
「何言ってるのヴァン?」

ヴァンもラスラの姿が見えていたのだ。
パンネロとヴァンが言い合っているのを見かねたセアはヴァンに話しかけた。

「何を言ってるんだ馬鹿弟子? ミストにでもあてられたのか?」
「え? だってあそこに・・・」

ヴァンはアーシェの少し前を指差す。
それを見てセアは呆れたような声でヴァンを宥める。

「確かに何故かミストがあの辺りに固まっているな・・・だが人なんかいないぞ」
「え、でも・・・」
「いないぞ」
「・・・はい」

ヴァンが機嫌を損ね黙り込んでしまった。
セアがそれをみてヴァンに同情してしまった。
何故ならセアもラスラの姿が見えていたからだ。

(薄っすらだが・・・これは・・・魔法だ)

セアは気づいていないフリをしたほうがいいと判断したのだ。
こんな魔法は数百年間生きてきたセアでも見たことが無いからだ。
そしてまた碌でもないことに巻き込まれつつあるのかとセアは長考し始めた。
アーシェはと言うと・・・ラスラとの結婚式から国が滅びるまでのことを思い出していた。
当時ナブラディア王国は急速に領土を拡大する隣国アルケイディア帝国に危機感を感じており、アルケイディアの宿敵ロザリアの軍隊を国内に駐屯させる政策を打ち出した。
ロザリアのバレンディア大陸進出を危惧したアルケイディアはナブラディアに圧力をかけたがナブラディアが折れることは無かった。
さらにナブラディアはダルマスカとの同盟関係の強化の為にナブラディア王国第二王子ラスラ・ヘイオス・ナブラディアをダルマスカ王国王女アーシェ・バナルガン・ダルマスカに婿入りさせた。
俗に言う政略結婚だったのだが両国は建国当時からの友好国であり、二人とも何度も面識があり縁談の話が出来て直ぐに仲がよくなった。
結婚式、あの時はアーシェはとても幸せだった。これからこの人と一緒に人生を歩んでいくのだと。
だがそうはならなかった。結婚式から僅か1週間後。
アルケイディア帝国がラスラの故郷ナブラディア王国に侵攻したのだ。
ナブラディア王国は数日で滅び同盟関係にあったダルマスカにも帝国は侵攻を開始した。
そしてラスラは自ら父にナルビナ行きを志願した。
出陣の際アーシェはラスラに言った。
生きて帰ってきてくださいと。
ラスラは頷き僅かな兵を率いて北の国境のナルビナへと赴いた。
そして・・・ラスラは死体になって帰ってきた。
あの時ほど泣いた事はいままでなかっただろう。
しかしまだ悲劇はそれで終わりではなかった。
アルケイディアはラバナスタを目前にして進軍を停止し和平交渉を打診してきた。
父のラミナスはそれを受け占領下のナルビナへと向かった。
アーシェはまだラスラの死から立ち直れてはいなかったがこれで戦争が終わるのだと信じていた。
だが数日後ウォースラが真っ青な表情でアーシェに告げた。
陛下がナルビナで暗殺されたと。
夫に続き父まで失った悲しみでアーシェは気を失った。
次に目が覚めるとウォースラと共にダルマスカの辺境の町にいた。
そして・・・その気を失ってる間にダルマスカはアルケイディアに降伏していた。
ビュエルバのオンドール候が中立の立場から降伏を促し、アルケイディアが進軍を再開する前に無条件降伏をしたらしい。
アーシェはオンドール候に感謝した。降伏とはいえラバナスタを戦火から守ってくれたのだから。
しかしウォースラの次の報告でその思いは無くなってしまった。
侯爵が自分の自殺を発表したという事を聞いて。
要するに侯爵は帝国側に回ってしまったのだ。
そしてウォースラもまた何を信じればいいのかわからなくなっていた。
互いに信じあっていたバッシュが陛下を暗殺し、頼りの侯爵も帝国の傘下に下ってしまった。
その結果・・・ラバナスタの解放軍は孤立化していった。
アーシェもウォースラも信じきれる人物が全くいなくなっていたからだ。
そのようなことを思い返しているとラスラの幻がアーシェの横を通る。
アーシェは引きとめようと手を伸ばしたがラスラの幻はアーシェの手をすり抜け何事も無かったのように歩き続ける。
それを目で追いながらアーシェは呟く。

「仇は必ず・・・」

ラスラの幻はアーシェに振り返ることなく部屋の出口へ歩いていった。
するとヴァンもラスラの幻を目で追っているように見えた。
気のせいかと思うと自分の左手になにか違和感を感じ左手を目の前に持っていく。
すると左手は輝く【暁の断片】を握り締めていた。
そして左手につけている結婚指輪を見て死んだラスラの事を思った。
その様子をバルフレアはなにか言いたげ顔で眺めていた。 
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