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辻堂雄介の純愛ロード

作者:雪月花
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第玖話『雨の日の出来事』

「センパイ、おはよーございます」

「……今日は、梓か…」


 朝、いつもの如く来客。彼女は恋のチーム江乃死魔の幹部の一人『乾梓』見た目はギャルっぽいが中身は結構真面目なヤツ。痛めつけるのは好きだが自分がやられるのは嫌なヘタレSでもある。


「むっ。なんすか、恋奈様は良くて自分は来ちゃいけねーんすか」

「いや。別にそうは言わんが…まあいいや、どうぞお入んなさい」


 少しふてくされている梓を家に招き入れる。しかし、なぜウチは朝から来客が多いのだろうか…。まあ、別に可愛い子が朝から尋ねてくれる事に対しては男としてかなりの役得だよな。しかも、みんながみんな美少女。


――ゾワッ


「!?」

「ん、どーしたんすか?センパイ」

「いや……今殺気を感じたような気がして……」





side辻堂愛




「……」

「愛。朝っぱらからなんて顔してるのよ」

「……なんかいま、無性に腹が立った」

「なんでよ」

「……わかんない」




 side辻堂雄介





「はぁ~。やっぱり、センパイの作るご飯は美味しいっすねぇ」

「いや、そんな大層なもんは作ってないんだが…」


 変な殺気を感じた後、俺が作った朝食は、目玉焼き・ベーコン・サラダ・食パンと何処でも味わえるごくごく普通のメニューだ。


「センパイわかってないなぁ。センパイが作ってくれた事に意味があるんすよ」

「そういうもんか?」

「そういうもんっすよ♪」


 そう言い、マヨネーズのたっぷりかかったサラダを口に運ぶ。


「…それ大丈夫か?」


 カロリーとかいろいろ。


「自分、マヨラーなんで大丈夫っすよ」

「あ、そう」


 こっちは見ているだけで胸焼けがしそうだけどな。


「たのむから、コーヒーには入れないでくれよ」

「いれなっすよっ」





 辻堂雄介の純愛ロード
第玖話『雨の日の出来事』






教室に着いた俺は何となく外を眺めている。湘南は今日も雨、若干気分もブルーが入る。


「今日も雨が強い。悪い天気では無いがな。雨に濡れる江ノ島はそれだけで絵になる」


 板東がなんかポエミィな事を言っている。その時、スマホが振動した。
差出人は恋からだった。
えーと、何々……。


『今日は教室からゼッッッッッッッッッッッッタイに出ないこと!!』


 なんだコレ?また、なんかやらかす気なのかアイツは……。


「まあ、いいか。とりあえず返信っと……え~と、『イミフwwwwww』っと」


 送信をタップした。


 その後すぐに『死ねっ!!』と感情たっぷりの短いメールが届いた……ったく、冗談の解らない奴め…。


 しかし、この後にこのメールの意味を知ることになる。





 ◇◇◇◇◇





「えー……この慣用句解る人は…」


 それは、いつもと変わらない授業中に起きた。


「辻堂愛ーーーーーーー!!!出てこいやーーーーーーーーーーー!!!!」


 声+バイクの爆音によりクラスメイト達はみんな窓の外を見る。
そこには、声の主恋と江乃死魔メンバー数名さらにバイクに乗っているのが何人かそいつ等が校庭にエ・ノ・死・マと削り痕をつけていた。なるほど……さっきのメールはこういうことか…。


「まったく、下品な」

「確かに、アレはやり過ぎだね」


 近くにいた板東と大は、あまり良い表情はしていない。まあ、二人だけじゃなくクラス全体がそんな感じだ。一人を除いては、だけど。


「……ったく、相変わらず面倒くさいことしやがるな、恋奈のヤツ」


 面倒くさげに呟く愛。だが顔は若干笑っている……ように見えた。そして、携帯を取り出した。恐らく葛西に連絡を入れるのだろう。そんじゃあ、俺も一応澪に釘でも刺しておきますか。


「聞いてっか稲村のバカども!!私が湘南最強連合、江・乃・死・魔のリーダーだっ」


 お、恋お得意の演説が始まったぞ。


「これまでテメェらにゃ馴染みがなかったが、今日からここも私の管理下に入るんで夜露死苦!!」


 親指を下に向けながら言う。


「そうよね、総災天」


 恋の後ろからよい――――ゲフン、ゲフン―――総災天のおリョウが出てきた。


「湘南BABYが負けたって本当だったのかよっ!?」


 南が騒いでいる。南だけでなくクラス全体もざわめいた。さて、どうなる事やら……あ、念のために救急車と警察に連絡しとこ。




 Side片瀬恋奈




「よし、帰るぞ」

「もう行っちゃうんですか。辻堂が来てないんですけど」

「ブァカ。ホントに辻堂軍団が出てきたらヤバイじゃん。今日は私ら20人もいないシ」


 その通り、ここで喧嘩()るのは得策じゃない。


「今日は、挨拶に来ただけっすからね」

「その通りだシ。こうすれば辻堂の下に付くヤツも少なくなるシ」

「敵を叩くときは、まず戦力を削ぐ……基本っすよ」

「じゃ、じゃあこれ、ただのハッタリ?」

「プロパガンダって言うのよ。とりあえず、作戦は成功。これを一週間は続けるわよ」


 今回は、海堂が出てこなくて良かったわ。ユウにはこれからも釘を刺しておかないと。


「今日のところは学校に帰って―――」


 ―――ブンッッ!!


「あぶなっ!」


 突然、拳が飛んできたが当たる寸前で何とか回避した。


「すっげー。愛さんの言うように裏門からここの踏切に回り込んだら、ドンピシャじゃん」


 拳の主は久美子だった。


「言うこと言ってすぐ逃げるはず。だから逃げ道を潰しとけ」

「全部愛はんの読み通りや。愛はんすげー」

「辻堂軍団――っ!?先回りされてる!?」


 しかも軍団全員。このままじゃまずいっ。


「全員下がれッ。ティアラを呼んでこないと」





 Side辻堂雄介




 お、恋が戻ってきた。なんか、焦ってるようだけどどうしたんだ?


「おかえり」

「ゲッ!辻堂愛っ!?」


 校庭にいた愛とご対面。ちなみに、ティアラは愛から少し離れた所で地面に突っ伏している。


「どうしてここに……まさか、私の作戦が見抜かれて――」

「見抜くも何も、お前毎度同じことしかしねーじゃん。」


 なるほど、だからあんなに落ち着いてたのか。


「っま、部下に無用な怪我人を出さない姿勢は嫌いじゃないがな……さて恋奈」

「な……なによ」

「舐めたマネしてくれた落とし前と、荒らされた校庭を直してもらわねーとな。これ、なんだか分かるか?」


 何処からともなく、取り出したのは――


「ろ、ローラー?」

「そう。グラウンド整備用のローラー。通称重いコンダラ」


 本当に重いコンダラなのかは知らないが、俺はアレを何処から出したのかが気になる。なんか時空を曲げてなかったか、愛のヤツ。


「選べ。荒らした校庭をこいつでならすか、アタシがならすか。ちなみにアタシがならす場合――」


――ドゴシャーンッ!!


「こうなる」


 近くにあったバイクを拳で粉砕した。


「お、俺のバイクが…」


 それを見ていた持ち主の族が肩を落とす。自業自得だから別に同情はしないけど。


「荒らしたのはお前だから選ばせてやるよ。ならしたいか、ならされたいか」

「ひぃいいならしたいです!いますぐに元通りにしまぁっすっ!」


 急いでローラーを引いて校庭をならし始める族。


「……さて、コンダラがなくなっちまったからおまえ等はアタシの手でならすわけなんだが……」

「くそっ、相変わらずメチャクチャな……!だけど、私と江乃死魔があの程度でビビルかよ!ティアラ!起きろティアラ!」


 倒れているティアラを呼ぶ恋。そして、その声のお陰なのかどうかふらふらと立ち上がる。


「うー、くらくらするっての」

「ティアラ!!このオンナをブッ殺せ!!!」

「え?あ、辻堂、そっか」


ゴキゴキと肩の骨をならすティアラ。


「おっしゃ、食らえや辻堂!スーパーミラクルエキセントリックアターックッ!!」

乙女チックな技名には似つかわしくないもの凄いタックルが愛めがけて行くが……

ひょいっ

軽く受け流す愛。そのまま、江乃死魔メンバーが居る方に突っ込っでいく。


「ちょっ!?なんでコッチくるシっ!?」


ツルッ


「ぎゃー」(ごちーん)

「ぎゃー!」(ぷちっ)


 そのまま転けて、自滅した。さらにその下敷きになったハナ……可哀想に…。


「サイの突進って電車も脱線させるらしいけど、自然界で直撃することはあんまないそうだな」

「どいつもこいつも~!!」


 苛立ち始める恋。


「こうなったら――全員でかかるんだ!」

「ええっ!?で、でも」


 そして、ついにやけになる。


「20対1よなんとかなるわよ!」

「そっそうか」


 ビビッっていた他のメンバーだったが恋の一言でやる気を出す。しかし、この時点で負け確定だなこりゃ…。


「おっと、オレ達を忘れてもらっちゃ―――」

「いい、おまえ等は下がってろ」


 前に出ようとする久美子を静止させる。


「『乱闘』になるより、一方的に殲滅した方がいい」

「かかれーっっっ」

「だるるるるるるるァァアアアーーーーーー!」

「どォりゃあああああーーーーーっっ!」


 恋のかけ声と共に一斉に愛に向かっていく江乃死魔、しかし―――


「……はッ」


 ドゴッッッ!

 グシャッ、

 バギメギゴキボギッッ!


「………」


 一方的に殲滅した。まあ、こうなることは解っていたけどな。


「……な」

「「「………」」」(ピクピク)

「なんでだよぉ~~~~っ!」


 江乃死魔20人倒れて痙攣しているのを見て叫ぶ恋。


「ふぅ……やっぱケンカしても……熱くなれねーや。まあ、今日はそこが目的じゃないしべつにいいいか」

「くそー、でたらめな強さしやがって~」


 いや、そんなことは挑む前から解ってた事だろ?


「さて、テメーはどうしようか……そうだ、授業妨害の罰としてうちの全校に土下座してから人間ローラーにでもなってもらうか」


 なんとも、凄い嫌がらせだ…。


「写メ→ネット流出が1日でされる時代だからなぁ。明日には江乃死魔は空中分解してるかもな?」

「くっ――」


 苦虫を噛みつぶしたような顔をする恋。


「さて、それじゃあまずは、土下座からしてもらおうか!」


 徐々に詰め寄っていく愛、しかし、そんな二人の間に割って入った人物が居た。

それは―――


「ッ!」

「おリョウ……っ」


『総災天のおリョウ』だ。


「総災天――テメェ、普通アタシの側につくだろ」

「すでに江乃死魔に与した身。長を守る責務がある」

「あっそ……で、アンタもやろうって?」

「……お前に勝てるとは思ってない……だが譲るわけにもいかない」

「……チッ」(ちらっ)


 舌打ちをしてから一瞬こっちを見る。


「OK。わかった。今回は、先輩の顔を立てるよ。その代わり、次にナメたマネしたら、コロすからな」

「んぐ……つっ、次は江乃死魔全勢力をもってブッッつぶしてやるからな!!」


 負け犬が言いそうなセリフを吐き捨てて行く恋。


「やれやれだぜ」

「さっす愛さん!20対1で圧勝じゃないですか!」


 恋が逃げた後すぐに、久美子が愛に駆け寄る。


「30対1までなら勝ったことあるだろが」

「今回はあっちの攻撃すら受けませんでしたよね……あ、でもここ、ひっかき傷」

「あー、これは昨日猫に――なんでもない。それよりクミ。拡声器用意してくれ」





 ◇◇◇◇◇





「んじゃ、コイツラの後始末よろしくね。先生」


 愛の、演説が終わった後。俺は保険医の先生、城宮先生に動けなくなった、江乃死魔の連中(恋他数名は逃げた)を引き渡した。


「ああ、任せろ。ちょうど新しい薬の被験者が欲しかったんだ。なにが起きても身元不明でモルモットがこんなに……これだから稲村はやめられん」

「先生。ほどほどにね」


 怪しげな笑みを浮かべる城宮先生に聞かないけど一応注意しておく。まあ、死ぬようなヤバイものは使ってないからいいか。


「……で、いつまでそこで唸ってんだ?愛」


 椅子に座って顔を赤くして「うー、うー」唸ってる愛に言う。


「うっせーな。恥ずかしかったんだよさっきのが」

「さっきのって……あれか?別にいいじゃん。みんな、盛り上がってたし」

「よくねーよ。普通しないだろ。全校生徒に向かって『勝ったどー』宣言とか」

「まあ、確かに授業中に拡声器を持ち出す生徒はいないよな、普通…」

「あーもーっ」


 さらに、恥ずかしがる愛。


「ふふ、あの女の娘にしては可愛いもんだ」

「母さんのこと知ってんの?」

「私くらいの年頃ならみんな知ってるさ」


 それを聞いて溜息をつく愛。


「だいたい母さんのせいだよ。いろんな伝説そこら中に残してるから娘のアタシが喧嘩売られて、さっきみたいになる」

「けど、買ってる時点で同罪だぞ」

「わかってるよ。でも、アタシはナメられるのが嫌なんだよ。まあ、自分で選んだ道だから仕方ないけど」

「……やっぱり親子、か」

「……ですね」


愛を見て笑みをこぼす先生の言葉に俺も同意する。やっぱりよく似てるよ愛と真琴さん。


「ふん……ユウ。アタシ早退する」

「ああ。わかった。あんなことした後だと居づらいよな。先生には言っといてやるから」

「ん、わりぃな」


 そう言って、保健室を出て行った。


「仲いいんだな。泣く子も黙る番長と…」

「まあ、身内ですから。割と普通だと思いますけど?」

「その普通が彼女の周りでは少ない」

「確かに……。それじゃあ、俺も戻るんで後はよろしくお願いします」

「ああ」


 先生に後を任せて、俺は教室に戻った。
そして、いつも通りの授業を受けて放課後に胡蝶の所でポスターを受け取り家路についた。




 ◇◇◇◇◇





「なあ、愛」

「ん?」


 夜、ソファーに寝転がってラブと遊んでいる愛を呼ぶ。遊ぶことに夢中で生返事だ。


「今度の日曜は暇か?」

「日曜?………うん、特に何もないけど」

「そか。じゃあちょっと頼みがあるんだけどいいか?」

「別にいいけど、珍しいなユウがあたしに頼み事なんて」


 愛がラブとの遊びを一時中断してこっちに顔を向ける。


「それで、なに?頼みって」

「ああ、あのな―――」 
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